龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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久しぶりの投稿です。
短めですが最後の方はしっかり、イチャつかせたので許して頂ければと。





12話

 

 

 

 

 

陸珊瑚の台地から大蟻塚の荒れ地へ。

 

 

とても過ごし易い気候だった陸珊瑚の台地とは違って完全に砂漠だ。

少なくとも普通の生物が生きていける環境ではないし、お世辞でも過ごし易い環境だとは到底言えない。

 

砂漠に住む生物が特異なのは、この気候を肌で感じれば納得するだろう。

龍ボディになった今でもこの暑さと寒さ、そしてそれの激しい寒暖差は少しばかり厳しいものがある。

 

勿論そんな環境であるから砂漠で生き残るには相応の対処や知恵が必要なわけだ。

知っている者や砂漠に生きる者なら常識であるが、暑いからと言って服を着ないと言うのは逆に悪手だ。

 

日焼けと言うのは、あくまでも分かり易く例えるならば皮膚が火傷をした状態だと考えてくれればよいのだが、海水浴などで日焼けをするのと砂漠で日焼けをするというのは次元が違うほどに危険なのだ。

下手をすれば全身火傷で死ぬレベルなのだ。

 

では何故こんな話をしているのかと言うと、ディアがそうなった。

 

 

 

「熱い……痛い……」

 

「だから服を着ておけと言ったろう……」

 

「ん”ぅ”ぅ”ぅ”……」

 

別にディアも慢心をしていた訳では無い。

新しい居を構え、少しばかり周りを見て歩こうとなったのだがその時点で砂漠の方に出向く予定は無かったのだが、思いの外砂漠と言う土地に殆ど訪れたことが無いと言う事でちょっとばかり気分が上がってだな……。

 

結果、長時間砂漠と言う気候の陽射しに晒されたディアの真っ白で綺麗な肌は今や真っ赤になっているのだ。

途中で持って来ていたフード付きのマントを着ることを勧めて、着たのだがどうやら間に合わなったらしい。

そしたらまぁ、この状態である。

 

あの時もっと早く着させておけば良かったか。

日焼けした肌の痛みを消す為に、アロエに似た多肉植物から採った痛み止めのオイルを風呂上りに塗ってやり、今日一日は大人しくしておく他無いだろう。

 

「今日一日は安静にするしかないな。明日になれば随分と楽になっているだろう」

 

組み立てた家の中で、組み立て式ベッドの上でぐったりしているディアの様子を見ながら言う。

今夜はお預けと言う事で納得してもらうか。

 

 

 

 

 

翌日陸珊瑚の台地で目覚めるよりも随分と早く、小屋の中に差し込んだ乾燥地帯特有の強い陽射しで目を覚ます。

昔から起きる時間と言うのは日の出であり、寝るのは日の入りだ。

 

電気が無いから基本的には蝋燭の灯りか、紅蓮石の仄かな灯りでしか夜は活動出来ない。

外に出れば、天気が良くて月や星が出ていれば行動をすることに何ら支障が無いぐらいには明るいのだがここはそうもいかない。

 

オアシスと言ってもヤシの木とかだけが生えている訳では無く、頭のおかしいぐらい生命力の強い植物達が水分があると言う事で鬱蒼と生え散らかしているのだ。

ジャングルほどでは無いが、森と同じぐらいの数はあるから月明かりや星明りを遮ることなど簡単だからオアシス周辺は周りが月明かりや星明りに照らされていても真っ暗闇だ。

 

 

 

昨日あれだけ痛がっていたのだが大丈夫だろうか、と思ってディアを見てみると流石と言うかなんというか再生能力、生命力が高い龍らしくけろっとしている。

念の為確認してみたが、炎症は完全に引いているし問題無かろう。

若干赤みは残っているが、この様子なら、夏休みに外に遊びに出て少し日焼けをしたぐらいで済む。

暫くすれば、また元通りの白い肌になるな。

 

取り合えず回復したのならば、しっかりと朝食を取らねばなるまい。

これでも調査任務と言う形でここに来ているわけだからな、行動をするのならば朝食を抜くことは出来ない。

 

 

昨日の内に仕留めておいたアプケロスの肉が主菜で、他はオアシスで適当に食える野菜や木の実やら果実を採って来たものを炒める。

ナツメヤシの実は完熟して干していなくても十分に食べられるが個人的には完熟し干したナツメヤシの実が甘さが好きなのでそのままだ。

鳥に食われないように、二本だけネットを張ってある。

 

これまた昨日の内に作っておいた四つの窯の内の三つに紅蓮石を放り込んでフライパン二つと土鍋を火に掛ける。

 

アプケロスの肉は一口大の大きさに切り、醤油と胡椒、ニンニク、ネギ類と一緒に炒める。

ネギ類を入れて炒める理由は臭み消しの為だ。

アプケロスの肉はアプトノスやポポに比べて獣臭いから、臭み消しの為にネギ類を塗しておくのだ。じゃないと焼いた時に臭くて臭くてしょうがない。

どんなものも、調理次第では大抵食えるものになるからな。

 

個人的な意見ではあるが、ポポは牛に近い味があり、アプケロスは豚に近い。

アプトノスは、牛に近い味だと思うのだが多分食べたことが無い味だ。

今でこそ親しみ慣れた味だが、最初はかなり戸惑ったからなぁ。

 

 

卵なんかがあれば別の料理、例えば卵焼きとかを作ったりすることも出来るんだが、今は卵が手元に無いからな。

肉と野菜などを味付けをしつつ焼き、隣で米を炊く。

土鍋や飯盒で炊く米は良い感じにおこげも付いていたりするからこれがまた格別に上手いのだ。

パンも美味いが、やはり米が一番だな。

 

紅蓮石の火力を強めにしているから、米が炊けるが早い。

皿に白米、肉、野菜類を盛り付けてやれば朝食の完成だ。

 

「「頂きます」」

 

二人で手を合わせて食べる。

 

 

 

 

 

食事を食べ終えたらば、食器を綺麗に拭いてから火を付けて油を燃やした後に洗う。

油をそのまま流すのは駄目だからな。

 

朝食の後始末が終わったら、日除けの為に素肌を出さない程度に服を着て探索である。

夜では無いから厚着をする必要は無い。

これがまた夜になると気温が氷点下、-20°にまで下がるから昼間とはまた別の服装をしなければならない。

陸珊瑚の台地ではラフな服が三着ぐらいあれば十分に着回せるのだが、この大蟻塚の荒れ地に関しては昼用と夜用の二種類を用意しなければならないから着数だけでも倍、重量などは倍では済まない。

 

「砂と岩ばかりだな……」

 

「まぁ、それが砂漠地帯だからな」

 

古代樹の森や陸珊瑚の台地に比べて綺麗だとかそういうのは殆ど存在せず、視覚的に単調だ。

 

踏み締める足は、他の地域と違って少し沈んでいく。

やはり柔らかい砂は慣れていないから歩き辛さはあるな。

植生は乏しいからどうしても緑を求めると、河川や湧き水があるところになってしまう。

その近辺には必ずと言って良いぐらいに、アプケロスなどの草食性や小型モンスターがおり、そしてそれを狙う捕食者がいる。

 

砂漠地帯でよくみられる植物と言うのは草は少なく、イメージにある通りヤシ科の植物やサボテンが殆どだ。

いずれも乾燥に強い植物だ。

 

俺達が居を構えたのはゲームでも見られたが、オアシスの外側に近い大きめの川があるところの近くだ。

ああいうところは色んな生物が集まり尚且つ生存競争が繰り広げられるから動植物の観察をするのにはうってつけなのだ。

 

ついさっきも朝っぱらからジュラトドスとボルボロスが周囲に泥を撒き散らしながら盛大に縄張り争いを繰り広げていた。

幾らか狭い場所で、他の場所に行くにはそこを通った方が早いと言う感じの隘路で、俺やディアもここに来たばかりではあるが良く使うルートなのだが、勿論他の生物達も頻繁に使うわけである。

そんな場所での縄張り争いなもんだから、丁度通り掛かったクルルヤックがいたのだ。

クルルヤックとて巻き込まれたら堪ったもんじゃないと端の方を歩いていたのだが、ボルボロスが持ち上げたジュラトドスが地面に落下した。

そうなると当然身体に纏っている泥やそこにある川の泥が撒き散らされたりする。

 

あれだけの巨体が全高が6mはあろうかと言う大きなボルボロスに、あの大きく頑丈な頭部に乗せられて更に高く持ち上げられてからの落下なのだから、周りに飛び散る被害は洒落にならない。

運悪くそのタイミングで横を通り抜けようとしたクルルヤックが、身嗜みを整えたばかりだったのだろうかもしれないが、小綺麗な様子で通りかかったのだ。

そしたらばクルルヤックに、それはもう派手に泥が掛かって滅茶苦茶に迷惑そうな顔をしながら脇を通って行ったのは中々面白かったな。

 

生態調査を記録したモンスター図鑑なんかは事細かに色々と書き記されているが、こうしてフィールドワークに出るとそれら書物には書かれていない、同種のモンスターでも大きく変わる個性を見ることが出来るのが良い。

 

せっかち、マイペース、几帳面、大雑把、怒りっぽい、面倒臭がり、食いしん坊、怒りっぽい、大らか、争いを好む、争いを好まない。

性格もそうだし食の好み、例えば肉食や草食にしてもどんな肉、どの草を好むのか。

地域にもよるが、偏食が強い個体だと肉食であればアプトノスだけしか食べないとかもあるし、その逆になんでもかんでも食べるのもいる。

草食でも木の実ばかりを食べていたり、食えればいいみたいなのも、特定の草や樹木の葉しか食べないとか。

 

雑食性のモンスターでも、肉食を好むのかそれとも草食を好むのか。

特定の場所以外では捕食をしない、特定の場所以外では水を飲まない。

 

こうした違いが多くあり、それらは決して書物には書き記されることの無いものだ。

そういうのが見られるのだから、フィールドワークで観察をしたりと言うのは止められない。

研究員達が熱中してしまうのも分かるが、彼らは流石に熱量が違うな。

 

普通の書物には書かれていないそういうのも、メモ帳に書いていくと自分だけの図鑑と言うのが出来上がっていくのだ。

確かに書物としての価値は無いかもしれないが、それでも俺と言う存在や、俺が見て接して来た生物達の、少しでもその命の足跡が残せるのであればそれはとても価値があるものと言えよう。

 

この大自然の中で生きていると、人間であろうと竜であろうと龍であろうとそれ以外の生物であろうと、基本的にはその他大勢として纏められてしまう。

その中の一個体が光を浴びて注目されると言うのはまず無いことなのだ。

そりゃぁ、何かしらで有名になって居たりすれば記録が残ったりするだろう。

だがしかし、その記録も結局は朽ちて消えていく。

それを継続して残していきたいと思うし、その他大勢として記録にも残らないであろう少なくても良いから生きていた存在を残しておきたいのだ。

趣味の域を出る事は決してないが、その俺の行動が一石を投じるぐらいの事になれば幸いだ、ぐらいの感じでやっているのである。

 

これがまた、楽しくて嬉しくて、齢500を軽く超えるが子供のように胸を躍らせてしまう自分がいるのは隠しようもない事実だ。

ディアはそんな様子の俺を見ているのが良いらしい。

 

 

 

オアシスや川から少し離れるとすぐに乾燥し、太陽に熱された空気が全身を包む。

水没林などと違って湿度の高い高気温では無く、湿気など1%も無いカラッと乾いた空気だ。

 

風が吹くと乾いた風と共に砂が舞い上がる。

顔を覆っていても隙間から入る砂で酷いことになって居ると言うのだから、覆ってなければ今よりもそれは、それは酷い事になっていたに間違いない。

 

砂地がひたすらに続く大平原は、風の影響もあって大小に波打ってそこには様々な模様がある。

どれ一つとして同じものは無く飽きることは無い。

 

「ふぅ、かなり登ったか」

 

「そうだな、見晴らしが良い」

 

とある砂丘の天辺に立って周りを見回すと、全く水気を感じられないと言うのに、乾燥しているのにもかかわらず命の息吹を強く感じる。

 

「不思議なものだ、こんなところにも多くの生き物が暮らしていると言うのだから」

 

「そうだな、だが世界とはそういうものだ。隅から隅まで、沢山の生物達がその力を振り絞って全力で生きている。勿論私もフェイもその中の一つだ」

 

「本当に……、あぁ、いや、言葉にならないな」

 

並んで見渡していると、足元が動く。

砂丘の砂が崩れ始めているのだ。

 

『危ない危ない、生き埋めは流石に嫌だからな』

 

巻き込まれて埋もれる前に、ディアが咄嗟に龍の姿になって俺を掴んで空を飛ぶ。

力強く大きな翼を羽ばたかせるたびに砂が巻き上がって辺りを砂が霧の様に隠す。

砂丘の雪崩から少し離れたところに降りてディアが人の姿になると、再びどこまでも続いている砂の大平原を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

小屋からかなり離れたところの、綺麗なオアシスを見付けて今日はそこで野営をする。

水も綺麗な湧き水で、煮沸すれば飲んだりするには問題なさそうである。

 

今からディアの背中に乗って飛んで帰ればすぐかもしれないが、偶には野営と言うのも良いだろうとのことで予め背負って来ていたタープを広げる。

このタープは十字になっていて屋根の部分になるリング状の金具にロープを通して、それをヤシの木に四隅を結ぶと四辺の生地が垂れさがることになる。

こうしたら出入口と後ろ側の生地を金具なりロープなりで止めれば簡易テントの出来上がりである。

 

中には折り畳み式の小さなベッドが一つ置かれて、上からランタンが吊るされているだけだ。

換気の問題もあって竈門は外に、石を円形に囲っておいたものを作った。

オアシスの水は綺麗で、飲む事にも何ら支障はない。

まぁ一応煮沸消毒はしているが、地下からの湧き水だからそのままでも特に問題は無さそうである。

 

持って来た紅蓮石で火を確保し、晩飯の準備は出来た。

先に米を炊く。

 

ヤシの木からデーツを採ってきても良いが、今回は以前採って乾燥させておいた乾燥デーツがあるから採らない。

干し肉を取り出して、それをフライパンに油を引いて味付けに香辛料を振って炒める。

野菜も持って来ているから刻んだら一緒に炒めて最後に醤油を回し掛けてちょっと炒めたら肉野菜炒めの完成だ。

 

なんとも言えない食欲をそそる香りだ。

本日の夕食は肉野菜炒めと米、そしてデザートに乾燥デーツだ。

 

「「頂きます」」

 

「……うん、砂漠のど真ん中で作ったにしては上出来だな」

 

「フェイの作る食事は何時も美味いな」

 

「ありがとう」

 

雑談を交わしながら、夕食を終えると片付けを済ませたら水を汲んでくる。

コーヒーの粉を持ち込んでいるから、砂地の上に敷物を敷いて腰を下ろし、カップを傾ける。

焚き火、では無いが火の灯りを前にこうしているとなんとなしに安心感を覚える。

 

 

コーヒーを飲み終えたら、再び水を汲んで来て紅蓮石で湯を沸かし、それで身体を拭うのだ。

 

それが終わればベッドに潜り込む。

 

砂漠の夜は寒いのと、二人で、しかも二人とも180cmを超える身長の持ち主だ、寝るにはいささか狭いベッドであるからディアを何時もより強く抱き締めて掛け布団を掛けると眠りに付いた。

何がとは言わないが今日はお預けである。

 

 

夜中にごうごうと言う音で目が覚めた。

どうやら砂嵐が直撃しているらしい。

しっかりと結んだからテントが飛ばされる事は無いだろうが、少し心配だな。

 

「んぅ、フェイ……」

 

顔を上げて外の様子を伺っていると、離れたことに不満を持ったのかディアに頭を強く胸元に抱き締められる。

むふー、と満足げに鼻息を一つ吐くと、ディアはまたすやすやと寝息を立て始めた。

ついでにすりすりと頬擦りをしながら撫でてくる。

心地良さを覚えながら顔を覆うふかふかと柔らかい胸の感触と、ディア特有の甘く優しい匂いに包まれて再び眠りに付いた。

 

 

 

翌朝、テントを出ると夜の嵐が嘘であったかのように雲一つ無い青々とした空が広がっていた。

 

「テントを早めに畳んで移動しよう。どうやら順番待ちらしいからな」

 

ディアが言うにはこの水場で水を飲もうとしているモンスター達がいるらしい。

争いにならないように順番待ちをしているようで彼らの為にも早めに移動しようとのことだそうだ。

 

早めに朝食を済ませテントを畳み再び砂の台地を歩く。

一歩足を踏み出すと、砂に足が幾らか埋まっていき、砂の上を歩く独特の感覚が足の裏から伝わってくる。

 

 

暫く歩くと大きな岩と、その根元の辺りに洞窟が見える。

 

「入ってみるか」

 

「入ろう」

 

冒険心と好奇心に突き動かされて洞窟に足を進める。

匂いがするが、どうやら生物の腐敗臭などとは違い、どちらかと言うと人工的な油の匂いというか、そんな感じの匂いがする。

 

「何の匂いだ……?」

 

中々にキツイ匂いだが、それを口と鼻を覆って進んでいく。

大岩の中の、かなり下って進んで行ったところに匂いの原因があった。

 

「石油か」

 

「石油?」

 

「あぁ、遥か昔に生きていた生物が地中の中で長い年月を掛けて圧力と熱で油になったものだ。これが自然と沸いていたから匂いがしたんだな」

 

ディアが肩越しに覗きながら聞いてくるので説明する。

確かゲームでも洞窟か何かの中で可燃性の油が湧いているところが存在した記憶が朧気ながらではあるがある。

 

上手く使えば灯りになるだろうが、今の段階では使えないな。

少なくとも俺には技術がない。

 

「これ、どうするのだ?」

 

「これを加工することでいろんなものが作れるんだが、今は無理だな。精々布に沁み込ませて松明として燃えやすくするぐらいだ。まぁ、それも燃やした時に出る煙とかが有毒だからあまり勧めることは出来ないがな」

 

精製方法が無いこの世界では石油を使うのは止めておいた方が良いのは確かだろう。

その内誰かしら精製方法を確立させて利用が始まるだろうから気にするほどのことでもない。

 

 

「おぉ、ゲッコーが沢山いるぞ」

 

洞窟の壁をアリヅカゲッコーが動いている。

どうやら近辺に蟻塚があるらしく、かなりの数が群れている。

 

ヤモリなのに何故か群れを作ると言う生体をしているので、一匹見付けたら周辺に少なくとも十数匹はいるものだから特に見つけることが難しいと言うわけでは無い。

ただ、アリを主食としているので蟻塚の近くに生息することもあってそれ以外の場所だとまず見つけることが出来ない。

 

逆に蟻塚周辺を探せば確実にいるのがアリヅカゲッコーと言うわけである。

 

逃げられる前にディアが一匹捕まえると、まじまじと観察する。

基本的に憶病だから俺達の気配を感じただけで逃げて行ってしまうし、よくよくしっかり観察するのは初めてかもしれない。

 

十分ほど観察をしてスケッチを描いたら元居た場所に放してやる。

スケッチブックには鳥類から始まり、植物や虫眼鏡を使わないと詳細に見ることが出来ない小さな昆虫などまで色々とスケッチを描いている。

体色に合わせて色調豊かなものから、モノクロのものまで様々だ。

 

本当は体色に合わせて色も付けたいところであるが、そこまで長時間になると弱ってしまうかもしれないのでモノクロで留めている。

時間があるならまた観察して色を付けたいところである。

 

こういう時、やはり写真というのは便利だなと思う。

ただ、こう、やっぱり写真には無い魅力というのがスケッチにはある。

 

「良い画だな」

 

「だろう」

 

基本的に、生物単体だけを描く場合と、周りの環境、例えば岩や木に張り付いたり登ったりする場面そのものを切り抜いて描く2つで、という2つの描き方で画を描く。

その方がもう一度探した時にイメージしやすいからだ。

 

描いた画をディアに見せて褒められ、頷く。

ずっと描き続けてきたものだから最初に比べると遥かに上達しているな。

 

故郷の村の家には本棚に今まで描き貯めたスケッチブックが数十冊、いやもっとあるかもしれないが、ともかく描き始めた最初のものは酷いものだった。

そもそも生物と分かるものが少ない。

それでも流石に数百年も描き続けていれば上達もする。

継続は力なりとは言うが、そりゃ数百年やってたら誰でも上達する。

 

 

 

 

洞窟には何かしらのモンスターが塒にしている痕跡もあったので幾らか探索して後にした。

まぁこれと言って特筆すべき何かがあるわけでも無いと言う感じだったな。

 

「うぉっ、眩しいな」

 

「目がチカチカする」

 

洞窟から出ると太陽の光が強く感じて視界が白くなる。

うっ、となりながら岩陰に避難して水筒の水を飲む。

 

「「ふぅ」」

 

同時に息を吐いて、少しばかり休憩する。

良い感じに風が吹いていて、砂漠のど真ん中で暑くてしょうがないと言うのに何となく落ち着いてしまう。

日陰だから暑さは幾分かマシではあるが、それでもだ。

 

昼食の時間にしては幾らか早く、かと言ってこのまま暑さに耐えつつここで待つと言うのも長い、そんな時間だ。

 

「ディア、早めの昼食にしてしまおうか」

 

「んむ、そうしよう」

 

日陰で昼食の準備をする。

この暑さだから、しっかりと食べておかないと倒れてしまうかもしれない。

 

汗も沢山流しているから、その分しっかりと塩分なんかを摂らねば。

 

まず最初に米を炊く。

幸い砂漠と言ってもオアシスにテントを張っていたから、飲料や料理に使う為の水を補充するには全く困らなかった。

生のまま飲むのは危ないかもしれないが、少なくとも米を炊く場合は煮沸されているので大丈夫だろう。

 

芸が少ないかもしれないが、アプトノスの肉を醤油と胡椒、ガーリックで味付けて炒める。

ディアに頼んでざく切りにしてもらった野菜もついでに放り込み、ざっと炒めれば肉野菜炒めの完成である。

これで酢などがあればもっと味付けの幅が広がるのだがな。

 

汁物も拵えてしまう。

味噌を取り出して、普段より多めに味噌を入れて、海が近くにあるから山ほど取れる和布と、特に何の関係も無いネギを刻んで入れて。

沸騰しないようにかき混ぜながら味噌を溶かせば簡単、味噌汁の出来上がりである。

 

二人で手を合わせてから食べる。

 

「美味い」

 

「そうか。それは良かった」

 

かなり濃い目の味付けにしてあるのだが、これで美味いと思うということはやはり塩分不足だったのかもしれない。

 

 

 

なんとなく、何時もよりものんびりと、ゆっくりとした昼食を楽しむ。

 

なんだか普段よりも時間の流れがゆっくりとしているような、心地の良い時の流れを感じる。

確かに俺とディアは互いに積極的に喋るということは無いがそれでもとても居心地がよい。

 

普段ならすぐに片付けを始める食器や料理具も、今は片付けずにそのまま。

座って肩を寄せてぼーっと、遥か先にまで続く広大で、雄大なる砂の大雪原を眺める。

 

 

 

氷結晶のお陰で冷えている果実水を取り出して飲む。

日陰と言えどもこの暑さの中で、これだけ冷えた飲み物は、それはもう、とても美味しい。

 

「ディア」

 

「ん」

 

果実水を渡すと一口、二口とディアは飲む。

その横顔がどうにも綺麗で仕方が無い。

きらきらと澄んだ瞳が、遠くを見ていて、語彙の少ない俺では表しようもない。

水筒の水口に触れて形を変える唇がまたそそられる。

 

流石にこんなところで盛るわけには行かないので我慢するが、うん。

 

そうして視線を向けているとディアはこちらを向いてふっ、と笑う。

思わず手を伸ばして頬を撫でる。

 

「どうした?」

 

「いや、なんとなくだな……」

 

「そうか。存分に撫でるといい」

 

すり、と自ら俺の掌に柔らかく、弾力のある滑らかな頬を寄せてくる。

目元を親指で撫でると嬉しそうに目を細めた。

 

「綺麗な目だな」

 

「だろう?私はフェイの目も大好きだ」

 

そう言って俺の頬に手を伸ばして目尻の辺りを同じように柔らかい親指の腹で優しく撫でて来る。

何度、同じようなことをやったかは忘れてしまうほどに、やってきている筈だのだがそれでも嬉しいと思ってしまえる。

 

首元に手をやるとくすぐったいと言わんばかりに身を捩って声を漏らす。

 

「んんっ、くすぐったいではないか」

 

夜に営んでいるときとはまた違った、蠱惑的な声だ。

くすぐったいと言いつつも嫌がるそぶりは無くもっとやって、というようだ。

 

自然とディアの手を取って、引っ張るように胡坐をかいた、その間にディアを招いて座らせる。

背中を預けてくるその体重に何とも言えない安心感を覚える。

手を握ってやると優しく握り返してくる。

 

顔を近付けると、ディアは振り向いて頬を摺り寄せて来る。

 

「ふふっ」

 

嬉しそうに声を漏らして笑うものだから、思わず頬にキスを一つ。

するとお返しだと言うように唇に触れる様にキスをしてくる。

 

そんな時間がとても愛おしくて心地良い。

 

 

 

そうして二人で一時間ほど、穏やかな時間を過ごしたのである。

 

 

 

 

 

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