東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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怯え隠す者と嗤い曝す者

 

 

 紅魔館の地下に位置する、フランドール・スカーレットの部屋。ただでさえ窓が無く日の光を拒む設計をしているこの洋館にあって、ここは更に薄暗い。事実この場所に存在する光源は、隅に置かれた三叉の燭台から届く蝋燭の火のみだった。

 

「それで? なんでいつもよりここに来るのが遅くなったの?」

 

……この部屋の暗さを見る限り、どうやら『吸血鬼は陽光を苦手としている』という俗説は信憑性が高いらしい──現地で吸血鬼とお知り合いになれたことにより導かれる、幻想郷ならではの推察であった。

 

 映画や小説、オカルト雑誌、それと幻想郷縁起(簡易ver.)で得た知識は本当だったんや!

 

 だいぶ御機嫌斜めな様子の吸血鬼少女を前にして、そんな逃避気味な思考に徹する。実際ここに来るまでの道中は故意にゆっくりして行っていた為に、俺は彼女に対して少々後ろめたさを感じていた。

 

 棺桶の置かれた天蓋付きベッドに浅く腰を下ろし、薄らと微笑みながら問いかけてくる少女──その笑みには底知れぬ激情が隠されているような気がして、先の後ろめたさもあり俺はついつい彼女から目を逸らしてしまう。

 

 純粋にこの場所に行きたくなかったからだと本音を言えたら、どれほど気が楽になるだろうか。

 

 自棄になってそう主張したい場面ではあるが、そうした後に酷い仕打ちが待っていることは容易く想像出来るので躊躇われる。なので、なるべく角の立たない、そして彼女が嘘と判断出来ないような理由付けをする必要があった。……それと同時にご機嫌を伺ってみてもいいかもしれない。

 

「……人里の方で用事が色々と重なった所為で、紅魔館に来ること自体が遅くなったんだ。仕方の無いことだったんだよ」

 

「ふ〜ん、私はてっきり美鈴とのお遊びに時間を忘れて夢中になってたんだと思ってた」

 

「い、いや? 稽古にはそこまで時間はかけてなかったかな。ほら、早くフランドールに会いたかったし?」

 

「そ、だとしたら変ね。……もしかして、嘘をついているのかしら?」

 

 普段地下室に篭っている様子の彼女を欺くのなら、人間の里のことを引き合いに出せば良い。よしんば俺の話に疑いの目を向けたとしても、それを虚偽と断じる方法は持ってないだろう──そう賢しく考えての言い訳だったのだが、フランドールにこの言い分を信じている様子は無い。

 

……彼女は、人里で俺が具体的にどう行動しているのか知る由も無い筈だ。

 

 何故嘘だと思ったのかを問わんばかりの俺からの視線を受けて、吸血鬼の少女は事もなげに話し出した。

 

「一応、咲夜にはアナタがここに来た瞬間に報告を入れるようお願いしててね? 今日、それがいつもと同じ時間だったのよねえ。──確か、『紅魔館に来ること自体が遅くなった』だったかしら? ……困ったわね。それだと咲夜とシント、どっちかが嘘をついてる事になっちゃう」

 

 あ、やっべ。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 どちらが嘘吐きなのか? その結論は、彼女の脳内で既に下っているに違いない。なのに、本当に『困った困った』と言うような顔をしながら少女はこちらの表情をじっくりと窺ってくる──そして参ったことにその粘つくような視線には、確かな嗜虐の色が見え隠れしていた。

 

 正直、全く生きた心地がしない。

 

「嘘をつくような悪い子には、お仕置きをしてやらないと道理が通らないわよねえ」

 

「…………」

 

 徐々に地下室の空気が緊張感に冷えてゆく中、もはや何を言うことも出来ず、ただただ黙ってその視線に耐えるしかなかった。

 

 この胃に穴が開くようなひりついた感覚は、彼女に対して嘘をついてしまったことに対する罰なのだろう──もっとも仮に本当のこと、つまり『フランドールに会うのに気が進まなかったからわざと遅らせた』と正直に打ち明けた場合とどちらがマシであったのかは、実際にやってみないと分からない。そして分かりたくはない。

 

 

 

「……ま、いいわ。これくらいにしておいてあげる」

 

 それなりの間、恐怖に青い顔をする人間を見つめ続けて満足したのか、吸血鬼の少女は張り詰めた場の空気を緩めさせた。

 

 俺はその事を肌で感じ取り、ほっと息をつくと温かな安堵感に包まれる。……大妖怪に睨め付けられる感覚というものはあまりにも心臓に優しくない。命を取られる事はないと頭では分かっていても、生存本能が分かっていないのだからどうしようも無いのだ。

 

 

「ん〜、なんだか喉が渇いてきちゃったなぁ」

 

 

 出し抜けに、フランドールはベッドから立ち上がる。その堂々とした棒読み台詞は、彼女が俺に何を要求しているのかをどうしようもなく理解させた。

 まあ、ソレはこの部屋に行く度に毎回行われることだった。だから俺は無言のままに彼女の前まで足を運んで、我が身を差し出す。

 

 

 

──俺が初めて紅魔館を訪れそこから解放される際、応接室に乱入してきたフランドールはレミリア・スカーレットに二つの要求を告げていた。

 

 その内の一つがこれ、『フランドールに新鮮な血液を定期的に提供すること』である。

 その日俺は地下室で、()()()する前のついでとして血を吸われたのであるが、その継続を彼女は望んでいたのだ。生き血を求めるとは、いかにも吸血鬼らしさ全開の要求だった。

 

 

 

 今は慣れない執事服を着ている為に首を曝け出すのに少し時間を取られてしまったが、その待ち時間すら楽しんでいるのかフランドールはその光景にずっと眼を爛々と輝かせていた。

 

──まったく、野郎が肌を露出させる様子の何処が面白いんだか。いや、吸血鬼視点だとこの誰得な光景も、『食材が自ら皿に乗ってきた!』みたいな感じなのかもしれない。

 

「……いつもより多めに貰っちゃうけどいい? ああでも、“人里で忙しくしてた”らしい軟弱なシントにはしんどいだろうから、今回だけは別に断っても」

 

「ああもう分かったよ! 好きなだけ持ってけ!」

 

 『(嘘の追求を)これくらいにしておいてあげる』と言っておきながら、先程のことを掘り返してくる少女にカチンと来て威勢よくそう言い放つ。

……言った直後、自分が随分とお安い挑発に乗ってしまったことに気がついたのだが、発言の撤回をするには手遅れだった。

 

「そう? それじゃ、遠慮なく……」

 

 クスリと笑い声が聞こえたのち、フランドールは牙を俺の首へと突き立てた。

 その数秒後、俺は啖呵を切ったことを改めて後悔する。案の定、前回吸われた時よりも多量な血液が持っていかれているのだと感覚で理解したからだ。

 肩を強張らせながら、慌てて抗議の声をあげる。

 

「な、なあ。確かに、好きなだけ持ってけとは言ったがもう少し抑えてくれないと──」

 

「……シー、静かに。もっと身体の力を抜かないと、貧血で倒れちゃうよ?」

 

 切羽詰まった俺の訴えは、あえなくその囁きによって却下されてしまった。取り付く島もないとはこの事だ。

 何故だ。やはり俺の弱み(美醜感覚逆転)を掴んでいるのだから、そんな言いなりに出来る奴の話など聞く価値も無いという事なのか──

 唐突にその瞬間、ふと脳内に閃くものがあった。彼女に言われた通りに身体をリラックスさせながら、その事を問いかけてみる。

 

「もしかして、嘘つかれた事に対して結構根に持ってたりする?」

 

「……フンッ」

 

 あ、吸い上げられるスピードが────

 

 

 

 

 

 

 ふと気がつくと、ふかふかのベッドの上で仰向けに横たわっていた。霞がかった頭を何の気無しに横に振ると、薄暗い中、何やら大きな箱のようなものが鎮座している。

 一拍置いてそれが棺桶であることに気付き、そしてまたまた一拍置くと、びくりと身体を震わせてしまった。

 

……一瞬、自分用のかと思ったじゃん。

 

 覚醒した頭で考えれば、それは当然フランドールが使っている物なのは明らかだった。

 そして現状を把握する。大方俺は、血を急激に奪われた所為で気を失ったのだろう。下手な発言をして彼女の不興を買うべきではなかったのだ。

 あれから体感的に大して時間が経過したようではないと当たりは付けられるのだが、全身を襲う気怠さが邪魔してその正確さに自信が持てない。

 

──ゴトリ、と音がした。その方を見てみると、何やら分厚くてむつかしい言語が書かれた表紙の本を机に置いたらしき、件の棺桶の持ち主がゆっくりと近づいて来る。

 

 フランドールはベッドに横になったままの俺の頭の近くを位置取って座ると、然程心配してなさそうな表情をして話しかけてきた。

 

「ねえ、大丈夫?」

 

「……おう、大丈夫そうに見えるか?」

 

「喋れるってことは大丈夫ってことね。少なくとも脳が死んでないってことだし」

 

 『喋れる』と『大丈夫』を等号で結ぶそのフランドールの言い分には、大きなため息をつかざるを得ない。彼女の口ぶりからは『口さえ利ければ重体の者であっても大丈夫』と判断しそうな勢いを感じる。

 

 でもまあ確かに、自分は現状軽口を叩けているのだ。それくらい体調が回復したのだという見方も出来るのかもしれない、それはそれで。

 

「……やっぱ今の発言無し。何と言っても今の俺は大丈夫ではないからなぁ」

 

 なんて適当な事を言いながら、腹筋に力を入れて俺は起き上がろうとする。しかし、やはり血を抜かれた直後は厳しいらしく、上体を満足に起こす事すら叶わなかった。

 再び、身体がベッドに沈み込む。

 

「ぐ、チクショウ」

 

「ふふ、あんまり無理しちゃダメよ? 弱い弱〜い人間は、暫くここで安静にしてないと」

 

「……ああ、そうするしかないみたいだな」

 

 貧血状態で無理に力んでしまった為か、徐々に視界に黒いものが混じってきた。どうやら身体を平常状態に戻すにはちょっと時間がかかりそうだった。

 

 

 

 目を瞑り、復調を願い、じっと待つ。

 

 まあ、ただじっと待つのも退屈なだけなので、あの時フランドールが言った二つの要求のもう片方について思考を巡らせることにする。

 

 『フランドールに新鮮な血液を定期的に提供すること』と双璧をなすそれは、やはりその時地下室でフランドールが感じていた素直な欲求を元にして考案されたらしく、なんでも紅魔館にある“大図書館”という場所に行く必要があるとかなんとか──

 

 

 

 

 

「ねえ、シント」

 

「なんだ?」

 

 呼びかけられたので、思考を中断して返事をする。

 

 いくら体調が優れていないとは言え、口を動かすだけなら特に問題は無い。ただし脳味噌の方が少し問題で、少々ぼんやりとしていて思考回路がクリアじゃないと自己診断できたのだが──まあ悲しいことに、恐らく普段の処理能力と大差は無い。受け答えも差し障りは生じ得ないだろう。

 

 目を開いて、フランドールの顔を見ようとする。

 

 しかしここは薄暗い地下室のベッドの上で、俺が彼女の方へと視線を向けてもその暗さ故に、少女が浮かべているであろう現在の表情がはっきりと窺えない。

 ただ、平素と変わらぬ調子の声が聞こえて来るだけだ。

 

「あいつの話だと、シントは『紅魔館の運命を変える人物』らしいわね?」

 

「あいつ…? ああ、レミリア・スカーレットのことか。……いや姉なんだろ? なのに『あいつ』呼びって酷くないか」

 

「『紅魔館の運命を変える』ってことはつまり、私を始めとしたここに棲みついてる奴等の運命を変えるってことなのよ。勿論、あいつの予感が正しかったらの話だけど」

 

 ポロッと口をついた俺の疑問に華麗なるスルーを決め込んで、フランドールは話を続ける。

 まさかの無視……まあ、いいけどね? 俺は一人っ子だったし、兄弟関係がどうこうとか正直よく分からないから。それも、吸血鬼の場合はどんな感じだとか尚更分からない。

 いやそれよりも、彼女の話には否定するべき箇所がある。

 

「待ってくれ。確かにあの日、俺はお前の姉から『紅魔館の運命を変える人物』だと期待を寄せられはしたが──正直、買い被り過ぎだと思う」

 

「──なんで?」

 

 俺の言ってる事が全く理解出来ないとでも言うように、少女は疑問の声を上げる。

 

「いや、分かるだろ? 無力で平凡な人間が、他人の“運命”だなんて大層なものに干渉出来る訳が無いからさ」

 

「う〜ん確かに。シントは無力でしょぼい人間なのは間違いないわねえ」

 

……別にしょぼいとまでは卑下してないんだが?

 

 異論を挟もうと思い口を開こうとすると、フランドールは唐突に手を伸ばし、俺の頭をさらりさらりと撫で始めた。

 一瞬、何事かと身体が固まる。視線を向けても彼女の表情は依然、薄い暗闇の中にあってよく見えない。

 

 

 

「でもね、他の紅魔館の皆の事は知らないけど──少なくとも()()運命は変えられると思うわよ? アナタにはそれだけの“力”があるから」

 

 頭を優しく撫でられている為か、彼女の声がとても穏やかで聞き心地の良いものに思えてくる。

 

「ああ、“力”と言っても、『常識に囚われる程度の能力』のことじゃないわよ? 仮にそれが無かったとしても、私にとっての価値は決して下がらないもの」

 

 まるで我が子をあやすような甘い声の響きに、安らかな気持ちになる。

 髪に触れる少女の小さな手の平からは、俺のことを本当に深く深く想っているのだと言葉無しに気持ちが伝わってきた。

 

 えも言われぬ安心感を覚える。

 あまりの心地良さに、気を抜くとついウトウトと寝入ってしまいそうだ──

 

 

 

 

 

 が、しかし。

 その心地良さを振り切って、暗がりで見えない無貌の吸血鬼を真っ直ぐ見据え、俺は一つ問いを投げかける。

 

「能力が無くとも価値は下がらない、か。……じゃあフランドール、さっきお前が言っていた『私にとっての価値』ってのはなんなんだ? 無力で平凡な俺に、一体どんな価値があると?」

 

 それを聞くとフランドールは手を止めて、クスクスと笑い出す。そうして両の手でこちらの頭を固定すると、ゆるゆると緩慢な動きをしながら俺の目を覗き込んでくる。

 そこでやっと、俺は彼女が先程までどんな表情をしていたのかを把握することが出来た。

 

「そんなの決まってるでしょ?」

 

 果たして俺の髪を優しく撫でていた時に浮かべていた少女の表情は、慈愛に満ちたものであったのか? 聞くものに安堵の念を抱かせるあの穏やかな声は、疑いようもない本物であったのか?

 結局それらは、俺が『そうであって欲しい』と願っていただけの錯覚だったのだろう。

 

 

 

 彼女は、ただただ嗤っていた。

 

 

 

「なんと言っても、私とシントは偶然にも巡り会えた()()()()()だもの! まさに御伽噺で読んだ『運命の出会い』ってやつね! ……そんな貴重なお相手に、価値を感じない方が嘘だと思わないかしら?」

 

「そうか、異常者か……」

 

 堰を切ったように熱っぽく語る吸血鬼の少女に向けて、俺はさっくりとした返答をする。と言ってもそれは、もはや返答にすらなっていないただの独り言だった。

 つい冷めた口調になってしまうのは仕方がない。仮に、俺の問いへの答えに異常性以外のことを挙げてもらえたのなら嬉しかったのだが。

 

 残念ながら俺は、フランドールのように“お仲間”ができたことに対して歓喜はしない。

 自分の持つこの唯一無二の異常性(あべこべ)を、心の底から疎ましく思っているが故に。

 

 

「ねえ、もうみんなには打ち明けた? 白状した? 驚いてもらえた? アナタの秘密、『藤宮慎人はまともなフリして実際は狂ってる』ってこと。別に隠す必要なんて無いじゃない。己の内に潜む異常を周囲に思い知らせるのは、自分に正直になって生きるのは、とっても気持ちいいことなのよ?」

 

 

 鮮血のような紅い瞳をぐいと近づけて、少女は囁きかけてくる。

 その話に、さらに限定するなら“自分に正直になって生きる”という所で、少し俺の心が揺らいだ。

 

 そういえば、『人里の皆になら秘密を打ち明けても受け入れてもらえるかもしれない』なんて考えた事もあったっけ?

 しかし住み慣れたあの場所であるからこそ、受け入れられなかった時の反動を想像すると恐ろしくて仕方が無かった。

 やはり、俺は自身の美醜感覚逆転を周囲に明かす訳にはいかない。押し殺すしかないのだ。外の世界でやってきたように、俺という存在が平凡である事を積極的に知らしめていかないと……

 

 そこまで考えて、目前にある吸血鬼へと意識を向ける。黄色いショートヘアが頬をくすぐっていい加減痒くなってきたのだが……さて、どうすればこの状況を切り抜けられるのだろうか? サッパリ分からない。

 

 まあ、なるようになるか。

 

「現状、あの事を誰かに打ち明ける予定はない。だから当分の間は期待に応えられないと思う。でも、フランドールの提案を悪いものだとは否定はしない。いつかは自分に正直になる日が来るかもしれない。でもそれは今じゃないって話で、えー、つまりはだな……」

 

 やばい、話の終着点が見えてない。全然なるようになってない。

 

 言葉に詰まって四苦八苦していると、陶然とした様子を一転させた、しょうもないものを見るような視線が突き刺さってくる。

 彼女の誘惑に乗らなかったのと考え無しに喋り始めちゃったこととで、なんだかフランドールの中で俺の株価が下落していってるような気配が……

 

「──まったく、今はそれでも構わないけど……いつか、その時が来るのを楽しみに待っているわ。気長にね」

 

 多分そうなる前に、俺は幻想郷から脱出してるんじゃないかなあ。未だに進捗状況が不明瞭だから断言は出来ないけど。

 

 内心そう思ったのだが流石に口には出さない。やっとお許しが出たのだ、下手に刺激してはならない。

 

 興醒めした様子のフランドールがベッドから離れたので、それに合わせて再び上体を起こしてみる。まだ軽い目眩はするが、それ以外は問題無い範疇。

 

 

 

 そのまま立ち上がって、地下室から出ようとする。

 

 今回はイレギュラーがあったが、基本的に『フランドールに血を捧げる』のタスクが終われば、俺は晴れて客人としてあてがわれた部屋にて絶品料理に舌鼓を打てるのだ。

 

 今日は午前中人里で依頼を終わらせ、博麗神社で賽銭投げと御札の補充をしたのち紅魔館へ行き、美鈴さんに稽古をつけてもらって──というそこそこに忙しい日だった。

 

 あとは飯食って寝て、朝方に人間の里へ帰るだけ。

 

 いやー今日も疲れたなあ、と心中でぼやきつつ階段へと繋がる扉に手をかけたその瞬間、フランドールから待ったの声がかかる。

 後ろを振り返ると、客人用の椅子を何処からか持ち出してきた吸血鬼少女が、それをベッドの近くに置いていた。

 

 

 

「今日はこの部屋に泊まりなさい。ありのままの欲求を無理に抑え込む事がどれだけ馬鹿馬鹿しいのか、丁寧に教えてあげるから」

 

「……十六夜さんが客室で夜食用意してるだろうし、着替えもそこに置いてあるんだけど」

 

 何やらふんすと意気込んでいる様子に危機感を覚え、拒否の姿勢を示してみる。それを受けて、フランドールは呆れた表情を浮かべる。

 

「咲夜は呼びつければいいだけだし、着替えも朝行って回収すれば解決よ。……それとも断るの? “綺麗”な女の子からのお誘いを無下にするだなんて──」

 

「分かった! 分かったから」

 

 どうやら思ったよりも彼女の意思は固いらしいと判断して、これ以上ごねても無意味と見てあっさりと降参する。

 

「そう? じゃあ早速ここに座ってね」

 

「はいはい……」

 

 用意された椅子に座り、ベッドに腰掛けるフランドールと向き合って話を聞く。

 

 生憎、自分のこの“女性相手にだけ美醜感覚逆転”の秘匿は継続するつもりなので、極論になるが彼女の言う主張を真面目に聞く必要は無かったり──しかしこれはこれで、中々に悪くないのかもしれない。

 

 さっきの言葉を尤もらしげに借用するのであれば、『自分に正直になって生きる』である。類稀なる“狂ったお仲間”であり、尚且つ“可愛いらしさ”も持っている少女と親しく出来る事のどこに不満点を見出せようか。

 

 この、『種族違いなのに同族意識がある』という奇妙な感覚に、どっぷりと浸りたくなる。向こうも同じことを感じてくれていれば嬉しいのだが、残念な事にそれは彼女だけにしか分からない。それを質問するのも何処か無粋に思えてくるし。

 

 抑圧・解放のカタルシスがどうこうと高らかに語るフランドールのその振る舞いも、見た目相応の幼さがあるように見受けられた。

 七色に煌めく宝石の羽根がぴょこぴょこと揺らめく様に自然と口角を緩めながら、引き続き可憐なる吸血鬼少女の話に耳を傾ける。

 

 まあ結局、それに時間を取り過ぎて夜食を済ませた直後寝る羽目になったんだけど。

 

 腹は落ち着かないし隣は棺桶で不吉だしで、その夜は尋常じゃない体験をすることになった。加えて翌朝レミリア・スカーレットからは「つまりフランと同衾したってコト!?」とかどうとか悲痛な叫び声と共に責められたのだが──流石にご勘弁願いたい。

 

 俺の認識としては一晩を棺桶と共に過ごしただけなのだ。全然美味しい思いをしていない。そもそもフランドールから誘ってきたのだから、やっぱりこちらが責められる謂れは無い。

 

 故に、胸を張ってこう主張出来る──俺は悪くねえ、と。

 




 

 己の異常性を自覚して、周囲との軋轢を恐れ隠そうとする者と、それを受け入れて躊躇いなく発露させる者 社会性を重んじ他人を頼りにして生きる人間と、個であっても十分に生きていける吸血鬼では、例え同じモノを見ていたとしても見方も考え方も変わってくるもんです まぁオリ主の場合はまた違っためんどくさい要素が含まれてくるわけですが



 実は、本編にある“ベッドの上に棺桶”という(人間視点だと)非常識就寝スタイルが公式準拠のものであるのか全く自信がありません 『吸血鬼と言えば?』のイメージが先行しているだけの可能性は十分にあります それかなんかの動画で見ただけなのかも 普通棺桶の中とかゴツゴツしてて寝づらいと思うんですけど、常識的に考えて 負担を軽減する為の縦長クッションでも置いてあるのかな

 でもあれですね、『棺桶はインテリアとして飾ってるだけで実際寝る時は邪魔だから退かしてます』と説明されたら何の違和感も無いですね 特にそれがレミリアの場合 ……特にそれがレミリアの場合
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