そしてその後外法を極めてるのがばれて追放される。
元題「拝啓、勇者がアンデッドだと気付かぬままに使役主の私を追放した愚かなお付きの皆々様方へ」
追放逆張りものです。
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イカれ倫理観崩壊ネクロマンサー異常性癖女が幼馴染勇者を好きすぎてアンデッドにする。

 先日私を追放した勇者パーティー「咎持つ双翼」が壊滅した、と風の噂に聞いた。

 懐かしい名前に目を細めて、私は追放されたときのことを思い出した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 ある日の夕方、彼らは私の幼馴染にしてパーティーリーダー、勇者リッチを上手く言い包めて席を外させ、残る四人で私を糾弾した。

 何処から伝え聞いたのか、彼らは私が自分自身に、禁忌の魔法「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」を掛けていることに感付いたらしかったのだ。

 これは対象の肉体を改変し、人体と似ているだけの特殊な生命体に変換する魔法だ。対象はもはや人間ではなくなるとして、一般に禁忌の指定を受けている。

 リッチを外したのは私とリッチが特に仲良く、縁も深いように見えたのだろうと思う。

 リッチに調子を崩されたらこのパーティーは機能しない。それを恐れてのことだったのだろう。

 

「その魔法は禁忌だぞ、知らないのか!」

 

 初めに怒鳴りつけてきたのは攪乱役の剣士の男だった。

 普段はおちゃらけた様子の癖に、こんな時だけ無駄に真面目な顔をするものだから滑稽だった。

 

「リズちゃん、いいひとだと思ってたのに……裏でこんなことしてるなんて……」

 

 涙ながらに言ったのは表の私と同じ、後衛治癒職の女だ。

 脳髄の軽そうな顔をして無意識に男を誑かす、見ていて飽きない女だった。

 

「せめてもの情けだ。詳しくは聞かん。投獄もしない。だから今すぐここから去って、二度と私にその顔を見せるな」

 

 難しい顔をして言ったのは盾職の堅物女だった。

 積極的に争いごとに首を突っ込んでは仲裁したり警吏に突き出したりする、無駄に真面目な人間だった。彼女が知ったなら牢獄行きだろうと思っていたので、これは僅かばかり意外だった。恐らく私はそれなりに彼らに好かれていたのだと、そのとき気付いた。

 

「私達は貴方にここまで少なからず助けられてきました。雑事を一手に引き受けてくれていたことも然り、収支を纏めてくれていたことも然り。それに貴方の治癒魔法で助けられたことも数え切れません。ですが……」

 

 言葉を切って、申し訳なさそうな顔をしたのは魔法支援職の優男だった。

 人の良さそうな顔をして、戦闘時には広範破壊魔法をぶちまけ、仲間すれすれの射線を通して魔獣を撃ち抜く危険中毒者(トリガーハッピー)の気がある男だ。おちゃらけ剣士といつ彼が手を滑らせて味方を撃つか賭けをしていたものだった。

 なお彼が味方撃ちをしたことは当時一度もなかったことを付け加えておく。

 

「ですが、それを天秤にかけても、貴方が禁忌に手を出していることを世の人々に知られた場合の悪影響が上回ります。故に、私達としては貴方を追放せざるを得ません」

「ああ、そう」

 

 随分と買ってくれていたのだなと私は思った。

 正直に言えば、彼らに対して私は、リッチが栄冠を成し遂げたときの生き証人程度の価値しか感じていなかった。

 剣士がリッチの負担を軽減していたのは知っていたし、盾職がいて私の消耗が減っていたのも理解していた。支援職の攻撃には楽をさせてもらっていたし、その三人を十全に活かすためにはもう一人治癒職が必要であることも感じていた。

 けれど彼らがいるせいで私が十全の支援をできないことも確かであったから、彼らを本当の仲間と思ったことは一度もなかった。

 

 一方彼らは私のことを、真の仲間であると思ってくれていたらしかった。

 雑事を引き受けたことも収支の算盤を打っていたのもリッチと二人旅をしていた頃の習慣をそのまま続けていただけなのだが、平均生活力の低い彼ら(曰く、彼らは元々特権階級の出自であったという)には好印象に映っていたらしい。

 ありがたいことである。

 

「それは構わないのだけど、二ついいかしら」

 

 まあ、けれど今更な話だ。ここから何を言っても彼らの決意は変わらないだろう。

 そもそも、彼らの主張はまったく正当なものであるのだし。

 そう考えた私は、幾つか彼らに問うてみた。

 

「この話、リッチは知らないでしょう」

「――――っこの、人が譲歩したからと付け上がりおって!」

「  さん、抑えて下さい!」

 

 どうやら私の姿は実に傲慢に見えたらしい。

 堅物女が怒りに机を叩き、それを優男が慌てて止めた。

 優男が慌てるのはなかなか見られるものではないから少し面白かった。

 さておき彼らと対話する気は大してないのでさっさと話を進めていく。

 

「もう面倒だから手遅れということにしておくのだけど、貴方達はまずリッチに話を聞くべきだったわ。あいつは御存じの通りの馬鹿だから、私達の関係性ぐらいすぐに答えてくれた筈よ」

「……関係性がどうだろうとお前が禁忌を侵したことには変わりないだろうが」

「まあ貴方達に話す気はないから忘れてもらっても構わないわ」

 

 おちゃらけ剣士の言葉を流して私はもう一つ、と指を立てた。

 

「ここの四人での戦術を考えるなり、新しい前衛を増やすなり、早めに今後の方針を考えておいた方が良いわ」

「リズちゃん、それって……!?」

「言いたいことはそれだけよ。適当に荷物を纏めたらすぐに出て行くわ。貴方達もお幸せにね」

 

 ゆるふわ女の声を無視して私は自室に戻り、すぐに荷物を纏めて出て行った。

 それが私のパーティー追放の顛末であった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 もはや懐かしい記憶を振り返りつつ、私達は森を歩きながら聞いた噂を振り返った。

 その後、「咎持つ双翼」のパーティーリーダーであった勇者リッチが失踪。

 捜索するも発見できず、そのうちに魔獣の侵攻の報が届いたために、お付きの者たちだけで街を防衛。しかし結局、前衛の火力が足りずに敗れたのだという。

 

 まあ、あのパーティーにはリッチ以外にリーダーの器たる者がいなかったのだ。

 幾ら勇者パーティーと言えども、支柱が抜ければそうもなるだろう。

 愚かなことだとは思うけれども、私個人として言えばそこまで恨んでいるわけじゃない。

 正直に言えば、彼らのことは嫌いではなかった。

 最後は喧嘩別れの形で終わってしまったが、それも私と彼らとで大事なものが違っていたからに他ならない。

 精々私の知らないところで慎ましく生きるなり何なりしてほしい。まあ、魔獣の侵攻の中で生き延びるのは困難だろうとは思うのだが。

 

『でもって、勇者リッチの行方求む、だってよ。なあリズ、俺ここにいますよーって大声で言ったら面白いことになりそうじゃね?』

『やったら貴方をロリロリ美少女屍体にぶち込んで棒型人造生命をぶっ刺すけど構わないかしら』

『おう分かった。やらねえからその尊厳凌辱してえなーって顔をこっちに向けるの止めてくれ』

『あら残念』

『本音出てるぞ』

 

 今現在はスクルトと名乗っているその男と、命属性魔法「主従の内密なる語らい(テレパシー)」を交わしながら歩く。

 傍目から見れば、白髪赤目イケメン剣士が緑髪金目ヒーラーロリ美少女と見つめ合っているようにしか見えないだろう。無論、ヒーラー美少女の方が私だ。

 関係ないけどおにロリはたいへん素晴らしい文化だと思う。幼馴染属性まで付いたらもう向かうところ敵なしである。問題は偶には入れ替わりシチュもやってみたいという主張が一向に受け入れられないことぐらいか。

 

『しかしあいつらも馬鹿だよな。二年間もずっと一緒にいて勇者リッチがアンデッドだったことに気付かないどころか、使役主のリズを俺のいないところで勝手に追放しちまったんだから』

『寧ろ気付かれたら困るわ。仮にも貴方は私の最高傑作なんだもの』

『そらそうだ』

『それに流石に貴方に馬鹿にされるのは、彼らが可哀想だと思うのだけど』

『リズお前俺のこと嫌いなの?』

『大好きよ』

 

 そう。

 彼、スクルトはつい先日まで勇者リッチと呼ばれていた男であり、そしてその正体は私の使役する、蝋状の肉体を持った生ける死者、屍蝋人(アジポース)なのである。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 リッチという名前は偽名で、スクルトが彼の本来の名前だ。

 生前のスクルトは私、リズの幼馴染だった。

 普通の村の少年少女として育てられ、けれどゆくゆくは魔獣を狩る狩人として、そして勇者として名を上げることを二人で夢見ていたものだった。

 

 幸いにして私達は天才だった。

 スクルトは選ばれた者しか使えない金系統の根源(上位)属性、「雷」属性の魔法の才があり、そして剣の腕も凄まじいものだった。

 雷属性の魔法というのは他の根源(上位)属性に比べて多様性に劣るものの火力の面で非常に優れており、剣士として戦う者にとってはもっとも魅力的な属性と言っても良かった。

 彼は特に秀でていた「連鎖魔法」――攻撃対象を通じて周囲の敵にも雷撃を放ち、それらの魔力伝達(神経)系を引き裂き効率的に殲滅する魔法だ――をその剣と共に振るって勇者への道を駆け上がっていた。

 

 一方私もまた根源(上位)属性に適性を得ていた。

 木系統根源(上位)、「命」属性――生体の治療や使役、身近なものでは食料の長期保管から凄まじいものでは簡易な生命体の創造までもを行える、正に補助職の花形と言って良い属性であった。

 

「なあリズ、俺ら二人なら絶対勇者になれるぜ。俺が魔獣を全部なぎ倒して、お前が俺の怪我を治すんだ。完璧だろ?」

「ええ、完璧ね。誰でも思いつく馬鹿の空論でも、私達なら完璧に使いこなせるわ」

「そうだろうそうだ……お前今思いっきり俺のこと馬鹿にしただろ!?」

「一拍置かないと気付かないところが馬鹿の馬鹿たる所以よね」

「ぐぬぬ……」

「大丈夫、そういう貴方の脳筋なところも私は好きよ」

「嬉しくねー!」

 

 明日、村を出よう。

 そう約束した私達は夜半に二人で語らって、次の日、スクルトが死んだ。

 村の付近に、辺りでは珍しい蟷螂型の魔獣が出たのだ。

 昆虫型の魔獣は総じて強靭で凶暴だ。今の経験を積んだ私達ならば余裕でも、同格の魔獣との戦いを久しくしていなかった当時の私達には、その魔獣は荷が重すぎた。

 

「あ、かは、っ……」

「スクルト……?」

 

 数時間に渡る戦闘の末、蟷螂型は全身の魔力伝達(神経)系をずたずたに引き裂かれて絶命したが、その直前に最期の力でスクルトの首を引き千切った。

 

「流石ねスクルト。待って頂戴、今治癒をかけるわ。ああ、それと魔獣の肉も回収しておかないといけないわね。【不死なく、不滅なく、けれど此処より腐敗よ去ねよ】――【生ける肉塊の保管蔵(クーラーボックスオブパラシティカ)】。ねえ。大事な食糧だということは分かるのだけど、ちょっと私を働かせすぎではないかしら。いつも思うのだけど。申し開きはないの? ねえ。スクルト?」

 

 恐らく私は半狂乱になっていたのだと思う。言動と行動が滅裂だった。スクルトに駆け寄り、彼の肉体に保存の魔術をかけていた。それでいて彼に声を掛け続けていた。私がここまで饒舌になれるとは知らなかった。

 

「スクルト。スクルト、スクルト? ねえ、返事をして頂戴。馬鹿で喧しくて強いのが貴方の取り柄でしょう。どうして黙っているの。スクルト。お願い、スクルト」

 

 知らなかったのだ。

 人を失うのがここまで恐ろしいということを。

 私が軽口を叩けていたのはスクルトがいたからだということを。

 私が未来の夢を全てスクルトに委ねていたということを。

 

 ……私が、彼を好いていたことを。

 

「貴方がいなくなったら私はどうすればいいの。何を支えにして生きて行けばいいの。寂しいのよ。貴方がいたから私は生きてこられたの。貴方が夢を見せてくれていたのに。厭よ。いなくならないで。スクルト。ねえ。ねえ……」

 

 ふと、視界が開けた。

 

「ああ……そうね」

 

 誰に言われずとも、まるで思い出したかのように私はその魔法を知った。

 

「そうね。気付いてみれば当然のことよね」

 

 魔法とはそういうものだ。

 素養と素の技能だけでは少し足りない。

 強く思い願ったとき、初めて魔法は呪文を描き、形を成す。

 

「死んでほしくないのなら、生き返らせれば良いのよ」

 

 それが、私にとっての始まり。

 

「――――【肉体滅べど精神死なず】【空の器に注げよ魂】【此の世の悲劇は此処に無く】【果ての楽土こそ此処に在れ】――――」

 

 木系統根源(上位)、「命」属性「治癒魔法」使いのリズから、

疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」使いのリズへの、覚醒。

 

「――――【永遠への誘い(スタグネイト)】!」

 

 そうして私の魔法によって命を繋いだ(生まれ変わった)スクルトは、私とともに勇者への道を再び歩み始めたのだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

『しかしあれだ、こうやってリズと話すのはかなり久し振りな気がするな』

『そうかしら』

『だってお前、あのパーティーの中ではずっと猫被ってただろ』

『ええ、まあ』

 

 一応、私の嗜好が歪んでいるという自覚はある。

 昔から薄々予想していたことではあったが、スクルトの命の危機が去り、彼の肉体を自在に弄ることができるのだと理解したときに心の底から自覚した。

 スクルトのことを好いているのはともかくも、彼と一時的に性別を入れ替えてみたいであるとか、彼との見た目の歳の差を広げたいとか、そのような欲求が普通でないのはよく知っている。実際にやってしまうことなど問題外だ。

 骨格確認の為に遺体を有効利用させて頂いた狩人なり立て(暫定)の少女には申し訳なく思っている。後に内緒で埋葬したので勝手に解体したことは許して頂きたい。

 

『私も決して口の重い方ではないもの。うっかり口にしないよう気を付けるのには苦労したわ』

『俺としてはいつ爆発するか気が気じゃなかったけどな』

『失礼ね。私とて爆発する場ぐらい弁えてるわ』

『爆発する前提なのかよ』

『例えば今とか』

『道理で俺が泣きそうになるわけだ』

『泣いたら記録水晶使っても(動画に撮っても)良いかしら』

『絶っ対泣けねえなおい』

 

 やっぱ嫌われてるとしか思えねーんだよな、とスクルトは呟くが、決してそういう訳ではない。

 別に私は意地悪をしたいわけではないしスクルトのことは大好きである。

 ただ格好良いイケメンが尊厳をぐちゃぐちゃにされたり性転換させられて無力な少女に貶められたりする様子を想像すると興奮するだけである。

 尚悪い。本当に申し訳ない。

 

『俺としては昔の大人っぽいリズが好きだったのに、気付いたらお前だけちんちくりんになってるし。初めて見たとき俺隠れて泣いたんだからな?』

『それは勿体無いことをしたわ』

『だから隠れたんだよ!』

 

 それについても割と申し訳なく思っている。

 格好良いイケメンがちんまいロリ美少女に手綱を握られている様子を想像してたいへんに興奮してしまい、思わず私自身にまで「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」をかけてしまったことには私のことながら実にドン引きものであった。

 それに私の姿を見たときのスクルトの夢破れた顔と背中に漂う哀愁には、思わず私も記録水晶を使う(動画を撮る)手を下ろしてしまう程であった。

 

『それに夜にはスクルトの望む姿で相手してあげているじゃない』

『そうなんだがなあ』

『最近はこのロリ美少女姿のまま相手することも多いのだし、本当は満更でもないのでしょう?』

『やめてくれ……否定はしないがやめてくれ……』

 

 頭を抱えてスクルトが呻きながら蹲る。

 滑稽なそれを眺めていると、ややあってふとスクルトが顔を上げた。

 

『……魔獣の鳴き声だ。何かと争ってるっぽいな』

『あら、何かしらね』

 

 スクルトの言葉に首を傾げて、私も習って耳を澄ませつつ考え込んだ。

 魔獣が争う相手は主に二通りある。他種の魔獣か、人間かだ。

 人間であるなら加勢すべきだろう。私は別に決着が着くのを横で眺めて後から掻っ攫うのでも一向に気にしないのだが、スクルトはそれを良しとしない。

 ただ一方で、音の先で起こっているのが魔獣同士の縄張り争いであるなら、私達が急いで向かう必要はない。私達が狩るべきなのは、争いに負けて縄張りを失った魔獣である。そういう輩は新天地を求め、街を襲うことが多いからだ。

 けれどそれらへの対処が必要になるのは、魔獣同士の争いに決着が着いてからだ。決して両方を狩ることに利点がないわけではないが、態々危険を冒すまでのことではない。

 

『おいリズ、行くぞ』

『あら、人間とだったの。よく聞き取れたわね』

『はあ? 聞き取れるわけねえっての』

 

 さてはて、この音はどちらであろうか。

 私はそう考えていたのだが、その判別が付く前にスクルトが剣を構えて歩き出した。

 はてと思って尋ねたのだが、心底当然のことのようにスクルトは言うのだ。

 

『さっさと行って、人がいたら魔獣を殺して助ける。んでもって、魔獣同士だったら両方殺す。な、簡単な話だろ?』

 

 本当に、と私は感嘆に息を吐いた。

 

 スクルトは馬鹿だ。

 算盤も弾けないし雑事もこなせない、正真正銘戦うことしかできない類の馬鹿である。

 そしてまた、物事を難しく考えられない、雑に捉えて単純な考えで答えを出す、そういう類の馬鹿でもある。

 けれど、スクルトがそうであるからこそ、私は未だに人間の側に踏み止まっていられるのだ。

 

『……そうね。ならすぐに強化を掛けるから少し待っていて頂戴』

『あいよ。しかし強化もらうのも二年ぶりぐらいか? 懐かしいな』

 

 スクルトは馬鹿ではあるが、自覚的な馬鹿だ。自分が一人では何もできないことを知っているのだから、支援する側としてはやり易いことこの上ない。私はスクルトの背中に触れて魔法を唱えた。なおこの背中に触れるのは私がやりたかっただけで効果には何ら関係がない。スクルトはその事実も知らない。実にやり易い。

 

「――――【其の腕は太く】【其の爪は鋭く】【其の牙は鱗穿ち】【其の脚は岩砕く】」

 

 私が魔法を唱える毎に、スクルトの周囲に魔力が渦巻くのが肌で感じ取れた。

 ――――一般的に、「他者強化魔法」は「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」と同程度の禁忌として扱われる。

 対象の肉体に対して相応の理解を持っていないと、歪な強化により対象が死んでしまうからだ。

 

「――――【其の肌覆うは黒鉄(くろがね)の鎧】【其の手に振るうは白銀(しろがね)の刃】」

 

 人体というものは複雑だ。概論だけでも理解するのは難しいというのに、個人の個性や特徴まで把握するのは至難と言える。

 故に、如何に「他者強化魔法」が強力な力を得られる魔法なのだとしても、常道ならば許されざる類の自爆魔法であるということには違いはない。

 

「【此処に目覚めよ】――――【姿持つ破滅(デスサイズ)】!」

 

 仮に許されるとすれば、それは自然と起動し自身と調和している「自己強化魔法」か、――――――或いは極度に単純化された、「疑似人体型人工生命(アンデッド)」への強化のみである。

 

「さあ、スクルト。出番よ」

「おう、行ってくる!」

 

 その言葉と共にスクルトが眼前から消え失せ、数瞬置いて彼方から破砕の轟音が鳴り響く。

 普段のスクルトにそれぞれ倍する火力と速度。

 禁忌とされるのも分からないでもないなと私はそれを追いながら考えた。

 

 唯でさえ「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」は反則じみた魔法であるのだ。

 頭脳を潰されない限り、首を狩っても心臓を突いても死にやしない。

 思考能力すら求めなければ、圧砕するなり溶かすなり焼き尽くすなり、原形を留めぬ程に破壊しないと止まらないのだ。さぞ恐ろしいものだったのだろう。

 自己同一性(シップオブテセウス)の問題もある。はたして頭脳以外を全て取り換えられたものはそれ以前と同一であるのか否か。私のように、或いは私に肯定されたスクルトのように、躊躇なく是と応えられるものは極少数であるだろう。

 

 それに加えて、「他者強化魔法」が使えるのだ。

 元々、人間の命が軽い世の中だ。このように強力な自爆魔法を認めたらどうなるかなど分かり切っている。実際古い御伽噺などでは、「他者強化魔法」で住人を無理やり特攻させ続けた結果、人手が足りなくなり破綻した街の話なども存在する。

 そのような危険な魔法を、安全に使えてしまうのだ。

 他者からすれば、恐ろしい話どころではないだろう。

 

「リズ、早く来い! 魔獣は殺したが怪我人がいる!」

 

 戦場の見えるところまで来るとスクルトの声が聞こえた。

 どうやら魔獣の相手は人間だったらしい。

 しかし強化をかけてからまだ一分も経っていない筈だ。

 相変わらず、スクルトの剣の腕は恐ろしいものである。

 

「ええ、分かったわ。見せて……」

 

 頂戴、とまでは言えなかった。

 状況を把握したからだ。

 

「あ、貴方は治癒職の方なんですか? お願いします、彼を、   を助けて下さい。お願いします……助かりますよね?」

 

 必死に私に縋り付いてきたのは杖を持った女だった。目立つ怪我はないので治癒を掛ける必要はないだろう。それより問題は彼女の指し示した男だった。脊髄が、魔力伝達(神経)系の中枢であるそこが、砕かれていた。

 致命傷だ。人間は魔力を高め肉体を鍛えれば、その強度も上がるし力も上がる。けれどそれは魔力の恩恵だ。その伝達系の中枢が砕かれてしまっては、基本的に助かる術はない。

 

「おう、リズなら余裕だろ?」

 

 「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」以外には。

 

「【不死なく、不滅なく、けれど此処より腐敗よ去ねよ】――【生ける肉塊の保管蔵(クーラーボックスオブパラシティカ)】。ねえスクルト、確かに私なら彼を助けられるかもしれないけれど、それは非常に危険な行為よ。それを分かって言っているのかしら」

 

 延命のために男に「保存の魔法」を掛けて、それからスクルトを詰問する。

 私としては、男は見捨てるべきだと思う。初対面の相手を信用できるほど私は人間ができてはいない。唯でさえ禁忌の魔法を二つも修めているのだ。不確定要素は増やさないに越したことはない。

 だというのに、彼は当然の顔をして言うのだ。

 

「リズ、俺たちは強いんだ。強いんなら、危険だからって人を見捨てちゃ駄目だろ」

 

 嗚呼、本当に。

 スクルトは本当に、人間としてできている。

 彼は私のような外道ではない、真っ当な人間として強さを得た存在だ。

 もしも私が一人であったなら、私は早々に人間を守ることを放棄し、目標も目的も無いままに緩やかに滅んでいったのだろう。

 だから、私に指針を与えてくれて、私を人間のままにいさせてくれたスクルトのことを、私は心から好いているのだ。

 

「……分かったわ。スクルトがそう言うのなら私は構わないのだけど、後は彼女次第ね」

「おい、リズ」

「これは彼女の問題よ、スクルト。他人の貴方が口出ししても不幸なことにしかならないわ」

「……おう。リズがそう言うんなら信じるわ」

「ええ、そうして頂戴」

 

 一つ頷いて、女に向き直る。

 残酷な選択をさせる自覚はある。

 禁忌か永遠の離別かなどというのは、悪魔の囁きに他ならない。

 けれど、選ばずにいれば更に不幸になるだけだ。

 

「さて。正直に言えば、そこの男は致命傷よ。今は私の魔法で進行を抑えているけれど、それでも彼は遠からず死ぬわ。尋常の方法だけなら、だけど」

「そんな……! どうにかなりませんか!」

「ええ。幸い私は禁忌の魔法を修めているの。それを使えば彼の精神は助けられるわ。残念ながら、その肉体は人間の姿をした別物へと変わってしまうのだけど。……ねえ、貴方。その男の為に禁忌を侵す覚悟はあるかしら」

「……あります!」

 

 彼女の逡巡は一瞬のことだった。

 

「私に借りを返せるの?」

「返します!」

「彼が人間でなくなっても受け入れる覚悟は?」

「あります!」

「当然、貴女は受け入れられても、そこの男は受け入れられないかもしれない。その時に、彼に忌まれ、嫌われ、詰られる覚悟はあるかしら?」

「……あります。それでも、私は生きていてほしい!」

 

 最後の答えは悩みながらのものだった。

 けれど、即答よりかは其方の方が良い。

 悩むということは、考え抜いた末の決断であるということの証明でもあるのだから。

 

「実に結構。貴方の覚悟に敬意を表して、その男を助けてあげる」

 

 頷いて、私は魔法を唱えた。

 

「――――【肉体滅べど精神死なず】【空の器に注げよ魂】」

 

 私の詠唱に呼応して、男の周囲に魔力が渦巻く。

 魔力によって、肉と血が蝋状物体へとゆっくり改変されていく。

 

「――――【此の世の悲劇は此処に無く】【果ての楽土こそ此処に在れ】」

 

 不要な臓器は削ぎ落とされ、肉体は粘体様の均一な生命体へと書き換わる。

 それに男の脳を接続したら、完成だ。

 

「――――【永遠への誘い(スタグネイト)】!」

 

 私が唱え切ると共に、男がぱちりと目を覚ます。

 不思議そうに辺りを見回したところで、女が体当たりするかのように抱き着いた。

 泣きじゃくりながら良かったと訴える女に困惑しつつもそっとその背を撫でてやる男を見て、先ずは安心だと私は小さく息を吐いた。

 

「流石だなリズ」

「当然よ」

 

 肩を叩かれて私はスクルトの方を見返し、彼が踵を返そうとしているのを見て呆れながらもその腕を掴んだ。

 

「どうしたリズ、もうあいつらは放っといても大丈夫だろ?」

「相変わらずスクルトは馬鹿ね」

「切れそう」

 

 肩を竦めて私は言う。

 

「先ずは彼に現状を伝えないといけないわ。それに二人に口止めをするのも必要ね。彼女たちから辿られて私が禁忌を修めていることが知られたら一大事なのだし、一番良いのは彼女たち二人とパーティーを組むことじゃないかと思うのだけど」

「あのなあ、それは流石に考えすぎだろ」

「あら、そうは言いながらも貴方だってまたパーティーを組みたいと思っていたのでしょう?」

「……よく分かるよなお前」

「当り前よ。私が何年スクルトを見ていると思っているの?」

「そうだよなー、あーやっぱリズには敵わねーなあ」

「……ふふ、光栄ね」

 

 私はそっとスクルトに笑いかけて、それから未だ涙交じりで喧しい二人の方へ歩みを進めた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 拝啓。

 勇者がアンデッドだと気付かぬままに使役主の私を追放した、愚かなお付きの皆々様方へ。

 魔獣の侵攻を受けたとのことで、難しいかとは思われますが、どうぞ幸せにお過ごし下さい。

 なにせ、私は現状、程々に幸せでおりますので。




・リズ 女性 実年齢は20ぐらい 肉体の見た目年齢は10代前半ぐらい
 思考回路がひとでなしな方。思考回路的に天才な方。ベッドの上でだけ主導権を譲り渡す方。
 木系統根源(上位)、「命」属性「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」使い。挙動的には要するにネクロマンサーだが、実情としてはテイマーに近いかもしれない。他に「治癒魔法」「保存の魔法」「他者強化魔法」など多様な命属性魔法を修めている。うち「疑似人体型人工生命使役魔法(ネクロマンス)」と「他者強化魔法」は禁忌。
 自身のひとでなし思考に自覚的で、スクルトがいなかったら孤立していただろうことを理解している。スクルトの真直ぐさと馬鹿さと善人思考に救われている。スクルトがいなかったら世界滅ぼしたり孤独にゆっくり死んでいったり人類見捨てたり人類に見限られたりしていたと思われる。そのためスクルトの為なら禁忌を破ることも厭わない。多分命を投げ出すことも厭わない。
 スクルト以外の人間に興味がない。本文中でスクルト以外の名前が出てこないのもそのせい。
 どこぞの有名漫画雑誌在籍の漫画家みたいな性癖をしている。
 名前はリザレクション、ないしリレイズから。

・スクルト 男性 実年齢は20ぐらい 肉体の見た目年齢は10代後半ぐらい
 思考回路が善人な方。剣術的に天才な方。思考回路的には馬鹿な方。ベッドの上でだけ主導権を取り戻す方。
 金系統根源(上位)、「雷」属性「連鎖魔法」使いの剣士。「連鎖魔法」は対象の周囲の敵を巻き込んで感電させる魔法。自己身体強化の割合も高く、その上リズの「他者強化魔法」まで上乗せされるので、世界でも屈指の実力を持っている。リズにアンデッドの一種、屍蝋人(アジポース)にされている。アンデッドと便宜上呼んではいるが、実情的にはむしろ生体部品のサイボーグとかそういう類に近い。
 ちょっと前までは勇者リッチとして活動していたがリズが追放されたのに気付いて彼女の後を追った。リズのことは性格最低最悪のクソ外道イカれ女であると理解しているが、リズが自分のできないことを全てやってくれること、自分の意見を尊重してくれること、自分がやりたいことを言えば道筋をつけてくれること、顔が好みであることなどを加味して「まあ一緒にいた方が都合が良いよな」と考えている。「勇者たるもの人外の一匹や二匹手懐けてなんぼだよな」とも思っている。惚れた弱みとも言う。
 最近、普段と同じ姿のリズを屈服させる方が興奮するということに気付きつつあり、一方でロリに興奮しつつあることに自己嫌悪を感じている。リズに性癖を開拓させられていることには気付いていない。
 名前はスケルトンから。勇者リッチの方は上位アンデッドのリッチーから。

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