東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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 “瀟洒”とかいう東方知らなければ絶対に読めなかったであろう熟語
 


悪魔の館へ赴く前に

 

 

 紅魔館。

 

 それは、かつて幻想郷で引き起こされた“紅霧異変”、その首謀者であった吸血鬼が主を務めているという洋館の名称である。霧の湖の畔に位置しており、外観はその名に違わず真っ赤に染まっている。

 その危険度は無縁塚、太陽の畑、妖怪の山などと並んで極めて高く、只人がその館を訪ねるのはほぼほぼ自殺行為である、らしい。

 

 一旦、その文章から目を離して軽く目頭を揉む。

 

 常日頃から理解していた事ではあるのだが、改めて俯瞰してみると幻想郷には本当に人間の里くらいしか、人にとっての安全な場所がないのだと再度気付かされる。

 

 幻想郷、危険スポット多すぎじゃね?

 

 博麗大結界は忘れ去られた妖怪や神を保護する側面を持つ──なんて藍さんから教わっているが、それにしても人外贔屓が過ぎるような気がする。人里以外にも人間が大手を振って活動できるような場を、一つや二つ増やしてもバチは当たらないだろうに。

 

 誰に向かってでもなくそう愚痴る。

 

 

 

 

 

 あのメイドさんから紅魔館への招待状を口頭という形で貰った後、俺は一旦長屋の自室まで戻っていた。そこで本棚から幻想郷縁起を取り出して、その館についての情報を収集すること暫し。

 

 得られた目ぼしい知識はそれに加え、館に住む妖怪の名称と“吸血鬼は日光、流水、ニンニク、鰯の頭などが弱点”ということくらいであった。

 簡潔な情報しか記されていないとはいえ、この本の存在の有り難さを実感する。吸血鬼の弱点等が、自分の持っているオカルト知識と大して相違ないことが確認できたからだ。

 

 人間の里にある色んな書店に置いてあったこの本は、とある名家の厚意によって無償で寄贈されたものであるらしい。

 人里に住み始めた折、幻想郷の理解に役立つと踏んで貰っておいたのだが、実際にその読み通り今こうして結構頼りになっている。

 これが簡易版であるというのだから、本物の幻想郷縁起はもっと物事が仔細に記述されているのだろう。いつかは目を通してみたいものだ。

 

……といっても残念ながらその名家に秘蔵されているであろう真の幻想郷縁起、それをぽっと出の元外来人が読むことができる可能性は非常に低いと思われるのが口惜しい所である。

 

 この本の他には、人里で紅魔館についてどう思っているのかを聞いて回って探ってみたりもしていた。

 結果としては案の定と言うべきなのか、快く思っている人は皆無であった。『赤い霧が出たときは大騒ぎだった』とか、『何をしているのか分からなくて不気味』だとか、それらを語る人々の表情もまた散々である。

 

 にしても悪く言われている割には『吸血鬼に襲われた』『メイドに恐喝された』などの、直接的な被害を受けたという話はとんと聞かなかった事が気がかりであったのだが、そもそもの話、人間の里から外に出ようと考える人が圧倒的少数派なのだからそれも当然かと思い直す。

 

 

 

 現在、このようにして紅魔館の情報を得ようと腐心しているのは、ひとえに自分の身を守る為だ。

 

 “危険度極高、人間友好度極低”と備考に載っているのを確認して、いよいよ有効な自衛手段を考えねばならないと気を引き締める。

 しかも紅魔館には、そんな危険極まりない吸血鬼が二人もいるというのだから尚更だった。

 

 そんな危ない場所に行く必要性が本当にあるのか、疑問を感じなかった訳では無い。しかしメイドさんに顔を見られてしまっている以上、どうしようもない事だった。『招いたのにどうして来なかったのかしら』と先程のようにナイフを突きつけられ脅迫される未来が容易に想像できた。

 

 なんだかそのやり方に相当手慣れていたように見受けられた。“表立って反抗するような態度を見せない方が吉”と本能が囁いている。

 

 そうやって彼女を恐れる一方で、その正体に興味を惹かれてしまっている自分がいるのを自覚する。

 

 彼女は一体何者なのだろうか?

 

 特に妖力等を感じ取れなかった為、種族的には俺と同じく人間ではある筈なのだ。

 しかしワープしたかのように姿を消したり、吸血鬼の住む紅魔館に所属している風であったりするので、何処にでもいるごくごく普通の女の子という可能性は絶対にないだろう。

 メイド服ということは、館の主である吸血鬼に雇われているのかもしれない。例え仮にその考え方が正しくとも、どういった経緯で吸血鬼と知り合ったのかが謎だ。

 

 有り体に言えば、彼女の正体についてよく分からないのである。名前すら知らないのだ。

 

 分からないと言えば、何故俺が名指しで呼ばれているのかも分からない。確かに最近は名が売れ始めたのだが、それは人間の里の市井(しせい)での話。人里と紅魔館で何かしら交流をしているという話も聞かないし、どこで自分の名前を聞き及んだのかも分からない。

 

 分からない、分からない。把握できないことだらけでうんざりしてしまう。今後どういう行動を取るべきか、危うく途方に暮れてしまう所であった。

 

 

 

 そうならなかったのは自分に切り札が存在するからである。それは、“この幻想郷で培ってきた人脈”というものだ。

 

 一人の紅白少女の姿を思い浮かべる。

 

 いるではないか、最強の助っ人が。過去の異変でその吸血鬼を実際に下した事もあるらしいし、助けを求める相手としてはこれ以上ない程の適任であろう。

 

 そう思い立って再び外に出る。

 

 目指す場所は博麗神社。目的は、そこに住む巫女さんに助力を求めることである。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

「あー? 嫌よ、面倒くさい」

 

 俺の頼みは速攻で断ち切られていた。

 

 神社の敷地内に降り立って、縁側でお茶を飲んでぼんやりとしていた霊夢を発見する。これ幸いと早速事情を話して彼女に助けを求めたのだが、すぐさま却下されてしまった。

 

 ふわぁ、と気の抜けたような欠伸を隠す素振りも見せない少女を見る。こちとら急に呼び出しを食らって一人でてんやわんやの大騒ぎだというのに、このマイペースな巫女さんはなんともお気楽な調子であった。

 

 こういう時は──と条件反射的に、霊夢に何か差し出す物あったっけという思考をしてしまう。

 いつもは断られるのを想定してお土産を欠かさずに持ってきていたと言うのに、頼み事をする今日に限ってそれを忘れるとは一生の不覚だ。

 

「……そこを何とかお願いできないか? 下手したら死ぬぞ、俺」

 

「別に大丈夫じゃないかしら? 態々向こうから名指しで招いてきたってことは、少なくともあんたに危害を加えるつもりではないはずだし」

 

 再度頼み込むと、あっけらかんとした表情でそう返される。

 

 その自身の考えに間違いは全くないとでも言いたげな様子に、俺は一つピンと来た。前々から霊夢は人妖問わず色んな者達に不思議と好かれていると思っていた。そんな彼女と吸血鬼、異変で両者が既に顔を合わせているということは──

 

「もしかして、紅魔館の吸血鬼とは仲が良かったりするの?」

 

「んー、別にそこまでかな。あっ、でも異変の後の宴会なんかだと毎回呼んでもないのに来たりするわね」

 

 「それと、たまにワインって酒をお裾分けに来てくれたり?」と思い出したように話してくる巫女さんを見て、もうこれ以上の情報は不要だと手を振って言葉を遮る。

 無意識に呆れたような調子の声が出てきた。

 

「……それって普通に仲が良いと言えるレベルだと思うんだが?」

 

 俺の言葉に「れべる?」と可愛らしく小首を傾げる霊夢。彼女のその反応に苦笑すると同時に、なんだか拍子抜けしてしまった。

 

 幻想郷縁起(簡易版)に載っていた、危険度極高、人間友好度極低という記載は何だったのか。聞いた話からだけで判断すると、あまりにもその吸血鬼は人間に対してフレンドリーに過ぎるように思える。

 この様子だと万が一吸血鬼に襲われそうになったら彼女の名前を出すだけで良さそうだな、と感じた。

 

 少しどころではない楽観した考えだが、話を聞いた感じソイツは問答無用でこちらに襲いかかってくるような妖怪ではないらしい。対話できる存在なのだと分かっただけでも収穫である。

 懸念していた、その吸血鬼に『こんばんは、死ね』といった感じで問答無用で襲われて命を落とす、だなんて殺伐とした事態は起こらなそうでひとまず安心する。

 

 幻想郷縁起と博麗霊夢。

 どちらの言い分が信用におけるのかの判断は、俺にとってそう難しい事ではなかった。

 

 

 

「……いつもの補充は頼めるか?」

 

「ん、ちょっと待っててね。そこのお茶飲んでていいから」

 

 しかし安心したと言っても、往々にして一度抱いた不安というものは完全に払拭される事はない。友好的なのは霊夢を相手にした時だけ、という可能性は十分にあり得るのだ。それに、紅魔館へ向かう道中に野良の妖怪や妖精に襲われる可能性もある。

 

 用心するに越したことはない。自衛手段の確保の為に霊夢にいつもの如く博麗の御札を注文すると、心得た彼女は神社の奥へと引っ込んでいった。

 

 いつもの、という曖昧な呼称で難なく通じるあたり、もしかすると彼女は俺という人間の扱い方をすっかり心得ているのかもしれない。こちらとしては年下の少女に内心を見透かされているようで少々面映い反面、一々口に出さずとも意思疎通ができるので非常に楽だとも感じている。

 

 

 

 

 

 待っている間、縁側に座って言われた通り遠慮なく緑茶をいただいていると、物騒でありながらも礼儀正しかったあのメイドさんのことが不思議と頭をよぎった。

 

 具体的には彼女に密着されてナイフで脅されたこと──ではなく、人里の住民達が彼女を遠巻きにして、見物すらせずに逃げるように立ち去っていたことだ。

 

 巷では、紅魔館の評判の悪さはそれなりであった。曰く、“醜い悪魔が棲まう館”なのだと。あのメイドさんが聞き込みに苦労していたのは、彼女がそこの所属であるというのが割と有名な話であったからなのであろう。

 そして、“醜い悪魔が棲まう館”というフレーズに軽いデジャヴを覚える。なんて事はない、そういえば前までは永遠亭もそんな風に悪く言われていたなあ、と思い出したからだ。

 結局、俺はその『化け物が棲む』永遠亭にお世話になっているし、その噂の当人であるお姫様とも仲良くさせてもらっている。経験談として、噂とは大概当てにならないのだととっくに体感済みなのである。

 

──ならば、もしかすると紅魔館も永遠亭の時と同様、なんやかんやで上手くいくのではないのだろうか。

 

 なんて、根拠としては不十分な、そして自身に都合の良すぎる考え方をしてしまう自分がいる。幻想郷の住人達と仲良くできる自信があるのを誇るべきか、考え方が甘すぎると自戒するべきか。

 少しだけ悩む。

 

 

 

 

 

 やっぱり楽観視し過ぎているかなあ、と思い直して自省しようとしていると、霊夢が戻ってきた。当然、その手には強力な御札が複数枚握られている。

 

 立ち上がって礼を言い、それを受け取ろうと彼女へ向けて手を伸ばす。

 

 数瞬後にはそれに手が届く──というタイミングで、霊夢はサッと御札を後ろ手に隠した。伸ばしていた手が行き場をなくして固まってしまう。

 どういうつもりなのだろうか? 疑問に思って表情で訴えると、巫女さんは気まずそうに目を泳がせながら喋り始める。

 

「あの〜、藤宮さん? ちょ〜っとだけお願いがあるんだけど、いい?」

 

「……なんだ? お願いって」

 

 全く彼女らしくない猫撫で声を聞いて警戒心が高まった。いつもはぶっきらぼうに物を頼んでくるというのに、今のようにこちらの機嫌を伺うように喋るというのは大変に珍しい。

 こういう時の彼女は大体の場合、何か後ろめたいことを考えているのだと、これまでの付き合いから何となく察することができる。

 普段から素直に感情を表出させている姿を知っている分、その落差から容易に『あ、いつもと違うな』と気付けるのだ。

 

「次、できればお酒を持ってきて欲しいかな〜って」

 

 何を言うかと身構えて聞いていれば、それはただのお土産の催促であった。

 

「駄目だ」

 

 速攻で断る。

 別にお土産自体は催促されても問題はない。彼女の貧乏生活を見兼ねて(御札と大結界越えの礼も兼ねて)これまで散々手渡してきたのだ。

 茶葉に始まり茶菓子、煎餅、根菜、魚などなど、そのときの俺の気分で適当にチョイスしてきたのである。時には彼女からの要望に応えることもままあった。

 が、これだけは絶対に霊夢にあげてはならないと決めていた品がある。

 

 酒だ。

 

 外の世界基準の考え方ではあるが、未成年の少女にお酒を買い与えるとか倫理的にも道徳的にもアウト過ぎる。

 

 妹紅にはよく酒瓶持ってお邪魔することが増えてきたが、それは彼女が見た目未成年なだけの大人で、その実年齢は俺を遥かに超えているのだと分かっているからなのだ。

 対して、霊夢は確実に未成年。霊力やら結界の術やら年相応ではない要素は多々見られるが、それでもやはり彼女は完全無欠の未成年である。

 

 そんな少女に向かって、妹紅にしたように熱くお酒の良さを熱弁する俺という絵面。

 

──うん、完全なるアウトだわ。

 

「ケチくさい、いいじゃない。外の世界の常識を捨て去るんでしょ。お酒くらい何度も飲んだことがあるんだし、今更よ」

 

 そんな言葉を聞いてムッとしてしまう。

 『捨て去る』って言い方酷くない?

 

「あー、別に呑むなと命令してる訳じゃない。ただ、こっちから酒を勧めるという行為自体が問題でだな……俺の持つモラルが今問われているんだ」

 

「……『もらる』って何よ。」

 

「モラルという言うのは──ああもう、とにかく良心が訴えてくるから駄目だってこと。自分なりに大切にしたい常識もあるってことだ」

 

 盲目的に幻想郷の常識を身につけ過ぎて、外の世界に戻った際に俺という存在が更に世間から浮くようになっていたら悲しいなんてものじゃない。

 

 だから、かねてより受け入れるべき常識は選んでいるつもりだ。『そんな選り好みしているから未だに大結界越えできないんじゃないの』と霊夢から指摘されそうなものであるが、やっぱり人には超えてはならないラインというものが存在するのだと思う。

 極論、犯罪なんかを何の良心の呵責も無しにやってしまうようにもなりかねない。そんな人間になるのは真っ平御免である。

 

 自分の価値観にあまりにそぐわない、あくどい常識には決して屈してはならない。例えそれで、『外の世界への帰還』という目的を達成できる時が遠ざかろうともだ。

 

 俺は“NO”と言える日本人なのである。

 

 そんな硬い覚悟が伝わったのか、霊夢は渋々ではあるがお酒の要求を引き下げた。

 やっぱりダメだったか〜、とすっかり意気消沈した様子の彼女に、少し気の毒に思ってフォローをする。

 

「まあ、次来る時は普段よりいい土産を持ってくるから期待して待っててくれ」

 

「……なら、楽しみにしてる。失望させないでよね」

 

 そう言って、霊夢はやっと御札を隠すのをやめて差し出してきた。今度こそ有り難くそれを受け取る。

 

 「じゃあ行ってくる」と一言残して立ち去ろうとすると、「ねえ」と呼び止められる。振り向いて彼女の方を見ると、紅白の少女はこちらに向けて威勢よく言い放った。

 

「もし、紅魔館で酷い目に遭わされたのなら私に報告しなさい。人間の守護を役目とする博麗の巫女として、あんたの骨は拾っておいてあげるから」

 

「──頼もしいことこの上ないが、そこは『大船に乗ったつもりでいなさい』とでも言って欲しかったな。『骨を拾う』って、それ既に俺やられちゃってるだろ……」

 

 「あら、そうだったかしら」とすっとぼけたようにしらを切る巫女さんに呆れた視線をぶつけてから、宙に浮かぶ。

 

 ある程度の高度をとった瞬間に、自分がいつの間にかとてもリラックスしているのに気が付いた。

 

 一見不適切に思えた彼女の言葉選びは、もしかすると霊夢なりの元気づけなのかもしれない。実際、平常通りになんて事ないお喋りを繰り広げたことで、俺の感じていた少しばかりの緊張が、すっかり解けてどこかへと消えてしまっていた。

 もしそれら全てを狙ってのお酒ねだりだったのだとしたら、『人間の守護』だなんて大層な名乗りも、案外誇張ではないのかもしれない。

 そう思った。

 

 

 

 

 

 博麗神社からまた人間の里へと戻って、紅魔館へと向かう為の準備を抜かりなく推し進めていく。腹拵えに始まり、自室前の看板に『藤見屋 外出中』と掛け札をして、装備も整える。

 無論、霊夢の御札が最大戦力である。これと比較しては俺の放つ霊力の弾丸は豆鉄砲に等しい。

 身体と霊力の調子の確認も怠らない。軽くストレッチをして確かめる。もし不調であっても結局は行かなければならないのだが、自分が十全に動けるのだと意識するだけで、気の持ちようというのは大きく変わってくるものだ。

 

 よし、これだけ調子が良ければ道中妖怪に襲われても余裕を持って逃走できるな。

 御札を恐れない妖怪は、余程の危機察知能力の低い妖怪か、御札をまったく意に介さない超強大な妖怪だけだ。後者はいかに妖怪の楽園と呼ばれるこの幻想郷に於いても一握りしか存在しないので考慮の外に置いておくとして、前者の方は純粋に俺の逃走術に物を言わせて振り切るしか方法はない。

 

 例え感知能力が乏しくとも、脅威である事に違いはない。決して自分の力で撃退しようだなんて思ってはならない。

 霊力の弾は威力がしょぼ過ぎて逆に相手の気を逆撫でするのみに留まるし、指先に灯した炎で炙ってやろうとしても、マッチ棒に比する大きさなのでやはり相手を怒らせるだけだ。

 

 『常識に囚われる程度の能力』も、正直当てにならない。

 

 逃げる──それが、俺が今までこの幻想郷で生き残ってこれた最大の秘訣だ。

 

 空を飛べば大体は振り切れる。そうでなくても引きながら撃っていれば『この獲物は面倒』と判断して向こうから諦めてくれる。

 これは、経験則から導き出された至極妥当な生存方法なのだ。まあ、ミスったら妖怪の腹の中なので当然のことなのかもしれないが、今のところは大丈夫なのだ。問題はあるまい。

 

 紅魔館は霧の湖の畔にあるという話だった。

 

 もしかしたら、またぞろ()()()()()と出会う可能性がある。そのことも頭に入れて、外に出てお店でとあるものを購入する。

 

 さて、これで準備は整った。

 後は出発するだけ。

 

 時間もいい塩梅である。夕暮れ時という大変アバウトな時間設定を言い渡されていたのだが、色々やっているうちにちょうど夕日が落ちる前には到着できそうな頃合いだ。

 

 人間の里を出て、霧の湖、そして紅魔館へと飛行する。

 

 その段になって、霊夢以外にも助っ人を頼める人物がいたじゃないかと思い出した。いつも暇してる妹紅がその筆頭である。酒をぶら下げて交渉するべきだったかと後悔するが時すでに遅し。

 

 今から迷いの竹林に行って話をつけてまた紅魔館へ──なんてやってたら夜になってしまう。時間は厳守しないといけないだろう。館の主だという吸血鬼やあのメイドさんの機嫌を損ねない為にも。

 

 早速ヘタを打っていることをなんとなく自覚するが、今更館への進路を変更することはできない。

 

……無事、生還できますように。

 

 まだ見ぬ悪魔の館の妖怪たちに恐れ慄きながら、そう心の中で祈るしかなかった。

 





 
 オリ主「同行人ゼロで心許ないけど準備ヨシ!」
 
 身の安全を確保する為であれば、年下の少女に泣きつくことも厭わない それがこの作品の主人公です 全然格好付かないぜ…

 危険いっぱいな人里の外へ赴く為には、それ相応の下準備が必要になる 未知の溢れる場所に行く時なんかには特に そんな当たり前の事を主張したいだけの回 ぶっちゃけ作者的にも読者の皆様的にも、紅魔館は未知の場所でもなんでもないのですが、オリ主にとっては初見なので仕方のない事なのです
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