side:三井寿
全国制覇を成し遂げたあの日から数日。ある程度疲労が抜けた今日、キャプテンを安田に、副キャプテンを東に引き継いだ俺達3年はバスケ部引退の挨拶や進路の話をすることになった。
進路の話に関しては安西先生からのお願いだ。安西先生はバスケ部監督であると共に湘北高校の教員でもある。だから部員達に将来についても考えさせたいんだろうな。
先ず最初に話をするのは倉石。倉石は大学に進まず実家の和菓子屋を継ぐための修行に入る。だから今日で完全にバスケとは別れを告げることになるな。
一言二言と話をした倉石に続くのは木暮だ。木暮は大学に進学するがバスケは続けないらしい。だがバスケに関する勉強をし、教員免許を取るとのことだ。
そしてバスケの指導者の道を目指すらしい。
「だから大学を卒業したら湘北に帰ってくるつもりだ。安西先生、その時がきたらよろしくお願いします」
「ほっほっほっ、えぇ、こちらこそよろしくお願いしますよ」
湘北バスケ部の皆から歓迎の拍手を送られて木暮の話が終わると赤木が話し出した。赤木は大学に進学……というか大学からスカウトの話が来ているのでそちらの大学に行きバスケを続けるそうだ。
「先日、全国制覇を成し遂げた時は、もうこれ以上の目標はない。そう思っていた。だが、今は新たな目標が出来た……金メダルだ」
赤木の言葉に場がざわつく。金メダルか……随分とでかい目標をぶちあげたな。
「大学バスケでスキルアップし社会人バスケへ。そしていつの日か日本代表の座を勝ち取り世界という最高の舞台へ……これが俺の新たな目標だ」
全国制覇で自信がついたんだろう。赤木の言葉の一つ一つに明確なビジョンがあるのを感じた。
続いて話をするのは美和なんだが……。
「私の進路はそりゃ当然乙女らしくお嫁さんよねぇ?」
そう言いながら俺の方を見てくる。
「……まだ早ぇだろ」
「いやいや、私という恋人がいるってわかってるのにさ、ここ最近寿君に集ろうとする虫が多いのよぉ。だから安心したいなぁって」
にっこりと圧を掛けてくる美和に思わずため息が出そうになる。
「三井さん、男を魅せてください!」
「そうだぞミッチー!姉御を安心させてやれ!」
安田と桜木の野次に続くかのように次々とやいのやいのと声があがる。……腹を括るかぁ。
「今度、予定が合った時に両家の両親も集めて婚約するぞ」
「……よっしゃあ!」
美和が歓喜の声を上げると次々と祝福の声が出てくる。それこそ木暮や赤木達からもだ。……もしかして、はめられたのか?
「おめでとうございます三井君。ですが在学中は節度あるお付き合いをお願いしますね」
「……はい」
今の安西先生の言葉で確信した。皆にはめられた。しかも安西先生までグルだ。今度こそ俺はため息を吐いた。
「あぁ~俺の進路だが……」
「「「ヒューヒュー!」」」
「もうわかったからちょっと黙ってろこの野郎!」
照れ隠しも含んだ一喝を入れるとピタリと野次が止む。ったく、息がぴったりじゃねぇかこいつら。
「はぁ……知ってるやつもいると思うが、俺はアメリカの大学に行く。そしてNBA……世界最高峰のプロバスケリーグ入りをするのが目標だ」
俺の言葉に数人が息を飲む。熱意を持った真剣な眼差しを持って桜木と流川が俺を見ている。
「世界中から天才と呼ばれた連中が集まり鎬を削り合っているのがNBAだ。そこのプロ選手になれるのかはわからない。例えプロ選手になれたとしてもどれだけやれるのかはわからない。でも、だからこそ俺は挑戦する。だからこそ挑戦のし甲斐がある。最高に熱くなれる」
気付けば笑っていた。憧れを果たすべき目標、超えるべき目標とする。それだけでこんなに熱くなれる。
「まぁ、俺の進路はこんなところだ。さて、最後に元キャプテンとして一つ言葉を贈ろう。俺が尊敬する人に言われた言葉でもある。それは……『諦めたら試合終了』だ」
安西先生がにこりと微笑む。覚えていてくださったんですね。
「2年前、俺達3年が湘北バスケ部に入部したばかりの頃、湘北バスケ部は弱小って呼ばれてた。それでも俺と赤木と木暮は、入部の挨拶の時に本気で全国制覇をぶち上げた。そして本気で全国制覇を目指し続けた」
「本気で全国制覇を成し遂げるために練習の強度を上げた結果、何人も先輩達や同級生が辞めていった。本気で全国制覇を目指していたからこそ試合で負けた時のショックが大きくて、挫折しそうになったこともあったかもしれない。でも諦めず、最後まで走り続けたから今がある」
「だから諦めるな。諦めの悪い男になれ。試合終了まで足掻き続けろ。そうすれば結果がどうあれ、次の目標に向けてまた走り出せるからな。……以上だ」
「……ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
こうして俺達の高校バスケは終わり、それぞれの新たな目標に向けて進む日々が始まったのだった。
◆
早いものであの日から時が経ち美和と一緒にアメリカの大学に進学して2年。NBAのドラフトが始まった。
1巡目、2巡目と指名が終わり3巡目……。
『Hisashi Mitsui』
名を呼ばれ席を立ちあがった俺に拍手が送られる。プロバスケットボールプレイヤーになったという実感が胸を熱くさせる。あぁ……最高の気分だ。
指名が続いていき8巡目……。
『Shin'ichi Maki』
牧の名が呼ばれた。奇しくも俺と同じチームだった。席を立った牧に近付き握手をする。
「まさかお前とプロで同じチームになるとはな」
「こっちのセリフだぜ」
牧とは日本の中学、高校、そして先日までアメリカの大学リーグでライバルとして競い合ってきた仲だ。
それがどんな因果かプロではチームメイトとなる。バスケの神様はどんな気持ちでこの絵を描いたんだろうな?
「なにはともあれよろしくな」
「おう、よろしくな」
俺達が指名されたチームは3シーズン連続でリーグ最下位。とてもNBAファイナルを目指せる状況じゃない。
けど不幸中の幸いと言うべきかちょうど監督が代わってチームを1から作り直す時期での加入だ。練習やプレー等で存在感をアピールしていけば、監督の信頼を勝ち取ることが出来るだろう。
そうして少しずつ段階を踏んでいずれはNBAファイナルへ。道は遠い。けど決して諦めない。なんせ俺は……。
三井寿は諦めの悪い男だからな。
これで拙作は完結です。
4年以上に渡る連載に長々とお付き合いいただきありがとうございました。