龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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筆が乗ったら誰だって執筆は速いんだよね。
つってもストックと言うか書き溜めたと言うか、そんなんなだけなんだけど。

評価とか付くの早過ぎじゃね?
いやだって投稿してまだ一週間経ってないのよ?なのにこんな評価付くって……。
ハッ、頭良い作者は気付いちゃったぞ。
あれだな?ライズが新しく発売されたからだな?まぁ作者、ライズ買ってないから波に乗り遅れてんだけど。

まぁとにかく。
これだけの評価や感想を頂けるのは大変嬉しいものです。

読者達は皆エスパーなの?ニュータイプなの?
割と掠ったりする程度だったりするけど書いている事とか設定を言い当ててくる読者がちょいちょい居るの笑えない。

あと感想の数がなんか多くて返す余裕無さげです。やばいです。

どうしてくれるんですかッ!?
これは深刻な問題ですよ!?

……やべぇ、適当に何話か投稿して別作品に逃げるつもりだったのに逃げれなくなっちった。(意訳※こんなに感想書かれて、評価貰って続きを書かねぇ訳にはいかないよなァ!)




て事で本編、ドゾ。









2話

 

 

 

 

 

村人総出の結婚式が終わってから二人で家に帰る。

 

「ほう、ここが住処か」

 

「あぁ」

 

「群れの中の他の住処と比べると大きいようだが?」

 

「まぁ、村唯一どころかこの辺り一帯だと唯一のハンターだからな。待遇も自然と良くなるんだ」

 

「ふむ」

 

「取り敢えず外で話すのもあれだから中に入ろう。これからは、君の家でもあるからな」

 

「人間の住処に入るのは龍の中では私が初めてだ。どんなものなのだろうな?」

 

「散らかっているし余り期待はしてくれるな」

 

そう言ってからディアを招き入れる。

 

俺の家はデカい。

と言っても村長や村の集会所の方が建物的には大きいんだが、それでも村の中では三番目ぐらいだ。

と言うのも武器やモンスターの素材などの危険なものも多いのでハンターになった時、家を新しく建てたのだ。しかも三階建て。

この世界において建物と言うのは、街などに行けば石造りや煉瓦造りの建物もあって前世の高層ビルほどでは無いが、4階建や5階建の建物もある。

ただ、そう言った建物の殆どはギルドなどの何かしらの大きな組織が建てて使用しているのが殆どで個人が所有し住んでいるというのはまず無い。

 

居住する事を目的とした建築物は、殆どが一階建か二階建で出来ており、俺が住むような村であれば村長宅や村人の集会所が三階建で作られるぐらいだろう。

俺の村は村長宅が二階建であるぐらいだから俺の家は破格と言っていい。

 

まぁ、危険なものや嵩張るものも多いから二階建だとどうしてもスペースが足りなくなる。

ゲームみたいに幾らでも放り込めるアイテムボックスなんて無いからな。

武器や防具は命を預ける物だから重ねるわけにもいかない。

他の調合素材なども混ぜるな危険、と言ったものもあるし扱いを一歩間違えれば死に繋がる物だとか、結構多い。

それらの物や村を守る為にも広い家は必要不可欠だ。

だから一階部分に殆どの物を置いてあり、風呂と台所、食料庫が一階に併設されているぐらいだろう。

 

一階が最も広く、二階三階と段々と面積は小さくなる。

一階には様々な物が置いてあり少々手狭に感じる。

武器防具に始まり、壁で仕切られた先に風呂場があって、さらに仕切られた奥に台所がある。

食事も一階で食べる。

 

流しや調理台、竈門、包丁などの調理器具をぶら下げるためのラック。

様々な作物も食料庫の部屋に入れてあり、そこには野菜だけでなく穀物類や狩りをして獲って来たブルファンゴやアプトノスと言ったモンスターの肉が長期保存用に干し肉にされたりしてぶら下がっている。

他にも川で釣った魚や各種野菜類、調味料。

 

冬の間は肉などは狩りに出かければ得られるのだが、基本的には巣篭もり状態で村の中を出歩くぐらいが精々、行商人も来ないため、野菜などは手に入らないので自宅の畑で採れた分を大切に使わないとならない。

特に俺は米が好きなものだからココットライスなどを大量に備蓄してある。

 

 

実際に居住しているのは二階と三階部分になる。

二階には十字状に四部屋、三階は二部屋。

一人暮らしと言うのもあって実質二階は全く使っていない。イチジクが住んでいたのは二階だけだ。

 

薪などは外に掘立て小屋の様なものを自分で建ててそこに纏めて置いてある。

小屋と言っても屋根と風を通すための穴が開けられた壁で三方向を仕切ってあるだけで、乾燥を良くするために一方向は柵だ。屋根は雪が積もっても潰れないように傾斜をキツく付けてある。

 

何か作業をするとなると大体一階か家の裏手の庭でやるのが殆どだ。

 

自分の村に戻ってハンターをする人間も一定数以上の数が居るとは言え、やはり大きな街などに出てハンター稼業をする者の方が多いのだ。そちらの方が色々と便利だし、ソロで活動しなくとも良いからだ。

 

ソロで、となるとやはり何かあった場合、一人だけで物事の対応を迫られる事になりはっきり言って命の保証は無い。

だから俺の様に村に戻ってハンター稼業をする場合はオトモを雇うのだ。

 

そう言う場合、村にハンターになって戻って来たりすると村から離れてほしく無いから待遇を良くするのだ。

ハンターが居る居ないで村の存亡が大きく関わって来るから。

俺は、この生まれ育った村を入れて辺り一帯で唯一のハンターだ。

だからこの村だけじゃなくて他の村の存亡にも絡んでいるし依頼が来る事も多い。

だから家を新しく俺の為に用意するとなった時、他の村からも資材や金が出されているのだ。

 

 

あと、説明する事は……。

そうだな、この辺りは冬になると雪が降り積もる。しかも一階部分を丸々埋めてしまうぐらいには。

だから一階建だと家から出れなくなってしまうのだ。だから地域にもよるが豪雪地帯は大体二階建の建物が多い。

 

庭とその奥にある畑では、薬草などの育てやすい狩りに行く時に消耗するものを育てている。

少しばかり手入れが面倒だがアオキノコも。

あとは菜種だ。菜種が殆どと言っていいほどには畑を占めている。

理由は追々説明しよう。

 

俺が世話をしている畑はそれらのアイテムなどで作物などは両親と共に世話している面積の広い畑で育てている。

本業はハンターであり、それ故に頻繁に依頼を受けこなすために出て行ってしまうから畑の世話が難しいのだ。面積が小さいものであれば問題無いのだが作物を育てるほどの大きさの畑になると世話が出来ず枯らしてしまう。

薬草やげどく草は、自然界に生えている通り、適度に水をやっておけば勝手に育つ。

雑草を抜く必要は無いんだが諸々の理由で雑草抜きして居るから、それはもう物凄く良く育つ。

アオキノコはキノコだから日の当たりにくい場所で水分を多めに与えておけば問題無い。

 

薬草とアオキノコはよく使うからそうでも無いんだが、げどく草はあまり使わないのに畝を一本丸々使って育ててしまったからかなり余り気味なのだ。

まぁ、片っ端から解毒薬に調合して瓶詰めしてしまえば長期保存は可能だから問題無いんだが家の薬品棚の4分の1を解毒薬が占めているほどには在庫がある。

作り過ぎた。これでも村の皆に分けたんだがなぁ。

 

今度はハチの巣をどうにかして手に入れて、ハチミツも自分で手に入れられればいいと思っている所だ。

何せ回復薬グレートを作るのに必要なハチミツは、村では育ててないもんだから森に取りに行かなければならない。だから余裕があるわけじゃ無いのだ。

行商人から買うのだと高くつくし、出来る事ならば自分で育てた方が金も掛からずに済む。

 

その為に果物などの苗木を買って来たのだ。

今度、行商人に頼んでハチの巣と養蜂箱を取り寄せてもらうか。

 

「フェイ、何を考えている?」

 

「ん、あぁいや、これから何をするのかを計画していた。取り敢えずは、養蜂をやってみようかと思ってな」

 

「何故だ?」

 

「ディアの傷口にかけていた物があるだろう?あれを作るのにハチミツが不可欠なんだ。それに、薬品にせずとも食用としても重宝出来る」

 

などと話しながら家の中に招き入れ、取り敢えず、そのまま着続けていた防具と太刀を下ろす。

ラックに掛けておく。手入れはディアが寝た後にでもやろう。

ディアを三階の居住階に連れて行く。

人間の家に入るのは初めてだからか家の中をキョロキョロと見回し、ふんふん、と匂いを嗅ぐ。

やはり、龍だから鼻が良いのだろうか。

 

……臭っていないよな?

 

「雄の匂いがするな」

 

「……」

 

「なんだ?」

 

「いや、その、すまない……」

 

「?何故謝る?雄の匂いがすると言うことは、しっかりと子孫を残せると言うことだぞ。それの何処に謝る理由があるのだ?」

 

なんとも居た堪れなくなり、顔を右手で覆う。

それを見て、疑問に感じたディアに謝ってしまうがさも当たり前のようにディアはそう返す。

なるほど、龍と人間の常識などのすれ違いと言うことか。

 

俺達人間の男にとって女性に、雄の匂い、正確に言うならばSEXをしてもいないのに精液などの匂いを嗅がれる、と言うことは通常であれば恥ずかしいことだ。

だがしかし、龍はその匂いでもって雄が雌を孕ませる事が出来るかどうか、と言う最低条件を満たしているかどうかを判断するのだろう。

 

自然の中で生きる生物にとって子孫を残す、と言うことは龍に限らずとても重要な事だ。

何しろそれが出来なければ、一族、ひいては種そのものが絶えてしまう。

だから何よりも、龍は子を成せるか否かと言う事は雄や雌と言う観点から見た場合、何よりも重要な事となる。

 

それによって、人間にも同じことが言えるが、より強くより賢くより良い雄や雌と子孫を残すべく争うのだろう。

 

「あー、いや、常識の違いが出たなと思ってな」

 

「ふむ、なるほど。確かにこれから先私がこの小さな群れとは言え人間社会の中で暮らしていくのに人間の常識を持ち合わせていないと言うのは宜しくないな……。なるほど分かった、フェイ」

 

「なんだ?」

 

「私に人間社会の常識を教えてくれ」

 

「構わないが、良いのか?」

 

「良い、とは?」

 

「何も別に無理をして合わせる必要も無いんだ。ディアはディアらしくあれば俺はそれでいい」

 

無理をしていないか、と聞くと凛とした表情を崩してキョトン、とする。

……可愛いな。

 

いやそうではない。

 

「無理はしておらんぞ?それに、聞いたことがある。人間は自分達と違う存在を群れから省いたりするのだと。もし私がそうであれば、フェイまでもがそう見られてしまうではないか」

 

「……そうか。ありがとう」

 

「ん」

 

「しかし、龍は人間のように違うものを省いたりしないのか?」

 

「しない。我ら龍は決してしない。一族の中に例え目が見えない子や耳が聞こえぬ子、声を上げることが出来ぬ子が産まれて来たとしても決して殺したりはしない。そのような子が産まれて来たならば親龍を中心に一族全体で子が、雌であろうと雄であろうと子を成せるようになるまで共に育てる。特に一族の長は知識や知恵が豊富だから親龍にどうすれば良いのかを伝えながら筆頭になって支える。怪我をした龍も同じように皆で面倒を見る。まぁ、余程のことが無い限りは怪我などしないが」

 

「なるほど……」

 

「群れの中にも目が見えないやつはいるぞ。もう立派に成長してとっくに番を作っている」

 

推測の域を出ないが、恐らくミラボレアスと言う古龍種自体の数が少ない事や、長寿であることなどが影響している理由で産まれてくる子供の数が少ないのだろう。

だから、人間のように身体に障害があるからと言って子を捨てたりはしないのだ。

 

理由は憶測の域でしかないが、例えそうであったとしてもなんとも愛情深いではないか。

少なくとも、御伽噺で語られるような、暴虐の化身ではないと言うことだ。なんなら人間の方が殆どの生物からすれば暴虐の化身だろう。

 

龍達は数は少ないながらも人間と同等、いや人間が形成する社会よりも遥かに高度な社会を形成している。前世の世界でも子に対する手当は十分とは言い難い状況であったのに、ディア達龍は完璧とは言えないのだろうがそれでも努力によってそれに近しい結果を出している。

 

しかも、何よりも怖しいと言うか、率直に感心する事はなんなのかと言うとディアだけに言える事なのか、それとも古龍種全体に言える事なのかは分からないが、永く生き自分達が生物として殆ど天敵もおらず最強と言っても間違い無いのに、知識を得る事に対してなんら抵抗を覚えずにそれを自分達のものにするところだ。

普通、そこまで高度な社会性を有する生物、特に人間に言える事だが他から知識や力を得る、借りると言う事を好んで行わない。それは自分達が正しいからだ、と思っているからだ。

 

しかし龍は例えそれが他の生物の知識や知恵であっても決して自分達の価値観や常識を押し付けようとはせず、寧ろ学んでどういった生物達なのかを知ろうとする。

そして自分達はどうするべきなのかを考えている。

更にはそれらの知識を同族間で共有しているのだ。

俺達人間の事を、知識として知っているのもそれが理由だろう。

 

知識とは力だ。

知識が有る無しで生物の生存率やその種全体が生き残る可能性が高くなる。

前世で考えるのが最も簡単だろう。

 

学校に通い、知識を身に付け社会に出る。

 

極端に言えば学歴社会のが分かり易いかもしれない。

何故なら学業で身に付けた知識があれば、最低限生きていけるからだ。

問題なのは、それを活用しながら生きる事が出来るかどうか。

言い方を変えるなら人間社会を上手く渡り歩く事が出来るかどうか。

 

例え本人がいくら努力して知識を覚えたとしても、その本人が知識の活用方法を知らなければ意味が無い。そしてその人間を雇う側にも同様のことが言える。

単純にその職で働かせる為に教育する、と言うのではなくその本人の知識に出来るだけ沿った職を与えるのが理想だ。あとはそれぞれの職場でのやり方などを教えればいい。その方が時間も金も掛からずに済む。

 

例えば、農業を学ぶ為の学校を卒業した人間にコンピュータなどを修理する職を選んだり与えたりするか、と言うことだ。

農業について学んだのならば、その方面で働けば良い。

だがどうにも殆どの場合、そうではなく与えられる給金や地位によって職を選んでいる節があるから、給金が良くとも離職してしまう人間が多いのだと考える。

他の要因も十分に大きいだろうが、まず大前提として自分の知識が使える職を探し出してそして就く事が出来るか、と言うのが重要だろう。

それが出来てから、漸く別の要因で辞めるか否かとなってくる。

 

人間関係が理由、として辞めたりするのもあるだろう。

それが一方的に他者から虐げられたりしたと言うのであればそんな職場には居ないほうがいい。

自ら命を絶つ事を考えるぐらいならば自分の命を守り生き長らえる事が最も大切であり、尊重される行為だからだ。自分の命を守るべく行動して何が悪い、と言うことだ。

軍人や、俺のようにハンターだって平時であればそう行動しても文句は言われまい。ただ緊急事態になったらそうは言っていられないと言うだけだ。

 

だがそうではなく、単純に誰それが気に食わないから、周りが従わないからと言うことを聞いてくれないから、などの理由で辞めるのならばそもそもの話が間違っている。

社会性を有する生物、と言うのは例外無く自身を抑え、最低限周りに足並みを揃えて生きているからだ。

 

よく、前世では国毎にその辺りが仕事にも関係してくる、と言う。

ある国では例え間違っていた、間違っているのでは?と考えても周りに合わせる事が重要だと。

ある国では間違っていたのなら、間違っていると感じたのならば声を出してそれを指摘する事が重要だと。

 

何処の国でも同調圧力と言うものは存在する。

この世界だってそうだ。

 

最低限周りに足並みを揃えようともせず、自分の意見が通らないからと、従わないからと言って辞めるのは大間違いも良いところだろう。

それは、ただ単に自分の欲しいものを買ってもらえず駄々を捏ねている幼子と変わり無い。

社会性を有している生物は、どうしても他の同種と足並みを揃えなければ生きていけないのだ。

人間などの霊長類や猿、ライオン、狼、蟻などの群れを形成する生物は程度に差はあれど独自の社会性を築いている。

 

故に、ライオンや狼で例えるならば一頭が役割をこなさないだけで獲物は獲れなくなるし、縄張りを守る事もできなくなる。

 

 

特に複雑な社会性を構築している蟻で例えよう。

他の蟻は足並みを揃え、決められた事や守りやるべき事を少なからずやっている。

その時その時や冬に備えての食料の調達、敵と戦うこと、子を育てることなど。

 

だがしかし。

それぞれの役割をこなす蟻のその中に、一匹でも全くと言っていいほどそれをしない蟻が現れたなら、その巣は全滅する。

何故ならば、得ることの出来る食料の量が減り、その分他の蟻への負担が大きくなる。

そして巣の蟻や子に与える食事も減り、子の世話をする蟻の数が減り、子は清潔さを保てなくなったり十分な食事を得られず死ぬ。

外敵と戦ったならば兵隊蟻はただ一匹の蟻が戦うことをしなかったせいで巣を守ることが出来なくなる。勝ったとしても、子が十分な数が育たず兵隊蟻の数はあっという間に数を大きく減らすだろう。

 

蟻の法則、と言うものがある。

 

「二割はよく働き、六割は普通に働き、二割は怠ける」

 

これはまさしく社会性を有する生物を的確に指していると思う。

ただ、俺が例として説明したことと決定的に蟻の法則と違う点は、怠け者がいると言ってもその怠け者も少なからず働いている、という点だ。

 

俺の例は、全くなんの役割もこなさずにただ生きている、と言う事を言っているのだ。

それの有る無しで、本当に種全体の存続に関わるのだ。

 

人間で説明しなかったのには理由がある。

人間というものはどうしてか、全く働かない者がいたとしても種が存続する事が出来る。

不思議で仕方がない。

 

単純な話なのかもしれないが、他生物と比較した時に生産効率などが圧倒的であるからカバーし易いのでは?と思う。

 

別にそれらに対してとやかく言う気はサラサラ無い。何か働けない理由があるのだろうからそれを責めるのは間違いだからだ。決定的に他者とのコミュニケーションが取れないだとか、何かしらのトラウマを抱えているだとか様々な理由がある。

それを馬鹿にして責めるのは筋違いであり、責められるべきは多数派である方、それらの何かしらの問題を抱えている人間に歩み寄ろうとしない側だ。

精神論根性論は、語るは易しだが実際にやれるかどうかは別物、実施する側としては最悪と言って良い。そんな上司であったら間違い無くどれだけ仕事が出来ようとなんだろうと信用してはならない。

 

もし信用しその人物の下で働く、と言うなら自分の心身を文字通り削り命を消費しながら働く事を覚悟するべきだろう。

自分が出来るから、やれたから、やっているからと押し付けてくるぐらいなら別の誰かに教えを乞うた方が遥かにマシだ。人間とは物事を論理立てて行動し、行動した結果どうなるのかを、高度に予測することができるのに、どう言う訳かそれを行わずに行動する人が多い。

だから訳の分からない、説明を付けることが出来ない理由で失敗する人がいるのだ。

 

まぁ、どちらともが互いに歩み寄るのが理想ではあるのだが、トラウマを抱えた人間にそれを求めるのは酷なものだろう。

 

対人恐怖症の人間に接客業をさせるか?男性恐怖症や女性恐怖症の人間にそれぞれを相手させる仕事をさせるか?

 

と言うことだ。

 

 

 

 

 

随分と考えがズレてしまった。

話を戻そう。

 

龍が何故少ない数であるのにも関わらず、子が少ないのにも関わらず存続し続けられるのか、と言うと恐らくその辺りに要因がある。

 

龍はその辺りがどうも、無いとまでは言わないがかなり薄いのだろう。

この世界は力こそ全て、の弱肉強食の世界であるのに、数の少ない古龍種が生き残れるのは例えどんな理由があろうと子が弱肉強食の世界の中で生き残れるまで支え、そしてその後も放逐しないからだ。

 

何かあれば一族全体で支える。例えそれが怪我であろうと病であろうと出来得る限り。

でなければ一族、ひいては種そのものの存続に関わる。

 

彼らはその事をしっかりと分かっている。

生物として、祖先から長きに渡って継承されてきたものは知恵だ。それは本能と言う形で現れる。

それらのことを龍は本能としてしっかりと理解し、受け入れて更には活用している。

危険な場所や食べ物、天敵となり得る生物の判別の仕方はまさにその通りだろう。

だがこれは、知恵だ。

 

対して知識とは自分達が努力しなければ得られないものの事だと考えている。

そう、龍は知識を得るために努力する事を決して億劫だと考えないのだ。知識を手に入れる方法が人間の様に書物を読み漁るだとか、研究するだとかどうやっているのかは分からないが、ともかく努力をすることを億劫である、面倒であると考えない。

 

しかも、龍達は驚いたことに知識を得て頭でっかちになるのではなくそれを実際に本当なのかどうかと言う事を確かめ、それが事実であるならば事実であると受け止め、違っていると言うのならば訂正した知識を学び活かす事を躊躇わず、その結果が例え良かろうと悪かろうと、そうでもない、特筆すべきものでは無い、どの様なものであったとしても子に語り継いでいる。

それが、一族全ての糧となると信じているし、実際にそうだからだ。

 

しっかりと自分達の立ち位置を理解し把握して他生物を本当に尊重しているからこそ出来る事だ。

 

「我らが生きていられるのは、他の生物があってこそ。私達の獲物となる生物がいて、その生物が獲物としている生物がいる。それが延々と続き繋がり巡っている。だから、決して敬意を欠いてはならないのだ。その敬意を欠いた時、我ら龍だけで無く他の生物も滅ぶ」

 

他生物と完全に関わりを持たないでもなく、だからと言って深く関わるでもなく。程よい感じに距離を保ち続ける。

必要になるまで力を振るう事はしない。

 

自分達が如何に他の生物を簡単に脅かし滅ぼす事が出来る力を有しているのかを、はっきりと分かっている。

そしてもしそれを不用意に振るえばどうなるのかを予測している。

この辺は人間、特に前世の人類に言える事だろう。

 

核兵器の真の恐ろしさを知っているかどうか、と言えば分かり易いかもしれない。

その力だけに囚われリスクを考えずに使えば、どうなるか。

 

と言うことだ。

まぁそれでも一部の人間は使いたくてしょうがなかったりする訳だが。

 

人間ぐらいなものだ、意味も無く力を振るい他を虐げるのは。

 

それらの説明した事柄を、しっかりと理解していて理性を働かせて抑え、どうすれば良いのかを考えている。

 

これが何よりも驚くべき、尊敬し見習うべき点だ。

 

ただ唯一、殆どの人間のことは余り好きでは無いようではあるらしいがまぁうん、致し方無い。

殆ど、と言うのは俺みたいに気に入られ、夫婦になっているのが居るだろうからだ。天文学的数字になりそうな確率であるような気がしてならないし他にいるのかも分からないが。

 

恐ろしいような、光栄なような、なんとも言えない気持ちだ。

 

 

ディア達龍は物事を忘れない。

受けた恩や、返された恩、受けた仇や返された仇。

 

それら全てを記憶し覚え一族全体に共有する。

人間には、「忘れる力」と言うものがある。嫌な事や不都合な事、失敗を忘れる為の能力だ。

 

しかし龍は、それが出来るのにも関わらず自分達に起きた物事を決して忘れない。

だから彼らには、沢山の苦労があるのだろう。

だがそれすらも受け入れているからこんなにも知恵深く、知識深く、優しい存在なのだ。

 

まぁ、優しいと言う点は自分達と同じ種族や一族に向けられるものだから敵対さえしなければ、攻撃なんてしてはこない。

俺からすれば人間は滅ぼされていないだけその優しさや寛容さを受けていると思うが。

 

シュレイド王国の話も、寧ろシュレイド王国が滅ぶだけで済んで良かった、と言うぐらいだ。

もし彼女ら龍が、苛烈であったなら間違い無く人間はとうの昔に滅ぼされているに違いない。

 

 

 

 

ディアの話を聞いていると、それはもう知らないことばかりで興味が湧いてきて仕方が無い。

この世界には前世の知識が通用する部分も多々あるが、その逆、通用しない事も多い。

 

だからもう、未知の知識への探求と言うか、知りたいと言う欲求が溢れてしまう。

特に俺は前世はたった片手でほんの数秒あれば何事も調べられてしまう世界にいたものだから、この世界に来てからは前世のようにそう簡単に知識を得られなくなると、目の前に知識を与えてくれるものがあるとどうにも知識欲が爆発して仕方が無いらしい。

 

別にそれらの事を知って覚えて古龍観測所だとか書士隊にその情報を渡すわけでは無い。ディア達からすれば別に隠している事では無いのだから話してしまっても問題は無いのだろうが、どこか裏切りに近いのではないかと勝手に思ってしまう。

 

だがそれでも、色々聞いてみたくなってくる。

 

「ディアは、産まれつき白だったのか?」

 

「そうだ。基本的には我ら龍は黒だが稀に白や紅の鱗や殻、毛を持った龍が産まれることがある。大体産まれてくるのは一族の中でも決まった家族だけだ。私の祖父も白だ。だが親が白である、紅であると言っても子が必ず白であると言うことはない。本当に稀に、だな」

 

ディアの話を聞くに、体色などは恐らく遺伝や突然変異なのではないだろうか。

祖父も白であると言っているから、遺伝説の方が強めのどちらもある、みたいなものだろう。

遺伝で産まれる確率の方が高く、突然変異でも低いながら産まれてくる、そんな感じだ。

 

隔世遺伝とか色々あるんだろうが、その辺は詳しくはないから分からないが大体決まった家族で産まれてくると言っているから間違いでは無いと思う。

 

とすると、他のモンスター達の亜種や希少種も同じ事なのだろうか。

実際、リオレイア、リオレウスの両希少種から始まって亜種希少種というのは確認されている個体数は極端に少ない。

 

「今現在私が知っている限りだが、私と同じ白は祖父を入れて他に四、紅は五と言った感じだな」

 

「随分と少ないな」

 

「産まれてくる事が殆ど無いからな。私が産まれた時はそれはもう大騒ぎだったそうだぞ。それでも我ら龍の全体の数を考えれば多い方なんじゃないか?あと他に違いと言えば、そうだな……、紅は雄で産まれてくる事と血の気が多い奴が多い。故に昔は人間と時偶ぶつかったりする事もあったらしい。人間は今よりもずっと強く賢く手強かったらしいがな」

 

ぶつかるって、多分その時の人間からしたら命懸けだったと思うんだが。

 

「逆に白は雌で産まれてくる事と比較的穏やかである奴が多いな。祖父は特に穏やかだ。黒は、普通、と言った感じか。それでも性格は千差万別だから必ずとは言えないな。紅でものんびりした大人しい奴もいるし白で気性が荒いのも居る」

 

「それに黒白紅は使うことの出来る力も違う。似通ってはいるが厳密に言えば違う。黒は炎を使えるが、私は雷だ。紅は、なんなのだろう……?一応炎なのだろうが、吠えると空から星が降ってくるしな」

 

「そうなのか。俺はディアしか知らないから比較すら出来ないな」

 

俺の中で、古龍種といえばディアのことだ。

彼女しか知らないから。機会があるのならば、彼女の両親や一族に挨拶に向かうのも良いかもしれない。

 

だが、親に挨拶をするって人間独自のもののような気がしてならない。

他の生物は、番を作ったりする時に自分の親を探し出してこの雌と、この雄と番になる!だなんて一々報告しないからな……。そのへんはどうなんだろう。

 

「人間の雄は、穏やかな雌を好むと聞くがフェイはどうなのだ」

 

「俺か?うーん、特には気にしないな。ディアはディアだ」

 

好みを聞かれるが、別に特段これと言って何かあるわけではない。

そもそも、女性と接する機会が少ない世界だ。同業の女性もそう数は多くはない。

接する機会、といえば家族や村の皆、あとはハンター養成所に通っていた時に友人達と時折出向いた娼館ぐらいか。

 

自分の妻が、よほど酷い性格、他者を虐げることに躊躇いが無かったりだとかでなければいい。

 

「……嬉しい事を言ってくれるではないか。何、嫌だとでも言おうものならどうしてやろうかと思ったぞ」

 

「冗談は止してくれ」

 

「冗談な訳があるか。言っただろう?龍は独占欲が強い、と。同じ龍の番でもし自分の雄、夫が他の雌に目を向けたら大喧嘩だ。辺り一帯が更地になり地面が抉れ返るほどのな。周りの龍は止めに入らずに静観するから援護は期待出来んぞ。だがフェイとは喧嘩は出来ん。やろうものならぷちりと簡単に潰してしまう。だから、分かるな?」

 

ディアに頬を撫でられながらそう言われ、首をコクコクと縦に振る。

どうしてだろう、ディアの手は少しひんやりとしつつも温かいのに、それ以上に冷たく感じるのは。

 

「何、そう怯えずとも私はそんな事しない。まぁ、フェイが間違いを犯さなければ、の話だが」

 

大喧嘩と言ったが、絶対に一方的な喧嘩だろうそれは。

俺相手に喧嘩は出来ないから、分かるな?と言った時、目が光っていた。

絶対に碌なことにならない。

 

釘をぐっさりと深々突き刺された気分だ……。

目も龍になっていたし髪の毛が少しブワッ、となったような気もする。

 

何処の世界も、どの生物も奥さんには頭が上がらないのが常らしい。

 

俺は、心の中でけっしてディア以外の女性に見向きするものか、と堅く、堅く誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

家に戻ったのが、既に太陽が沈んでから暫くが経った頃だったから今はもう時刻的には良い時間だろう。

風呂に入って、武器防具の手入れをしてさっさと寝てしまおう。

灯りを灯している油も勿体無いからな。

 

それに夜だとしても、灯りがなくとも星空が照らしてくれて居るから存外明るかったりする。

月明かりなんかはそれはもう、綺麗なものだ。今日は月は出ていないから星だけだがそれでも十分すぎるほどに明るい。

 

 

さて、と腰を上げて棚から二人分のタオルを取り出し、自身の着替えとディアに街で購入した下着や着替えを用意させる。

風呂に入るのだ。

 

この村は、温泉が出る。

と言ってもゲームのユクモ村の様にじゃばじゃば湧いてくるほどの量は無い。

 

源泉が1箇所あるだけでそれを家々に引いて分けているのだ。

源泉掛け流しと言えば聞こえはいいが、温度はそのままだと物凄く熱い。そのまま入れば全身火傷は必至なほどの温度だ。

 

だから、村のすぐ裏にある山で湧く、湧き水を入れて水量と温度を調整するのだ。

そうするとお湯となって浴槽に丁度良い水嵩で張ることができる。

本当に有難い。薪を使って沸かさなくて済むし、狩りの後の汚れ塗れのままで居なくて済む。身体を拭くと言う方法もあるにはあるんだが、それだとどうも……。

 

「ディア、風呂の入り方は……」

 

「分からん。水浴びしかした事がない」

 

だろうな。

寧ろ聞く方が馬鹿だ。龍が普通温かい風呂を沸かして入る訳が無い。

炎を吐けるから、沸かせそうな気もするが沸かす、と言うより沸騰蒸発させる、の方が表現は正しいかもしれない。

 

「それじゃあ、教えるからこっちに来てくれ」

 

ディアを連れて、身体を拭く為のタオルと前世と比べれば粗悪ではあるが石鹸を持って一階に降りる。

 

石鹸は買ったんじゃない。自分で作ったのだ。

石鹸を作ること自体は簡単だ。

油と強アルカリが用意出来ればいい。

 

油は、植物油と動物油に分けられる。

比較的安定して手に入れられるのは、栽培をしているならば植物油。だがそれは油を絞る事が出来る植物を栽培している時に限る。

 

動物油の方が、モンスターを狩ったり飼育しているアプトノスから取れるから手には入り易いんだが獣臭いのだ。

 

菜種は畑で育てているから問題ない。

食用としても使えるし、火を灯して灯りとして使う事も出来る。

一リットルの菜種油を得るのに大体二〜四kgの菜種が必要になる。

あとは強アルカリだが、これは畑やそこらに生える雑草やらで作る事ができる。

 

と言うのも、この雑草を焼いて出来た灰から強アルカリを作れると言うか分離させる事ができる。

 

灰を水に入れて撹拌すると大体十〜十五分ほどで沈澱した灰と上澄みに分かれる。その上澄みの部分が強アルカリという訳だ。それを、菜種油に混ぜて、掻き混ぜ掻き混ぜ掻き混ぜ続けると段々と固形化してくる。

 

そうしたら木枠に流し込んで天候にもよるが大体一〜三日ほど乾かせば石鹸の完成、という訳だ。

これを毎年作っているという訳だ。

現状、俺と両親、イチジクの家族で使う分しか作る事が出来ない。

俺の家の裏にある畑ではなく、両親が作物を育てている畑もあるんだが冬に備えて様々な作物を育てなければならないから菜種を作る余裕もスペースも無い。俺だって菜種を育て終えたら別の作物をまた育てるし。

それは何処の家も同じだ。

 

土地が枯れる心配もない。

この世界には訳が分からないぐらい強力なくせに自然で有機的な肥料が沢山あるからだ。

本当に、なんでこの世界の生き物やらなんやらはこんなに生命力に溢れていてパワフルでタフなんだろうか?

前世なら異常だと騒がれる事間違いなしだぞ、ほんと。

 

 

 

石鹸を作って使っているのなんて我が一家ぐらいなもんだ。

贅沢な限りだが本当に狩りの過酷さを知ったら絶対に欲しくなる。重労働なんてもんじゃないぞ。数日水浴びしないなんて依頼で出てしまうと当たり前だからな。酷いと道中入れた一ヶ月ぐらいは全く水浴び出来ない。

 

川などが無い砂漠地帯のハンターはより苦労している。何せ川は他の生物にとっても生命線だから下手に近寄ろうものなら目的のモンスターではないモンスターとの戦いになる。

街はオアシスに出来ているから帰れば風呂に入ることは出来るんだが、道中なんかは男女関係無く臭いがキツくてしょうがないと聞いた事がある。

その分、報酬はずっと良いんだが行きたいとは、思わないな……。

 

 

動物油は、モンスターから取れるんだがまぁ、なんというか、臭い。

それはもう獣臭い。モンスターにもよるが取り敢えず獣臭い。

一応、獣臭さを消す為に色々と試してはみたんだがどうやっても獣臭さを消す事が出来なくて断念したのだ。

 

 

とまぁ、そんな訳で手に入れた石鹸は、香りなんて無いただ汚れを落とす為だけのものだ。

一応、菜種油だからほんの少しばかり匂いはあるが、なんとなく揚げ物になった気分になる匂いだ。

 

……龍田揚げか。

いやいや、自分の妻に対して何を考えているんだ俺は。

 

 

そんな石鹸であるが売りに出せばそれなりの値段で売れると言うのだから驚きなもんだ。

香り付きのなんて金持ちぐらいしか使わないしな。

 

 

因みにイチジクはこの家には居ない。

何故ならば、

 

「ご主人の邪魔しちゃ悪いニャ。と言うかこのままここに住んでたらヤバそうニャ。あ、子供の遊び相手はお任せだニャ」

 

とかなんとか言って荷物を纏めて両親宅にさっさと引っ越して行った。

出来たオトモである。

 

であるが今ばかりはここにそのまま住んでいて欲しかった。

 

 

 

 

「この大きな容器に熱湯を注いで、こっちの冷たい水で温度調節してくれ。それが終わったらこの石鹸、と言うもので全身を洗って溜めた温水に浸かる。それだけだ」

 

「人間は面白いことを考える。龍も水浴びはするが温かい水を使うとは考えないからな」

 

ディアは人間の生活などが珍しくて仕方が無いらしい。

この村に来てからと言うもの、好奇心旺盛、興味津々と言う言葉がぴったりの様子で頷いている。

街では周りを威圧してばかりで気にならなかったのか、そんな素振りは全くしなかったからこの村ではリラックスしていると言うことだろう。

 

「それじゃぁ、ゆっくり入ってくれ」

 

「何処へ行く?」

 

「は?」

 

「フェイ、お前も一緒に入るのだ」

 

風呂場から去ろうとすると、がっしりと腕を掴まれる。

こんな細腕の何処にそんな力が……。あぁいや、ディアは龍だった。人の姿になろうと力はそのままと言う事だろう。

力そのままに人間の姿をしている訳だ。そりゃぁ、力が強いのも五感が鋭いのも納得だ。

 

「何を言ってーー」

 

「龍は、独占欲が強い。そう言ったな?」

 

「あぁ。だがそれとなんの関係が?」

 

「龍は、番になったならば可能な限り常に共に生きる。寝食は勿論、水浴びや番によっては排泄に至るまで。自分の番、私の場合はフェイが他に行かぬように、フェイは私が他に行かぬようにする。本来は、真っ先に交尾を通して繋がるのだが、どうやら臭いを気にしたりする辺りフェイに限らず人間は水浴びをしてからのようだ。そこは私が折れてやろう。だがこれは、フェイに折れてもらうぞ?」

 

「いや、俺は何処へも行きはしないが」

 

「駄目だ。私が人間の常識を身に付けるのだから、その逆、フェイが我ら龍の常識を身に付けるのも然り」

 

なるほど、人間の常識を教えろと、学びたいと言ったのはこの為だったのか。既に退路を断たれていたと。

流石は知恵深き龍。

いや、感心している場合では無いな。

 

このままでは、不味い。非常に不味い。

確かに夫婦になったのだから床を共にするのも自然だろう。だが風呂に一緒に入るのは流石に行き過ぎではないか。

 

そう考えて反論しようにも、道筋も何もかもを閉ざされて八方塞がり状態だ。

多分、何を言っても聞き入れてくれないし断固として譲らないだろう。

しかもディアの目が龍のものになっているから、本気も本気、もし断固拒否すれば、と言う状態な訳だ。

 

……選択肢なんて最初から一つだけじゃないか。

 

 

 

 

「おぉ」

 

脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入る。

ディアは何の躊躇いもなく当たり前であるかの様にその肢体を隠す事も無く晒すから視線を何処に向ければ良いのか。

 

しかもディアは人間の時でも身長が高い。

俺の身長が百八十五cmほどであるのに対してディアは百八十cmほどだろうか。

だから目線を上に向けないと彼女の端正過ぎる顔などが視界に入る。

男としては決して嫌では無いし見たいとは思うが、こうもディアの方が隠さないとこちらが隠してしまうし恥ずかしくなってくる。

 

「む、何故隠す。それと私を見ろ」

 

「いや待て、待ってくれ」

 

「駄目だ」

 

「いたたたた」

 

龍自慢の馬鹿力で逸らしていた顔を無理矢理向けさせられ、股間を隠していた手をあっさり退けられてしまう。

隠すのも目線を逸らすのも諦めて、ディアを見る。

 

やはり、凄い美人だ。

どうやったって人間では辿り着けることのない、いっそ神と言われても納得出来るほどだ。

 

しかも出る所は出て引き締められている所はしっかりと引き締められている爆弾ボディ。

こんなの反則も良いところだろう。

 

「ほら」

 

「?」

 

「洗え」

 

「俺が洗うのか!?」

 

「そうだ。互いに洗い、仲を深める。おかしな事か?」

 

「いや、おかしいと言うか……」

 

「ならば問題あるまい。ほら」

 

石鹸を手渡され、洗えと言われる。

葛藤したが逃げる事は出来ないに違いない。

 

えぇい、もうどうにでもなれ。

 

小さなタオルをお湯に浸し、石鹸を泡立てる。

そして、さぁ洗おうとしてタオルを背中に当てた時。

 

「……何故タオルで洗う?」

 

「駄目なのか」

 

「龍はそんなもの使わず互いの身体で直接洗う。その方が汚れが落ちるしより仲を深められるからな」

 

肩越しに振り向いたディアに、じぃっ、と見つめられて言われる。

もうここまで来たらヤケクソもヤケクソ。タオルを水でざっと流して石鹸を落として、手に石鹸を乗せ泡立てる。

 

「洗うぞ」

 

「ん」

 

ディアの背中に触れた瞬間、柔らかく温かな感触が俺の武器を振るったりし続けたおかげでゴツゴツと硬くなった掌全体に伝わる。

それからはもう、無心になって洗い続けた。

なんだか身体の前面や局部までも洗ったが記憶は無い。あれは、記憶に残しておいてはならないものだ。間違いない。

 

それで済めば良かったんだがそうはならないのがお約束という所だろう。

自分で身体を洗おうとすると、手をがしりと掴まれ、椅子に座らされ、有無を言わさずディアの身体で全身全てを洗われた。

頭から足の爪先に至るまで。

 

それから少しばかり手狭になった湯船に二人で浸かり。

密着してくるディアの、尻の感触やらに悩まされたのは語るまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

風呂から上がり、何故か疲労困憊の俺はもう武器や防具の手入れをするだけの気力を残していなかった。

台所に降りて水を汲み、飲む。

 

「ふぅ……」

 

木製の自分でニス塗りまでして作ったコップを片手に溜息一つ。

あんな美女と風呂に入り身体を洗い洗われなんてしたら、誰だって溜息を吐きたくもなるさ。

 

コップを洗って、乾かすために置いておく。

部屋に戻ると、もはや驚きもしない、ディアが俺が普段使っているベッドに潜り込んで待ち構えている。

 

少しばかり、風呂上がりの熱気を覚ますためにベッドの端に腰掛けると背中側からしなだれ、寄り掛かってくる。

 

「ふぅっ、ふぅっ……!」

 

「何故そんなに息が荒い?体調でも悪いのか」

 

息が荒く、どうしたのかと聞いてみると驚きの答えが返ってきた。

 

「まぐわうぞ」

 

「なにっ?」

 

訳が分からず、反射的に聞くが声による返答では無く、行動による返答でもって返された。

 

まぁ、要はその晩から数日、文字通りディアとまぐわいにまぐわい続け搾られる、と言う事になった訳だ。

反撃しようにも、体力筋力差でまるで歯が立たずひっくり返され仰向けにされた俺に跨り抱き着く、どころか全てを密着させようと身体を押し付けながらなのだ。

 

死ぬかと思った。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……何故怒っている?」

 

「別に怒ってはいない。ただ、少しだけ不満だっただけだ」

 

事が終わり、風呂に入り後始末も終えて食事の支度を済ませて食べている時。

何故かディアの機嫌が悪い。

いや、これでは語弊がある。

 

少しだけ、本当に少しだけ残念そうにしている。

 

「何がだ?」

 

「お前が、私の他に雌を知っていたからだ」

 

なるほど……。

ディア曰く、龍は独占欲が強いと言う。

だから番となった、夫婦となった場合全てを捧げるのだ。純潔なども含め全てを。

 

実際ディアは初めてだった。

だが俺は、そうではない。養成所時代に友人達と共に何度か娼館に行って娼婦を抱いた事がある。

ディアは、それが気に食わないのだ。

だから最初はそれはもう、激しいなんてもんではなかった。ディアの背後にミラルーツの姿が見えた様な幻覚が襲って来たものである。

 

龍にはキスと言う文化は無いらしく致している時にキスをしたらそれはもう、驚きつつ嬉しそうにして、より過激に激しくなったのは言うまでもない。

 

どうやら、龍にとって夫婦となって初めての情事の最中に、どちらか一方的にするのでは無くそれぞれで何かしらの形で奉仕ではないが、こう、愛情を表現するのだそうだ。

そうする事で、本当に互いが互いを想い愛していると示すのだ。

それが、俺の場合キスになった、と言う事である。

 

それを、励んでいるときに説明されてなるほど、自分はより一層ディアに離してもらえない様になったのか、と思ったものである。

全く嫌ではなかったが。

 

お陰で、不満そうだったディアの機嫌は爆上がりして俺は搾られる事にはなるんだが、とにかく事無きを得たのだ。

 

「その、すまん……」

 

「かまわん。人間はそう言う物だと知っている。これから先、私だけを見ると言うのであればな」

 

「勿論だ」

 

「それに、上書きはしたからな」

 

「まさか、数日間拘束されて、その間ずっとしていたのは……」

 

「あぁ、フェイに私を、私にフェイを染み込ませる為だ。龍は五感全てで相手を感じる。だから、自分の番から他の雄雌の臭いがするのを嫌う。親兄弟姉妹であればまぁ、むっ、とは思うが許す。だがそれ以外は何があろうと許さん。必ず消えるまで上書きする」

 

「だから、数日間掛けて、沢山、沢山私を刷り込んで染み込ませた」

 

ふふん、と笑いながら言う。

うーむ、中々に恐ろしい事を言っているような気がするが既に毒されて来たんだろう、嬉しく思う。

 

今だって、机に対面して座っているのに足を伸ばして太腿に足先を触れ、すりすりと乗せて動かしている。

本当は、隣に座ると言っていたんだがそれだと密着される事は目に見えていたしそうなっては食事どころではなくなる。

だから、ディアの顔を前に見ながらが良いと言って対面にしたのだ。

 

 

 

食事を済ませ、洗濯掃除なども二人で、主に俺がディアに説明しつつ分担して終わらせた後。

 

 

昼食の準備の為に食料庫に出向いて凍り付いているアプトノスの肉を二人分切り取って解凍しておく。

 

食料庫には氷結晶が幾つか置いてあり冷やしている。食料庫と言っても冷蔵庫な訳だ。

 

だから肉や魚は生のままでもある程度の日数なら日持ちさせられる。しかも氷結晶、常温ではまず溶けない。だから冷蔵庫の様な密閉空間に置いておくと、前世の冷凍庫以上に冷えるのだ。

だから日持ちする、と言ってもかなり長く保存できる。

 

 

 

数日出来なかった武器防具の手入れを行うべく、使用していた太刀と防具を持って裏手の庭に出る。

それを茣蓙を引いて上に乗せておく。

 

それから一度家の中に入ってから手入れ道具を持ってくる。

 

泥などの汚れを落とす為の刷子や、防具は水洗いをザッと行う為に水分を拭き取る為の手拭いを何枚か、あとは砥石や水を張る為の桶、錆を防ぐための油など数が多い。

 

 

まずは太刀。

大凡の構造は、何か別の形をしているものでなければ日本刀と同じだ。鞘から引き抜いて、その後に柄や柄頭、鍔と言ったものを順番に外す。

 

汚れが無いかを確認する。今回は依頼でも何でもなかったから汚れは少ない。

その少ない汚れをしっかりと落として、刀身部分から研ぐ。

研ぎ終わったならば錆を防ぐ為の油を塗って終了。

それが終わったならば次は鞘などを手入れしていく。

割れたり欠けたりしている場所は無いかをしっかりと確かめて。

 

次に防具に移る。

こっちもある程度分解出来るようになっているから、頭、胴、腕、腰、脚と分けて分解してから汚れを落とす。

そうしたら丁寧に、濡らした手拭いでしっかりと汚れなどを拭き取る。

 

防具も錆止め用の油を塗布して終了だ。

 

 

本格的な手入れをしたいなら鍛冶屋に修理などで出すしか方法はない。

あくまでも、俺が出来るのは簡易的な手入れだけだから太刀の刃が欠けたりしてしまうと鍛冶屋に持っていくしかない。

 

 

 

 

武器防具の手入れを終えると早いもので昼に差し掛かっている。

昼食の支度でもして、それが終わったら畑を見に行こう。

 

暫く放置してしまっていたが、大丈夫だろうか。

まぁ、自然界であれだけ生命力の高い植物に囲まれて生き残っているんだから雑草程度相手では問題無かろうが、されど、があり得るからな。

必要なら雑草抜きして、量によっては備蓄してある菜種油で石鹸を幾らか作ってしまっても良いかもしれない。

 

武器防具と手入れ道具を仕舞って。

さて、どうしようか。

 

ディアには家の中の掃除を教えてやってくれる様に頼んである。

俺のところに来ないと言う事は、まだ終わっていないのだろう。

ならばやはり昼食の支度をしてしまおう。

 

台所に入って、食材を漁る。

さて、何を使おうか。

 

肉は、アプトノスとブルファンゴ、あとは少ないながらもケルビの肉がある。他にはモス肉があるがモスの肉は基本干し肉として加工して保存食や依頼に向かう時ぐらいでしか食べない。

他の肉も干し肉にするのだが、やはりアプトノスやブルファンゴの肉の方が一頭当たりから採れる肉の量が多いから自然と食べる機会は多い。

 

冬ならポポやガウシカの肉が主になる。

 

何故季節によって食べる肉が違うのか、と言うと春夏と、秋冬でモンスターは移動をするからだ。

草食モンスターも肉食モンスターもガラッと入れ替わるから食べるものが違って来る。

まぁその話は追々するとしよう。

 

肉は村の皆に分配しつつ、冬に備えて長期保存をする為に加工したりする。

冬は、確かにポポやガウシカがいるとは言え、必ず狩りが成功する訳では無いからだ。

春夏ならば雪も無く走り回る事に苦労しないが秋冬は雪が積もって走り回る事に支障を来たす。

だから狩りの成功率ははっきり言って低い。

だから備えておかなければならないのだ。

 

魚もあるが、あまり量が無い。

サシミウオが十匹、大食いマグロが一匹分あるだけ。

 

 

 

解凍しておいたアプトノスの肉を引っ張ってくる。

あとは肉の味付けにモガモガーリック、塩胡椒。

付け合わせを作るのにシモフリトマトやオニオニオン、ベルナスで汁物を。

あとは特産キノコを肉を炒めた後に炒めてしまおう。

 

あとは主食にココットライスを炊けばいい。

俺はパンより米派なのだ。

 

夕食の仕込みをしてしまおうか。

ドデカボチャは夜食べる為に煮物にしよう。

今から煮て味を染み込ませておけば、夜には良い味になる。

 

あとはベルナス、ベルナッパ、踏ん張りポテトを使おう。これらは別に夜に調理すれば間に合うから食料庫の手前の方に置いておけば良いか。

 

 

 

 

大体、肉はそれぞれ三百gずつぐらい。ディアは龍とは言え人間の姿だと相応の食事量に落ちるらしい。

それでも他の女性に比べればずっと多い方だが。

 

 

ココットライスを笊で洗い、釜に入れて水を張り火にかけて炊く。

火山地帯であれば紅蓮石を竈門に置いてそれを火の代わりにしているらしい。

薪要らずで楽だな、と思う。

ただ紅蓮石、常に高温を放っている為に輸送する手間もとんでもない。だから、手に入れる事は難しいだろう。

 

「フェイ、終わったぞ」

 

二階と三階の掃除を終えたディアが階段を降りてくる。

服装は、春夏用の購入して来たロングスカートと薄手の半袖。

ただし、何故か下着は付けていない。買ったのに。

お陰で色々透けて見えているがもう彼女はそう言うものなんだと納得した。一々気にしない。

僅か数日とは言えディアと共に生活する上で学んだ事だ。

 

「食事か」

 

「あぁ、まだ暫く掛かるから座っていていいぞ」

 

と、俺は言ったのに。

 

「……ディア」

 

「ん?」

 

「料理中は危ないから、離れてくれないか」

 

「断る。掃除を任された。だからちゃんと教えられた通りやった。その報酬だ」

 

と言って横に立ち離れない。

抱き付いたりはして来ない辺り流石にその辺りの分別は付いているらしい。

しかも、俺の動きに合わせてぶつかったりしない様に動くから邪魔だと文句も言い辛い。

 

仕方が無い。

 

「分かった分かった、だから余り睨むな」

 

「ならいい」

 

横に立つディアを尻目に包丁とまな板を取り出す。

 

まず、汁物を作ろう。

鍋を取り出して、油を引きモガモガーリックを刻んで入れ、ベルナス、オニオニオンの順番でしんなりとするまで火を通す。

そしたら村の友人から購入した香草を共に炒める。

水を入れて、火の強さを弱くするべく積み上げた薪を平たくする。

 

暫く煮込んでシモフリトマトを幾つか細かく刻み放り込み塩胡椒で味を付けたならば味が染みるまで蓋をして煮込む。

また薪を高く積み上げて火力を強めにしておく。

 

煮込む間、肉を炒める。

肉を焼く為にフライパンに油を少し引いて温めておき、モガモガーリックを刻んでから炒める。

モガモガーリックにある程度火が通るまでに肉に塩胡椒で塗して味付けしておく。

 

そしたらフライパンに肉を置く。

良い音で、焼けていく。

 

良い焼き色が付いたら引っ繰り返して両面を焼く。

 

 

肉に火が通ったのを確認して、汁物を覗くと旨そうだ。

オニオニオンとベルナスを一つずつ口に入れ、味が染みているのを確認して終わりだ。

後は木皿を取り出してよそれば良い。

 

ココットライスも早めに炊き始めたからちゃんと炊けている。

 

「ディア、あの棚から皿を二枚と小さい器と大きい器を二つずつ持って来てくれ」

 

「分かった」

 

ディアに持って来させた皿に肉を乗せて特産キノコを刻んで炒める。

モガモガーリックと塩胡椒を少しばかり追加して炒めるのだ。

味付けは肉の脂もあって殆ど必要無い。

 

炒め終わったならば肉と共によそる。

 

器に汁物、いやトマトスープだなこれは。と炊いたココットライスをよそってテーブルに持って行けば終わりだ。

 

「「いただきます」」

 

ディアと共に手を合わせて食べる。

 

「うむ、旨い」

 

「なら良かった」

 

今までは共に食事をするのがイチジクと両親だけだったからなんだか新鮮な気分だ。

 

二人で話しながら、食べる。

互いに質問をして話を聞きながらの食事だ。

 

幾つか質問を重ねていて、ふと思った事がある。

 

「そう言えば、疑問なんだが龍と人との間に子供は作れるか?」

 

「出来るぞ。ただし、龍の生殖能力は高くないから難しい。龍の数が少ないのもそれが原因だからな。それに、条件がある」

 

「条件?」

 

「そもそも人間と龍は本来ならば決して相容れぬ存在だ。全く違う生物なのだからな。子を作る事も出来ない」

 

「なら何故?」

 

「条件がある、と言っただろう?一つは、人間もしくは龍のどちらかがどちらかの血を取り込む必要がある。以前に言ったと思うが龍の血は龍の意思である、と。あれは、真の意味で意思なのだ。簡単に言えば力の源でもある。炎を噴いたり、雷を落としたり、水を凍らせたり出来るのは血があるからだ。故に永き時を生きた龍は血をより深く使う事が可能になる。だから私の父や母もだが、祖父や祖母はそれこそ地を沈め新しく地を創り出すほどの力を持つ。それが出来るのは、自分の中に流れる血をより使えるからに他ならない」

 

「龍にも種族はいる。例えば私の種族の他に海に住む龍や、砂に住む龍、果ては龍や竜の骸に住む龍。それらは全てまるで異なる血を有し自らの血を用いてその能力を発揮する。私が雷を落とす、と考えたならばその事象を引き起こすのも、血だ」

 

「しかしながら龍は親と子で血が繋がっていようと、産まれたばかりの龍は力を有さない。いや、正確には力はあれど使い方や感じ方を知らない。だから龍は、産まれたばかりの子に自らの血を与えるのだ。他にも居場所を知る為に、と言うものもあるが親が子に血を与えるのは力を感じさせ使い方を朧げながらに分からせる為だ」

 

「そして龍の血には別の力、と言うか特徴がある。それが、龍の血を龍の意思によって許され取り込んだ生物を変容させることだ。その逆、龍が血を取り込んだならば龍がその生物に変容する」

 

「変容?」

 

「そうだ。しかし変容させるとは言っても姿形が変わるのでは無い。であるならばフェイは人の姿形をしていない筈だからな。要は中身が変わるのだ。もっと分かりやすく簡単に言うならば、フェイで例えるなら人間が見た目は人間のままに、生命活動などが龍になる」

 

と説明されたが分からない。

どう言う訳で、どう言う事だろうか。

 

「やはり、分からないと言った表情だな。まぁ、仕方あるまい。そうだな……」

 

ディアは少し間を置いてから言った。

 

「フェイが、龍と人の間に子は出来るのか、と言う質問に対して出来ると言った理由がこれだな。中身が龍になったのならば生殖に関しても同じ事が言える。他には、身体が龍並みに丈夫になったり、寿命が龍と同等に延びたりする」

 

「と言う事は俺も、そうなってしまっている、と?」

 

「いや、フェイは確かに龍と子を作れる様にはなったが身体の丈夫さも寿命も大して変わっていない筈だ。取り込んだ量が少ないからな。あの程度の量ならば、まぁ飛竜達の一撃を辛うじて素手で受け止められるとか寿命も伸びて百年かそこいらだろうな」

 

と説明されるが、百年も寿命が延びるのか!?

それに、飛竜の一撃を辛うじて、とは言え素手で受け止められるって十分過ぎるだろう……。

 

しかし、武器防具の手入れの時にやけに重量が軽く感じたのはそれが原因か。

なんとなく何時も通りやってしまったら大変な事になるのでは、と思って力加減をして正解だった。

 

「もし、フェイが人として生を終えたいのならば、このまま私は何もせずフェイが死ぬまで添い遂げよう。しかしフェイが心から私と共に生き、共に在り続けたいと願うのならば血を与えて私達龍と変わらぬ寿命を与えられる。龍の姿にはなれないがな」

 

「……それは、後々でも良い。俺はディアを既に妻として見ているがまだ心からそう思えているかどうかは分からない。だから、ディアがそうだと思ってくれたその時に、またもう一度聞いて欲しい。その時は、必ず答えを出そう」

 

「ん、分かった。心から待ち望んでいるぞ?」

 

「しかし、龍の血は、凄いな……」

 

「当たり前だが、良い事ばかりで無いぞ?与えた時に言ったと思うが、許しがなければ口に入れた瞬間に死ぬ。それに許しを得て飲んだとしても、その力を使って正しい行いをせず道を外れ悪さをしたりすれば、龍は許しを消す。そうなれば待つのは地獄を味わった上での死だ」

 

「龍は、血を与えた存在に対して如何なる結果となろうと責任を負う。必要ならば、人間を滅ぼしたとしても責任を取る」

 

「それほど、龍にとって血を与えると言う行為は重い事だ」

 

ディアは、そう話す。

ならば、俺はそうならない様に心に刻み込んでおこう。

 

 

 

食事を終え、後片付けを済ませて三階に上がり少しだけ腹を休めていると、

 

「因みにだが、人間が竜人族、と呼んでいる種族がいるだろう?」

 

「あぁ」

 

「あれは、遥か遥か昔、竜と人がより近しい存在であった時に竜と人が、人と竜が交わり、その結果産まれた子の子孫だ」

 

と教えてくれた。

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。人間の数は少なく、竜の数が遥かに多かった時代だ。私の祖父が、まだ産まれたばかりの頃だから、数千万年前になるな」

 

「桁が違い過ぎて分からん……」

 

「私が産まれてからまだ一万と三千余年程だ」

 

「……俺は、なんて言えばいいんだ?」

 

「はっははは、まぁ確かに人間からすればそうだな。これでも私はまだまだ若く力も余りない」

 

「話を戻そう。今は血は薄まりに薄まり、人間の血の方が濃く表れている。精々寿命が人間と比べれば長い程度だ。身体的な特徴は耳が長く、足の形状が違う。あとは指が四本だろう?あれは、竜の血を取り込み流れる竜の血が濃かった時代の名残りだそうだ。それに私達と同じで生殖能力も低いから数が少ない。ただ、脈々と外界との交わりを少なく血を守り続けている竜人族もいる」

 

「龍ではなく、竜の、なのか」

 

「そうだ。我ら龍と竜はそもそもが違う生物で、同じ音を以て発するが意味は違う。所謂同音異義語、というものだ。大元の祖先も別の生き物だからな」

 

どうやら、彼女達龍と、竜は全く別の生き物らしい。

 

「龍が血を与えた人間と龍の間に産まれた子は、完全に人の姿か龍の姿かどちらかになる。だが竜と人の子はそれぞれが合わさった様な姿を持って産まれてくる。竜人はある意味ではそれぞれの重い罪とも龍は捉えている。何故ならば人からしてみればそれは余りにも無責任であるからだ。その無責任故に力の意味を知らず、力を振るったからだ」

 

素朴な疑問をぶつけてみると、しっかりと返答が返ってくる。

ディアの口から語られる話は、驚きを以って俺の脳に刻まれる。

簡単に言うならば、偉人から直接遥か過去の時代の話を聞かされているようなものだ。

 

数千万年って、正直想像が付かない。

前世で言うところの恐竜の時代から、と言う事だろう?

 

……いや、益々分からなくなってしまった。

 

「まぁ、そのせいもあって人間や竜人は栄華を極めたが結局は我ら龍の怒りを買って、一度滅ぼされかけているのだがな」

 

「どう言う事だ?」

 

「これもまた、遥か昔の事だ。人間や竜人達が築いた大きな大きな文明があった。確か、今では古代文明だとか呼ばれているらしい。星の至る所に人間達は大きな大きな街を作り、暮らしていた。しかしその古代文明の人間達は、愚かな事に新たな命を生み出す為に多くの命を糧にする方法を生み出した。ただ命を作り出すだけならば我ら龍は怒りを覚えこそすれど見逃しただろう。だが、命を生み出す為に他の命を糧にするなど、決してあってはならない」

 

「祖父が言うには、人間達は竜機兵、と呼んでいたそうだ。巨大で鉄と竜達の身体から得た素材を使って作られたと。しかし問題はそこではない。問題は、たった1つの新しい命を造るためにその何十、何百倍もの命の犠牲を必要として、挙句の果てにその生み出した命を使って更なる殺戮を繰り返し続けた事だ」

 

恐らく、竜大戦の事だろうか。

ゲームでも全く語られたことがない、殆ど情報が出回っていない出来事で今も調査が続けられているが文字や言葉の解読は進んでおらず、資料となるものは殆ど残されていないから当時の事を知る術は無い。

 

事実、確かに御伽噺としてその話が語られているが証拠も何も無いのだから、事実では無い、創作のものだと殆どの人間が言っている。竜大戦によって人間が一度滅びかけた事がある、それが事実だと知っているのは極々限られた者達だけだ。

 

ディアは目を瞑り静かに、しかし何かを込めて語り始めた。

 

 

 

 

「遥か昔。人間達は栄華を極めた。全ての術が大凡それ以上進歩する余地が無いのでは、と思う程に人間達は栄えた。故に自然を疎かにし迫害した。そして人間はついに禁忌を犯した」

 

「ある時、鉄の竜が生み出され、命の均衡が崩された。命を以て命を生み出すその恐ろしき術は人間達をより一層、外道へと落とした」

 

「世界は破滅へと向かう。鉄の竜によって竜達は怯え、鳴き叫び、逃げ惑い、捕まり、殺され、そしてまた鉄の竜が生み出される。地獄が繰り返された」

 

 

「その余りにも愚かな行為を、龍達は最初、彼ら人間達が自らの過ちに気付き、正しき道へ戻る事を信じ願った。龍自らが出向き警告もした。だが、人間は聞き入れずあまつさえ出向いた龍を殺し鉄の竜とするべく武器を振るった。命辛辛に逃げた龍は、力尽きる寸前を未だ良心ある人間に救われた。龍を匿い傷を癒やした」

 

 

「龍は言った。

 

『恩は必ず返す。だからどうか、人間達のこの愚かな行いを正す為に力を貸して欲しい』

人間は言った。

『喜んで力になりましょう』

 

龍は群れに急いで帰り一族に知らせた。

人間にもまだ、命の重さを知り尊び、守ろうとする者が居る、希望はあると」

 

 

「その言葉を信じ長達も共にその人間に会いに行った。まだ希望はあるのだと。争いをせずに命を守ることが出来るのだと。だが、龍達は人間の本当の残酷さを、恐ろしさを知る事になる」

 

 

「長達がその人間の住処を訪れると、住処は荒らされていた。辺りを探し、声を上げて呼んでも応えは無い。微に残る匂いを辿り、暫く探すと人間達の街に、覚えのある匂いがした。街に密かに入り込み、探し、漸く見つけた」

 

 

「だがその人間は、変わり果てていた。よほど酷く甚振られ嬲られたのか龍を助けた時の優しい面影は無く、首に縄を括られて吊り下げられた人間は、最早元の姿形を留めてはいなかった。手足は千切られ潰され、両目は抉り出され声を出せぬ様に喉は切り裂かれている。腹からは臓物が引き摺り出されていた。血溜まりが出来、辺りに血と肉が腐った匂いがしていた。吊るされた人間は死んでからも、暫くの間嬲られた様だった。龍があの時の人間だと分かったのは、匂いが同じだったからだ」

 

 

「龍達は恐る恐る人間に聞いた。

『何故、あの人間はあの様な事をされたのだ』

人間は何を当たり前の事を聞いてくるのだ、と言わんばかりに答えた。

『奴は竜を殺すなと傷付けるなと言った。命を弄ぶなと言った。それは間違いだと言った。我々のする事に間違いなど無いのに、そんな事を言ってあまつさえ竜機兵を壊そうとしたからだ』

大凡同族にする仕打ちとは思えなかった。人間は自分達の目的や欲の為ならば、同族を惨たらしく殺し見世物にする事も躊躇わないのだと龍達は知った」

 

 

「人間を縄から外し下ろし、血に染まりながら龍は泣き吼え、言った。

 

『すまない、私が力を貸して欲しいと頼んだばかりに、こんなにも惨たらしく殺されてしまった』

龍達は、亡骸を龍達の住処に連れ帰り丁寧に、丁寧に埋葬すると怒りを露わに、

『これ以上、人間達の蛮行を許してはならない。止めなくてはならない!!こんなにも世界が均衡を失ったのは、人間達の蛮行をただただ見続けた我らの責である!その責任は、取らねばならない!』

 

龍達は、人間を滅ぼす事を決めた」

 

 

「一族の龍達は、あらゆる種の龍と共に人間の文明を滅ぼすべく人間と戦った。戦いは凄惨だった。大地は裂け、海は干上がり、空が割れた。消えた大地もあった」

 

「多くの龍が死に、多くの人間が死に、そして龍達はその文明が作り上げたものを破壊し尽くし、全てを燃やし尽くした。人間の文明は滅んだ」

 

 

「生き残った人間達は言った。

『私達が間違っていた、愚かだった。どうか許して欲しい』

龍達は考えた。今ここで殺してしまうのは簡単である。しかし、それでは人間と変わり無いのでは、と。だから、一度だけ。ただ一度だけ。人間達に許しを与えよう。ただし、もう二度と同じ過ちを繰り返さぬ事を誓え」

 

「人間達は龍と約束を交わした。二度と同じ様に命を弄ばぬと。二度と命を尊ぶ事を忘れぬと。そして人間達を見下ろしながら龍達は言った。

 

『もし、約束が破られた時、我ら龍が破られたと判断した時。その時は、一切の許しを与えず、ただただ滅ぼすのみ』

 

それに人間達は深く、深く頷いた」

 

 

 

ディアは、語り終えると目を開いて。

 

「この話は私に祖父が遥か昔にあった出来事だと、祖父が経験した事だと聞かせてくれたのだ。……何故泣いている?」

 

「あぁ、いや、すまない……。どうしてだろうな、何故か泣いてしまった」

 

ディアに言われて初めて気が付いた。

目を擦ると涙が手の甲に付く。それを隠すために、額を手で覆う。

 

「フェイ、お前は優しい人間だな」

 

「優しい?」

 

「あぁ。殆どの人間はそれを御伽噺だと、作られたものだと言って信じない。だがフェイはそれが事実だとしても、御伽噺だとしても、自分のことの様に悲しんでいる。それも、龍と人間、どちらかに立場を寄せるのでは無くそのどちらともの為に悲しんでいる。それを優しいと言って、何が違う?」

 

ディアは、対面して座る俺に優しく微笑むと俺の顔に手を伸ばし、頬を優しく撫でる。

そのまま、隣に移動して抱き寄せられると頭を撫でられる。

 

少しばかり撫でられていると落ち着いた。

 

「すまないな」

 

「気にするな。そうやって他の同族や他の生物の為に泣くことが出来る、と言うのは美徳であり誇るべきことだ。だがな、行き過ぎてしまうとそれは時に自らを苦しめる事になる」

 

俺の両頬を挟んでディアは目を見てはっきりと、しっかりと言う。

 

「決して履き違えてはならないぞ。この話を聞いたからと言って竜と戦ってはならない、殺してはならないと言うわけでは無い。人間が竜を殺す事もあれば、そのまた逆、竜が人間を殺す事もある。だからこそフェイの様に竜と戦う人間が居るのだろう?人間も竜も生きているのだから衝突する。その時にもし、フェイが力を振るえぬとなればそれは、罪無き他の命を危険に晒し奪うと言う事だ」

 

「いいか?昔にあった出来事を語り継ぎ同じ過ちを繰り返さぬようにするのも大事だ。だがその意味を、伝え間違えてはならない」

 

「……あぁ、分かった。肝に銘じておこう」

 

「ん、ならばいい」

 

永く生きているだけあって、ディアの言葉には納得するだけの事実と、そして重みが含まれていた。

ディアの腰に腕を回して力を込める。

 

「どうした?」

 

「いいや、なんでもない」

 

少しだけ、ディアを抱き締めた後。

 

「さて、畑を見てこないと。暫く手入れが出来なかったから必要なら明日も一日使って手入れしてやらないと」

 

ディアを離して立ち上がる。

少しばかり、ゆっくりし過ぎたかもしれないな。やらなければならない事は沢山ある。

 

「そうだな、そしたら私も手伝おうか」

 

「ゆっくりしていても良いんだぞ?」

 

「ん?いやなに、龍は番と常に行動を共にすると言っただろう?それに、今の今で離れるわけが無い」

 

ピタリと俺の横に立って、身体を密着させてくる。

それがどうにも、嬉しいようなもどかしいような感じがする。

 

「そうか……。なら、汚れてもいい服に着替えないとならないな。俺のもので良ければ作業用の服がまだ何着かあるからそれを使うといい」

 

「そうしよう」

 

ディアの為に、作業着を二着引っ張り出し今着るために簡単にディアの身長や体格に合わせて手直ししておく。ディアは華奢だから随分と肩幅や腕、脚、胴周りを随分と詰めなければならなかった。

縦は袖や裾を少しばかり短く折り、縫ってしまえば問題は無い。

 

こんなにも細いのに、あれほどの力を発揮し体力を有しているとは。

 

身を以て体験させられた俺は、そう思わずにはいられない。

作業着を着せたはいいが、少しばかり問題が。

髪の長いディアは、そのままだと腰を下ろした時に地面に髪が着いてしまう。

 

「少しだけ、待っていてくれ。確かここに紐を……。あった」

 

そう思った俺は、紐を小棚から取り出しディアの長く美しい髪が地面に付いて土で汚れぬように簡単にではあるが結っておく。これで汚れてしまう事は無いだろう。

 

 

作業着に着替えたディアと共に畑に向かい、土弄りを始めた。

やはり雑草が生えて繁っていてこれは明日もやらねばならないな、と言うほどではあったが薬草などの育てている作物はまるでその影響を感じさせないほどに元気に青々と育っている。

両親が俺の居ない間も水やりだけはしてくれていたのだろう、渇きで枯れる様子は無く、ここ数日水をやっていなかったから少しばかり水分が不足しているか、と言う程度だ。

 

「今度、ディアの作業着を縫おうか」

 

「私はこれでも良いがな。フェイの匂いがするから」

 

二人並んで腰を下ろして雑草を抜きながら、話す。

 

ディアに必要なものは多い。

服も買ってきたとは言え、四着程度だから一週間それぞれ別の服を着ることが出来る様にあと三着は用意したい。

それに、ちゃんとしたディアの為の作業着も作らないと。

 

不足しているもの、用意しなければならないものは沢山だ。

 

二人で、手を動かしつつ今度はあれを作ろうか、とあれを用意しないと、と話す。

 

「どんな形が良いとか、どんなものが良いとかはあるか?」

 

「フェイが作ってくれるのならばどんなものでも良い」

 

どうにも、そのなんでも無い日常が酷く心地良い。

特に意味の無い会話でも、話すことが無くなってただ手を動かすだけになっても心地良い。

 

幸せだ、と思いつつその日は空が赤く染まるまで畑でディアと共に土弄りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





英雄の証とか、トラベルナとか聴きながら執筆しています。
カティ達可愛過ぎじゃない……?



ノクターン版です。
https://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_view&nid=269547










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