龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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性懲りも無く新しい作品を書き始めました。
投稿頻度?察して。






1話

 

 

 

この世界に生まれ落ちたのが、二十五年前。

空は広く青く澄んでいて空気は綺麗。見た事の無い大自然が広がっている。

しかし見慣れない生物が飛び回り、街や村では牛や馬ではなく、馬鹿みたいに大きい恐竜みたいなのが荷馬車を引く。

 

何処か見た事がある光景。

そう、簡単に言えばモンスターハンターの世界だ。

はっきり言って、しっかりと自分の意識を持ってそれを認識した時はそれはもう、興奮したものだ。

何せゲームの画面越しの世界の出来事で、システム上でしかそれらの世界を感じる事が出来なかったのに今は本当にこの世界に生まれ生きて、そして生活している。

 

ヘビープレイヤーでは無かったが、携帯ゲーム機のものや、家庭用ゲームはそれなりに作品をやって来た。

流石にPCなんかの作品はやっていなかったが。

 

ある種の憧れを持つ、持ってしまう世界だ。

強いハンターになって、モンスターを討伐して、ちやほやされたい。

誰だって一度は思った事があるだろう。

ゲームや小説の中で語られる物語に憧れ、想いを馳せ、その世界に強く惹かれていた事だろう。

 

しかし、幻想が現実になった時。

それは地獄を意味する。

 

この世界はゲームほど、甘くは無かった。

よくよくしっかり考えればわかる事なのだが浮かれていた俺は思い知らされる事になる。

幻想は幻想のままが一番だと心の底から思う様になる。

 

考えても見れば、体長が二十mを超えるようなモンスターが至極当たり前の様に闊歩しているのだ。

ティラノサウルスよりもデカくて空を飛ぶ生物、と考えれば考えやすいだろう。

どれだけ小さくとも体長数mなんて当たり前だ。

 

となれば、硬い鱗や甲殻に覆われているでも無く、鋭い爪を持っている訳でも無い我々人間はどう考えたって被捕食者側な訳だ。

さらに付け加えて言うならば極端なまでの弱肉強食の世界なものだから、強ければ生き残れるが弱ければ簡単に淘汰される。

 

要は簡単に死ぬと言うこと。

 

余り言いたくは無いが、モンスターと言う強大な存在がいるこの世界では、命を失うなんて当たり前だ。

村の中にいても襲撃されることもあるし、旅に出たり行商中であろうと襲われる。

しかも国同士の戦争もあるし、命の重さは、はっきり言って軽い。

 

そんな世界に転生した俺が生まれたのは、ハンターも居ない小さな小さな農村だった。

人口は数十人程度、農業が主で狩りなんて出来ない。村の一歩外に出れば戦う術を持たない農民なんてモンスターの格好の獲物だからだ。

しかも子供が少ない。同年代の子供は俺を入れて僅か三人だけ。

そりゃぁ、大層可愛がられたものだ。

 

話を戻そう。

小型とは言え、モンスターはモンスター。

原作の、ジャギィやジャギノスと言った雑魚モンスターと呼ばれる存在だって十分以上に脅威だ。

武器を満足に扱うどころか振るうことすら出来ない農民には、どうやったって勝つことはできない。

 

村の周りを堀と壁で囲い、モンスターの侵入を防ぐ。

その堀と壁だけが、頼りの村。

 

現実を突きつけられた時は、それはそれは絶望した。

こんな厳しい世界で、俺の様な軟弱者が生き残れるのか、と。

不安で怖くて仕方が無くて。

 

だからこそ、生き残るための力を欲した。

何十年も前にハンターを引退した、村の老人に頼んで身体を鍛え稽古を付けてもらって。

 

この世界での俺は、身体能力は物凄く恵まれていたらしい。

鍛えれば鍛えるほど、身体は強くなった。

 

村の唯一の鍛冶屋のおじさんに頼み込み、太刀擬きを作ってもらって。

村の外に栽培していない薬草やキノコが必要となったら出むく。

 

小さな村だから、あまりたくさんの種類の作物を育てられない。

精々育てられるのは薬草とアオキノコ、あとは食用の野菜などだけ。

 

だから、他に何か必要となったら村の外に自生しているものを採りに行かないとならない。太刀擬きが出来てからはまともに外に出て採集出来るのは、俺だけだったからより一層、俺の役目になった。

 

ただし、無茶はするなと村の皆に口酸っぱく何度も何度も言われ厳命されていてその約束はしっかりと守った。でなければ死ぬ事になるから。

村にアイルーはいない。オトモアイルーなんて尚更だ。

 

オトモアイルーは特別な訓練を積んだアイルーだけがなることを許される。

そんなアイルーが、これほど小さな村に来るわけもなく。来てくれるわけもなく。

意外とオトモアイルーは高給取りだ。

 

ハンターズギルドの規約には、オトモアイルーを雇うならば必ず守らねばならない規約がある。

 

衣食住を保証すること。

賃金を払う事。(オトモによっては金銭では無くマタタビを要求して来る)

不当な暴力等を振るわない事。

不当解雇をしない事。

解雇する場合、当面の生活資金を十分に払う事。(ただし、金銭的余裕のない場合はギルドに申請すれば何割か負担してもらえる)

 

などなどかなりの数がある。

 

これらを守らずに違反した場合、良くて数ヶ月から数年に渡る活動停止処分、最悪一発でハンターズギルドを除名処分、ハンター資格を剥奪される。

 

一応、剥奪されたとしても数年後にもう一度ハンターになる事は出来なくもないが、最初からやり直し、要は養成所に通い直さなければならない。そもそもそんな奴を養成所が合格させるかどうかは分からないが。

 

何故ここまで厳しいのかと言うと、ハンターズギルドとしてはオトモアイルー斡旋所、正確にはアイルー全体とは仲良くしておきたいからだ。

でなければ、アイルーが雇えなくなる。

ハンターが倒れた時に回収に来てくれるアイルーもハンターズギルドが雇っているのだがそれも雇えなくなるし、集会所などギルドの酒場などで働くアイルーも雇えない。

そうなればハンターの死傷率は跳ね上がるし仕事は回らなくなる。

 

だから厳しく決められている。

 

とまぁ、オトモアイルーに限らず人間に雇われるアイルーは高給取りなのだ。

 

 

 

 

 

毎日、必要なものを必要なだけ採取しに行く。

ただし、決して奥深く入っては行かない。

浅いところで、済ませる。

ここなら小型モンスターばかりで大型モンスターは滅多に見ない。

 

精々ドスジャギィやアオアシラなど。

と言っても馬鹿には出来ない。こいつらもまともな武器防具がない俺からすれば物凄く強いからだ。

 

 

 

 

そんな日常を過ごしてて、何となくなれればいいな、程度に考えていたハンターに二十歳の時になった。

養成所には俺を鍛えてくれた老人が紹介状を書いてくれて、試験を受けて合格、十七歳から三年間、みっちり鍛えられた。

読み書きに関しては問題無い。

 

選んだ武器は、太刀。

他の武器も使えるが、村に戻ろうと考えていたから、ソロになる。

ボウガンや弓と言ったガンナー職は剣士達前衛の援護が居なければ戦えない。

片手剣や双剣でも良かったが、昔から使っていて慣れていた太刀を選んだ。

 

村に戻ってからは、ハンターとして活動し始めた。

受付嬢なんているわけもなく、クエスト扱いで自分で依頼されたら依頼の紙を自分で作成し、受注する。

 

これも、養成所で教わった。

結構、自分の村に戻ってハンターをする、と言う人間は多いらしい。

一攫千金を狙う者ばかりでは無く、自分の故郷に戻りハンターをする、と言う人間の為に書類作成方法を学ぶのだ。

ギルドに依頼を出しても良いが、それだと依頼を受理してから依頼掲示板に貼られるまでに短くとも一カ月は掛かる。

その間に緊急性が高い、脅威度が高いと村一つ、最悪街一つが消えかねない。

ならば故郷に帰ったハンターに自分で書類を作成させ、受注させた方が早いしギルドの負担も減る。

ゲームの様にあちこちの地域に出向いて討伐するなんて、大きな街、ドンドルマとかハンターズギルドが決めた管轄区域に何箇所か置かれているかなり大きな街のハンターぐらいだ。

俺みたいなハンターは自分の村の周辺地域でしか活動しない。

そうじゃないとハンターが一人しかいない場合が多く、別地域に出掛けている間に万が一何があった場合対処出来なくなるからだ。

 

依頼が終わったら、ギルドに纏めて書類を提出すれば手当やらアイテムが幾らか貰えたりもするし。

討伐したモンスターは、普通はハンターとギルドで分けられるのだが遠隔地などであれば輸送コストなどの面から全てハンターのものになる。

ただし、その分手当やアイテムの数を減らされるが。

俺はそうだ。まぁ、おかげで装備は整えられた。

 

そんな事情があるから教えられるのだ。

 

 

何度か大型モンスターも討伐した。

と言ってもリオレウスなどではなく、ドスジャギィや冬になると出てくるドスバギィ、アオアシラ、ドスファンゴ、ドスマッカォぐらいだ。

一番の難敵はクルペッコだったろうか。

 

浅いところに出てくるモンスターはこれぐらいだ。

これよりも奥に行くとリオレウスやリオレイアなどの飛竜種が出る。

ただ、遠目に見るだけ。

行っても浅いところより少し入ったあたりまで。

 

ドスジャギィとドスバギィは、群れを率いてこの辺り一帯を闊歩する様になった。

獲物を求めて彷徨し近寄った、近付いてしまった何人かが襲われて、その内の二人が死んだ。

一人は完全に食われてしまい、遺体も遺品も何もない。

もう一人は、腕と脚を食い千切られ、辛うじて俺が助けに入ったものの、どうやっても助からなかった。

アオアシラは二ヶ月に一度訪ねてくる行商人を襲い、一番近い村の俺に討伐依頼が来た。

 

その時は、運良く行商人の荷物が幾らか失われただけで済んだ。

手強かったが、ドスジャギィとドスバギィを討伐して得た素材や地道に集めた鉱石やらで作った武器防具、罠なんかのアイテムのお陰で討伐出来た。

 

クルペッコは浅いところ、それもかなり浅いところにまで現れて来て、暫くは何もなく川で魚を獲り、俺を視界に収めても碌に興味も示さずで、採取クエストにも影響は無いし実害もないから様子見程度だったのだが突然暴れ始めた。

警戒心を大きく露わにして、普段なら襲うどころか無視していた俺に襲い掛かってきた。

その時は、まさかそんな事になるとは思わずに採取クエストに出たものだから武器防具はいつも通りしっかりとしていたが、それ以外の物資が問題だった。

 

アイテムポーチには砥石が幾つかと回復薬と回復薬グレートを三本ずつと万が一の時の為に解毒薬を二本、それと携帯食料が一日分、火打ち石に閃光玉が二つ。

あとは投げナイフを二十本持っていたが、それは採取クエストのついでに麻痺投げナイフと毒投げナイフを作るために持って来ていただけで毒テングダケやマヒダケを塗布しているわけでもない、ただの投げナイフだからまともな武器にはならない。

 

アイテムポーチにはたったそれだけ。

とてもじゃないが、これではクルペッコには勝てないと咄嗟に攻撃を回避した俺は、すぐさま閃光玉をクルペッコの顔面に投げ付けて、全速力で村まで走った。

キャンプが無いから、村がキャンプなのだ。

 

一応、採取クエスト自体はクリアだったので、報酬は貰えたがクルペッコが問題だった。

まさか森に入ったら今まで大人しいと言うか、そんな感じだったクルペッコが暴れているなんて、と。

 

ハンターと言うのは、養成所で一番最初に教えられるのだが、簡単に言えば「自然との調停者」だ。

無闇矢鱈にモンスターを討伐してはならず、必要に迫られれば討伐する。

我々に直接害を加えないのであれば様子見で、もし影響が出そうならば捕獲で個体毎に移動距離や必要となるであろう縄張りの広さを考えて人里や交易路から離れた場所に放つ。

 

捕獲が難しいとか捕獲してもまた被害が出るだろうと予想される場合は討伐なのだ。

例えば、人間の食べ物や人間そのものの味を占めてしまった場合だ。

捕獲して放そうにも、また人間や、最悪村を襲撃する可能性が高い。だから討伐するのだ。

 

討伐依頼が届けられても、必要が無ければ捕獲だったり観察になる。

ギルドなどで張り出される依頼は討伐依頼が多い。と言うのも緊急性の高いものから順々に出していく訳だから、必然的に討伐依頼が多くなる。

あとは、捕獲だとしてもモンスターが強力だったりするとやはり捕獲依頼として早く張り出される。

一部モンスターを除いて、刺激さえしなければ襲っては来ない。

 

 

ゲームと同じハンターランクで決められたものしか受注出来ないから、実力に見合わない者が見合わない依頼を受ける事は無い。

ハンターランクを上げるのも大変だ。

討伐依頼、捕獲依頼をそれぞれランク毎に何十個以上だとか色々決められている。

だからハンターランクには上限は無いが、並のハンターならば一生掛けてランク5か6に行けば良い方だろう。

 

凄腕、古龍種の対応を許されているハンターであれば6〜7。

ギルドナイトクラスにまでなると最低でも10。

しかもギルドナイトは更にそこから様々な選考基準があるのだからなる事は難しい。いや、ほぼほぼ不可能だろう。

ギルドナイトは世界中を飛び回り古龍種の調査などに駆り出され、必要とあらば他のハンターと組んで古龍種と戦わなければならない。

 

確か、今現在一番高いランクのハンターは27だったか。

 

 

 

 

ドスジャギィもドスバギィも、最初は村の皆に警告し用があるならば俺に依頼を出してくれ、暫くすれば移動するかもしれない、と言ったのだがそれを聞かずに村の外に出て行ってしまった者が襲われた、と言う訳だ。

だから味を占めてしまった。積極的に人間を襲う様になる前に討伐する必要が出て来たから討伐したのだ。

 

クルペッコだって、別にこちらに興味を示さないし襲って来るでも無いし、餌を求めて移動したりもする可能性もあるしで依頼で出るならば近づき過ぎずに通り過ぎれば良いし、何かあった場合に備えて注意やら警戒をしておけば良かった程度だったのだ。

 

 

事が起きてからすぐに村長の名前で討伐依頼が出されて、受注した俺は準備を整え、討伐。

無事討伐出来たし、素材も手に入った。だがやはりどうも様子がおかしかった。

なんとなく、モンスターだけじゃ無い、辺り一帯がおかしい。

 

説明出来ないが、勘がおかしい、変だと告げていた。

 

 

それが、一ヶ月前の出来事。

 

最近、森や山の雰囲気がガラッと変わった。

普段ならばその辺を走り回っているケルビやアプトノス、モスを全く見掛けていない。

 

一頭もだ。

それに、いつもならやかましいぐらいいるはずのジャギィなんかも見ない。

 

今日も、異変が続いているから装備やアイテムは万全にして採取クエストと、ついでに自分用にマヒダケや毒テングダケなども採取して投げナイフなどを作ってしまおうと思っていた。

 

「生物が、何も居ない……」

 

そう声を漏らすほど、生物の気配が感じられず、辺りは静まり返っている。

不気味だ。

クエスト用の採取は終わった。早めに、自分用の必要なものを採取して帰ろう。

 

そう思って、確かあの辺りにマヒダケが生えていたな、と考えて辺りを警戒しながら歩く。

 

「ご主人、ご主人」

 

「どうした?」

 

「なんか、凄く嫌な予感がするニャ……。今日はもう引き返すニャ……」

 

そう声を掛けて来るのは、オトモアイルーのイチジク。

ハンター養成所を卒業し、晴れてハンターデビューをしたすぐ後の事。

 

お前なら絶対成功するから街に残れ、と言って惜しんでくれた教官に、

 

「村に戻ってハンターをすると決めたは良いが、流石に完全なソロは危険だ、悪い事は言わないからオトモを雇え」

 

とあのクッソ厳しい鬼教官に忠告されてオトモを雇う事にしたのだ。

 

まぁ、教官も教官でかなりの実力者だったらしいから言っている事は正しいのだろう。

実際、イチジクに助けて貰った場面は多いし今までの大型モンスター討伐も俺一人では成し遂げられなかったに違いない。

上手いこと陽動に動いてくれたりしてくれるし、がっさごっそと共に採取クエストをやってくれる。

まぁ、マタタビを見つけたらそればかり持って来てしまうのだが、それはもうアイルーの宿命なのだろうか。

 

イチジクが言う通り、確かに本当に辺りの雰囲気がおかしい。

ここまで小型モンスターどころか、他の虫などもまるで見掛けないなんてあり得ない。異常事態も良いところだろう。

 

「イチジク、このまま少しだけ、調査しよう。あまりにもおかしい」

 

「そんニャぁ……」

 

イチジクは、普段ならばここまで怯えることはない。

寧ろ、結構勇敢な方だろう。

 

実際クルペッコもアオアシラにも武器を片手に突撃して行って、一撃を喰らわせるほどだ。

そして周りをウロチョロ走り、攻撃するのだから。

 

だが今日はどうだ?辺りをキョロキョロと見回して、最大限に警戒心を剥き出しにしている。

それどころか怯えてすらいる。

 

アイルーは、森の中などモンスターが闊歩する様な場所で暮らしている事もあるから俺達人間なんかよりもずっと、モンスターの脅威などのそう言った危険などに敏感だ。

でなければ生き残れないからだ。

 

そんなイチジクも例に漏れず、危険には敏感だ。

そのイチジクがここまで怯えて、警戒しているのだから本当に何かあるんだろう。

だがそれを放置しておくわけにはいかない。このまま放置して後々になって取り返しが付かない事になったらそれこそ大事だ。

 

もし、俺の手に余る様なモンスターが出て来たら、街の方に討伐依頼を出しに行かないとならない。

ある程度の飛竜種ぐらいならまだ何とかなるだろうが、それこそティガレックスなどが出て来たら手も足も出ないだろう。

 

罠も大タル爆弾も用意して、徹底的に周到に準備して勝てるかどうか。

最悪、イチジクに村まで走ってもらって街に応援を呼びに行って貰うしかない。

それまで持ち堪えられるかどうか、だが……。

 

 

「すまんな、イチジク。だがハンターとして放っておく訳には行かない」

 

「……分かったニャ。しょうがないからついて行ってあげるニャ。帰ったらマタタビを多めに貰うニャ」

 

「あぁ、分かった」

 

森の中に入り、辺りを調査する。

すると、浅いところから幾らかもう少し奥に踏み込んだ辺りに見た事がない馬鹿でかい足跡が幾つもあった。

 

リオレウスでも、リオレイアでもない。

何故なら四足歩行で歩いているからだ。

 

「ご主人……」

 

「あぁ、多分、ティガレックスかナルガクルガだろう。普通ならもっとずっとずっと奥に行かないと出てこない筈なのに、何でこんな浅い場所にまで……」

 

「でも、この足跡古いニャ。かなり前ってほどでもニャいけど、それなりに時間が経ってるニャ」

 

「あぁ、多分、何かしらの異変があって逃げたか何かの後だろう。他のモンスターと戦った痕跡も無いし、多分逃げたんだろう」

 

「でも、何から逃げたんだニャ?この辺りでティガレックスが逃げるほどのモンスターニャンて居ないニャ」

 

「……ティガレックスはイビルジョー相手でも、襲い掛かるからな。相当のモンスターなのかもしれない」

 

ティガレックスが、逃げ出すほどの存在はそう多くない。

寧ろかなり少ないだろう。ティガレックスは物凄く獰猛で好戦的、とにかく視界に入ったモンスターとすぐに争い始める。そんなティガレックスが、戦いもせずに奥地から逃げ出してくるなんてあり得ない。

 

今のところ、ティガレックスは辺りに居ない様だし他のモンスターも同様だと考えるべきだろう。

 

「……このまま、大型モンスターが居ないことに賭けてもっと奥にまで進もう。流石にティガレックスどころか、それ以外のモンスターも全て逃げ出すなんて異常事態も良いところだ」

 

「了解ニャ。もうここまで来たらヤケクソニャ」

 

「ありがとう」

 

ぽん、と胸を張って叩くイチジクの頭を撫でる。

 

 

一度村に戻り装備を整え再び出向く。

昨日よりずっと一層奥に脚を進める。

二日ほど、奥へ奥へ進んだ。

 

村の皆には予め、調査に行くから数日は帰らないかもしれない、と言ってある。

やはりこの辺り一帯にも、まるで生き物の気配はない。

 

寧ろ浅いところよりも遥かに静まり返っている。酷いなんてもんじゃない。

 

途中、鉱脈が幾つかあったから採掘してみるとグラシスメタルなど何種類かの希少な鉱石を幾らか手に入れる事ができた。

もし帰れたら、これらを使って武器や防具を強化しよう。この異常事態が続くって言うのなら、幾ら強力な武器防具があっても足りない。

既に山を超えているから、普段ならリオレウスなんかが飛んでいたりしてもおかしくはない辺りなのだが……。

 

何の生物にも出会わない。

食料などを現地調達出来ないから、携帯食料を多めに持って来て居てよかった。

 

そのまま更に奥へ進んだが、本当に何の生物もいない。

モンスターの足跡などの痕跡はあるにはあるが、どれもこれもかなり前のものだ。

 

「モンスターが一匹もいないニャ……。おかしいニャ……」

 

さて、どうしたものか。

このまま放っておく訳にも行かないし、大型モンスターが尻尾を巻いて逃げ出すほどの何かがいると言うことだ。

実際、辺りの空気というか雰囲気がガラッと変わっている。

 

「原因が分かれば、対処出来るんだがな。くそッ、こんな事ならギルドに調査依頼を出せば良かった」

 

「後悔しても仕方ないにゃ」

 

まさかここまでとは想定して居なかった。

余りにも俺の手に余る。

だがこのまま引き下がっては本当にどうしようも無い事態になりかねない。

最悪、イチジクに情報を持って帰って貰えばギルドがなんとかしてくれる可能性がある。ならば出来る限り情報を集めておかないと。

 

 

 

そして更に三日掛けて山を三つ超えた辺りに差し掛かると、より一層辺りには感じた事の無い重々しい空気が流れて居た。

 

「ご主人、流石にもう引き返そうにゃ……。ここは本当にやばいにゃ……」

 

イチジクは昨日から怯えっぱなしで、頻りに帰ろう、帰ろうと催促して来る。

確かに俺だって怖いし帰りたい。

だが帰って何になる?

 

もうここまで来てしまっては、原因をどうにか突き止めないとならない。

 

「イチジク、すまないがもう少しだけ調査しよう。これは、余りにも異常だ」

 

「うぅ、分かったニャ……」

 

なんとかイチジクを説得し、脚を進める。

すると、木々が大きく折れて薙ぎ倒されている場所に出る。

 

「これは……」

 

「サイズ的に、物凄くデカいモンスターニャ。こんなデカいモンスター、知らないニャ」

 

「……まさか、古龍種か?」

 

「ニャッ!?それは不味いニャ!早く帰ってギルドに報告しにゃいと!」

 

「いや、だが普通ならもっと大きな影響が出ている筈だ。天候を操る古龍種が多いからな……」

 

古龍種は、天候を操るタイプであれば間違い無く辺り一帯が嵐になったりと大きな影響が出る。

だが全くそんな影響は無いし、寧ろ天気はここ数日晴れていて良い方だ。

 

この跡を辿れば、答えに辿り着く筈だ。

 

「イチジク、急いで村に戻って、ギルドに向かって欲しい」

 

「ご主人はどうするニャ?」

 

「このまま、跡を辿って何が起きたのか確かめる」

 

俺に、そう言われたイチジクは危ないニャ、止めた方がいいニャ、一緒に帰るニャ、と騒ぐ。

それをどうにか説得し、村に走らせる。

 

もし俺に何があったとしても、イチジクが情報を伝えてくれればギルドは対応策を練る事が出来るし村の皆も避難出来る。

 

 

 

あぁ、遺書でも認めてくれば良かった。

 

 

 

そう後悔しつつ、跡を辿る。

古龍種にしても、随分と大きいな……。

尤も古龍種についてはゲームでも不明な点が多かったし詳しくないから、もし本当に古龍種だとしたら手立てなんて無い。精々殺されるのがオチだろう。

 

あぁ、クソ。怖くて仕方が無い。

この大きな跡を作った存在から発せられる威圧感がとんでもない。

歯がカチカチと音を立ててるし、全身から嫌な汗が噴き出ている。おまけに身体が震えて足下が覚束無いし視界も良く無い。

それでも、必死に耐えて前に進む。

 

元気ドリンコや強走薬を飲んだりして取り敢えず思い付く限りの方法で身体をドーピングさせ、保たせる。

薙ぎ倒された木々を乗り越えて、無理矢理耕された土の上を歩く。

 

どれほど歩いただろうか。

僅か数分程度の様な気もするし、数十分以上歩いた様な気もする。恐怖やらドーピングやらで身体の感覚が麻痺している。

 

そして、更に歩き続けると、所々に血の様なものがあちこちに飛び散っている。

思えば、今までも血痕があったりしていた。

 

その血痕は段々と増えて、そして新しいものになっていく。

固まり方や周囲の環境の変化などを考えると、この木々が薙ぎ倒されたのは丁度異変が起き始めた頃のものと考えて間違い無い。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

ずっと休憩もせずに持ち込んだ強走薬を使ってスタミナを無理矢理引き上げて歩き続けているから、息苦しい。

すると、遠目に何か大きな物体があるのを視認した。

一度立ち止まり、双眼鏡を覗くとそこには赤黒い山のような何かだった。いや、あの赤黒いのはおそらく血だろう。それが固まり変色しそう見えるだけだ。

 

それがなんなのか、はっきりとは分からないが恐らく今回の騒動の元凶であると考えていいだろう。

 

 

再び、歩を進める。

少し歩くと、そのナニカの全容が見えてきた。

 

血で元の面影はまるで無いが、恐らく体表は体毛と甲殻で覆われているらしい。色は白だろう。

しかし全身傷だらけで血塗れで、やはり元の面影はまるで無い。一応、出血は止まっているらしいが息絶えているのか、ピクリとも動かない。

 

グルリ、と警戒しつつ全体を見て回って見ると頭部に四本の角が生えている。

 

まさか、ミラルーツか……!?

 

いやまさか、ゲームのようにこの世界は古龍自体の存在が珍しくそうお目に掛かれない。もし現れたとなったらどの古龍であろうと各地のギルドに話が行って大騒ぎになる。

俺の村にも行商人がその情報をハンターである俺の元に態々話しに来るほどだ。

古龍は、その脅威度が他のモンスターの比じゃない。下手をすると一国が滅びかねないほどの存在だ。

 

しかしながら、そう言った記述は無い。

と言うのも、古龍と言う存在は知能が驚くほど高く、恐らくこの世界においても少なくとも文献に記されている限りでは、シュレイド王国がミラボレアスに滅ぼされた程度しか無いのではないだろうか。

まぁこれは前世の知識だから知っているだけであって国のトップやハンターズギルドのギルドマスタークラスやギルドナイト達の極々限られた人間しか知らない事なので普通は知らない。

 

もし知っていると知られれば、俺は情報流出によって混乱を招き兼ねない代物だから最悪この世から消されるだろう。

運が良ければ、信じる人間は少ない、と見逃して貰えるかもしれない。まぁその場合も街に移住させられて監視付きの生活を送る事になるだろうが。

 

話を戻そう。

もし、仮にここに横たわっている龍がかのミラルーツであるのだとすれば、ただ事ではない。

ミラルーツ、正確にはミラボレアスの亜種らしいが、ともかくそれほどの、禁忌とすらされているレベルの古龍がここまでの傷を負って地面に身体を沈めているのだ。

 

確かにミラルーツが死んでいようといまいと此処に居る事も大問題だが、それよりもこのミラルーツに傷を付けた存在の方が問題だ。

単純に考えただけでも、同じ禁忌とされる古龍種のミラボレアス、ミラバルカン、アルバトリオン、グラン・ミラオスぐらいなものだろう。

 

となるとこの中のどれかの存在が、このミラルーツと何かしらの理由で戦い負かして追いやったのだ。

最悪、トドメを刺す為にこの辺りにその存在が来るかもしれない。

 

ミラルーツが死んでいるのならば問題無い。

だが生きているミラボレアスが来たらどうなるか。少なくとも対抗手段は無いに等しい。

ハンターズギルドの精鋭中の精鋭を世界中から掻き集めても勝つ事は難しい。

 

ゲームでは倒せるが、現実ではそうもいかない。

 

しかし、どうしたものか。

このままここに居ても巻き添え喰らってあの世行き、ミラルーツがまだ生きているとしたらそれもそれであの世行き。

このままここを離れてギルドに駆け込んでも、最悪あの世行き。

 

どうやっても、死ぬ、もしくは殺される確率が九割九分九厘と言ったところだろう。

 

ともかくミラルーツの生死を確認しよう。

頭の辺りに歩いて行き、生きているか否かを確認するべく近付く。

しかし、古龍の生死なんてどうやって確認すれば良いのだろうか。

 

人間の様に脈を測ってみる?血管がどこか分からないから却下。

 

息をしているか確かめる?

いや、もし生きていたとしたらパクリと行かれて終わりだ。まぁこれだけ近寄っているのだから今更だが。

 

ミラルーツであろう龍を、ペタペタと触り確認するが全く分からない。

……なんだろう、もうどうせ死ぬ未来しか無いのだからと腹を括った、と言うより自暴自棄になっているな。

 

さて、どうしたものか。

適当に腰掛けて考えるが何も思い浮かばない。

 

「取り敢えず、腹減ったな……」

 

声を漏らして、空腹を確認するとゴソゴソと荷物を漁り携帯食料と水筒を取り出す。

他には干し肉とジャンボパン、ココットライスを持って来た。

携帯食料は、正直食べ続けると飽きるしあまり美味しく無いしでそれだけを食べ続けるのは辛い。

だから大抵の場合は他に何か、別の食材、保存が効いたり焼いたりすれば簡単に食べられるものを持ち込むのだ。

俺の場合は大体ジャンボパンとココットライスを持ち込んで、他の食材は現地調達が主だ。

探せば幾らでも食べる事が出来るものはあるからな。

 

携帯食料は、なんと言えばいいのか。前世で言うところのレーションの様なものだ。

一食分が纏められており何だかよく分からない物体の食い物がパラフィン紙に似た紙で包まれている。

 

今回の調査は長くなりそうだったから、自分で干し肉とジャンボパン、ココットライスを五食分ほどずつ他の必要となる簡易テントなどと共に荷物袋に突っ込んで来た。

干し肉は塊肉だからそれなりに大きい。

狩りと言う激しい運動をする為に、塩分補給目的でかなり塩は多めにしてあるしハーブなんかも一緒に漬け込んでいるから味付けは必要無い。

 

 

 

だからそれを使って適当に何か作ろう。

調味料はイチジクが運んでいたから、無いがまぁ構わないか。干し肉を焼いたり炒めたりすれば油が出るしそれで済ませよう。

ココットライスに虫が付くのを防ぐ為に唐辛子を放り込んであるからそれも使おう。どうせここで食い切ってしまうつもりだしな。

 

最後の晩餐になるかもしれないのだから少しばかり贅沢しても構わんだろう。

あとは周辺を探して、特産キノコとか食べられるものを見つければいい。

運良く胡椒などが見つかれば尚良いんだがそう上手くはいかないか。

 

この世界の食べ物は前世と比べると、訳が分からなくなるぐらい生命力に溢れていて遥かに栄養価が高い。正直、前世の食糧危機なんて一発で解決すんじゃないか、と言うぐらい。

正直、豆系の食材は放っておくと辺り一面を覆い尽くさんばかりに成長するし。

村でもそれらの食材、作物は育てているがまぁ、管理が大変だ。毎日毎日その手入れをしている両親や村の人達には頭が下がる。

 

更には組み合わせによってその栄養価が阿呆なんじゃないかと思うぐらいに跳ね上がる。

しかも何故か筋力が上がったり色々な効果があるのだ。無茶苦茶も良いところなのだがそれがこの世界だ。

 

前世で考えると、数日食べただけで体重激増しそうなものだ。

ともかく、携帯食料はそんな栄養価の高い食材をより効率良く取れる様にと生み出されたものだ。ハンターは消費カロリーが凄まじい。食料の現地調達が可能な場合はそれを食えばいいが、生肉を焼いている暇なんて無い。だから大体の場合は携帯食料で済ませるのが普通だ。

 

キャンプのある場所などであれば、キャンプで肉を焼いたりとかあるが狩場を走り回ってモンスターを探さなければならないから焼く時間も出来れば目標モンスターの捜索に時間を使いたいのだ。

 

しかし今回は時間があるから、大したものは作れないが火でも起こして食材を調理して何か拵えよう。

どうせこのミラルーツに威圧されて周りにはなんの生物もモンスターいないから武器も降ろしてしまおう。

剥ぎ取りナイフさえ腰に着けておけば問題無い。

 

辺りを回ってまず最初に薪になりそうな折れた枝や種火を作る為の枯草を集めてくる。

積み上げておいて次に川に出向く。

水筒の中の水を補充する為に、川の水を煮沸消毒して補充するのだ。でなければ渇きで死ぬ。幾ら死ぬ可能性が高いとは言えそれで死ぬのは嫌だ。

 

荷物の中に小さな鍋が入っているから、それを取り出して汲んできた水を鍋に入れておく。

 

そして、地面を少し掘り下げてその辺で拾ってきた手頃な大きさの石で火を起こす場所を囲う。

細い木や太い木はナイフで切り込みなどを入れてささくれ状に皮を剥いたりして火が移りやすい様にしてから置く。

 

そしたらようやく火打ち石を使って、枯草に種火を付けて息を吹く。

 

「アチチッ……」

 

多めの枯草で付けたから勢い良くついて火が大きくなってしまった。

燃えている枯草を放り込み、余った枯草を幾らか入れてその上から細い枝を置いて燃やす。少しして火が大きくなったらさっきささくれ状に表面を剥いた太い枝を何本か入れておいてしばらく燃えるようにする。

薪の数だが辺り一帯に薙ぎ倒された木が沢山あるから薪には困らない。

 

少し火が大きくなったら、適当に拾ってきた枝分かれしている枝を二本、対角に地面に突き刺して股の部分に棒を一本渡す。

そこに鍋を吊るして火に掛ければ煮沸消毒の準備は終わり。

 

さて、あとは干し肉達だ。

他になにか食材が無いか探しに出る。

 

フラフラと探し歩いていると、家主達の居なくなった蜂の巣や特産キノコと呼ばれるキノコがあった。

ハチミツを少しばかり頂戴して、特産キノコを採ってくる。それと山椒があったから干し肉の塩分と共にそれを幾らか頂戴して味付けに使おう。

干し肉は保存を効かせるために塩を擦り込んでいる。それも結構な量を。

だから炒めてキノコの水分が出れば味は付くだろうし、そこに山椒を少し入れば問題無い。

 

ココットライスは、水を煮沸消毒しているから今は炊けないから明日だ。ジャンボパンを焼いて干し肉を炙るなり焼くなりして炒めた特産キノコと一緒に挟んで食べよう。

 

ジャンボパンを綺麗に拭いた剥ぎ取りナイフで切り分け、手頃な長さに切った細い木に刺して反対側を地面に突き刺し、焼く。

 

残りの干し肉と特産キノコだが……。うん、鍋の蓋を使って炒めよう。

 

食材を探している間に煮沸消毒は終わっているし水を冷ますのを待っている間、少しだけなら蓋が無くとも問題無い。

 

火に掛けていた鍋を取って、蓋を火に掛ける。

油なんかは持って来ていないから、干し肉の油を使うべく干し肉をまず適当に剥ぎ取りナイフで手頃な大きさに切り最初に放り込む。ある程度火が通ったら特産キノコを放り込んで更に炒める。

ついでにさっき採った山椒を剥ぎ取りナイフで潰して入れ、唐辛子は刻んで放り込む。

 

混ぜながら少しばかり炒めて火が通ったらジャンボパンに挟んで完成だ。

 

名付けて干し肉とキノコバーガー。

 

少し多めにスライスしたジャンボパンをまた枝に刺して焼く。

こっちにはハチミツを塗ろう。

 

焼き上がったジャンボパンに贅沢にハチミツを塗りたくり。

うん、最後の晩餐にしては寂しいもんだがまぁ携帯食料だけと比べると随分と豪華なものだ。

 

「頂きます」

 

前世からの習慣故か、自然と手を合わせ、声を出す。

まず最初に干し肉とキノコバーガー頬張って。

山椒と唐辛子が良い感じでアクセントになっている。やはり干し肉の塩分がかなり多かったのかしょっぱいがこれもまた、狩場で食べる醍醐味と言うものだろう。

うん、旨い。

 

もしゃもしゃと咀嚼し食べ進めていると。

 

「……?」

 

何やら視線を感じる。

モンスターか!?と思って太刀を引き寄せるが、どうも敵意があるような感じではない。

 

どこから見られているのだろう?

 

恐らくモンスターでは無い。だが一応念の為に太刀を背負い、辺りを見回すが全く見当が付かない。

片手にはバーガーを持っているから随分と奇怪な感じだが、まぁいい。

 

しかしこの場に俺に視線を向ける存在なんているのか?……まさか。

 

と思いミラルーツに顔を向けると、今の今まで閉じていた筈の、綺麗な紅い目がこちらを向いている。

 

「!?」

 

驚いて最後の晩餐を落とすところだった。

いや生きていたのか。てっきり死んでいるものだとばかり思っていたからかなり驚いた。

だが、ミラルーツは襲い掛かるような感じでも無く、ただ此方を見ているだけ。

少しばかりの興味が含まれている様な目だ。

 

いや、どうすればいいんだ……。

 

古龍と見つめ合うなんて多分、俺が初めてじゃないか……?

もしそんな状況の前例があったとしても、当人からすればどうすれば良いのかまるで分からないぞ。

 

と言うか生きていたのか……。

しかしもし仮にトドメを刺そうにも俺の装備ではまず無理だ。傷を付けることすら難しいかもしれない。

どうしたらいいのか。

 

しかし、このミラルーツ、相当深傷を負っているのか視線に覇気は無く、少し胸が上下しているがそれも弱々しい。

どうしたものか、と考える。

 

……ハンターは、自然との調停者、か。

 

別に此方に敵意が無いのなら態々害する理由も無い。

どうせ生きて帰っても希望は少ないからな、死ぬまで好きにやらせて貰おう。

 

手早くバーガーとハチミツパンを食べ終え、ご馳走様でしたと言いながら手を合わせて、手を拭き立ち上がる。

ポーチから回復薬グレートを全部取り出して、ミラルーツの眼前に出す。

 

その中から適当に選んで飲み干し毒では無いと示す。

まぁ古龍に毒が効くかは別問題だが、疑われないように、と言う事だ。

 

それを、残りの瓶の回復薬グレートをミラルーツの口に突っ込んで流し込む。

効くかは分からないが無いよりはマシだろう。

 

それを全部流し込み、回復薬にハチミツを混ぜて回復薬グレートを作ると次は傷口に向かう。

手拭いをさっき煮沸消毒した水で、濡らし傷口を拭く。

痛いのか身じろぎするが動くのも億劫らしく、力無く横たわったまま。

 

デカい傷口が沢山あるから何度も往復して水を沸かし、拭うを繰り返す。

陽は既に傾いて、空は茜色に染まっている。

焚火の火を分けてミラルーツを囲む様に焚火を新たに複数作っておく。

あちらこちらから薪を大量に集めて焼べながらの作業だ。

 

数時間掛けて大小全ての傷口を拭い終わったら、回復薬グレートを傷口に流し込む。

 

古龍の手当どころか竜の手当すらした事が無いからやり方なんて分からない。とにかくやれるだけやってみようの精神だ。

無茶苦茶だろうがやらないよりはマシだ。

 

足りないからあちこちから薬草やアオキノコ、ハチミツを採ってきて、回復薬を作りハチミツを混ぜてグレートを作る。

それを塗りたくって、また採りに行き、を繰り返す。

 

竜達は、傷を負った時どうやら薬草などを食べたり塗ったりして傷の回復を促しているらしい。肉食であろうと無かろうと薬草などの効力は知っているらしい。

調査報告で記されており、養成所でも習う事だ。

それを手掛かりに目的のモンスターを探す事もあるからだ。

 

だから、確証は無いが古龍にも効くんじゃないかと賭けに出てこうして手当しているのだ。

まぁ、古龍の生命力なら手当せずとも回復するかもしれないがどうせ死ぬならば、やはり好きにやらせて貰おう。

別にこのミラルーツも、此方に敵意を向けるでも無く、ただされるがままだ。

 

やはり出血自体は止まっているものの、かなり大量の血を失ったらしい。確か、増血剤も幾つか持ち込んでいたから与えてみるか。

 

この巨体では、雀の涙ぐらいにしかならないだろうが無いよりはいい。効果があればの話だが……。

 

一晩、そうして陽が登り夜が明ける。

処置は終わった。

 

気が付くと腹が減ったと鳴っている。

 

そうだな、朝はココットライスを炊こう。特産キノコと干し肉を混ぜ込んで炊き込みご飯にしても良いし分けて食べるのもありだ。

そしたら、特産キノコを調達して来なければな。

 

 

 

 

ココットライスを炊いて、同じように干し肉と特産キノコ、山椒と唐辛子の炒め物で朝食を摂る。

箸はそこらの枝をナイフで削って作れば良い。使い終わったら薪として焚べてしまえばいいからな。

 

ミラルーツの傷の具合を見てみると、俺の手当が効いたのか、それとも古龍本来の治癒能力からなのか、治り始めている。

この分なら数日で完治するぐらいだ。

 

イチジクが村経由で街に向かったならば、往復で十二日は掛かる。どれだけ急いだとしても十日は掛かるだろうしそこからギルドナイトや腕利きのハンターを集めるのにも時間が掛かるだろうから最低でも二週間の余裕はある。このミラルーツが完治し、この場から飛び去る事は十分に可能だ。

到着した頃にはミラルーツは遥か遠くだろうから、調査も何も無くなるからな。

 

また、朝から傷口に昨日よりは回復薬グレートの量を減らして塗る。

ミラルーツは、起きた時から俺を見ているだけの、なされるがままで抵抗すらしない。ミラルーツのその表情を横目に、大きい傷口を優先して回復薬グレートをかけて塗る。

回復薬は、完全な液体なのだがグレートになるとハチミツを混ぜていると言うこともあって粘度がある。それを利用して、流れ落ちないようにハチミツの量を多めに調合して粘度高めにするのだ。

ハチミツを増やした分は薬草とアオキノコを調合比がちゃんと比例するようにすれば問題無い。水の分量を減らしただけだから効果自体には何ら問題はない。

ただ、本来は水を多めに入れて飲みやすいように少しでも粘度を下げるのだ。

狩りの最中にそんな粘度の高いものを飲んだら、走り回ったりしているのだから確実に咽せる。

 

 

三日目に入ると小さい傷は殆ど治ってしまい、残りは大きな傷だけとなった。

その大きな傷も、治り掛けていてこのままであればあと二日程度で傷は治るだろう。問題は失った分の血液量をどうやって取り戻すか、だ。

増血剤は行商人から購入したもので、俺自身が調合したわけじゃない。

調合素材さえあれば作れなくもないが、この辺りを探しても見つからなかった。

 

仕方が無いから自然と血液が作られるのを待つしかない。

アプトノスなどが居れば狩ってその肉やレバーなどを食わせる事も出来たんだがこのミラルーツ本人?本龍のお陰でこの辺り一帯に居る生物は俺とコイツだけだからな。

俺は俺で、携帯食料を主に食べながら持ち込んだジャンボパンとココットライスを昼食なり夕食に挟んで食べている。

この分なら携帯食料だけで十日は余裕で持つだろう。

辺りには特産キノコなどがまだまだ生えているからそれで腹を満たす事も十分に可能だし。

 

 

 

 

それから更に五日が経ち八日目。

恐らく、調査隊の編成が完了していれば既にこちらに向かって来ていてもおかしくはない頃だ。

ミラルーツは相変わらず、こちらを見るばかりで身じろぎ一つせずになされるがままだ。

 

 

 

 

十日目。

傷口は完全に塞がっている。

だと言うのにコイツはその場から動かない。角が折れているからもしかしたらそれが原因かもしれない。だが流石に角の治し方なんて知るわけも無いから見ているだけだ。

昨日から辺りを探索して植生や、痕跡などを調べて生息しているモンスターなどを記録しておく。こうしておくことでミラルーツが去った後に環境が元に戻った後に戻ってきたモンスター達を照らし合わせるのだ。

 

調査し書き込んだ手帳に該当しない大型モンスターが居たりすれば、新しい縄張り争いになる可能性も高いから注意しておくのだ。まぁ、そうなっては俺はこんな所にまでは来れないから浅いところに追いやられたモンスターを見て察する事しか出来ないのだが。

 

この辺りにはリオレウスやリオレイアの他にティガレックスなどの飛竜種など結構な種類のモンスターが棲息していたらしかった。

それを逐一ハンターノートとは別の自分の手帳に書き込んで記しておく。

 

 

 

 

十一日目。

朝から辺りを見て周り、植生なども調べる。

昼になって戻り、昼食の支度をしているとミラルーツが動き出した。

 

あぁ、ここで死ぬのか、と思ったが襲いかかって来る様子は微塵も感じられずただ身体を起こして座っているだけだ。

見上げる程にデカいし、たった少しだけの動作でも後ろの方の薙ぎ倒されている木々がバキバキバキバキッッ!!と大きな音を立てる。

 

しかし俺はどうすれば良いんだ。

このままでいる訳にもいかないし、かと言ってどうする事も出来ない。

 

『おい』

 

「!?」

 

いきなり話しかけられた。

しかも目の前のミラルーツに。いや龍って喋れるのか。

これは驚いた。もし王立書士隊に報告すれば大騒ぎになるだろう。いや、まず真っ先に馬鹿にされるか。その後に幻覚を見始めたと騒ぎになると言う流れだろう。

 

『ふむ、聞こえているはずだが……、言葉が変わったのか?』

 

何やら返答を返さずに驚いているとそんなことを言い始めた。

 

「あ、え、いや、分かるが……。喋れるのか……?」

 

『我ら龍は永い永い時を生きれば他の生物の言葉を解する事も、発する事も出来る様になる。そこらの雑魚共は無理だがな』

 

「そうなのか……」

 

『して、貴様は何故傷の手当を施し、私を助けた?』

 

ミラルーツは頭を俺の高さにまで下げ、綺麗な瞳で此方を覗き込んで聞いてくる。

 

『私は知っているぞ。我らが貴様ら人間にとって災厄だと言うことを。怖れられていると言うことを。そして貴様の様な生業の人間からすれば私から得られる血肉は万金に値する事を。だのにトドメを刺すわけでもなく、何故助けた?』

 

ミラルーツは、そう聞いてくる。

声に抑揚は無いが、だからと言って機嫌が悪いとかでは無いらしい。威厳は凄いが。

 

「分からない」

 

『分からないとな?』

 

「あぁ。確かにお前達は我々からすれば怖れる存在だ。禁忌だと言われ、存在自体を公にされていない存在だ。俺は、多分もし生きて帰れたとしても殺されるか、一生誰かに見張られながら過ごす事になるだろう。それならば、死ぬ前ぐらいは自分の好きな様に満足が行く様に生きたかった。それに、俺ではお前を殺すどころか傷一つ付ける事も叶わないだろうさ」

 

『……』

 

緊張で何を言っているのか分からないが、兎に角思っていたことを正直に打ち明ける。どうせ嘘を吐いてもバレそうだから。

 

『人間は欲深い。何度同じ過ちを繰り返しても決して学ぼうとしない。だからあの時の様に群一つを滅ぼされるのだ』

 

……まさかとは思うが、シュレイド王国の事だろうか。

それってもう千年以上も前の話だと思うんだが、そうするとこのミラルーツはそれよりもずっと歳を重ねていると言う事だろうか。

 

『馬鹿な人間は、愚かにも自分達の力を過信し、我らの仲間に挑み、そして怒りを買い、滅ぼされた。だが、貴様は違うようだ。どうにも、自然を敬っている節がある。火を起こす時も私が薙ぎ倒した、枯れる運命しか無い木々からしか枝葉を取ってこなかった。食事を作る際も、必要以上は採らなかった。それと、食前と食後に感謝を伝えている。他の人間でやっているのを見た事はない。何時も無駄に殺し、食い散らかし、その癖粗末に扱い、他の生物を虐げ続けている。人間にも良いところはある。だがあまりにも欠点が多過ぎる』

 

『だが貴様は、そうしなかった』

 

『私の周りを動き回り、傷を手当し、血を増やす薬を与えた。目の前で旨そうなものを一人で食っていたのは頂けないがまぁ許そう』

 

食べたかったのか……。

ミラルーツは、そう語りながら俺に鼻先を近付けて言った。

 

『命を救われたのならば、相応の恩を返さねばならない。だが命に値するものなど思い付かぬ。何か望みはあるか?』

 

そう問われるが、と言われても死を覚悟していただけに何も思い浮かばない。

村に帰れたとしても、派遣されたハンター達に連行されるのがオチだろうし、今ここで何かを手に入れたとしても何もならないのが正直なところだろう。

 

……だが、最後に一つだけ願いがある。

もし死ぬのだとしたら両親に、何時も気にかけてくれた村の皆や村長、師匠に一言挨拶しておきたい。

 

「死ぬ前に自分の住んでいる所に帰り、両親達にありがとう、と一言言っておきたい」

 

『……それは恩返しの礼ではない。他に何もないのか』

 

「無い。思い付かない」

 

『ふぅむ……。しかしそれが礼だとしては余りにも不相応。それぐらいならば無償で叶えてやろう。今お前を害する存在が無いのは私が居るからだ。だが私がここを離れたら弱いお前はすぐに餌食になるだろう』

 

「そんな事分かっている」

 

『貴様の住処の近くにまで送り届けてやろう。何、これは礼の内には入らん』

 

「ありがとう」

 

ミラルーツは、どうやら俺を送ってくれるらしい。

 

『早く持ち物を纏めろ。今すぐに行くぞ』

 

「あぁ、分かった」

 

火事にならぬように焚火の後始末をする。

水を掛けるのも良いが、川から汲んでくるのが面倒だから、土をかける。こうすれば煙も出ずに火を消せる。酸素が無ければ火は燃えることができない。

土を使えば必要な酸素を遮ることが出来る。

土をかけて火を消す事で、煙が出るのを防ぐ事も出来る。

 

もし森が火災で燃え尽きたとなれば、それだけモンスターの棲息地が減る事になる。

それを防ぐべく火の扱いには注意を払わねばならない。

 

 

焚き火の跡全てに土を被せ、火の後始末をしっかりと確認し荷物をパッパと纏めて担ぐ。

太刀も背負って準備は終わった。

 

『行けるな?』

 

「あぁ」

 

『ならば、掴むぞ』

 

そう言われて、鋭い爪の生えた前脚で掴まれる。

どうやら少しばかり期待していた背中に乗せるとかそう言うのでは無いらしい。

 

しっかりと潰されない程度に握られ、ミラルーツは飛び上がる。

山よりも高く、雲にほど近い高さで飛び、ほんの数分で村が見えてくる。

 

「あぁ、あそこの森に降ろしてくれ」

 

『分かった』

 

村の近くの、よく採取や依頼されたモンスターの討伐をする森に降ろしてもらう。

 

「ありがとう。助かった」

 

『何、先程も言ったがこれは礼には入らん。後日、また礼をしに出向く』

 

ミラルーツはそう言うが、間違い無く大騒ぎになるだろうからやめてくれ、と言いたいが有無を言わさぬ雰囲気だから仕方が無い。その時は適当に済ませてしまおう。

 

『貴様は、あの住処に常に居るのか?』

 

「常にいる訳ではないし、これからは分からない」

 

『ふむ。ならば……』

 

そう言ってミラルーツは自分の爪で少し皮膚を刺し血を出す。

俺からすれば物凄い量の血なのだが、ミラルーツからすれば微々たるものなのだろう。

 

『これを飲め』

 

「何?」

 

『私の血だ。我らは血を子に飲ませ居場所を探る。お前がこれを飲めば、すぐに居場所が分かる』

 

「だが、飲んでも大丈夫なのか?」

 

『我らの血は我らの意思だ。故に許しなく飲めば死ぬが私が許しているのだから問題無い』

 

さらっと恐ろしいことを言ったが、まぁそう言うことなら……。

 

「血の匂いだな……」

 

『当たり前だ。早く飲め』

 

促されるまま、血を飲む。

 

『これで、お前の居場所が分かる様になった。ではな。また礼をしに来るからそのつもりでいろ』

 

「あぁ」

 

そう言うと、ミラルーツは飛び去っていく。

それを呆然と見つめて、遥か遠くに姿が見えなくなるまで見送ってから。

 

「……帰るか」

 

取り敢えず、家に帰るために歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの事だ。

村に到着すると、両親や村の人達が大騒ぎで出迎えてくれた。

どうやらイチジクの話で死んだものだと思っていたらしい。だが救助隊が派遣され生死が確認されるまでは、と祈っていてくれたそうだ。

 

その翌日。

イチジクが古龍観測所の職員や王立古生物書士隊の調査隊及び俺の救助を目的としたギルドナイト四名、腕利きのハンターランクが10を超えているハンターを三名連れて来てくれた。

 

村に俺が戻っている事にイチジクは驚きつつも、

 

「あれッ!?ご主人なんでここに居るニャ!?」

 

生きていることを喜んで飛びついて来てくれた。

久々に見るイチジクは痩せていたから取り敢えず飯を食え、と食事をする事に。

 

ギルドナイト達には、嘘と本当の事を混ぜて話した。

嘘をついてもバレると思ったからだ。

 

出現した古龍の名前などは分からないとした上で周辺調査の結果等も含め古龍の外見的特徴を伝える。

周辺の状況もだ。

 

すると、古龍観測所の職員と書士隊の人間、ギルドナイトの一人が該当する古龍に思い当たる節があったのか血相を変えていた。

他のハンター三人は全く分からないようであったがギルドナイトにこの事は絶対に誰にも話してはならない、ときつく口止めされるとことの重大さは伝わったらしく頷いていた。

 

そして俺だが。

案の定この地方のハンターズギルド本部に連れて行かれることとなった。

何せ禁忌の存在とされるミラボレアスよりも存在確認が取れていないミラルーツに接触し、あまつさえ生きて帰ってきたのだ。

色々と聞きたい事が沢山あるのだろう。

 

ギルドマスターやギルドナイトの長までもが現れ、王立学術院や王立古生物書士隊の隊長、古龍観測所、龍歴院だったりと様々な人間や竜人がひっきりなしに俺の元に現れては同じ様なことを聞いてくる。

その度に一々最初から説明しなければならないのだ。はっきり言って面倒極まりない。

 

それらの質問を終えたあと、俺はギルドマスターや書士隊の隊長達から俺が遭遇した存在がどんなものなのかを説明された。

説明された理由は、俺にこの情報を伝え下手に他人に話す事が出来ぬようにする為らしい。もし話したりすれば、お縄に付かなければならない、とか色々言われたが。

まぁミラボレアスやミラルーツに関する情報は知っていたので驚く振りをしただけだったが。

 

結局、五日間も質問の嵐を受けた挙句軟禁される事に。

しかも監視付き。まぁ用意された部屋が驚くほどに豪華で、頼めばなんでも揃えてくれるらしいが、それでも暇だ。

今現在、俺の処遇を決めている最中で、殺したりはしないとの事。

恐らく、ハンター稼業を続ける事も出来るだろう、と言われたが村に帰る事が出来るかは分からない、だそうだ。

下手をするとあの地域一帯が立入禁止区域に指定される可能性が高く、もし村があの場所に存続し俺が帰れるとしても、古龍観測所など各研究機関が出張所を置き、なんらかの形でハンターズギルドも集会所を置く事になるだろう、と言っていた。

 

 

 

 

 

一応装備などは持って来ているからクエストを受けようと思えば受けられるのだが、それは許されず。

村の方はあの三人のハンターが駐留しているので心配無いとのことだから問題無いだろう。

 

そして軟禁生活から二週間が経った時。

外が大騒ぎなんてもんじゃないぐらいに騒がしくなり始めた。

窓の外を見ると住人達が取るものも取らず大急ぎで避難させられ、ハンターの中でも腕利き中の腕利きが集められ、ギルドナイト達までもが臨戦態勢。

何事か?と首を傾げる。

 

ここまで仰々しくなると言う事は、間違い無く古龍種が関係している。でなければこんな、ギルドナイトまで完全武装の臨戦態勢になんてならないからだ。

 

そして暫く窓を覗いてみると遠くの方に大きな空飛ぶ影が見える。

太陽の光に反射して、光るそれはどこか見覚えがある姿形をしている。

 

……まさか。

 

そのまさかだった。

あの時、俺が助けたミラルーツが、俺を探してここにやって来たのだ。

 

「お前、あの古龍に何をした!?」

 

部屋に駆け込んできたギルドナイトやギルドマスターに怒鳴られながら問い詰められたが、まさか大怪我をしていたので手当しました、礼をするから後々出向くと言っていた、なんて言えるわけもなく知らないの一点張りで無理矢理押し通す。

 

広場に大きな音と共に降り立ったミラルーツは、キョロキョロと首を振り俺を見つけるとそのままのしのしと二足歩行で歩いてくる。

 

『恩を返しに来たぞ』

 

そう言って出てこい、と催促する。

周りの皆は、まさか龍が喋るだなんて思っても居なかったらしく固まっている。

外に出て良いか、と聞いてもギルドマスター達は生返事を返すばかりで致し方無くまともな返答が返って来る前に外に出る。

 

『願いが何も無いと言ったな』

 

「あ、あぁ」

 

『命を助けられ、その助けられた命と釣り合うほどの礼は、どうも思い付かなんだ。そこでだ』

 

ミラルーツは、一拍置くと何故か縮み始める。

驚いていると、何やら人の形になり始める。

 

「ふむ、久方ぶりだから心配だったが問題無さそうだ」

 

「人に、なれるのか」

 

「まぁ、お前達人間が古龍と呼ぶ龍の中でも特に永き時を生き、知恵と力を蓄えた龍のみしか出来ぬがな」

 

と話すミラルーツは、人の姿になった。

目の前に立つミラルーツは、長身白髪、紅い瞳の美女となり俺の目の前に立っている。

 

「お前に対する礼だが、やはりどうしても命と同等のものは考え付かなかった。そこでだ。お前が生きている間、私はお前に尽くそうではないか」

 

「はっ?」

 

「人間の言葉に簡単に言い換えるならば、嫁入りと言うーーーーー」

 

「いやいや待ってくれ待ってくれ。何がどうしてそうなる?」

 

「いやなに、我らの家族達とも話したのだがな。命を救われたのならば、命を以って礼を尽くせと言われては確かにその通りだと頷くしかない。我ら龍からすれば人間の一生など瞬き程度の極々短い時間だ。ならば構わんだろう?」

 

「いや、構うも何も、別に俺はまだ嫁も居ないし恋人も居ないから構わないが……、良いのか?」

 

「先程も言ったが我ら龍の一生からすればほんの瞬きほどの短い時間のこと。命を救われたのだから幾ら僅かな時間と言えどもそれぐらいせねばならん」

 

と、二人?で話を進めていると。

 

「待て待て待て!!」

 

「ほう?我らの会話に割り込んでくるとは、良い度胸をしているな」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

俺を事情聴取した、ギルドマスター達が割って入る。

そりゃそうだ、目の前に禁忌の存在であるミラボレアスの、それも亜種が現れたと言うだけで国家存亡の危機なのに、その古龍はまさか自分達の目の前で事情聴取した男と親しげ、かどうかかは分からないが話して嫁入りするだとか言っているのだ。

 

思考が戻って来たならば割って入りたくなるのも当然だろう。

 

そのギルドマスター達を、ギロリと、あぁこれは確かに古龍だと誰もが頷く覇気と、威圧感を出す。

それも、古龍と戦った事もあるであろう、文字通り歴戦と言って差し支えないギルドマスターやギルドナイト達が、威圧され身を引き武器に手を掛ける程度には。

しかし俺はなんともない。

恐らく、威圧する相手を選んでいるのだろう。

 

ここで全く動けなくなるのではないところが凄いが、それ以上は動けないらしい。

ミラルーツがその眼力と覇気でもって、武器を抜けば殺す、と語っているのだ。

 

「すまない、どうか抑えてくれないか。頼む」

 

「仕方が無い、夫の顔を立てて勘弁してやる。だがな」

 

矛を収めた彼女は、一拍置いて。

 

『もし命の恩人に微塵でも手を出してみろ。この世から魂に至るまで我ら龍が塵一つ残さず消し去ってくれる。努努忘れるな』

 

「あ、あぁ、分かった……」

 

そう、低い声で脅す。

人の身になろうと、元の威厳などはそのままだ。

しかも、彼女だけでは無く一族全員で、とも取れるような言葉を発したのだ。

一頭だけでも、国が余裕で滅亡する存在なのに、それが一族総出ともなったら本当に世界終焉だ。

 

そのことを瞬間的に理解した周りの皆は息を呑み、辛うじて返答を返す。

しかし彼女は顰めっ面をしたままで何やら睨んでいる。

 

「気に食わんな」

 

「は?」

 

「その態度だ。自分達が絶対的強者であると、己らが自然を支配していると勘違いをしているその態度が気に食わん。やはりいっそここにいる人間共を間引きしてやろうか」

 

「ひっ!?」

 

彼女の覇気に当てられたハンター達が恐怖で表情を引き攣らせる。

ギルドナイト達も、動かなくなる。

どうやら彼女は、ギルドマスター達の態度が気に食わなかったらしいのか、睨んでいる。

そりゃぁ、彼女からすればどの生物も下の下の下も良いところだろう。だがしかし。

 

「頼む、抑えてくれないか」

 

「……良いだろう。今回は夫に従ってやるが次は無いと思え」

 

一言、頼むと今度こそは本当に矛を収める。

 

そして、辺りに妙な沈黙が流れる。

誰もどうすれば良いのか分からないからだ。俺だって分からない。

 

いや俺だって訳が分からないと言うか、困っているんだぞ。

古龍に嫁入り宣言された挙句、その本人が自分の上司たるギルドマスター達を脅したのだ。

本当にどうすれば良いんだ……。

 

 

 

それからは、まぁ取り敢えず、と言うことで俺とミラルーツ、そしてギルドマスターやギルドナイトの長、龍歴院や書士隊の隊長達で話し合いをすることに。

他のハンター達には徹底した緘口令が敷かれることになり、誰一人としてこの事を口外しないようになった。

ミラルーツ自身は別に我らは自らを隠している訳ではない、と言っていたがその辺にはあまり興味は無いようだ。

 

結局、話し合いで決まったのは。

 

 

俺達に一切干渉しないこと。

ただし俺の意思でハンターを続けさせる事。その限りに至っては干渉を許す。

 

 

などなどまぁ俺よりもミラルーツ本龍が色々と話し合って決めていた。

永い時を生きているだけあって知識も豊富で、何か決まりの穴を突かれるような事にならないように事細かく決め、さらにその後にそんなこと考えたらどうなるか分かるよな?と言わんばかりに(実際言っていたが)、脅していた。

 

途中、

 

「貴様らの浅知恵程度で、騙せるとでも?」

 

なんて脅された当人達は終始姿勢が物理的にも低かった。

なんか、凄く申し訳無い。

 

兎に角、俺の家族や友人知人、関係者を含む人間に下手に関わらなければ手出しはしない、と彼女は言った。

 

それらの話し合いと言うより、一方的なものではあったが終わると早々に解放された。

そしてハンターを続けるか否かを問われ、続けると答えた。

 

ただし、今まで通り自身の村で活動する、とはっきり言っておいた。

何故ならば、ハンターになった目的が村を守る為だからだ。街に出て来てしまっては本末転倒だろう。

 

それに、これだけの騒ぎを起こしたのだからここに居たくないし。

 

 

 

早めに荷物を纏め、村で必要になるであろう様々な作物の種や苗、調味料、ミラルーツ用の服を何着かを買い込んで俺の村に向かう為にギルドが手配してくれた荷馬車に積み込む。

ミラルーツに頼んで飛んで行くことも出来たが皆からどうかそれだけは止めてくれと懇願され、ミラルーツをどうにか説得した。

大層不満そうではあったが渋々納得してくれたのだから良しとしよう。

 

人間の姿となったミラルーツと二人、荷馬車を引くアプトノスの手綱を握りのんびりと村へ帰る。

 

この荷馬車は村にいるハンター三人に帰ってくる為の足として使うように、と言われている。

 

二人並んで腰掛けて無言のまま、幾らか時が過ぎる。

 

「あー、その、まぁ、なんだ……」

 

嫁入りを了承したはいいものの、名前も知らず兎に角自己紹介でもしようかと思うも、なんと切り出せば良いか分からず、あー、だのえー、だの出るばかり。

 

「……自己紹介でも、しないか」

 

「そうだな、思えば互いの名前すら知らぬから他に誰も居ない今は良い機会だろう」

 

「私は、ディアードホス。意味は、継ぐ者」

 

「俺は、フェイ」

 

「そうか、フェイ、宜しくな」

 

「あぁ、こちらこそ宜しく、ディアードホス」

 

「ディアードホスだと呼び辛いだろう?ディアでも、好きに呼んでくれ」

 

「それじゃぁ、ディア」

 

互いに名を名乗り、簡単な自己紹介を済ませる。

それからは、なんだろう、少しばかり気恥ずかしいものだが他愛も無い会話を村まで続けていた。

 

ディアによると、どうやら俺達がミラボレアスやミラルーツ、ミラバルカンと呼んでいる古龍はこの星全体で見れば結構な数が居るらしい。

ディアの一族だけでも数十、世界全体で数えれば数百を数えるそうでディアの一族は最も大きな一族だそうだ。

しかもその一族の長である龍の長女なのだとか。

基本的に長子である龍が一族の長を継ぐらしいのだがディアはまさにそうらしい。

 

そんなディアが俺の所に来ても大丈夫なのか、と聞いてみると

 

「当然快く思わないヤツの方が多い。だが龍にとって何よりも受けた恩を返さない方が最もあってはならない事なのだ。ましてや命を救われた、ともなったらそれこそだ。故に、父も母も一族全てが例え一族の長を継ぐのだとしてもその身を以て礼を尽くせ、と言うのだ」

 

との事らしい。 

なんとも律儀と言うかなんと言うか……。

どうやら龍とは、世間に知られているほど恐ろしい存在では無いらしい。

 

「龍が人間を害するのは、殆どの場合が人間が最初にこちらに危害を加えるからだ。でなければ争いなどしない。人間達がシュレイド城、と呼んでいる場所が滅ぼされたのもそれが原因だ。以前話した通りだがな。龍は、受けた恩は必ず返すがその逆もまた然り」

 

とも言っていた。

本当のことなのだろう。何せ彼女が嘘を吐くとは思えないからだ。

 

 

 

 

色々な事を話して、彼女の性格などが少しは掴めたかな、と思う。

見た目は勿論、絶世の美女と言ってもまるで足りないほどだが、意外とこれは私のもの、となると独占欲を発揮するらしい。

 

「私達龍は、これは自分のものだと思うと、絶対的な独占欲と異常なまでの執着心を出す。そうだな……、シュレイド城に居座っているヤツがいるだろう?あれがいい例だな。だから龍は番になったら生涯を死ぬまで添い遂げる。だからもしフェイ、お前が他の雌と何かしようものなら、どうなるか分からないぞ?」

 

と軽く脅された。

その時、彼女の瞳が龍のものになっていた。どうやら本気らしい。

俺は既に彼女の中では、自分のものという認識だ。いやまぁ、こんな美女に独占欲を発揮されて嫌なわけが無いが。

となると、彼女は俺が死んだ後も一人で生きていくという事なのだろうか? 

 

気になったがどうにも聞けなかった。 

 

村に着くと、皆が勢揃いで出迎えてくれた。

相当心配してくれていたらしく、両親に至っては大号泣し抱き締められた。 

イチジクも置いて行ってしまっていたから、ニャーニャー大泣きしている。

 

皆にすまない、と謝り、そしてディアを紹介する。 

 

「皆、あー、その、俺の嫁さんだ」 

 

「紹介に預かった、フェイの妻のディアードホスだ。呼び辛いだろうからディアで構わない」

 

とまぁ、その後の展開は大体どこでも同じだろう。

まさかギルドナイト達に連行されて行った村唯一のハンターがまさか帰ってきたら嫁さん連れて帰って来たのだからそれはもう大騒ぎになった。 

 

まぁ、最初は監視なんじゃないかと疑っていたが俺がそうではない、と言うとあっさり掌を返して大歓迎、と宴が始まる始末。 

大体どこの村でもそうだが、村人が結婚するとなると宴を開いて村総出で祝い倒す。この村も例外ではない。

 

村長達は、もし街に出るなんて言い始めたらどう引き止めよう、と心配していたらしくこの村に嫁を連れて来たということは、この村に居続けるという事だな?と頻りに喜んでいた。

確かにハンターである俺が居なくなれば村としては死活問題だから仕方が無い。

 

どこから持ち出して来たのか、ディアの為の花嫁衣装まで用意して大急ぎながらも結婚式が執り行われたりもした。

村に残ってくれていたハンター三人も出席してのものだから、ギルドに話は瞬く間に伝わるだろう。

 

下手をすると、龍の花婿、だとか言う伝承がギルドに残るかもしれない。

流石に恥ずかしいのでやめて欲しいが無理難題だろう。そうなったら、当事者として大人しく受け入れよう。 

 

 

 

と言うわけで、龍が俺の元に恩返しと言う事で嫁入りしたのだった。 

 

 

 

 

 

 





他の作品も現在書き進めているので暫くお待ち下さいますよう……。

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追記
感想の返信ですが時間の都合上、チマチマと返す事しか出来ておりません。
しかしながら、感想一つ一つをしっかりと読ませて頂いております。それだけで励みになります。ですので返信が遅くとも、返信が無くとも構わない、と言って頂けるのであれば。

どうか、面白かったなどの短く簡単なものでも作者は飛んで跳ねて喜んで頂戴しますので、感想をお書きください。

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ネタ系の感想にはこちらもネタ系の返信をします。
そうでない、真面目な質問等であれば相応の態度を以て返信させて頂きます。
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