World Rebirth   作:天澄

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ChapterⅠ.世界再誕の始まり
平行世界〝■■■■■■〟Ⅰ


 ――視界が切り替わる。

 

 平行世界へ移動した。事前の説明からそれを理解した友護は、周辺の様子を把握しようと辺りを見回す。

 

 ……赤い、炎に包まれた世界。一瞬平行世界に移動していないのではと疑うも、すぐに気づく。

 道や建物が、破壊こそされているがまだ存在している。

 友護が気絶したタイミングや、春信たちがいる家の窓から見た景色は全てが炎に飲み込まれ、何も残っていなかった。

 それに比べて今、友護がいる場所は炎に包まれてこそいるが、残骸は残っている。

 状況的には友護自身の世界に近いが、全く同じでは無い。

 

 なるほど、これが平行世界――納得した友護はしかし。直後視界に捉えた光景に余裕を失った。

 

「――ッ」

 

 即座に物陰へと身を滑り込ます。

 顔を少しだけ出し、様子を伺えば……白い化け物に気付かれた様子はない。友護は安堵の息を吐いた。

 

 バーテックス……だったか。友護は声に出さず、内心で化け物の名前を振り返る。

 友護はバーテックスについて、大した説明を受けていない。

 漠然とやつらは人類の敵であり、普通の人間では勝ち目がないと認識しているだけだ。

 ただ、やつらに感じる恐怖だけは明確だった。

 

 殺されかけた。殺される人々を見た。

 

 友護はバーテックスの脅威を正しく、あるいはいくらか過剰な程に認識していた。

 

『――友護くん!』

 

 だから友護は突然の通信に心底ビビった。

 

「ッ、――!!?」

 

 叫びだしそうになるのを両手を口元に当て抑え、慌ててバーテックスの様子を確認。

 気づかれていないことを確認すると、突如空中に投影されたディスプレイに映る春信を睨みながら、口元に人差し指を立てる。

 

『ん……ああ、大丈夫。この通信は君以外――というか端末を持っている人間以外には聞こえないよ』

 

 その事実に友護は一度、大きく息を吐きだしてから、やっぱり春信に睨むような視線を向けた。

 

「……そういうの、予め言っておいて欲しかったんだけど」

 

『ごめんね、時間がなかったから』

 

 渋い顔をして、溜息を吐く。そこで友護は一度思考にリセットをかけ、で、と言葉を吐き出した。

 

「ここからの方針は? 俺はそもそもここがどこかもわかんないんだが」

 

 ちら、と友護はバーテックスの方を見る。言外にあんなのがいる状況で探索しろとか言わないよな、と春信に伝えていた。

 

『待ってくれ。今周辺情報から割り出す……』

 

 通信にキーボードの打鍵音が響く。この通信は自分にしか聞こえないと理解してなお、友護はバーテックスにバレやしないかとびくびくしていた。

 

『基本的に、平行世界への移動は座標の指定ができないんだ。いくら神樹様の力と言っても、干渉しているのは別世界。力の及ばない範囲になる』

 

「神樹様も万能じゃない、って話だな」

 

『その通り。だから予め集めておいた僕らの世界の地形データと、君が今いる場所の地形データを照らし合わせて……よし、わかったぞ』

 

 春信が映っていた空間投影ディスプレイに地図が映し出される。

 その地図は友護が何度も見てきたもので、友護が住んでいた香川県の地図だ。

 ただ現在地だと思われる赤点は友護の行ったことのない土地を示していた。

 

「高松の方か……こっちの方は俺、全然知らないんだけど」

 

『そこは安心して欲しい。ナビゲートは僕らの方でするから』

 

「助かる。……まぁそもそも、この壊れた街並みじゃ、視界が開けてて迷うこともなさそうだけどな」

 

 そう友護が言うと、春信の眉間に皺が寄る。

 気に障ることでも言っただろうか。友護は自分の言動を振り返るが……思い当たることがなく、首を傾げた。

 

『ああ、その……壊れた街並みについて、少し引っかかることがあるんだ。とりあえず移動しながら話を聞いて欲しい』

 

 なるほど、自身の言動ではなくこの状況についてだったかと、友護は納得する。

 ただ同時に友護自身はこの街並みに対してさほど違和感を抱かなかったため、春信が何に対して引っかかったのか疑問を覚えた。

 

『とりあえず、西……観音寺市の方を目指してくれ。そこで僕らの世界との違いを確かめたい』

 

「あ? マジで言ってんの? 徒歩で行く距離じゃないだろ?」

 

『でも交通機関、生きてるように見えるかい?』

 

 見直さなくてもわかることだった。

 友護は頭を抱え、俯き、それから盛大な溜息を吐いてわかったよ、と力なく呟く。

 それからバーテックスの様子を伺って、静かに、バレないように移動を始めた。

 

『さて、さっきの話だけど。まず前提として友護くんも見た通り、世界が燃やされる時は完全に燃やされて、ここみたいに残骸が残ることはないんだ』

 

「それが平行世界としての違い、ってことじゃないのか?」

 

『それも可能性の一つだ。だけどこの状況、僕らの世界で観測されたことがあるんだ』

 

 ふぅん、と友護は生返事を返す。正直話題への興味は薄かった。

 ただ自分の命に関わる情報が出る可能性もある。話半分でも聞いておき、記憶はしておくべきだと友護は判断していた。

 

『西暦の時代。四国の結界の外はこんな状況だったらしい』

 

「つっても西暦の時代だろ? 三百年経ってんだ、あんまり参考にならないんじゃねぇの?」

 

 瓦礫を乗り越える。まともな道なんて残っていない。

 大半が建物の瓦礫で埋もれているか、道路自体が崩れている状態だ。

 友護はこんな道を数十キロ、しかもスニーカーで歩くのかと思うと眩暈がした。

 服も靴も支給されてはいない。正直、友護は耐久性の面で自分の格好はかなり不安だった。

 ……一応、端末内に格納されていないかと確認したが、残念ながら衣服関係は存在しなかった。友護は肩を落とす。

 

『いいや、参考にならないなんてことはないよ。平行世界と僕らの世界で時間の進行がズレてることがある』

 

「それって、こっちの世界で三時間過ごしても、そっちでは一時間だったりするみたいな?」

 

『そうそう。だからこっちの世界では三百年経っていたとしても、平行世界ではまだ西暦の可能性だってある』

 

 だとすればいつか西暦の世界へ行く、あるいはここがそうだという可能性もあるのかと、友護は状況も忘れて少しだけワクワクした。

 平行世界とはいえタイムスリップしているようなものだ。

 当たる宝くじを買う、正確に未来を充てる預言者になる。時を超えるという行為には夢があった。

 

 ……しかしすぐに道を塞ぐ瓦礫のせいで友護は現実へと引き戻される。

 もう少し夢を見させてくれよ、友護は内心呟きながら、瓦礫の重さを確かめる。

 避けるなら大回りが要求されそうだし、乗り越えるのは不安定そうで怖い。

 瓦礫を押し退け、何とか人一人が通れそうな道を作って、友護はそこを進んでいった。

 

「……あれ、じゃあこの通信はどうなってるんだ? 時間の流れがズレてたら通信できなくないか?」

 

『そこに関しては……どう説明したら分かりやすいかな。平行世界に移動するにあたって、世界を一時的に近づけているというか――』

 

「あ、めんどい感じならパスで。わかんなくても困んないし」

 

『えっ、あ、うぅん……そういう感じか……』

 

 実際のところ、友護は全く興味がないわけではなかった。平行世界の移動も、時間旅行同様夢がある。

 けれどそれについて脳のリソースを割いていられるいられるほど、友護に余裕があるわけではなかった。

 

 ――ただの一般人が死の危険がある世界に一人放り出されて平静でいられるか否か。

 

 答えは否だ。

 まだ一度も死にかけてはいなかったり、人が死ぬところを見ていなければ別だったかもしれない。

 物語の世界に入り込んだ気分で楽しむことすらできる人間もいるだろう。

 

 けれど友護は自分自身が襲われ、また人々が殺されていくところも見てしまった。

 死が身近にあることを理解してしまっている。春信からの通信に酷く驚いたのもそれが原因だ。

 

 だからと言ってその事実を恐れ、足を止めても待っているのは結局死であることも友護は理解していた。

 故に友護は会話において、少しふざけることで平静を保っていた。春信との会話がなければ、友護の精神に余裕はなかっただろう。

 

「悪路に加えて、バーテックスを避ける必要もある。一日で観音寺市の方まで行けると思うか?」

 

『途中で野宿をすることは考えておいた方がいい。そもそも、通常時でも徒歩じゃ半日近くはかかるような距離だから――』

 

 

 

 

 それから数時間。合間に幾度かの休憩を挟みつつ、そろそろ今晩休む場所を探すかと、進むことよりも周囲の探索を重視し始めた頃。

 

「……なぁ、さっきまであんなのなかったよな?」

 

 遠く、というほどでもない。三十分も歩けば辿り着けそうな距離に、友護はドーム状の光を見つける。

 ドーム状の光はかなり大きく、街一つ程度なら簡単に包んでしまえそうだ。

 しかしそれだけのサイズのものがここまで見えていなかったというのはおかしい。ここに来るまでで嫌でも視界に入るはずだった。

 

『どれのことだい? こちらでは何も観測できてないけど……』

 

「え、向こうの方に光のドームがあるだろ?」

 

『……ダメだな、こちらからは何も観測できない。友護くん、端末のカメラをその光のドームに向けてくれるかい?』

 

 基本的に春信たちは映像として友護の周辺を観測しているわけではない。周辺のデータを集め、それを元に映像として再構築しているのだ。

 そのため、データとして観測できないものは再現された映像に存在しない。

 そしてそういった場合のために、端末には直接映像データをやり取りできる機能が積まれていた。

 

 友護はそういった説明を受けながら光のドームへとカメラを向ける。

 目を焼くほどの強い光ではなく、どちらかと安心感を覚えるそれに、友護はさほど警戒はしていなかったが、春信たちはどう判断するのか。

 

『これは……結界? にしては僕らが観測できないのはおかしい……。隠蔽にかなり力を回しているのか? だとしたら何故……』

 

「……とりあえず、方針だけでもくれないか? 近づくとか、離れるとかだけでもさ」

 

『ん、ああ、そうだね。……多分、近づいていいはずだ。予想が正しいのならあの中に入っておきたい』

 

 春信の話を聞き、友護は移動を再開する。幸い、光のドームまでの道は比較的ひらけている。

 ここまでの道のりに比べれば簡単にたどりつけそうであった。

 

『あれは恐らく、僕らの世界で四国を守っていた結界と近いものだ』

 

「……ってことは、中には無事な世界があるのか?」

 

『ああ。座標的には……丸亀市の辺りだね。多分、中には丸亀市が残っているんだろう』

 

 丸亀市、というと城があるところか。友護は行ったことはないが、何度か見かけたことのある丸亀城のことを思い返す。

 

『ただ僕らが知っている結界は遠目からは見えないなんて性質は持ってないし、友護くんの距離で観測できないなんてことはないはずなんだ』

 

「ふーん……似てるだけで別物って可能性もあるわけ?」

 

『そうだね。あくまで見た目での判断でしかないから、その可能性もある』

 

 なるほど、友護はそう返事を返しながら、道中の瓦礫の位置を確認する。

 光のドームがバーテックス側の何かだった場合に備え、咄嗟に隠れられる場所を頭の中に叩き込んでおくためだ。

 実際、ここまでの道中もそうやって接敵しそうになったバーテックスをやり過ごしてきていた。

 

『まぁでも、バーテックス側の何かという可能性は低いと思うよ。多分、結界の範囲、隠蔽能力が違うのがこの平行世界――』

 

「――わり、ちょっと静かに」

 

 突然春信の言葉を遮った友護は予め確認しておいた瓦礫の裏へと滑りこむようにして移動する。

 

「一瞬、何か聞こえた気がする」

 

 友護は目を閉じ、耳を澄ます。浮いているだけのバーテックスはほとんど音がしない。

 この世界では炎の音と自身の足音、たまに積みあがった瓦礫が崩れる音ぐらいが友護が聞いた覚えのある音だった。

 だから、覚えのない音がすればかなり目立つ。

 

「……俺以外の足音? ペースが早い……走ってるのか?」

 

『方向は? 解析をかけてみる』

 

 友護の言葉を聞いた春信が、友護の指し示した方向に対して解析を行う。

 リソースに余裕がない都合上、春信たちは友護の周辺に常時解析をかけているわけではない。

 そのため今回のように友護の方が先に何かに気づく可能性はあり、それを理解していた友護も周辺に対しては常に気を張っていた。

 

『人が一人……バーテックスに追われているみたいだ。……だけど』

 

 春信が言葉に詰まる。怪訝に思い、音のした方向から視線を春信が映る空間投影ディスプレイに視線を向ける友護。

 春信は何かを言いかけては、やめることを数度繰り返していた。

 ……言いにくい何かがある。それを理解した友護だったが、状況的にあまりそれを待っている余裕はない。

 どう動くべきか、春信の言葉を待ちつつも友護が思考を回していると、画面に映り込んでくる影があった。

 

『逃げている人を囮に、結界内へ向かうことを推奨します』

 

 画面に映り込んだ影は冷たい声音で、非情な選択を告げてきた。

 確認すれば、機械の前に座っていた眼鏡をかけた女性が感情の読み取りづらい真顔で友護のことを見ていた。

 

「……理由は」

 

『あなたは私たちの世界を救える唯一の人材です。あなたが死ねば私たちの世界はその段階で終わり、リスクは減らすべきです』

 

 なるほど確かに、と友護は一つ頷く。女性の言っていることは友護にも理解できる話だった。

 友護が今背負っているものは世界だ。四国の全人類の命と、目の前の一人の命。その重さだけの話をするならば、比ぶべくもない。

 

 同時、友護は春信が逡巡していた理由も理解した。そしてそれを好ましいとも思った。

 そこで見捨てるのを躊躇えるのは善性の証だ。かと言って状況も理解せず、闇雲に助けようとするわけでもない。

 善性を捨てているわけではない。けれど感情だけで動いているわけではない。そういう人間を好む傾向が友護にはあった。

 

 だが指揮官としてはすぐに切り捨てる選択肢を提示できた女性の方が信頼できる。

 故に友護は自分の考えを提示する。

 

「俺は助けるのもありだと思ってる」

 

『何故?』

 

「あの結界内には街がある可能性が高いんだろ? だったら人を救ったって実績を用意して、信頼を稼いでおくべきだと思う」

 

 友護は言ってしまえばこの世界にとっての異邦人だ。それを自覚しているからこその提案。

 突然現れた謎の人物と、見知らぬ関係の人間を救った謎の人物。どちらの方を信頼したいかと言えば、後者だろう。

 結界内に留まるかどうかはさておき、中に入って活動するのであれば、それなりに動きやすい立場は確保しておきたかった。

 

 ……加えて。口にこそしないが、友護もまた救えるかもしれない人間を見捨てることをしたくなかった。

 友護は別にここで見捨てたところで後悔するような人間ではない。しかし、それでも後味の悪さを感じる人間ではあった。

 それ故の見捨てる選択肢と並べて選択の余地が生まれるような、この提案だ。

 そもそもここで即座に切り捨てられるような人間であれば、友護は世界が滅びた時に少女を助けたりなどしていなかった。

 

『……一理あるとは思います。リスクを考慮すれば見捨てるべきだと思いますが……』

 

『……そうだね。一考の余地はあると思う。友護くん、リスクを負うのは君だ。君が決断すべきだと思う』

 

 女性も春信の言葉を否定することはない。女性も友護が決断すべきだと考えていた。

 友護は一瞬考える。けれどそもそも、あんな提案をする段階で友護の意思がどちらに傾いているかなど明白で。

 選択を任せられれば、友護が選ぶ答えなど決まっていた。

 

「俺は――」

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