龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

5 / 11
5話

 

 

 

 

 

夫婦となって早300年。

随分と時間が過ぎたものだ。

 

龍になったからか、俺の見た目は未だあの時と全く変わらない。

世の中の奥様方から大層羨ましがられそうな事ではあるが永い寿命と言うのは良い事ばかりでは無い。

 

当たり前ではあるが、ただの人間は精々100年生きられれば良い方だ。故に寿命の違いで多くの別れを経験した。

俺の両親も、我が弟子も、あの当時を知る人達は皆もう居ない。

 

イチジクも、父と一緒にオトモとして俺を手伝ってくれたイチジクの子達も。

アイルーは人間の寿命が半分ぐらいだから一番早かった。

 

助けた飛竜の夫婦も。

子達の行方は分からない。

なぜなら飛竜は自分で空を飛び、獲物を狩れる様になったら巣立ってしまうからだ。巣立ってしまえばそこからはもう両親共に預かり知らぬ事。

だから何処に行ったのかも分からない。

 

決して別ればかりでは無かったとは言え、やはり別れが多く、そして今も尚、そうだ。

 

 

 

しかして、世界は、村は当たり前の様に次代を紡ぎ、脈々と続いている。

 

「爺様、おはよう!」

 

「おはようですニャー!」

 

「あぁ、おはよう。今日も元気だな」

 

我が弟子の昆孫だったか、まだ一桁の年齢の男の子がイチジクの、もう数える事すらしなくなった代の孫と朝から元気に村を走り回っている。

どこか我が弟子の面影を薄らと残した少年は、少年に限らず村の子達は皆良く俺やディアに懐いてくれる。

 

我が弟子はその後、養成所に合格し通い始め、無事卒業。ハンターになる事が出来た。

 

街で何年かハンターとして過ごし、同業者である婿を捕まえて戻って来た。

どうやら俺の教えを守り必要以上の依頼を受けず、しかして十分な実力を備えていたそうだ。

高嶺の花、とまではいかないが俺が厳しく鍛え上げたせいもあって腕っ節は強く男が寄り付かなかったそう。

捕まった婿はどうやら相当我が弟子に猛アタックされて陥落したそうだ。

 

なんとなく既視感と言うか、身に覚えがあるな……、と思ったが気のせいだろう。

 

そして村に帰って来た我が弟子は婿との間に五人の子宝に恵まれ、ハンターとして、母としてそれはもう逞しくなったものだ。

よくディアと我が家で会話の花を咲かせていたものだ。

 

5人の子達は、すくすくと元気に育って、両親に憧れてハンターになる者も居れば、一村人として穏やかに人生を送った者もいる。

一番驚いたのは古龍観測所や龍歴院に入った子が二人も居た事だろう。

まぁ当たり前だが世界中を駆け回り、碌に帰ってくることは無かったがよく手紙は寄越していた。俺にも態々送って来ては新種のモンスターが、とか新しい遺跡が、とか色々と書いて寄越していたものだ。

 

やはり相応の努力と実力を持っていたからこそ、入れたのだ。

確かに稽古をつけてやったりはしたが特段、龍歴院などに口利きをしたわけでは無い。そもそも知り合いなど一人も龍歴院などには居ないしな。

その時はまだ我が夫婦が龍であると村の誰も知らなかったから実力で入ったのだ。

 

今は村人全員俺達が龍である、と明言した訳では無いが周知の事実。我が夫婦は別に隠しても隠れてもいないから知られようとこちらに害さえ無ければ、及ぼさなければ構わない。

 

イチジクの子達もオトモになったり村で畑を耕したり新天地を求めて旅に出たり、と各々の猫生を歩んで謳歌し、旅立った。

 

彼ら皆、悔いは無かった、そう思いたい。

 

 

 

 

 

俺は三百歳を超えた年齢だがまだまだ龍としては若い、子供と変わらない年齢だ。

しかし人間や長命な竜人族から見れば俺とディアは遥か天井を突き破るほどの年齢だ。

竜人族からしても、三百二十五歳は長老級なのだから、どれほどか分かって貰えるだろう。

俺自身、この様な身になった事自体はまるで後悔していない。

多くの出会いがあり、別れがあり、新しい発見をする事もあるし、何よりもより深くディアを知る事が出来るのだから。

 

あぁ、でも一つだけ心残りなのは両親やイチジクに俺達の子を見せてやれなかった事だ。

やはり繁殖能力はディアの方が龍であるから低い。

俺自身は元人間だから人間と同じはず能力がある、とディアにお墨付きを貰っているがこればっかりはどうしようも無い。

 

村も変わらず、小さなままだがそれでも衰える気配は感じられない。

と言うのもある種の観光業、と言うか、俺とディアの話を聞き付けた主に竜人族がよく来るのだ。

 

何が目的かは知らないが、どうやらハンター界隈や竜人族のコミュニティと言った場所で俺達夫婦は超が付くほど有名らしい。

 

二百年ほど前からちらほら現れ始め、百年ほど前から本格的に訪れ始める様になったのだ。

何やら御利益があるとかないとかで。

 

んな事言われても、御利益なんて無いんだが。

ただ毎日変わらず畑を耕しハンター業をしているだけだ。それを見て何が楽しいのか、御利益があるのか、と思うがまぁ、そんなものか。

 

一応何故そうなったのか、竜人族に聞いてみると随分とまぁ、畏まって、

 

「白い龍と、その龍が迎えに来たハンターの夫婦の御伽噺、龍と龍の戦いに割って入って止めたハンターの御伽噺と言いますか。まぁ実在するので御伽噺では無いのでしょうが、有名な話なのです。最初はまた随分と突飛な創り話だと皆が笑いましたが、出処が実在する街で、更には暮らしていると言う村が実在するものですから」

 

「誰だかは分かりませんが、多くの者が見て、確かめたようです。本当にかの夫婦は存在するのだと。この世界は不思議に溢れておりますからそう言う事も有り得るのでしょう。事実私の前には御らっしゃるのですから」

 

との事らしい。

 

まぁ、要約すると人の口に戸は立てられぬ、と言う事だ。

どうやって確認したのか、と言うと恐らくアレだな。というかそれ以外に心当たりが無い。

 

二百年とちょっと前に、諸事情あって街の方で揉めたのだ。

と言っても揉めたのはディアで相手は嵐龍、所謂アマツマガツチだったんだが、その時丁度、ハンターになって暫くした、村を任せられる新たな弟子も居たものだし、前々からディアが人間の生活や文化に興味がある、見てみたい、と言っていたからそれならば丁度良い機会だ、新婚旅行にでも行こうか、と誘って新婚旅行と洒落込んでいたのだ。

 

それはもう、誘ったこっちが恥ずかしくなるほどにディアは喜び楽しんで夫婦水入らずで満喫していたのだ。

 

そんな時に運悪く街を通ってしまったアマツマガツチが居たのだ。

なんともまぁ、運が無いこと無いこと。理由は追々説明するがそれでも可哀想、いっそ哀れだ。

 

古龍が出たら大騒ぎになるこの世界は、例に漏れず避難だなんだと大騒ぎ。

しかも嵐を纏ってくるもんだから余計だ。

街が壊滅、なんて事も余裕で有り得る。

 

お陰で新婚旅行を断念せざるを得なくなった。

俺はむっ、とはしたがまた遠くに、俺も行った事が無いところへ行けば良い、と思っていた。

しかしディアは全く違った。

 

ディアからすれば、(俺からしてもだが)夫が初めて誘って連れて来てくれた新婚旅行を訳の分からない調子に乗った龍に邪魔をされ、夫と仲良く楽しんでいた(意味深)所を盛大に、向こうに意図は無かったとは言え邪魔をされたのだ。

 

独占欲が強いディアは、それはもうこっちが引くぐらい、言葉を選ばずに言うなら盛大にブチギレた。あんな恐ろしいのは後にも先にもあれだけであろう。

 

いやぁ、あの時を境に本当に、ほんっとうにディアを怒らせないようにしよう、と心底誓うぐらいの怒り様で。

 

人の姿から龍の姿へとすぐさま変わると、こっちが止めるのを聞かずに殴り掛かった。

哀れ殴り飛ばされたアマツマガツチは、吹き飛んで地面を何度もバウンドし転がっていく。

やはり古龍とは言えどもディア、ミラルーツには敵わないらしく、何が起こったのか、起きているのか分からない表情で殆ど一方的にボコボコにされるアマツマガツチ。

 

双方、とんでもない、主にディアの怒りの篭った雄叫びと主にアマツマガツチの悲鳴を含んだ絶叫が辺り一帯に響き渡る。

 

因みに俺はあのディアが、まさかそんなになるとは思って居らず呆然としつつ、なるほどこれは確かに独占欲が強いな、と何度目か分からないが納得していた。

 

街の人達も天災だ、この世の終わりだと絶望して祈り出したりする始末。

確かに地形が少しばかり変わった。あれぐらいで済んでよかったと思う。

ハンターズギルドもまさかそんな事が起こるだなんて考えても居なかったものだし、そもそも古龍が殴り合っているのを対応するなんて無理難題もいいところ。

 

どれだけのハンターや軍を投入し、犠牲にすれば止められるのか、そう考えて絶望したに違いない。

 

 

 

当事者の夫としては、冷静だし周りの反応を普通に見ていたが違う違う、止めないと、と思って周りが傍から見れば古龍の殴り合いに割って入ろうとする俺に向かって騒いでいたがともかく妻を鎮めて哀れなアマツマガツチを助けてやらねばなるまい、と走り出した。

 

何せ街に被害が行かぬようにディアはやっていたものだから、当事者以外からすればよりタチが悪い。

 

殴られた事もあってアマツマガツチが纏う嵐は霧散して止まっており、周りにはディアが落とす雷が乱立してはいたが街に及ぶことは万に一ぐらいの確率だったし、突っ込んで行った俺自身に雷が多少ならば当たっても龍になったし大丈夫だろう、それにディアが止まってくれるかも、と考え取り敢えず突っ込んで行った。

 

ガチギレ状態の、ゲームの比では無いほどに身体の一部が赤く染まった、イビルジョーの様に口から龍属性の何かをビリビリさせているディアを色々とあったが兎に角なんとか説得し、未だ怒り収まらぬディアをどうにか抑えて宥めて。

 

アマツマガツチに向き直るとどうやら若い龍らしく、相当に怯えていたので取り敢えずディアは相当ご機嫌斜めではあったが謝罪やらなんやらとその場はそれで済ませ逃した。

ディアからは死ぬほどぶつくさ文句を聞かされたがそれだけ愛されている証拠だろう。

黙って受け入れた。

 

そしてまた、龍から人の姿に変わったディアは、変わらず機嫌が悪く、抱き上げて運ばねばならなくなるぐらい引っ付いて離れず。

しかも情事の最中だったから裸も裸、何一つ身に付けていない。

なんとなく予想していたから羽織れるものを一枚持って行っていて正解だった。

 

そのまま取り敢えず街に戻ると騒ぎは収まるどころか加速していた。

そりゃぁ、いきなり古龍が現れたと思ったら人が龍になり、龍同士が喧嘩を始めたと思ったら、ハンターが一人割って入って武力ではなく言葉で止めて、片方が逃げていったら残った方が再び龍が人の姿になったのだ。

しかも止めに入ったハンターと龍は片方は不機嫌ではあるがとても仲良さそうに抱き合って此方に歩いてくる。

 

並べるだけで酷い文言だろうが、事実その通りなのだから勘弁してほしい。

そりゃぁ、誰だって受け入れ難い事実だろう。

 

すぐさまハンターズギルドから緘口令が敷かれて他言無用、決して誰にも話してはならない、となった。

まぁ広まっているから意味無いだろうが。

 

俺達夫婦は当たり前だがギルドに招待される事に。

そこに勤めている竜人族があの時俺達と話し合った場に居たからまたやらかしてくれたな、みたいなやつれた顔していた。

 

他の面々も話には聞いていたらしく、まさか実話だったとは……!みたいな感じではあったが。

 

事の顛末を説明し終えると俺とディアは謝罪をして早々に村に帰った、と言う訳だ。

当然、新婚旅行は中止となった。

 

 

後々になってから謝罪に来た嵐龍の一族から話を聞いてみると、どうやら件のアマツマガツチは若くとも結構強い部類だったらしく、かなり天狗になっていたそうだ。

それで人間やらをちょっと驚かしてやろう、と飛んで回っていたんだとか。

迷惑極まりない。

 

そしたら親達が追い掛け止めようと探していたら、偶々通った街に俺達夫婦が偶々居て、ディアに手も足も出ずボコボコにされ鼻っ面を圧し折られた、と。

一族の者が後々になって謝りに来て聞かされた。

灸を据えてくれたから寧ろ感謝すらされたものだ。

 

 

ディアは、一応口では龍として普通はあんな事はしない、と言う理由で怒ったと言っていたが絶対に私怨百%だと思う。まぁ口には絶対に出さないけど。

 

あれだな、ディアがやられて村の近くに倒れていた時と大して変わらないな。

龍とは、知恵深いが意外にもそんなものらしい。

 

謝罪に来た嵐龍の一族は、こっちが逆に申し訳なくなるぐらい必死に謝っていた。

どうやらディアが弱い、と言う話は所謂ミラ系統の古龍の中では、と言う意味らしい。それ以外の古龍からすればディアは十分以上に強いんだとか。

なるほど、確かにアマツマガツチのあの巨体をただの力を込めた一撃だけで殴り飛ばしていたから納得だ。

 

で、古龍の間ではディアは結構有名らしい。

普通に一族の長の娘と言うのもあるが単純に普通以上の好奇心故に世界中を飛び回っているから顔見知りが多いし腕っ節が強いから有名龍なんだとか。

腕っ節に関しては、ミラ系統の中では弱い部類らしいがそれでも他の古龍からすればまるで関係無い。当たり前に強いらしいからな。

 

あとは単純に人間と番になった、って事が一番らしい。

 

前例があるとは言え、やはり相当珍しい事なんだろう。

 

ついでに俺もあのディアと番に、それも人間でなるとは!あんなやんちゃ……、いやいや龍を娶る人間とはどんな奴なのか?と言う事で有名人らしい。

 

 

とにかく必死に頭を下げる人の姿になった嵐龍達をなんとか説得し、頭を上げさせる。

此方としても別に騒ぎ立てようとは思わなかったし謝罪に来てくれただけで十分、と双方手打ちとなった。

ディアの時も謝罪したら許してくれた、と言っていたしそれでこっちが許さなかったらそれはそれでおかしな話だからな。

件の嵐龍、どうやらあちこち飛んで回っていたらしくこれもしかしてゲームでのユクモ村のストーリーなんじゃなかろうな……?

 

と考えたが年数的に多分違う。

それにゲームのストーリーとはこの世界、全く違うからな。

 

どうやら俺が生まれた時代はまだ新大陸調査どころか、新大陸すら発見されていない時代だったし、何よりもドンドルマと言う街が出来てからそう時間が経って居なかったからだ。

今はもう三百年も経って、ドンドルマも歴史を刻み、新大陸発見の報せは未だ届いていないがそう遠くは無い内に世界中に「新大陸発見!」の報せが駆け巡り、人々を沸き立たせるだろう。

 

確証が無いから分からないが、そんな理由で違うはず。

 

違かったら違かったで余計な被害が増えなくて済んだ、ぐらいに考えておこう、と思う事にした。

 

 

それが理由で何やら話が世界中に広まっているんだそう。

こっちとしては隠していないので構わないが焦ったのは国やらギルドだろう。

そこらの古龍ならばまだ良かった。

実在するし、目撃例が少なからずあるのだから。

だがこの話で話題になったのは禁忌の存在と呼ばれるミラルーツなのだ。

広まってしまった話を収束させる事も出来ないし。

 

どうやら苦肉の策で、ディアを新種の古龍、としたらしいが伝承に詳しい竜人族や、一部の人間達はディアの正体に勘付いている節がある。

畏れ敬う、まさしくそんな態度で俺達夫婦を扱うから、そんな扱いをされる事に慣れていない俺は、背中どころか全身かゆい。

何故だか分からないし知らないが崇拝されているらしいが、なんて事は無い。

変な事になりさえしなければ良い。

 

最悪変な方向に進みそうであれば舵を正してやらなければならない事も重々承知している。

 

色々あったが兎に角、そう言う訳で我が夫婦は有名になって、竜人族が訪ねてくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「フェイ」

 

「ん」

 

「今日はどんな昼飯にしようか」

 

「そうだなぁ……」

 

今日もまた、何時も通りに畑の世話をして、ハンターとしての仕事も今日はないから二人でのんびりと過ごす。

昼食は何にしよう、畑の様子や森の様子、色んなことを二人でのんびりと話す。

 

春先でまだ幾らか肌寒い季節だが、軽く毛布を被って二人でくっ付いて日向に座る分には温かい。

 

そうして過ごしていると。

 

「御免くださーい!」

 

家先で何やら声がする。

訪ね人だろうか。

 

何時も通り竜人族か?と思ったが彼らは家にまで押しかけてくる事はしない。

 

となると誰であろう?

 

玄関に向かい、戸を開けると何やら完全装備のハンターが数名。それとギルド職員が一人。

 

ディアを見ると長身である事や、その美貌に誰もがぎょっ、とするが彼らも同じらしい。

手を出そうものなら容赦はしないが、俺より先にディアが暴れ出すだろうからな……。

 

今更になって国やギルドが、と一瞬警戒したがギルド職員が竜人族である事と矢鱈と丁寧で腰が低いから、どうやら思い違いらしい。

 

「ハンターズギルドからの勅命により参りました。フェイ様御夫妻で間違い無いでしょうか?」

 

「その通りだが、何用か?」

 

「奥様、警戒するな、とは言いません。ですがどうか話だけでも良いのでお聞き下さら無いでしょうか」

 

警戒心剥き出しのディアに揃って頭を下げて話を聞いて欲しいと頼み込んでくる。

村の広場に、着陸場所が他に無かった飛行船が止まっている。

飛行船は最近実用化されたもので、昔は無かった。

 

こう言うのを見ていると、より強く時代の流れを感じる。

 

「……良いだろう」

 

流石に誠意を見せられ頭を下げられては無碍には出来ないらしく、短く頷いて一行を迎え入れ、話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、老山龍を説得して頂けないでしょうか」

 

「老山龍の説得?」

 

「はい。私達はドンドルマからやって参りました。用件は今お伝えした通り、老山龍を可能ならば説得してドンドルマを通らずに移動させて欲しいのです」

 

「なるほど……」

 

「老山龍の目的は分かりませんが、こうして一定周期でドンドルマを通って何処かへ行ってしまう。しかし毎回毎回それを相手にしていたらキリが無く、かと言って何か有効な手立てはありません。此方も向こうも痛みを被るばかりで益はありません。ならば、話に伝え聞く貴方方に協力を依頼してみては、となったのです」

 

どうやら、ゲームでもあったドンドルマの老山龍撃退戦に参加し、可能ならば話し合いでどうにかして欲しい、との事らしい。

 

まぁ老山龍が移動する理由を知っている俺達としては変な話ではあるが、狩れ、では無く言葉をもってしてどうにかして欲しい、と言うのならば手を貸さない理由は無い。

 

それに一応、ハンターの身としてはギルドからの要請には出来うる限り答えるつもりだ。

その様に昔、決めた訳だし断る理由が無い。

 

「分かった。ただし、それ以上は決して干渉しない。それで構わないのならば協力しよう」

 

「ありがとうございます。それで構いません。それでは早速向かいたいのですが、準備もあると思いますので、翌日明朝出発で構いませんか?」

 

「あぁ、それで構わない」

 

敬語で話される事も、むず痒くて仕方がないんだが止めろと言っても聞きやしないから諦めた。

 

 

出発は明朝か。

まぁ特に持って行くもの、と言っても長年愛用している武器防具に、アイテム類を一式などなど、まぁ何時も通りのものを持って行けば良い。

 

それらを手早く揃えて詰めておく。

 

「老山龍は、どんな存在なんだろうな。見た事が無いから気になる」

 

「でかいし、でかいし、兎に角でかい。あとのんびりおっとり優しい龍達だ。普通に話せば聞いてくれるだろう」

 

「そんなにか」

 

「山が一つ動いているようなものだからなぁ……。私達の一族と比べてもでかいぞ。にも関わらず前にも言ったが老山龍達は種族柄、穏やかな性格をしているからな。優しいぞ。怒るなんてまず無い。一生の内で一度有るか無いかぐらいだ。人間が攻撃しても反撃せずにただ通り過ぎるのが証拠だ。そもそも岩石鉱石を何十何百と層に圧縮して纏っていて硬いからな、老山龍らは。武器を当てるぐらい爆薬で吹っ飛ばされるぐらいなんて事は無い」

 

「なるほど」

 

「人間の攻撃なんて殆どの龍からすれば人間で言うところの蚊と変わらない。中には効くものもいるが大抵は腕の一振りで跳ね除けられる」

 

「だからあまり目立たない様に暮らしているんだ。じゃないと頻繁にちょっかいを出されるからな。あの嵐龍みたいに自分を見せびらかすなんて普通はやらない。まぁ、あの時だけは私も何も言えないが、だからと言って反省はしていないぞ」

 

との事らしい。

ディアからすれば、やはり新婚旅行を邪魔されたのはなんとしても許し難く、許したとしても到底忘れられない事らしい。

実際相当根に持っている。

 

種族同士の仲が悪くなった、では無く単純に一個龍間での問題だからなぁ、これは。

口出し出来ない。

 

 

今日もまた、互いにすりすりと身体を擦り寄せて引っ付いている。

夜になったらまた、毎晩恒例の運動会が始まる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

俺達夫婦を加えた一行は、飛行船に乗り急足でドンドルマへ。

 

説明を聞いているとどうやらかなり近くまで来ているらしく、焦っているんだとか。

 

確かに双眼鏡を覗くまでもなく、ドンドルマの100kmぐらい離れた場所に赤茶、茶褐色の山みたいなのが動いているのが分かる。

 

「時間が無いのでこのまま老山龍の手前で降ろします!」

 

と、ギルド職員の竜人族が風に負けぬ様声を大きく出すが聴覚が優れている俺達からしたら普通に話してくれれば問題無いのだがな。

 

お陰でちょっと耳がキーン、とする。

 

 

 

 

飛行船から降りて、老山龍の方へ向かう。

 

「さて、と。老山龍と相対するのは初めてだが上手くいくかな……」

 

「なんとかなるだろう。老山龍達は話が分かるからな。飛竜達や嵐龍を救ったのだから大丈夫だろう。いざとなったら私がなんとかしてやる」

 

「あぁ、その時は任せた」

 

ディアと共に、老山龍の足元へ。

 

「おーい!!」

 

龍になって得た無駄に有り余る肺活量を目一杯使って、声を掛けてみる。

今まで出す機会が無くて分からなかったが、明らかに古龍のバインドボイス以上だったな……。

 

これからは下手に大声を出さない様に気を付けないと。

 

 

 

『?』

 

老山龍は、足を止めて何やらキョロキョロと首を振り探している。

どうやら声は聞こえたらしい。

 

「こっちだこっち!!!」

 

先ほどと同じ様に大声で、足元でこちらに気付く様にすると、俺達に気付いたのか顔を寄せて来る。

 

『ふぅむ、声を久方ぶりに掛けられた、と思ったら人間では無いか』

 

「少し話があるのだが、聞いては貰えないだろうか?」

 

『構わんが、ちと急いでおるでな、早めに頼むぞ、人間よ』

 

声は、皺枯れた、とまでは行かないが老齢である事を伺わせるような声でどこか優しさを含んでいる。

なるほど、ディアが言った通り争いを好まず優しい性格の龍が多いと言っていたがこの老山龍もそうらしい。態々顔をこちらに寄せてくれることからもそれは伺える。

 

『んん……?そこの人間、何処か見覚えがあるような気がするのぅ。はて、人間に見知った顔は居ない筈だが……』

 

何やら、隣に居るディアを見るとうぅむ……、と唸りながら考え込む。

 

「久しいな、(おきな)

 

『おぉ、おぉ、その声……!忘れもせん、黒龍一族の!懐かしいのぉ!』

 

どうやら、ディアと老山龍は面識があるらしい。

 

「知り合いなのか?」

 

「三千年ぐらい前だったか、あちこちを飛び回って色々と見て回る今で言う旅行をしていた事があってな。その時に知り合って色々と話を聞いた事がある」

 

「そうだったのか」

 

「彼は、龍の中でも特に永生きでな。どれぐらいだったか?」

 

『今は一億と三百十七になったの』

 

ディアが言った年数も随分とぶっ飛んでいる年数だが、実年齢の方ももっとぶっ飛んでいた。

一億って、凄過ぎるだろう。想像も付かない。

 

 

 

『我らは、龍の中でも特に永生きが多くての、大体他の龍の二倍は普通に生きる。とは言え数は他の龍と比べるとあまり多くは無いがの』

 

「まさか翁だったとは思わなんだ。元気そうで何よりだ。やはり、あれか?」

 

『うむ、例の龍がやって来るから、こうして寝床を移そうと思うてな。しかし、何故お主と人間が共に居るのだ?』

 

「なんだ、聞いていないのか?」

 

『……なるほど、お主達が噂に聞く龍と人の番、と言う事か!』

 

少し考えて、驚いたように言う。

これだけ生きていても、やはり龍と人の番と言うのは珍しいらしい。

 

『いやはや本当だったとは。生きている内に、二度も龍と人の番をこの目で見る事が出来るだなんて思ってもおらなんだ……。何はともあれ、そうかそうか……。お主も番を見つけたか……。喜ばしい事だ』

 

嬉しそうに声を弾ませて、祝福してくれる。

本当に温厚な性格なのだなぁ……。

 

『祖父は壮健か?』

 

「あぁ、元気が有り余って仕方が無いらしい。番になった時は快く思っていなかったのに今では早く曽孫の顔を見せろと煩くてしょうがない」

 

『なるほど、それは確かに元気だ。漸く五千万になった頃だろう?』

 

「いや、まだだな。あと一年で丁度五千万だ」

 

話している内容が、凄過ぎて付いていけない。

なんだ、五千万歳って。俺も同じぐらい生きれる様になったのは知っているが全く現実味が無い。

 

何やら、久々の再会を喜んで会話している。

ディアの新しい一面が見れた。

 

まぁ、俺にピッタリとくっ付いて全く離れないのだが。

 

『しかし、何用だ?態々前に出てくるなど、危なっかしいではないか』

 

「そうだ、そうだった。ほら、フェイ」

 

「いや、ここで俺に渡すのか」

 

「依頼されたのはフェイだろう?」

 

「確かにそうだが……。あー……」

 

『翁で構わんよ』

 

「それでは、翁。今回は少しばかりお願いがあって馳せ参じた」

 

『お願いとな?』

 

「あぁ。この先に人間が大勢暮らす街がある。翁が通る道だ』

 

『なんと!前に通った時は何も無かったのだが……。なるほど、それでこのまま進むと街を破壊してしまうから少し逸れて欲しい、そう言う事か?』

 

「その通りだ。どうか、お願い出来ないだろうか?このままでは双方共に要らぬ痛みを被るだけだ。だから、どうか聞き入れてはくれないだろうか」

 

『なぁに、それぐらいの事ならば構わんよ。害しようと歩いているわけでは無いでな』

 

「ありがとう!」

 

頭を下げて、礼を言う。

良かった。

 

この老山龍が話を聞き入れてくれた事もそうだが、ギルドが俺の所へこの依頼をしに来た事もとても良かった。

どちらとも、被害を被らなくて済むのならそれに越した事は無い。

 

『であれば、道案内して貰えるか?』

 

「任せてくれ、と言いたいが少し待っていて貰えないだろうか?何処を通って良いのか分からない」

 

『うむ、それぐらいならば幾らでも待とう』

 

そう言うと、大きな地響きをあたり一帯に響かせながら伏せた。

どうやら少し休憩、と言った感じらしい。

 

 

それから、合図を出して飛行船に迎えに来てもらいギルドの方へ。

何処を通っていいのか指示を貰い、再び老山龍の下へ戻る。

 

背に乗らせて貰い、道案内を務めた。

 

 

 

「おぉぉぉぉ……!」

 

翁が歩く度に揺れる身体は、四足歩行状態とは言え高い。

思わず声が出てしまう程には。

 

ディアを抱き抱え、膝の上に乗せている。

なんとなく、幾ら翁とは言えディアに触れられるのがなんとなくむっ、としたからだ。

 

ディアは嬉しそうに、翁はさもそれが当たり前、と言った感じだ。

どうやら俺は順調に独占欲を強めて発揮しているらしい。

 

『しかし、人間には何時も驚かされる』

 

「そうだろうか?」

 

『そうだとも。我らよりも遥かに短い命で、瞬く間に群れを大きくし、そして街を作り、国を作る。我ら龍からすれば凄まじい事よ』

 

「だが、かの大戦には参加しているのだろう?」

 

『確かにあれはやり過ぎだ。だから我ら龍の怒りを買ったのだ。とは言え反省し、今ではそうならぬ様に決まりもあると聞く。ならば、それでいい。同じ過ちを犯さなければ、我らは何もせんよ。まぁ、千年程前の人間の国の件は庇えぬがな』

 

それからも色々と話をした。

当たり前ではあるが龍にも人間と同じでぞれぞれの価値観があり、そして思いがある。

特にこの翁は、誰よりも永く生きているからその分見て聞いてきた事の数が桁違いだから、それに基づいた人生観と言うのか、それが凄い。

 

到底、俺には分かり得ない事だったが、

 

『分からなくて当たり前よ。何せ龍になったとは言え、お主の生まれは人間で、生きている時も違う。同じ種族でも価値観は違うし、理解し合う事が難しいのに、それが種族が違えばより一層に困難極まりないのは当然の事。これからお主は長い年月を生きるのだからその中で、自分の考えをしっかりと持ち、生きれば良い。それこそが大切なのだ。私の話なぞ、戯言程度に思ってくれても全く構わんよ』

 

『価値観を共有したがるのは、どの生物も持ち合わせているが人間は特に強い。だからこそ大きな大きな群れを作り、国を作り、価値観を共有するのだ。種族柄弱いからそうでなければ生き残れないのだ。だからであろうな』

 

とのことだ。

やはり、生きている年数が違うだけあって、言葉の一つ一つの重みが違う。

 

 

 

『何度も人間の国や文明が滅ぶ様を見て来た。あの大戦も含めてな。その度に人間は環境に適応し、前へ前へと進み続ける。決して龍には無いものだ。それに、人間は見ていても聞いていても飽きない。同じ道を辿らないのだ。常に新しい道を進み、壁にぶつかり、乗り越えてゆく。だから飽きない』

 

割と、好意的らしい。

 

「しかし、どうして人の言葉を話せるのだ?」

 

疑問だった。

何故、人の言葉を理解し、そして話せるのか。

 

老山龍は人の姿になる事が出来ない。

だからディアのように人間の姿になり人間の生活に紛れる事が出来ない。故に学ぶ機会が無い筈なのだ。

 

『昔、のんびりと寝ていた事があってな。その時に私を山と勘違いした人間がすぐ隣に村を作ったのだ。その時に人間に興味があったから丁度良い、と学んだのだ。暫くしたら廃れて、誰もいなくなったがの 』

 

「なるほど」

 

昔と言ってはいるが相当昔の話だぞ。

数百年ぐらいじゃきかないレベルだと思う。

 

それに、村が廃れた、なんて言うが村一つが興り廃れるなんて並大抵の時間じゃない、相当長い年月じゃないだろうか。

 

なんだろう、ディアもそうだがこうして龍と会話しているとなんだか時間感覚が訳分からなくなる。

 

最低でも百年単位の話だからな……。

下手すると千年万年単位の話をしている訳だから、未だに精々数十年感覚の俺からしたら桁違いもいいところだ。

 

三百年生きているとは言え、慣れるにはまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く進んで、道案内を終える。

 

『久方ぶりの会話、楽しかったぞ』

 

「こちらこそ、色々な話を聞く事が出来てとても良かった」

 

「翁、元気でな」

 

俺達を降ろすと、立ち上がり言った。

 

『我らは大体同じ場所にいるから訪ねて来るといい。あぁそれと、他にも同族達が移動するであろうからな、その時は良ければ道案内を頼まれてくれんか』

 

「問題無い、引き受けた」

 

『ありがとう。ではな、また会おう』

 

大きな足音を響かせながら、ゆっくりと、ゆっくりと足を進めて行ってしまった。

しかし、またいずれ会えるだろう。世界は確かに未知に溢れてはいるが思いの外狭かったりするものだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマに戻ると、大騒ぎだった。

何せ老山龍が現れた、と言うだけでも凄まじい出来事なのにその老山龍の背に乗って道案内をした人間がいるのだから。

 

正確には、龍になった元人間と龍だが彼らからすれば些細なこと。

なんならディアが龍だと知らないし。

 

大騒ぎの中、ギルドの職員に大老殿へ連れられる。

何やら、報酬の話をしたいんだとか。

 

ドンドルマの大長老は確か、かなりデカいはずだが会ったことが無いから分からない。

 

なんせハンターとして大長老に会う事が出来るのはかなり限られた一部の相当な実力者のみだから、単純に会う機会が無い。

と言うか大長老に会う必要がない。

俺は三百年ハンターをやっているが基本村にしか居ないから全くハンターランクが上がらない。

と言うか村を守るぐらいならばそこまで必死になってランクを上げる必要が無いのだ。

 

今はハンターランク3だから、まぁまぁ、村に籠っている割には上がっている方だろう。

そりゃぁ、三百年もハンターやっているからこなしたクエストの数は他のハンターよりも遥かに上だ。

単純に討伐依頼を受ける回数が極端に少なく、大抵の場合は事が起きる前に対処してしまう。

討伐するほどの事態にならないのだ。

 

故に、ハンターズギルドにこなした依頼書やらを三百年間送り続けた結果、ハンターランク3にまで上がったのだ。

 

ハンターランク昇格時に送られてくる書類には手紙が同封されており、

 

「ギルドとしては、問題が起きる前に対処し人間、モンスター双方が深く傷付く事が無いようにしている事を、心より感謝と敬意を払う。ハンターランク5以上が妥当と判断しているが、しかしながら貴君に十分以上の実力がある事は重々承知の上で、周囲を十分に納得させうるだけの功績が無いので、致し方無く、ハンターランク3とする事を了承して頂きたい」

 

との事らしい。

先ほども言ったが、別段必死にハンターランクを上げる必要も無く、村に篭っているから大逸れた依頼が舞い込んでくる訳でも無い。

流石にイビルジョーやラージャン相手はどうだろうか、分からない。

未だそれほどの強敵と出会った事がないからな。獣竜種や飛竜種相手ならば今のままで十分だし、何か問題が起きる訳でも無い。

 

基本、上記のモンスターを含めティガレックスやイャンガルルガは話が通じない連中だが、それ以外のモンスターならば基本なんとかなる。

 

依頼をこなし、モンスターをできる限り対立せずに穏便に済ませる為にここ百年ぐらい、ディアから龍や竜の言葉を学んでいるから話す事自体は出来ないが聞く、と言うだけならば出来る。

ディアが付いて来ているから俺が聞いたり話したり出来なくともなんら問題は無いのだが、単純に興味が湧いたから学び始めた。

 

何故話せないのか、というとまず発声器官の構造が違う。

竜と人の発声器官は根本から違っており、竜が人の、人が竜の言葉を話す事はまず無理なのだ。

だから俺は聞いて理解する事は出来ても話す事が出来ないのだ。

 

ディアに関しては、実は龍の姿でも流暢に人の言葉を話せるのか実は良く分からないのだ。

念力と言う訳でも無い。

声帯に何か理由があるのか、はてさて、と言った感じらしい。

 

古龍の解剖なんて誰もやった事無いからな、当たり前と言えば当たり前か。

それにそこまでして知ろうとは思わないし。

 

いやはや、やはり世界は狭いとは言うが不思議が満ち溢れているな。

竜の言葉を理解出来るようになると、人間社会からの竜に対する目線は勿論分かるが、それに加えて竜社会の人間に対する目線や考えなんかも色々と知る事が出来る。

 

実は竜達は、ただの鳴き声やら全く同じように聞こえる声でも慣れて良く聞いてみると、本当にごく僅かではあるが違いがある。

 

ディアに教えて貰っているが、竜達は相当高度な会話を可能とし、細かな意思疎通をとる事が可能なのだ。

 

これには本当に驚いた。

ただ、慣れ親しんだ人間の話す言語では無いから、兎に角最初から全く言語体系の違う言語を覚え習得し、使い熟せるようになるのに時間が掛かる。

 

言わば完全に異なった言語形態の異星文明言語と同じ様なものだ。

 

文法やらなんやらだって今俺が話すものとは違うし、そもそも生物として全く違う。

人間からすれば聞き分けが出来ないなら唸り声にしか聞こえないからな。

 

人間が猫と会話する、とかそんな次元の話だ。

 

自画自賛になってしまうが、良く聞く事だけとはいえ出来るようになったものだ。

 

まぁなんにせよ、そんな理由もあり三百年間でこなした依頼は数知れず、と言う訳だ。

 

 

 

 

 

大老殿、正確にはドンドルマハンターズギルドの奥の更に奥にある繋がった建物なのだが、そこが大老殿、と呼ばれている。

ギルドの中には各地から集まった腕利きのハンター達が屯していた。

皆、一様に俺とディアを見ているが、その目はどちらかと言うと好奇心なども多分に含まれている。

 

が、許せない事が一つ。

 

男達がディアに向ける視線だ。

夫としては嬉しく無いものばかりだ。

 

ディアを抱き寄せ睨み付けてやると皆顔を青くして一斉に逸らす。

 

「……フェイ、私は嬉しいぞ?そうして私がフェイのものだと周りに知らしめてくれて」

 

……どうやら、今回も我が妻の掌の上だったらしい。

 

「やはり敵わないな」

 

「今回は、完全にフェイ自身の力によるものだ。私は少しだけフェイの気配を溶け込ませるのを止めただけだ」

 

との事だそう。

うーむ、やはりディアにお墨付きを貰えるぐらいには独占欲などが強く、深くなっているらしい。

 

 

 

高い高い天井を持った廊下を歩き、大きな扉を携えた部屋の前に着く。

 

重々しい扉が開く音と共に扉が開けられ、その部屋にはゲームで見た通りの大長老が座していた。

 

「良く来られた、龍と人の夫婦よ」

 

好々爺のような人好きする笑みを浮かべ、俺達を出迎えた。

 

 

 

 

 

 

「依頼を受けて頂いた事、心より感謝致す」

 

頭を下げて感謝を述べる大長老。

 

仮にもハンターズギルドの重鎮たる存在が、確かに立ち位置は特殊とは言えそう易々と一介のハンターに頭を下げて良いものなのか、と思うがどうやら竜人族と言うのは、例外無く我が夫婦の事を知っているらしく。

 

「此度は無茶な依頼を受けて頂き感謝する」

 

「あまり謙らずとも構わん。フェイの上司なのだろう。その点は変わらん」

 

「ふぅむ……、しかし何時も通りに、と言われて貴女方相手に出来るのならば苦労はしませんぞ」

 

大長老までも俺達を上位存在に見ているらしく腰が低いし言葉遣いは丁寧だしで、ゲームを知っているから違和感しかない。

 

そんな違和感を抱えつつ、報酬の話に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

話が終わりギルドへの用件も特に無く、さてどうするか、と二人でギルドに併設されている酒場で考える。

報酬に関しては、正直もうこの先依頼など受けなくても二人ならば暮らして行けるほどの金額を与えられた。

 

本来ならば、この報酬含め老山龍との戦いで損傷した戦闘街などの修理や復旧に充てたり、参加資格を持っており参加したハンター達に分配されたりするのだが、今回そのハンターの数が各地に出払っていたりして想定よりもかなり少なかった事から今回俺達に役目が回って来たとの事らしい。

 

どうやら各地でモンスターが凶暴化したり活動が活性化し始めており、その対処に追われているのだとか。

それを聞いて、なるほどゴア・マガラが禁足地へ向かうべく活発化、その影響であろう、と知っている身としては容易に仮説を立てる事が出来た。

 

事実、老山龍がこうして移動を行うのは、その時だけだとディアに聞いたことがある。

古龍の中では老山龍だけがゴア・マガラやシャガルマガラの影響を受けてしまうそうだから、そうならない為に影響を受けそうな老山龍は移動しておくのだ。実際に見た事は無いが、そうなった場合街一つどころか国一つが滅びる運命になる。

 

なんせあの、黒龍や紅龍、祖龍達ですら凶竜化したならば手古摺る、と言うのだから相当だろう。

並の古龍では太刀打ち出来まいし、ハンター達ならばどれだけ束になって戦ったとしても勝ち目は相当薄いに違いない。

 

一応大長老には、今後も同じように老山龍が移動するから、もし手を貸して欲しいと言うのならば幾らでも貸そう、と言ったらその時は手を貸して欲しい、と言われた。

 

村には帰っていいとのことで、そうなった場合は今回のように飛行船で迎えに来てくれるそうだ。

 

と話が纏まり、とんでもない金額の報酬を受け取ったはいいが使い道に困る。

 

差し当たり、村までは飛行船で送り届けてくれるそうだから、足には困らない。

 

ふーむ……、そうだ。

 

「ディア、少し付き合って貰えるか?」

 

「ん、構わないがどこに行くのだ?」

 

「少し、な」

 

最初に受付嬢にディアに睨まれながら目的を達成出来るであろう店の中で評判や品質が最も良い店の名前を聞いてくる。

 

それが済んだならば酒場からディアと共に出る。

ドンドルマは鍛治技術なども栄えているから、高い煙突が幾つも聳え立っている。

 

そんな街中の風景を眺めながら歩き、目的の店へ辿り着く。

 

そこには軒先の上に大きな看板に、フォルジュロン工房、と書かれている。

 

「ここに用事があるのか?」

 

「あぁ」

 

ディアの手を握って、中に入る。

 

「いらっしゃいませ!!」

 

中から大きな活気ある声と、金属を叩く音などが聞こえる。

なるほどこれは繁盛しているらしい。

 

「ここで何を買うんだ?」

 

「ディアに指輪かネックレスでも、と思ってな」

 

「ほう……!ほうほうほう!」

 

そう答えると、それはもう嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。そして繋いでいた手をより強く握り、腕を抱き締め擦り寄ってくる。

 

まぁ、簡単に言ってしまえば結婚指輪とかそう言ったのをまだ渡していなかったから、良い機会だし、と言う事で購入しに来たのだ。

この世界にも、結婚するときなどに婚約指輪や結婚指輪などを送る風習がある。

 

しかしながら、俺達が結婚した時はバタバタしていたし、今までもなんだかんだと村の外に出る機会も無く、かと言って行商人に頼むと高くついてしまうから、と購入出来ていなかった。

しかもディアと二人でのんびりと村で過ごしているだけで十分に幸せだったし、機会があったらと思いつつ三百年間すっかり機会を逃し続けていたのだ。

 

その為に今回こうしてドンドルマにやって来た事だし、そこまで派手だったり華美だったりするものは買えないだろうが、それでも渡せていなかった事と、夫婦になってから三百年という節目でもあるからその記念に、と思った訳だ。

 

「申し訳ない、妻に指輪かネックレスを送りたいのだが、何か良いものはないだろうか」

 

「はい、ご案内致しますね」

 

店員の案内の下、ショーウィンドウの前に中に並べられた数多くの指輪やネックレスといった宝飾品を見る。

 

「こちらなどが、お勧めですが、どうされますか?」

 

「そうだな、私は夫に決めて貰いたいから、少しばかり時間が欲しい」

 

「畏まりました、それではお決まりになられた際はどうぞお声掛け下さい」

 

一礼すると、店員はまたカウンターに戻って行き、別の客の相手を始めた。

 

「さて、フェイ」

 

「ん、喜んで選ばせてもらおう」

 

「責任重大だぞ?」

 

「それは困ったな、下手な物を選べなくなってしまった」

 

そう言うと、くすくすと嬉しそうに笑い、さぁどれがいい?と聞いてくる。

 

「そうだなぁ……、ディアの瞳は綺麗な紅色だから、それに合わせてルビーと言うのはどうだろうか」

 

「この赤い宝石か?」

 

「あぁ」

 

「ふむ、まぁ私としてはフェイが選んでくれたものなら何でも嬉しいから、どれでも構わないぞ」

 

こうして二人揃って互いに、こうだから意外と贈り物を、となると決めるのが大変なのだ。

なんせ何を贈られても嬉しいから下手するとその辺りに落ちている小石を加工したものですら喜びかねないし、俺だったら喜ぶ。

 

そんな訳で、聞いてはいるものの、実際は俺一人で決めた方が確実だ。

 

結局、俺が選んだのは情熱ルビー、と呼ばれるルビーがあしらわれた指輪を贈り、そして二人でペアルック、と言う形で多謝想石と呼ばれる石を使ったネックレスを購入する事にした。

 

情熱ルビーは産出量が少ないから、凄くお高い。

だから粒の小さなものになってしまったが、それでもディアは誰もが二度見するぐらいの、釘付けになる美貌を満面の笑みで歪めて上機嫌である。

 

多謝想石のネックレスに関しては、紅色を二人でお揃いに。

 

 

 

「ふふっ、私は嬉しいぞ」

 

「喜んでくれたのなら、何よりだ」

 

ディアはいつまでも嬉しそうに笑みを浮かべ、俺の腕を抱き締めている。

あぁ、これはあれだな、間違い無く運動会が長期戦になるな。

 

そう予感しつつ、それ以外の種や苗木、村や行商人からは購入出来ないもの、と言った諸々の必要な物を買い込み飛行船の発着場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

空の旅、と言うのは飛ぶ術を持たない俺からすれば、大層心躍るものだ。

飛行機とは違い、高度は低いがそれでも金属で覆われておらず、木製の柵で周囲を囲ってあるだけだから幾らでも下界を覗き込めるし、どこでも見ることが出来る。

 

ディアは龍として飛翔する事が出来るから余り興味無さそうに、俺から贈られた指輪とお揃いのネックレスを大切そうに、大事そうに撫でて微笑んでいる。

当然、俺達は引っ付いたままだから船員達からは注目されるが今更気にならないし、なんならディアは俺のものだ、手を出すなよ、と示すべくよりくっ付いたりする。

 

村に到着すると、皆が出迎えてくれた。

買い込んだものを降ろしてから飛行船の船員達に礼を言って別れる。

 

村の皆に買ってきた土産を配って、お開き。

 

家に入ると、1日半ほどしか離れていないのに凄く懐かしい感じがする。

しかし、三百年も住んでいるから結構ボロボロだ。

 

修理しないといけないな、と思いつつ。

 

「フェイ、フェイ……!」

 

昂ったディアをどうにか抑え、風呂に入り、そしていつもより長い、長い情事に耽る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間を過ぎて漸く終わった情事は、互いに疲れ果てるものだがもう慣れたもので、先に身体をざっと拭いてから後片付けをし、食事を手早く済ませ、風呂に入る。

 

それら全てが済んだなら、ベッドに二人で潜り込み。

 

「んっ……、おやすみ、フェイ」

 

「あぁ、おやすみ、ディア」

 

ディアを抱き寄せ抱き締めて、体温や匂い、柔らかさといった温もりを感じながら八日ぶりの眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、お久しぶりです。
本当はもっと早く投稿する予定だったのですが、先代iPhone7様が唐突に寿命を迎えてしまい、うんともすんとも言わなくなってしまったり、執筆をしたりする自分用のノーパソが同時にお釈迦になってしまったりと結構ドタバタしていました。

しかもスマホん関してはバックアップ取っていたノーパソも使えなくなり、しかもうんともすんとも言わないから引き継ぎが困難で……。
購入時にオプションで引き継ぎをやって貰いましたところ、どうにかなりました。その時の店員さんがまぁ親切で親切で。本当にあの人が居なかったら今頃ゲームデータは全て消えていた事でしょうし、ゲームデータが吹き飛んだと言うことでグロッキーになりこうして執筆する事も、もしかしたら無かったかも。
本当にありがとうございます。

まぁLINEはインストール時にパスワード設定しなくてもよかった時期だったのでしておらず、再設定に手間取りましたがどうにかこうにかなんとかなりました。
いやぁ、四年半も使ってたらそりゃ壊れるわな。だってスマホの寿命って2〜3年なんだもの。

まぁとにかくそんな事情もあり、書き上げるのに手間取っていました。

他の作品も同様です。
今現在、執筆中ですのでどうか今暫くお待ち頂けると幸いです。

それでは次回投稿、もしくは別作品にてお会いしましょう。










龍の恩返し ノクターン版
https://syosetu.org/novel/269547/


ノクターン版(夜のえっちなやつ)、読みたいですか?

  • 組み敷かれるフェイを見たい。
  • 組み敷かれるディアを見たい。
  • 組み敷かれるフェイを見たくない。
  • 組み敷かれるディアを見たくない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。