王国では不吉だと言われた「闇」の祝福を持つわたしは、帝国で皇太子妃となり愛されてます   作:和鳳ハジメ

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第30話 契約ではなく、本当に

 

 

 コリウス王子が真の死を得てから数時間後、ターシャ達は帝都に戻った。

 その頃には、帝都で防衛戦の指揮をとっていたヤーロウも勝利を終えて他の者と一緒に出迎えて。

 流石にその日から暫くは、勝利の宴より先に後始末が優先。

 誰も彼もが、忙しく動いていた。

 

(でも、そのお陰で伸び伸びになっていたのよね)

 

 今はあれから三週間後の戦勝宴の後、ターシャは際どい夜着を来てベッドの上。

 心臓をバクバクと大きく打ち鳴らしながら、パースを待っている。

 

(ううっ、あのまま帰ったその日に抱かれていれば良かったわ…………)

 

 コリウスとの別れは確かに悲しかったが、それ以上にパースの生存を皇帝達が喜び。

 所謂、家族の時間。

 ターシャも、母との親交を深め。

 

(わたしも、お母様にべったりだったもの。……いえ、わたし以上にお母様がべったりだったけれど)

 

 嫌だった訳ではないが、ターシャももう大人である。

 ずっと離れていた訳で、母としては奪われた子供を離したくない訳で。

 多少の気恥ずかしさはあるものの、親子の時間だったのである。

 

(ううっ、でもお母様……、しかも義母様まで、こんなにぃ…………っ!!)

 

 ターシャは赤面して、今にも逃げ出したい気分であった。

 夜着の際どさは言うまでも無く、朝から側付きでありエリーとマリア、そしてばあやまでも閨の作法をこんこんと伝え。

 二カ達、騎士の皆はすれ違う度に喜びの挨拶を。

 

(これで意識するなって方が無理ですわよっ!!)

 

 寝室には、甘ったるい香が焚かれ。

 ターシャが座るこのベッドにはバラの花びらが散らされている。

 抱かれる、抱かれてしまうのだ。

 ――緊張と興奮で、ターシャがくらくらとし始めた時であった。

 パースの自室に続く扉が開いて、彼が入ってくる。

 

「やぁ、待たせたねターシャっ!!」

 

「ふ、ふん。随分と待たせたわねっ」

 

「おやおや、可愛い奥さんは緊張していらっしゃる?」

 

「…………乙女の運命の夜なのですわ、緊張しない方が無理よ」

 

「成程、なら緊張を解す意味でもさ。少し話そうか」

 

 そう言って彼はベッドに上がり、ターシャの横に座って肩を抱く。

 彼女は真っ赤になって、それを受け入れて。

 

「今更何を話すと言うのですか、……や、やる事は一つでしょう?」

 

「そうやって照れながら期待の目で見てくれる事は嬉しいんだけどさ、……大事な話なんだ」

 

「大事な、話しですか?」

 

 真面目な顔のパースに、彼女も落ち着きを取り戻して。

 だが、どんな大事な話なのだろうか。

 二人の間に、もはや問題など無いというのに。

 すると、彼は。

 

「――――これが、最後の機会だ。この国から出て、僕から離れるなら今だよ」

 

「はい? パース? いったい何を言っているのですか?」

 

「だってさ、今から君は純血を喪うわけだ。僕が奪う訳だ、そして僕らはさ……契約結婚という話だったじゃないか。…………全てが解決した今、君がその契約に縛られる理由は無い。君が望むなら、僕は…………」

 

「………………――――――なるほど?」

 

 パースの震える手つき、そして今で見てきた彼の性質。

 ターシャには、彼の気持ちが手に取るように理解が出来る。

 これは、アレだ、きっとアレなのだ。

 

「つまり、パースはわたしに無理をさせたくないと。あれだけ望んでいたのに、わたしを手放すと、愛故に、そうすると」

 

「ああ、君が怒るのは当然だ。でもさ」

 

「でも何もありませんわ殿下、本音を仰ってくださいまし、わたしが理解出来ないとお思いですか?」

 

「本音? 僕に隠している事があるって?」

 

「ええ、ずばり言い当ててみせましょう」

 

「じゃあ、僕は謹んで聞こうじゃないか」

 

 交わる視線、ターシャは鋭く切り込んだ。

 

「パース、貴方は童貞だからって今更恥ずかしくなって逃げだそうとしていますね? あの時、わたしから逃げ出したように、失望されたくなくて臆病風に吹かれましたね? そしてわたしが止めてくれる事も計算に入れて、愛を確かめようとしている。……そうですね童貞皇子?」

 

「畜生っ!! やっぱりバレバレだったぁ!! でもしょうがないじゃん!! だって君ってば凄く魅力的なんだよっ!? おっぱいが大きくて腰は括れててお尻は大きくて、僕は思うがままに揉みたい!! でもそれで嫌われたら生きていけないじゃないか!!」

 

「バカです?」

 

「そうだよ僕はバカだよっ!! この部屋に入るまでは問答無用で押し倒すつもりだったんだよ! どれだけこの日を待ち望んでいた事か!! ――でもさ、君を目の前にしたら……だって、女神が居たんだよ? この世で二人といない僕だけの絶世の夜の女神が居たんだよっ!? 緊張するじゃん! 僕が汚していいのかって思うじゃんか!!」

 

 それは魂の叫びだった、ターシャを愛するが故に発生した臆病と欲望の風。

 彼女は苦笑をひとつ、己の手をパースの頬に添え。

 

「――――ていっ」

 

「あ゛だっ!? なんで頭突きしたのさっ!?」

 

「一つだけ問います、…………乙女の覚悟を無駄にしますの? 貴方に全てを捧げる乙女の愛を無駄にするのですか?」

 

「二つ聞いていないかい?」

 

「パース?」

 

「無駄にしません、無駄にしないけどさ、……ううっ、まさか意識するとキスして君の口を塞ぐのも恥ずかしいとか……聞いてないよ」

 

「ふふっ、パースにも可愛い所があるのですね」

 

 しょげる夫の姿に、ターシャは心の奥底でゾクゾクする何かを感じ取った。

 どうして彼は、何もかもが彼女の琴線に触れるのだろうか。

 まるで、神が彼女の為だけに作り出したような気さえしてくる。

 

(なら、――――わたしの言う言葉は決まっていますわ)

 

 初めに彼がターシャを選んだのだ、であるならば。

 

「わたしと、契約ではなく本当の結婚をしてくださいましパース。……貴方を、心の底から愛しています」

 

「――ターシャっ!?」

 

「お返事は?」

 

「勿論だよっ!! ああっ、なんて嬉しい日だっ!! 君から求婚してくれるなんてっ!! 生きていて良かった!! 僕は今、幸せの絶頂にあるよっ!!」

 

「ふふっ、気が早いですよ。まだ結婚式等がありますわ。――――それに、ほら、わたしはとても貴方にときめいているでしょう?」

 

 ターシャはパースの手を、己の胸に押しつけた。

 とくんとくん、甘い鼓動の高鳴りが彼の手に伝わる。

 

「ああ、ターシャ…………僕は君を愛している」

 

「わたしも、貴方を愛しているわパース」

 

 見つめ合う、優しく、甘く、熱く、体温が高まっていく。

 顔が近づいていく。

 

「…………ん」

 

「ん――――」

 

 二人はキスをした、とてもとても幸せなキスをした。

 これからは先、どんな事があっても二人ならば乗り越えられる。

 二人で幸せになれる、そう確信出来る幸福な口づけ。

 

「愛してるターシャ」

 

「愛してるわパース」

 

 愛する二人は、幸せそうに笑いあったのであった。

 

 

 

 

 

 ――――終。

 

 

 

 

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