龍の恩返し   作:ジャーマンポテトin納豆

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9話

 

 

 

 

 

 

はてさて、新大陸初上陸から早くも五ヶ月。

その間、調査団は着々と拠点の整備を進め、今では断崖絶壁が広がっていたなどとは思わない様相になっている。

ゲームでの、植生研究所も稼働し始め、彼らは何やら毎日あちこちから根っこごと植物を持って来ては飽きる事無く観察し続けている。

つい二ヶ月ほど前、何やら古代樹の新しい株が枯れそうになっていたとかで与えられた敷地のど真ん中にデカデカと植えたのは調査団に属する者ならば誰もが知る奇行だろう。

他にも様々な植物を観察し研究しては記録し続けており、一週間前は色々と組み合わせて作った肥料を与えてみたら爆発的に成長したツタ植物に植生研究所の面々が研究者特有の、研究に熱中しすぎて疲れ果てその場で寝て起きたら、なんて事があったのだが、なんとまぁツタに絡め取られていて危うく死ぬところであったり、と言うのは記憶に新しい。

 

 

 

 

生態研究所の面々はつい先日ハンターに依頼すれば良いものを待って居られないからと勝手に荷車に荷物を纏めて古代樹の森を歩き回り、挙句の果てにこの古代樹の森の竜の中では生態系の頂点に近しいアンジャナフに追いかけ回されると言う事件までしでかした。

まぁ、彼らとて研究者だから何をしたら竜の怒りを買うかぐらいは分かっているし決してそんな事はしない。

出会したのがアンジャナフだったと言うのが、運が悪かった。

あの竜は今のところ新大陸で確認されている竜の中で一、二を争うレベルで交戦的で凶暴だからな。

 

正直、この新大陸でも竜達は争う事は余りない。

寧ろ旧大陸よりも遥かに少ないと言って良い。

何しろ、ディア曰く結構な数の龍がいるらしいからな。

その龍の縄張り内で騒ぎを起こして怒りを買うぐらいなら、である。

 

互いが互いに素通りが普通であるし、ゲームみたいに縄張り争いなんて滅多に起こらない。

態々縄張り争いをしなくとも獲物は豊富だし、子育てをするに適した環境や場所は幾らでもあるからだ。

 

しかしアンジャナフと言う生物は、先に言ったとおりこれがどう言う訳かやたらと攻撃的でイャンガルルガ宜しく視界に入れば攻撃、と言うタイプの竜だ。

だからどんな竜でもアンジャナフ相手には出くわせば確実に争いになる。

 

しかも厄介な事に、アンジャナフは竜と言う括りで見れば古代樹の森においてそのヒエラルキー、ニッチ、力関係で言えばほぼ頂点に近い。

対抗出来るのはリオレウス、リオレイアぐらい。

生態系に必要不可欠な存在であるとは言え面倒なやつだ。

 

 

アンジャナフは新大陸で初確認をされた新種の竜である。

他にもドスジャグラスやプケプケと言ったお馴染みの竜達も新種として確認され、現在生態研究所が毎日少しばかり気持ちの悪い笑みと笑い声を発しながらギルドへの報告書と生態記録を纏めているところである。

彼らはどうやら竜と接している時が一番生き生きとしているようで、つい先日も依頼を受けて彼らの生態調査に同行したが竜を見ると近付こうとするのだから堪ったものではない。

 

未だ毎日のように拠点は少しづつ大きくなり、そして新しい発見がある。

新大陸調査団は発展途上、日進月歩で進み続けているのだ。

 

 

 

 

 

さて、そんな中我が夫婦はどうしているのかと言うとだ。

 

「んー、ここは自然が豊かで気持ち良いな」

 

「あぁ」

 

古代樹の天辺あたり、アイルーとはまた違った獣人族であるテトルーの住処の近くにあるツタや枝が絡んで人が乗っても問題無い場所で二人で幹に腰掛けてのんびりと過ごしている。

最近はここにテントを建てたから拠点に帰らずに夫婦水入らずで過ごしているのだ。

 

拠点でも良いのだが、いかんせん人の目があって色々とディアが持て余してご機嫌斜めだったのだ。

だからここにテトルー、森の虫かご族と仲良くなってテントを建てる許可を貰って寝泊まりしていると言うわけだ。

ここなら声を気にしなくとも良いし、木を降りてすぐ近くに水場があるし、なんなら古代樹の中にも水が溜まっている場所があるから水浴びも簡単だ。

この辺りと言うよりも新大陸全体に言える事なのかどうかは分からないが、少なくとも古代樹の森に関して言えば温暖な気候でとても過ごし易い。

だから薄着でも十分だし、なんなら暑い。

村は夏でも比較的涼しかった事を考えれば天と地ほどの差がある。

だから水だけでも問題無いのだ。

 

火の扱いに関しては、大きめの平たい岩を拾ってきて、その上から土を被せて石で囲った焚き火から今では粘土をとってきて釜まで拵えた。

古代樹に燃え移らぬように底面はしっかりと遮熱してあるし、基本寝る時は火を完全に消してしまう。

それに古代樹自体が異常なほどの耐火性能を備えているから数時間火に炙ったぐらいじゃ燃えやしない。と言うのも生木の状態であると驚くほどの水分を有しているからだ。

まぁこれだけの巨木ならばその隅々にまで水分や養分を運ばねばならないと考えると妥当ではある。

早々火事になる、なんてことは無いだろうが、万が一があり得るからな。

 

本当はここで無い場所が良いのだが、一応の仮住まいと言うことだ。

もし他にいい場所があったらそちらに移る予定だ。

 

とまぁなんだかんだと、随分と快適に生活しているのだ。

 

 

 

テトルーは完全な自然環境下で生きているからか随分とワイルドだ。

顔付きや体付きもアイルーと比べると随分とシュッと細身でありながらかなり筋肉質だ。マッチョネコとでも言うべきだろう。

 

アイルーをイエネコに例えるならば、テトルーはヤマネコだろう。

少しばかり気難しく仲良くなるのに時間が掛かったりするが、仲良くなってしまえばそれも無い。

仲間とか友人として認識されてしまえば良好な関係を築いて行く事が出来る、と言うことだ。

 

森の彼方此方に人間からすればただの落書きのようなものを書いているのはテトルー達だ。

あれは落書きでは無く、れっきとしたテトルー達の言語であり、文字である。

一見無茶苦茶の様にも見えるがそうではないのだ。

人類の言語とは全く違うが、アイルーの言語とは似てはいる。

 

ただし、似ているだけで根本は違うが解読の手掛かりぐらいにはなる。

 

アイルーはどこから連れてきたのか、と言うと調査団のアイルーを一匹連れてきて解読を手伝ってもらったのだ。

ちゃんと報酬は出した。

 

アイルーは全身もふもふだがテトルーは首周りが特にそうでもふもふの毛が撫でると心地良い。

割とテトルーは短毛なのだが、首周りだけは毛が長い。

 

推測するに首と言う一番の急所を守る為に発達したのではないか、と思う。

それ以外の場所の体毛が短いのはこの生存競争の厳しい新大陸で生き残るには、力では勝てないから身軽さを取ったと言うことではないだろうか。

 

アイルーに似ているが、生物として実際どう言う関係になるのかが分からない。

異なる進化を遂げた近縁種や亜種かもしれないし、アイルーの原種もしくはそれに近い存在かもしれない。

ヤマネコからイエネコが生まれたことを考えると、アイルーの進化した姿、とは余り言いにくいが進化と言うのは戻ったりするのもあるからなぁ。

 

専門では無くただの知識量でしか言えないから分からないが、こういうのを調べるのもまた楽しいものなのだ。

 

撫でるに関してはディアが嫉妬するから余り撫でないが。

仲良くなった方法は、と言うと簡単な話で、テトルーが狩場としている辺りを荒らしているアンジャナフを追い払って欲しいと言うお願いを聞いたのだ。

そのアンジャナフ、実は拠点でも討伐依頼が出されている個体だったので丁度良い、と捕獲したのだ。

なんでも他のアンジャナフと少しばかり違う行動をしているのだとか。

 

生態研究所の方から依頼が出ていたからパッと捕獲したのである。

するとまさかまさか、以前俺が沈めたアンジャナフではないか。

 

どうやらそのアンジャナフ、俺とディアに出くわさぬ様に警戒しながら、避ける様に行動していたらしい。

お陰で他の凶暴性を持つアンジャナフと比べ随分と臆病で慎重なアンジャナフの個体だと思われてしまったらしい。

それで研究者達の興味は惹いてしまうし、また俺に出くわすしでアンジャナフからすれば散々だっただろう。

 

 

依頼を終えて森の虫かご族を訪ねると、ゲームみたいに何やらあしどめの虫かごをくれたのだ。

使う機会があるかどうかは分からないが、有り難く貰っておいた。

 

 

因みにであるが、この森の生態系の頂点たるリオレウスとリオレイアはテトルーが天敵である。

何故なら出会し戦おうものなら、あしどめの虫かごで閃光を食らわせられ地面に叩き落とされるからだ。

何度かそれが理由で怒ったリオレウスが地面を走ってテトルーを追い掛けているのを見た事がある。

と言うよりも空を飛んで攻撃を仕掛けてくる竜は大抵森の虫かご族が天敵である。

 

リオレウスとリオレイアは特に空を飛びながら攻撃をしてくるが、テトルー相手だとピカピカ辺りを光らされて空を飛んでいられないのだ。

実際、あしどめの虫かごの威力は閃光玉以上なので俺とディアでも普通に目が眩む。

 

互いに極力会わない様にしているのだが不意に会ったが最後、閃光祭りの開催である。

仲が悪い、では無いのだが何故か閃光を喰らわすのだ。

森の虫かご族は成人、いや、成猫する時の儀式としてリオレウスに一匹であしどめの虫かごを喰らわせてから逃げると言うものがある。

 

要は度胸試しだ。

それを一匹で成し遂げられたら晴れて大人の仲間入りである。

 

彼らを見ていて、戦闘民族みたいだなと。

この森で得られるツタ植物を使って色々と罠とかを設置しているからいざと言うときは彼らは全力で抵抗する。

大型の竜を総出とは言えあれほど小さな体躯のテトルー達がギャンギャン鳴きながらとっ捕まえているのは凄まじいものである。

 

そんな彼らもリオレウスやリオレイア相手には矢鱈目鱈と強気なのに他の竜相手だと平常運転である。

ただし、必要ならば牙を剥いて殴り掛かるが。

 

身内にばかり強気な思春期の子供みたいだ。

 

 

 

 

 

「ン“ニ“ャ“ァ“」

 

「ニニ“ャ“」

 

テントの方へととと、と駆け寄ってくるのは仲の良いテトルーだ。

何やら魚が多く取れたからお裾分け、との事らしい。

しかもご丁寧に捌き済み。有難い。

 

「ありがとう、美味しく頂くよ」

 

「ニ“ャ“」

 

くしゃくしゃっ、と撫でてお礼を言う。

お返しについ先ほど出歩いた時に偶々手に入れたマタタビを少しばかり持たせてやる。

 

やはりネコだからかマタタビに滅法弱いテトルーはマタタビを受け取ると小躍りしながら帰って行った。

 

それを見届けてから、魚に塩を塗して細い植物繊維を編んだ干物カゴのような籠の中に入れておく。

数日後には立派な干物の出来上がりである。

 

それを済ませたら、暑いから最低限の防具を着けて太刀を背負って古代樹の森の探索を今日もまた開始である。

 

 

 

 

「ディア、行こうか」

 

「ん」

 

ディアを呼んで、手を握って出発。

本当は足場が悪い場所で手を繋いで歩くと危険なのだが、そこは龍のフィジカルの出番である。

そもそもハンターとして狩りの最中に転ぶなんてあの世への直行便であるから転んだとしても受け身と同時にすぐさま立ち上がれるし、なんなら転ばぬように叩き込まれている。

そこへ龍としてのフィジカルが加わったから、五百年ほど躓いた事すらない。

いや、一度だけ躓いた事があるが、その時は躓いた石ごと地面が抉れたからなぁ。

もし家の中や村の中で躓こうものなら、躓いたものを破壊してしまうから躓きたくても躓けない。

 

二人三脚状態でもこの森、とは言わず新大陸中をどこへでも駆けて回れる自信がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

ざぁっ、と心地良い風が古代樹の森を駆け抜ける。

この新大陸は、と言うより古代樹の森は温暖ながら風の影響もあってかそこまで暑いと感じない。

 

古代樹の森自体に風の通り道が数多くあるから、湿気が篭ったりと言う場所は少ない。

竜達が通り道にしている場所は大抵、風が良く通る。

今歩いている場所もそうで、そこには芒のような植物が群生している。

 

この手の植物は、自分達の生息域を広げるのに蜂などの虫ではなく、風を利用する。

ススキなどの余り花が咲かず、咲いたとしても綺麗ではない、と言う様な植物は虫を呼び寄せて受粉の手助けを得るのではなく、風で花粉を運ぶのだ。

 

皆が思い描く植物、と言えば虫が花粉を運んで雄蕊と雌蕊があって受粉して、と言う様な感じだが、彼らはそうではなく風に花粉を乗せて受粉させ、種にふわふわとした綿毛を付けて風に乗せて種を遠くへ運ぶのだ。

 

だから、風が良く通る場所にはその手の植物がよく単体ではなく群生して生えている。

 

 

進化と言うのは面白いもので、この新大陸の植物達は、シダ葉の様に沢山に分かれている葉を持っている植物が数多くある。

 

通常、このシダ葉の様な葉が細かく分かれている葉を持つ植物は進化の過程でアサガオやヒマワリなどのような一枚の葉を沢山付けたような植物に進化する。

しかしこの新大陸のシダ葉の様な葉を持つ植物は、一度アサガオ葉などのように進化してからまたシダ葉に戻っているのだ。

退化したように思えるが、実はとても進化している。

 

他には旧大陸にも同じことが言えるが全体的な特徴として、イネ科植物の様な茎が短く葉が長い、と言う植物が多い。

これは単純な話で、植物を食べる草食竜が背が高いのではなく、背が低く、それと比例するように低い場所の植物を食べるからだ。

 

植物にとって茎、と言うのはとても重要だ。

成長点、と呼ばれる植物の根や茎の先端にある細胞分裂の活発な部分なのだが、 ここから植物の先端方向へ向かって細胞が次々に作り出され、植物は茎・葉を伸ばしていく。

 

と言うことは茎を食べられてしまうと育つことができなくなってしまうと言うことだ。

だから茎を伸ばさずに葉だけを茂らせているのだ。

所謂、草むらに生えているような植物だ。

 

植物に関しては、比較的旧大陸と似通っている場合が多く、それプラスで多様性がある。

実をつけて数を増やすタイプの植物は大体が赤色だ。

理由は鳥に見つけやすくさせるため。

鳥は赤色を最も認識しやすいとされている。だからだろう。

 

 

 

他に旧大陸では余り見られない特徴として、大きな木と地面に生える草にその殆どが二分されている、と言う点だろう。

 

木、と言うのは古いタイプの植物で草は比較的新しいタイプの植物なのだが、この旧大陸にはその木と草の中間辺りの植物が多くない。

それこそ極端に言ってしまえば、古代樹は木だし、さっき言ったようなものは草だ。

 

木と言うのは大きく、生存するにあたって有利ではある。

しかし大きくなるのに時間が掛かること、それと安定した気候がなければいけないこと、などと条件もある。

 

その点、この新大陸は時間が掛かるという問題こそあれど、気候自体は常に温暖で安定しているから育つには十分な環境が整っていると言えよう。

とはいえそれでも古代樹は大きくなり過ぎの様な気もするが。

 

あとは、そうだな。

この土地ならではなのかは分からないが、土が少ない。

 

詳しく言うならば、古代樹と言う極端に大きな植物が群生していることによって、その古代樹の根に地面が覆われてしまっていると言った方が正しいかもしれない。

実際、一番最初にキャンプを立てた周囲は土があるが、それ以外の場所は土は多くなく、寧ろ常に古代樹の根や枝、幹の上を歩いている。

二番目以降のキャンプは全て枝、幹、根が複雑に絡まった場所の上に設置されている。

 

 

古代樹の森の中に生えている草は大体が数少ない土の上であったり、所謂寄生植物であったり、ツタ植物の様に太い幹などではなく細くしなやかな茎を伸ばしていくような類ばかりだ。

特に菌糸類、キノコが森の中であれば多い。

中間層の植物が少ない、と言うのはその影響もあってなのかもしれない。

 

 

 

動物で言えば、アプトノスなどの植物食竜が生息する辺りは大体限られている。

と言うのも、彼ら植物食の竜達は大抵古代樹の森に入っていかない。開けた場所で土がある場所にしかいないのだ。

 

理由としては、森の中に入ったら捕食者に簡単に捕らえられてしまうからだ。

森の中は視界が悪く、それこそじっ、と動かずにいれば本当にバレない。流石に派手な色合いであれば気が付くかもしれないが、その時にはすでに手遅れである。

アンジャナフなども森の中に入ったら意外と見つけ辛いし、プケプケなんかは身体が森の中で迷彩色の様にカモフラージュするからよく目を凝らしても見つけられない。

俺とディアは匂いなどで分かるが、他のハンター達は意外と見つけるのに梃子摺るようだ。

 

他にも昆虫で言えば、デカい蜻蛉みたいなやつとかも多い。

こう言った昆虫が巨大化するには酸素濃度が高くなければならないのだが、彼らが巨大化していると言うことはこの新大陸は旧大陸に比べ酸素濃度が高い、と言うことになる。

そりゃぁ、これだけ植物が多ければ酸素濃度も高くなるだろう。

 

他に特徴的、と言えば回復ミツバチだろう。

彼らは個体数自体は少ないのだが、他の昆虫に比べ随分とタフである。

特定の植物、回復ツユクサの蜜しか集めない。

 

この回復ツユクサ、蜜が極端なほど栄養価が高く、滋養強壮にいい。

回復薬以上の効能を持っているといえばどれほどのものか分かるだろう。当然、その蜜しか集めない回復ミツバチの蜜はより効果が高くなる。

まぁ、こちらに関しては観察と研究を始めたばかりなので、詳しくは分からないが、面白い。

 

 

 

 

 

「お、変な鳥がいるぞ」

 

「変な鳥?」

 

ディアが何やら変な鳥を見つけたらしい。

色鮮やかな鳥で、古代樹の森をかなり探索しているが初めて出会った。

 

「ほら、あれだ」

 

「おぉ、確かに変な鳥だ」

 

古代樹の幹を登っていっている。

飛んで移動するのでは無く、木の幹を登って移動しているのだ。

少なくとも俺が想像する鳥とは随分とかけ離れた移動方法だ。

 

一般的な鳥は地面を歩き、空を飛び、木の幹を登るなんてしない。

枝に止まるぐらいで垂直の木の幹を登るなんてしないはずだ。

 

であるならば、あの鳥はどうやって飛ぶのだろう。

ある高さにまで登るとぴょんと飛び翼を広げた。

 

なるほど、飛ぶ、では無く滑空しているようだ。

他の鳥の様に翼を羽ばたかせて飛ぶのではなく高い位置から低い位置へ滑空し、また高い場所へ登って滑空、を繰り返して移動しているようだ。

どうやら木に登るための筋力はあるが、羽ばたく為の筋力が高くないらしい。

と言うより、身体の体重に対して翼があまり発達していないと言った方がいいかもしれない。

 

あれだろうか、ゲームで確かシンリンシソチョウとか言う生物が居たが、それではないか?

 

二人で見ているとシソチョウは俺達を常に視界に収めている。

警戒心が強いのか、それとも好奇心旺盛なのか。

近寄っては来ないから、警戒心が強いのだろう。

 

いずれにせよ、こちらを暫く見ながら滑空したり、枝の上で休んだりと何度かやった後、何処かへ行ってしまった。

 

 

 

「変な鳥だったなぁ」

 

「まぁ、その内また会えるだろう」

 

手を繋いでまた歩き始める。

一番最初に我が夫婦が探索したのは古代樹の森の中心部である古代樹そのものだ。

 

古代樹の中に大きな空洞などがあるが、実はあそこは元々土があり、大きな岩があった場所だ。それを根が避けて生え、そして長い年月が過ぎて岩が無くなるとそこに空洞が出来た、と言うわけである。

あそこは水場があり、数多くの竜や生き物達が水飲み場として使っている。

 

だからあそこに行けばこの古代樹の森に住む竜や生物達の殆どに出会うことが出来ると言うわけだ。

 

 

 

 

「この地は面白い」

 

「どこがだ?」

 

楽しそうに、嬉しそうに微笑みながら俺の手に指を絡ませてディアは歩く。

その横顔はどんなものよりも美しく、輝いて見える。

 

「普通だったら住む場所が違うだけで色々と差異が出てくる。そこに住まう竜達も。確かにこの地は竜も多少なりとも行動なんかに違いがあるし、見た事がない竜だっている。だがそれ以上に面白いのは、竜ではなくそれ以外の生物だ」

 

「まぁ、確かにこの地の生物は色んな姿に進化しているな」

 

「だろう?普通、食物連鎖の頂点に立つ存在が多少でも違うのならばその地のその下に続く食物連鎖も変わってくるはず。だが上は大差無いのに下が驚くほど違う。そこが面白い」

 

簡単に言えば、ゲームでの環境生物、と言う括りであった生き物達のことだ。

実際、この新大陸の小動物達は旧大陸とはまるで違う進化を遂げている。

兎に角殆どの生物が共生関係にあるのだ。

 

だからどちらかが居なくなればもう片方も居なくなる。

 

一例を挙げるとすればフワフワクイナ、と命名された鳥だ。

この鳥は古代樹の森であればアプトノスの背に良く乗っているのを見ることができる。

具体的にどの様な共生関係にあるのかはまだ分からないが殆どの場合一緒にいる。

 

恐らくフワフワが危険を察知したならばアプトノスに知らせて逃げる、と言うような関係性なのでは無いだろうか。

実際フワフワは逃げるがアプトノスは人間相手であれば怯えず逃げないがそれ以外の竜が近づくと一目散に逃げる。

恐らく何らかの境界線があるのだろうがその辺は分からない。

 

だがこのフワフワ、逃げると言っても飛ぶのではなく、走るのだ。

それも尋常じゃなく速い速度で。

 

と言うのもこのフワフワ、実は飛べない。

飛べるのかもしれないが少なくとも観察していた限りでは飛ぶところを見たことがない。

どうやら前世でのダチョウなどと同じ様な進化をしているらしく飛べない代わりにその体躯には不釣り合いなぐらいの長く細い、しかし力強い足があり、そして驚くほど足が速い。

体感ではあるが普通に時速五十〜六十kmは出せる。

 

にも関わらず性格は臆病極まりない。

なぜオーストラリアやニュージーランドの飛べない鳥のように天敵が居ない、と言うわけでも無いのに何故飛ぶことを捨てたんだ?と謎な部分である。

 

 

 

 

そう言う点が、面白いのだ。

 

 

 

 

 

 

「ディア、そろそろ帰ろう。日が暮れてきた」

 

「そうだな」

 

一日古代樹の森を歩き回り、日が暮れる頃。

流石に夜まで歩き回ったりはしないのでテントに戻る。

 

その前に今晩使う食材を調達だ。

と言っても野菜やキノコ類を採るだけなので、場所を知っていれば時間は掛からない。

 

今日の主菜は以前テトルーが持って来てくれたアプトノスの肉である。

氷結晶を入れた木箱の中で保存してあるから腐る心配は無い。

 

 

食材調達を済ませ、次に綺麗な川に向かう。

 

そこで水浴びをするのだ。

石鹸なども持って来ているから困らない。

勿論、ディアと共に水浴びである。

 

相変わらず、水に濡れたディアは普段とは違った魅力を纏う。

 

「どうした、また見惚れていたか?」

 

「あぁ、ディアは綺麗だ」

 

「ふふん」

 

夕暮れ時の茜色に染まった空を背景にして水を浴びるディア、と言うのはいっそ絵画にしようものならどれほどの値が付けられるか分かったものでは無い、というほどに美しく幻想的だ。

もしカメラがあったのならば、延々とシャッターを切り続けていることだろう。

 

一応この世界にもカメラ、と言うのはあるにはあるんだが、兎に角最初期のカメラででかいし重いし滅茶苦茶なほど値段が高いしで到底手を出せそうなものではない。

しかも現像する技術を生憎と俺は持ち合わせておらず、専門職の人間が居ないといけないなど問題があるのだ。

 

ともかく、それほどに俺の妻は美しい。

 

 

 

「ほら、洗うぞ。こっちに来い」

 

「あぁ」

 

互いに互いの身体を洗うと言う行為は、夫婦になりたての頃はそれはもう物凄く緊張したものだ。

それが今では当たり前になったと言うのだから、恐ろしい。

 

 

 

水浴びを済ませ、テントに戻る。

すぐに夕食の支度だ。

 

肉を取り出し、油を引いたフライパンに放り込む。

凍っているわけではないから解凍する必要も無い。

 

それから必要に応じて油を足し、塩や胡椒などで味付けをしつつキノコ類から芋、根菜類を炒める。

茹でるでもいいのだが、いかんせん竃が二つしかないから鍋かフライパンのどちらかしか使えない。

米も炊いているし。

 

よく火が通ったなら皿に盛り付けて出来上がり。

 

「「いただきます」」

 

二人並んで手を合わせ、夕食である。

すっかり陽も落ちて、普通なら真っ暗だが小さな蝋燭に灯を灯してある。

 

お世辞にも明るいとは言えないが、これはこれで良いものだ。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

皿を洗い、灯を消してテントの中へ。

組み立て式のベッドに二人で身体を横たえて、どちらからともなく唇を重ねる。

 

これからが一日の本番だ。

 

 






龍の恩返し ノクターン版
https://syosetu.org/novel/269547/

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