龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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3話

 

 

 

 

ディアが、妻となって半年が過ぎた。

早いものだ。

 

季節は春から秋へと移り変わり、実りが増えている。

木々は葉の色を緑から茶色へとどんどん変えて行っているし、彼方此方でもうそろそろ冬が到来するであろう、予兆を見ることが出来る。

 

俺達夫婦に何か、変化があったかと聞かれるとこれと言って無い。

相変わらずディアの独占欲は強く発揮され、家での仕事を分担して家の掃除などをやっている時以外は四六時中共に過ごしている。

狩りにも付いて来るものだから、それこそ本当にいつでも共に過ごしている。

今ではディアが隣に居ることが当たり前になってしまっているから、居ないと寧ろ寂しさを覚える。

 

 

 

 

「ふぅ……、こんなものか」

 

今日は来るべき冬の到来に備え、先日収穫した作物の代わりに冬野菜、雪が降り積もろうと生育する作物達の種蒔きを終えた所だ。

パンを作る為の小麦を蒔いたのだ。正直、粒麦でも良いのだが、殆ど違いが無いから、毎年気分でどちらの麦を蒔くか決めている。

蒔いてから四〜六ヶ月ほどで収穫できるから、今のうちに蒔いておいて来年収穫して冬の間にパンにして食べるのだ。

 

勿論今年も冬の間、麦を挽いてパンにする。

 

冬は雪深く、外へ出ての食料調達が難しい。

畑でもやはり、作物を育てることは難しい。幾つかの種類は冬でも育ったり寧ろ冬が適切な時期である作物もあるにはあるんだがそれだけでは到底冬の間を持ち堪えることは難しい。

だから、今の内に必要となるであろう量の食料を確保しておかねばならないのだ。

麦は冬の間でも育てる事が出来る数少ない作物だ。

 

 

 

 

明日は森に出て狩りをする。

村人が冬を越す為の肉類の調達も、ハンターとして立派な仕事だからだ。実際、依頼として何件か出され、それを受注している。

上手くいけば明日一日で依頼を終えることが出来るだろう。

 

ただ、この時期はモンスター達も移動を始める頃だからもしかすると移動してしまっている可能性もある。

下手をすると成果は無しかもしれない。

そうなっては冬になってから雪を掻き分けつつポポやガウシカを狩らねばなるまい。

出来る事ならば、そうならぬ様に願うが過去に実際あったのだ。

例年より移動が早く、冬になって雪の中を駆け回り狩りをしたことが。あれは辛かった。

 

一週間駆け回ってもポポの一頭すら仕留められず、十日目になって漸くポポを一頭、狩る事に成功したのだ。

そこまで長引くなんて予想もしておらず、念の為に用意しておいたホットドリンクは四日目にして無くなってしまった。

お陰で馬鹿みたいに寒く凍えそうな中、イチジクと共に寒い寒い!と言いながら狩りをしたものである。しかも挙げ句の果てには雪まで降り始めた中で狩りをせねばならなくなったのだ。

 

もう二度と勘弁して欲しいものだが、そう上手く事が運ばないのが世の中と言うものだ。

だから念の為、ホットドリンクをかなり多めに用意した。

もし明日の狩りが成功すれば、冬に狩りをしなくて済む。

 

ハンターとして、春夏秋冬関係無く村の周りや行商航路、森などへ異常が無いか確認するべく見回りせねばならない。

ホットドリンクを使い切ったら、あの寒空の下凍えながら数日間も仕事をしなければならなくなる。

 

それだけは、どうしてもやりたくない。

見回りだけなら良いが、狩りとなると本当に辛いのだ。足は取られるわ寒さで体力は奪われるわ、それはもう散々な目に遭いながら、となる。

 

トウガラシがあるから調合できなくもないのだが、どうかそうならない様に願うしかない。

 

思い出すだけで気が滅入るな。

 

 

 

 

「ディア」

 

「ん?」

 

「そろそろ昼食を摂ろう」

 

「分かった。少し待っていてくれ」

 

ディアに声を掛け、昼食へと誘う。

俺とお揃いの作業着を着込み、髪を結ったディアは農作業にも慣れてきており、特に指示を出さずともある程度出来る様になっていた。

ディアと共に使っていた道具を一度片付けてから家の中に戻る。

 

「今日はなんだ?」

 

「昨日釣れたサシミウオがまだあるから、それを使おうと思ってな」

 

「ほう、魚料理は初めてだ」

 

「まぁ、魚を手に入れる機会が少なくて肉を手に入れる機会が多くてはどうしても肉の方が主になってしまうからな」

 

何時も通りディアが隣に立つ。

包丁を握って昨日の釣果である三十センチほどのサシミウオを捌く。

サシミウオは名前の通り生食が可能だ。

 

海と川、どちらにも生息しており取り敢えず釣り針に餌を付けて糸を垂らせば釣れる。

キレアジもよく釣れるが、キレアジは食べると言うのであれば干して保存食にするのが一般的だ。

 

どう言うわけかサシミウオはその体内や体表面に寄生虫などを一切寄せ付けない。

大食いマグロなどの他の魚は少なからず寄生虫を宿しており、内臓を処理してから火にかけないと食べられないのにだ。

理由は知らないが、サシミウオの刺身がこれがまた、旨いのなんの。

俺も好きだから森の見回りついでに釣りに出掛けては釣ってきて食べるほどだ。

 

時期にもよるが脂が乗っているサシミウオは、それはもう絶品だ。

 

サシミウオは村で物々交換に出そうものならなんでも手に入るほどに人気だ。

本来は金銭で取引を行うのだが、サシミウオに関しては金ではなく物々交換での取引となる。

因みに昨日の釣果は十一匹でその内の七匹を我が夫婦と両親、イチジクで分け、残りの四匹を物々交換とした。

 

丁度畑の肥料が欲しかったから、肥料を交換材料に出してきた者と交換し、その肥料はしっかりと畑に撒かれる事になった。

肥料は、余りにも効果が大き過ぎるから少しで十分なのだが、今回の分を入れても俺の畑数回は畑全部に撒けるほどの量になってしまった。

と言っても、前世の堆肥袋一袋程度なのだが、これを全て使ってしまうと栄養が過剰になり育たなくなる、と言えばどれほどの効果があるか分かるだろうか。

 

余りは両親のところに持っていき、そちらの畑に撒いたのでもう無い。

別に欲張ってもしょうがないし、必要になったらまたサシミウオとの物々交換か、金を払って購入すればいい。

 

サシミウオを捌き、火にかける。

生でも良いが、昨日食べたから今日は焼き魚にするのだ。

 

「良い匂いだ」

 

「だろう?」

 

サシミウオが焼けるまで、朝炊いたココットライスを少しばかり火にかけ温めておく。

あとは特産キノコやベルナッパなどの余り物を全て放り込んだ味噌汁を作る。

 

 

 

この村の人間がサシミウオなどの魚を食べる為には村の外にある川、クルペッコを討伐した辺りの川にまで出なければならず結構危ない。だから村の外に出て釣りが出来るのは俺が一緒に居る時ぐらいなのだ。

それも、俺が忙しかったりすると出来ない訳で、そうなると必然的に俺ぐらいしか釣りをしに行く事が出来なくなる。

それにこの時期は、冬の移動などに備えてあらゆる生物が動き回っているから下手をすると犠牲者が出かねない。

 

だから装備を整えた俺が偶に釣りに出向く、と言うわけだ。

ディアは村に残して行こうと思ったのだが付いて行くと言って聞かず、怪我をしたらどうするのか、と心配すると、

 

「私が怪我をするとでも?私に傷を負わせたいと言うのならそれこそ同じ龍、それも私より遥かに永く生きた龍を連れて来い、と言う話だ。そこらを彷徨いている程度の連中に例え人間の姿であろうと私に傷を付ける事は叶わないからな」

 

確かにそうだ。

寧ろ俺の方が弱い。ディアと生活し、夜になって直接肌を重ねれば分かる事だがそれはもう強い。色々な意味で強い。

なんなら俺が守られているのでは?と思うぐらいなのだ。

 

「しかし、心配してくれるのは嬉しいぞ?」

 

とそれはもう嬉しそうに言って、俺の影響で覚えたキスをしてくる。

どうやら相当お気に召したらしく、事あるごとに強請ってくるのだ。

強請る、と言うよりいきなりなんの前触れもなく、してくるのだ。

いや、本当に嬉しくはある。

流石に皆の前では自重してくれているがその自重も何時しなくなるか、と思うと冷や冷やしてならない。

 

「互いに愛していると、伝える事を自重せずにいる事の何が悪いのだ?好きだから好きだと、愛しているから愛していると声高に伝えて何が悪いのだ?恥ずかしがる必要など何処にもあるまい」

 

そう言って、身体をくっつけて離れようともせず再び唇を寄せてくるのだ。

どうやら俺はこの三ヶ月でディアにどっぷりと浸かって影響されてしまったらしく、なんら抵抗を覚える事は無くなっているのだ。

なんなら自分も少しずつではあるがディアに対して同じ様に愛情表現を躊躇わなくなって来ている節がある。

昨日は、少しばかりの勇気を出して俺からキスをした。

夜に関しては、互いに求め合うからキスも何もかも積極的だが昼間の何も無い時はそうではない。

 

だから、昼間に俺がそうしてくれた事がよほど嬉しかったのか、その場でそれはもう深い深いキスのお返しを貰ったものだ。

それだけに止まらず、一日中、身体をすりすりと寄せて、休憩中なんかはより一層。

夜にはディアに充てられた俺も箍が外れて互いに普段よりも激しく、強く求め求められになったのは言うまでも無い、

ディア曰く、

 

「いやなに、フェイが嬉しい事をしてくれたから思わず自制する事を少しばかり忘れてしまった」

 

と言う事らしい。

 

うーむ、幸せ過ぎるなぁ。

 

そんなことを感じつつ、今日も今日とて冬支度に勤しむのだ。

 

 

 

 

午後は明日に備えて色々と準備をする予定だ。

大型モンスターを相手する時は太刀を使うが、そうで無い、狩りの場合は弓を使う。

草食モンスター達は、ブルファンゴなどの血の気が多いヤツを除いて大体人間が近づくと逃げてしまう。

ゲームでは逃げないアプトノスやポポは、こちらを認識しただけでさっさと逃げてしまうから、遠くからでないと仕留められないのだ。

 

暫く使っていなかったから、念入りに手入れしないと。

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、夕食を終えて風呂にも入った後。

恒例となっている、互いに気になったことなどを質問し合う時間である。大体、これが終わると九割の確率で大運動会が始まるのだがその話は止しておこう。

 

と、幾つか質問をしているとふと気になった事がある。

 

「一ついいか」

 

「ん?」

 

「シュレイド城に住む龍が関係しているかは分からないが、あの辺り一帯は他の生物が近寄らないと聞く。であるならばディアが住むこの村の周辺も同じ様なことになっていてもおかしく無いんじゃ無いのか?」

 

「そうだな」

 

「なのに、生き物は以前と変わりなく過ごしている。どうしてだ?」

 

「フェイが言っている事は、正しくもあり間違いでもある」

 

「と言うと?」

 

「まず第一に、我ら龍も食事を摂って、水を飲まなければ生きて行く事は出来ない。当然、シュレイド城に住み着いている奴もそうだ。あれは、単純に人間がしょっちゅう調査と言ってちょっかいを掛けに来るからわざとその人間の気配を探る為に威圧し、近寄らせない様にしているのだ。もしそれがなければ、威圧もしないし生物も数多く寄ってくるだろう」

 

「奴が自分の物だと主張しているのは人間達が作った城とその周りの街だけだ。別にそれ以外の森や川までも自分の物だとは言っていない。何度も言っているが自然は全ての生物の物であって特定の生物の物では無いからな。それは龍として産まれ生きている奴も尊重し守るべき事だと理解しているしそれらを守る事が当たり前で当然であると思っている」

 

「ただ、奴はなんと言うべきか、臆病で用心深く、しかして売られた喧嘩は全て買ってしまうと言う面倒な性格の持ち主でなぁ……。奴もそれを自覚しているから、だから人間に不用意にちょっかいをかけられてうっかり辺り一帯を焼け野原や更地にしないように、防ぐ為に他の生物を威圧し遠ざけ人間にあそこは危険だと思わせているのだ」

 

「それに、食事をする時は遠くに態々出掛けなければならない、と文句を言っていた」

 

「したくて威圧し、周辺を生物無き環境にしているのではない。奴は一族は違えど顔見知りだからな。話した事もある。そもそも、龍が自身の気配をダダ漏れにしていたら我ら一族や龍達の住まう場所などとっくの昔に人間達に知られているはずだろう?」

 

「確かに、その通りだ」

 

ディアが言う通り、もしそうならば立入禁止区域としてハンターや民間人に通達されていてもおかしくは無い。

 

「龍は必要な時以外は力を振るわない。だから、他の生物を追いやるのはそれだけ生物の住む場所を奪い、別の場所に住む生物を脅かす事になる。だから、不自然にならない様に、自然と気配を溶け込ませて生きている。それは一族から離れ此処に住んでいる私もそうだ。もし私が気配を隠しもせずにいたら、森に食料を頼ることも出来なくなってこの村は食べるものが無くなり飢えに苦しむ。それにだ」

 

「それにもし私がそうしてしまったら、フェイ、お前の仕事が無くなってしまうではないか。そうなったら、困るだろう?」

 

微笑んでそう答えるディアに、なるほどと納得する。

生きている、と言う以上食事や水を摂らなければ生きてはいけない。

それは龍も同じ。いくら御伽噺に語られるような存在であったとしてもその運命からは逃れられないのだろう。

 

「俺はどうなんだ?ディアの血を取り込み、毎晩ディアに匂いやらなんやらを染み込ませられているだろう」

 

「フェイは気配を溶け込ませる術を知らない。だから、もし私が居なかったら余程強い生物でなければ寄っては来ない。たとえば、そうだな。顎が突起物に覆われているやつや、何でもかんでも喧嘩を売って殴り合いになる奴ら達は寧ろ喜んで飛び込んでくる」

 

「だが、どうしてそうならない?」

 

「それは私がいるからだ。私が自分の気配に紛らわせてフェイの気配も溶け込ませているのだ」

 

「もしかしてだが、俺が森に狩りや釣りに出掛ける時に何時も付いてくるのは……」

 

「それもある。だがそれ以上に単純に私がフェイから離れたく無いからだ。割合としては、共に居たいが九、気配が一ぐらいだな」

 

ディアは何を当たり前のことを聞いているんだ、と笑う。

 

あぁ、確かに龍とはそう言う生き物であった。自分のものだと認識したらまずもって離れようとはしない。もし持っていける物なら何がなんでも持っていくし、そうでなければそこに住まう。

そして俺のように夫婦となったのならば余計だ。

 

しかも俺は、簡単に言うならばディアからすれば容易に持っていけるものに分類されるし、ディア自身もそうだと認識している。

なんなら人間の姿を取っている今は、龍の姿であるよりも簡単に付いて行く事が出来る。

 

俺が離れようにも磁石が互いに引き寄せられる事が当たり前である様に、ディアだけでなく俺も互いに引き寄せ合うのだ。

離れようにも離れられず、かと言って俺もディアも離れる意思があるか、と言われると更々無い訳だ。寧ろ共に居る事を望む。

 

今の俺とディアの関係は、ある意味では共依存状態と言っても良い。

俺はディアが居なければ生きていけない身体に物理的にされてしまったしディアは独占欲故に離さない。

 

今更ではあるが改めて、ディアは俺を一生離す気は無いと言うことだろう。

 

 

そしてまた、毎晩の恒例となっている大運動が始まった。

大体ディアに押し倒されて始まるそれが終わったのは日付を跨いでから暫くしてからだった。

 

明日、大丈夫だろうか。

まぁ、体力的には問題無いだろうからなんとかなるとは思うが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

普段起きるよりも幾らか早くに起きて、準備をする。

その前に朝食を拵えてしまおう。

朝は簡単に味噌汁とココットライス、それと昨日焼かなかったサシミウオの焼いたものをだす。

 

「「いただきます」」

 

恒例となった、二人揃っての挨拶。

箸を使って食べ進めつついつも通りの雑談。

 

「そう言えば、今日はどんな予定で行くのだ?」

 

「アプトノスを狩ることが主目的だが、余裕があったならついでに釣りもしてサシミウオを幾らか釣果にしたい、と思っているな」

 

「ふむ」

 

「分担してもいいのだがディアがうんと言わないと出来ないからなぁ」

 

本来ならば、俺が狩りをしている間にディアとイチジクに釣りをして貰いたいんだがディアが頷いてくれないとならない。

一応聞いてみるが、間違い無く断られるに決まっている。

 

「言っておくが、必要な時以外は離れないぞ」

 

「釣りをしていて欲しい、と言ってもか?」

 

「駄目だ。さっさと狩りを終えて一緒にやれば良い」

 

「そう言うと思っていた。イチジクにはもう話をしてある」

 

「ん、分かった」

 

もぐもぐと咀嚼し、飲み込んでコクコクと頷く。

朝食を終えて持ち物をそれぞれ持つ。

 

俺は防具と弓を点検した後に背負い、矢筒に入っている矢などに問題無いかを最終確認、それが済んだなら腰にぶら下げる。

念の為に回復薬や回復薬グレート、解毒薬と言った薬品類や閃光玉などをアイテムポーチに放り込む。

 

実を言うと、回復薬などが詰められているビンは小さい。

五cmほどの大きさで太さも二cmほどしかない。逆に言えばたったこれだけの量で凄まじい効果を発揮すると言うことだ。

そのビンをモンスターの皮で作られたアイテムポーチに入れるのだ。アイテムポーチは幾つかに分かれており耐衝撃性に優れている。でなければモンスターの攻撃を食らったり回避した時に中の物が駄目になってしまうからだ。

ポーチには仕切りが入れられておりそれぞれの仕切りに各種アイテムを入れる。

火打ち石などもそうだ。

 

身体の前後に二つずつのアイテムポーチがあり、それ以外に剥ぎ取り用ナイフなどをぶら下げるのだ。

 

 

 

 

ディアは、俺の防具を作るときに余ったモンスターの素材で拵えた防具を身に纏っている。

釣り道具は狩りに成功したら一度戻ってくるからその時に取りに来ればいい。

 

一応、念の為、心配する必要は無いんだろうが、ディアに防具を身に着けて貰っている。

幾ら龍とは言え、自分の奥さんが狩りに軽装で行くなど心配で仕方が無い訳である、と言う俺の意見により作られたのだ。

 

因みにであるが、ディアが狩りに同行する事に関してはギルドから既に許可を貰っている。

行商人に頼んで、次の街などギルドがある所に持って行って貰える様に頼み、手紙を持っていってもらったのだ。

 

手紙には、事の顛末を書き、当事者達のギルドマスター達に急いで送って貰えないか、と書き記した。

するとかなりの早さで返事が戻ってきて色々と書かれてはいたが、まぁ要するに許可を貰えた、と言う事である。

 

一応干渉するな、と言う取り決めはあるがハンターズギルドに所属するハンターとして、その辺はしっかりとしなければならない。

ハンターとして活動する、と言う点に関してだけは、干渉を認めているし。

 

だから許可を取る必要があったのだ。

まさか、狩りに一緒に行くだなんて言われるとは思っていなかったからあの時にギルドマスター達もそんな事想定しているわけもなく。取り敢えず特に何の問題も無く事が収まってよかった。

 

まぁ、この事を報告されたギルドマスター達の心中は察するが。

 

 

 

 

二人と一匹、目的地に向かって歩く。

 

「アプトノス、居るかニャー?」

 

「既に移動していて居なかったら、何時ぞやの様に雪の中で駆け回るしかないぞ」

 

「ニャ〜……、あれはもう嫌だニャ」

 

イチジクは冬の狩りを思い出し、髭を震わせながら顰めっ面になる。

ディアは俺の隣にピッタリとくっ付いて存在を主張しているが、両親を含めイチジクはどうやら俺の両親であると言うのも影響してか家族である、と認識されているらしいのか、これと言って普通に接しても文句は言ってこない。

ただ、こうして行動で私のものだぞ、と主張している訳だ。

イチジクは最初は戸惑っていたが、どうやらもう慣れたようで全く見向きもしない。

 

まぁ、村の皆にはそうでもないんだが。

特に女性が関わるとなると、俺の面子もあるからその場では何事も無いかの様に振る舞うが用事を全て済ませてから家に帰った後、それはもう凄い。

なにが、とは言わないが凄い。

 

「それにしても、随分と景色が様変わりしたものだ」

 

「そうだな。この時期は木々が赤や黄に色付くから景色がとても良いんだ」

 

森を歩いていると、一部の常緑樹を除いて木々が紅葉しそれはもう素晴らしい光景が広がっている。

ただし、ここで綺麗だとか言うと家に帰ってから下手をするとディアにまた限界まで搾り取られる事になるから、言葉を曖昧にして表現しておくのだ。

 

正直毎晩の様にしているのだが流石に限界まで、となると翌日に相当響いてしまうのだ。

特に翌日、用事が無ければ問題無いがそんな事は滅多に無い。畑の世話もしなければならないし。

 

ともあれ、今の所ディアの機嫌を損ねる様な事にはなっていないらしい。

 

暫く歩き回り、アプトノスを探すがどうも見当たらない。

 

「見つからないな……」

 

「まさか、もう移動しちゃったのかニャ?」

 

「うーむ、もう少し探して居なかったら、別の獲物を探そう」

 

それから幾らか探すと、十頭ほどの群れを見つける事が出来た。

 

イチジクに目で合図をすると、地面を掘って先回りする。

失敗した時、逃げられてしまわないように先回りしているのだ。

 

矢を番え、弦を引き絞る。

若く大きいアプトノス。決して子供やその母親は狙ってはならない。何故なら子を殺す事は次代に繋がらなくなってしまうからだ。

 

狙いは頭。

下手な場所に、首などに命中させてしまうと無駄に苦しませてしまう事になる。

そうならない様に頭を狙って一撃で仕留めるのだ。

 

引き絞った弦を離す。

とんでもない速さと勢いでもって飛翔する。

距離はたったの五十m程しか離れていないから数秒と掛からずに、狙った通り正確にアプトノスの頭を射抜いた。

 

矢が深々と刺さったアプトノスは、もんどりうってドスン!と大きな音を立てて倒れる。

 

すぐに他のアプトノス達は、逃げていく。

それを追う事はなく、仕留めたアプトノスに近寄る。

 

一応警戒して。

 

どうやら、完全に息絶えたらしい。

 

「イチジク、村に走って荷車を持って来てくれ」

 

「了解ニャ」

 

イチジクに言って、荷車を持って来てもらう。

その間に、俺は仕留めたアプトノスを解体する。

 

腹を割き、内臓を全て取り出して胃や腸の中身を全て取り出す。これは流石に食えないから捨ててしまう。

 

そして綺麗にした内臓をディアに持って来てもらっていたシートに乗せる。

もう一枚のシートを取り出し、アプトノスのそれぞれの部位ごとに切り分け、シートに乗せておく。

 

骨なども全部使うから捨てる場所など何処も無い。

骨は家を建てる時に使うし、内臓も食用になる。ただ、寄生虫がいる可能性を考えて分けておくのだ。

相当大きかったから、今までの備蓄を合わせても、今年の冬は狩りをしなくても問題無さそうだ。

 

場合によってはガウシカを狩る事になるだろうが、ポポを狩る必要は無いだろう。

 

手早く解体を済ませて、少し待つとイチジクが荷車二台と村の力自慢を数人連れて戻ってくる。

彼らの手伝いも借りて荷車に内臓と皮、骨と肉に分けて載せていく。

 

それが済んだならすぐに村へ。

 

 

 

 

 

 

 

村へ戻ると、歓声が上がる。

何故ならこれだけの量の肉があれば冬の間、食糧不足に心配する必要が無くなるからだ。

 

肉と内臓を、家の人数毎に分けていく。

取り分は狩りをした俺とディアの家族、そして両親とイチジクの一家が少しだけ多めに。

序でに皮と骨を幾らか貰っておく。

 

肉は皆で分け、皮や骨などは雑貨屋や大工に。

そう言う感じで分けていくのだ。

 

分け終わると、家の食料庫に運び込み腐らないようにしておく。

 

俺とディア、イチジクは釣り道具を持ってまた森へ。

魚も、必要ならば足りていない家に分けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川に着くと、折り畳み椅子を組み立てて腰掛ける。

一応、モンスターが現れた時のために太刀は背負ったままだ。

釣り針に餌をかけて川に放る。

 

三人並んで、魚が掛かるのを待つ。

 

一番目の釣果は、イチジクであった。

 

「カクサンデメキンだにゃ。コイツは食べれないし必要無いから逃すニャ」

 

釣り針からさっさと外すと川に放る。

 

カクサンデメキンは、ボウガンなどの弾を作る時は必要になるんだがそもそもボウガンは滅多に使わないから少しばかりの備蓄があるだけなので、今は必要無いので逃す。

目的はサシミウオだから、それ以外の魚は逃してしまう。

 

 

 

その次は俺だったがこれまたバクレツアロワナと、目的のもので無いので逃してしまう。

ディアも釣れはしたが、何故かキレアジばかり釣り上げていた。

 

特に会話は無いが、ボーッと腰掛けて釣りをするのは、心地良いものだ。

まぁ、途中ディアが俺に近付き過ぎて釣り糸が絡まったりしたがそれもまたアリだろう。

 

 

 

 

 

夕方になり、そろそろ帰ろうと荷物を撤収。

釣果はサシミウオが十三匹、大食いマグロが一匹と結構なものである。

 

大食いマグロを俺が担ぎ、サシミウオはディアとイチジクが分けて持つ。

猫だから魚好きなイチジクは、ホクホク顔でご機嫌だ。

 

大食いマグロは村の皆で分けてもらい、サシミウオは我が家で分ける。

両親達に七匹、俺とディアで六匹。サイズもどのサシミウオも三十cm超えと大きくて冬に備えているから脂も乗っていて中々だ。

 

因みに大食いマグロもサシミウオ同様人気がある。いや、サシミウオ以上の人気があると言っても間違いは無い。

何故ならそう簡単に釣り上げる事はできないし、よしんば釣り針に掛かったとしてもそのサイズ故に釣り上げるのが物凄く大変なのだ。それに釣れたとしても大抵釣った人本人のものになってしまう。

 

だが今回は、既に我が家には大食いマグロは一匹食料庫に吊るされているし必要無いだろう、と言う事で村の皆で分けて貰ったのだ。今頃は、皆揃って広場で大騒ぎだろう。

 

 

足早に家に帰宅し、日が地平線に沈もうか、と言う頃。

サシミウオの内臓などを取り出して処理し食料庫に放り込んだ後。

 

台所に向かって夕食の支度をする。

まず最初にココットライスを炊く。

今日は、アプトノスの肉を使って炒め物でも作ろう。

 

アプトノスの肉を二人分切り取って、特産キノコを何種類か取り出す。

あとは汁物も作りたいから、どちらにも入れる具材の野菜を四種類ほど。

 

それらの食材を全て手早く切り、油を引いたフライパンで炒める。

胡椒、モガモガーリック、醤油で味付けをして。

 

味噌汁も同様に、ぱぱっと作ってしまう。

それらをよそり、テーブルに運べば終わり。

 

相変わらずディアは料理中、ずっと隣に立って邪魔にならない様にこっちが驚く様な身の熟しをする。

俺がどう動くのか、とか色々と先読みしているらしい。

 

「自分の番の考えが分からなくてどうする?」

 

だそうだ。

なんともできた奥さんである。

 

 

手早く二人で食事を済ませ、風呂を沸かす。と言っても源泉のお湯を水で割るだけなので大した手間では無いが。

 

風呂も何時も通り共に入り、身体を互いに洗い一緒に湯船に浸かる。

正直、今でもディアの裸は見慣れないと言うか。

 

毎晩見ているとは言え、風呂ではまた違った魅力があるものだからいつまで経っても慣れないのだ。

 

 

 

 

風呂に浸かりながら、ぼーっとしているとふと思い出したことがあった。

 

「ディア」

 

「どうした?」

 

「今更だが、あの時、俺達が初めて出会った時何故あそこであんな傷だらけになって倒れていた?」

 

そう、今の今までディアの嫁入りやら聞かされた話のインパクトやら、冬支度などで忙しくてすっかり抜け落ちていたのだ。今思えば、そもそもディアがあそこに傷だらけで倒れていなかったらこんな関係になっては居ないだろう。

 

その理由が、ふと思い出して気になったのだ。

 

何せ、古龍の中でも強さで言えば間違い無く最強、他に並ぶ種など殆ど存在しないのが、我が家の奥さんである。

そんな彼女が、どう言う訳であんな事になっていたのか気になったのだ。

 

だから聞いてみたのだが。

 

「……」

 

「どうした、目を逸らして」

 

「いや、うん、その、なんでもない」

 

何時もは俺が質問すると嬉しそうに、それはもう喜んで答えてくれるのに今回ばかりは随分と歯切れが悪い。どうしてだろうか?

 

「言いづらいのならば、答えなくてもいいが……」

 

「いや、言い辛い訳ではないのだ。その、な……」

 

何やら微妙な空気と沈黙が場を支配する。

少しすると、ディアが口を開いた。

 

「空を飛んでいた時、他の種の龍と喧嘩になったのだ」

 

「喧嘩?」

 

「うん。龍は気配を自然に溶け込ませる、と教えたな?」

 

「あぁ」

 

「それには説明した理由も勿論あるのだが、龍と言う生き物は種にもよるが存外好奇心が旺盛でな。だから気配を溶け込ませて気になったりすると彼方此方を飛んで回って知識を得るのだ。特に私は一族の中でも一番好奇心が強い。それで、しょっちゅう彼方此方と飛び回っていたのだ。それで、あの時も飛び回っていたんだが、偶々、ある龍の住処の空を飛んでしまってな」

 

「その住処の上を飛ばれた龍が縄張りを荒らされたと思って腹を立てて喧嘩になった、と言う訳か」

 

「そうだ……」

 

「何故そんなに恥ずかしそうにする?」

 

「だって、何時もフェイに年上風吹かせたり博識を前に出している私が、まさか好奇心故に得た知識で興奮して他の龍の縄張りに踏み込んで喧嘩になったなどと聞かれたら恥ずかしいに決まっているだろう!」

 

白い肌を、湯に浸かったものとはまた別の赤で染めるディアの姿は普段の美しいだとか、そう言うのとはまた違った魅力がある。

 

「そんな事は無いと思うがなぁ。俺はまぁ、うん、可愛いと思うぞ」

 

「普段はそう言われると嬉しいが今回ばかりは恥ずかしい……」

 

なにやらぶつぶつ言っているが、多分俺が勝った初めてのことだろう。

何に勝ったのかは分からないが何となくそんな気分だ。

 

「しかし、その龍はまた襲って来たりしないのか?」

 

「それに関しては大丈夫だ。向こうも私がわざと縄張りに入った訳ではないと知っているだろうし、そもそもその気なら今頃この辺り一帯を巻き込んで私は死んでいる」

 

「なら良かった。しかし、何故あそこまで手酷くやられたのだ?死に掛けだったろう」

 

「いやなに、その、まさか他種の龍の縄張りだなんて思っても居なくて、いきなり攻撃されたと勘違いして思いっ切り全力で反撃してしまってな……。それでぼろぼろにされて這々の体でにげたのだ。幸い、追い払うだけで済まされたから良かったがな」

 

「フェイに手当をされた後に一族の住処に帰ってから祖父に聞かされて知ったのだ。どうやらその龍は、シュレイド城に居座っている奴と同じタイプの、変なところを居心地良く感じて居座る性格らしくてな……。人間にも居るだろう?変人と呼ばれる連中が。その龍はまさしくそれと同類の老龍でなぁ……。その龍の事は聞き及んでいたし、その龍と同じ種族の群れが住んでいる場所は知っていたが、まさかあんな場所に住み着いているなんて知らなかったんだ」

 

「あんな辺鄙で周りには何も無く溶岩ばかりで動植物が何も育たない、陽の光も暗い雲に覆われている場所だぞ?逆にあんな場所に居ると思う方が難しい」

 

「龍は、他の種同士だとあまり関わらない。何故ならそもそも住む場所が違うからだ。それぞれ明確にした訳ではないが住む場所が分かれている。だから関わった時は大抵、何か理由がある。最後に全ての龍が同時に関わったのは祖父が語ってくれた、私がフェイに以前話した人間との戦争の時ぐらいだな。私の場合はうっかり断りも無く縄張りに踏み込んでしまった挙句反撃してボコボコにされた、と言う事だ」

 

「まぁ、かの龍は普段は温厚らしいから、刺激しなければ良いだけなのだが、私は見事に怒りを買ってしまったと言う訳だ」

 

ディアは恥ずかしそうに語る。

顔を手で覆って下を向いている。

 

ディアには悪いが、こっちとしてはそんな表情を見る事が出来て役得である。

 

だがしかし、喧嘩になったと言うその龍は、よほど強いのだろう。

何せ一万と三千年以上も生きるディアがボコボコにされた、と言うぐらいなのだから。

 

恐らく、彼女の両親と同等かそれ以上の年月を生きているに違いない。

龍の強さは、生きて来た年数に依る、と以前言っていたからな。

 

「謝ったのか」

 

「あぁ、あの後フェイの元に行く前に出向いて謝罪して来た。最初は睨まれたが理由を説明してちゃんと謝罪したら笑いながら許して貰うことが出来た」

 

反省したようにディアは語るが、なんともまぁ、彼女らしからぬエピソードだ。

僅か数ヶ月とは言え、普段のディアを見ていると余計だ。

 

俺からすれば、永い時を生きて知恵や知識が豊富、それと独占欲が強く身内には厳しくもそれ以上にとことん甘いと言うか優しい、と言うのが彼女に対するイメージだからだ。

 

まさかそんな彼女がうっかりミスみたいな事をやらかし、勘違いの上に牙を剥き出しにして全力で反撃するなど到底想像も付かない。

 

「まぁ、お陰でフェイに出会えたからな。私としては結果的に良かった訳だ。今後はそうならない様にするがな」

 

結果オーライ、とでも言う感じだ。

しかし、ミラルーツと言うそれこそ古龍の中でも最強格と言っていい存在と真っ向から喧嘩して勝つ事が出来る他の龍と言うと、それこそアルバトリオンぐらいしか思い付かないぞ。

 

グラン・ミラオスはまだ眠りについている筈だし、ミラボレアスやミラバルカンは同種で同じ一族でもあるし喧嘩をする事も滅多に無いと言っていた。

もしゲームでのグラン・ミラオスが関係する出来事があったなら少なからず噂になるだろうからだ。流石にあそこまでの規模となると人の口に戸は建てられまい。

 

うーん。

そう考えると随分と無茶をしたものだ。下手したら殺されていたのに。

 

「確か、あの龍は祖父以上に永い時を生きていると言っていた。それは強い訳だ。全く手も足も出ないし、一方的にやられたものだ」

 

そう笑っているが、こっちからすればそれどころじゃないぞ。

龍からすれば単なる喧嘩だろうが、人間からすれば下手したら国家存亡の危機だぞ。

 

それに何より、その時は違うとは言え今は夫婦となったのだ。

自分の奥さんがそんな目にあった、と言うのは理由は何であれ余り聞きたくないものだ。

 

「これからは、気を付けてくれ。理由はどうであれ自分の妻のそんな話は聞きたく無いからな」

 

「!あぁ、勿論だ」

 

そう伝えると、にまぁ、と嬉しそうに笑って擦り寄ってくる。

抱き締められて、その身体を押し付けてくる。

 

なるほど、これは別の意味で地雷を踏み抜いてしまったか。

 

そう俺が思ったのは正しかった。

喜んで嬉しくなったディアによって俺は捕まり、その晩から久々となる丸々五日間に渡る大運動会を開催することになった。

 

 

 

 

 

 

 

漸く大運動会が終わりを告げ、満足気にしているディアと共に疲れた身体を引き摺りながら風呂を沸かす。

寝ているディアを起こして風呂に入り、そしてそれはもう大変なことになっているベッドや寝室の後片付けを二人で行い、シーツなどを干した後。

 

手早く食事、と言っても米を炊いて肉を味付けして焼いただけの簡素なものだが、食事を済ませる。

寝室に戻り綺麗なものに取り替えたベッドに不眠不休の情事や後片付けで疲労しきった身体を、思いっ切り放り出して寝転ぶ。

 

「いや、すまんな。嬉しい事を言ってくれるものだからついつい歯止めが利かなくなった」

 

「構わんさ。ほら、今日一日は休みにしよう。流石にもう動く気力は無い……」

 

「ん、そうだな」

 

掛け布団を掛け、寝る準備を整えると、隣に寝転んだディアの胸元に抱き寄せられてギュゥッ、と力を込められる。

ディアの胸はそれはもう大きくて柔らかくて温かくて、何故か同じ石鹸を使っている筈なのに良い匂いがする。

そして何よりも母性と包容力に溢れている。

 

ディアからすれば俺なんて年下も年下、それこそ産まれたばかりの小龍とそう変わらないのだろう。人間の中では大人と言うだけで龍からすればまだまだ子供だ。

姉さん女房と言う事だろう。

 

細くしなやかな指で、俺の硬い髪の毛を梳き、そして頭を撫でる。

それを感じながらもうどれほどか分からない程に嗅いだディアの匂いを肺一杯に吸い込んで吐き出す。

そうすると途端に身体中の力が抜けていって、さっきまで開いていた筈の瞼がどんどん閉じてくる。

 

今は、それに抗わずそのまま目を閉じる。

ぐりぐりと、離れないように顔を奥へ奥へ進めて意識を手放す前、少しばかり力を強くディアを抱き締めて、

 

「おやすみ、ディア……」

 

「あぁ、おやすみ。フェイ」

 

そう言って額に唇を押し付けられる感覚を最後に完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

数日間出来なかった畑の世話やら掃除やらをディアと分担し済ませた後。

特に用事も無く、家で二人のんびりと過ごす。

 

何時も通り互いに質問をして、答えてを繰り返す。

 

 

「龍達に、種族毎に違いはあるのか?」

 

「勿論ある。身体の大きさは勿論だが種族毎の大まかな性格などもまるで違う。人間達が老山龍と呼ぶ龍達は、とにかくデカい。祖父達は、私の二回り以上も大きいがその龍の成体は祖父達よりもずっと大きくなる。だがその巨躯に似合わず性格は温厚で臆病だ。争いは好まない性格が多いし、のんびりとしていて大抵群れずに各々好きな場所、地中だったり森の中だったりに篭っている」

 

「だがその性格故に時折ある龍の脅威に晒される事があってな。その龍は、他の龍や竜を操る、とは違うが狂わせてしまうのだ。他の龍は影響は受けないのだが龍の中では老山龍だけが影響を受けてしまう。だからその影響を受けて周りを害さない為に時折移動するのだ。何せ、老山龍が影響を受けたとなれば大事だ。我ら一族の龍ですら手間取るのだ、人間達ではどうにかする事など到底無理だからな。まぁ、龍を狂わせる龍も好きでやっている訳じゃ無いし誰が悪いと言うのでも無い。だから誰かを責める事は出来ないのだがな」

 

シャガルマガラとラオシャンロンにそんな事実があったとは。

ゲームだと、悪役として描かれているシャガルマガラだが実は周りを害したくて害し、狂わせている訳では無いのだろう。

 

「龍の世界にも色々とあるのだなぁ……」

 

「どんな生物にも特有の事情があるものだ。我ら一族にも事情と言うか、問題もある」

 

「そうなのか」

 

「我ら龍は長命故に繁殖能力が低く、子が産まれてくる事が少なくてな。他の龍にも同じ事が言えるがやはり問題でな。だから番を見付けようにも見つからない事が多い。それに、一族だけで番を繰り返すと血が濃くなり過ぎる問題もあったり、他の一族に行ったり来たりもするが、結局数が少ないから堂々巡りになってしまうんだ。私の母も他の一族から来たのだ」

 

「大変なんだな」

 

「あぁ。だから、私とフェイが夫婦になる事は実は一族にとっては良い事なんだ。人間とは言え新しい血を外から得られるのだからな。少しとは言え、血が薄くなる」

 

「確か以前、産まれた子は人か龍のどちらかに完全に寄る、と言っていたが、それでもなのか」

 

「あぁ。血が薄くなり過ぎるのも問題だが、ある程度は薄くしないとならない。血が濃くなり過ぎると、寿命が縮んだり身体の何処かに産まれ付き何か問題を抱えて産まれてくる子が多くなる。それらを防ぐために外から少しは血を取り入れて薄めないとならないのだ」

 

「しかし、結局俺はディアの血を取り込んだのだからかわらないのではないか?」

 

「いや、取り込んだ、と言ってもその人間を龍に変容させると言うだけだから同じ様な血になる訳では無い。だから、フェイの血はフェイの血のままだ」

 

「ふぅむ……。産まれて来た子に何か違いはあるのか?」

 

「ある。まず産まれて来た子は龍の血が流れているから人の姿であろうと龍の姿であろうと寿命は同じだ。だが龍が人の姿に、人が龍の姿にはなれない。ただし、子を作る事は元から出来る。それに身体能力は龍の姿で産まれてくれば変わらないが、人間の姿で産まれた場合、産まれ付き私と同じ様な状態だから、人間の姿で龍の力を宿す事になるぐらいだな」

 

「今更だが、それだけの事が分かっていると言う事は前例があると?」

 

「ある。私の祖父の祖父である高祖父の時代の事だから、何億も昔の話だ」

 

これまた随分と、気が遠くなるほど昔の話だ。

 

「祖父は、確かに年老いてはいるがまだまだ永く生きるぞ。我ら龍の寿命は、軽く億年ほどにもなるからな。高祖父は流石に無いが曽祖父は小さい頃に遊んでもらった事がある。もう寿命を終えて自然に還ったがな」

 

ふっ、ディアは懐かしむ様に笑う。

彼女達龍は、死ぬ、と言う言葉を余り使わない。

代わりに自然に還る、と言う。

 

彼女達からすれば自分達も自然の一部であり、寿命を終えたとしても再び自然に還り戻ってくるからだ。

 

だから、彼女達の価値観からすれば、例えば寿命を終えたとしても程度の差はあるがまだその辺に居て、此方を静かに見守られている様な感覚らしい。

 

隣り合って腰掛けて、外を眺めているだけ。

ただそれだけで十分に幸せなのだ。確かに、毎晩毎晩二人して愛を確かめ合ってはいるがこんな何でも無い時をも愛おしく感じるし大切なものだ。

 

隣を見ると、綺麗なディアの顔が夕日に照らされ、髪の毛がキラキラと光っている。

それはもう、幻想的なものだ。

 

「どうした、私の顔を見つめて」

 

「あぁ、うん、やはりディアは綺麗だと思ってな」

 

「……そう言ってくれるのは嬉しいが、また何日も離さなくなってしまうぞ?」

 

「それは困るが、龍は番に愛を隠さず伝えるのだろう?」

 

「まぁ、そうだが」

 

「ならば言わないと。何時も俺が言われてばかりだからな」

 

「そうか……」

 

心底嬉しそうに擦り寄って抱き付いてくる。

それを受け入れて、此方からも身体を寄せて腕を回して抱き締める。

 

「……なぁ、フェイ」

 

「なんだ?」

 

「以前、フェイは私を既に妻として見ているがまだ心からそう思えているかどうかは分からない、と言ったな」

 

「あぁ」

 

「だから、フェイがそうだと思ってくれたその時に、またもう一度聞いて欲しい。その時は、必ず答えを出そう。とも言っていた」

 

「それがどうかしたのか」

 

「私はもう、そうだと思うのだ。短い時間しか共に過ごしていないが、フェイは私を大切にしてくれている、心から想ってくれていると私はここ一ヶ月ほどずっと思っていた。だから、もしフェイが望むならば……」

 

ディアのその言葉と顔に、どきりと心臓が弾む。

 

 

 

 

「私と共に、永き時を生きてはくれないだろうか……?」

 

 

 

 

こちらをじっと見つめて、普段の凛々しい表情ではなく、不安そうな表情だ。

緊張故か、断られた時の恐怖故か、少しばかり震えてもいる。

 

 

 

 

この半年の間、ずっとディアと共に過ごしていて、どの様に言葉で表せば良いのか分からないが、随分とディアに惚れ込んだらしい。

それも、ディアに龍と変わらないぞ、と言われるほどには独占欲を発揮している。

何よりも、ずっと側に居たいと願っているのも確かだ。

 

緊張していて、上手く表す事が出来ないが俺の想いは、答えは当然決まっている。

 

 

 

「あぁ、喜んで。これから永い時を共に生きよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逆プロポーズをされた日の夜。

 

「フェイッ、フェイッ……!」

 

再び、昂ったディアに風呂から上がり寝室のベッドに腰掛けたタイミングで間髪入れずに押し倒された俺は、今回は十日にも渡って家に篭りディアと励むことになり、疲労困憊になったのは言うまでもない。

 

今までよりもずっと、ずっと嬉しそうに、そして幸せだと言わんばかりの雰囲気と態度で、俺の名前を呼びながら身体を重ね続けて来るディアと、それに答えるべく無気なしの体力と男として、夫としての意地を振り絞りディアばかりにならないようにする俺は、それはもう疲れて疲れて仕方が無かった。

 

流石にディアも流石に一日置きの連続の数日以上に及ぶ情事では疲れたのか、ぐったりとしていた。しかしとんでもなく嬉しそうに幸せそうに俺の腕を抱いている。

既に恒例となりつつある、疲れた身体を引き摺って後片付けと食事を済ませてベッドに潜り込む。

 

再びディアと抱き合いながら、疲れたな、と言い合いながら目を瞑る。

 

だがそれでも心底遥かに幸せだと、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイテムポーチのイメージ、旧日本軍などが使っていた弾薬盒を想像してくれれば分かりやすいかも。
まぁ実際は違うんですが、一番近いものと言われるとそれかなぁ。

色々探してみて一番しっくりと言うか、似ていたのがそれだったので。



今回は随分と砂糖多めになったかなぁ……。
こう言う展開にすると、文章短めでなんか読み応え感じない気がするな……。
余り頭捻らんで良いからか?うぅん……、文字数は書き手の何時までも付いてくる最大の悩みだ……。


まぁ良いや。
感想でとやかく言われてますが、そう言うもんだと思っています。気にしてもしょうがない。別にとやかく言われようと書く内容に変わりはありませんし、変える気もありませんので、あしからず。

嫌だって人は、今更ながら何もせずにブラウザバックをして頂いた方が双方共に、禍根を残さずに済むでしょう。






それと、これからの展開について少々。
内容には触れませんが、年数が飛び飛びになります。
と言うのも、龍と人、それも他よりもずっと長い年月を共に過ごす訳ですから、余り細かく月日を刻めないんですね。
じゃないと、文才の無い作者は失踪する事になる……。

と言うことで、飛び飛びの年数にはなりますし、そこまで長い話数にはならないと思われますが、どうかこれからも本作を宜しくお願い致します。








龍の恩返し ノクターン版
https://syosetu.org/novel/269547/



ノクターン版(夜のえっちなやつ)、読みたいですか?

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