ps4、switch版が発売されたばかりですから皆様も懐と時間に余裕があれば買いましょう 買え(豹変)
幻想郷に住み始めての数日間、俺はとある問題に頭を悩ませ続けていた。
“悪夢”──それを毎夜毎夜見て魘される。
そういう問題を、俺はかつて抱えていた。
はっきりと言おう、悪夢を見る事、たったこれだけだったのなら別に大した事はなかったのだ。
そりゃあ見ている時はつらいし、早く終わってくれと切に望んでいた。
しかし、目が覚めたのならば、そこで体験した恐怖の記憶はその日のうちに、それこそ朝食の準備をしているうちにでも忘れてしまうものだ。
幻想郷で初めて一夜を明かしたあの晩に見た、人喰い少女──“宵闇の妖怪”と幻想郷縁起に記されていた──に襲われるという悪夢。
それも別に不自然な事ではない。
何故ならば人間の里に保護される前に、俺はあの真っ暗な森の中で命懸けの“鬼ごっこ”を繰り広げていたのだ。
その時に感じていた確かな恐怖。それがトラウマとなって悪夢という形で現れた。
そう説明がつくのである。
では、“
それの何が問題なのか。
簡単な事だ。
これは明らかに大問題だ。
悪夢の中で、一体何に、誰に襲われたのかは残念ながらはっきりと覚えてはいない。
ただ、必死になって逃げ回っていたことだけを俺は覚えている。
追いかけ回され追い詰められて、
そして、自分の体に痛みが走り、その部位を見て気づくのだ──そこが悪夢で被弾した場所とそっくり同じであるという事実に。
……まあ、それも最初の数日間だけのお話。
長期間これに悩まされ続けたのならば誰かに、それこそなんでも知っていそうなスキマ妖怪にでも相談するつもりであった。
しかし今ではもう、そんな事は全然発生しなくなっていた。
悪夢すらも見る事はなくなった。
きっと慣れない幻想郷ライフに疲れていたのだろう。
身体が傷んだのは偶々寝返りをした時にでも打ってしまったのだろう。むしろそこを強く打ちつけたからこそ、そこを撃たれる悪夢を見たのかもしれない。
そう無理矢理にでも考えて、その事象を自分の理解の範疇に留めようとする。
──俺の悪癖なのかもしれないな。
いずれにせよ、今の俺にはもう関係のない事だ。後ろ暗い物事に囚われていつまでも苦しんでいたって仕方がない。もっと前向きになっていこうではないか。
今日も今日とて今日が始まる。
いいお日柄なのだから、今日こそ博麗大結界を越えることが出来るんじゃないかなあ。
••••••
博麗神社に行く時は出立する前にまず、マイがま口財布が十分に膨れている事を確認しなければならない。
お賽銭代がないのは論外。
特に今回は御札の補充と大結界越えチャレンジの両方をお願いをするのだから、博麗霊夢のお眼鏡に叶う手土産の用意も欠かしてはならない。
……なんだか、妹紅、藍さん、橙ちゃん、そして霊夢と近ごろはやたらと貢ぎ物ばかりしているような気がする。
前者三名は、遠慮したりお返ししようとしてくれたりで渡し甲斐があるのだが、彼女の場合それらが全くないから微妙な気持ちになる。
遠慮なんてしないし、お返しは──まあ、御札と大結界越えの準備がそれなのだと言えるのかもしれないが。
これまでに何度もお土産を渡してきたのだが、いまだに何が最適な品なのか把握出来ていない。
お賽銭を投げてやると目に見えて喜ぶものの、その他の何を手渡してもそこそこ良さげな反応をするばかりで本当に欲しがっている物がイマイチ分からないのである。
お賽銭以外で何か欲しい物とかないの?
と聞いてみた事があるのだが、
『あー? うーん、特にないわね』
と、どうでも良さげに返事する始末。
少々無欲に過ぎる(賽銭以外)のではと思ったが、仮にも巫女という神聖な役職に就いているのだ。きっと自らの欲を節制しているに違いない──という考えも、博麗神社が何を祀っているのか分かってないという言葉を聞いた瞬間にどこかへ吹き飛んでしまっていた。
まあ、彼女の物臭な態度から察知するに只々マイペースに過ごせて、めんどくさい事柄と関わる事がなければそれで良いのだろう。
今にも『面倒ね』とこちらの要求を渋る姿が目に浮かぶようだ。
“異変”というものが発生すればその限りではないそうだが、生憎俺はそれを体験したことがない。
よって、博麗霊夢はかなりののんびり屋、それか重度の面倒臭がり屋であるという俺のイメージは覆る事はないのである。
二礼二拍手一礼、それが神社で用いられる拝礼作法だ。
その他にも細やかな作法をしなければならないかもしれないが、ここの巫女さんは気にも止めないだろう。
彼女が気にする事といえば、これをする前の賽銭投げくらいなものだ。
……背後から巫女からの熱視線を浴びながらお賽銭を投げるというのは、かなり珍しい体験ではなかろうか?
俺が参拝を終えると早速お賽銭箱にササッと近づく紅白の影。
それは躊躇いもなくお賽銭箱をガチャガチャとご開帳して、さっき投げた銭たち(賽銭としては破格の額)を取り出していい笑顔を浮かべていた。
神職の者として、結構酷い事してるのに気づいているのだろうか。
仮にも参拝客が目の前に居るというのに、この豪胆っぷりは賞賛すべきか呆れるべきか。
──こちらとしても少しでも生活費の足しにして欲しいと思って大目に投げているのだから、まあいいのか、これで。
博麗神社の巫女、博麗霊夢。
参拝客など俺一人くらいであろうに、彼女は今日も今日とて、俺の投げたお賽銭を手にして朗らかに笑うのだった。
「また? はあ、面倒ね」
正式名称『ありがた〜い博麗の御札』をそれこそ有り難〜く貰った後に、再び博麗大結界に『穴』を開けてくれないかと頼み込む。
概ね予想通りの返答であるが、その為に用意したお土産。面倒臭がるのを見事に予知してみせた俺のファインプレーである。
「そう言うと思ったからな。はいこれお土産ね」
“霧雨道具店”という人間の里でも割と大手な商店の老年のオーナーさんから、藤見屋の仕事の報酬として貰った高級な茶葉である。
あんまり緑茶の良し悪しを判断出来ない舌の持ち主である俺が、なんだか勿体ないなと開封に二の足を踏んで仕舞い込んでいたのを思い出し持ってきたものだ。
「──しょうがないわね、準備してあげる」
そう言って巫女さんは建物の奥へと消えていった、俺の手土産を大事そうに抱えたまま。
今までに見せた反応の中で一番上機嫌そうにも見える。
彼女は何かと縁側に座って急須で淹れたお茶を飲んでいる印象があった。
なのでそのお茶っ葉を貢ぎ物としてチョイスしたわけなのだが──その反応からして大当たりのようだ。
博麗神社の境内、入り口の鳥居を見上げて呼吸を整える。俺の後ろには巫女さんがいて見送ってくれる態勢だ。
薄いモヤのかかったその入り口に俺は再び入ろうとしている。
五回、だ。
これまで俺が博麗大結界の穴を潜り抜けようと試みた数。そしてこの数はそのまま失敗した回数でもある。
──多分今回も無理じゃないかしら、勘だけど。
──勘って何だよ、そんなの全く当てにならないぞ。
──私の勘はよく当たるのよ。
──なんだそりゃ。
大結界に穴を開ける前に何やら不穏な事を言ってきた彼女であるが、それでもこうして俺を見送ってくれる。
博麗の巫女としてのお勤めだからなのだろう。そういう真面目さは普段の生活態度の方に生かしてくれると自分としては嬉しいのだが。
「いってらっしゃい、藤宮さん」
「いってきます」
つい反射的にそう返事してしまったがおかしな話だ。俺が帰るべきは外の世界であるというのに。
気を取り直してモヤまで前進していく。
都合、これで六回目の挑戦。
──今回こそ、今回こそいけるのではないか。
そう切に願いながらそのモヤを突っ切ると、いつものように極彩色に染まった不思議空間に俺はいた。
いつぞやの博麗霊夢からの警告を思い出す。
『その鳥居に入ってからは、只々道を進み続けよ、決して引き返してはならない』
『その道を外れてはならない、振り返ってはならない』
自分の足元には向こうまで届く一筋の光の糸。これを辿れば外の世界へ行けるという話であった。
三回目の失敗の後に、むしゃくしゃした俺は霊夢を『警告を言い間違えているのではないか』と言って責めてしまった事がある。それか、こちらが認識する“道”とそちらの言う“道”とで何かしらの齟齬があるのではないかと。
彼女は平素と変わらぬ様子で訴えを聞き終えた後、それらの推測は的外れであると断定してきた。
何人もの外来人を外の世界に送り出してきたプロがそう主張するのだ。
ならば大結界を越えられないのは、やはり単純に『存在を“幻想側”に寄らせる』という課題を俺が十分に達成していないからなのだろう。
今回は、どうなのだろうか?
──ああ、今回もダメだったか。
「お帰りなさい、随分と早かったわね」
俺を見送る態勢のままそれを崩さずに出迎える巫女さんの姿がそこにはあった。
六度目の大結界越え、失敗である。
「言ったでしょ? 私の勘は良く当たるって」
彼女は得意げに胸を張り。
俺はガックリと肩を落とした。
博麗神社の縁側から上がって直ぐの居間で、早速開封された高級茶葉で淹れられた緑茶を二人でのんびりと楽しみながら、俺は霊夢に今回の結界越えチャレンジの感触を語っていた。
「段々と“境界”に引っ張られるまでの時間が短くなっているって事は、着実に外の世界に帰る下準備が整ってきている証拠だと俺は思うんだよね」
「へえ、なんだかそうとは思えないけどねぇ」
「要は、変化があるってことだからな。ずっと同じ場所で足踏みしてても仕方無いだろ? きっと良い兆候の筈だよ」
「ふーん、そう」
他人事だからか彼女からの反応は鈍いが、不思議と俺は『外の世界への帰還』に向けての前進を少しずつだが行えていると感じていた。
湯呑みを傾けてお茶を飲む。
あまり舌は肥えていないが、かつてここでよく出された出涸らしのうっすい緑茶よりも美味しい事は流石に分かる。
ちゃぶ台に置いてあるあの茶菓子は、前回俺がお土産として渡したちょっと良い物だ。
彼女も俺のお賽銭のお陰で生活水準が上向いているというのに、こういう時に一緒に祝ってくれないのは少し寂しいと思ってしまう。
まあ、今日はこうして俺が『外の世界への帰還』の達成に近づけていると確認出来ただけでも大収穫だ。
『ありがた〜い博麗の御札』も補充出来たことだし、今から人里に戻って依頼書の整理でもしておこうかな。
「じゃあ俺はそろそろ帰るよ」
「そ、次来る時もお賽銭を忘れないでね」
相変わらずの台詞に苦笑しながら、別れを告げて飛翔する。
気が付けば初めて飛んだ時よりもその速度は確実に上がっている。
それと眼下のある細長い階段を、苦労して登った時の事を思い出してなんだか懐かしい気持ちになった。
自分が幻想入りしてからそんなに時間は経過していない筈なのにそうなるのは、それだけ幻想郷の日常が刺激に溢れ、俺を退屈させてくれないからだろうか。
人間の里の方へ飛んでいく。
どんな日常が俺を待つのか期待に胸を膨らませながら。
••••••
魔法の森で新種のキノコを発見し、その分析と実験に夢中になっていたら、いつの間にやらかなりの日数を家に籠もって過ごしていた。
魔法の研究もひと段落ついた所であるし、気晴らしに博麗神社に遊びに行こう、私──“
霧雨魔法店から博麗神社までひとっ飛び。
境内にはつまらなそうに落ち葉を掃除している霊夢の姿があった。
「おーい霊夢ー、久しぶりに遊びに来てやったぜー!」
相変わらず辛気臭い顔だなと思いながら大声で呼びかける。
そして、彼女のすぐ近くに降下して跨っていた箒から降り、着地する。
「久しぶりね、魔理沙。素敵なお賽銭箱はそこよ」
「断る。こんな寂れた妖怪神社に賽銭を投げる奴なんて誰もいないだろ? アレが役割を果たした事が一度でもあるか正直言って疑問だぜ」
そんな、なんてことないいつも通りのやりとり。
だが、その後の霊夢の返事はいつも通りではなかった。
「ふっふっふ、それはどうかしらねえ」
「──んん?」
なんだ、その不敵な笑みは。
「ま、いいわ。丁度、良いとこの茶葉が手に入ったから魔理沙、あんたにも分けてあげる。ちょっと上がってきなさいよ」
そう言って霊夢は神社の中に私を招待してきた。
何だか前に見た時よりも、貧乏生活のせいであんまりよろしくなかった顔の血色が良くなっているように見受けられるし、何より
あり得ない、あり得なさ過ぎる!
間違いない。
これは、異変が発生している。
しかもなんという事だ、真っ先に“
こうなった以上、この異変はこの霧雨魔理沙の手で解決するしかない。
そうと決まればうかうかしていられない。
「……待ってろよ、霊夢。必ずお前の仇は取ってやるからなー!」
急いで箒に跨って、上空へと駆け昇る。
霊夢から攻略しにかかるなど、今回の黒幕は相当用意周到な奴らしい。
……だが抜かったな? 私が気付いたからにはもうお前の負けは決まったようなものなんだぜ。
まだ見ぬ異変の首謀者のほくそ笑んだ顔を幻視して睨みつける。
私の異変解決譚はここからだ‼︎
「魔理沙ー! ちょっとどこに行くつもりよ!」
仇を取るだのなんだと意味不明な事を急に叫んで彼女は何処かへとすっ飛んでいってしまった。
せっかく、一緒にお茶でもどうかと誘ってやったというのに。
──得体の知れないキノコの食べ過ぎで頭がイカれちゃったのかしら?
まあ、断るというのならしょうがない。藤宮さんから貰った茶菓子は私が全部食べてしまおう。
どうせまた彼がお土産を持ってきてくれるから勝手に補充されるんだし。
『彼の面倒を見てあげてね』
あの元外来人が初めてこの神社を訪ねて来た時、紫はこっそりとそんな事を言っていた。
また何かしら企んでいる悪い顔をしていたけど、そんなのはいつもの事。
私の勘が告げている。
このままスキマの思惑に乗っていても
……まあ、新しい小間使いが増えたとでも思っていましょうか。
なんて事を考えながら、少女は掃除を再開する。
面倒、面倒と呟きながらも境内の清掃に取り組むその姿勢を、あの元外来人が見たら感動するのかもしれない。
──内心では“
『幻想郷の日常』全部を七千字程度で抑えようと狸の皮算用をしていた作者がいるらしいですよ?
全然無理でした 分割投稿みたいな形になってしまったのは、その一からその四までを一ページでまとめようと目論んでいた⑨が私の脳裏にいたからです
皆様にちょっとだけ残念なお知らせ
投稿スピードを維持するのが時間的に厳しくなってきたので次回以降、投稿間隔が開いちゃうと思います 今までがおかしかったんや
感想、評価、誤字報告はいつでも確認出来るので遠慮なくやっちゃってください 作者の尻を叩いて次の話を急かすつもりでね 思いの外早く次を投稿するかもしれませんよ?(未来の私への無茶振り)