龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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イチャイチャ成分少なめ。




6話

 

 

 

 

 

 

老山龍の一件から早五十年。

功績を認められ、ハンターランクが8にまで上がったがそれ以外にこれと言って変わった事は無い。

 

天廻龍の一件があった程度ではあるが、その一件もどうにかこうにか収まった。

収めたのは俺では無いから詳しい話は分からないが、どうやらハンターの中でも選り抜きの腕を持った者達が事に当たったらしい。

 

と言うことは、天廻龍と戦い勝った、と言うことだ。

それに関して俺もディアも何かある、というわけでは無い。

 

この世界は常に生存競争であり、天廻龍と人間の戦いもまたその一部に過ぎないからだ。

ある種の縄張り争いだ。

 

確かに老山龍は話をすれば提案を受け入れてくれたが、天廻龍が老山龍同様に話が分かるか、と言われると無理があるからだ。

 

それに老山龍の件に関しては手を貸すと言ったがそれ以上は干渉しない、と言ってある。

 

非情かもしれないが、なるべくしてそうなった、と思っておこう。 

天廻龍と言う古龍は、単為生殖、所謂番を必要としない方法で種を増やすのだが、その増やし方がなんとまぁ、モンスターハンターの世界らしからぬ方法なのだ。

 

と言うのも天廻龍の凶竜ウイルスに侵された竜が死ぬと、詳しい過程は分からないがその死体を苗床にして黒蝕竜が生まれてくるらしいのだ。

しかも大型、中型モンスターに限ってらしい。

推測ではあるが、苗床が小さかったり弱かったりすると単純に産まれてくる黒蝕竜が弱く、他の生物との生存競争に負けてしまうから進化の過程でそうなったのでは?と思う。

 

しかも黒蝕竜として産まれたとしても実は天廻龍になる事が出来る黒蝕竜は極々一握り。

しかも子育てと言う事をしないから、その天廻龍に至るまでの過程がディア達を以てしても分からないんだとか。

 

そんな話をディアに聞かされたりしたが、とにかくこの一件は落ち着いた、と言う事だ。

 

 

 

 

 

 

そして、年月が経つに連れて皆が天廻龍の騒動を忘れていく頃。

天廻龍以上の大事件、いや、大ニュースがつい先日世界中を駆け巡った。

 

そう、新大陸の発見である。

 

あぁ、前世のアメリカ大陸を見つけたコロンブス達や、それを知らされた人達の気持ちと言うのはこんなものだったのだろうか。

 

知っているとは言え、余りにも冒険心や好奇心が掻き立てられるではないか。

やはり娯楽の少ないこの世界では、特に知的好奇心と言うのが永く生きていると欲求不満になるのだ。

新しい事を学び覚える事に対して、これ程までに心躍り、自分から飛び込んで行くなどとは、前世の俺からすれば生活環境など様々な理由があるが、やはり到底想像も付かないであろう。

 

 

 

「ディア、新大陸の事は知っているのか?」

 

「いや、知らん。話を聞くに、龍を追いかけて行ったら発見したのだろう?多分、その龍達は皆共通して老齢である筈だ。恐らく人間達が言う新大陸は幾つかの種の龍達が死期を悟ると行く場所の事だろう。そこであるならば行った事は無い。人間が遥か昔に作った大きな大きな塔がある大陸ならば行った事があるが」

 

「死期を悟ると行くのか?」

 

「あぁ」

 

「何故行くのだ?」

 

「あそこには、私も行った事が無いから分からないが、何やら本能が行かねば、と訴えるらしい。私の種族は行かないがな」

 

だそうで、本人達もどうして引き寄せられているのかイマイチよく分かっていないんだとか。

ゲームだとどうだっただろうか?

記憶が正しければ寿命を悟った老齢の古龍が死地を目指して移動する、だったか。

 

そんな理由があったはずなのだが、流石に四百年ぐらい前の事となる前世の記憶だからあまり信用ならない。

 

「大陸毎にその生態系は大きく違う。地域ごとですら大きな差異があるのだから大陸が違うともなれば余計にな。住まう龍もその大陸にしかいない龍も居るし、恐らくその大陸にも居るだろう。問題は、何故この大陸の龍達が人間が新大陸と呼ぶ場所へ行くのか?、だ」

 

「確かに、普通ならその土地の龍達の縄張りだし、死に場所を求めるにしても態々入っていく理由が分からないな……」

 

「だろう?本来龍と言うのは、その莫大な生命エネルギー、とでも言うべきものを内包している。それは永く生きた龍ほどに強くなる。強さに直結するものだ。私だって例外ではないし、フェイも龍になったから同じだ」

 

「この世界には龍脈、と呼ばれるものがあってな。単純に言えばエネルギーの流れとでも言えば良いのか、そんなものだ。この星全体を巡っている。そして龍は生まれ付きその莫大な生命エネルギーを内包しているが、死ぬとそれを世界に還元するのだ。そうすることで、世界を廻らせるのだが、本来は自分の生まれ育った故郷、単純に言えばこの大陸で死んでこの大陸に還元するのだ。新大陸にはそこに住まう龍が居るからその龍達に任せれば良い。しかし、どう言うわけかこの大陸の龍達が本能に訴え掛けてくるほどに、その大陸に向かうのだ」

 

「おかしな話だな」

 

「だろう?私の種族はそんな事は無いから、余り実感が湧かないがどうやら他の龍達はその様でな、かなり昔からもしかしたらこの大陸のエネルギーが回らなくなるかもしれない、と心配しているのだ。ましかし、龍脈は全て繋がっているから枯れる、と言う事は無いと思うがもし回らなくなったら生物が生きていくことができる環境に戻るのに、私達の一生ほどの年月が掛かるだろうな」

 

「我が種族がこの大陸で産まれ、生き、そして死んでいくのならばその心配は低いが、それでもだ」

 

ディアがそう語ると、なるほど確かに新大陸はおかしなものらしい。

 

早い話が、ディア達でも分からないと言うことらしい。

 

「はっきり言って、その新大陸にまで好奇心が及んでいないのだ。確かに行きたいとは思うが、こっちの大陸などにもまだまだ知らぬ事があってな。手が出ていない。私だって見てみたいものだ。どのような生物達が生きているのだろう、とか疑問は尽きないな。うん、見に行ってみたいな」

 

身体を寄せて、そう語るディアはやはり好奇心の塊らしい。

目をきらきらとさせている。

 

うん、やはり俺の奥さんは美人だな。

 

 

 

 

新大陸発見の報せが世界を駆け巡ってから幾ばくかの年月が経った。

最初は今俺達が住む大陸を現大陸だとか旧大陸だとか呼び方一つで大騒ぎしていたのに今では全く話題に上がらない。

 

まぁ、自分達の生活に直接間接問わず影響も何も、今のところは無いから仕方がないとは言え仕方がない。

 

世間に大きな変化があったのかと言うと無く、全く関わりの無い人間からすれば、日々を送る事の方が重要で忘れられた、と言う事は無いが奥様方の井戸端会議には出ないし、精々酒場や親父連中の酒飲みの席で話が出れば良い方、とそんな感じで記憶の片隅に追いやられたりしていた。

 

我が夫婦も、日々の生活を送り、そして互いに独占欲や依存度を増しながら仲良く暮らす事に必死だ。

 

とは言えその新大陸の話が我が夫婦の親密度をより深く、強いものにしている事に一役買っている。

なんせ新大陸は好奇心などが刺激されて仕方がないのだ。当然、好奇心や知識欲の塊たる我が妻は、そして俺自身も忘れるどころかどんな場所なんだろうか、と夫婦間で盛り上がる話だ。

 

 

 

 

そんな当たり前の様で大切な日常を過ごしている。

 

春から夏、夏から秋、そして冬が訪れる。

毎年毎年、当たり前の様な繰り返しだが季節毎にやる事が違っていたり、ディアと共に森の中などを散歩したりと、意外とやる事が尽きない。

 

それに自然は常に変わるものだから、やはり三百七十年もこうして見てくると随分と森の中も変わったものだな、と常々思う。

 

例えば、三百年前に緑が生い茂り元気に立っていた木が枯れていたり、小さな苗木だった木が、大木と呼ぶに相応しいほどに大きく、太く育っていたり、木々が所狭しと生えていたところが、自然と強い木に押されて広場みたいになっていたり。

 

本当に、彼方此方が様変わりして行くから、時折周辺の地図を新しく作らねばならない。

当然、村の外に出て生き残る事が簡単な俺に役割が回ってくる訳だ。

数ヶ月掛かりで地図を作り直すのは大変ではあるが、楽しいものだ。

 

今日は、つい先日ティガレックス亜種が主に生息している火山地帯からこっちの方に縄張り争いに負けてやって来て、しかも森の中で派手に大暴れしてくれたものだから、立ち入るには危ない場所や地形が変わった場所がかなりあった。

 

お陰でこの有様じゃぁ、一ヶ月は掛かるな、と言うぐらいの変わり様だ。

 

どうやらティガレックス亜種、つい最近新種としてギルドが認定したブラキディオスに縄張り争いで負けたらしい。

ギルドに報告したところ、追跡していたら見失ってしまったが進行方向から考えるにその個体ではないか、と返答が返って来たから多分間違いない。

 

事実、粘菌による爆発で身体の所々が焼け焦げていたり煤けていたりしたしな。

 

まぁ滅茶苦茶に元気であったし、偶々遭遇した俺達を見るなりデカイ口を開けて咆哮しながら飛び掛かって来たからな、単純に力比べで負けたんじゃないだろうか。

因みにであるが、ゲームとは違い当然攻撃パターンなんてものはこの世界には無い。

訳の分からない攻撃方法を繰り出して来たりするからな。

 

 

 

取り敢えず、いつも通りにディアは離れて俺はまさか遭遇するとは思わなかったから、武器を抜く前に正面から取っ組み合いになった。

 

いやはや、龍になっていて良かった。

人間のままであったら、吹っ飛ばされて挽肉になっていたところだったぞ。

 

突然の事だったから押されはしたが、負ける訳も無く取り敢えずひっくり返してから武器を抜いたが、さぁどうしたものかと。

走り回る内に辺りを滅茶苦茶にしながら俺を追いかけてくるものだから困った困った。

罠も無いし、捕獲用麻酔玉も持って来ていないから捕獲出来ないしどうするかと考えて。

 

 

振り向いて真正面に立った後に、飛び掛かって来た所を顎を砕かないように力加減して殴って気絶させた。

 

 

初めてであったが取り敢えず上手くいった。

こんな無理矢理なパワープレイ、普通は出来ないぞ。

武器を使って漸く、やっとモンスターに対抗出来るのが人間だからな。しかも勝てる、とはならない。

改めて龍になった事を実感した。

 

気絶したティガレックス亜種をそのままにする訳にはいかないから、取り敢えずその場に置いて、村に急いで捕獲用麻酔玉と縄を取りに戻って、完全に眠らせた後にまた暴れられたら面倒だからと、縄でぐるぐるに縛って、ギルドに連絡して引き取りに来てもらった。

 

ティガレックス亜種の捕獲は腕の立つハンターでも至難の技であるのに、傷一つ負わせる事無くどうやったのかと引き取りにやって来た竜人族に聞かれて、正直に答えるしかなかった。

 

あの時の、驚いた表情となんとも言えない表情が混ざった顔は申し訳無いが笑ってしまったな。

兎に角、件のティガレックス亜種は生体調査を幾らか行ったあとに別の火山地帯に放されたそうだ。

 

因みに後日聞いた話だがティガレックス亜種を追いやったブラキディオス、どうやらなんでもないアグナコトルに真下から奇襲を喰らってあのリーゼントみたいな頭殻を圧し折られて別地域に追いやられたそうな。

うぅむ、弱肉強食。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、この辺りも滅茶苦茶だな……」

 

木々が根っこから無理矢理引き抜かれたり、半ばから圧し折られていたり、地面が派手に捲れ上がっていたりするし、川の水が流れ込んで新しく小川が出来ていたりと、ぐちゃぐちゃだ。

 

それらを地図に新しく記しておく。

迂回しなければならなくなったりしているから、それらも書き込んでおかないと、後々困るからな。

流石に町へ続く道には被害は無かったから、まぁ良しとしよう。

 

隣には、ディアが座り手元を覗き込んでいる。

何やら動く俺の手元が気になるらしいのか、目が手の動きに合わせて動いている。

 

そんな表情のディアも、魅力的だ。

邪魔にならない様に、しかしピッタリとくっ付いてくるディアを横目に、さっさと終わらせて家に帰って、二人で誰にも憚られずに抱き締めたりしたいものだ。

 

 

 

 

「まぁ、こんなものか……」

 

「終わったか?」

 

「あぁ、多少粗いが地図としては使える。精密な地図は俺には描けないから仕方ない」

 

前世で学んだ知識が無ければ、こんな地図描かなかっただろうな。

意外と俺の描く地図は他の一般的な地図と比べると精巧だ。測量機材が無いから歩幅計算だったり、高さが曖昧であったりはするがそれでも精巧なものになる。

 

なんせこの世界の地図と言えば、前世の世界で言う中世以前のような地図だったりするからなぁ。

ハンターが持つ地図は他よりはマシだが、ゲームの画面に表示されているほどのレベルではない。

 

あんな地図を出したら間違い無く、商人やハンター達の間で飛ぶ様に売れるだろうな、と言う程だ。

 

 

 

「そしたら、帰るか」

 

「あぁ、帰ろう」

 

立ち上がり、シートを畳んで鞄に道具一式と共に入れたらディアが背負う。

俺は愛用の太刀を背負って、ディアの手を握ってから歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから更に五十年。

もう産まれてから早いもので四百七十年を過ぎた。

 

まぁ、その間に色々あった。

なんせ龍達が、人間視点から見れば活動的になって来たりしてその対応に追われていた。

各種古龍達が世界各地でやたらと高頻度で確認されている。

天彗龍や骸龍、巨戟龍と言った人間達からすれば実在しているのかすら確認出来ていない龍達すらも現れ始めた、と言えばどれほどの事か分かって貰えるだろうか。

 

とは言え、危害を加える、と言う訳ではなく単純に数千年周期で龍達が活発化するタイミングが被っただけの事だから余り騒ぐ必要は無い、と思ったが人間からすれば大事も大事、存亡が掛かっているからな。

ハンターズギルドからの依頼で、それらの対応に追われていた。

 

対話で解決出来るならば対話で、無理ならば実力行使。

そんな感じだ。

 

大体ディアが仲介して話で解決するから、実力行使の出番は無いんだが無理となった場合、俺の出番と言う訳だ。

ハンターズギルドから龍達と可能な限り話し合いによる解決、困難、もしくは無理ならば実力行使を、と依頼されているからだ。

 

話し合いで解決出来なかったのは、天彗龍と骸龍だけであった。

天彗龍は単純に、俺とディアの夫婦の存在が気に食わなかったらしい。

龍が人間と番になるなど黒龍一族も落ちぶれたものだ、とかなんとか。

 

人間と同じで龍にも色んな考えを持っているから不思議じゃ無い。

まぁ、向こうから手を出して来たから仕方がない。少しばかり、痛い目を見てもらう他無い。

それにディアの事を馬鹿にされて黙って居られる訳が無いからな。ディアには端っこで待っていてもらった。

 

 

骸龍は、何やらディアと俺を喰らおうと話し合いをする前に攻撃して来たから話し合いの席にすら着かないのならばどうしようもない。

最初から討伐せざるを得なくなった。

 

 

それ以外は、特に何も無く、語るべきこともない。

 

あとは平穏に、ディアと仲睦まじく村で暮らしている。

やはり、年々訪ねてくる竜人族の数は増えている。しかも竜人族だけで無く人間達も訪ねてきては、御利益があるとか何とか言いながら手を合わせて行くものだから、むず痒くて仕方がない。

 

今更止めろと言っても止めないだろうし、どうしたものやら。

 

 

 

 

最近は龍達も人の姿で時折俺達の元へ訪ねてくるのだから手に負えない。よほど人と龍の夫婦と言うのが珍しいらしく、ディアも龍は好奇心が強いから仕方がない、とさも当たり前の様に受け入れている。

 

俺もまだ慣れるとは程遠いが、もう諦めて受け入れてしまう方が楽なんだろうか。

 

因みに最近の趣味が地図作りになった。

精密な測量機材が無いから縄と木杭、あとは水平を測るための水準器、と言う奴を鍛冶屋に頼んで作って貰ったりと、色々道具があったり無かったりではあるがやっている。

 

流石に前世ほどの精巧さは無いが、それでもこの世界では十分過ぎる地図が村の周辺や森などに限ってだが、出来上がりつつある。

 

あとは行商人が歩いてくる道の周辺を重点的にやっているな。

意外と楽しいものだぞ、地図作り。

そうだな、趣味はなんですかと聞かれたら、地図作りです、と答えられるぐらいには嵌っているな。

 

ディア?

いやいや、ディアと仲良くしてイチャつくのは当たり前の日常であって趣味では無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜人族達の俺達への態度で悩む事三十年。

気が付けば、五百年と言う節目の年を迎えた。

 

やはり彼らを止める事は叶わず、ため息と慣れないむず痒さと共に受け入れる事にした。

 

つい先日も何やらクシャルダオラが訪ねて来て、人の姿になり一週間ほど村に滞在していた。

 

なるほど、人、竜、龍全てにおいて俺達夫婦は、その俺達が住むこの村は有名らしい。

 

 

 

最近はアマツマガツチの一件で中断せざるを得なくなった新婚旅行、と言うには年月が大分過ぎているが、何かしら旅行にでも行こうか、と考えている。

もしディアを誘ったら、自惚れとかでもなんでも無く、それはもう喜んで俺を引っ張って、引き摺って行くことだろう。

 

毎日旅行でどこに行こうか、と考えているが中々決まらないものだ。

 

 

 

 

 

 

「じいさま!」

 

「どうした?」

 

「なんかじいさまに用があるってハンターの人達が来てるよ」

 

「む、そうか。案内してくれるか?」

 

「うん!」

 

何時も通りディアと並んで畑仕事をし、旅行先を考えていると、何やら村の子の一人がギルドの人間が俺を訪ねて来たと駆けて呼びに来てくれた。

 

「ディア」

 

「ん、行こうか」

 

もう当たり前だが、常に二人で行動し、生きて来たから声を掛けて二人並んで歩く。

隣にディアが居ないとやはり駄目だな。不安だし落ち着かないし。

 

 

しかし、用件はなんだろうか?

ギルドが持って来る用件なんて殆どが古龍案件か、普通のハンターでは対処出来ないモンスター、特級危険生物であるイビルジョーやイャンガルルガと言ったヤバい奴らの案件を持ってくる。

 

古龍ならば話し合いで何とかなるが、イビルジョーは喰うことにしか興味がないから話し合いなんて以ての外。

イャンガルルガは戦う行為そのものを求めると言う、生物として物凄く異質な性質を持っているから、同種や別種の生物関係無く兎に角視界に入れば捕食や縄張り争いなどといった理由も無く、力量差も一切顧みずに兎に角関係無し、ただ向かい合ったというだけでその相手を対戦相手と捉え、猛然と挑み掛かって来るのだ。

 

しかも人間相手にも突っ込んでくるからな、話し合いをしよう、なんてしようものなら先に突進を喰らって吹っ飛ばされる。

数十m撥ねられて地面を転がる羽目になるのは幾らちょっとやそっとの事で死なない、怪我しない、とは言え気分的に嫌なものだからな。

ディアに格好悪いところは余り見られたくないしな。

 

 

イビルジョーもイャンガルルガも慢心さえしなければ負ける事は無い。

一応、龍になったとは言え身体自体は人間だから万が一が有り得るのだ。

もしそうなったらイビルジョーと言う生物全てが殺され、絶滅させられるぐらいならまだ良い方で、最悪怒り狂ったディアによってこの大陸が海に沈む。

……いや、物理的に消えかねないな。

 

しかし何よりもそうなった時に辛いのはディアを悲しませる事だ。

共に暮らし、生き、未だとは言え未来に子を成して育てる、と言う日常を一緒に居られなくなる。

それが一番辛く、心苦しいのだ。

俺とて、ディアの事は心から愛しているし、常に側に居てくれないと今では不安と言うか何と言うか。

だから、そんな事になる訳にはいかないのだ。

 

 

 

俺やディアは一撃を喰らった程度ではどうやっても死にはしないが、他のハンターからすれば命懸けだ。

 

だからこそ、一定以上の確実な実力が無ければ挑む事どころか対峙する事すら許されていない。

当然、そんな実力があるハンターなんて一握り。

多くの場合それほどの実力があるハンターは世界各地を巡っており、しかも依頼に出ていたりしている事が殆ど、すぐさまの対処は偶然その場に居なければ困難だ。

 

しかもまず対処をしてもらう以前に、本人を見つけなければならない。

余り想像が付き辛いかもしれないが、兎に角この世界は広い。それはもう前世の比では無いぐらいに広い。

 

狩場一つをとっても、依頼対象モンスターの縄張りや行動半径などにもよるのだが、数百キロ単位なんて当たり前。

極論ではあるが簡単な話、前世でのサハラ砂漠やゴビ砂漠と言ったレベルの面積の砂漠、森などが点在しており、川だって阿保みたいにでかい。そしてその広い広い広い狩場の中から対象モンスターを見つけ追い掛け、戦うのだ。

ゲームであればあれだけ小さな範囲だが、実際はとんでも無く広い。体感、前世地球よりも大きいんじゃないか?と思うぐらいには。

科学技術が未発達だから正確に確かめられていない、と言う観点からもそう感じるのかもしれないが、多分地球よりは大きい。

 

重力とかその辺りは分からない。

なんせ専門外なものだから確かめようがない。流石に重力の方程式とかは知らないからな。

そもそも地球の物理法則がそっくりそのまま当て嵌まるかどうかすら怪しい世界だからな。

 

狩場に着いたらまず最初に、目的のモンスターの目的の個体を見つけるところから始まる。

同種のモンスターなんてそこら中に何十、何百頭いるか分からないぐらいいるから該当する個体を見つけ出さなければならないのだ。

大抵の場合は、ギルドなどの観測職員が何らかの目印を付けていてくれたりするのだが、それでも見つけるのは大変だ。

 

広大な砂漠や森の中に住む、点々と距離が離れた人間を探し出せ、と言われれば分かるだろうか?

こちらならまだ人間だから区別が付き易いが、モンスターの同種の区別なんて普通分からない。

何も無ければ判断材料は体格や体色ぐらいなものだ。

 

空を飛び回るモンスターになると縄張り以上に行動半径が広いから数百キロ単位の行動半径を有していたりする事は当たり前、大森林と言った他の場所なども前世の国単位での面積が当たり前。

モンスターを一頭相手するのに一ヶ月掛けたり、なんて事も当たり前だ。

 

 

 

では何故実力あるハンター達は古龍や古龍級生物と対峙し、戦う事を許されるほどに実力が高く、依頼数をこなしているのか?

 

それは、単純な話だが彼らは兎に角規格外と言える程に追跡能力や観察能力が異常なほど高いからだ。

他のハンター達も勿論ではあるが、所謂ペイントボールなどを駆使して戦うのだがこのペイントボール、この世界だとゲームみたいに位置を正確に知らせる、なんで性能は当たり前だが無い。

あくまでも強烈な匂いを発するからそれを辿って見つけ易くする、と言うだけ。

しかしそのペイントボールの匂いも当然と言えば当然、距離が離れれば離れるほど匂いは薄くなる。

 

しかし彼らはその追跡能力、簡単に言えば五感+第六感が優れているからそれを正確に追いかける事が出来る。

更には観察能力にも優れているからモンスターの体調などを見極めたりもして、追い掛ける。

 

 

喉が乾いていれば近くの水場、疲れていたりすれば巣に戻って寝る。

と予測が立てられる。

そう言った能力が優れていて尚且つ、高い実力を持ち合わせているからだ。

 

 

そんな彼らを以ってしても広大な狩場では駆け回らなければならない。

となれば、何かあった場合頼ろうとすると、前提条件として頼ろうとしているハンターを見つけなければならない。

どこにいるのかを探すのにまず手間が掛かるし、見つけてから移動しなければならないし、その間にイビルジョーであれば最悪、生態系が破壊された後だ。

 

しかし、俺はその何処にいるか分からない、と言う条件に当て嵌まらない。

何故なら同じ場所、同じ村、若しくはその周辺に基本居るからだ。

森、といっても高々数十キロ程度。

これならば探す手間も少ないし、なんなら村で待っていれば確実に会う事が出来る。

 

どちらを取るか、なんて明らかだ。

ハンターランクこそ未だ9止まりではあるが、実は対話によって大抵の場合解決してしまうから、その場合は捕獲扱いになる。

以前話したが、この世界のハンターズギルドはただ討伐するだけではランクは上がらない。

討伐実績は勿論だが、捕獲依頼も規定数以上熟さなければ上げることは出来ないのだ。

 

俺は基本、何か已むを得ない事情以外は対話で解決しているから、捕獲実績ばかりで討伐実績が極端なまでに少ないからこそ、ハンターランクは9で止まっている。

とは言え五百年近くもハンターをやっているものだから捕獲実績だけで数千。

 

しかもギルドが持って来るのは古龍や古龍クラス、特級危険生物の依頼ばかり。

普通の依頼なんて村で受ける採取依頼や小型モンスターの討伐や追い払う依頼ぐらいだ。

 

故に捕獲実績のみではあるが、ハンターランクの昇格及び特例中の特例として俺に限り古龍の相手と、特級危険生物の対処に当たることを許されている。

 

しかもその隣には常に全生物の頂点足り得る力を持つ祖龍の妻が居るのだから、万が一俺が負けたとしても、命の心配は同格の生物、ミラの名を冠する生物ぐらいでなければ難しい。

なんなら本人の俺すらも、龍になったから轟竜ぐらいの攻撃ではなんとも無く、なんなら古龍相手ですら問題無いと来た。

 

それこそ、そこらの古龍よりも同じ古龍をただ殴るだけで吹っ飛ばし圧倒するディアの方がギルドからすればよっぽど恐ろしいに違いない。

怒らせなければいいだけの話なんだが、どこに逆鱗があるか分からないからそうは言っても、と言うところだろう。

 

だからこそ、同じ場所にいるいざと言う時に頼り易い、しかし下手に頼れない。最後に可能性として、といった感じの存在を最終的に頼るのは当たり前だ。

 

恐らく今回も同じようなものだろう。

今回はどんな案件を持って来たのやら。

願わくば、話し合いで解決出来る相手ならば良いのだが、問題は話し合いで解決出来ないのが一定数いると言う事なのだ。

まぁ、話し合いが出来ないとか、襲い掛かってきた、実害が既に出ているなどの場合は普通に武力行使させて貰うが。

 

 

 

 

 

 

村の広場には、恒例となった飛行船が止まっている。

ふむ、飛行船の大きさからして人数は護衛のハンターとギルド職員達全員合わせて六人か七人と言ったところか。

 

村の集会所に連れて行かれると、中にはギルド職員と古龍観測所、龍暦院の職員がそれぞれ一人ずつ。

それに護衛のハンターが四人の計七人。

 

ふむ、普段と比べると多いな。

普通なら多くても四人か五人だからな。

しかもギルド職員だけで無く古龍観測所と龍暦院の職員までもが来ている、と言うのも随分と珍しい。過去に二度、天彗龍と骸龍の件であったぐらいだ。

 

 

となると、古龍案件だな。

しかしただの古龍では無さそうだ。

何故なら古龍観測所と龍暦院が出張って来ているからだ。

今までに確認されて来ている龍ならば単純にギルド職員しか来ないが、そうではない、未確認などとなると古龍観測所などが出てくる。

 

と言う事は、それに当て嵌まる龍を何とかして欲しい、と言うのが今回の依頼だろう。

 

 

 

 

 

 

 

畑仕事で付いた土を叩いて落とし、村長宅に入る。

 

「お待たせして申し訳無い」

 

「こちらこそ突然訪ねてしまい申し訳ありません」

 

「あぁ、すまないが握手は出来ない。未だに力加減が出来ていなくてな。握り潰されたい、と言うのならば構わないが」

 

「そうでしたか、申し訳ありません」

 

握手を求められたが、残念ながら未だ力加減が出来ていないので断らせてもらった。

なんせ力が強過ぎてどうなるか分からないからな。

うっかり握り潰してしまった、と言うのは嫌過ぎる。

 

龍の膂力は文字通り、腕を振るっただけで地形が変わりかねない程だからな。

ディアとアマツマガツチの戦いを見れば分かるがディアのパンチはただのパンチと言うだけであの巨体を一撃で吹っ飛ばす膂力だからな。

 

 

それを、ただ単純に握る、と言う行為だけに集約して行った場合、全力とは行かずとも簡単に人の手を、圧力だけで消し去る事も可能なのだ。

はっきり言って、未だに龍になって得た力の制御が上手くいかない。なんせ龍が特に考えずに使い熟しているし、何より大き過ぎるから人間レベルにまで抑えよう、なんて普通考えない。

 

過去に一組だけ居た人と龍の夫婦は人との接触を絶って暮らしていたらしいから、力をある程度まで抑えれば良い。

しかし俺は完全に人と関わりながらだから、どうしても人間レベルにまで抑えなければならないのだが、単純な話、大きなものを小さくするのは並大抵ではない。

 

なんならどうやっても一定以上は小さく出来ないから、もしかすると俺にも当て嵌まるかもしれない。

それ以上は小さく出来ないぞ、みたいな感じだ。

努力はしているが、難しい。

 

村長も同席しているがなんだろう。

俺は一度も村長になった事が無いからな、理由は分からない。

 

俺が村長にならない理由は、一度楽を知ってしまうと生物と言うのはとことん楽な方へ、楽な方へと走ってしまうからだ。

俺の場合、村長になってしまうとどれほどの年月を務める事になるか分からないからだ。

 

ユクモ村の村長や各村の村長には竜人族が勤める場合があるが、その場合、俺達が言う勤められる年数が違う。

竜人族の寿命は精々三百〜四百年ぐらい、長くても五百年ほどだ。

村長を勤める、としても百年がいいところだろう。

それに比べて俺やディアは数千万年を生きる。

 

しかも色々な意味での力、と言うのが次元レベルで違う。

頼り切り、と言うほどでは無いが依存してしまうのは当然と言える。

 

あまり実感が無いから分かりにくいものだが、飼っている動物で例えると分かり易い。

 

野生に暮らす犬や狼は自分で獲物を狩る力があるが、飼い慣らされた犬と言うのは全くその能力が無い。

何故なら狩りなぞしなくても食って生きていけるからだ。

 

もし飼い犬を山野に放ったら、生存競争で負けて死んでしまうだろう。

街中の野良犬は単純に街、と言う完全な自然界と比べると人間が捨てた食物を得る事が出来るから生きていける。

 

それは人間にも当て嵌まるもので、何か一つに強く頼り依存してしまうとそれが無くなるとあっさり滅んでしまう。

実際問題、ギルドの古龍関連の問題も俺とディアの仲裁が原因でそうなり掛けた事がある。

 

その時は不味い、とディアと共に釘を刺しておいたからそう成らずに済んだが村長になってしまうと違ってくる。

村長と言うのは、大体の場合村の問題解決を一手に担う存在である事が多い。

村のルールから始まり村人のいざこざ、他村との交流、狩りで得た肉や各種物資の分配その他諸々を取り仕切っている。

 

それが十数年ぐらいで変わるならばまだ良いが、数百年単位で同じ人間が勤めてしまうと依存してしまうのだ。

仮にもし、俺が村長になって俺が居なくなったとしたら村が滅びる、とまでは流石に行く事は無いだろうが、立ち行かなくなる、なんて事は普通に有り得るのだ。

 

それに村長になってしまったらディアと共に過ごす時間が減ってしまうしな。

確かに村は大事だが、それよりも遥かにディアの方が大事だし何よりも優先されるのだ。

 

だからこそ、村長になってくれと頼まれても断り続けている。

 

 

 

 

 

 

「それで、本日は何用だろうか」

 

「これより一年後、ハンターズギルドは古龍渡り及び新大陸の本格的な調査を開始する予定です。それに伴い調査団を編成し新大陸に調査拠点を置く事が決定しました。ですのでハンターズギルドからの要請で、調査団に参加して頂きたいのです」

 

なるほど、一応古龍案件ではあったがまさか新大陸の調査団に参加して欲しいとは、予想していなかった。

 

「ふむ、なるほど用件は分かった。しかし、何故俺なのか?」

 

「新大陸では、何が起きるか予想出来ません。なので出来得る限り腕利きのハンターを集めたいのですが、その様な事態に対処出来るほどの実力者ともなると、こちらでも引く手数多、到底ほいそれと引き抜けるほどの余裕はありません。そこで、貴方方が参加して頂けるのであれば、と白羽の矢を立てたのです」

 

なるほど、確かにその通りだ。

新大陸に力を注ぎたいが、それだと旧大陸で起こる事象に対処出来なくなる。

 

しかも大体そういう事象に限って厄介な事ばかり。

腕利きの、それこそ特級危険生物たるイビルジョーや、古龍相手などが出来るほどのハンターは、それこそ世界中を探して集めたとしても二〜三百人ほどだろう。

それほどまでに、人と竜、龍の力の差と言うのは大きい。

 

イビルジョーは常に移動しているとはいえその個体数自体は多い。

単純に観測し切れていないだけだから、その対処が少しでも遅れれば辺り一帯全ての生物がイビルジョーの胃袋へ直行間違い無し。

 

古龍に関しても、俺の手が届かない場所では人と龍が常に生存の為に戦い続けている。

そんな力の格差が、遥か上の相手に喰らい付ける、対抗出来得る数少ないハンターを、確かに未知の危険に溢れているであろう新大陸とは言え、おいそれと何人も引き抜くことが出来ないと言うのが実際のところなのだ。

 

「その調査団とやらに参加したとして、此方には好きに戻って来ても良いのか?」

 

「え?えぇ、構いませんが、一年後の調査団を第一陣、一期団としてその後段階的に古龍渡りと共に送り込む計画ですので少なくともその復路か、再び発生した古龍渡りの往復路でしか帰る事は出来ませんが……」

 

「それに関しては心配無い。私は空を飛べるからな」

 

さも当たり前のように、空を飛べると言ったディアだがそうだった。

ディアは龍の姿になれば飛べるんだった。

ずーっと人間の姿で居るから龍の姿の時の事を偶に気付かない時がある。

 

ハンターや職員達は皆、顔が引き攣っている。

 

「そ、そうでしたか。ギルドに問い合わせなければ詳細は分かりかねますが、恐らく緊急の事態に即座に対応するべく殆どの間を新大陸で過ごして頂くことになると思われます。それでも御二方が一度帰りたい、と言うのならば一週間程度は許されるのでは無いでしょうか」

 

「それなら私は構わんぞ」

 

どうやらディアは行く気満々らしい。

と言うかさっきから、この話をし始めた時から目が輝いている。

 

龍としての、好奇心や知識欲がそれはもう刺激されてしょうがないらしい。

まぁ、俺も別に行っても構わないし、色々と知らない事等が沢山ありそうだから正直に言って行きたい。

 

フロンティア精神、とでも言うのだろうか。

 

 

「村を任せられる弟子も居る事だし、そうだな。同行させてもらおう。村長、問題無いか?」

 

「うむ、儂は構わんですよ。お弟子達も元気に駆け回っとりますし、爺様達は心配せんで行って来てください。まぁ、偶に顔を見せに帰って来て下さると私達としては嬉しいですがな」

 

「ありがとう」

 

歳を重ねて老人となった村長がうむうむ、と和かに微笑み頷いてくれる。

まぁ、この村が一部例外を除いてモンスターに襲われる事と言うのは早々あり得ないと思うがなぁ……。

 

なんせディアがここに住み着いて、早五百年になるが、当たり前と言えば当たり前で、この村とその周囲少しばかりを縄張りだと宣言している。

しかも喧伝した事があるから、下手な事をすれば殺されると竜達は早々事を起こさない。龍と言うのは攻撃されなければ縄張りに他の生物が住み着いたりしていても、同種の龍が居ようとも攻撃を仕掛ける事は無い。

じぃー、っと観察していたりする事自体はあるが、ただそれだけだ。

 

それに竜達も何かやって機嫌を損ねたりするよりは、他の竜と共生、とまでは行かないが必要以上に争う事はしない。獲物となる生物も他を探せば豊富にいる事だし、態々同じ獲物を奪い合っても逆に命を落としかねないからな。

だから古龍の縄張りの中やその近くと言うのは思いの外平和なのだ。

 

確かに龍は気配を自然の中に溶け込ませて分からなかったりするが、縄張り自体は持つ。

ディアの一族だって同じ場所に住み続けているし、あれも立派な縄張りだ。

 

持っていても何所に居るか分からないし、いる事が分かったとしても何が出来る訳では無い。

龍は基本、害を与えられたり害である、と判断しない限りは側を竜達が歩いていたとしてもまるで気にせず普通に寝ていたり寝そべってぼーっ、としていたりする。

シュレイド城の黒龍が良い例だろう。

縄張りの外だと臆病な性格が災いして余り積極的では無いのだとか。

 

しかも龍の縄張りと言うのは主が暫く居なくとも問題は無い。

龍の縄張りである、縄張りであったと言う事は竜にとって重要な事だからだ。

龍は長生きだからもし縄張りから離れていたとしても、単純に出掛けていたりするだけの事が殆どで、縄張りから完全に居なくなるのは死ぬ時だけ。

だからもし居ない間に荒らしたら、と言う訳だ。

 

竜達とて、自分達の力量ぐらいは分かっているし、積極的に争おうなんてしない。

それで龍の怒りを買ったら辺り一帯が最悪更地になるのだからな。

 

偶に自信過剰のやつがいたりするが、そう言うやつは大体鼻っ面を叩き折られる。

 

兎に角それは置いておいて。

 

 

 

だからこそ、龍の縄張りで過ごす事で他の縄張りからやって来たやつらと争いにならない為に縄張りに住み着いたりするのだ。

 

簡単に言えば龍の縄張りの中や周りに住む事で自身を守っているのだ。

 

これに関してもギルドにデータがある。

古龍の縄張りであろう、と推測される辺りのモンスター達は強さは関係無く、他の場所に住むモンスターと比べて性格が穏やかであり、争いを好まない傾向にある、とされている。

そりゃ人が目の前を横切ってもなんのリアクションも無く、動くものを目で追ってしまうと言う習性で見て来るだけと言うならば確かにそうだ。

こちらから攻撃しなければ目の前で欠伸は当たり前、水浴び、睡眠、排泄、果ては生殖活動までとなんでもアリだ。

 

目の前で欠伸をしながらぼりぼりと身体を掻き始め、そのまま川に飛び込み寝始めた、目の前で番のモンスター二頭が生殖活動を始めて居た堪れなくなったからサッサと帰ってきた、みたいな話はよく耳にする。

 

それほどまでに、龍の縄張りと言う存在は竜達の中で大きいものだ。

それ以外の場所も、積極的に争いはしないがやはり龍の縄張りの中や周りと比べるとずっと交戦的だし、縄張り内とは逆にかなりどうでもいい事で争っていたりする。

 

 

この村の近辺にもやはり多くの竜が住んでいる。

実際、この竜達が積極的に争っている姿と言うのを、ディアが縄張りだと宣言した後から見た事がない。

無警戒、では無いが少しばかり戦いになった時に備えて警戒しているだけで擦れ違おうともなんのリアクションも起こさない。

 

 

 

そんな理由があってこの村の近辺で竜同士が理由無く争うと言う事は早々無い。

流石に無防備な村人だけで森に行かせるのは不味いが。

 

まぁ、そんな龍の縄張りだとかを全く気にしないで暴れる連中も居るのでそう言う奴らに関しては少し拳骨を食らわせるなりなんなりで黙らせる他無い。

 

「にしても、何故今このタイミングで調査団を送り込む事にしたのだ?」

 

「まず第一に、新大陸に渡り得る技術が出来たことが挙げられます。なにせ昔は大洋を渡る術、と言うのは持ち得ておりませんでしたし、仮に行けたとしても失敗するのは明白ですから」

 

「次に、古龍渡りの頻度です。元々古くから古龍渡り自体は認知されていましたし一定の周期で行われる、と言うのも分かっておりました。本来ならば百年に一度程度と言う周期でしたがここ二百年、頻度が段々と高く、期間が短くなって来ていました。今では十年周期ほどに縮まり異常なほどに頻度が高くなって来ております。既に古龍渡りをするであろう古龍が確認されており、それと共にその原因を確かめるべく、と言う訳です」

 

「ふむ、確かに祖父から聞いた話だと、どうもそのお前達が新大陸と呼ぶ地に向かう龍が多くなっているらしい。龍とは本来産まれ、育ち過ごした地で還る。中には物好きな奴がいるから必ずしもそうでは無い。しかし十年周期は早過ぎるな」

 

「更にもう一つ。古龍渡りをする古龍は、共通して老齢でしたが最近はどうやら生きた年数関係無く、新大陸に向かっている、と確認されたのです」

 

「……なるほど、だからか」

 

「だからか、とは?」

 

「いやなに、実を言うと龍の間でお前達が言う新大陸と言う場所に向かう龍が増えている、と噂を耳にしていてな。そもそもおかしいんだ、そこまでの頻度で、となると明らかに我々が知っている条件に当て嵌まる龍の数自体が少ないから、そこまでの高い頻度になる訳が無いのだ」

 

「だから、若い龍までもが向かっているとしたら、確かに頻度に関しては合点が行く」

 

どうやらディアからしてもおかしい事らしい。

確かに百年周期が十分の一にまで低くなるのはあまりにもおかしい。

 

龍と言うのは、物凄く簡単に、簡潔に言うならばエネルギーの塊だ。

そのエネルギーは、ゲームでも言われていた通り、もし自然に還った場合、周辺の生態系が異常なほどに成長するぐらいだ。

具体的には、木々の成長が異常になったりする。

木には年輪、と呼ばれる輪が断面に現れるのだが龍のエネルギーが放出されると、年輪一つ一つの間隔がとても広く現れる。

 

これが示すのは、その期間に集中して成長した、と言う事だ。

だから龍のエネルギーが放出された地点に近ければ近いほどにそれらの現象は顕著に現れる。

 

故に彼らは、そのエネルギーを変換して世界を回しているとでも言おうか、そんな存在なのだ。

と言う事は、それが為されなくなった時に起きるのは、至極単純な話だがエネルギーの枯渇。

 

此方で自然に還る龍がディアの一族を含めて確実に数種族はいるから流石にそうはならないだろうが、有り得ない話では無い。

 

それを考えると、明らかに何かがある、と考えて然るべき事態だ。

 

 

それらの理由とは別に、元々ギルドでは新大陸発見当初から調査団を組織する事自体は計画していたのだと思う。

ただ、職員が言うように技術不足であった点が大きい。

単純に新大陸に渡るほどの船舶に関する技術、測量や航海技術などが中世レベルのこの世界では、前世のアメリカ大陸を発見したコロンブス以上の困難である。

この世界では天測航法、別名天体航法とも言うが、この航法を用いて空を飛び、海を進む。

この天測航法、実はそう簡単に出来るものではない。

天測航法と言うのは、単純に説明するならば、「空に見える天体と視地平との間の角度を測定することで、現在位置を求める技法」である。

二種類のやり方があるが、この世界では六分儀、と呼ばれる器具に似たものを使って求めるやり方が主流だ。

昔はこの器具が無かったし、今でも殆どのハンターや商人は器具を使わない方法でやっている。陸地でも通用するから当然商人やハンターは必須技能だ。

 

既存の町などに向かうのであれば、道があるしそれを辿って途中の別れ道には看板が建ててあったりするからそれに従えば良いのだが、狩場などにはそんな親切なものは存在しない。

当然、自分で位置を定めなくてはならない。

でなければベースキャンプの場所などが分からなくなる。

 

やり方は正直、説明する事が難しいのだが、

ある与えられた時点において、空を見上げた時にそれが、どの天体であっても特定の一つの天体が真上に見える場所は惑星上に1カ所しかなく、その位置は緯度と経度で表される。

その地理的位置を天体の「地理的地位」 と呼び、その正確な位置は前世であればそれ専門の書籍などに記されているのだが、この世界では当然と言うか、分かっていない。

だから凡そで計算しなければならないし、前世のものなんてその方面の職に就いていたわけでは無いから知るわけが無い。寧ろ船舶関係の仕事に就いている人間以外で知っている方が珍しいのではないだろうか?

 

よしんば知っていたとしても、この俺たちが住む星の大きさが同じとも限らないし、そもそも同じであったとしても天体の存在や位置が同じでは無いから使い物にならない。それを元に天体のなんやらかんやらを求めること自体は出来るのかもしれないが。

 

そしてそこから更に、それらの情報を元に「天測計算」と呼ばれる計算を行うことで、航海図や位置決定用図に「位置の線」と呼ばれる線をひく。測定を行った観測者はこの線上のどこかに位置している。LOPは実際には、観測した天体のGPを取り囲んでいる地球上の大きな円のごく一部である。ある時点にこの円の上で問題の天体の高度角を測定すると、どの位置であっても同じ高度角が得られる。

 

ともかく、この方法は計算などによって求められるのだが兎に角、正確な地理的地位が無いものだからまぁ、誤差が大なり小なりポンポン現れる。計算していてなんとなくではあるが、明らかに自分のいる位置が何kmもズレているのだ。

凡その地図で目印になる岩や川などで位置を確かめると、どう考えてもそこに俺は居ないだろう、と思うような計算結果が出たりするのだ。

 

 

この技法、実は物凄く難しい。

いや、前世地球ならば比較的容易く出来るのであろうがこの世界はそうも行かない。

なんせ六分儀に似た器具はあるのだが、それがあったとしても正確な秒単位の時刻を知っていないとその後の計算が不確実になってしまうのだ。

一応時計があるにはあるが、前世と比べると正確であるか、と聞かれると首を傾げざるを得ないものだし、それを元に計算したら当然、ズレる。

一応、出港、出発した場所の時刻などは分かるのでそこからの時刻ならば分かるのだが、必要とされる時刻はそれではないから普通に誤差が生じる。

 

しかもこれらの技術的問題だけでなく、それに加えて天災級の災害を齎す古龍や海を住処とする龍や竜などが闊歩しているし、空からの脅威も無いとは言えない。

そんな状況下で航海をしければならないのだ。

陸の上を飛んだり、陸の近くを航行するのとは全く違う。

海には目印になるものなんて有りはしないから、当然頼れるのは計算による位置と、方位、情報に基づく新大陸の位置だけだ。

 

これでは確かに無理がある。

実際ハンターや商人のキャラバンの中には自分の現在位置を誤って求めてしまって遭難、そのまま行方不明で死亡扱い、となる者も多い。

 

 

 

ところがここ数十年で様々な技術がかなり進歩して、どうやら必要技術が未だ完璧とは言い難いが段々と形になりつつあるのだ。

なんせ秒単位の時刻に関しては行商人が持って来てくれるのだが、年々新しいものに更新されていく。

ギルドの方でハンターにはそれらの情報が記されたものが無償とは行かないが普通に購入するよりも安値で売られているからな。

俺やこの村に住む弟子のハンター、他の町などギルドがある町から離れた村に住むハンターは購入出来ないから、行商人に言って少しばかりの手数料で買ってきて貰っているのだ。

中には高い手数料を要求してくる行商人もいるらしいのだが、そんなもの買うわけがない。なんなら信用を無くして村全体で他の物すら買って貰えなくなる。行商人の売るものが無くとも村はなんとかやっていけるからな。

だから実際は行商人も信用第一、と言うのはどの世界でも共通らしく、そこまで酷く無い。そもそも普通に商売が出来る程度の頭を持つ商人ならそんな事はしない。

なんせ失う物の方が多いし大きいからな。

 

 

 

技術進歩があるからこそ、調査団を組織し、新大陸へ向かう事が出来るようになったのだ。

 

「新大陸の件、あい分かった」

 

「ありがとうございます!」

 

改めて頷き、了承すると皆はそれはもう嬉しそうに顔を綻ばせ、安堵したように息を吐いた。

当然だ、俺が了承するか否かで調査団の編成や計画が大きく変わってくるし、下手をしたら準備に余計な年数を掛けて出発時期を遅らせなければならない可能性だって大きい。

普通は俺に断られた場合を見越して参加する場合としない場合の二つの計画と準備を進めておくのだが、今回はその準備は良い方に無駄になったと言うべきか。

 

いや、もしかすると俺が参加しない場合の準備も実は参加しても良いように織り込み済みで進めていたのかもしれない。

そうすれば物資などが無駄に成らずに済む。

 

 

 

 

「具体的な説明をさせて頂きます。第一目標は古龍渡りの解明、第二目標は新大陸そのものの調査です。住まう生物は勿論ですが植生や土壌、ありとあらゆる分野においての調査が目的となっております」

 

「現在、各地で調査団に参加しえるハンターを集めております。幾つかに分けて調査団を送り込む予定であり、今回は一期団、と言うことになります。調査団長にはハロルド・キーマンと言うハンターを据える予定です。総人員は三十〜四十名を予定しており、お二人には敵わないでしょうが全員が各分野の選りすぐりで、そしてありとあらゆる状況に対応出来る者を集めております」

 

「今回、古龍渡りをするであろう、と予想されるのは老齢の鋼龍、風翔龍とも呼ばれる古龍です。この古龍は度々、新大陸方面に向かって飛んでは帰ってくる、と言う行動を取っていますので、おそらく可能性は高いかと」

 

「先ほど一年後に調査団を送る、と申しましたがあくまでも予定です。鋼龍が早く行くようならばそれに合わせて予定を繰り上げますし、遅くなるようであるならばより入念に準備を進めます」

 

と、様々な説明を受け、全ての説明が終わったのは日が落ちて暫く経ってからの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「肩でも凝ったか?」

 

「あぁ、いや、そうではない」

 

「ならどうした?」

 

「なに、新大陸とやらに行くのが楽しみで仕方がなくてな。少し落ち着くために息を吐いたのだ」

 

どうやら我が妻は、相当に好奇心を刺激されているようで、どこか遠くへ出掛ける子供の様にしている。

はしゃいだり、と言う訳ではないが雰囲気や言葉の一つ一つ、語り方に熱が篭っているのがすぐに分かるぐらいだ。

 

普段は年上としての余裕や威厳を感じるが、こう言う時に子供の様な感性を出してくるのだからずるい。

それでは益々、惹かれてしまうではないか。

 

ふぅむ、しかし、あれだな。

新大陸の事ばかり話されると、こう、モヤッとする。

 

「おぉう?どうした?」

 

ギュッと抱き寄せて、そのまま抱き抱える。

流石に急にそうされては、驚きの声を上げるディアだが知ったことか。

 

「うん、いやな、こうも新大陸のことばかり話されていては、そちらにしか興味がなくて、俺のことを見ていないのではないかと思ってしまう」

 

「そんな訳あるか」

 

「あぁ、だが、納得出来ない」

 

「?」

 

きょとんとして、首を傾げるディアはやっぱり美しく、それでいて可愛い。

 

その後、俺はディアを連れてすぐに風呂に入って、いつもは押し倒される側だが今日は珍しく俺からディアをベッドに押し倒した。

長い、長い、長い夜の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅっ、ふぅっ……!」

 

「だ、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だ……」

 

初めてディアを組み敷いて、勝ってしまった。

村に訪れたギルドの皆をほっぽり出して、十日間も延々と、普段は意外とゆっくりと致すが今回は常に激しく、だったからディアが音を上げてしまった。

 

悪いと思うし反省はしているがうん、後悔はしていないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







天測航法に必要な地理的位置、GP(geographic position)の正確な位置は航海年鑑や航空年鑑に表の形で秒単位で示されています。
必要とされる秒単位の時刻はグリニッジ平均時、と言うものです。




大団長の名前は調べても出て来なかったので作者が命名しました。
その他のメンバーの名前も、作者が決めましたのであしからず。

大団長 ハロルド・キーマン









他作品についてもチマチマと書き進めております。
出来れば気長にお待ちいただけると幸いです。




龍の恩返し ノクターン版
https://syosetu.org/novel/269547/


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