東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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 過去最長 & (比較的)情報過多な内容
 ゆっくり読む事をお勧めします 別に日を跨がせてもいいのよ?(露骨なUA稼ぎ)



真相を照らす光が明るくなれば

 

 

「──以上がこれまでに体験してきた、“常識に囚われる程度の能力”が発動したと思われる事例の全てです」

 

 あれから少々の時間経過を挟み、俺とお目当ての魔女──“パチュリー・ノーレッジ”と、赤いショートヘアの使い魔──“小悪魔”(名前というよりはただの種族名のような?)の三名は場所をひとまず移し、大図書館は中央部、そこに備え付けられていた一つのテーブルを囲んでいた。

 

 そして俺は今ちょうど、自分の能力についての大まかな概説をし終えたところ。

 

 それをする過程で色々と言葉を端折ったところはあるものの──なに、要は過去に“程度の能力”が発揮したと思われる場面集、それらを記憶からピックアップして簡潔に供述するだけだ。

 

 直近で言えばフランドールの“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”を無効化した事で奇跡的に一命を取り留めた、紅魔館を初めて訪れたあの夜の出来事。

 その時の事は何度振り返ってみても『能力が無ければ即死だった』と、そう誇張抜きにして断言出来る。

 

 しかし、その一方では紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の“時間を操る程度の能力”に俺はもろに影響を受けてしまう。そうなれば『じゃあむしろなんでフランドールの能力は無効化できたの?』という疑問が自然と噴出してくるのだ。

……というか思い返せば、当の吸血鬼が大層ご不満そうな様子をしながら実際にそう語ってたなぁ。

 

 

 

 

 

 ここで今一度、現在把握している“常識に囚われる程度の能力”についての情報を整理してみる。

 

 ・自分の常識にない事象を無効化します。

 ・でも、常識にない事象であってもモノによっては無効化できない場合があります。

 ・その無効化できる、できないの線引きは今のところ不明です。

 ・能力は常時発動していて、オンオフ・強弱の調整は不可能です。

 

……う〜ん、いくら自分にそういった能力が備わっていると知ったのが比較的最近の出来(俺が幻想入りした次の日)事だったからとは言え、認知していることが余りにも漠然とし過ぎている。

 

 他でもない自分のことなのになあ、と本日博麗神社にて魔理沙が何気なしに言っていた台詞をひっそりと反芻する。

 そして、今までの自分は一体何をしていたんだと情けなく思ってしまう。

 

 『幻想郷の常識を身につける』という目標に全ての労力を注ぎ込んでいたので仕方ないんです、余力も余裕も無かったんです! と声高に言い訳したいところではあるのだが、その実情は特にそんな事もなく。

 暇を見つければ人里散策に乗り出したり迷いの竹林に行ったり博麗大結界越えチャレンジしたり、割と気ままな日々を過ごしてるんだよなあ、俺。

 

 それはそれで中々悪くないものだったから、特段反省するつもりは無いのだが──

 

 兎にも角にも、今は自分の能力についてのこと。

 その効力の些細を明らかにする為に、俺は大図書館までやって来たのだ。

 

 せめて『どうしてフランドールの能力は無効化できて、十六夜さんの能力は無効化できないのか』──この疑問だけはすんなりと解消したいところだった。

 それが、あの狂気(類友)の少女が望んだことでもあるのだし。

 

 

 

 

 

「──成る程ね。まぁ仮説程度ならなんとか立てられそうな話ではあったわ。もっと多くの具体例を挙げてくれたらより参考になるんだけど、どう?」

 

 情報提供を受けて俯いたままに長考していたパチュリー・ノーレッジは、己の仮説の確度を高める為により沢山の判断材料を要求したいらしい。

 溢れんばかりの知性を予感させる紫色の瞳をこちらに向けて、催促してくる。

 

 それを見た俺は、残念ながらと首を横に振るしかない。

 先の言葉通り、さっき挙げた事例が己の体験した全てであったからだ。彼女の要求に応えたくとも応えられない。

 

 そもそもの前提として、多少の違和を感じはすれども俺は自力で『あ、いま能力が働いたな』と明確に知覚することができない。

 それを認知できるかどうかは“非常識”を働きかけてきた相手側の反応次第であり、なんにせよどうしても事後報告のような形となる。

 極端な話、その働きかけてきた相手が知らん顔を続行した場合、俺が自身の程度の能力が働いた事を察知するのはほぼほぼ不可能なのだ。

 

 以上、独力では如何ともし難い事実を伝えると、彼女はどうしてか憤懣遣る方無いといった表情で重い息を吐く。

 

「という事は貴方、さっき大図書館に押し入る直前に自分が何をしでかしたのか全く自覚してないってことなのかしら? てっきり私は二人が合意の上で結託して、此処に侵入しに来たと思っていたのだけど」

 

「……え、いきなり何の話です?」

 

 二人、というのが俺と魔理沙を指しているのは朧げながら察したものの、『押し入る』『侵入』という物騒なワードが飛び出してきたので思わず眉を顰める。

 別に出入り口に鍵がかかってた訳でもなし……あれか、入室する前はノックをするべきとかそういうマナーのお話?

 

 

 

 

……この時の俺はまだ、彼女が日常的に侵入者(魔理沙)対策として扉の取っ手に強固な結界を施していた事を知らなかった。

 そして知らずのうちに人様の結界に触れて使い物にならなくしてたのだと気がついたのは、もう少し後になってのこと。

 

 

 

 

 

「……本当に『何も知らされてませんでした』って顔ね。いいわ、さっきのは聞かなかった事にして頂戴」

 

「は、はあ」

 

 さっきの言葉は一体どういう意味なんだと内心で疑問に思いながらも、言われた通りにスルーすることにする。「結構自信作だったのに…」と残念そうに独り言するその姿に、あんまり追求すると自分にとって都合の悪い事しか起きないと、なんとなくの予感がしたのである。

 

「「…………」」

 

 『まさか何か不味い事でもしでかしたのか』とちょっと困惑気味な俺と、ちょっとテンションが落ち込んでいる(もとよりローテンションしてそうではあるが)紫の魔法使い。

 生まれた一瞬の沈黙が、やけに長々しく感じてしまう。

 

 

「こ、こちら紅茶になりますっ。どどどうぞ!」

 

 

 そんな、ふとした会話の途切れを埋めるかのようにして、トレーに二組のティーカップを乗せた赤髪の少女が歩み寄ってくる。

 

「ああ、はい。ありがとうございます」

 

 給仕のタイミングをこっそりと窺っていたのか、なんにせよ丁度良い。遠慮する事なくカップを一つ頂いておく。

……そうする過程で、彼女が妙に緊張している様子である事が気になった。

 現に話し言葉がところどころつっかえていて、ティーカップを渡す手は震え、中を満たす紅茶は高波を打っている。

 

 ────。

 

 

 

 

 

 

 唐突に、学生の頃の記憶──外の世界での過ぎ去った日常が呼び起こされた。

 それは確か人気の無い、夏蝉のけたたましく鳴く校舎裏でのやり取り。

 

『……ど、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか? ほ、本当は、先輩も、気味が悪いって──』

 

 その時はまだ、お互いにとっての適切な距離感というものを測りかねていた。

 両者ともに初めてのことだったからか、どうにも上手いように行かず。果たして何をきっかけにして仲を深める事が出来たのやら、今となっては克明には思い出せないけれど。それでも。

 

『──また明日、ですね! 先輩!』

 

 

 

 

 

 

……小悪魔さんのおどおどとした様子は過去に覚えがあり、その緊張は“他者とのコミュニケーションに慣れていない事”に起因するものではないかと予想立てる。

 

 気付かなかったフリをしてそのまま放置することも出来たのだが、それも忍びない事に思えたので、慣れぬ気を遣ってみる。

 

 なに、勘違いであればそれでよし。

 自分が少しの恥をかくだけだ。

 

 手前勝手のキザったらしい感傷ではあるが、相手のことを真摯に思い遣ればそれも許される、筈。

 そんなセンチな考えを胸に秘めて、俺はなるだけ穏やかな口調をするよう気を配る。

 

「あの、小悪魔さん。そんなに緊張する必要はないんですよ? 別に気を遣ってもらう事もありませんし、こっちとしては気楽に接してもらえたら──」

 

「えぇー! いえいえそんなとんでもない、です! へっぽこ悪魔な私としては今こうして男の人と会話できるだけでも非常に有り難いので!」

 

「……そ、そうですか」

 

 あ、あれぇ……?

 

 予想外な事に彼女は俺の台詞を遮り、眩いほどにキラキラとした好奇の目を突き刺さしてくる。その勢いは、こちらの表情筋が思わず引き攣ってしまうほどだった。

 

 そして今になって察したのだが、別に彼女は緊張状態であった訳ではないらしい。

 その『辛抱堪らん』といった表情を形作っているのは恐らく、彼女の奥底で目覚めし格好の餌食を前にした肉食獣的なサムシング。

 

……世説的に、悪魔とはあらゆる手練手管を通し人を堕落させることを生業としている存在なのだと伝え聞く。彼女がそれに該当する者なのかは定かではないが、何やら俺と会話することで本能か何かが燃え上がり始めたらしい。

 

 詰まるところ、慣れない他者とのコミュニケーションに四苦八苦する少女の姿なぞ、何処にも居やしないということだ。

 

 存在するのは現状、俺の記憶にだけ。

 色んな意味で、浅くも深くも悲しすぎた。

 

 涎と共に食い入るようにしてジリジリと距離を詰めてくる少女を背景に、ひっそりと心で涙していると、俺たちのやり取りを見かねたらしくパチュリーさんが仲裁に入ってきた。

 

「──はぁ、そこまでにしておきなさい。気持ちは判らないでもないけどみっともないし、なにより彼、困ってるじゃないの。嫌われても知らないわよ」

 

「ええ〜、でもこうして迫ってみても嫌悪感の一つも見せませんし〜。ならこの機会を逃すわけにはいかないんですよねぇ。……というかそう言うパチュリー様も前に話してましたよね? 確か『白馬の──』」

 

「実はここ最近召喚術の腕が上がってきてね? そろそろ見苦しく無い新しい使い魔を新調したいと思」「いやなんだか急にお仕事したくなってきちゃったなー! いやホント私使い魔の鑑って言うかー」

 

 そう言い慌ただしげに俺からピューッと離れ、主人の弾幕の所為で若干乱れてしまった本棚の整理を始める小悪魔さん。

 その大袈裟な身振りは主に自身の有用性をアピールする為なのか。

 

 しかしながら、そんな少女には一瞥もくれずに「じゃ、本題に戻るわよ」と仕切り直す紫の魔法使い。

 

 彼女は己の使い魔を『どうでもいい』と蔑ろにする態度と口ぶりではあるが、ちゃっかり小悪魔さんが淹れた紅茶に手をつけ顔を緩めている辺り、それが本音がどうかはちょっと疑わしい。

 ちょっぴり、彼女たちの普段の関係性が垣間見えた気がした。

 

「それで、私が立てた仮説だけど──」

 

「ああっとその前に、メモを取っておきたいので紙と筆──かペンを借りてもいいですか? 後でフランドールに伝えておかないといけないので。それに、自分がその仮説を正しく理解するのにも役立つだろうし」

 

「ええ、別に構わないわ」

 

 そうして、彼女の語る推論を傾聴する傍ら、俺は小悪魔さんが持って来た紙質の一風変わったノートと凝った装飾が施された万年筆を使い、その内容を整理していった。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 大図書館の魔法使い、パチュリー・ノーレッジの言うことには『常識に囚われる程度の能力』が適用される事象とされない事象の組み分けは、とある一点に着目する事で簡単に行えるらしい。

 そのとある一点というのはズバリ、『その事象の働きかける対象が、“個人に限定されているかどうか”』だ。

 分かりやすく具体例を挙げるとすれば、フランドール・スカーレットと十六夜咲夜のそれぞれが持つ能力が適当だろう。

 

 

 

 まず、フランドールの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』について。

 

 曰く、第一に壊したいモノの中に存在する“目”を見つけ、第二にその見出した“目”に対し手を(かざ)して握り潰す。その二つのプロセスを経る事で、能力は発動されるのだという。理論上、それで破壊出来ないものは一つの例外を除いてこの世に存在しない、とのこと。

 

 しかし能力を使用する対象を、その例外たる俺に指定したとすると。丁度あの時の地下室での出来事同様、フランドールは俺を“破壊”することが出来ない。

 何故ならば、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は“俺の常識に無い”事象を引き起こす上、“俺個人を狙う”必要性のある能力だからだ。

 

 

 

 では次に、十六夜咲夜の『時間を操る程度の能力』について。

 パチュリー曰く、『時間を止めたい』と思考する──たったそれだけで能力が発動するらしい。

 

 フランドールとは別のベクトルでぶっ飛んだ力ではあるが兎に角、これを発動させる際、周囲に俺が居るものと仮定する。すると『常識に囚われる程度の能力』はその効力を発揮せず、俺は止まった時の中でただひたすらに沈黙することになる。きっと時間が止まったことにすら気付けないだろう。

 何故ならば、『時間を操る程度の能力』は“俺の常識に無い”事象を引き起こすものではあるものの、“俺個人を狙うものではない”からだ。

 

 彼女が能力の対象としているのはまさに時間の流れそのもの。そして時間という絶対法則に常日頃従う俺は()()、その流れに従うしかない──という理屈だ。

 

 

 

 更に一つ例を増やすとすれば、八雲紫の『境界を操る程度の能力』が筆頭に挙げられるだろう。

 

 そもそも、あのスキマ妖怪の敷いた“常識と非常識の境界”の影響を受けて俺は幻想郷に引き寄せられたという話だった。

 が、しかし博麗神社にて彼女は俺という存在の境界を操って“幻想側”から“現実側”へと戻す事が出来ないと言っていた。

 

 一見矛盾しているようではあるが、今となってはこう考えられる。

 

 科学技術が発展した外の世界に於いて未だ残留する“幻想側”の存在を()()()()招き入れる“常識と非常識の境界”とは違い、アイツは“俺個人を対象にして”その能力を発動させようとしていた。だから不発に終わったのではないか、と。

 

──ならば、俺が外の世界への帰還を果たす条件として彼女が言っていた『貴方はまず、その中途半端な常識を捨てて幻想郷の常識を身につけなさい』とは一体何を意味しているのか。

 

 非常識な常識を、非常識な日常の中で、自ら水を被るようにして身につける。

 

 仮にその発言が、“藤宮慎人”という存在を幻想郷の環境へと完全に埋没させる事を意味するのだとしたら。

 “現実側とも幻想側ともつかぬ中途半端な奴”から幻想郷に於ける“特別ではない何者か”に変じられるとすれば、何かしらが上手いこと作用していくという事なのか。

 

……なんだか頭がこんがらがってきた。

 

 やっぱ今のナシ。いくら思考の沼に沈んでみても埒があかなさそうなので、一旦スキマ妖怪の事についてのアレコレは忘れることにした。

 どれもこれも、思わせぶりな事ばかり言って、その本意が全く読み取れないアイツの胡散臭さが全て悪い──そんなことを心の中で愚痴りながら。

 

 

 

 

 

 

「ざっとこんな物かな」

 

 サラサラとフランドールに報告すべき事をノートに書き終えて、万年筆をテーブルに置く。

 思えば幻想郷に流れ着いてからというもの、硯に墨に毛筆という一昔前の執筆スタイルばかり。その為に、こうして学生時代に似た手の感覚でメモをするのは一周回って新鮮であった。

 

 マヨヒガでも現代的なノートとシャーペン果てはホワイトボードなどという代物も確認できたが、結局使わせてもらえないし。

 

……そういえばこの頃マヨヒガ教室に通う頻度が減ってしまっているが、藍さんと橙ちゃんは元気しているだろうか。今度またお土産持っていかないとなあ。

 

 そう背伸びしながら考えていると、推測を述べ終えたパチュリーさんがどうにも不満そうな表情を浮かべているのに気が付いた。

 そのいかにも『不完全燃焼です』と主張している端正な面持ちに問いの視線を投げかけると、彼女は深く嘆息する。

 

「仮説は立てられたけど、やっぱり具体例に乏しくていまいち確信を得ないわね」

 

 どうやら自分の打ち立てた考えに納得いってないらしい。いや、納得いってないというよりは、根拠となる事例の数の少なさにモヤっとしているという方が適切か。ともすれば、数さえ用意できればまた違った仮説が聞けたのかもしれない。

 

 いずれにしろ気の病み過ぎだと思う。

 或いはその細やかさこそが、彼女の持つ性質なのかもしれない。

 

 『魔法ってのは繊細な代物で、取り扱いには十分注意しないといけないんだぜ』といつかの白黒の魔法少女が訳知り顔で言っていた。

 

 きっと魔法使いという“種族”は、大なり小なり押し並べてそういう神経質さを備えているのだろう。研究者として待ち合わせるべき資質、と言い換えても良い。

 繊細──紅魔館の正面扉を派手にぶち抜いたあの子には到底似合わなそうな形容詞ではあるが、まあしかし彼女はあくまで“職業”魔法使いらしいから……

 

「えー、俺は結構腑に落ちましたよ? むしろ『これしかない』とすら思いましたけど」

 

 ひとまず先程の仮説に不満は無いので一応のフォローをしておく。だがそんな意見に彼女は懐疑的な表情を見せる。

 

「本当かしら? ……いえ、やはり不安ね。もっとデータを集めないことには断定出来ないわ。というわけで貴方、いま時間良いかしら?」

 

 『もっとデータを』と聞き若干の嫌な予感が頭をよぎった。だがフランドールにこのメモを渡すのは自分であると考えると、確かにこのままだと内容が薄味で少しヤバいのかもしれない。

 

 『この程度のことしか判らなかったの? じゃあいつもより多めに血をいただくわね』と俺が憐れにも吸い殺されてしまう可能性は否定できない。ならば、今は彼女と話を合わせて協力するのが望ましいか。

 

「……ええ、まあ。夕方頃には人里に帰ろうと思っていますが、それまでに終わるのならなんとか」

 

 俺の能力が適用されるものの定義をさくっと明かして見せたパチュリーさんには、是非に手を貸したいと思ってはいる。が、申し訳ないことに本日は先客がある為、時限付きの条件を添えさせてもらった。

 

 実は今晩、特急で新しい我が家を建ててくれてる里一番の建築士たちが主催する飲み会にお呼ばれしていて、日が落ちるまでには人間の里に戻らないといけないのだ。

 まだ完成してもいないのに随分と気が早い話ではあるが、『普段は身内でのみの宴会だが、お前は資材の運搬役としてしっかり働いてたろ? なら参加資格はバッチリよぅ』と気さくに声をかけられては、流石に断りを入れられなかった。

 

 そんな条件を聞いた魔法使いの少女は、それを飲む前に一瞬考え込む仕草を挟んだ。

 

「夕方まで、ね。ええ、特に問題無いわ。実証実験のペースをその分詰めるだけだから」

 

──うん? 実験?

 

「……今の発言で何となく先が読めましたが、一応聞いておきましょう──いったい俺は今から何をされるので?」

 

 これ絶対碌な目に遭わねえよと八割方確信しながらも、問いを投げざるを得ない。しかし彼女は俺の質問にすぐには答えず、視線を俺に──いや俺の後方に向け、使い魔の名を呼びかけた。

 

「小悪魔」「はぁい♡」

 

 いつの間にやら背後に回っていた少女が、椅子に座る俺の両肩をひしっと抑える。

 その手は軽く今にも力づくに払い退けられる程度の拘束力であったが、そうする前に対面に座っていたパチュリー・ノーレッジが立ち上がった。

 

「繰り返しになるけど、実証実験よ。貴方の“常識”が何処までの許容範囲を示すのか、さっきから好奇心が疼いてやまないから我慢なさい」

 

「……ギブアップの合図は“右手を上げる”で良いですか?」

 

「何も理解していない割に魔力も霊力も神力も法力も全て総括して『非現実的エネルギー』と見做している様子なのが引っかかる。それに能力の指向性が万が一にも反転するような事があれば──」

 

 腕を組んで片手を口元に当てて、一人ぶつくさと何事かを呟き始める大図書館の主。こちらの主張に耳を貸してはもらえないようだ。

 

 ああ、被害を抑える為に瞬で脱出を諦めたのに、この感じだと無為に終わるっぽいなあ。いつでも限界を告げる心の準備は出来てるんだけど。

 

 てかアレだな、このまな板の鯉状態は永遠亭で身に覚えがあるな。銀髪と紫髪だったりで外見上の要素は美人である事以外はあんまり似てないが、状況が状況なだけにどうにも二人の姿がダブって見える。

 

 どうしてこう、学者肌な人物ってヤツは矢鱈と人を実験台にしたがるのか。ちょっと被験者側の身にもなって欲しい。

 

「あちゃー、パチュリー様の悪い所が出ちゃってますねえ」

 

 『スイッチの入った研究者相手に真っ当な対話は通じん』と断念し、ならもう一方はと見上げてみると、視界に収まるのは小悪魔さんの側頭部で揺れる一対の蝙蝠の羽根だけだった。

 

「あの、小悪魔さん。出来れば手を離してくれないかなーって。逃げたいんです、今すぐ」

 

「ん〜まぁまぁ良いじゃないですか。折角ですし、ゆっくりしていってくださいよぉ。男日照りな私たちにとってこんな触れ合いは滅多にないチャンスなんですから」

 

「触れ合い……これが、触れ合い…? って、あれ。こういう状況って別にチャンスって言わなくない? むしろいつ愛想尽かされてもおかしくない大ピンチなのでは?」

 

 そうこうやり取りを挟んでいるうちに、紫色の魔法使いが手前にまで接近してくる。

 心なしか目が光り輝いているような。

 

「まずは基本的な構造の魔力弾から。それから次第に弾の構造を高度化させていけば、いずれは……ふふ、興味尽きないわね」

 

 そんな言葉を聞いて、頭の中では弾に滅多撃ちにされてボロボロになる自分の姿を幻視した。これはアカン。

 

「いやぁ、それは流石に不味いんじゃないかなあ! 絶対痛いですよねぇそれ!」

 

「……何を案じてるのか薄々察したけど大丈夫よ、別に貴方を的にするつもりはないわ。私が今から精製する物質をその手に収めてもらうだけの簡単なお仕事だから」

 

 心配無用よ、と主張するようにして彼女はわざとらしく肩を竦める。……その発言は本当に信用して良いものか。

 

「それに、突然目の前に転がってきた面白い実験た──いえ、レミィが正式に招いた客人を粗末に扱うだなんてこと、友人である私にはとてもじゃないけど出来ないわ」

 

「今『面白い実験体』って言いかけました?」

 

「じゃ、早速始めましょうか」

 

「口先だけでもいいから否定して──くれませんか、そうですか」

 

……結局、大図書館に備え付けられた時計の短針が日暮れを示すまでの間、俺はパチュリーさんの実験に半強制的に付き合わされる事になったのだった。

 

 雑談がてら突然悪気も無く『次はこんなのどうかしら』と軽い調子で未知に晒されるのは、中々に珍しい体験だった──と言い表したいところなのだが、俺は既に八意先生との治験で似たような事を経験済みであったので、大図書館での実験中はどうにも既視感の連続だった。

 実験台になる事にデジャヴを感じるとは変な経験積んできたな、と自分で自分に呆れたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大図書館の魔法使いによる実験が終わり這々の体でその場を後にした俺は、誘われた宴会に遅れてはなるまいと気分を切り替え、人里目掛けて帰路につく。

 その道中、更なる受難が待ち構えていたとは知らずに。

 

「あれ、あんな粉々になってたのにもう直ってる」

 

 館の廊下を飛行する俺は、紅く広々とした玄関ホールに辿り着く。すると紅魔館に入る際、魔理沙のスペルカードによって破壊されていた筈の正面扉が傷一つ無い状態で鎮座している事に気がついた。

 

 妖精メイド達がめっちゃ頑張って修繕したのかな──などとぼんやり考えながら床に降り立ち、その扉に手を伸ばす。

 

 軋む音とともに暮れなずむ庭園景色が徐々に広がっていくと、視界先の正門近くで見覚えのある少女二人の姿を確認した。

 

 そのうちの一人、緑の中華服を着た少女は地面に正座していて、もう一人のメイド服少女は何やら不機嫌そうな顔をして相手側を見下ろしている。

 見るからにして只今お説教中、という感じだ。

 

 あの人はまたぞろ昼寝でもしていたのだろうか?

 そう予想しながら彼女達の方へと近づいていく。挨拶もせずこのまま頭上を飛び去るのは失礼に当たる、そう考えてのことだった。

 接近するにつれ、二人の会話が聞こえてくる。

 

「本当、いつになったらちゃんと門番の責務を果たしてくれるのかしら? 余計な業務を増やさないで頂戴」

「咲夜さん、説教はもう勘弁してくださいよう。十分に反省しましたから〜」

「もう、貴女はいつもそう言って──」

 

「あー、どうもこんにちは。二人とも」

 

 十六夜さんの説教がヒートアップする気配を感じ、すでに頭に数本のナイフを生やした体術の師を庇おうと咄嗟に言葉で割って入る。

 

「おや、藤宮さんじゃないですかー! 確か今日は訪問予定日ではなかった筈ですけど、どうしてここに……というか今、館から出て来たんですか? え、私の見間違いではなく?」

 

 愛弟子の姿を確認したからなのか、それともメイド長の注意が逸れたからなのか、嬉しそうに立ち上がりかけた彼女はしかし、その寸前で俺がやって来た方向に疑問を持ったらしく、その明るくなった表情を少しずつ曇らせていく。

 

 ああ、うんごめんね?

 

 行きがけ声をかけたかったんだけど魔理沙が『お疲れみたいだから、そっとしてやろうぜ』って優しい声音で言うもんだからさー。

 今思うと結局扉をぶち開ける予定だったから、そっとするも何もなかったんだけどさ……

 

「ええ、実は──「丁度良い。私、貴方にも言いたい事があるの」──え、ちょっと!?」

 

 彼女たちに事の経緯を伝える必要性を感じて口を開こうとすると、目の前にパッとメイド少女が表れて胸ぐらを掴まれる。

 そのままぐいっと引っ張られ、あっという間に(というか認識しないうちに)美鈴さんの隣で俺は正座させられていた。

 

 恐るべき早技である。というか、時間が止まるのに『早い』も『遅い』もないような気がする。

 つくづく『時間を操る程度の能力』に対して無力だなぁ! 自分の能力ぅ。

 

「……あのぅ十六夜さん、何故このような事を?」

 

 乱された胸元の着付けを整えながら問いかけると、銀髪の少女は普段の澄んだ無表情さを感じさせないニッコリとした笑い顔を()()()

 

 アレは“紅魔館の瀟洒なメイド長モード”ではなく“限り無く素に近いモード”だ──となんとなしに、本能で理解した。

 

「妖精メイドから『いつものお星さまの魔法使いと、最近よく見かける人間の男が大図書館に向かっていった』と報告を受けてね。魔理沙はパチュリー様の担当だけれど、きっと貴方はまだ無断侵入について何の咎も受けていないでしょう? だから、私が美鈴のついでに折檻して差し上げようかと思いまして」

 

 怖い、笑顔なのが逆に怖い。俺からして美少女なのでそれに拍車がかかっている。

……だから、情け無い命乞いをしたところで誰に責められようか。

 

「あの、俺一応、君の主人からは『客人として歓迎する』って言われてるんですけど?」

 

 主の前では完璧な従者として振る舞う彼女に覿面(てきめん)な言い訳だと思われたそれは、だが逆に少女の気分を逆撫でにしたらしい。

 

「あの木っ端微塵になった扉、誰が苦労して直したか判るかしら?」

 

「………………妖精メイド?」

 

「彼女達は修繕作業なんて退屈なこと、進んで手伝ってくれないわよ。そういう損な役回りはいつだって私に降りかかってくるの。腹立たしいとは思わない?」

 

 俺は、選択を誤った。

 少女の湛える笑みが、なんと二割り増しになった。

 余りのことに青ざめていると、尊敬すべき師匠の声が耳に届いてくる。

 

「藤宮さん、藤宮さん、これ以上の刺激は不味いと思います。素直に諦めて一緒に運命を共にしましょう」

 

「奇遇ですね美鈴さん。俺もまったく同じこと考えていました」

 

 まだそこまで稽古の回数は重ねていないのだが、今この瞬間(とき)をもって俺たちの師弟の絆は絶対となった。

 

 心が軽い、こんな満ち足りた気持ちで説教を受けるのは初めてだ……もう何も怖くない。

 

 横を見やれば気の所為か、正座しながらも立派に背を伸ばす美鈴さんの姿が何処となく眩しく見える。

 その頭にぶっ刺さって夕日に煌めく銀のナイフは、もはや勲章と見做しても差し支えない。

 惜しむべきは、『こんな状況じゃなかったらもっと格好良く見えただろうな』と考えずにはいられない点か。

 

「貴方達……ここは一度、とことんまでやるべきなのかしら?」

 

 そんな呟きを皮切りに、メイド長の長きに渡るお説教タイムが始まった。

 その影響を受けて、夜中里で催された腕利きの大工達による飲み会に大遅刻をかましてしまったのは、もはや言うまでもない事だ。

 『落成式代わりにまた宴会やるから……ほら、そう気を落とすなよ』とむくつけき野郎どもから励ますように気を遣われたのが、せめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

「本を借りたい? 別に認めてあげても良いけど、今度来る時は一人でお願いするわ。特に、間違えてもあの泥棒鼠とは同行しない事。あと無闇に此処の物に触らない事。それと当たり前の事だけど、借りた本は指定した期限内にちゃんと返却する事。以上を守ればいつ来てももらっても構わないから、良いわね?」

 

「ああ……ハイ、分かりました」

 

 すごすごと、萎れた様子をしながら人里へと戻っていく珍しき大図書館の闖入者。様々な実験と無理に付き合った結果なのか、その儚げな後ろ姿は見る者にやんわりとした同情心を誘ってくる。

 

 そんな意気消沈する青年を見送った小悪魔は『流石に悪ノリが過ぎちゃったかなぁ』と外界に存在する世界一浅い海、アゾフ海よりかは深く深く反省をする。

 つまり、あんまり言うほど反省しなかった。

 

 彼女はいくら端くれと言えど立派な悪魔という種族である。契約を重んじ刹那的な悦びを好む傾向にある種族が、どうして契約を反故にされた訳でもなしに己の行動を自戒する必要があるだろうか。

 

 あの青年を認識した初めはそれはもう飛び上がるほどに驚愕したものの、一旦それを飲み込んでしまえば彼女のペース。

 

 目と目が合って、ちゃんとした会話が出来て、隙をついて肩に触れたりもして。人間かつ男という珍奇な存在と気の赴くままに“ふれあえて”、彼女は満足げに吐息をつく。

 

 彼はこの後も本を借りに、定期的に大図書館を訪ねるつもりなのだと言う。

 現代日本語で書かれている貯蔵本を早速リストアップして喜ばせないと──と小悪魔は己の感性に従って、自分なりに青年を歓迎する算段をつけていた。

 

 

「ずいぶん楽しそうね、小悪魔」

 

 

 小悪魔がウキウキ気分で彼が好むであろう本のジャンルに予想をつけていると、その様子を見かねた使い魔の主はそう短く指摘した。先程から、使い魔の仕事効率が目に見えて遅くなっているのを見逃さなかった為である。

 しかし、彼女達の付き合いはそれなりに長い。小悪魔は主からの『使い魔としてちゃんと働け』という言外のメッセージを正確に理解しながらもスルーを選択した。

 というのも、あの青年がまた此処にやって来てくれると言うのに、主の表情が(元からではあるが)イマイチ晴れていなかったからである。

 

「そう言うパチュリー様はあんまり楽しそうではありませんね。どうしてです? 本の貸し出しをあっさり許可したので、てっきりあの青年のことを気に入ったんだとばかり思ってたんですけど。もしや何か気に食わない点でもありました?」

 

「まぁね、有ったわよ。彼の話を聞いてから、気に食わない点が一つ」

 

「へ〜、それは一体──」

 

「……その話をする前に、貴女にはやるべき事があると思うのだけど?」

 

 自分のこの考えをありのままに話せば長くなりそうな予感がしたので、パチュリーは使い魔との会話を強制的に切り上げる。

 「ええ〜、そんな事聞いたら気になって作業しにくいじゃないですか〜」と恨みがましく抵抗するも主の口が相当重いと見るや、小悪魔は仕方無しに諦めて本棚の整理をしにその場を離れていった。

 

 

 ラウンドテーブルに、紫の魔法使いがひとつ残る。

 

 

 魔法に研鑽するときと同様このシンとした環境こそが、彼女の思考が最もまとまり易いシチュエーションだった。

 そんな寂然とした空間の中で、少女は使い魔に言っていた『気に食わない一点』について、取り留めも無く思索を巡らせる。

 

 それを一言に集約すれば、『藤宮という元外来人に関して、境界の妖怪が裏で何かを企んでいるみたい』というものだった。

 

 パチュリーが奇妙に感じ始めたのは、実験の合間に雑談として耳に入れた、彼が初めて『常識に囚われる程度の能力』の存在をはっきり認識した時のこと。

 

 なんでも、博麗の巫女が彼を外の世界に送り出そうとしてそれが失敗に終わった際、八雲紫が突然境内に現れたらしい。

 そして、あれよこれよという間に彼の持つ能力の効果を看破したのだとか。ご丁寧に、『常識に囚われる程度の能力』という名札付きで。

 

 それを聞いた時、パチュリーはこっそりと驚愕したものだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 彼が幻想入りした瞬間即座にその存在を捕捉していたのか、登場してくるタイミングもやや出来過ぎだった。彼に『現状では幻想郷から抜け出せない』とこの上無く意識させた事で、己の話に否が応にでも真剣に聞くように誘導した可能性がある。

 

 溺れる者は藁をもつかむ。

 では、その藁が本当に救いの手であるという保証は、一体誰が行うのか。少なくとも、溺れる者にそんな事を気にかける余裕など一切無い。

 

 

 

 疑念を持ったパチュリーは、引き続き雑談を通じて青年と境界の妖怪の関係性について探っていった。

 すると、その疑いは確信へと変わっていく。

 

 なんでも彼は八雲紫の拠点一つ、マヨヒガに度々お邪魔していて、彼女の式から幻想郷に関する知識を授けてもらっていると言う。

 

 そこまでの移動手段は二つの地点を繋げるスキマで、曰く『とても気味が悪いが我慢すれば、あっという間に目的地に到着する便利なモノなのだ』と。

 最後に『藍さんのお陰でここの地理に関しては自信がついてきた』と彼は嬉しそうに語っていたが、果たして気付いているのだろうか。

 

 

──スキマを制約なく利用出来るのであれば、博麗大結界も“幻と実体の境界”も“常識と非常識の境界”も関係無く、そのまま外の世界に送って貰えば万事が解決するじゃない、という至極単純な事実に。

 

 

 それが可能である事は八雲紫のみならず、その直属の式神も知っているだろうに。

 そうしない理由は、“彼を何としても幻想郷に留まらせたいから”以外には考え難い。

 

 何か、動機がある筈だった。

 そこまでして彼に執心するに足る理由が、確実に存在する筈だった。

 

 それは『常識に囚われる程度の能力』のことなのか。

 はたまた紅魔館の醜い面々と正気でありながら次々と気安い関係を築いていく、彼の異常な精神性のことなのか。

 或いはそれらとは全く異なる、意識外に潜む“ナニか”か。

 

「……ま、これ以上彼と境界の妖怪の関係性について推察するのはやめておきましょうか」

 

 動かない大図書館は一人、そう呟く。

 

 彼の話を聞くだけで、ポロポロと疑問点が浮かび上がってくる。ならば、それを想定しないスキマ妖怪ではない。つまりは今現在のパチュリーのような疑念を持った者に、彼女は問いかけているのだ。

 

『この私に断りなく、彼に真実を伝える意思はあるのか』と。

 

 そんな余りにも傲慢が昂ぶった主張に、七曜の魔法使いは「否」を返す。

 いくら友人が関心を寄せる者であったとしても、たった人間一人の為だけに、幻想郷を裏で牛耳る最古参の妖怪と事を構えるのはどう考えても賢明ではなかったからだ。

 

 それに、である。

 

 そう問いかけてくるという事は、当然『もし彼に真実が伝わったとしても問題は無い』と八雲紫は判断している訳で。

 自分以外誰も存在しない場で、しかし誰かに言い聞かせるように、再びパチュリーは一人呟く。

 

「真相を告げたところで、恐らくはもう手遅れなのよね。……まったく、スキマの暗がりの中で一体何を企んでいるのやら。私にはサッパリ判らないわぁ」

 

 

 

 

 

 

 唐突に彼女は首を曲げ、とある空間の一点に注視した。

 

「──そういう訳だから、もう退散して良いわよ。境界の妖怪と違ってマメな性格してるわねぇ」

 

 そこは一見何も存在しない空間で、傍目から見ればパチュリーが虚無に向かって話しかけているように思えた事だろう。

 だがしかし、約百年もの時を魔法の研究に費やした彼女の眼を以てすれば、確かにその空間に些細な一筋のヒビが入っていることは瞭然であった。

 当然、その奥に潜む九つの金色の尾も同様である。

 

「それとも、貴女は主人の意向にご不満なのかしら? ダメじゃない、ペットはご主人様の言う事に従わないと。飼い主の威厳が損なわれてしまうわよ」

 

 覗き見をされて機嫌を悪くしない者はそう居ない。

 嘲笑混じりにパチュリーが語りかけると、その空間に入ったヒビはゆっくりと薄らいで消えていった。

 

 

 

 

 

「この調子だと彼、幻想郷に来てからずうっとスキマ妖怪の監視下に置かれていたのかもねえ。……何にせよ、気の毒な男ね」

 

 やがて、その場で本当に一人となったパチュリーは、心底愉快そうにして微笑んだ。

 




 
 
 今章は章題の通り、オリ主が自分の生まれ持つ能力について理解を深めていく章でした まあ思わせぶりに引っ張った割にはあっさりめな感じですが、そこはほら、それくらい紫もやし(蔑称にあらず)の頭脳が優秀だったという事でここは一つ なんかオリ主の知らないところで意味深なこと考えてもいますし

 ぶっちゃけた話、『常識に囚われる程度の能力』についての説明が読者目線からだと分かりにくいような気がしてて不安になっております これでも色々と書いたり消したりを繰り返してそれなりに頑張った結果なので、作者の説明力・描写力の限界を窺わせる一幕です 「ニュアンスだけでも伝わってくれ」と願うしかないこの状況、泣けるね

 一応オリ主の持つ能力についての定義付けは今回で完了したと捉えているので、これに関して何か不明点・気になる所があれば感想ついでに質問どうぞ 敢えて回答をぼやかす事もあるかもしれませんが、基本的に誠意を持って返答する次第です
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