龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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7話

 

 

 

 

 

 

新大陸調査団に参加して欲しい、との願いから一年。

調査団に同行するための準備を少しづつではあるが進めていた。

村の皆への説明も含んでいる。

 

とは言ってもディアが龍の姿になって空を飛べばすぐに戻って来れるし、何か忘れたら取りに戻って来れば良い。

村の皆もそれを分かっているから、旅行に行くんでしょう?いってらっしゃい、ぐらいの感覚だ。

 

正直、ディアに掛かれば新大陸からこの村の距離は正確に分からないが一日も掛からないんじゃないか?

ひとっ飛びだからなぁ、夫婦揃って旅行感覚だし、俺に至っては前世で言うところの飛行機を使って行く旅行ぐらいの感覚でしか無いのだ。

 

他の龍達がどうかは知らないが、ディア曰く本気を出せば余裕、とのことだし往復でも余裕を持って考えても二日ほど掛かるだろうか。

 

 

そんな訳だから精々、向こうで外泊するのに必要なもの、生活必需品を持っていけば良いだけの話だ。

あとは測量に必要な道具と他に幾つか。

 

ギルドの方でも測量器具などは持っていくだろうが、それでも自分の趣味に他人の物を借りるのは気が引ける。

向こうは仕事でやっているのだからな。

 

それに必要な時以外は助力しないとしてあるから、自由気ままに夫婦水入らずの新婚旅行のやり直しでも、と目論んでいるのに、此方が一方的に物を貸して貰っては、逆にその分此方も力を貸さねばならなくなる。

嫌では無いが、二人で邪魔が入らぬようにのんびりとしていたいのが本心であるから、あまり好ましくはない。

 

俺もディアも知らぬ事ばかりの新大陸だが、調査団と常に一緒に行動するわけではない。

好奇心や知識欲を満たすのも大きな目的の一つだが、何よりもディアとの旅行なのだ。常に調査調査調査、では確かに未知の知識などを多く得られるだろうがそれでは面白くない。

ハンターとして依頼されたからには仕事をきっちりとこなすが、そうでないならば自由に過ごしても構わないだろう。

俺達二人が居なくとも、彼らは自ずと道を切り拓いて進んでいくであろうから。

 

 

鞄に着替えや寝巻き、下着、歯ブラシ、石鹸などの生活必需品をディアのものと一緒に詰め込んである。

愛用している武器防具も持っていくが、こちらも鞄一つに全て入れられる。一応、念の為に武器は太刀を二振りを持っていく。

俺の力に耐えうる鍛治が出来るとは限らないからな。

家には家財道具一式全て丸々置いて行くし、正直大きな鞄二つで事足りるのだ。

 

他の調査団の皆は人生を掛けていたり、それこそ新大陸に骨を埋める覚悟でもって行くのだろう。

 

しかし何度も言うが我が夫婦からすれば旅行ぐらいの感覚しかない。

二人揃って以前中止せざるを得なくなってしまった新婚旅行の続き、やり直し、と言う感じなのだ。

あとは迎えを待つだけ。

さて、何時になる事やら。

 

 

 

 

五百年も生きていれば、一年と言う期間は驚く程に短く、早く感じられるものだ。

時間感覚と言うのは歳を取れば取るほど早く感じるのだがこの歳になると早いどころの話じゃ無いぐらいだ。

 

「時間が過ぎるのは早いものだな……」

 

「確かに最初の内はそう感じるだろうな。暫く、私と同じぐらい生きれば逆にとてもゆっくりに感じることもある」

 

「あと、一万三千年生きないと分からないものだろう、それは」

 

「そうだな。まぁ、私達の寿命はまだまだ先がある。そのたったの四千分の一ぐらいしか生きていないのだからな。それに、私は嬉しいぞ?」

 

「何がだ?」

 

「早いうちにフェイと出逢えて、こうして番になれた。だから、残りの生をフェイと共に一緒に居られる。そう考えると嬉しくて嬉しくて堪らない」

 

二人で並んで座って、時間感覚の話をしていると、ディアは嬉しそうにそう言って抱き着いてくる。

なんとなく、頬が熱くなるのが分かる。

未だにこうして面と向かって言われると照れてしまう。とびっきりに美人である奥さんに言われるとなれば尚更だ。

それを隠すために抱き寄せて顔を見られないように、少し逸らす。

 

「……そうか」

 

「ふふっ、今更照れなくともいいではないか。そこも愛いところだがな」

 

しかし、そんなものお見通しだと言わんばかりに俺の頬に手を伸ばしてすりすりと撫でる。

微笑む表情は、何度見ても美しい、と思う。

 

女神の微笑、と言われても納得出来る。

他の皆、特にギルドなどからすればその笑顔は何よりも恐ろしいもので、触らぬ神に祟り無し、と言ったところかもしれないが。

 

それが俺一人に向けられていると言うのだから、夫としてとても嬉しく幸せだ。

なんだろうな、男冥利に尽きる、と言えば良いのだろうか。

 

「まぁ、その、俺も嬉しいよ。ディアと共に居る事が出来るのは」

 

キスをするでは無いが顔を寄せて額をくっ付ける。

 

「んふふ」

 

頬を緩ませて、額を擦り合わせる。

他の者がいると殆ど、と言うか常に表向きの対応や表情をしていて、滅多に笑わないのに二人きりの時だけ、こうして他の者の前では決してしない表情や笑い方、声、仕草を出してくれるのだ。

その一つ一つがまた、愛おしい。

 

耳に掛かっていた髪の毛が垂れて、ふわりとディアの匂いが鼻孔をくすぐる。

俺の頬や首に擦れてくすぐったいがそれも、心地良い。

 

何もかもが愛おしく、心地良い。

 

 

側から見ればただのバカップルだとか、そんな印象を抱かれるかもしれないがそれでいい。

事実なのだし、今後も変わる事が無い、変える気が無い事柄だからな。

 

人前ではディアの、俺だけしか知らない事を見せたく無いからただくっ付くだけだが、他人の目が無ければ我が夫婦はいつも通り過ごすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数週間ほど。

 

「フェイさんはいらっしゃいますでしょうか!」

 

玄関の戸を叩く音の後に、以前聞いたことがある声が聞こえてくる。

ベッドから起き上がって出ようとしたが気が付いた。

 

二人ともまだ裸だ。

昨晩まで、数日間連続で大運動会をしていて激しかったから風呂に入らずそのまま寝落ちしてしまったんだった。

不味いな、流石にこの有様を見られるわけには行かない。

 

仕方が無い。

声の大きさを抑えて。

 

「すまない!今取り込み中なのだ!暫く待って貰えないか!」

 

そう伝えると、

 

「分かりました!お待ちさせて頂きます!」

 

返答が返ってくる。

それを確かめてから、俺の大声で起きたディアを連れて風呂に直行した。

 

出来る限り早く、十五分程で済ませて出迎える。

一階の、台所の隣にある何時も食事を摂る机に案内し、座るよう促す。

 

「失礼します」

 

「さて、と。お主が来たと言うことはいよいよ遂に、と言う事だな?」

 

「はい。鋼龍が新大陸に向けて飛び立ちました。まだ内陸部を飛んでいますので、先に出発する形になるでしょう。しかしすぐに追い抜かれるかと」

 

「どこの港から出発するのだ?」

 

「タンジア港です。鋼龍の進路予測だとタンジア港が一番近いので。それに我々としても孤島を目指して経由していけば、比較的安全に新大陸に向かう事が出来るであろう、と考えております。万が一があったとしても孤島にあるモガの村に向かえますから」

 

モガの村は、海の民と呼ばれる種族が古くから住む村だ。

孤島は、崖に囲まれた地形の島で凡そ人が住める場所は殆ど無く、モガの村も低い岩壁に柱を打ち込んでその上に家を建てて暮らしている。

 

周りに幾つかの島が存在しておりその中の一つにあるのがモガ農場である。

幾つかの場所に分かれており、潮風を受けようと平然と育つ稲があるから農場では稲作が行われており、年二回収穫が出来る。

 

前世の橋を知っている俺でも無茶苦茶に長いと感じる桟橋、と言うより浮き橋で繋がっており確かに見応えある、そして風情ある光景が広がっている。

 

孤島周辺は年中暖かく、作物を育てるのに適した気候だ。

モガ農場は、断崖の一部開けた場所に点在しており面積的には一番広くとも凡そ二百m×五十mと言う狭い範囲しかないが、キングトリュフなどの栽培が困難な食材を栽培していたり、マグロが有名であったりとする為に実は村自体はかなり裕福、では無いがそれなりに余裕ある村だ。

実際、モガの村近海で取れるマグロは驚くほど美味しい。

ディアも目を見開いて驚くぐらいには美味しい。

周辺海域が豊かな海だからだろう。

 

海の民、と言うのは古くから孤島に住む種族だ。

竜人族よりも人間に近いが、外見的特徴が少し違う。

爪が鋭く指の間に水掻きがあり、身体には日焼け前後のように、皮膚の色素に濃い部分と薄い部分があり、中には色素の境目が縞模様のようになっている者もいる。

人間ではない、人間に近い種族で実は竜人族よりもその歴史は古い。

ディア達が遥か昔、と言うぐらい昔に存在した海竜との混血が、海の民である。

 

竜人族は陸の竜、所謂飛竜種などの祖先の血が、海の民は今の海竜種の祖先の血が混じっているのが違いだ。

いずれにせよ竜の血が混じっている事には違いない。

竜の血が混じっていると言う事が竜人族の定義ならば広義的には海の民も竜人族と言える。

 

ただそれだと混同しかねない為に竜人族、海の民と呼び方を分けている。

それに海の民達も、自分達の事を竜人族と呼ぶことは無い。

竜人族は、過去の竜大戦時の過ち故に自分達の血に対して肯定的でない。

だからほとんどの竜人族は人間との関わりを持たずに過ごしている場合が多い。人間との関わりを持っている竜人族は全体の一割にも満たないほどだ。

殆どの竜人族は天空山が存在するシキ国に住んでいる。

 

このシキ国が竜人族発祥の地、とされているが正確には一番最初に竜人族と人間が文明を築いた場所、と言うのが正しい。

竜人族自体はもっと遥かに古い時代から存在していたのだ。

いわばこの世界における最初の文明発祥の地が、シキ国なのだ。

と言ってもその文明はとっくの昔に滅んだのだが。

 

それに対して海の民達は自分の血に誇りを持ち、そして人間との関わりも深い。

漁業や農業での関わりでしか持っていないが、それでもタンジア港に停泊する漁船を操る殆どの者達は海の民なのだ。

海の民無くしてタンジアの漁業無し、と謳われるほどその技術は卓越しているのだ。

 

 

 

竜人族は竜との交わりが強く深かった為に竜の血が濃く、身体的特徴は竜と人間を併せ持っている。

手足の指が四本であったり耳が長かったり、足が竜のものに似ていたりと言うのが最たる特徴だ。

 

しかし海の民は交わりが薄く、精々水中で息を長く止められるとか、指の数は五本だが泳ぐのに便利な水掻きが指の間にある、ぐらいの海で暮らしやすい程度だ。

ぱっと見、竜人族の様に人間との違いは分からないので人間であると思われがちだ。 

 

それが海の民だ。

 

文化としては比較的、東南アジアや東アジアに近い。

主食は米と魚であり、調味料として魚醤が存在する。あれは美味い。ディアに頼み込んで定期的に現地に赴いて購入しているぐらいだ。

肉はほぼほぼ摂らない。

 

理由は孤島に生息するモンスター達の存在だ。

孤島は豊かな土地でありそれ故に、様々な竜、それもかなり強い部類の竜が多く生息しており、肉を獲りに行くより海で魚を獲った方が安全らしい。

そもそも、チャナガブルやラギアクルスを銛一本で仕留めるような猟師達がいる時点で陸も海も大して変わらないと思うが、どうやら海の上では勝手知ったるなんとやら、と言う訳らしい。

 

昔、それこそディアの祖父よりも前の時代は村では無く、孤島と呼ばれる島を含めた地域には海の民の文明が栄えていたのだとか。

陸地は勿論だが、海の下にも町や都市を作り上げて繁栄していた。

勿論、龍や竜達と確かに生存競争をしてはいたが共存関係にあった。

 

 

海の民の文明が衰退し滅んだ理由は、第一に竜大戦の余波が挙げられる。

海の民は、竜機兵を作った文明とは全く違い、確かに栄えはしたが自然を蔑ろにした訳ではなかった。

争う事もあったが、それなりに平和に共存していたのだ。

事実、竜大戦時代に龍が孤島の地で力を振るったりと言った戦争の痕跡は無い。

故に竜大戦において何らかの形で武力を振るったわけでは無い。

 

しかし竜大戦は、空が割れ海は干上がり新しい大地が出来、そして沈む大地もあった、と語られるほどに龍も力を振るいに振るい、激しく凄惨に戦ったものだから、当然余波がある。

その余波は世界中に及んでいる事が確認されている。

津波であったり、大地の沈没、はたまた新しい大地が出来たり。

大気が裂かれたり、天候など全てにおいて。

 

因みにこの時に新しく出来た地は今現在、アヤ国と呼ばれる国がある場所だそうだ。

 

 

 

孤島周辺は新大陸に渡るまでの海域の中では唯一常に穏やかで凪いでおり、荒れる事は滅多にない。

しかも好漁場が孤島全域に広がっている。これも龍の力に起因する。

しかし、また龍の力によってそれら全てが荒れに荒れた。

 

海の民の国は、龍の力によって引き起こされた数百mにもなる津波にまず苦しんだ。

次に嵐によって漁に出る事が出来ず、出たとしても全く漁獲が無く飢えと、それによって蔓延した病に苦しんだ。

他にも極端な海面低下、海面上昇など挙げればキリがない。

 

それが続き、衰退していき遂には滅んだ、と言う訳である。

その頃、龍達は死に物狂いで抵抗してくる人間との戦いで、龍達も死に物狂いで戦っていたから余波だとかを気にしている余裕は無かった。

龍にすら、気にしていたら殺されてしまうほどに余力は無かったのだ。

 

 

その後、竜大戦が終わりを迎え幾ばくかの年月、百年ほどの年月が過ぎ、世界を龍が見て回ったとき、海の民達は殆ど死に絶えていたらしく、しかも未だ続く影響で苦しんでいたらしい。

確かに人間が原因で竜大戦は起きたが、さりとて関係の無い彼らを巻き込むのは問題外の事であるとして、害を及ぼした事を相当に申し訳無く思ったそうで謝罪したそうだ。

そして、せめて環境だけでも、と元に戻した結果あるのが今の孤島の姿らしい。

それによって海の民は、確かに極小ほどの人口とは言え今も続いている。

 

 

海の民に伝わる伝説があり、前章では龍を破壊を司る悪とし、後章では龍を再生、所謂生命を司る善とする伝説だ。

 

この伝説には、大海龍と皇海龍と思われる龍と、やはりミラの名を冠する龍と思われる龍が登場する。

恐らく、煉黒龍と呼ばれる龍であろう事が推察出来る。

何故なら海に沈んだ地を浮かべ再生した、としているからだ。そんな事が出来るのは煉黒龍ぐらいしかいない。

他にも多数の龍が出てくるのだが、この話はまたの機会にしよう。

 

 

 

元来、海の民達は大海龍、皇海龍の存在を古くから知っていたし事実この龍の住処は孤島周辺海域だ。その恩恵を受けて暮らしていたのだ。

この二龍は、荒波をものともしないが実は荒れた海を嫌う。だから住処とする場所は凪いでいる海でなければならない。

嫌っている理由は定かでは無いが、どうやら騒がしいのだとか。

 

だから自身が住む海域を凪いで居させる様に操り、他の龍にもその様に協力してもらっているらしい。

鋼龍などが最たる例だろう。

 

大海龍達は、ギルドの調査によって世界中の海で確認されているが、それはどちらかと言うと突発的に、ふらっと現れるもので実際に住処があるのは孤島周辺海域に集中している。

まぁ、変人と呼ばれるタイプもいるから何故そんな所に……、と言う場所に住んでいる大海龍もいるが。

人間が全く立ち入らなくなったフォンロンのある川の河口に塒を巻いて住み着いている大海龍がいるからな。

何故あそこを選んだんだろうか、不思議で仕方が無い。

 

その凪いだ海の恩恵を受けて暮らしていた海の民の国は、その凪いでいる豊かな海が失われた事で滅亡したのだ。

 

この知識もやはりディア譲りなのだがな。

 

 

 

 

 

「あい分かった。今すぐに荷物を持って飛行船に乗ろう。出港が遅れたら不味いだろう?」

 

「はい、そうして頂けると有り難い限りです。手伝いは必要でしょうか?」

 

「いや、少ないから問題無い」

 

「分かりました、では出発準備を進めていますので、積み込みが終わりましたら申してください。すぐに出発しますので」

 

頭を下げて出て行く。

家から出て行くのを見届けてから、荷物を取りに向かう。

 

俺は武器防具、重量のある方を担ぐ。

あれから考えたが、確か新大陸での食料調達や薬草類の入手には自らの手で生育しなければならなかったんじゃなかったか?と思い出して慌てて何種類かの鍬や鎌と言った農具一式を鍛冶屋に頼んで新しく作って貰ったのだ。

多分、調査団の物資には我が夫婦の分も含まれているのだろうが世話になり続ける訳にもいかないからな。

だから重量物が増えて当初よりも大分重くなっている。

 

まぁ、忘れたら取りに戻って来ればよいだけの話なのだが。

 

 

ディアは衣類などが入っている鞄を。

此方には衣類が一週間分と生活必需品一式がそれぞれ二人分。

他に必要であるものを二人分詰め込んであるから、見た目は此方の方が膨れていて大きいが、重さは大した事は無い。

 

 

 

力加減を間違えて、武器防具を潰したりして駄目にしてしまわないように、邪魔にならない場所に飛行船に降ろす。

ディアも背負った鞄を同じ場所に降ろす。

 

「村長達に挨拶して来よう。暫く会えなくなるからな」

 

「あぁ」

 

村長宅に向かうと、何時もと同じように人好きのする笑顔で出迎えてくれる。

 

「出立ですか」

 

「あぁ」

 

「爺様達には、要らぬ心配かもしれませぬがどうか、お身体にはくれぐれもお気を付け下さい」

 

「ありがとう。村長も、歳なのだから十分に気を付けてな。行ってくる」

 

「はい。それでは、いってらっしゃいませ。お二人が御帰りになるのを心待ちにしております」

 

さよならは言わない。

何故ならこの村が俺達の故郷であり、住処であり、戻るべき場所であるからだ。

であるならば戻って来るは必然、別れを告げる理由は無い。

 

 

 

 

「準備出来たぞ。何時でも行ける」

 

「はい、それでは出発しましょう」

 

職員に声を掛けて、出発する。

ふわりと飛行船が浮き上がり、少しづつ高度を上げて行く。

 

「じーさまおみやげかってきてねー!」

 

「お身体には気を付けて下さいよー!」

 

皆が口々に大きな声で、見送って手を振ってくれている。

嬉しいものだ、何時でも帰って来る事が出来るとは言え、こうして見送ってもらえると言うのは。

 

俺とディアも手を振って、答える。

 

飛行船は村から離れつつどんどん高度を上げていき、暫くすると俺とディアでも皆が豆粒ぐらいにしか見えなくなった。

それでも皆は、集まって此方を見ているらしい。

 

「皆、まだ見送ってくれているな」

 

「とっくに飛行船が見えていない筈なのに」

 

「皆へのお土産、何にしようか」

 

「そうだな、ディアは何が良いと思う?」

 

「皆ならなんでも喜びそうな気もするがな」

 

「違いない」

 

地平線の向こうへ村が沈み見えなくなるまで、見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を飛んで数日。

タンジア港に到着した。

 

快晴で雲一つ無く、蒼空が広がっている。

 

タンジア港にはそのシンボルとも言うべき大きな灯台があり、その足元から海沿いに沿って港が発展している。

空からでも分かったぐらいに港全体が、活気に溢れている。

しかも、調査団派遣、と言う一大事を前にして人々はより一層熱気と活気に溢れ包まれているようであった。

 

飛行船用の船着場に降り立ち、ギルド職員と共に、そこからアプトノスが引く台車に乗って調査団が乗り込む船が待つ船着場へ向かう。

 

すると、確かに大きな木造の船が六隻、並んでいた。

帆には紋章が幾つか描かれている。

描かれているのは、五匹の竜の話、と呼ばれる御伽噺を準えた、五匹の竜が盾の形を作っている紋章が帆に大きく描かれ、マストの天辺に掲げられているのは赤地に黄色い縦のラインが入った旗と、紋章は下が長い十字の星の紋章が描かれた旗だ。

 

帆に描かれている紋章が調査団のものだ、と言うのは覚えているが

マストの方は、どうにも分からない。恐らくは一期団の旗、と言うことだろうか。

 

帆を一枚一枚張って、破れていないかなどの最終確認をしているらしい。

船員が忙しなくマストの上や甲板上で動いている。

 

船に近づき、船尾側から見上げると船尾にこの世界の言語で「未知への探求」と描かれている。

 

恐らくこの船の名前だろう。

それを見てから、視線を桟橋の奥へ目を向けると、長身の者が多い竜人族よりも大きい印象を受ける、筋骨隆々という言葉がそっくりそのまま当て嵌まる金髪の若い男を筆頭に、何人かの男女が立っていた。

 

案内されるままに、彼らの前に立つと、一斉にお辞儀をし始めた。

 

何事か?彼らとは全く面識が無い筈だが……。

いや、一人だけ見覚えのある竜人族がいる。

 

「お初にお目に掛かります、調査団一期団長を務めます、ハロルド・キーマンと申します。この度は調査団への参加、心から感謝申し上げます」

 

なるほど、彼が大団長、と呼ばれるようになる人物か……。

うぅむ、俺も決して小さい訳ではなく、寧ろ百八十五cmと身長は高い方だと思うのだがそれよりも頭二つ三つ分ぐらいはでかいんじゃなかろうか?

年齢も20代ぐらいと若い。

 

「名前は、以前聞いていた。宜しく頼む。それと敬語も使わなくていい」

 

「しかし……」

 

「団長が敬語を使っていたら面目が立たないだろう。構わないさ」

 

「……分かりま、いえ、分かった」

 

随分と、物凄く渋々と敬語を止めてくれた。

おぉ、初めてだ。嬉しい。

 

 

「こちらが、オトモのベップ。それから彼らが調査団の主要メンバー達で」

 

イマイチ敬語が抜けているようないない様な感じで紹介する。

やはり敬語を使うな、と言うのは難しいものなのだろうか。

 

「初めまして、ライリー・エドガーと申します。全体の指揮を務めさせて頂きます」

 

彼が、総司令と呼ばれることになる者だな。

どことなく面影がある。

今は若く、髪の毛も黒髪で白くは無い。

彼も20代ぐらいだろう。

 

真面目な印象を受ける。

 

「ルーカス・ファラン、と申します」

 

「おい、ルーカス。ヘルメットを外せ」

 

「あぁ、無理に顔を出せとは言わない。何か事情があるのだろう」

 

ふむ、どうやらルーカス、と名乗った彼がソードマスターだろうか。

装備が似通っているし、太刀も飛竜刀だろう。

 

 

「オリヴィア・サフランです。お見知り置きを」

 

グレーの髪の女性だ。

フィールドマスターになる人か?

声が似ているぐらいで全く分からない。

 

「クォク・フィーラルです。お会い出来て光栄です」

 

彼は分かる。

調査団唯一の竜人族のハンターだ。

やはり竜人族は長命と言うこともあって大人になると見た目があまり変わらない。

精々、子供から青年へ、青年から大人へ、大人から老人へ、の三回ぐらいなもので人間と同じように一年毎に見た目が変わると言うことは無い。

 

しかもその変わるまでの期間が百五十年ぐらいだったりととても長いから人間は分からないのだ。

 

 

 

「フィロル・ネフ、三百年ほど前にお会いさせて頂きました。話を聞いて再びお会い出来る日を心待ちにしておりました」

 

彼も分かる。

技術班リーダーの、老齢の竜人族だ。

と言うか、彼、実は一度村に訪れたことがある。

三百年ぐらい前の話だから今よりもずっと若かったのを覚えている。

村を訪ねてきた者達の名前や顔は完璧とは言い難いが、覚えている。

ただ、竜人族に関してはかなり正確に覚えている。なんせよく訪ねてくると言っても竜人族自体数が少ないからな。それに人間より覚えやすい。

 

それにしても随分と縮んでしまったものだ。

昔は俺と同じぐらいはあったのに。

 

 

それから、三爺と呼ばれる研究者三人とセリエナの料理長と呼ばれる事になるアイルーがそれぞれ自己紹介を行なった。

 

快活な学者 キィイ・ヲウ

明朗な学者 クシィ・ソブユ

陽気な学者 メブア・ダフイ

セリエナの料理長 コムギ

 

船長

ウィリー・ドム

 

誰も彼も、ゲームでの中の面影があったり無かったりと千差万別だ。

とにかく竜人族を除いて皆若いから、分からないのだ。

名前なんて語られていなかったから名前で一致させるのも出来ない。

恐らく主要メンバーであろう事から推察するぐらいしか出来ない。

 

 

竜人族を除いてだが、全員が全員、とにかく若い。

殆どの者が二十代で、三十〜四十代と言うベテランと呼ばれる人間が殆ど居ないのだ。

 

各部署にそれぞれ一人ずつ居るぐらいで、残りは全員若手だ。

それでも各分野の新進気鋭、天才と言われてもおかしくはない面々の集まりなのだが。

 

それに加えて、アイルー達が六十ぐらい。

随分な大所帯である。

 

アイルーの方が多いからニャーニャー、と元気で可愛らしい声があちこちに響いているが、村でも同じようなものだったから大して変わらないのか。

 

 

 

 

挨拶を済ませ、船に乗り込む。

船の充てがわれた部屋に荷物を置いて一度集合し、説明を受ける。

 

今回の調査団は先程の主要メンバーと俺達夫婦を加えて三十六名。

内訳はハンターが俺を入れて十四名、技術者や研究者が十四名、ギルド職員が八名となる。

そこにディアが加わり計三十六名。

 

更に調査団のアイルーが三十一匹加わる。

 

それぞれの役職が船を二隻づつ使用し、さらにもう四隻が物資を運ぶ。

合計十二隻の艦隊だ。

この世界の船は、前世で言うところのガレオン船に近いものでイメージ的には映画などの海賊がよく乗っているような感じだ。

 

そして、この世界は前世と違って船の構造が特徴的だったりする。

実は前世の船よりも遥かに頑丈に出来ており、貼られる木板や金属板の厚さが桁違いに分厚いのだ。

 

と言うのもこの世界、モンスターと呼ばれる大砲なんかよりも遥かに強力な攻撃を繰り出してくる生き物が人間よりも遥かに栄え、世界中を跋扈している。そんな相手からすればただの木造船なんて一撃で沈めることが出来るし、しかも龍に遭遇した時には龍自身と戦う事は無くとも天災級の嵐や津波に襲われるのだ。

どう考えたって海の藻屑待った無しである。

 

竜の素材を使っているには使っているが、全部が全部、使える訳ではない。

船体全てを竜の素材にしようものなら、何頭の竜の素材が必要になるか分かったものではない。どう考えてもギルドナイト案件である。

 

となるとどうすれば船が沈められないか、と考えると必然的に竜の素材以外で頑丈にする、と言う方法に辿り着く。

と言うか結論、これしか無い。

 

一応防御用の武器としてバリスタや大砲があるがそれらもあまり有用では無い。

確かに大砲は当てる事さえ出来れば、龍相手であろうと怯ませたり多少の傷を負わせること自体は出来るだろう。

 

しかしこの世界の大砲はそこまで命中精度は良くない。ただし威力は龍に傷を付けることが出来るほどに高く、前世の下手な爆弾よりも威力は高い。

 

と言うのも、単純に鉄だけを使っていたのならばあれほどの威力の榴弾は作れないがこの世界特有の理由によって可能となっている。

この世界には前世とは比べものにならないぐらいの強度を誇る金属が何十、何百種類と溢れている。

それを弾殻、火薬を包む金属部分に使用すれば比較的薄くても撃つ時に破損したりする心配は無い。

と言うことは薄くなった弾殻の分だけ火薬を積めることが出来ると言うことだ。

 

細かいことを言ってしまえばキリが無いので、あくまでも極論の話だが。

 

しかしいくら威力が高くとも当たらなければ意味はない。

この世界の大砲は、撃ったとしても射程距離は短いし遠いところを狙おうものなら最悪明後日の方に飛んでいくし、しかも重いから狙いを付けるのが大変だ。

 

前世のように電動式でグルグル回る訳ではない。

全て人力だから、角度を一度変えようとしたら一般人が束になって押して引いてとしなければならない。

鍛え上げられたハンターだって簡単に動かせるものではない。

全身でゴリゴリ無理矢理押すのだ。

 

だから遠くのものを狙おうとしたら動きが遅く途轍も無くデカい的にしか使えないのだ。

ジエン・モーランやシェンガオレン、ダレン・モーランなどと言ったでかいくて動きの鈍い相手にしか使えない。

 

近ければ、と言ってもすぐ目の前ぐらいならタイミング良く撃てば動きの速い飛竜種などにも使えないことは無い。

 

バリスタは軽量で旋回性能が高く、素早い動きの目標に対しても狙いを付けやすく、弾速が速い為に当てられるが逆に威力が低く、精々ヘビィボウガンの榴弾二つぐらいの威力しかしかない。

竜相手には効くであろうが龍相手には厳しい。

上手い事、鱗の境目を狙ったりしないといけないからな。あとは数で押すしか無い。

 

 

 

そして船の話に戻るが、確かに船体自体は大きいのだが積載量が多いと言う訳では無い。

と言うのも、船体の下層部はバランスを取るための石や砂利が詰められており、分厚く頑丈にした分重量が嵩んで下手に積載してしまうと転覆する。

しかも船の運用をするための人間や、俺達の様に乗り込む者が寝泊まりしたりするスペース、食料水を積み込むスペースなどを諸々で考えると意外と積載量が少なかったりする。

甲板に潮風に野晒しで置いておくわけにも行かないから、結果的に一隻辺りの積載量が減ってしまうのだ。

 

船の大きさを大きくすれば、とも言うがそこまで大きくすると動力を風や潮の流れに頼っている帆船は速度が落ちるし、その分目的地に到着する日数が増え、その分の食料や水が増える。大きくした分、動かすのに人数が必要だし、そのスペースも必要。

結果、倍の大きさにでもしない限り積載量は大きく変わらなかったりする。

船を倍の大きさにしても倍の積載量だからとはいかない。

 

それに前提問題として造船技術がそれほどの大きさのものを作っても問題無いのか、と言う前提がある。

 

でかい船を作っても海に浮かべたら沈みました、では意味が無い。

ただの金と資材の無駄である。

 

 

ならば、大きさは今のままで隻数を増やす、ぐらいしか方法が無いのだ。

 

だから人数の割に隻数が多い。

何時次の補給ができるか分からないから、一度に出来る限り運んでしまわねばならない。

向こうで食料調達が出来る保証もない。

肉類はなんとか得られるであろうが、野菜が手に入らないのは困り物だからな。

 

ハンターは武器防具、それらの手入れ道具などを持っていく必要がある。

技術者や研究者はそれぞれの研究機材を持っていく必要がある。

ギルド職員は書類などの作成に必要な紙やインクを大量に持っていく必要がある。

 

これでも足りないぐらい、と皆が口を揃えて言うのだ。

なんせこれから進む航路は、一定期間荒れる。

その期間は当然補給出来ない訳だ。

 

今の時期は凪いでいるが鋼龍と言う、龍を追いかけるのだから凪いでいようがいまいが荒れることもあり得る。

そうすると、嵐で沈んでしまう船も居るのだ。

 

今回だって沈む船がある、と考えておく必要がある。

寧ろ全ての船が無事に新大陸に辿り着けたら奇跡に近い。

 

後々航路が開拓されるとは言ってもそれは五期団が来てからと言うまだまだ先の話だからな。

今はどうやったって、この方法でなんとかするしかない。

 

 

 

そしていよいよ、出港の時。

 

その前に何やら式典をやったが長かったのでディアと共に抜け出してしまった。

一度降りた船にまた皆で乗り込み、桟橋に繋いであった縄を解く。

帆を張り、帆が風を受け始めると少しづつ、少しづつ前に進み始めた。

 

桟橋には、多くの人々、ギルドの者やハンター、龍暦院、古龍観測所の職員達、調査団に参加する者の家族や、船員の家族。

皆が手を振って、見送る。

 

それに答えるべく、船に乗り込んでいる者達が舷側に駆け寄って、身を乗り出して手を振っている。

それをディアと共に見ながら、また村の皆の話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

「「あ」」

 

一人身を乗り出し過ぎて海に落ちた。

思わず見ていたディアと共に声が漏れてしまった。

 

……幸先が心配になったのは、我が夫婦だけでは無いと思う。

 

いや、海に落ちて死なずに済んだ事を喜ぶべきか?マストの上から甲板に叩き付けられたら俺とディアはともかく他の皆は死ぬしか無いからな……。

うぅん、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

タンジア港が、どんどん遠ざかって行く。

飛行船よりもずっと速度は遅いのに、離れる速さを早く感じる。

 

船縁で海原をディアと共に眺めていると声を掛けられる。

 

「あー、えーっと……」

 

「どうした?」

 

「あぁ、いえ、いや、どうしたものかと」

 

どうやらハロルドは今後の事を俺に聞きたいのだろう。

どうするべきか、どうしたほうが良いか、などなど。

 

ふむ。

彼はどうやら、悩んでいるらしい。

何か憑き物がある様な表情をしている。

 

不安であろう感情なども読み取れる。

 

「ハロルド、俺達に聞きたいのだな?」

 

「え、えぇまぁ……。この中で最も知恵があり、経験豊富なのは貴方ですから、だからな」

 

「……取り敢えず、無理に敬語をやめろとは言わない。話しやすい様に、話して構わない」

 

敬語を使わずに話そうとしているがなんともまぁ、堅いしぎこちないしで申し訳なくなってくる。

仕方が無い、こんな状態では意味が無い。話しやすい様に好きにさせよう。

 

「それで、俺達に聞きたいのだったな……」

 

「はい。これからの事の相談や、可能であればご指示を頂ければ、と」

 

「ふぅむ……、まず妻はともかく俺はハンターズギルドに所属するハンターだ。これは分かっているな?」

 

「勿論存じ上げてます」

 

「そして、必要な時以外に力を貸すことは無い、ともしている」

 

「はい。それでも多大な功績がある、とギルドでは語られているので」

 

「では、今は俺と妻の力が必要な時だろうか?確かに、先の進むべき道筋が全く分からない、未知なる大冒険へ踏み出している事から来る不安は十分に分かる。しかし、酷な事を言うが、それを自分の力で乗り越える事こそが、必要な事では無いのか?」

 

「……その通りです」

 

「それに、何時も何時も俺を頼っていてはお前の団長としての威厳が無くなるし、そうなっては指揮統制に支障が出る。可能な限り、お前達だけで事に当たり、解決し、進んでみせろ。本当に俺達の力が必要になった時は、その時は力を貸そう」

 

「分かりました」

 

少し話すと、憑き物が取れた様な、さっぱりとした表情になった。

 

どうやら俺とディアに気を遣い過ぎていたらしい。

そんなに、気を遣われる程では無いと思うのだが、どうやら皆は俺達をよほど畏れているらしい。

 

それからと言うもの、ハロルドは自信を持って指揮を執り始めた。

あの様子なら、問題無く指揮を執って新大陸に到着出来るだろう。

 

 

 

 

「ディア、一旦部屋に戻ろう。荷物の確認をして、あとはのんびりすればいい」

 

「ん、そうだな」

 

暫く船縁で海を眺めてから、充てがわれた船室に向かった。

一度荷物の整理と確認をして部屋で二人きり、仲良く過ごした。

 

壁を叩いてみた感じ、厚めだから少し普段より声を抑えれば問題は無さそうだ。

……何の声かは言及しないが。

 

 

 

 

「んー……」

 

「どうした?」

 

「いや、今更だが家の、私達のベッドが恋しくなって来た」

 

「ほう?」

 

「このベッドは、私達の匂いがしない。特にフェイの匂いがしない」

 

「まぁ、それは我慢するしか無いだろう」

 

この船に乗せられている寝具などは、新しいと言うのもあるがしっかりと手入れされておりカビ臭かったり、なんて事は無い。

もし、干すとなっても部屋の日当たりも良いし、窓を開けておけば生乾きとか最悪な事にはならないだろう。

 

潮臭くなってしまうのは、海の上だから致し方ない。

ただどうも、新し過ぎて、こう、前世のホテルのパリッとしたベッドみたいなのだ。

 

人にもよるだろうが、やはり自分のベッドと言うものは何物にも変え難い、寝転べば至福を与えてくれるものだ。

それが無いのだ。

うーん……、新しいベッドが嫌ではない、嫌では無いのだ。

 

ただ、ベッドからディアの匂いがしないとどうも、なぁ……。

ディアが言いたいのは、こう言う事だ。

俺の匂いがしないから落ち着かないのだろう。

 

隣に居るのとは別問題だから、早急にどうにかしなければならない。

しかし匂いというのはほんの一日二日程度で付くものではない。

 

それなりに時間が必要だ。

だから、今すぐに解決しよう、とは行かない。

それは二人とも分かっているのだ。だが、駄目なのだ。

 

「……今から、するか?」

 

「いや、まだ昼前だろう。幾ら私達と言えども、流石に皆の手前無理だろう」

 

「そうだよな……」

 

うーん、長い時は二週間ぐらいぶっ続けでセックスしているのに、昼間から、と言うのはどうも駄目なのだ。

何故だ?

 

「こんな事なら、ベッドを家でもう一つ使っておけば良かった。そうすれば持って来れたのに」

 

ディアがそう、愚痴を言う。

確かにそれは思うが、本当に今更だ。今は我慢するべきだろう。

 

「ディア」

 

「ん」

 

呼びながら、抱き寄せて互いに互いの匂いを、体温を感じる。

するとさっきまでベッドに俺の匂いが無いとかなんとか文句を言っていたのに途端に静かになった。

 

そのまますりすりと、額を擦り付けたり俺の首筋の辺りに顔を突っ込んできたりと何時も通りのディアに戻った。

俺も俺でしっかりと抱き締めて、ディアの髪の毛の匂いや体臭を嗅いでいる。

 

暫くそうしていると部屋のドアが叩かれる。

この船のドアなどに貼られている窓ガラスはかなりの曇りガラスだから、外からも中からも互いの様子を伺う事は難しい。

 

「どうした?」

 

「夕食は、如何されますか?此方にお運びするか、食堂へ来て頂くかのどちらかになります」

 

「俺達が食堂へ出向こう」

 

「承知しました」

 

どうやら今部屋を訪ねて来たのはこの船の料理長らしい。

因みに調査団の料理長は別の船に乗っているので此処には居ない。

ゲームでの、恰幅の良いお婆ちゃんアイルーが料理長だが、今現在は一見しただけでは普通のアイルーと思う見た目の為に、エプロンを着けていなければ分からない。

 

 

ディアと手を繋いで部屋から甲板に出ると、今はどうやら手隙の船員やハンター達が各々夕食調達の任務を与えられて船縁に揃って釣りをしている最中らしい。

装備を着けていないハンターや、釣果が得られない船員達が暇そうな顔でぼーっ、と竿を握っている。

 

まぁ、タンジア港の近くは好漁場だしこの辺りも漁船の漁場だから暫くすれば自ずと釣果は得られる筈だ。

 

「どうされましたかな?」

 

俺達を見つけたエドガーが、こちらに声を掛けてくる。

どうやら船団全体の進路決定などを行なっていた最中らしく、船員達と共に六分儀などで計測しているところだ。

 

「いやなに、外が気になってな。妻と部屋に篭りっきりでも良いのだがやはり外の様子と言うのは気になるものだ。妻も好奇心旺盛で、興味津々といった様子らしいからな」

 

「それならば、皆に混じって釣りでもされては?川で釣れない魚も多いですし、奥様の好奇心もそれなりに満たせる筈です」

 

「どうする?」

 

「やってみよう。見た事が無い魚を釣って、食えるのならば食おう」

 

「ん。そしたら釣具を二人分、貸して貰えるか?」

 

「勿論です。甲板長!」

 

エドガーは甲板長を呼ぶと、釣具一式を二人分持って来させ、貸してくれた。

 

餌となるのはハンター達の間でよく使われているダンゴ、と呼ばれる練り餌だ。

 

二人で並んで船縁に立ち、何時もやっている様に釣り針にダンゴを付けて海に垂らす。

 

「おっ、釣れた釣れた」

 

すると早速ディアが本日一匹目の釣果を釣り上げた。

驚いたことに最初から大食いマグロだ。

何時も思うが、何故ディアは釣りをすると必ず大食いマグロを釣り上げるのだろうか?

デフォルトで激運チケットでも使っているのだろうか?

 

 

 

 

他にもバッタやカエル、フィーバエというハエが餌だったりする。

 

ただし、バッタやフィーバエなら良いがカエルとなると、基本的に目的となるのが大型モンスターであるガノトトスなどになってしまう為に普通は船上ではカエルは使わない。

しかもガノトトス、ゲームみたいに一人で釣り上げられる訳も無く、当然釣り上げるには太いロープやワイヤーなどが必要なのだ。

 

 

 

「やべぇ!ラギアクルス寄って来たッ!」

 

どうやら、餌に釣られて集まった魚目当てに海竜が寄って来てしまったらしい。

しかも随分と腹を空かせているようで、釣りを止めても中々立ち去らず、それどころか船に餌があると思って近寄ってくる。

 

エドガーが大声で怒鳴る。

 

「えぇい、全員装備を整えろ!船が沈められないように、いや傷付けられないようにしろ!!追っ払うだけでいい!」

 

「了解っス!」

 

いきなりドタバタと騒がしくなる船上だが、あいも変わらず俺とディアは釣りを続行。

そもそも海竜ぐらいの相手ならば別に俺達が出るまでも無いだろうからな。

 

海竜に梃子摺る様なハンターは誰一人居ないし、船員や技術者達も皆、それぐらいでは怯みはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、今度はカジキマグロだ」

 

何でこうもディアは大物ばかり釣り上げるんだろうか。

もうディア一人で何人分の晩飯を釣り上げたのだ?

 

騒ぎが収まった後、再び釣りを再開したのだが、全く釣れない。

ラギアクルスに怯えてどこかに行ってしまったようだ。

 

 

「……坊主か」

 

「まぁ、気にするな。そう言う時もある」

 

「だがディアは坊主になった事など一度も無いだろう?」

 

「まぁ、そうだな」

 

夜、晩飯時に食堂に向かうと、海竜を相手していたせいもあって全く釣果の無かった皆の前に、ディアが釣り上げた大物が並んでいた。

大食いマグロに始まり、カジキマグロ、ハリマグロ、スネークサーモン、キレアジなどなど。

 

必要な量以外は吊るして干して保存食に。

食料庫の中身も常にある訳ではないから、保存食を作るのは大事な作業だ。

内臓や鰓を取り除き、骨に沿って開きにする。

そうしたら海水で洗って、昨日までに周りの海水から得た塩を、また汲んだ海水に加えて濃度を高くした塩水にする。

これに、本来なら安価で大量に取れるオニキスペッパーなどの香辛料や、岩塩を刷り込んでから干すのだが、今回は俺が持ち込んだ香辛料数種類をほんの少し塗して、あとは海水から得た塩を大量に、である。

塩を使って水分を吸わせ、干した時に水分を飛ばし易くするのだ。

 

これを適当にロープなどに吊るして気候にもよるが数日ぐらい干しておけば干し魚の完成である。

村でもよく、冬に備えてディアと作っていたものだ。

これも、ディアと二人で五百年間毎年やっていたから手慣れたものだ。

皆も手伝ってくれたが、俺達が早過ぎて効率が悪い。

だからエドガーによってこの手の仕事は俺達のもの、とされた。

 

余り想像出来ないかもしれないが、船には干し魚が並んで居たり、洗濯物がぶら下がっていたりと想像するほど、格好良くはない。

寧ろ生活感溢れ過ぎているのだ。

まぁ、余り気にするものでもないが。

 

物資の乏しい調査団では、無駄など一切認められない。

食料庫から引っ張り出した野菜とともに、釣果が並べられている。

 

ハンター達は全く釣りが出来なかった。

音響玉や銅鑼を使ってワーワー大騒ぎしながらの撃退であった為に時間が掛かってしまったらしい。

 

しかもラギアクルス、相当諦めの悪い性格で延々と船を追っ掛けて来て食い物はどこだと周りをぐるぐる泳ぎ回り、飛び跳ねて、時に船の上に乗ろうとまでしたのだ。

 

確かにしつこいが、狩る理由が無いから殺す必要も無い。

少しばかり痛い目に遭って貰っただけである。

 

どうするのか見ていたら流石と言うべきか、高い実力のあるハンター達ばかりだから、飛び掛かってくる瞬間を狙って音響玉を放り投げて海に叩き落としたりしていたが。

俺達は問題無かろう、と端っこに避けて釣りをしていた。

 

まぁ、お陰でラギアクルスに怯えた魚達が皆逃げてしまい追い払った後、ディア以外は全くの釣果が無く、俺を含めて丸坊主だった。

 

因みにこの世界の魚は、例に漏れずパワフルだ。

もう、表現の仕方が悪いと言われるかもしれないが、薬物や栄養ドリンクをちゃんぽんでもしているのか、と思うぐらいに。

 

釣り上げられても抵抗の仕方、跳ね方が尋常じゃない。

普通、魚は陸に揚げられると水に戻ろうとしてそちらへ向かって飛び跳ねる。

しかしこの世界の魚は、なんと己を釣り上げた奴に向かって飛び跳ねて攻撃しようとするのだ。

びっちん!ばっちん!とかなりの音を響かせながら来るのだ。

大体どの生物にも言えるのだが、何故かこの世界の生物は生き残る為の選択肢に先ず戦うと言う選択肢が出てくる。普通は逃げる、が先だと思うのだが。

 

ブルファンゴとか、やはり頭おかしいだろう。

何故敵味方がわからなかったら取り敢えず突進なんだ。

あまり言いたくは無いが絶対に、この世界の生物は加減を間違えている。

 

 

 

因みに全体の釣果はディアが釣り上げた魚のみであった。

 

 

 

 

 

 

出港から一週間、件の鋼龍に中々出会えない、と言うか見つけられていない。

もうとっくに見つけて、先を越していてもおかしくは無いのだが。

 

鋼龍も常に風を纏っている訳ではないからな。

風を纏っていれば、と言うより力を使っていれば大体どんな龍もすぐに見つけられる。

 

だがそうでないと気配を溶け込ませているのもあるが、本当に分からない。

となると、龍がいるであろう事象が無いのであれば龍そのものを目視で見つけるしかなくなる。

今も見張り台に立って双眼鏡を覗いて周囲を見渡している。

 

衛星やレーダーなんて物が無い世界だからな。

基本自分の目のみが頼りだ。

 

その点、俺とディアは視力が遥かに良いから双眼鏡要らずだから楽ではある。

龍と言うのは、人間同様に焦点を合わせたりしてものを見ているのだが、その眼の性能が桁違いに良い。

 

 

詳しい構造なんかは分からないが、極端に例えるならば眼鏡と天体望遠鏡、と言った感じだ。それぐらい差がある。

流石にそこまでの開きは無いにせよ人間が見る事が出来ない距離にあるものを悠々と見る事が出来る。

しかも、ピントや見る距離を調節する機能みたいな能力もあるから近い場所にあるものを見る事に苦労はしない。

 

双眼鏡で言う、等倍率から始まり数十倍率の調節機能、と言ったところか。

因みに他の生物同様、夜になると目が光る。

最初の頃は村でも驚かれたりしたが、村の中で目が光るなど、俺とディア以外に有り得ないし、必ず二人で行動しているから光る目は四つ。

それ以下、もしくはそれ以上だとモンスターしかいない。

 

まぁ、村の中にモンスターが入ってくるなんて弟子であるハンター達が夜、交代で見回りをしているから殆どあり得ないことなのだが。

しかも、夜は我が夫婦は大抵家の、ベッドの上で運動会だから夜に出歩く事も少ない。

 

水の心配は要らない。

なんせ周りに大量に海水があるからな。

それを蒸発させて塩と水に分けてしまえば立派な水である。

 

だから、船上には許す限り空樽に海水を入れて蒸留させている。

飲み水には、余り適さないかもしれないが身体を拭いたりするぐらいには全く問題無い。

飲み水は別にゲリョスのゴム質素材を使っていたり防水加工や防腐加工を施した樽に入れて持って来ている。

飲料水と言うのは貴重も貴重、何よりも大切に扱い尚且つ節約が優先されるものだ。

 

持ってきた分が無くなったならば、雨頼りである。

海水を蒸留して作った水でも俺とディアは構わないのだがいかんせん、この世界の事だから何があるか分からないと言うのが怖い。

まぁ、流石に死にはしないだろうが下痢をしたりして脱水症になる方が恐ろしいからな。

 

それは兎も角、さてどうしたものか。

見つけられなくとも、取り敢えず新大陸に向かう事は決定事項だが見つけられないとそもそもの目的である、古龍渡りの解明の第一歩すら下手をすれば踏み出せない事になる。

 

手隙の者は皆、双眼鏡を覗いたりして探しているが上手い事行かないものだ。

この大洋のど真ん中で空を飛ぶ龍を探し出すのは難しいものだ。

まぁ、太陽光が反射するから他の龍と比べると遥かに見つけ易くはあるのだが。

俺とディアも手伝い、探すが見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雲中に居るならば、まず見つける事は困難だろうな」

 

「であれば、どうしたら良いのでしょう?」

 

「見つかるまで探す以外に方法は無い。幾ら私達とて自分の血族以外の居場所がすぐに分かる様な術は無い。他龍ともなれば余計にな。地道に探す以外に他は無いな」

 

「そうですか……。分かりました、ありがとうございます」

 

ハロルドやエドガー達がどうにかならないか、と聞きに来たが此方にも成す術は無い。

 

確かに力を貸してやりたいが……。

 

これに関しては調査団として、第一目的が達成し得ないと言う事だから力を貸す事には問題無いが、その貸せる力が無いのではどうしようも無い。

 

地道に、地道にあるのみだ。

 

 

 

 

 

 

出港から三週間。

太陽が昇ると水平線の向こうに夜には見えていなかった孤島を薄らと視界に捉えた。

 

それから二日ほど掛けて孤島を通り過ぎると。

 

「見つけましたッ!鋼龍です!船団後方五時!」

 

見張り台に立って辺りを見回していた船員の一人が遂に鋼龍を見つけたのだ。

指を指して方角を知らせてくれる。

 

皆が船の後方に集まり双眼鏡を覗いたり、無い者は必死に目を凝らして見ている。

 

その皆が見る方には、特徴的な鋼色が太陽の光を反射する光が見えた。

きらきらと光っており、前世の烏避けにCDを吊るしているみたいだ。

うん、これは例えが悪かったな。

 

鋼龍を見つけてからは早かった。

かの龍はゆっくりと、しかし船団よりも幾らか速いぐらいで飛んでおり、追い掛けること自体は難しくはない。

 

鋼龍を追い掛けながら、進む事4週間。

予定では新大陸に一週間ほどで到着するのだが此処に来て、海が荒れ始めた。 

 

「荷物をしっかり固定しろ!船のバランスが崩れたらあっさり転覆だぞ!」

 

「馬鹿野郎!雨水なんて貯めてる場合か!その樽もロープでしっかり固定しとけ!」

 

雨水を溜めようと樽を引っ張り出して来たハンターがエドガーに怒鳴られて慌てて樽を船倉に引っ込めていく。

確かに雨水は大事だが、この様子では海水は混じるし邪魔になって怪我人が出かねないしで、まるで役に立たないだろう。

 

ふぅむ、しかしなんだってこんな急に嵐になったのだろうか。

あまりにも海が荒れて嵐になるのが急過ぎるのだ。

 

「……龍か?」

 

ぽつりと漏らすと、ディアがこちらを見る。

 

「確かに水を操る龍は居る。状況から考えて、恐らくその龍の力の可能性が高い。恐らくこの辺りは縄張りなんだろう。危害を加えると言うより、ここは自分の縄張りだと示す示威行動だろうな」

 

「やはりか……、まぁ此方に危害を加えると言うので無ければ構わないのだが、こうも嵐にされて船を揺すられてはなぁ」

 

「これも楽しいから良いではないか」

 

どうやらディアは揺れる船がお気に召したらしい。

先程から、子供のように楽しそうにしている。

 

俺はいつ船が沈むか分からなくて気が気ではないが……。

流石に皆を見捨てる訳にも行くまいし、何より俺に危害があった場合のことだ。

 

最悪、件の龍諸共辺り一帯が消し飛びかねない。

海の上であるならば海が蒸発するかもしれないし、新大陸に着いたら新大陸の地形が変わりかねない。

確かにそれだけ愛されている事を考えたら嬉しいが、とは言えそう考えると、何事も無きよう祈るばかりである。

 

楽しそうにするディアを隣に、そんな心配をするのだった。

 

 

 

 

 

 

三日ほど後。

嵐に揉まれに揉まれ、しっちゃかめっちゃかに船上や船内がなった頃。

漸く嵐と言う名の示威行動が収まりを告げた。

 

船員や、さしものハンター達も嵐によって疲弊しぐったりである。

中には収まってから暫く経つと言うのに酷い船酔いに苦しんでいる者も。しかし散らかった甲板や船内をそのままにして置くわけにも行かず、のっさり、もっさりした足取り手付きで片付け中だ。

 

 

 

 

 

自分達の船室でのんびりとディアと共に過ごしていると、ハロルド達が訪ねてくる。

 

「先日の嵐ですが、見張り台に登っていた船員が双眼鏡を覗いている時に、遠くの方に七色に光る何かを見た、と言っていました。もし何か心当たりがお有りでしたらお教え頂きたいのですが……」

 

「あぁ、つい嵐の時に夫と共にそれで話していたな」

 

けろっ、とさも当たり前であるかのように言うディアに皆は最初は驚いていたが今では苦笑いである。

 

 

「恐らくは水を操る龍だろう」

 

「その龍は光る、と言うより発光する。それも色々な色を常にな。此方に敵意は無い。有るならばとっくの昔にこの船団は海の藻屑だからな。見知らぬ者達へこの辺りが自身の縄張りである事を示す示威行動だろう」

 

ディアが簡単に説明すると、皆難しい顔をしている。

 

「そんな龍、聞いた事がありませんな……」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ、少なくともギルドの表に出回っている古龍の情報に該当する龍はおりません。奥様の様にギルドが禁忌として公にしていない龍も幾つか存在しますが、恐らくその中にも該当しないかと」

 

「ふむ」

 

「恐らくは、人類が確認する上では新種となる古龍でしょう」

 

そうだ、思い出した。

確かゲームをやっていた時に俺がパレード大行進とか色々と不名誉な渾名でもって呼んでいた龍が居たな。

 

なんだったか、ネロミェール、とかそんな感じの名前だったはず。

記憶が正しければ、水と同時に雷をも操る龍ではなかっただろうか。

ディアに各種龍の話で聞いていたが、ただ特徴を聞かされていただけで、今の今まで全く忘れていた。

 

皆は新種の龍だと騒いでいる。

まぁ、下手な事を言ってガッカリさせたりするのもあれだし、ここは放って置こう。

 

その様子を見ながら、行先を見る。

未だ水平線しか見えないが風が味方をすれば一週間、そうで無くとももう二〜三週間ほどで新大陸に着くだろう。

 

 

「それと、もう一つご報告がありまして」

 

「どうかしたのか」

 

「件の鋼龍の行方が分からなくなりました」

 

「行方が分からなくなった?」

 

「はい。嵐以降、姿が見えません。単純に我々の捜索範囲外に居るか、はたまた嵐を避けるために逸れたか。あとは、可能性としては低いですが、嵐によって死んでしまったか。何にせよ、現状行方を掴めていない、という事をお知らせしておきます」

 

「あい分かった。まぁ、兎も角皆も気を付けるようにな」

 

「ご心配、ありがとうございます。それでは失礼します」

 

そう言って皆出て行く。

 

しかし、鋼龍の行方が分からなくなった、か。

これと言って気にするほどの事でもなさそうだ。

 

あれだけの嵐に遭遇したならば、普通は見失う。

飛行機と空港の様に互いに位置が分かる訳でもないし、しかも今回は此方が一方的に位置を知りたがっているだけだからな。

鋼龍の方は此方に気を向ける事すらしていない筈だ。

 

寧ろ見失う方が可能性としては高い。九九.九九%以上と言える。

なんなら同じ船団ですら嵐に遭遇すれば、流されたりして十分に逸れ(はぐ)得るのだから、空を飛ぶ龍相手ならば逸れて当然と言えよう。

 

しかしまぁ、この様子だと鋼龍をまた見つけるのは相当難しそうだ。

新大陸に向かってしまった方が早いし、このまま洋上を探して漂うよりは安全だろう。

 

と言うか、そうせざるを得ないだろうな。

飲料水や食料の問題が何より大きい。

あの嵐で幾らかの食料や飲料水が海水を被ったりして駄目になってしまった。

食料は早めに食べてしまえば食えないことも無いが、水はどうにもならない。

塩分を抜かなければ到底飲むことは出来ない。

問題の無い飲料水の残量を見るに、この様子では残りの航海期間の三分の二程度しか保ちそうにない。

 

更には研究者達と食料を乗せた船が嵐で損傷しているらしい。

幸いにも沈む事はなく、航行にも支障無いらしいが、何時何が起こるか分からない。

早い内に陸地に着いた方が良いだろう。

 

取り敢えずは、残りの航海が平穏無事に終わる事を祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 







大団長のオトモ(料理長)
ベップ


総司令
ライリー・エドガー


ソードマスター
ルーカス・ファラン


フィールドマスター
オリヴィア・サフラン


竜人族のハンター
クォク・フィーラル


技術班リーダー
フィロル・ネフ


三爺

快活な学者 キィイ・ヲウ
明朗な学者 クシィ・ソブユ
陽気な学者 メブア・ダフイ


セリエナの料理長
コムギ


船長
ウィリー・ドム






地図に関しては、調べましたが記述がやはり違うのでそれらしいものを選び、参考にしました。
ですのでここはちがうだろう、などと言う意見は分かりますが感想にお書きになるのは御控えください。
正直モンハン世界の地図ってどれが正しいやら分からないものでして……。


アンケートの投票、実は作者的にはどれに投票しても書いて欲しい、と解釈出来たりしなくもないって事に今更気が付いた所存。




追記
今現在もアンケートを募集しておりますが、暫定的にノクターン版を取り敢えずどのような結果になっても構わないよう、書き進めておきます。
投票数に関しては目安としてこの感じであれば2500ほどとしておりますので、宜しくお願いします。

(実は今年が2021年なので2021票で止めようと思ってたけど普通に知らない間に通り越していたなんて言えない……)








龍の恩返し ノクターン版
https://syosetu.org/novel/269547/



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