ゴールドシップに好きなコロッケを聞いたら、俺と同じコロッケが好きだった。
ただ、それだけの事なのに、ふと母の姿をゴールドシップに重ねた自分が不思議だ。
時計の音と香ばしい匂いで俺は目を覚ました。
資料整理の途中で眠ってしまったらしい。
背伸びをして欠伸をすると、時計の針は22時半を回っていた。もう食堂も閉まる時間、しかし俺は空腹だ。脱力感にうなだれると、香ばしい匂いの正体が目に飛び込んだ。コロッケだ。
皿にコロッケが2つとサラダ。小鉢には切り干し大根。もう1つの小鉢には漬物。みそ汁とご飯まで用意されて、ラップがかけられている。
見事なコロッケ定食に俺の思考は戸惑いを覚えたが、空腹の前では無力だった。味噌汁の椀を持つと、驚く事にまだ熱い。他も同様に温かい。
それは作られてから時間が経っていない事を示すのだが、一口啜ってさらに驚いた。とても美味しい。普通に美味しいのではなく、懐かしく美味しいのだ。間違いなく、これは母の味だった。
母さんが作る味噌汁の味に腹が暖かくなり、食欲がさらに湧いてくる。コロッケはきつね色によく揚がっていて、箸で持てばずしりと重い。一口齧ると甘くとろける濃厚な味。俺の大好物のかぼちゃコロッケだ。これも、母さんが良く作ってくれたのを思い出す。もう1つは割ると中からゴロゴロと具材がこぼれだした。肉じゃがコロッケも、子供の頃からの大好物だった。
普通の白米にすら子供の頃を思い出す。
全体の半分程を食べるうちには、なぜだが涙が止まらなかった。久しく出会えなかった母の温もりが俺の体を包み込んでくれるようだった。
「ごちそうさまでした」
小さく合わせた手を見つめるうちに、また睡魔が俺を襲った。けれども、今度は幸せな睡魔だ。ソファは柔らかく、空気は暖かった。
はっきりとは分からないが、多分母の夢を見たと思う。その夢から覚めると、ゴールドシップが俺の事を覗き込んでいた。机の上に皿は無い。
「昨日、コロッケ食べただろ?」
「……なんで知っているんだ」
「いやさ? 夜遅くに部屋に入ったわけよ。そしたらトレーナーは大いびきをかいて寝ていて、机の上には皿が置いてあったわけ。なんとなく、衣と匂いからコロッケかなーて。んで、しゃーないから洗ってやったわけよ。ほら、ゴルシちゃんは家庭的だから。ゴルシちゃーんM・V・P!」
「……そうか、洗ってくれたのか。ありがとう。じゃあ、あれは誰が作ってくれたんだろうな」
そこでゴールドシップはわざとらしく何かを思い出す素振りを見せた。
「そーいえばアタシさ、昨日幽霊を見たんだよ」
「幽霊?」
「まあ、幽霊つうか精霊? なんかおばさんの姿だったぜ。または誰かのスタンドだな」
その机にはもう何もないが、確かに昨日は母の手料理があった。そこには母の温もりがあった。
「──まさかな」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもないよ」
「ふーん。因みにさ、かぼちゃコロッケと肉じゃがコロッケは美味かったのか?」
「ん? ああ、とても美味かった。なんだか、母さんの手料理を思い出したよ」
なぜかゴールドシップが嬉しそうなので、お前を褒めたんじゃないぞと言ったら殴られた。とてつもない理不尽を感じるが、いつもの事である。
「……さて、今日のトレーニングに行くか」
「ん、先に行っててくれ」
「遅れんなよ」
「おいおい、ゴルシちゃんをなんだと思っているんだよ? 次はダイナミック鯖折りだな」
「はは、勘弁してくれよ」
なんだか今日は朝から活力が湧いてくる。これも母のおかげだろうか。さあ、今日も頑張ろう。
「えっと……オバサンの番号は……」
《あ、もしもし? オバサン?》
《あらシップちゃん! じゃあ、コロッケは……》
《うん! 上手く行ったぜ!》
《あらホント? やっぱり、シップちゃんは料理上手ね。いいお嫁さんになれるわよ》
《でも、まだまだだな。次はさ、カレーの作り方を教えてよ。あいつが喜ぶ感じのやつ》
《そうね……うちの隠し味、知りたい?》
《うん! 知りたい知りたい!》
《ホーント、シップちゃんみたいな良い娘はうちの馬鹿息子には合わないわ。それでもいいの?》
《まあ、馬鹿な所も含めて……好き、だから?》
《あらあら、火傷しちゃいそうね。それじゃあ、今度のお休みにうちへおいで》
《オバサンありがとう。じゃあ、また今度ね》
「……さて、あいつの背中にゴルシキックだな」