一人称の練習は短編とかでするわ。
「――世界を、救ってほしい」
頭大丈夫??
そんな言葉を少年はすんでのところで飲み込んだ。
完全に痛々しい言葉だったので、条件反射で少年の口からはそんな言葉が出るところだった。
実際、少年は平時であれば躊躇いもなく言っていた確信があった。しかし、現状を考えると全く意味不明な言葉というわけではない。
事実として、少年は先ほどまで世界の滅亡に巻き込まれていた。世界を救わなければならない状況なのは少年にもわかった。
だから、聞くべきはこう。
「何で、俺だ?」
そう、何故少年に対して頼むのか。
この状況から考えて、そもそも少年が助かったのはこの頼みをするためだと少年は考える。それ以外に助ける理由が少年には思い浮かばなかった。
しかしそうなると、何故自分に頼むのかが少年にはわからなかった。
少年は普通の人間だった。
少年は顔立ちが整っていたし、勉強、運動ともにそれなりにできる。
しかしそれはあくまで、普通の範疇だった。
頭がいいと言ったって、全国模試でトップを取るようなレベルではなく、自称進学校でトップ争いをする程度。
運動ができるというのもアスリートを目指してるわけではなく、学校の体育祭で活躍できる程度。
顔立ちが整っているというのは……スカウトされたこともあるため、かなりのレベルだった。残念ながら少年は興味なかったため断っていたが。
少年レベルの人間であれば、ゴロゴロと……までは言わないが、探せばいなくもなかった。そこに特別性はない。
少年はそれを自覚していたため、何故自分なのか、そこをはっきりさせたかった。
「それも含めて説明するよ。あまり時間がないから、簡単なものになるけどね」
そう言った青年は、部屋の中にあった椅子に座る。その所作は焦りが滲んでこそいたが、世界の滅亡に瀕していることを考えると落ち着いているともとれる、不思議なものだった。
「まず大前提として。世界は元々、滅んでいたようなものなんだ」
――そこから語られた内容は、少年にとっては驚くべきものだった。
世界のほとんどは炎に包まれ、白い化け物しか存在しない場所と化していたこと。
神樹様の力で四国だけは守られていたこと。
白い化け物の進行を抑えるため戦っていた勇者という存在のこと。
そしてその勇者が敗北し、四国を守っていた結界が破られたことで今の状況となったこと。
俄かには信じ難い話ばかりで……しかし直前までの記憶が、語られた内容が全て真実であると少年に告げていた。
「世界はもう、ここ以外燃えたと思っていい。だけど、世界を取り戻す当てはある」
そう言った青年は、自身の胸に手を当てる。
「その当ては、実働隊と補助……オペレーターがいる。オペレーターは大赦所属で、知識のある僕ともう一人しかできない」
そこで、と青年は言葉を区切る。それから少年を指差して言う。
「実働隊を君に頼みたいんだ」
青年が何を望んているのか、具体的な話はまだわからないが、求められている役割を少年は理解した。
同時に、目の前の青年ではその役目を果たせないこともわかった。
しかし何故少年なのか――そこは未だに説明はない。少年が目線で続きを促せば、青年は一つ頷いて言葉を発する。
「別に、君でなくともよかった。だけど、君しか選択肢はなかった」
どういう意味だ、少年はそう言葉を放とうとして……気づく。その矛盾しているような言葉を満たす条件に。
「僕たちが準備を終えた段階で既に――この世界には君しか残っていなかった」
世界が滅んだということは、そこに生きる人々も滅びたということ。
少年に世界を救ってもらうために助けたのではない。少年しか助けられなかったから、少年に世界を救ってもらうしかないのだ。
「……だけど、俺じゃなくてもあっちの子に頼むってのもあるだろ?」
少年が目線を未だに眠る少女に向ける。その姿は世界を救うというには頼りなく見えた。
しかし内容如何では、少年よりも向いている可能性はある。
「彼女は多分、向いていない。……君がいなければ、彼女は死んでいたんだろう?」
それは少年の方に声がかけられている、という段階でわかっていたことであった。
もし本当に少女に向いているのであれば、最初からそちらに声がかけられていただろう。
……青年の言いぐさから考えて、命の危険があるのだと少年は察した。
求められている資質は、命の危険がある場において抗う意思があるか否か。
「……無論、断ってくれても構わない。君が断ったとして、世界が滅びたとしてもそれは君のせいじゃない。僕らが勝手に君を選び、押し付けているだけなんだから」
青年は世界を救うなどという重責から逃げてもいいと、悪いのは自分たちであると言う。一見、それは〝逃げたとしても君は悪くない〟という優しさに見える。
だがそれは今逃げ道を提示する代わりに、後々逃げ道をなくす残酷さも持っていた。
〝世界を救うにはそれしかないのだからお前がやれ〟と言い切ってしまえば、やらされた人間次第では反抗心を抱きながら世界を救うことになるだろう。
そして世界を救おうとする中で心折れた時、〝俺は押し付けられただけなんだから〟と言い訳し、その役目から逃げることができる。
けれど最初に逃げるか、世界を救うかを選べば。選んだ本人に責任が生じる。
〝逃げずに世界を救うことを選んだのは自分なのだから〟という責任が生じ、追い込まれた時の逃げ道が失われる。
もちろん、責任を投げ捨てられる人間であればそんなものは関係ない。押し付けても選ばせても、追い詰められた時に逃げられる人間は逃げる。
だがもし責任感が強い人間であれば。その人間は追い込まれたとしても決して逃げることなく世界を救おうとするだろう。
それは世界救済という重すぎる責任から逃げてもいいという優しさと。
もし世界を背負う気があるのであれば絶対に最後までともに戦えという残酷さが同居した問いだった。
「いや、世界救済とかめんどいんでパスで」
そして少年は躊躇いもなく責任から逃げることを選んだ。
「世界の命運とか重い重い。一介の学生でしかない俺に背負えるものじゃねぇ」
「……そう、か」
青年が悲しげに笑う。断ってもいいと言ったのは青年だ。だから少年の決断を責めることは青年にはできなかった。
それでも、今まで守ってきたものが。三百年以上、多大な犠牲の代わりに守ってきたものが失われるというのが、青年には辛かった。
「あれ? 何か勘違いしてない?」
そんな青年を見た少年がニヤリと笑う。
「俺が嫌なのは責任を負うこと。世界を救わないなんて言ってないぜ」
「……え?」
「そりゃー、俺だって死にたくないし? 取り戻したい大切な日常だってある」
だから、と少年は胸を張り、堂々と、身勝手に宣言する。
「俺は俺のために、俺が愛してやまない日常を取り戻す。そのために必要なら、まぁついでに世界も救ってみせるさ」
世界や他の人々など知ったことではないと。自分の目的のために必要だからと、無責任に世界を救うと少年は言ってみせる。
青年が望んでいた答えではない。少年が無理だと、もう嫌だと諦めてしまえば世界が救われることはなくなる。
世界を救うのであれば覚悟を決めて欲しいという、青年の意向は欠片も反映されていない。
……それでも、青年は気づけば笑みを浮かべていた。
青年は知っていたからだ。お役目だからと、世界のためと戦っていた者もいた。
それでも、その根底には家族と、友達と、大切な人々と過ごす当たり前の日常を守りたいという意思があったことを。
世界なんて大きなものではなく、日常という小さな、けれどかけがえのないものを守るために戦ってきた勇者たちを知っていたからだ。
勇者に選ばれる人間とは、当たり前の日常を大切に想える人間であると青年は知っていた。
「さぁ、こんな自分勝手な人間に世界を任せられるか?」
少年が手を差し出す。それを青年は躊躇いなく握った。
「――任せるよ。君の日常のついでに、僕らの日常も取り戻してくれ」
「任されました!」
二人は固い握手を交わす。
青年は少年になら任せられると信じた。
少年はこんな自分を信じてくれる人がいるならば、世界を救う方も真面目にやっていいかなと思った。
「さ、時間はあまりないんだろ? 早速動こうぜ」
「……ああ、そうだね。ついてきてくれるかい?」
歩き出した青年を追って、少年も部屋を出る。
出た先は、なんてことのない普通の家の廊下だ。進行方向とは逆に玄関が見えるし、何か所か扉がある。
少年には世界最後の砦とは思えない、なんてことのない一軒家に見えた。
「さぁ、この部屋だ」
案内された部屋でも、少年の印象は変わらなかった。
いや、一般的な内装ではない。所狭しと並ぶ大仰な機械に、その隙間を縫うように存在する大量のコード。一般家庭には存在しない光景だ。
しかしそれが配置されている部屋自体は、普通の部屋だ。一般的な家の空き部屋に、無理やり機械を詰め込んだというのが少年にとって一番しっくりくる表現だった。
そんな部屋のパソコンらしき機械の前に眼鏡をかけた女性が一人座っていたため、少年は軽く会釈だけしておいた。
「君には今から平行世界へと行ってもらう」
「……平行世界?」
一瞬、少年は茶化そうかと思うも我慢する。
話が進まないのもあったが、化け物に襲われたり、世界を救うなんて話をしておいて今更そこに疑問を持つのも面倒だったからだ。
「今は世界を守っていた神樹様が折られてしまったことでこの状況になっている」
神樹様、というのは少年でも知っている存在だ。というか、この四国において知らない人間などいないだろう。
神樹様のおかげで世界は今日も平和である――それが本当に化け物から世界を守ってくれていたからなどとは少年は思いもしなかった。
しかしそれでもそうだった、と言われれば納得できるような教育を少年は受けてきていた。
「神樹様がいなければ世界は存続できない……つまり、神樹様を復活させる必要がある」
「復活……って言っても、それがなんで平行世界にって話に?」
少年は実際に平行世界に行けるのか、という疑問は置いておくことにした。
今そこに時間をかける意味はないと考えた。……のと、正直細かい話をされても理解できる自信がなかったからだ。
代わりに考えるのは、何故平行世界に行く必要があるのかだ。
平行世界とは可能性の世界であると、少年は認識している。
あの時あの選択をしていたら、そういった大小様々な選択によって分岐したありえたかもしれないifの世界。ただの学生でしかない少年の認識はそんなものだった。
故に、少年の頭の中で平行世界へ行くことが神樹様の復活へ繋がる理屈が見えない。
「凄い簡単に言ってしまえば神樹様は今、神樹様だけでは力を生み出すことすらできない状態なんだ」
「うーん……」
少年は腕を組み考える。
神樹様は一度折れたと聞いた。その上で今までのように四国を守るような力を生み出せない状態にある。
その二つを思い出し、少年は神樹様の状態を死にかけの人のようにイメージした。
身体が折れ、辛うじて生きてこそいるが動くことも敵わず、もうすぐ完全に死んでしまう。
そんな状態であるならばなるほど、確かに力を生み出すことすらできないというのが少年にも理解できた。
「だから別の場所から力を持ってくる必要がある」
「それが平行世界?」
「そう、平行世界の神樹様から力を分けて頂くんだ。その平行世界に影響を及ばさない程度、少量の力を少しずつ」
「……そしてその少量を積み重ねて、この世界の神樹様に再び四国を守れるだけの力を取り戻してもらう?」
少年の言葉に、青年が頷いて返す。
足りないのであれば他所から持ってくればいいというのは簡単な話だ。しかし神樹様の力がある他所など存在しない。
そこで平行世界という、他所の世界から持ってきてしまおうというのが今回の話だった。
「なんとなく、話はわかったけど。それで実際俺はどうしたらいいんだ?」
「そうだね、まずはこれを受け取って欲しい」
そう言った青年から少年に受け渡されたのは、携帯端末と――短剣だ。
武器を渡された事実に少年は一瞬驚くも、先ほどまでの状況を思い出し、不思議なことでもないと気づく。
神樹様の守りが消えた時、大量の化け物が出てきた。平行世界にもきっと、あの化け物どもは存在するのだろう。
平行世界、ありえたかもしれない可能性の世界であるならば、結界が弱く定期的に化け物が四国内に現れる世界もあるのかもしれない。
だとすれば戦う力は必須だ。少年は思わず短剣を強く握り締めた。
「まず端末の方について説明するよ」
青年の説明に、少年は耳を傾ける。
曰く、この端末は基本的に一般的な携帯端末、スマートフォンと変わらないらしい。
ただし特殊な機能が二つ。一つは物資格納機能。
平行世界がどのような場所かわからないため、食料やテントなどを格納するための機能だ。短剣に関してもこの機能でしまえるらしい。
少年は試しにその機能を使ってみると、短剣が粒子に解けて手元から消え、逆に出現させることもできた。
もう一つが平行世界間での通話機能。これによって平行世界においても青年たちと連絡が取れるようになっているそうだ。
一応、この機能を応用して神樹様の力の回収も行っているようだったが、詳しく話すと長くなるため割愛された。
「それからその短剣についてだけど、それは神樹様の力を注ぎながら作った特殊な短剣だ。バーテックスにも通じるはずだよ」
「バーテックス?」
「君が出会った化け物のことだね。僕らはあれをバーテックスと呼称している」
バーテックス、少年は小さくその名前を復唱する。
憎いわけではない。怖いとは思う。戦いたいとは思わない。
だけど、己の大切な日常を取り戻すために戦わなければいけない相手としてその名前を噛み締めた。
「……さて、そろそろ出発して欲しい。残りの説明は平行世界へ旅立ってからでもできるからね」
そう言って青年は少年を誘導する。しかし、誘導された先は何もない空間だ。
所狭しと機械やコードが存在するこの部屋の中で、唯一何もない空白。それは空白だからこそ、そこに何かあると示されていた。
「そこに君は立っているだけでいい。あとは僕らが調整する」
女性と並んで機械の前に座った青年を横目で見ながら、不思議なことになったものだと少年は内心呟いた。
世界が滅びたと思えば、その世界を見知らぬ青年に救えと言われるし、実は世界はとっくのとうに四国以外滅びていたなんて話まで出てくる。
挙句の果てには平行世界へ行ってくれ、である。少年からすれば現実感が薄い。
日常を取り戻すという覚悟も、そのついでに世界を救う気もある。けれどそれに現実感が伴うのかはまた別の話だ。
……というかそもそも、見知らぬ青年の話を信頼していいのかと少年は今更ながらに思う。
いや、少年自身疑ってもいたのだが、世界が滅びた後で少年一人を騙した利益が思いつかず、とりあえずここまで信じてきたのだった。
そしてそこまで考えてようやく、少年は青年の名前すら知らないことに気づく。
別にここまでは知らなくても困らなかった。けれどもしこれまでの話が本当で、共に世界を救うのであれば知らないというわけにはいかない。
少年が青年に名前を問う。それに青年はそう言えば忘れてたね、と苦笑しながら答えた。
「僕は
確かにこの状況では呑気に自己紹介している場合ではなかっただろう。
それでもあれだけ話していて自己紹介していないというのも変な話だと、少年もつられて苦笑した。
それから青年が名乗ったのだからと少年も自己紹介をする。
「俺は
青年――春信はその名乗りに少し驚いた様子を見せた後、納得したように笑みを浮かべた。
少年――友護は互いに自己紹介したからこれで友達、いやこの場合は仲間だな、と春信を信じることを決めていた。
「友護くん。君が向かう平行世界を指定する技術を僕らは持っていない。移動した先で何があるかもわからないし、移動直後は通信が安定しているとも限らない。できるだけ気を付けてくれ」
「ハッ、こちとら世界の滅びから女の子一人守ってんだ。生半可なことじゃ負けやしないさ」
友護は自信満々に言い切る。
恐怖はあった。一度世界の滅びを見たからこそ、明確な恐怖を友護は感じていた。
しかしその上で友護は大切な日常への想いで恐怖を踏み倒し、笑ってみせた。
「俺の日常を取り戻す、その第一歩。成功させて帰ってくるぜ」
グッと友護がサムズアップをしてみせる。
それに春信が同じく親指を立てて返してみせ、それから手元のキーボードを叩いた。
次の瞬間、友護は世界が歪むような今まで体験したことのない気持ち悪さを感じた。
同時、友護の視界に映るものが一瞬で切り替わり――
というわけでゆゆゆでキンハとかFGOする話。