龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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10話

新大陸での生活が始まってから一年。

まだまだ二期団が来る様子は無く、当面の間、数年は一期団を主に増員で偶に送られてくる研究者達のみである。

ハンターは多分、送られてこないであろう。

新大陸に送られるのは誰も彼もが腕の立つ者ばかりだ。

そう言う人間は基本的に引く手数多で向こうの、その人間が属する各町や村々のハンターズギルドは離したがらないだろうからな。

 

自給自足体制も整い、旧大陸からの補給に頼らずとも生きていける様になった。

 

新大陸自体に何か変わりがあったかと聞かれると今のところは無い、と言った感じだろうか。

大自然はいつもと変わらず営みを繰り返し、我が夫婦や調査団もまたそれぞれの営みを繰り返している。

いつも通り皆が各々の役割に務め、日々忙しく、さりとて楽しく動き回っている。

 

あぁ、いや、一つ大きく変わったことがある。

調査団の拠点に「アステラ」と名前が付けられた。

 

意味は輝く星々と同じだけの、いずれはそれ以上の大発見をしよう、と込められている。

 

 

 

それと一つだけ、妙な、と言うかおかしな事はある。

あちこちをディアと歩き回り判明した事があるのだが、この新大陸の龍脈の流れが随分と特異なものになっているらしい。

龍脈はこの星全てを網羅する様に、人間の毛細血管の様に張り巡らされている。

しかしその龍脈は循環こそすれど、どこか一箇所に集まると言う事は無い。

しかしこの新大陸は、と言うかこの辺りの龍脈は詳しい場所は分からないが、どうやらある一点に向かって集まる様な流れをしているらしい。

龍脈を感知することが出来ない俺はディアの話を聞いているしかないから、そうなのか、と頷くしかない。

しかしディアは感知出来るが故、龍脈の流れを感じて、真っ先に放った言葉が気持ちが悪い、だった。

龍脈とはあらゆる生物にとって何よりも重要なものだ。

龍脈が無ければエネルギーが循環せず、土地は枯れ生命の息吹が無くなる。

龍にとってもそれは変わらず、龍がここまで長命であり生態系の頂点足り得るのは他の生物よりも強く結び付いているからだ。

だから龍は龍脈を守る、門番の様な役割も兼ねているのだとか。

 

龍脈のエネルギーは、酒なんかと同じで適量であれば問題無いが適量以上に得てしまうと龍とは言えどただでは済まない。

だからディアは気持ちが悪いと言ったのだ。

 

何故一点に集まっているのかは、記憶が曖昧でなんだか龍が関わっていたような、ぐらいしか思い出せず終いだが、その内色々と思い出すだろう。

調査団にもその事実を知らせ、我が夫婦は引き続きのんびりまったり自由気儘に新婚旅行である。

 

 

 

 

村へは何度か帰郷した。

理由としては任せ切りになってしまっている畑の世話の礼をしたり、弟子の様子や近況を見たりである。

生物である以上、誰も彼もが一番弟子の様に決まり事を守るわけではない。

 

過去にハンターとしての掟を破った弟子が居たのだ。

その時は師として責任を果たした。

 

なんて事は無い、欲に目が眩み己が為だけに命を奪ったのだ。

俺が行かずとも既にハンターズギルド、ギルドナイトに追われていたから遠くない内に身柄を拘束され、然るべき罰を受けていたのであろう。

しかし、だからと言って彼を鍛え育てた師として、ただそれを見て聞かされるだけではいけない。

とは言え、それもあくまでも自己満足に過ぎないのだ。

 

 

 

 

 

今はと言うと、相変わらず二人で新大陸を歩き巡っている。

古代樹の上にあるテント、いや、あれはもう改造に改造を重ね過ぎて普通に生活することが出来る小屋だな、あれは。

 

あそこを夫婦の拠点に、偶に調査拠点に赴いて頼まれ事や張り出される依頼、調査活動の手伝いをしている。

旧大陸に戻る時は手紙なんかを持っていってやったり、郵便みたいな事もやっている。

船で運ぶより雨風海水潮風に晒されて駄目になってしまう事無く確実に届く訳だからな。

 

村には新しく出来た小さな小さなハンターズギルド支部があり、そこで依頼を受けているのは我が弟子達ぐらいなものだが、あの辺り一帯は俺を含めハンターが7人しか居ない。

しかし七人ともなると業務量は増える。

だからハンターズギルドに要請し、所謂受付嬢を派遣してもらったのだ。

受付嬢はハンターとは別の、事務に特化した専門的な訓練を受けており、男女関係無くなる事が出来る。

 

我が村には女性が一人派遣されており、毎日忙しそうに働いている。

 

何故大して大きくもない我が村へ受付嬢が派遣されギルド支部が開設されたのか、と言うと、以前にも言ったと思うがあの辺り一帯でハンターがいる村は我が村だけなのだ。

別に他の村の者が弟子入りすること自体は全く問題無いが不思議と今の今まで我が村の者以外に弟子入りをせがまれた事が無い。

 

故にハンターを町から派遣せずとも事態収集が可能であるから町にあるハンターズギルドの負担も減るし、辺り一帯の村々を守るにも重要なのだ。

恐らく、それに加えて俺とディアの存在がある、と言うのも多少は影響しているだろうが。

 

家に帰るとまずは新大陸へ赴いた者達宛の手紙をギルドに受け取りに行く。

そして同時に託された手紙をギルド支部に預けるのだ。

 

そうすればあとはギルドが家族の元へ手紙を送ってくれる。

 

 

 

 

 

 

今は、陸珊瑚の台地を囲む険しい山々を登っている最中だ。

山に登れば良い景色が見れる事は間違いない、と言う事で二人で登山である。

 

理由がもう一つ。

陸珊瑚の台地へ向かうルートを探して欲しい、と言う依頼を受けたからだ。

陸珊瑚の台地へ向かうルートが今のところ発見されていない。

実を言うと後にフィールドマスターと呼ばれるオリヴィアがただ一人、陸珊瑚の台地へ足を踏み入れている。

 

しかしそのルートはどうやってもキャンプを建てるための物資などを運び入れる事は無理であり、今回俺が受けた依頼がそれである。

ある程度の道幅がなければ人が担いで運ぶにせよアプトノスに運ばせるにせよ無理だ。

 

そのルートの探索も兼ねて山登りと言う訳である。

三期団どころか二期団すらも来ていないから空から、とはいけない。

地道に足で探索する他無いのだ。

 

とは言え山登り、否崖上り、割と楽しい。

山肌を時折駆ける強風や不安定な足場を除けば景色は新大陸を見渡せるほどに綺麗だし、環境音も強風が吹いていなければ最高だ。

 

まぁ多分、ハンター達では登り切るのは困難てあろうが。

 

ハンター達は基本、道無き道を分け入り大抵何処へでも行けるが、流石にここは厳し過ぎる。

掴む場所などは多いし、場所によっては寝泊まりが可能な場所さえある。

しかし中腹ほどに反っている場所、オーバーハングしている場所が全域に渡って続いており、高さで言えば二百m以上続いている為に尾根にまで登ろうとしたならば、絶対に避けて通れない。

 

見て回ったが登攀で行こうとするならば、避けるのは出来ない。

更には吹く場所や方向などが変わり続ける上昇気流や下降気流が常に吹いており、それを利用して、多くの翼竜種や飛竜種達が飛び回っている。

普段はそこまで強く無く、風が吹いているな、ぐらいなのだが時折思い出したかのようにとんでもない強風が吹き荒れる。

 

翼竜種や飛竜種達は巣すら作っている種もいるほどで、これほどの岩壁を登りながら突風やらオーバーハングやらと格闘しながら彼らを追い払うのは至難の業であろう。

 

時折、背の低い木や草が生えておりどうやら翼竜達はそこを棲処にしているようだ。

巣の跡があるのが分かる。

それらの気付いた事や発見をノートに記しながら進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディア」

 

「ん、ありがとう」

 

暫く登り続け、尾根に辿り着く。

先に登り切った俺は後から続くディアに手を貸し引っ張り上げる。

一番高い場所はここでは無いが、尾根伝いに岩肌が露出し続いている。

 

「凄い景色だな……」

 

「あぁ、良い景色だ……」

 

そこから新大陸を望む雄大たる景色のなんと素晴らしい事か。

古代樹の森、大蟻塚の荒地やそれに連なる広大な砂漠。

反対側を向けば、遥か眼下に海の中の生態系をそっくりそのまま陸に移す如く、色鮮やかな景色。

時期や条件によっては陸珊瑚が産卵する光景を見られるであろう。ここから眺めたら、どれほどのものだろうか。

 

遠くの方に見える火の光が灯り人間の営みを感じさせる調査団の拠点も良く見える。

今思えばこれほど大きな新大陸の中でありながら、そこに根を張り生きると言うのは中々凄いことだろう。

 

 

 

全てが壮麗極まりない景色であり、二度と同じものを見る事は出来ぬであろう。

ここからだとその三つの地域しか望む事が叶わないが、それでも余りある絶景と言えよう。

思わず、ディア共々言葉を失い景色を眺める。

 

ざぁっ、と心地良い風が吹き、髪や肌を撫でる。

ディアの綺麗な白髪が靡き、ぶわぁっ、と広がる。

きらきらと輝くように太陽の光を反射する髪と照らされた紅い瞳は見る者を惹きつけて止まない。

これがもし他に見ている者が居たのならば、ただでさえディアの美貌は人目を引くと言うのに、間違い無く周りの関心を全て独り占めにするのは間違いない。

 

ディアと、この大自然の景色の組み合わせはこの世のものとは、凡そ考え付かない、想像出来ない代物だ。

 

写真として残す事が出来ない歯痒さと、しかし写真では残し切れないものがあるであろう、そんな思いが鬩ぎ合う。

せめてこの目と脳裏、そして心に焼き付けておこう。

 

「また私に見惚れていたな?」

 

「あぁ」

 

「ふふん、もっと見惚れろ?そして私から目を離すんじゃないぞ?」

 

「勿論だとも」

 

嬉しそうに、にやりと笑い俺の腕を抱いて言うディア。

その表情もまた、美しいものだ。

 

「さてと、そしたらばこの崖を降らなくてはな」

 

「あぁ、登りより大変そうだ」

 

なんと漏らしつつ、次は陸珊瑚の台地側へ降りていくのだった。

 

実際、降り始めてみると登りよりも随分と大変だ。

なんせ上の方はそうでもなかったが幾らか降ったところに差し掛かると突然、風の勢いが向こう側の崖の比ではないほどに吹き荒れた。

 

かなり激しく風が吹いており、髪の毛や荷物の端が結構な勢いで暴れるぐらいだ。

 

「ディアッ、大丈夫かっ」

 

「毛が!顔にばしばしぶはっ!ぶつかる!」

 

「一度そこで止まって髪を纏めよう!そのままでいたら危ない!」

 

「分かった!」

 

ディアの綺麗な白髪は滅茶苦茶に暴れており、あちこちに鞭のようにぶつかって、しかも視界を塞いでしまっている。

 

切り落とすのは有り得ないが、ディアが落ちて怪我をするなど余計に問題外なので、少し開けた岩棚に降りてディアの髪の毛を纏めて三つ編みに結ってやる。

 

それをしっかりと纏め、背中の隙間の中に入れる。

 

「ありがとう、フェイ」

 

「なに、気にするな」

 

一言二言交わし、水筒の中の水を口に含んでまた降り始めた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

普通の人間ならば一日以上は掛かるであろう崖を数時間で降りきり、陸珊瑚の台地に足を下ろす。

そこはまさしく、海の中を丸々そっくりそのまま陸の上に移したかのような光景が広がっていた。

 

色鮮やかな陸珊瑚が重なり合って群生し、巨大な生態系を作り上げている。

 

海のサンゴと同じような生態ならば、ポリプを持ち、単体サンゴ、群体サンゴに分けられよう。

単体サンゴは、単純な話、サンゴが群生することなく単体で生活する。

群体サンゴは有性生殖によって生じた一つのポリプが、分裂や出芽を繰り返して生じたクローンが分離することなく集まって生活するものだ。

 

大体の者が想像するのが後者だ。

 

この陸珊瑚達がどちらの生態を有しているのかは詳しく研究してみなければ分からないが、見た感じ、単体サンゴと群体サンゴが混ざり合って生きているのではなかろうか。

理由としては、少し歩き回ったが、この陸珊瑚、何と言えばよいか、かなり迷うのだが……。

 

ある一つの種類の陸珊瑚が大抵を占めており、そこの上に単体サンゴが生えている、みたいな感じなのだ。

うーん、説明がし辛いな……。

 

陸珊瑚の集合体は、多数の種類によって出来ているのではなく、一種類の珊瑚によって作られており、そこに他の種類の陸珊瑚が間借りするような、そんな形で生えている、と言えば分かりやすいか。

 

90%以上が一種の陸珊瑚で、残りがそれ以外の陸珊瑚。

ぱっと見、それぐらいの割合差があるように思う。

 

 

 

 

 

「おぉ……」

 

「海の中にいるみたいだな……」

 

山の上から見下ろした陸珊瑚の台地も、それは絶景であったがこうして中に入って見る陸珊瑚の台地も絶景だ。

少なくとも、前世では本来あるであろう海の中に潜って見に行ったとしても決して味わえぬであろう光景であり、俺の乏しい語彙では表すのは難しい。

 

陸珊瑚の台地全体に言えることなのかは分からないが、古代樹の森に比べ吹く風が強い。

それでも過ごせないと言うほどではなく、寧ろこの風が無ければこの地の生態系は回らぬであろう。

 

「それじゃぁ、テントを立てられる場所を探そう」

 

「ん、分かった」

 

ディアと手を繋ぎ、テントを立てられそうな場所を探し回る。

出来うる限り、見晴らしが良く高台であり、風が弱そうな場所がいい。

 

竜の心配はせずともいい。

探しているような場所は竜が棲むには手狭で、入るのにも苦労するかもしれない、そんな場所だ。

 

元よりこの地において俺達は新参者。

可能な限り共存をして、必要ならば退くし襲われたのなら追い返せばいい。

 

陸珊瑚の台地は幾つかの大きな陸珊瑚の集合体が集まって出来ており、それが幾つもある。

その根本は集合体同士の間にある深い深い断崖絶壁の遥か下にあると思われる。

陸珊瑚の台地は水が豊富であり、全体的に良く潤っているが、かと言って湿気が多いと言うわけではない。

寧ろ適度なもので古代樹の森同様、過ごしやすい。

構造が複雑だから、流れる風も複雑に流れている。

隅から隅まで行き渡るような、人間で言うところの毛細血管、そんな感じだ。

 

古代樹の木もそうであったが風が常に吹いているから湿気が溜まりにくいのであろう。

 

 

 

瘴気の谷へは陸珊瑚の集合体同士の間にある断崖絶壁を降りて行けば、降りていくことができるであろう。

 

龍の視力を持ってしても瘴気に遮られては底は見えない。

瘴気、生物が死に、朽ちていき、そして自然に還る過程で発生するガスが雲のように蠢いているのを確認出来るだけだから、瘴気の谷の様を見るならば降りていくしかない。

 

今はまだ降りて行かないが、この陸珊瑚の台地でのやるべき事と物見遊山が終わったならばディアと共に降りてゆこう。

 

 

 

 

テントを張る場所を探し、周りよりも幾らかの高台にあり周りを陸珊瑚に囲まれている場所を見つけた。

見晴らしは登れば良く、竜達の寝床にするには狭いし、この地に生息するシャムオスと言った先客なども居ない、良い場所だ。

 

「ここにしよう」

 

「うん、そうするか」

 

手早くテントを張って、そして今日はもう探索も何もせず、ここでゆっくりと過ごすだけにする。

流石に崖登りと崖降りをやって、陸珊瑚の台地を歩き回ったのだ、休んでも文句は言われないはずだ。

 

しかし、ベッドを置くのはやめておいた方が良さそうだ。

幾ら風通しが良く湿気が溜まらないと言っても水が豊富な陸珊瑚の台地ではベッドは無理がある。

カビが生えたりしたら堪らない。

 

それにここでは古代樹の森のように枯れ草やそれに変わる何かをどこからか持ってくることも出来ない。

 

色んな物を詰め込んで大きく膨れている背嚢の中からロープを取り出し、周りの陸珊瑚にそれを二箇所結んでそこをベッドとしよう。

所謂ハンモック状のベッドと言うわけだ。

それを込みで考え、テントの張り方も変える。

 

テントは普通に張り、換気用の窓からロープを通してハンモックを作る。

 

「……よし、これで完成だ」

 

うん、ハンモックを張るのは初めてだし、テントの中に更に張ると言う割と難しい事をしたのだが、中々に良い出来ではないか。

うんうん、と頷いて満足する。

しかしどうやらディアは少し不満らしい。

 

「これではどこでフェイとまぐわえと言うのだ。まさかここに居る間お預けか?それは嫌だぞ」

 

「そこは、まぁ、柔軟にだな」

 

と言っていたが、ハンモックに二人で寝転がってみると重力の関係で下に垂れるから普通のベッドよりも互いにしっかりと密着出来るのが気に入ったらしく。それはもう嬉しそうであった。

我が妻ながら、中々に現金である。

 

ついでに心配されていた夜の生活に関しても、割と普段から、旧大陸の実家にいる時も寝室の中であればベッド以外の場所でもまぐわって居るためにこれと言って問題にならなかった。

 

組み立て式の椅子などの幾つかの家具を組み立て、竈門を作り料理道具を配置する。

竈門は古代樹の木の上と同様、やはり辺りから持って来た土と石で組み上げたものだ。

ここから去る時には崩しても良いし、そのままでもやがて朽ちる。

 

とは言え陸珊瑚の台地には、古代樹の森のように薪になるようなものがない。

まぁ向こうでも竈門の火には薪なんぞ使っていなかったが。

 

とは言え、それを差し引いて考えても陸珊瑚は、海の中にある珊瑚がそっくりそのまま陸棲になったようなものなので、勿論サンゴが燃えるわけがない。

そこで……。

 

紅蓮石の欠片を竈門に置くのだ。

丸々一つだと、火力が強過ぎるが小さめの紅蓮石の欠片ならば丁度良い。

 

アステラの食堂でも、薪を使わずに紅蓮石を竈門に放り込んで調理しているのだ。

これならば薪を作るために古代樹の森から木々を切り倒さずとも良い。

 

因みにこの新大陸で紅蓮石を手に入れるには、確か龍結晶の地に行かねばならなかったはずだが、龍結晶の地には未だ誰一人足を踏み入れるどころか存在すら知らないため、旧大陸から態々持ち込んでいるのだ。

 

難点があるとすれば、扱いに少しばかり慣れが必要な事、火が常に点っている為にもし周りに可燃物があったならばほぼ間違い無く火事になる事だろう。

とは言えそれさえ克服してしまえばこれ以上に扱い易い火力はない。

しかも紅蓮石から発せられる熱や火で調理すると、普通に薪などを使っての調理より断然美味い。

ここは周りの水分が多いから燃え移るものが俺達が持ち込んだものぐらいしかないから火災になる心配も低い。

ならば紅蓮石を選ばない手は無い。

 

氷結晶もあるから生肉や野菜などを保存しておく冷蔵庫も完備だ。

これだけ揃っていればもう、住めば都とかそんなの戯言に感じる。

 

昼食、更に時間が経って夕食を済ませ、二人でテントに籠る。

相変わらず、夜になれば一日の本番だと言わんばかりに激しく騒がしくなる我が夫婦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸珊瑚の台地で生活を始めてから一ヶ月半が過ぎた。

陸珊瑚の台地で過ごす今日は少々、いや、かなり騒がしいものとなった。

どうやらこの陸珊瑚の台地の、生態系の頂点に君臨するレイギエナが繁殖期、所謂発情期に入ったらしく空では雌雄入り乱れパートナーを探すレイギエナ達でそれはもう騒がしい。

まだ番を持っていないのだろう、生涯のパートナー探している。

前世で言うところの婚活パーティーみたいなものだ。

実際に行ったことは無いから実際は知らないが。

 

あぁ、そう言えばレイギエナはまだこの段階だと新種なんだった。

多分研究者達が見たならば、もう狂喜乱舞するであろう事は間違いない光景であったりする訳だが暫くは、俺達が陸珊瑚の台地へ向かう為のルートを見つけない限りは彼らがこの陸珊瑚の台地に広がる様々な光景を目にするのは無理だろうな。

 

レイギエナの話、と言うか竜達の繁殖について少しばかり。

竜と言うのは種族によって違いはあるが大抵の場合、その一生を唯一の番と共に過ごす。

飛竜種などは特にそうで少なくとも今確認されている飛竜種はどの種族もそのように過ごす。

 

しかし例外とは存在するもので、一部の、代表として鳥竜種であるイャンガルルガなどがそうだが、繁殖方法が変わっていると言うよりも中々ぶっ飛んでいると言わざるを得ないのも多い。

イャンガルルガは番を持たず、繁殖期に相手を見つけたら血みどろの戦いの末に交尾をしたらそれで終わりである。

戦闘と交尾で力を使い果たしそのまま死んでしまうイャンガルルガも珍しくはない。

 

 

 

 

普通はそこから卵を産み落として孵化、巣立ちを迎えるまでは子育てをしたりするものなのだが、イャンガルルガはそれすらもしない。

ただひたすらその一生を雄も雌も戦いに明け暮れる。

しかも卵が腹の中にあろうと戦いは全く止めず、寧ろ腹に卵を抱えているイャンガルルガは通常よりも遥かに気性が荒く強い。

ある記録では、腹に卵を抱えたイャンガルルガがイビルジョーをボコボコに、一方的に殺したなんて奴までいるぐらいだからどれほどのものが分かるだろう。

だからイャンガルルガは雄より雌のが強いのだ。

そりゃ身重の状態でも戦うような、それこそ戦闘民族も真っ青の様な竜だ、強く無いわけがない。

 

ではどうやって子孫を残すのか。

イャンガルルガは自ら卵を温めるのでは無く、托卵をするのだ。

托卵とは自然界では立派な生存戦略の一つであり、要は同じ様な種族の、別の種に自身の卵を育てさせるのだ。

托卵先は、イャンクック。

イャンガルルガは、余りにも戦闘に特化し過ぎた為か獲物を取るのが極端に、遠慮無く言ってしまえば下手糞なのだ。

と言うか獲物を探していても大型モンスターや中型モンスターを見つけるとそちらに殺意MAXで突っ込んで行くのだ。

そりゃ獲物を手に入れられない訳である。

 

イャンクックは普通、とても臆病で争いを好まないイャンガルルガとは真反対の性格をしているのだが何故かどうやって育ててもイャンガルルガになる。

なんなら付近のイャンクックを皆殺しにしたりと、最早戦闘民族とかそんなのではない。

 

他に托卵する竜と言えば、新大陸で新たに発見されたプケプケか。

あれも中々に狡猾と言うか、また別の生存競争を繰り広げている。

 

他に特徴的と言えば以前話した事があるシャガルマガラなどだ。

あれも中々にえぐいと言うか、聞いただけならゾッとするような繁殖方法だ。

 

イビルジョーなんかはそもそも同族同士で殺し合い、更には喰らい合うから交尾に至る条件がとんでもなくシビアだ。

だからそもそもの個体数が少ないからこそ、世界中の生態系が致命的に壊れる事無く回り続けている。

 

雌雄同体であるギギネブラやフルフルは単体で繁殖ができる。

とは言えかなり違いはある。

 

ギギネブラは地面や壁などに直接卵を内包した、カエルの卵の様なものを産み落とす。

しかも卵を産み落としてから孵化するまでが異常に速く、更には産まれてからすぐに獲物を探し回る為、もしギギネブラと戦うならば卵を警戒しなければならない。

 

 

大抵の場合、小型モンスターが殆どであるがフルフルが住処にしている付近には数体の、卵を産み付けられ身体を食い破られた生物の死骸がある。

それがあると言う事はフルフルが辺りにいる、もしくは繁殖していると言う事で、ハンター達は警戒を強める。

勿論、人間や竜人族も産み付ける対象であり、極々稀に産み付けられてしまったハンターが出てくるのだが、多少成長してからでないと摘出出来ないためにそれまでは身体の中でフルフルベビーを育てる事になる。

 

同じ様な繁殖方法をするのは昆虫系のモンスター達だろう。

 

二種は定期的な頻度でギギネブラとフルフルは大発生を繰り返す。

なんせ産まれてくる数が尋常じゃない。

卵塊一つから軽く二十以上の数が産まれてくるために、しかもそこかしこに産み付けるもんだからそれはもう大変だ。

ハンター達では立ち入りが難しい場所に産み落とす場合もあるからな。

もし大発生をした、その時はハンター総出で討伐クエストに挑む事になる。

 

しかしそうなると困るのが素材の活用だ。

なんせ武具にするにしてもギギネブラもフルフルも処理が面倒、高い技術がなければ加工が出来ない、肉や油はどうやっても食えないしで困るのだ。

 

確かに少しばかりの需要はあれどそれ以上は要らない。

結局どうなるのか、と言うとギルドで捕獲したイビルジョーの餌になるのだ。

イビルジョーは兎に角なんでも喰うからな。

目の前に出されたものが取り敢えず食える物ならなんでも喰う。

生きていようが死んでいようが腐っていようがお構いなしだ。

まさに悪食と言うに相応しいだろう。

 

このギギネブラとフルフルにはそれぞれ亜種が存在するのだが、どう言った訳か亜種には生殖能力が無い。

どう言う事なのか、全く定かでは無いから詳しくは言えないが卵塊を産みつける行動も、通常種とは違い幼体が出てくる事は無く、電撃を放ちながら破裂したりするだけだ。

それはそれで厄介なのだが。

 

 

 

とまぁ、繁殖の話をした訳だが我が夫婦の間に子が出来たとかそう言う訳ではない。

急ぐでもなく、自然と出来るのを待つだけだ。

 

子が出来たらそれはそれで楽しくもあるだろうが、やはり忙しく騒がしくなるのは間違いない。

今は夫婦二人の生活を思う存分に満喫し、仲を深める事にしている。

 

 

 

陸珊瑚の森を歩き、地図を描いていきながらキャンプを建てるに適した場所を探し記していく。

ゲームのように簡単な構造ではなく、複雑で入り組んでいる。

一番下が最も広く、上に行くにつれて段々と面積が小さくなるような構造で、それらがいくつかの階層状に分かれて一つの陸珊瑚の群生地を形作っている。

他の群生地も同じで、そこで生きる生物達は大抵同じだ。

幾つかの魚類などが違う種類がいたりする。

 

お馴染みのサシミウオと言ったありふれた魚から始まり、希少な黄金魚などまでいる。

やはりそこに棲まう生物の多様性、と言う面で見れば旧大陸以上かもしれない。

一つのエリアにこんな沢山の種類の生物が共に暮らしているのは旧大陸では中々見ることが出来ない光景だ。

 

 

 

 

 

 

 

陸珊瑚の台地を歩き回り、群生地の一番端、切り立った崖のところまで来た。

風が強く、それに乗ってレイギエナやオソラノエボシ、ムカシマンタゲラ達が飛んでいる。

 

吹き上げる風には、ほんの少し、恐らく龍の身体になっていなければ分からないであろう極小ではあるが、生物が腐り、自然に還る時の匂いがする。

やはりこの下には瘴気の谷が広がっているのだろう。

 

 

ぶわぁっ、と一層強い風が吹く。

すると縁に立って下を覗き込んでいたディアの真っ白な、とてもよく似合うスカートが、ばさばさばさっ!と勢いよく捲れ上がりその下の綺麗な輪郭と、世界で俺しか知らない素晴らしい感触の脚、履いている淡い蒼色の比較的面積の小さな、後ろから見ればTバックほどでは無いにせよ尻が出ているショーツが丸見えになってしまう。

 

しかし当のディアは身に付けているネックレスのが飛ばされないか、気になり押さえている。

慌ててディアのスカートの端を掴んで押さえ、丸見えにならないようにする。

 

「おぉっ、風が強い。危ない危ない」

 

「先ずはスカートを押さえてくれ」

 

「なんだ、興奮したか?」

 

「確かに魅力的ではあるが、他に誰か居たらどうする」

 

「確かにそうだが私としてはフェイがくれたネックレスを無くす方がよっぽど大変だぞ。もし下に落とそうものなら例え何処にあろうが見つかるまで延々と探し続ける」

 

真面目な顔で言うディアは、確かにと頷いてしまうような雰囲気がある。

とは言え、自身の妻の肌を他人に見られたく無いのも事実だ。

ディアは他人の前では決してそんな事にならないようにしているとは言え心配になってしまう。

 

とは言えそこまでネックレスをなぜ気にするのか。

それは簡単な理由で、つい先日テントの中で無くしたからに他ならない。

 

情事の最中、何処かにネックレスを引っ掛けて落としたのだ。

やはり盛り上がると周りが見えなくなるもので、終わってから気が付いたのだが気が付いた時のディアの慌てぶりは、それはもう凄かった。

 

ディアは半泣きになりながら、しかも情事後の全裸で汚れたまま何から何まで引っくり返して探し回り、漸く見つけたのだ。

安堵からか泣き出したディアを抱き締めて落ち着かせるのに数十分を要した。

 

だからだろう、あの時はテントの中だったから良かったが、瘴気の谷に落としたらまず以って見つからないだろうからなぁ……。

それを考えたら……、いやそれでもスカートは押さえて欲しい。

 

「そろそろテントに戻ろう。日が暮れてきた」

 

「ん、そうだな」

 

ディアの手を取り、テントに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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