王国では不吉だと言われた「闇」の祝福を持つわたしは、帝国で皇太子妃となり愛されてます   作:和鳳ハジメ

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第8話 諦めるだなんて、したくない

 

 

 敵襲であるならば、迂闊に動くわけにはいかない。

 馬車の窓のカーテンを開けず、隙間から顔を覗かせると。

 そこには辺り一面に漂う白い霧、そして倒れ伏す騎士達の姿が。

 

「分かっていると思いますが、パース」

 

「理解してるさ、外に出ちゃ駄目って言うんだろう。――うわっ、隙間から霧が入ってきたっ!?」

 

「ハンカチを貸しますから口元を覆ってくださいまし、……この霧は恐らく襲撃者の祝福。ニカ達が倒れた事からして普通の霧ではありません」

 

 その証拠に隙間から入ってきた霧は、まるで意志を持つ様に、誰かを探す様に動いて。

 

(探す様に? ――向こうはこちらが見えていない?)

 

「うわっ、霧が体に纏わりついて――す、凄く、眠い……っ!?」

 

「パースっ!?」

 

 倒れそうになった彼を、ターシャは慌てて支える。

 すると、パースは不思議そうに。

 

「…………あれ? 君に触れると眠くなくなったぞ?」

 

「成程、そういう事ですか」

 

「説明をお願い」

 

「簡単な事です、祝福の力は祝福で対抗出来るのですわ。だから」

 

「君の方が強い、だから君は無事で。僕は君に触れてる限り対抗できる、と」

 

 パースにとって幸運だったのは、やはりターシャの存在であった。

 確かに祝福は祝福にて対抗できる、それが常識だ。

 だが触れているだけで、同じように対抗できるなんて世界広しと言えどターシャの力が強すぎるからである。

 

「問題はどうやって敵を倒すか、です」

 

 この白い霧が、相手の祝福の力だと仮定して。

 どの程度の距離から発動しているか、他にどんな効果があるか。

 彼女が必死になって目を凝らすと、一点だけ不自然な所があり。

 

「――霧でかなり見えづらいですが、あそこの一番高い木の上を見てくださいパース。鳥がいます」

 

「何処? …………良く見つけたね、でも鳥? そんなの普通……じゃないね。――うんそうだ、他の鳥も地面に落ちてるのに、一羽だけ無事だんなて」

 

 その鳥は、霧の上の高さの枝から周囲を伺っている様に見えた。

 ――――地面に落ちた、同族を気にせずに。

 怪しいではなく、これは鳥を使役する祝福持ちが居ると確定した方がいい。

 

「これはもう一人居ます、眠らせ無力化する役、鳥を使って監視する役、なら――」

 

「何らかの手段で霧を無効化して、直接殺しにくる者がいるって?」

 

「最悪の場合、最良の場合は霧の祝福持ちが直接殺しにくる事ですわ」

 

 笑顔の仮面を付けたまま、ターシャは考え込んだ。

 敵の数は問題ではない、ただ殺すだけなら問題ではない。

 

(パースを守りながら、ニカ達を守りながら……それが出来るかしら?)

 

 一番簡単な対処は、今すぐ闇の巨大剣で周囲を薙払う事だ。

 運が良ければ、それで決着はつくし。

 そうでなくても、白い霧は風圧で消え敵の位置が判明するだろう。

 ――だが。

 

(もう一人が居て、それが遠距離攻撃が出来た場合)

 

 只の弓兵なら、数が多くても問題はない。

 だが祝福持ちなら、話は変わってくる。

 この力は千差万別、発動していない効果を判別するなど不可能に等しい。

 

(何か、何か手掛かりさえあれば――)

 

 その時だった、パースは窓の外を指さして。

 

「見てターシャ、あの鳥の動き何か変じゃないかな。――まるで何かを探してるみたいだ」

 

「っ!? つまり向こうはまだ、わたし達を発見していないっ!」

 

「うん、だからまだ猶予はある。――ターシャ、ちゃんと聞いてなかったけど君の力で何が出来る?」

 

「……私の闇は、広範囲に夜を広げ知覚の全てを塞ぐわ。でもわたしが範囲の中を知る事は出来ない」

 

「そしてその闇を、物質に出来ると」

 

「人間は簡単に死ぬわ、闇で包んで引き裂くなり、そのまま物質化して閉じこめてしまえば空気が無くなりやがて死ぬ」

 

「でもそれだとニカ達も巻き込んでしまう。――ありがとうターシャ、僕を、僕たちも気遣ってくれて。君一人だったら直ぐに解決できたのに、それをしなかったのは僕の為だって自惚れていいかな?」

 

 なにと馬鹿な事を、そう言いたかったが口を噤んだ。

 何故ならば、パースはとても厳しい瞳をしていたからだ。

 

「……何を考えてますの? いえ、何を思いついたのです?」

 

「僕が囮になろう、今この状況で僕を守りながら行動するのは悪手だ」

 

「貴男は……っ!」

 

「僕が死んでも、君が生き延びられるなら? それに誰かの、他ならない君の為に死ねるのなら悔いはないさ」

 

「わたしが後悔するのですっ!! 勝手に背負わせないでくださいましっ!!」

 

 強く睨みつけるターシャに、彼は笑いかける。

 そして彼女の奇麗な褐色の頬に、優しく手を添えて。

 

「良く聞いてターシャ。君も気付いているだろうが、この白い霧の主はこちらを察知出来ない。……だから監視役が居る」

 

「……霧の上に鳥はいましたわ、だから少なくとも鳥を操る者は霧の外か高い木の上に居る」

 

「もしかしたら、白い霧の主も同じ所に居るだろう」

 

「そして木の上にまでは、霧が届いてない」

 

「それが鳥を使っている理由であり、僕らを発見出来ないでいる理由でもあると思う」

 

「視界の通りが悪い、触れると眠る霧。監視役、居るかもしれないもう一人」

 

「忘れている要素があるよ、――君の力が敵に知られていない事さ」

 

 パースは続けた、これこそが唯一の策であると。

 

「僕と君は馬車から出て倒れる、霧で眠った様にみせかける。僕が上でうつ伏せで――」

 

「――――駄目ですっ!! どうして命を粗末にしようとするんですかっ!!」

 

「粗末になんかじゃないよ、君を信じてるから。こうすれば君が敵を倒せる確率が上がるだろう?」

 

 その言葉に、ターシャは苛立ちを隠せなかった。

 これはパースだけの問題ではない、彼が自身の死の事を隠していた様に。

 彼女もまた、伝えていないのだ。

 だからこれは、お互いの信用と信頼が足りないという訳で。

 

(――――嗚呼、そうなのね。わたしはまた、間違う所だったのね)

 

 ターシャを金で売った父であっても、最後まで道具としてしか見てくれなかった王子であっても。

 きっと、手を延ばし続けなければ、理解し、理解して貰う努力が必要で。

 ――――だから、踏み込む事に決めた。

 

「ターシャ? どうしたのターシャ?」

 

「…………良く、見ていてくださいましパース。貴男の妻になる人物がどれ程の者かを、本気で行きますわ」

 

「本気? でもさっき君は――」

 

「ええ、わたしの闇は相手を知覚出来ない、出来るのは闇を物質にする事、闇で全てを覆い隠す事。……でも、わたしならば」

 

「……分かった、良く見ているよ。僕に出来ることは?」

 

「私の隣に、絶対に離れないでくださいまし」

 

「了解、君を信じるよ」

 

 そして、二人は馬車から降りる。

 

(派手に、誰もが恐れる程に圧倒的な力を見せましょう。パースに簡単に手出しできないぐらいに)

 

 今までターシャは全力で戦った事は無かった、暗殺という任務は彼女の力にとって不向きだったからだ。

 

 

「我が神影をご覧あれ、――――『とばりの王』」

 

 

 次の瞬間、誰にも見せた事がなかった彼女の神影が現れる。

 彼女の影が膨らんで、白い霧の範囲を越えて闇が広がる。

 

「っ!? これが神影っ!?」

 

「まだ現れてすらいませんわ、ええ、驚かないでくださいましね」

 

「かなり吃驚してるんだけどっ!? 霧すら黒く染まってないっ!?」

 

 目を丸くするパース、彼は霧が染まったと言ったがそれは間違いだ。

 あまりの神影の大きさに、そう誤解しただけなのだ。

 次の瞬間、彼らはぐんぐん上昇し。

 

(上手くいった様ね、神影の顕現と同時に、地面に闇を染み込ませ敵諸共に霧の上へ運ぶ)

 

「地面が――違うこれは人? ~~~~っ!? こ、この巨人が君の神影っ!? こんな高さの巨人がっ!?」

 

 気づけば倒れていたニカ達ごと、大きな黒い騎士の手の上。

 大きいとは控えめな表現だ、それは木々よりも城よりも山よりも、噂に聞く南方の巨大霊峰よりもなお高く。

 

「雲が下に見えるっ!?」

 

「迂闊に落ちないでくださいましね」

 

「落ちたら死ぬし、こんな大きさじゃ滅多な事で落ちないよ!!」

 

「そうでしょうね、でも一応伝えておきますと。人はいきなり高過ぎる所へ行くと死ぬのです。今はわたしが調整しているので大丈夫ですが」

 

「それを何で知っているか――いやいい、何となく想像できるから」

 

「ふふっ、では殺しましょうかパースを狙う不届き者を」

 

 ターシャは歩き出す、向かう先は目と鼻の先。

 地上に居た時は、馬車近くの茂みのあった位置。

 そこには、もがき苦しんでいる男が居て。

 

(見ているかしら黒幕様? もっとも、見る事は出来なくともこの『とばりの王』は国中の何処からでも、きっと共和国からですら見えるのでしょうけど)

 

 これが彼女の本気、闇の神の祝福と呼ばれた力。

 世界の一日の半分が、彼女の力そのもの。

 そうだ、ある意味では王国に蔓延る教会の信仰は間違っていなかったのだ。

 世界を壊す悪魔の騎士の姿が、今ここに存在して。

 

「……どうやら僕が出逢ったのは運命の女性じゃなくて、運命の女神だった様だね」

 

「あら、怯えないのですか?」

 

「圧倒的な力の前に麻痺してるってのもあるけど、それより惚れ直したって感じかな? 僕が間違ってたよ、確かに命を粗末にしてた、それに君を信じてるとか言って何も分かっていなかった」

 

「謝るのはわたしですわ、また間違う所でした」

 

「それについて話し合いたい所だけど、まずはこの人を殺してしまおう。どうせ何も知らないだろうしね」

 

「ではひと思いに」

 

 そう言うと、襲撃者は串刺しになった。

 ここは文字通りターシャの掌の上、生殺与奪は彼女の権利だからだ。

 

「死体は捨ててしまいますか?」

 

「うーん、迷うけど……捨てちゃって」

 

「その様に、ではニカ達が起きるのを待って移動しましょう」

 

「もしかして、この『とばりの王』のまま?」

 

「ええ、示威行為にもなりましょう」

 

「確かに、じゃあ帝都の隣町までね。そこで父さん達に先触れを出しておきたいんだ」

 

 そうして、帝都への旅は終わろうとしていた。

 なお、彼女の神影の形を聞いていた元部下達は喜び。

 帝都は知らせが来るまで大混乱、王国は他人事だと気にも留めなかったという。

 

 

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