東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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 伝えていませんでしたが、この作品の時代考証はガバガバです そこら辺はかなり軽視しておりますので、どうかご了承のほど宜しくお願いします
 気にする人はいないでしょうが、一応ね?
 


なよ竹のかぐや姫

 

 

──突然、目の前に絶世の美少女が現れた。

 

 俺はその時、只々そのあまりの美しさに絶句して、彼女の面立ちをひたすらに網膜に焼き付ける事しか出来なかった。

 

 今は「こんにちは」とか「どうもお邪魔しています」とか、適当に何か場を繋ぐ為に喋って、それから気を取り直して案内してくれているウサギ耳の少女の元へと戻るべきだろう──そう頭の片隅では喧しく主張しながらも、しかし決して彼女から目を離すことが叶わない。完全な釘付けとなっていた。

 

 

 

 ストレートの艶やかな黒髪。袖の長い桃色の上着に、これまた丈の長い赤い生地のスカートという洋風の装い。所々、鈍い黄金色で竹、紅葉など和風の装飾が施されている。その立ち居振る舞いから、なんとなく品格や高貴さといった凡庸な世俗とは隔絶された何かを感じ取れた。

 

 そして、一際目立った類稀なるその美しい顔立ち。

 

 可愛いらしいとか、整ってるとか。(俺の異常な感性からすれば)容姿端麗な少女達とは、これまでそれなりの人数と知り合ってきたものだが……

 

 その中でも、彼女の見目麗しさは群を抜いている。

 

 

 

 恐らくは、彼女の顔の『黄金比』というものが完璧であるからなのかもしれない。

 外の世界だと、その法則に従った絵画や建築物の芸術性の高さは度々賞賛されていたし、その比率に近しいタレントの男性の顔をランキング形式で紹介するブログやテレビ番組などをかつて冷やかし半分で見たことがある。

 

 しかし。たったの一つだけ、その法則に従っていても万人が『美しい』と思わず、むしろ嫌悪感を催してしまうという不可解な現象を齎す存在があった。

 

──そう、女性の容姿に関するものだけ、その法則の例外なのだ。

 

 何故、黄金比に近ければ近いほど、人はその女性の顔に忌避感を覚えてしまうのか。疑問に思って研究した者の数は多いらしく、だがその原因を特定できた者の数は皆無であったそうだ。

 

 まあ、あんまり難解で複雑そうな論文や学術誌を進んで読もうとは思わない性分の持ち主なので、詳しいメカニズムや理屈なんて正直どうでもよかった。

 

 “醜悪”である筈の容姿を目前にして快く思ってしまう、己が狂った美的センス。

 何が原因なのか。何がきっかけなのか。何も分からないまま持たされ続けたその異常性に、なるべく正常でありたい自分はどのようにして向き合っていくべきなのか。

 ある意味では、『外の世界への帰還』よりも重大な事柄であると言える。

 その答えの得ること能えば、多少なりとも俺の抱えるこの慢性的な気詰まりは解消されるだろうか。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 『かぐや姫』或いは『竹取物語』という有名な昔話を、生涯で一度も聞いた事がない──そんな日本人は殆ど存在しないと言っても過言ではないだろう。

 

 

 

……昔々、とある心優しい老夫婦が、光る竹の中から出てきた女の子を“かぐや姫”と名付けてとても大切に育てていた。

 やがては、かぐや姫の美貌が巷で噂となって、遂には五人もの貴族達から求婚されるようになる。

 彼らにそれぞれ一つずつ難題を与え、それを成し遂げた者と結ばれましょうと告げるかぐや姫。けれど、結局難題を達成した者は現れなかった。

 

 時の帝はその話に大変興味を持ち、かぐや姫に『私に仕えないか』と申し込むが断られてしまう。

 何故拒むのかその理由を問うたところ、実はかぐや姫は月からやって来た人間であり、さらには次の満月には月より使者が降り立って、かぐや姫を連れて去ってしまうのだという。

 満月の夜、帝は兵士をかぐや姫の元へ送って、月からの使者を撃退しようと試みた。しかしそれは使者たちの放つ摩訶不思議な力によって失敗に終わる。

 

 帝に向けて文と不老不死の薬を置き、月へと帰ってしまったかぐや姫。

 

 かぐや姫が居ないのに不死となっても仕方がない。そう嘆いた時の帝は、配下の者に不老不死の薬を処分を命じる。

 勅命を受けたその者は、都から遠く離れたとある山の頂にて、薬を焼いて処分した。

 

 その事から、“不治(ふじ)の山”として知られるようになったその山は、後世には転じて『富士山』と呼ばれるようになりましたとさ。

 

 

……大体、そんなストーリーだった筈だ。多分。

 

 

 もっとこう、かぐや姫と老夫婦との心温まる交流だとか、難題を乗り越えようと奮戦する五人の貴族の勇姿とか、もっと掘り下げるべき所があると思うのだが、いかんせんのんびりとそれらを思い出す余裕が今の俺にはない。

 そう、余裕がまったく無いのである。

 

 

 

 

 

 和室から出てきたその少女は、こちらと暫く見つめ合った後、俺を手招いてまた部屋へと戻ってしまっていた。

 

──彼女は一体何者なのだろう?

 

 いや、恐らくはここ永遠亭の住人ではあるのだろうが……なに? これは招かれるままについて行った方がいいの?

 

 判断がつかなかった。取り敢えず、因幡てゐに指示を仰ごうかと廊下の先を見たのだが、先行していた筈のウサギ耳の少女はいつの間にか跡形もなく消えてしまっている。案内役を自ら買って出たというのに、どうなっているのやら。

 

 目的である薬師さんの居場所を俺が知っているはずもなく、仕方なしにあの美少女の元へと歩いていく。

 

 半ば困惑しながらも。

 未だに強く、あの端正な顔立ちが目に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 永遠亭の薄暗い一室に、眩く輝いているように見える程の美貌を持つ女の子と二人っきり。

 

 かなりの切迫した緊張感が俺を絶え間なく襲っている。なんだか胃がヒリヒリしてきたかも。

 

「退屈していたところなの。少しだけお喋りに付き合ってもらえるかしら?」

 

「は、はい。よ、喜んで」

 

「──そう、嬉しいわねえ」

 

 何故か、喜色満面といったご様子だった。そうして突如始まる、初めましてな美少女との差し向かってのお喋り会。

 

「貴方のお名前は?」

 

「ええと、藤宮慎人です」

 

「どうして永遠亭まで……」

 

 一見して、和やかに会話が進行しているように錯覚してしまいそうなる。が、当然和やかでいるのは目の前の大和撫子然とした少女だけだ。

 

 こちらは内心ただ事ではない。

 

 その美しさのあまり舞い上がってしまいそうな自分を抑えるのに必死で、彼女の問いかけに対して気の利かない率直な答えを出す事しか出来ていない。

 精一杯脳をフル回転させて、自分からも何回か話題を提供したりするのだが、鈴を転がすような声につい聞き惚けてしまう。

 

 そのせいで最初の方など、質問に答えてくれたのに、その返答をまるで覚えていないという痴態を晒してしまった。

 それを見て心底楽しそうな笑みを浮かべる少女の可憐さに引き込まれそうになるのを堪えて、会話を何とか繋いでいく。

 

 

 

 気付けば名前だけでなく、元外来人という経歴やら、人間の里で便利屋モドキをやっていてその仕事の一環でここまでやって来たという事やらを、あっという間に白状してしまっていた。

 

 

 

 ただその人の上品な笑みを見ているだけなのに、これほどゾクリと震えるような歓喜が押し寄せてくるとは恐ろしい。

 挙動不審にならないように気をしっかりと保たせるだけで限界である。

 

 しかも話を聞くに、“蓬莱山(ほうらいさん) 輝夜(かぐや)”という少女は何と、竹取物語に登場する『かぐや姫』その人なのだという。

 

──もう訳がわからないよ。

 

 眼前の少女の綺麗な容貌にクラクラするし、なんだか滅茶苦茶いい香りがしているしで、さっきから俺の脳みそはオーバーヒート寸前だ。

 

 そもそも何でこの人は俺を招いたの? 初対面だよね? 何でそんなに好奇心に満ちた目でこっちを見てくるの?

 ぐるぐると、疑問が頭の中で湧き上がって渦巻いていく。

 

 

 

 

 

「──そう、貴方は永琳の薬を目当てにわざわざここまで足を運んだと。ご苦労な事ね」

 

「ええ、まあ。それで因幡てゐという方に案内してもらってたんだけど、いつの間にか居なくなってたんですよね」

 

「彼女が案内役を? 珍しい事もあったものね」

 

 ただ、俺も延々と慌てふためくだけという訳ではない。

 人は順応する事が出来る生き物なのだ。加えて、これまでに美人さんと多く知り合ってきたというアドバンテージが自分にはある。

 

 何とか(ども)ることなく、彼女の目を直視しながらの対話に成功するようになっていた。

 女の子の前で情けない姿を晒したくないという、男としてのなけなしのプライドが刺激されたからなのかもしれない。

 

 敬語が時折抜けてしまうのは、最早どうしようもない。

 

 「別に無理に敬わなくても良いのよ?」とは言ってもらえているのだが、初対面の人に馴れ馴れしく話しかけるというのは個人的に厳しいものがあったので、今の感じに落ち着いた。

 

 聞くところによると、彼女がこのお屋敷の主らしい。であればなおさら敬語を使った方が望ましいと思うのだが、彼女からするとそうでもないらしい。

 

 そういった丁寧な言葉遣いはあまり達者ではないと自覚しているので、そこら辺の懐の広さは有り難かった。見るからに貴人の雰囲気を身に纏っているので、他にも失礼を働いていないか心配にもなりはしたが取り越し苦労であった。

 

 

 

 

 

 蓬莱山さんのその美貌を見ていると、噂されていた悪評にも合点がいく。

 

 『永遠亭に巣食う化け物』

 

 成程。確かにそれは、彼女の事に違いない。

 危うく俺がその美貌にノックアウトされそうになったように、他の人が彼女の顔立ちを見てしまえばきっと卒倒してしまうだろう。「酷いものを見てしまった」という理由で。

 

 自分にとっての“絶世の美女”は、そのまま世間にとっての“絶世の醜女”を意味するということだ。

 

 

 

 

 

 引き続き彼女と言葉を交わしていると、取り分け興味をそそられる話題があった。それは、

 

「確か、『月の都』でしたっけ? 昔話とは違って、実際には蓬莱山さんは元の場所には戻らず地球に残ったって話でしたけど」

 

「ええ。一度は追放された身だし、どうせ戻っても監禁生活になるだけだろうからそのまま地上に留まってもいいかなーって思って」

 

「追放って。一体何があったんですか? ──質問してはいけない事だったら申し訳ありませんが」

 

 月の都。それは月面の裏側に存在する未来都市? のことのようだ。SFじみた高度なテクノロジーを持っているらしい。

 そこに住まう『月の民』は、地上のことを“穢れている”と見做して非常に毛嫌いしているのだとか。

 なんでも、“生きること”と“死ぬこと”がセットになっているのが嫌なんだってさ。

 

……ちょっと自分でも何言ってんのか分からない。理解の仕方これでホントに合ってる?

 生きとし生けるもの全部アウトじゃん。無機物しか愛せないじゃん。それでいいのか月の民よ。

 

 ともかくそんな月の都から追放されて、穢れた地上に流刑となった蓬莱山さんは、竹取物語と大体同じような流れで地上を穏やかに暮らしていたのだという。

 

 最大の違いは、月の使者が地上に降り立ったときの事。

 どうやら月の使者の中に一人裏切り者がいて、その者の手を借りて上手いこと行方をくらませたらしい。

 

 その後紆余曲折を経て、幻想郷に来たのだとか。

 

 では、そもそもどうして月の都から追放されてしまったのか。

 その原因を聞いているのではあるが、口に出してからすぐに後悔する。故郷からの追放。無闇に触れられて気持ちのいい話題でもなかろうに。

 

 しかし、彼女はさして気分を害された様子もなく、さっくりと俺の問いかけに答えてくれた。

 

 

 

 

 

「『蓬莱の薬』──それを摂り不老不死の身となったという罪で、私は地上へと追放されたのよ。一丁前に死を厭うくせに不死の薬はダメだなんて、ひどく矛盾しているようだけどね」

 

 

 

 

 

 帝に向けて文と不老不死の薬を置き、月へと帰ってしまったかぐや姫。

 

 かぐや姫が居ないのに不死となっても仕方がない。そう嘆いた時の帝は、配下の者に不老不死の薬を処分を命じる。

 勅命を受けたその者は、都から遠く離れたとある山の頂にて、薬を焼いて処分した。

 

 その事から、“不治(ふじ)の山”として知られるようになったその山は、後世には転じて『富士山』と呼ばれるようになりましたとさ。

 

 

 

 

 

 不老不死の薬──曰く『蓬莱の薬』というらしいが、それは昔話に出てくる、かぐや姫が帝に送ったという薬と同一の物なのだろうか?

 

 気になって聞いてみると、肯定の言葉が返ってきた。

 

「ま、あの薬は処分されたとか後世に伝わってるらしいけど、何か手違いでもあったのか実際は別の子の手に渡ってしまったのよね。

──そういう経緯もあって、なんとこの幻想郷には三人も居るのよね、『蓬莱人』が」

 

……そんな思わせぶりな言い方をされたら、誰が不老不死の身体を持っているのか、誰だって知りたくなってしまうだろう。

 愚直に「その内訳は?」と質問してみると、

 

 やっぱり気になる? と少女は可憐に微笑んだ。

 

「まずは私でしょ? 二人目は薬師の“八意(やごころ) 永琳(えいりん)”。最後の三人目は迷いの竹林の隅っこの、ボロい掘建て小屋に住む、藤原妹紅っていう奴よ」

 

「──え? 妹紅が!?」

 

 

 予想外すぎる名前が出てきて仰天した。

 

 妹紅が、不老不死。

 

 あまりの衝撃に声を張り上げかけ──いや、妖怪なんかが平然と(たむろ)している幻想郷において、別に不老不死だからといって特におかしな事は無いのかもしれないが……

 

 彼女の口から、自らが不老不死であるといったような主旨の発言を聞いた覚えがない。意図的に伏せていた、という事だろうか。

 

 どうして妹紅はその事実を俺に教えてくれなかったのだろうか。

 その体質について思うところがあったとか?

 

──というよりも、無意識のうちに彼女についてまるで全てを知っていたような気持ちになっていた、自分の傲慢さに驚いた。

 

 誰にだって、他人に明かしたくない過去や秘密を一つや二つ、抱えているものだ。

 それこそ、俺の美醜感覚逆転や、「なるべく秘匿せよ」とスキマ妖怪から忠告を受けた“常識に囚われる程度の能力”のように。

 

 己の抱える秘密を打ち明けないままに、一方的に人の秘密を知ろうだなどと、少々驕りが過ぎている。少しだけ、自分を戒めた。

 

 

 

 

 

 蓬莱山さんは、驚いた様子の俺を見て意外そうにしている。

 

「その様子だと、知り合いみたいね」

 

「ええ、まあ。妹紅とは、なんというか……好きで世話を焼きに行ったり、よく一緒に飲みに行ったりする仲でして」

 

 それを聞いて、彼女は何やら考え込むような仕草をした。そんな何気ない仕草でも、絵になるなぁとつい呑気に思ってしまうのは、男としての悲しい(さが)なのだろう。

 

「もしかして、アイツが最近なかなか決闘しに来てくれなかった理由って──」

 

「あの妹紅に友達? それも異性の? まさか先を越されるとは──」

 

……何やらぶつぶつと独り言を呟いて、自分の思考をどうにかまとめているようだ。

 

 先程までの深窓の令嬢といった雰囲気は鳴りを潜め、鬼気迫る表情で思案するものだから、何か不味いことを言ってしまったのではないかと心配になる。

 

 なんか『決闘』とかいうかぐや姫に全く似つかわしくない単語が漏れ出ていたのは気のせいだろうか。

 いや、明瞭に聞こえたのだから決して気のせいではあるまい。

 

「今思えば、今朝アイツを打ち負かしたというのに、『全然悔しくない』と言いたげな余裕綽々だったあの表情。まさか内心、独り身で勝ち誇る私のことを滑稽に思ってたんじゃ……」

 

「あのー。蓬莱山、さん?」

 

 不穏な空気を感じ取ったのでストップをかける。顰める事を知らない筈の少女の眉間に、少しだけ皺が寄っていた。

 穏やかな雰囲気が一転した事もあり、その落差に俺は少々恐怖心を感じている。ワナワナと震え出したりなんかして、急にどうした。

 

 彼女の方も自身のよろしくない変化に気付いたらしく、閉眼してふうと深呼吸をする。

 そうして目を見開くと、真剣な眼差しでこちらを見据えてきた。

 

 

 

「──輝夜よ」

 

 

 

「はい?」

 

「今から、私のことは輝夜と呼びなさい。呼び捨てでね」

 

 一瞬何を言われているのか理解が遅れた。しかしゴゴゴ、と背景に浮かんできそうな程の剣幕に圧され、コクコクと首を縦に振る。

 

「わ、分かりました。輝夜──さん」

 

「……呼び捨てで構わないと言ったのが聞こえなかったのかしら? それと、その敬語も止めなさい。」

 

 にっこり笑って訂正を求めてくる黒髪美少女。

 

 いや、スゲー怖いなあ!

 

 全然怒ってないですよ、という表情が余計に怖い。これが漫画やアニメだったら、赤い()()()が四つ頭に付いていただろう。それくらいの絶大な圧を肌で感じた。

 

「りょ、了解。輝夜」

 

「そう、その意気よ。私の友人となるのだから、そのくらい出来て当然よね」

 

「……んん? 友人? ナンデ?」

 

「貴方、妹紅とお友達なのでしょう。なら、私ともお友達にならないと不公平だとは思わない? それにアイツに出来て私は無理でしたなんて話、当然あってはならないというのは判るわよね?」

 

「???」

 

 理路整然とした口調で話すものだから、一瞬理解出来ない俺が悪いのかと思ってしまった。

 

 いや、再び冷静になって考え直してみても、どういうロジックで話しているのかさっぱり分からない。

 

 が、悲しき哉。一度こういう流れに乗ると下手に逆らっては絶対に碌な目に合わないんだよなぁ──と経験と本能が囁いている。

 

 彼女の言うことに、唯々諾々(いいだくだく)と従う事にした。

 

「アッハイ、そうですね」

 

「うん? 何か不満げね。ほら、もう私たちは友達なのだから、遠慮せずその思いの丈を打ち明けてみなさいよ」

 

 『もう友達』という言葉を聞いた時点で、自然と乾いた笑いが込み上げていた。彼女の中では、既にそういう事になっているらしい。……いやなんで?

 

「不満だなんてそんなそんな、新しく友人ができて嬉しいくらいですよ。わー、うれしいなあ」

 

「ふふ、そうよねー。私もそう思うわ。これはもう親友と言い表しても良いのではないかしら? 少なくとも、妹紅よりは断然上ね。妹紅よりは」

 

 ええ、この人、なんか距離感がおかしいよ……

 

 まるで新しいオモチャを手に入れて、はっちゃけている子供のような印象を受けた。

 それか、今の今まで友達づくりが成功したことのない人みたいな反応っぷりだ。

 

 

 

 

 

 どうして妹紅と張り合っているのかという疑問は、今日妹紅の服装がぼろぼろになっていた事や、彼女の口から飛び出した『決闘』という言葉から、なんとなく察することが出来た。

 

 何が原因で二人の間にいざこざが起こっているのかは、よく分からない。帝に送った筈の蓬莱の薬を何故か妹紅が手に入れているらしいから、その辺が何かしら深く関係しているのかもしれない。

 

 しかしながら、野良妖怪なら一撃で屠る妹紅と決闘出来るとは。

 

 目の前のお姫様も箸より重い物を持ったことがありませんという顔をしておいて、案外武闘派だったりする可能性があるのかも。

 少なくとも、竹取物語の奈良時代には既に存命していたのだから、年齢は凄いことになっているのは間違いない。

 

……となると、妹紅もそれくらいの年齢という事になるのか?

 

 ちょっと女性の年齢について勘繰るのに恐ろしさを感じたので、蓬莱山さ──輝夜との会話に集中することにする。

 

 

 

 

 

「人里で月の展覧会を開きましょうって永琳に頼んでも、『姫様はその様子を見に行ったら駄目』って言うのよ。酷いと思わない? 私の退屈しのぎの為の提案なのに、それだと何も意義がないわ」

 

「まあ、確かにひどい話なのかもしれないな? ずっと家の中ってのは段々気が滅入ってくるからなー」

 

「でしょう? お忍びで人間の里に行こうとしても、鈴仙やてゐに全力で止められちゃってね。だから憂さ晴らしといったら妹紅との決闘ぐらいしか私にはなかったのよ。なのに最近の妹紅といったら……」

 

 

 

 

 

 最初は、輝夜の事を絶世の美少女であると表現したが、それ自体は何も間違っていない。

 

 ただ、妹紅と同じく、ある種の残念感を感じ取った事をここに独白しておく。

 きっと、彼女と妹紅は何処か似ているなぁなんて言ったら、物凄い表情で睨まれるに相違ない。

 

 怒らせた女性ほど手に負えない者は存在しない。

 

 ただひとまずは、絶世の美少女と二人きりで楽しくお喋り出来るという奇跡を噛み締めながら、神様や仏様に感謝するべきなのだろう。

 

 友人として扱ってくれるのは、もしかすると破格の対応なのかもしれないし。

 ありがたやーありがたやー。

 

 

 

 

 

 永遠亭には仕事をしにやって来たというのに、彼女との会話は非常に切り上げ難い。

 

 因幡てゐが再びこの場所に戻ってくるまで、二人で話に花を咲かせる。

 

 彼女との関わりは、きっと依頼の報酬よりもずっと得難いものなのだろう。

 

 そんな確信が、輝夜の笑顔を見ていて芽生えていた。

 

 




 
 感想、評価、誤字報告 誠に有難う御座います

 その誤字についてなんですが、多分もう誤字脱字しないのは無理なのかなーって諦めの境地に達してきました 憎っくきコイツらとは共生の道を歩むしかなさそうです
 人には多少の字の表記揺れを見ても勝手に脳内で修正してくれる機能があるという話を身にしみて実感する今日この頃
 
 今後このようなケアレスミスを見ても『ハハハ、こやつめ』と寛大な心で許しておくれ(なるべく訂正はしたいので報告の方もお願いします)

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