東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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紅蓮少女とささやかな収穫

 

 悪夢を見る。

 

 とてもとても恐ろしい夢だ。そこからなんとか脱出しようと、目覚めようと足掻くのは道理だ。

 しかし、夢を観ている最中に、これは夢だと認識出来ることなど殆どない。そこで何か致命的なことが起きたとき、或いは外部から何かしらの刺激を受けたときにやっと目を覚ますことができる。そしてほっと胸を撫で下ろすのだ。

 

──ああ、なんて恐ろしい夢だったのだろう、と。

 

 そうして、目覚めてものの数分の内にその夢の些細を忘却の彼方へと押しやってしまう。きっと無意識下で、防衛本能が働いているのだろう。

 嫌な記憶、怖かった記憶、目を逸らしたくなるような忌々しい記憶。

 寝ても覚めても、俺のやる事は一切変わる事はない。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

──はあ、最悪の目覚めだった。

 

 外来人を無償で保護してくれる宿にて、従業員さんが朝食として運んでくれたアンパンを食す。もそもそと。

 形は整っていないが、たまにコンビニで買うアンパンと遜色ない味で満足している。

 

 槍で武装していたり、飲み水も水道なんてものはなく井戸から水瓶に汲み置きする必要があったり、もしやこの幻想郷という世界の文明レベルは相当低いのではという懸念があった。

 

 まぁ外の世界と比較してしまえば言わずもがな。今日の昼には帰ることができるという話だし、ちょっと本格的に昔の暮らしを体験できたのだと考えると、その不便さも楽しみの一つとして思えるようになった。

 

 

 

 アンパンが日本で普及したのはいつの時代なんだっけ?

 こういう時に頼りになるスマホは森で紛失したままだ。

 俺も現代っ子の端くれだ。出来れば回収してしまいたいのだが、時間的にも自分の実力的にも、もう諦めてしまうのが賢明だろう。

 無理を通して捜索したとしても、具体的にどの辺りに落としたかなど覚えている筈も無く。精々、そこでうろうろしてるうちに妖怪に捕まって八つ裂きにされるのがオチだ。

 最後の一口、ゆっくり噛んで飲み込む。

 手に付着したパン屑を落とすために両手を拭っていると、左腕に軽い痛みがやってきた。

 

 あの悪夢の影響か。

 

 もう細かいことは忘れてしまったが、昨晩は悪夢に魘されたのだった。

 よく考えずとも理由は明白、暗い森で遭遇したあの忌々しい人喰い妖怪のせいである。

 

 そいつは、なんと夢の中でも俺を追いかけてきやがった。

 霊力の弾丸を額に打ち込んだことへの意趣返しなのか、自分がしたように霊力(妖怪が使うから妖力というべきか)を弾丸状にして打ってきた。

 しかも、俺の放てる何百、何千倍もの弾数で。

 這う這うの体で逃げ出すものの、地を走るこちらと空を飛ぶあちらとでは機動力に差があり過ぎてあっという間に何発か被弾してしまった。

 動きが鈍ったところ、次の瞬間には無数の弾が俺に押し寄せてきて──

 

 そしてその直後、飛び上がるようにして目覚めたのだ。

 

 そのとき咄嗟に左腕で身体を庇ったせいか、起きてしばらく時間が経過した今でも若干の痛みを感じている。多分プラシーボ効果ってやつだ、やたらとリアルな夢だったような気がするから。この痛みは、きっと思い込みに違いない。

 

──よもや、夢で受けたダメージが現実の体にフィードバックされているわけでもあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンパンでぱさついた喉を潤したり、所々ほつれてしまった衣服の確認などをしていると、部屋の扉を叩く音がした。

 きっと上白沢さんの言っていた、外の世界へ返す所にまで案内してくれるという人がやって来たのだろう。

 はぁい、と返事をして迎えようと立ち上がったところ。その人物は返事をする前に扉を開け、躊躇う様子もなくズカズカと部屋に上がりこんできた。

 

 そういえば、昨日は疲れ過ぎて鍵かけるのを忘れてたな。

 

 そんなことを思う間もなく、眼前に立つ少女を見て息を呑んだ。

 昨日、上白沢さんに見た目で匹敵する人物はなかなかいないと思っていたが……早速その翌日に見つけることになるとは、ちょっと予想外だった。

 

 

 

 服装は、白い上着と、御札みたいなものが散発的に貼られている赤い──確かもんぺといったか、をサスペンダーで吊るしている。

 とても長い白髪を髪留めで束ねているが、今にも床に付いてしまいそうだ。

 そしてあの赤い瞳、引き込まれてしまうような深い赤に、つい反射的に昨晩の人喰い妖怪を連想してしまった。

 

「あんたが、慧音の言ってた外来人?」

 

 彼女はジロジロと無遠慮に視線を向けてきた。

 

 急にパーソナルスペースまで詰められたものだから、少したじろいでしまう。

 そ、そんなに見つめられても困るんですけど。あ、外の世界の服が珍しいのかな? でもね正直、貴女の方がずっと珍妙なファッションだと思うんですよ。

 

──無論、そんな失礼なことは誤っても口にはしない。

 

 見つめられるのはそう長い間ではなかった。

 ふぅん? という声とともに視線が外された。どうやら満足したようだ、その割には納得いかないといった表情をしているが。

 

「準備はできてるだろ? ついてきてくれ」

 

 素っ気無い態度でそう言って、少女は部屋から出て行ってしまった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!せめて少し部屋を掃除してからだな──って待ってくれないのかよ!」

 

 お世話になった手前、従業員の方には本当に心苦しいが、部屋はそのままに、しかも出立を知らせることが出来ぬままに宿を飛び出した。

 

 

 

 

 

 目が覚めてから大分時間が経っていて、そろそろ正午になるかといえばそうではない。というのも悪夢のせいで日が差し込む前に起床したからだ。

 これは再び寝付けそうにないなぁと悟り提灯を灯してボケーとしてると、それに気づいた従業員さんが朝食を早めに持ってきてくれたのだ。

 それを食べ終え彼女が入ってくるまでの間も、それほど長くなかった。

 

 つまり現在、やっと太陽の光が出てきた時分なのである。

 

 それでも人間の里の朝は早いらしく、昨晩ほどではないが人の往来があった。皆が皆、当然のようにして和服を着流している。

 

 つまり、何が言いたいのかというと──

 

 外の世界の格好をした俺と、奇抜な髪色とファッションセンスをしてる彼女が横並びになって歩いていると、とんでもなく目立つということである。

 先ほどからすれ違う人たちがチラリとこちらを盗み見しているのが分かる。

 視線を感じてそちらの方を見ると、サッと目を逸らされる。ずっとその繰り返しだった。

 

──はっきり言って、かなり面白くない。

 

 それは彼女も同様のようで、

 

「ああもう、だから引き受けたくなかったんだ」

 

 そんな愚痴をこぼしていた。なんだかすごく申し訳ない気持ちになってきた。

 幸い、人里の外は目の前だ。

 やっとこの居心地の悪さから解放される。ほっとして肩の力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

「え、妹紅さんって人里に住んでいないんですか?」

 

 人間の里の門を抜けて、田んぼのあぜ道を抜けて、俺たちは雑木林の中を歩いていた。

 道らしき痕跡は存在するものの、滅多に利用されることがないのだろうか。

 雑草は生えまくっているし、握り拳くらいの大きさの石がゴロゴロと転がっている。

 

 そんなもはや道とは呼べない代物に沿って、並行して歩いている。

 

 そのスピードは遅い。というのも、昨日の逃走劇による筋肉痛が今になって両足に直撃したからである。彼女はそれに合わせてくれているという形。

 その上、二人して黙々と進む気まずさに負けて、場を和ませようと俺が彼女に話しかけまくったせいでもある。

 これにより、お世辞にも早いと言えないペースがさらに遅くなってしまっていた。

 

 初めはただ、居心地の悪い沈黙から逃れるために始めただけなのだが──

 

 遠くにある見事なお花畑や、遥か先の上空に浮かぶ逆さまになったお城など、取り敢えず移動中に見つけた気になったものについて質問してみる。

 初めは答える気がなかったのかはぐらかされていたのだが、挫けず質問し続けると根負けしたのか彼女はぼそっと答えた。

 そうなればこちらのもの、答えの内容にさらに突っ込んで、ガンガン幻想郷についての話題を広げまくった。

 

 かなりウザったいだろうが、こんな世間と隔離された異世界に迷い込むという貴重な経験は、二度と体験できないだろう。

 丁度、そんな経験談に食いついてくる知り合いに心当たりがある。オカルト話に目がない『彼女』のことだ、きっと仰天して羨むに違いない。

 

 調子に乗って質問する様子に、白髪の少女はやや引き気味ながらも応えてくれた。

 自己紹介は、とうに済ませてしまっていた。

 彼女の名前は“藤原 妹紅(ふじわらのもこう)”という。

 「藤原さん」と呼ぶと何故か嫌がられてしまったので、失礼ながら「妹紅さん」と呼ぶことになった。

 

 なんと彼女は安全な人間の里に居を構えずに、『迷いの竹林』という場所で暮らしているそうだ。これなら人里で、かなりの注目を集めていたことに説明がつく。

 人里の皆は、妹紅さんのことを見慣れていなかったのだ。

 

 では、その迷いの竹林とやらは安全なのかというとそうでもないらしく。

 普通に妖怪は出没するし、その最奥には一眼見るだけで末代まで呪われてしまうという、途轍もなく悍ましい化け物が潜んでいるらしい。

 

 どうしてそんな魔境で生活を送れるのかと質問すると、彼女はあっけらかんとこう答えた。

 

「最奥の化け物はこちらから突っかからない限り無害だし、それ以外の雑多な妖怪どもは自衛がてら燃やしてやった。今じゃ私が恐れられているくらいさ」

 

 自慢をするわけでもなく、ただ単に事実を述べている、そんな様子だ。

 俺はその話に半信半疑だった──幸か不幸か、その疑いはすぐ立ち消えてしまう事になったわけだが。

 

 

 

 

 

 木々の隙間から、ぬらりと姿を見せる一匹の妖怪。

 自動車ほどにもなろうかという大きさだ。

 赤い目が幾重にも重なり、牙は長く、鈍く光っている。

 六本の脚を不規則に動かす様は、特別虫を嫌うわけでもない俺でも嫌悪感を抱かせた。

 蜘蛛のような形をしたその化け物は、俺たちに襲いかかる。

 

 逃げろ! と声を張り上げようとして、しかし彼女が異形の前にふらりと歩み出るのを見た。そして、

 

「よっ」

 

 気の抜けた掛け声と同時に、彼女の指先に灯火ができた。

 その灯火は一瞬で大きく、少女の半身に迫るほど巨大化し、放たれ、その妖怪を飲み込んでいった。

 眩しさにやられかけ、目を細める。そして肌が灼けるかと錯覚するほどの、圧倒的な熱量。

 そのとき鳴り響いたギィィという不快な反響音は、きっとあの化け物の放った断末魔だったのだろう。

 

……なんともあっさりした幕引きであった。

 

 

 

 

 

 そこに残ったのはすっかり焼け焦げた草木のみ、妖怪はサラサラと塵となって風に運ばれていった。

 あれだけやって、周りの木や雑草に延焼しないのは奇跡的だ。

 

 俺はすっかり腰を抜かしてしまった。ただただ彼女に対して畏怖の念を抱くことしかできない。

 そんな視線に気がついた彼女は、がりがりと頭を掻きながら歩み寄ってきた。

 

……少しやりすぎたか。あー、その、大丈夫か?」

 

 そして手を差し出した、引き上げてくれるのだろう。

 

 俺は、その手を取ることができない。

 何故ならば、

 

 

 

「──か、格好いい……」

 

「──は?」

 

 

 

 化け物を葬ったあの炎に、すっかり見惚れてしまったからである。

 

 

 

 不意に、懐かしい情景が思い浮かんだ。

 

 人目のない校舎裏で、自分が編み出した技をお互いに見せ合って、『先輩の霊力は相変わらずしょっぱいですねえ』と小馬鹿にされ、見返してやろうと一人で試行しても上手くいかず、悔しがるしかなかった。

 

 そんな、人には明かせないほろ苦い青春の一ページ。

 なんというか、失われた少年心が動き始めたような気がした。

 

 何やら呆気に取られた表情の彼女の手を取って立ち上がり、向き合う。

 

「妹紅さん、お願いがあります」

 

 

 

 

 

 

 再び歩き始めたのは日が天辺から傾き始める頃だった。

 本来ならばとっくに目的地に着く頃合いだったらしいのだが、……仕方のないことだ。

 筋肉痛も、つい話に夢中になったことも、

 

 そして妹紅さんにさっきの技を俺に教えてくださいと駄々を──いや、真摯に訴えて少し時間を借りて練習したことも、仕方のないことだったのだ。そう、仕方ない、仕方ない。

 

「ふっふっふ」

 

 自分の指先に灯った火を見て、ほくそ笑む。

 

 意識的に霊力を弾丸として放つことは、中学時代からできていたのだ。ただそれを少し応用しただけのことである。

 正直に白状すると、霊力ではない“何か”(例えば火、水、雷とか)を代わりに発射できないか四苦八苦して、結局実現できずに断念したことがある。

 

 足りなかったのは、適切な指導者の存在だった。

 

 天才児のやることは模倣できない、俺はどうあがいても凡人なのだから。

 地道に目先の課題を片付けていけば、いずれは──

 

「うわ熱っ」

 

 風に煽られ、火が指の腹を舐めた。幸い咄嗟に消したため、火傷はしていないようだ。…ちょっぴり背中から冷や汗が出た。

 

 何やってんだコイツ、と言わんばかりに突き刺さる視線を口笛を吹いて上手いこと誤魔化して、これを使うときは風向き注意、とそっと内心メモをする。

 

 今後、つまりこの術の将来に想いを馳せる。

 

 現状はライターの火程度の規模の炎しか作り出せないが、ゆくゆくは妹紅さんがさっきやったような、いやそれを超える派手な火球を作れるようになれるかもしれない。割とすんなり習得できたのだ、資質的に向いているかもしれない。

 

 根拠のない謎の全能感に包まれる俺を横目に、妹紅さんは祝福してくれているのか微笑んでいる。

 

 それは俗に言う愛想笑いではないか? という可能性に気付いたのは、再び目的地へと出立する時になってからの事だった。まあ、すぐにそんな訳ないかと却下してしまったけれど。

 

 

 

 

 

 外来人を外の世界に送り出す手段を持つという『博麗神社』、それを擁する山の麓に到着した。

 妹紅さんとも、ここでお別れとなる。

 

「色々お世話になりました。特に、修行つけてくれたのは本当に嬉しかったです」

 

「いや、私も、なんだかんだ久々に楽しめたよ。──それとちゃんと火の用心をしろよ? 正直、見ていてあんたは危なっかしいからな」

 

 苦笑まじりにそう言い残した彼女は宙に浮かび、人里とは違う方角へ飛んでいった。

 おそらく迷いの竹林にあるという自宅へと帰るのだろう。

 

 あ、妹紅さんも空を飛べたんだな……いや、あんな見事な火球を放てるんだ。きっと彼女にとって飛行など朝飯前なのだ、そう納得する。

 

──そういえば、彼女は人間だったのだろうか?

 

 人喰い少女は妖怪だったし、慧音さんも門番さんのあの言い回しだと恐らくそれに近い存在なのだろう。

 普通じゃない格好に、普通じゃないあの実力。俺の方が年が上のはずなのだが、なんだか年下扱いされていたような気もする。

 

 無性に気になったが、後の祭り。もう質問することは叶わないのだ。

 

 

 

 

 

 長く、高く続く石の階段。

 視線を上げてよくよく目を凝らせば、その先にゴール(大きな朱色の鳥居)を見つけることが出来た。

 

 俺は日の出から移動を開始した。

 そして、多分現在時刻はオヤツを食べるにはまだ早いかな〜と思う程度の時間帯だ。

 その間ずっと歩いていた──もちろん休憩は挟んではいたが。

 

……正味、かなり足に“キテ”いる。ただいま絶賛筋肉痛中であることを忘れてはならない。この状態でこれを駆け上がるのは、無理じゃないかなあ。

 

 石の階段はこれまでの無惨な道に張り合うかのようにぼろぼろで、ところどころ苔むしている。

 

 高いとこで滑ったら死ぬんじゃねーのコレ?

 

 足を踏み出す勇気が出ない、がここを動かずというわけにはいかない。

 休憩するという選択もあるか? いや、日が暮れてしまうと非常に困る。

 もう暗い中を彷徨うのは勘弁だ。

 

──よし、腹を決めた。

 

 俺は石段に向けて歩き出す。そしてどうか夕暮れ前に登頂できますようにと博麗神社の神にお祈りした。

 まあ、何を祀っているのか知らないんだけど。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 

「これから毎日きちんとした生活を送っているのか逐一監視される事と、私からの簡単な依頼を引き受ける事、どちらを選ぶ?」

 

 いつものように慧音の説教を受け流していると、突然そう問いかけられた。

 

「そんなの、実質一択じゃないか」

 

「そうか、それは良かった。ではさっそくだが依頼内容を説明するぞ? そも、事の始まりは妖怪の賢者がこの地に『幻と実体の境界』を張り巡らせた事に始まり、その後『博麗大結界』並びに『常識と非常識の境界』を新たに……」

 

 

 始まった。

 

 説明が冗長過ぎるのは彼女の悪い癖だ。

 あと、世話好きなのも悪い癖だな。本気で心配していることが伝わってくる分、よりタチが悪い。

 それにしても、慧音が私に頼みごととは珍しい。なにか火急の用であるのかもしれない、そう思って長話に耳を傾ける。

 

 

 

 結局のところ。彼女の提案を両方とも蹴ってしまえば、面倒事にならなかったのではと気がついた。

 だが、そう思いついたのは満足そうに立ち去る慧音を見送った後のことだった。

 

 

 

 翌朝、依頼を引き受けたことを早くも後悔した。

 彼には常人には持ち得ない何かがある──彼女にしては珍しく抽象的な表現に留めた件の藤宮慎人という外来人は、観察したところ特に大した人物であるようには思えなかった。

 人の行き交いもほとんどないだろうと踏んで日の出と共に急いで出発したが、想定外に沢山の人が歩いていて、不審な目を向けられ続けた。

 

 不愉快な目にあったが、後は黙って案内するだけ。

 やれ筋肉痛がとうるさく主張する外来人に仕方なく合わせ、徒歩で移動する。

 

──はぁ、飛べばこんな面倒な頼まれごともすぐ済んだのに。

 

 少し、むかついていた。

 

 

 

 急に『向こうに見えるお花畑って…』とか何とかなんの脈絡のない質問をされたときは、八つ当たりで無視してやった。

 それでもなお、必死に話しかけてくる彼をいなしながら、慧音が言っていたことを思い出す。

 

『私の顔を見ても、どうやら彼はなんの痛痒も、不快感も覚えないらしい』

 

 そんな馬鹿な、とその時は聞き流したが、慧音の所感はよく当たる。試しに返事をしてみると、彼はとても嬉しそうな表情を見せた。

 

 

 

 話題が迷いの竹林になり、ちょっとした悪戯心で永遠亭の連中のことを若干脚色して吹き込む。少し鬱憤が晴れて、アイツを殺しに行くまでの日程を延ばすことに成功した。

 アイツとの闘いは、まず己(の吐き気)との闘いになる。

 胃の内容物で窒息死しないようここ数日断食していたが、その備えも必要無くなった。今晩は鰻の蒲焼きでも食べるとしようかな……

 

 

 

 

 

 彼と別れた少し後、迷いの竹林の小屋で、私は指先に灯した炎をじっと見つめていた。

 

──格好いい、だなんてこの力を形容されるのは、初めてのことだった。

 

 幻想郷に来る前だって、この顔や白髪、術を見て、好意的に接する者など殆どいなかったというのに──と、つい暗い気持ちになるのを堪える。

 

 飲み込みが早かった割に、彼は才に乏しいようで、懇願されて仕方なく教えた火の術はあまりにも小さかった。

 弟子をとったことなどないので断言は避けるが、あと数十年訓練したところでその熟達のほどは今とさして変わることはないだろう。

 そう伝えようとしたのだが、物凄く楽しげにしていたので言い出すことが出来なかった。

 

 もし彼がそれを知ったらどんな顔をするのだろうか。

 

 沈んだ気持ちを慰めるため、頭の中で彼に百面相させてみると、プフッと少し吹き出してしまった。

 





 シリアスな描写というのが苦手だと自覚して、もこたんの過去回想をいろいろとこねていたのですが已む無く先延ばしすることに
 まだ三話目なんだしオリ主の方の描写に集中しましょう
 きっと未来のわたしが素敵な文章を作るはずだと期待しつつ
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