王国では不吉だと言われた「闇」の祝福を持つわたしは、帝国で皇太子妃となり愛されてます   作:和鳳ハジメ

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第22話 それが彼の……

 

 

「死ねッ! 死ねッ!! 素直にくたばれ死に損ないがァ!!」

 

「四人居て押されてるっ!? ――その剣の強さは王子という地位に必要だったかい?」

 

「貴様がその力をッ!! ナスターシャの力をッ!! 返せッ!! 死んで返せええええええええええええッ!!」

 

 気を抜いたら死ぬ、一撃で首を跳ね飛ばされる。

 コリウスの気迫はそれだけ鋭く、一撃は重く巧み。

 

(挑発しても無意味なのは辛いっ、どうにか隙を作らないと――)

 

「オラオラオラァ!! 何を暢気に考え事してるんだッ!! あの女が恋しいなら今すぐ死ねェ!!」

 

「っ!? こっちは死にかけだってのにさぁ!!」

 

 パースは囮になって回避に専念するので手一杯だ、コンバ達がそれぞれの祝福を連携させて辛うじて対抗出来ている。

 

(カカカカカッ!! 殺してやる――殺してやるぞッ!!)

 

 勝てる、勝たなくてはならない。

 剣を握るコリウスの手が、怒りに満ちて。

 ――振るう、剣を振るう。

 

(初めて会った時から、好きだった。オレが最初に好きになったんだッ!!)

 

 一撃、一撃が彼女に近づいていると思うと歓喜に震えそうだ。

 

(アイツは子供の頃から教会で聞く悪魔の様に美しい女だった――、嗚呼、嬉しかったんだ)

 

 帝国の皇子の剣など、どれ程のものか。

 この怨敵が従えている者共には見覚えがある、裏切り者だ。

 その裏切り者がどれだけ手練れであろうとも、コリウスの敵ではない。

 ――振るう、剣を振るう。

 

(アイツの情を求める顔が好きだ、口には出さない癖に愛して欲しくて必死に求める様が、小金をせびって気を引いたつもりになってる愚かさが愛おしいッ!!)

 

 彼とて、最初はターシャの存在を喜んで友好な関係にしようと思っていたのだ。

 だが彼女と初めて顔を会わせたその日の夜、思い知らされた。

 ――振るう、剣を振るう。

 

(儘ならなかったよなァ!! クソ親父も兄貴や弟も死んじまった母上もッ、誰も彼もがアイツを忌み嫌ったッ!! アイツを少しでも優遇しようとした奴を親父は軒並み祝福で腐らせて殺したッ!!)

 

 己の初恋は、叶わぬと知ったのだ。

 そして決して、表に出してはいけないとも。

 ――振るう、振るう。剣を振るう。

 

(オレを歪ませたのはアイツだ……だからアイツにはその責任がある!!)

 

 ――背丈は弟に負けた。

 ――学問では兄に負けた。

 ――王としての素質は、弟が一番だった。

 ――為政者としての素質は、兄が際だっていた。

 ――戦争の才能は、父にも兄にも弟にも劣って。

 ――母が浮気して出来た子ではないか、そう噂がたつ程に己の容姿は醜くて。

 

「どうしたどうしたどうしたァ!! 息があがってるぞオラァッ!!」

 

 誰よりも強い祝福を持ち、誰よりも美しい美貌を持つ彼女に相応しくなる何かが欲しかった。

 だから剣に傾向したのだ。

 

(眩かったッ、アイツの闇がッ、アイツの力がッ!! それが途轍もなく愛おしいんだよッ!!)

 

 劣等感と恋心と、――そして父への恐怖にコリウスは歪んだ。

 求めるターシャに、嫌々ながら何も与えなかったのが。

 自ら進んで、何も与えない様になった。

 ――目の前の怨敵を討ち滅ぼさんと振るって、振るって、振るって、剣を振るって

 

(ははッ、笑えるよなァ!! 笑顔を張り付けたアイツが、その仮面の下で悲しんでいるのが何より愛おしいとはさァ!!)

 

 落胆するその姿が、それでも手を伸ばそうと、しかし口には出さないその姿が滑稽で滑稽で、何より好ましかった。

 

(嗚呼、――……何一つ与えない事こそ、オレの愛し方だ)

 

 コールムバイン王国・第二王子コリウスは、ナスターシャ・カミイラ・ノーゼンハレンを愛している。

 だからこそ、手元に置き続ける為に彼女の成果を改竄した。

 父に、兄弟に、貴族の誰にも目が止まらぬ様に。

 ――まだ倒れない、だから剣を振るう。

 

(苦労して改竄したというのにッ!! 誰が任務失敗とッ! 足手まといでしかなかったとッ! 報告を上げていたと思うのだッ!!)

 

 全ては、ターシャを己に縛り付ける為に。

 いつか、誰の目も届かぬ所に監禁し、その全てを独占する為に。

 だが、――――その目論見は見事に壊された。

 

(兄貴も愚弟もォ!! 国を守るならちゃんと守れってんだッ!!)

 

 対共和国との戦線の崩壊、援軍は間に合わず。

 一気に王都まで数日の距離の、イキシアの地まで攻め込まれて。

 苦肉の策だった、唯一の策だった。

 

(カカカカカカカッ!! 甘く見てたッ! いや、予想して然るべきだったッ!! ナスターシャが居れば勝利など確実だったッ!!)

 

 失敗して敗走していれば良かったのだ、王都が攻め落とされたどさくさに紛れ遠方の地に二人で逃げ出す準備もあったのだ。

 だが、現実は違った。

 ターシャは、これ以上とない勝利を収めてしまったのだ。

 ――倒れろ、いい加減に倒れろと剣を振るう。

 

(だから捨てたのだッ!! アイツの母の故郷とも言えるこの死の森にッ!! オレが再び手にする時まで生き延びられる様にとッ!!)

 

 誤算は続く、王が勝利に気を良くし共和国への報復を決定したのだ。

 兵を多く失ったばかりだと言うのに、しかしコリウスは逆らえずに出兵の手配をするしか無かった。

 帝国崩壊の陰謀を担っていた事も、その一つ。

 

(本当は王国なんてどうなっても良いのだッ!! オレはナスターシャが側に居れば良かったんだよッ!! あの希望を捨てられず、でも諦観に満ちた紫の瞳で見てくれていればッ!!)

 

「――――オレがッ!! アイツを手にする筈だったんだッ!! 今更貴様なんかにくれてやるものかッ!!」

 

「そんなに言うなら愛してるの一言ぐらいかけてやれば良かったんだっ!! 君こそ今更遅いんだよっ!!」

 

「アイツはオレの女だアアアアアアアアアアッ!!」

 

 時間が経つ程に、打ち合う度に、剣技を冴え渡させるコリウスの姿。

 ターシャの闇の鎧が無ければ、パースは何度死んでいたか分からない。

 だが今は、恐怖より不思議な共感が勝って。

 

(――――コリウス、君はまさか……本当にターシャの事を愛しているのかい?)

 

 確かな言葉は無い、便利な道具に対する執着しか見えない。

 しかし同じ女性を愛する者として、パースには確かに伝わる何ががあって。

 

「だからこそっ、僕は負けられないっ!!」

 

「アイツの力が無ければ死んでいる奴が吠えるなッ!! アイツが居なければ親父の陰謀も暴けなかった奴がッ!! 死ねってんだよッ!!」

 

(どうするっ、どうしたら隙が作れるっ、一瞬でいい、一瞬さえあれば――)

 

 この圧倒的な不利な状況で、唯一の勝ち目と言えば闇の鎧だ。

 コリウスは確かに驚異的である、普通ならば体力の限界だろうに一撃が益々重くなって。

 

(違う、限界が近いからこそ重いんだっ!!)

 

 パースは、そこに賭ける事にした。

 彼と違い、闇の鎧のお陰でまだ体力には余裕がある。

 ターシャと心を交わしたからこその違いが、今ここに存在する。

 だから。

 

「まだだっ、まだ僕は――――っ!? カハッ、うぷっ、ぁ――――」

 

「そろそろ寿命だろうよッ! ここには親父が居るからなァ!!」

 

「殿下!!」「避けてくださいっ!!」「間に合わないっ!?」

 

「その首、取った――――」

 

 吐血し動きが止まったパースの首に、コリウスの剣が届く。

 誰もがパースの絶命を確信した、だが。

 

「――――………………な、貴様――」

 

「君の敗因はターシャを知ろうとしなかったからさ、だからこんな稚拙な手に引っかかる」

 

「そう、か……」

 

 ぐらり、とコリウスの体が傾く、彼の胸にはパースの剣が突き刺さり背中に抜けていた。

 そう、パースは態と吐血し誘ったのだ。

 相手が何処を狙って、何時剣が来るのか。

 そこに、絶対の防御を誇る鎧さえあれば防ぐ事は容易い。

 

(片手で剣を受け止めて、僕の剣で。――この鎧じゃなければ、防御が間に合わなかったら、手を弾き飛ばされてたら、…………でも、僕が勝った)

 

 コリウス王子が地に倒れる、体から流れ出る血が広がっていく。

 急激に薄れゆく意識の中、彼はターシャが空から駆けつける光景を見て。

 

「無事なのパースっ!! 怪我はありませんかっ!!」

 

「君のくれた鎧のお陰でなんとか、そっちは?」

 

「ええ、ニカ達が上手くやりました。もうすぐ合流しますわ。――――それで」

 

「ああ、僕が殺した。君の元婚約者を」

 

「…………なす、たーしゃ――お、れ、の」

 

「まだ、息がありますのね」

 

 ターシャは冷たい目で、コリウスを見下ろす。

 

(最後に、もう一目見れて……嗚呼、オレは、オレは…………)

 

 手を伸ばしたい、触れたい、一度も触れてこなかったが、最後だけはと手を伸ばそうとして――出来ない。

 もうコリウスの体は、自由に動かなかった。

 

「止めをさしますかパースリィ殿下」

 

「いや、このままでいい。――――最後に、言い残す事はあるか?」

 

「パース、こんな人にそんな情けなんて……」

 

「いやターシャ、もしあるなら聞いておくべきだ」

 

 彼の真剣な言葉に、彼女は戸惑いながら頷いた。

 コリウス、ターシャを捨てた婚約者、少しも優しくなかった婚約者。

 だが、婚約者だったのだ。

 最後の言葉ぐらいは、聞いておくべきかもしれないと。

 

「何か、言い残す事はありまして?」

 

 すると、コリウスはターシャをバカにするように口元を歪め。

 

「だ……から、貴様、は……、おろ、かで、滑稽……なんだ」

 

「それで?」

 

「…………はぁ、お、親父、に、はっ……――、きさ、まを……、捨、てた、事――言ってな、い……」

 

「っ!? 殿下っ!? それはどういう――――っ!?」

 

 ターシャはその意味を問いただそうと、肩を揺さぶろうとし。

 

「……ターシャ、もう死んでしまったよ」

 

「こんな言葉なんて、どうし――――っ。」

 

「ターシャ、彼の目を閉じてくれないか」

 

 パースの悲しそうな顔を見て、ターシャは気が付いた。

 彼にとってコリウスは、憎むべき敵の一味。

 故に、その死に喜び、或いは通過点として無感動である筈なのだ。

 この様に、パースが悲しそうな顔をする理由が無いのだ。

 

(まさか、殿下は――…………)

 

 だから、だから、だから、そんな訳がある筈が無い。

 彼が、実は。

 

「っ!! ~~~~ぁ、嗚呼……――――」

 

 そんな訳がない、絶対に、欠片足りともそんな態度は見せなかったではないか。

 

(もし、何かが違っていたら、わたしは……っ)

 

 震える手つきで、ターシャはコリウスの瞳をそっと閉じた。

 そして堅く瞳を閉じると、静かに見開いて立ち上がる。

 

「不器用だったのですわ、わたしも、貴方も……さようなら、わたしの夫になったかもしれないヒト」

 

 心から愛していたかもしれないヒト、とは続けられなかった。

 涙も出さなかった。

 ターシャには、その権利は無い。

 

(最後まで、言わないんだね。それが君の愛し方だったのか……)

 

「――――行こう、ニカ達も待ってる」

 

「………………ええ、行きましょう。殿下は言っていたわ、王はわたしが捨てられた事を知らないと。なら、そこに付け入る隙があるでしょう」

 

 二人は頷きあうと、歩き始める。

 王が居るならば、ここで決着をつけるべきだ。

 何より、パースの時間がどれだけ残されてるかも分からない。

 

「三人とも、手分けして向こうの装備を手に入れて変装するんだ」

 

「わたしは帝国に潜入し、パースを捕まえ連行した。そういう体で行くのね?」

 

「そうだ、ただちに取りかかってくれ」

 

 程なく準備は整い、コンバの誘導でターシャ達は例の部屋に続く執務室へ。

 

「ここですナスターシャ様、祝福の反応では中に三人、その内の二人は例の奥の部屋に」

 

「なら、ここで待っているのは一人ね。――扉を開けなさい」

 

「はっ、――――ナスターシャ様がコリウス殿下の命により帝国第一皇子を捕縛し帰還しました! 入室しても宜しいでしょうか!!」

 

 そして。

 

「――――いやいや、ご苦労だったナスターシャ。失敗続きの役立たずでも、一つぐらいは成功するものだな」

 

「………………お父様」

 

 部屋の中で待ち受けていたのは、ターシャの父であった。

 

 

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