_____ここ、都立呪術高等専門学校には、一人の警備員がいる。
その警備員がいつから居るのか、どういう奴なのか、細かいことを知ってるやつは少ない。
何故なら、ここはたくさんのセキュリティで見張られてるし、常に呪術師のいるここに殴り込みをかけてくるような"骨のある"連中も中々いないからだ。
たったひとりの警備員が大活躍するような機会なんてのは中々巡ってこないって訳さ。
ちなみに呪術師っていうのは呪力とか術式とかいうスーパーパワーを使って、呪霊と呼ばれる人の目に見えない
常人より強い分、良くも悪くも頭がイカれてたり性根が捻じ曲がってる奴とかが多いのが特徴だ。そんな奴らがここにはごまんと居るんだ。
そんな訳で
神童、五条悟が初めて都立呪術高専を訪れたのは2005年の春だった。
数百年ぶりに生まれ落ちた六眼と無下限呪術の完全な抱き合わせ。オマケに彼に稽古をつけに来た一流の呪術師たちさえも悉く打ち負かす程に呪力操作や格闘センスもずば抜けて高いという、生まれながらに最強が約束されている存在。
そんな彼は、全然愛しくない実家を離れてやってきたこの場所に、なんら特別な感情を抱いてはいなかった。
彼は高校一年生の初日にしてこの世の全てを舐め腐っていたのである。こんな所で学ぶことなど何も無い。俺が興味をそそられるものなど何も無いだろう、と。
それが3分前の彼が思っていた事だ。
今、彼は生まれて初めて何者かに完全に先手を取られていた。
(後ろに誰か居やがる…!何時の間に!?何処から!?)
瞬間、悟は振り向きざまに左手で裏拳を放った。
初めて味わう焦燥感に呪力はこの上なく滑らかに流れ、後ろに立っていたのが並の術師であったなら一撃で意識を奪われていただろう。そこに立っているのが並の術師である筈がないが。
悟の拳は空を切った。一瞬前まで何者かが立っていた場所には何も無かった。残穢も無い。悟が己の気の所為だったのかとすら錯覚する程に、今の左裏拳は会心の一撃だった。
刹那、放心した悟の右肩に
…今動いたら死ぬ。
そう錯覚する程、その手には奇妙な重圧があった。妙に硬く、重く、冷えきっていて、そのくせ呪力を感じない。不気味だった。悟は自分の背筋を嫌な汗がつたう不快感すら感じた。
そしてどれほどの間自身の肩に手が乗せられていたのか、悟には分からなかった。一秒にすら満たない一瞬か、それとも十数秒なのか。不意に、後ろの奴が口を開いた。
「おい。人間。
初めて会うのに挨拶もなしか?
こっちを向いて握手しろ。」
それは悟の肩から手をおろすと、男の声で喋った。少し野太いが、掌から感じる重圧とは対照的にかなり普通の声だった。
少しの間を置いて、悟は大人しく振り返って見る事にした。
その男の面には、肉や皮の類の物は何一つとして付いていなかった。その男の姿は“骸骨”だった。骸骨の様にやせ細っているとかではなく正真正銘、男の顔は白骨で出来ていた。
その顔を見て、悟はどこか腑に落ちたような気がした。
この男は死神の類の何かなのだろう。そして己の人生に終止符を打ちに来たのだ。今までの人生で幾度となく呪詛師やら何やらに命を狙われる度に幾度となくそれを跳ね除けてきた、傲岸不遜の化身である五条悟にはあまりにも場違いな考え。
言われるがままに握手をしようとし_____
ブブブブブゥゥゥゥゥウゥゥゥビビビビビッ!!!
あまりにも場違いな音がして、悟は正気に戻り、男から距離を取った。
(何やってんだ俺らしくもねぇ…!!!高々後ろを取られた位で戦意喪失だぁ…!?クソッタレが!俺はそんなタマじゃねぇだろ…!)
改めてその男を見る。顔に気を取られて気づかなかったが、その男は警備員のような格好をしていた。そして、男の左手にはショッキングピンクのブーブークッションが一つ。
(……………。)
あまりにも場違いなアイテムが男の左手に握られているのを見て、悟はなんとも言えない顔をした。例えばしそ漬けの梅干しを一粒口に放り込んだときのような顔だ。
「よう。お前さんが今日からここに入学する五条悟って奴だろ?」
「…俺を知ってんのか?てか誰だよテメーはいきなり人の体触りやがって!」
「見ての通りさ。俺はただの警備員だ。それにいきなり俺を殴ろうとした奴に言われたくないぜ、そんな冗談」
「…チッ」
年相応に不貞腐れる悟の様子を見て、男は少し笑った。
「ここの学長から一回どんな奴か見てやれって頼まれててな。まあ、…噂通りだな、概ねは」
「どんな噂だよ」
「天上天下唯我独尊を地で行くクソガキって聞いたぜ」
「ほっとけ」
まあ概ねどころか全くその通りだと悟は思ったが、高々と伸びていた鼻はこの警備員を名乗る骸骨によって根本からへし折られた。
そして、その骸骨は学生証とか見せろと言って来たので大人しく渡してやった。骸骨の用事はどちらかといえばこちらのほうだった様だ。
骸骨は生徒手帳を一通り眺めてそれを悟に返し、口を開いた。
「…自己紹介が遅れたな。オイラは
ようこそ、呪術高専へ。
その言葉を残して、三途と名乗った骸骨は忽然と姿を消した。
「…期待持たせる演出じゃねえか、オッサン」
そうして、五条悟の高専生活が幕を開ける。
五条悟:突然の骸骨に心底ビビった新一年生。
(続きなどない)