──なんでもこの世には、“力無き妖怪”なるものが遥か昔から存在してきたらしい。
何故、その所業が判明したのにも関わらず、命蓮寺に擦り寄ってやろうと目論んでいた不届き者が、これといった処罰も無しにこのまま見逃されようというのか。
その理由を知るべくして聖さんが語り出した話に引き続き意識を傾けていると、ちょっとスルーできない言葉の組み合わせが耳に飛び込んできた。
なので反射的に俺は、一体それはどういうことなのかと素朴な疑問をぶつけざるを得なかった。その結果「心苦しいことにそんな彼等には、人間から長らく虐げられてきたという負の歴史が〜」と重々しく続いていた彼女の言葉を差し止める形になってしまったのは、本当に申し訳なかったのだが。
『いやいや、「妖怪」という超常的な存在に対し「力無き」などという情けない言葉は到底当て嵌まるように思えない。おおかたその「力無き」という形容詞は、あくまで“妖怪にしては”という相対的評価の話で、例えば俺のような普通の人間からすると十分過ぎるほどの脅威だったりするんでしょ? つまり常人からしてみれば“力無き妖怪”なんてものは、実質的に存在し得ないってことなのでは?』
これは二日連続で妖怪に襲われた経験のある身の上ゆえに、思わず口にした疑問だった。
この世界に迷い込んだ直後遭遇した人喰い少女然り、博麗神社までの道行きで襲ってきた大型の化け物然り。
もしあの時、自分に自衛する手立てが備わっていなかったとしたら……そしてもしあの時、上白沢さんが案内役として妹紅さんを寄越さず、結果一人で神社に向かっていたとしたら。
その先に待ち受けていたであろう最悪の結末を想像し、かつて身震いしたことは忘れていない。
実在する妖怪というものは、ゲームや漫画で目にするような親しみやすくコミカルにアレンジされた存在などでは全くなく、こちらを察知した瞬間殺意をもって
詰まるところどうしてもそういった物々しいイメージを拭い去れないでいた自分は、“力無き妖怪”というワードに対して途轍もない違和感を覚えたのだ。
……とはいえその疑問は所詮、たった二十年程度の人生経験しかない凡人の抱いた未熟で不出来な見解によるものに過ぎない──のかもしれず。
ともすれば千年もの大昔から人妖融和を志していたという聖白蓮その人にとっては、甚だ見当違いな所感である可能性が高かった。
だから、どうして俺が“力無き妖怪”という概念に懐疑的であるのかを、先のスリリングな体験談でもって住職さんに詳しく伝えたところ。
『ええと少し、少し待ってください?』
そうすると先程まで少々の陰が差していた彼女の表情は一変しており、どこか困惑した面持ちで目をパチクリ瞬かせているのが見て取れた。
『つまり貴方は、妖怪が振り撒く脅威を身をもって知りながら、これまでの数日を私達と共に過ごしていたと?』
『え? あー、まぁはい。そうなりますかね』
『……その、私が昨日今日のことを思い返した限りでは、あの子たちとは相当打ち解けていたように見受けられましたがそれは──』
『それはそういうカバーストーリー…作り話で辻褄合わせて行こうぜって一昨日酒を呑みながら打ち合わせてましたから。言うなれば全部演技ですよ、演技』
『すべて、演技…?』
『まあ実を言うとこっちはなにぶん修行に集中するのに手一杯でして、あんまり仲良しアピールとか意識できてなかったんですけどね。なので聖さんの仰る通り、もし俺と彼女達が相当に打ち解けているように見えたのなら、そこら辺はムラサと一輪がうまい役者だったってことなんでしょう、多分ですけど』
『な、なるほど…? ですが二人とも決して腹芸に長じては……』
戸惑い。呆けたような嘆息。
微かな呟き、のち黙考。
『あのー、聖さん?』
こちらとしては、自身の放った言葉によって彼女の心境にどういった変化が訪れたのかなど測りようもなく。
どうしてそんな一答ごとに忙しなく表情が切り替わるのか、怪訝に思いながらそれでも馬鹿正直に白状していったその末。何かしらを考え込む様子の彼女に、何かしらの声をかけようとして、
『──その、恐ろしくはないのですか?』
それが、恐縮しつつもどこかソワソワとした落ち着きの無い雰囲気であると感じたのは錯覚か。
さりとて上目遣いにて述べられたその言葉には、なるほどと腑に落ちた。
ずばり彼女はこう言いたいのだろう。この寺に居る住人は皆が皆例外なく人外である。ならばつい先日妖怪という人外の一種から襲われたばかりの人間にとって、命蓮寺とはこれ以上無い危険地帯なのでは?と。
ごもっともな疑問である。がしかしその実、つい二日前、既に似たような問答を経験済みだったわけで。返答に要する時間は一瞬だった。
『まさか、ちっとも恐ろしくなんかありませんよ』
もう少し自分の性格が快活であれば、その問いかけを盛大に笑い飛ばしていたことだろう。
この身を脅かさんと襲ってきた凶悪な妖怪と、命蓮寺に住む彼女たち。同じ“人外”という括りでこそあれど、入念に記憶を辿るまでもなく、ここで暮らすようになってからは一度たりともこの命に危機が訪れたことなどない。むしろ、金欠で困窮していたところを救ってもらっている状況ですらあるのだ。
だと言うのに、どうして俺に色々と良くしてくれている彼女達と、里の外にいる危険な妖怪とを混同できようか。
まともな思考能力をしていれば、そんなことは老若男女問わず誰にだって分別のつくことだ。取り立てて深く考える必要もない。
『なんと言うかまぁ、そもそもの発端があの酒好き妖怪二人の「人目を盗んでこっそり酒飲みてぇ〜」なんですよ? もしかするとこのままこのお寺にいると殺されちゃうのでは…とか大真面目に警戒するのもバカらしい話でしょ?』
こと“命蓮寺外来人酒密輸事件”に関して、俺が住職さんに隠し立てすることは何も無い。
なのでそこを踏まえた冗談めかした返しを、殊更に冗談めかした声音で言う。
『……成程。それであれば、確かに』
すると聖さんは得心がいったようで、控えめながらもクスリとその表情をほころばせていた。
『きっかけがお酒というのは、私の公としての立場からすると到底受け入れがたいお話なのですが』
──そうですか、そうですか。
その様子が何やら深く感じ入ったもののように見えたのは、きっと自分の思い過ごしなのだろう……
と、そう勘違いしたままの形でこの話題を切り上げられたら良かったのだが。
『でしたら貴方を見込んで、一つお頼みしたいことがあるのですが』
……引き受けて下さいますか? 斯く斯く然然と説明した後、遠慮がちにそう訊いてくる彼女の表情を見て、俺は内心で甚く苦笑することになった。
それは、その『お願い』の内容が余りにもささやか過ぎる代物であったからであり。
しかしてそれが彼女にとっては長らく得難いものであったのだろうと、説明中こちらの顔色をしきりに窺う様子から容易に察しがついてしまったからでもあり。
そして同時に、こう苦々しく思ったからでもあった──よりにもよってそれを
••••••
昨晩の強風で吹き散ったらしい落葉を、高低差を利用しながらひたすらに箒で掃き落とし続けること暫く。
足元には自らが積み上げた緑の小山。見上げると、階段沿いにずらっと並ぶ赤いのぼり旗と、相変わらず立派な構えをした表門が目に映る。
うし、こんなもんか。
目先に伸び行くその硬質な石段の一つ一つが、今やくっきりと露出している様が確認できる。つまりは本日の修行体験、そのうちの一つがこれにて完了というわけだ。
……予定よりかなりスムーズに終わったな?
手に持った箒を杖代わりにしながら、そこから更に視線を上げる。すると陽の高さはまだ全然で、その光が頭の天辺に差し掛かるまでにはちょっとした時間が必要そうだと見て分かる。
どうやら、次の修行(昼食を支度する響子ちゃんのお手伝い)までは相当の時間的余裕がありそうだ。
じゃあ、それまで何をして暇を潰そうか。折角の空き時間に何もせず、というのはなんだか非常に勿体無い。是非とも有効活用せねば。
かき集めた落ち葉の山を参道脇の木陰に寄せつつ、そう思い立った。
「ほんと、どうすればいいのやら」
ひとまずは休憩しようと考え、箒をすぐ脇に置き石段に腰をかける。そうした後ふと脳裏にちらついたのは、ここ数日の体験入信中、半ば現実逃避ぎみに考えないようにしてきたこと。
つまり数日前、聖さんの自室にて交わした秘密の対談。その中でも取り分け、彼女が俺に頼んだ一つのとある『お願い』についてだ。
……はっきり言って、気が乗らない。
それは何故か? 別に到底実行しようもないぶっ飛んだ無茶振りだったから、というわけではない。
問題はむしろ、特に意識せずともその『お願い』を容易く達成できてしまうという点にある。
聖さんには、ひいては命蓮寺には大きな借りがある。一文無しな俺を助けてくれたこの恩に報いたい気持ちは山々なのだが、その内容が内容だけにあまりにも──まったく、今この時以上に『よりにもよって』という言葉が似合う状況はそうはあるまい。もどかしさの余りため息が出てしまいそうだ。
「うーむ、どうしたもんか……ああ、ダメだダメだ」
唸るようにして出た独り言がひとつ前のそれと大して変化のないものであると気付き、思わず天を仰ぐ。
いかん、このままぶつくさと物思いしててもどうにもならなさそうだ。ここは一旦大人しく寺に戻って、落雁でもつまんで時間潰しとくか。そんで次の修行にいくつか持っていってやれば響子ちゃんも大喜びするだろうし、それがいいだろう。
あのとき聖さんが頼んでいたあの『お願い』については、また後で考えよう。命蓮寺の体験入信は何もスケジュールが一日中ぎっしり詰まってるわけではなくどちらかと言えば自由時間のほうが長い。なので、考える時間自体は今後も沢山あるんだし。
あれ、なんか以前も同じような感じでこの問題を後回しした記憶が……と迫ってきた軽いデジャヴを振り払うようにして、バッと立ち上がる。
その勢いのまま、表門に続く参道を四、五段ほど進んだところで急ブレーキ。
おっといけない。危うく
お世話になってる先の備品を野晒しにしかけるなど、なんとも不注意なことだ。変に思いわずらって意識が散漫になっていた証拠だ。こんなんではまたぞろ一輪から『あんたってほんっと手のかかる人ね』とか呆れ顔で言われかねない。
炊事とか洗濯とか。今日に至るまで課されてきた数々の修行を乗り越えやっとのこと、自身の雑事に関するスキルを人並みにまで持って行けたというのに。こんな初歩ミスするなんて我ながら世話がない。
ともあれ立ち去る前に思い出せたのだ。このしょーもない物忘れが未遂で済んでよかったよかった。
少しだけの安堵と共にくるりと踵を返して。
眼下の光景からすぐに気が付いた。
あれ、無い?
ついさっきそこに置いてたはずの箒が、綺麗さっぱり無くなっている。風に吹かれてどこかへ飛ばされてしまったのだろうか──ってアホか。そんなわけあるかい。
急ぎ階段を降りて、そこにあったはずの地点を中心にして念入りに辺りを見渡す。
だがそれでも箒の姿形はどこにも無い。あるのは人間の里へと繋がる道、それと向こうを見通せないほどに連なる青々とした森林くらいなものだ。
おかしい、なぜ無いんだ。もはや物忘れとかそういうレベルじゃないぞこれ。もしやあれか。この幻想郷という世界には付喪神が普通に存在するのだから、俺が目を離したあの少しの間に何かの拍子で箒が付喪神と化して動き出した、とかそんなミラクルが起こったのではなかろうか。
少々突飛な発想だが、そもそもここは当然ように妖怪なり神様なりが実在する非現実的な土地なのだ。外の世界で必死こいて培ってきた常識的思考はもう当てにならないと見ていいのかもしれない……
とまあそうやって認識を新たにしたところで、箒が依然消えたままであるという事実に変わりはないのだが。
どうにかして見つけないと後で弁償しないといけなくなる流れだよなぁこれ。まずい、このまんまだとまたぞろムラサから『罰として次の買い出しのときにまたこっそりお酒もらってきてね!』とか満面の笑みで言われかねない。
そのときのブツ入り買い物袋を引っ提げながらにして味わった、ふふふと微笑む聖さんと廊下ですれ違った際の気まずさったらない。
それを避ける為にも是が非でも箒を見つけ出したいのだが、無情なことに無い物は無い。仮に先の“目を離した間に付喪神になってた説”が正解だったとして、だからって俺に何が出来るというのか。何の手掛かりも無いのにどうやって探せというのだ。
どうすればいいんだこの状況、と軽微な目眩を覚える。
しかしながらであるが。少し冷静になってみると、道具ひとつでちょっと動揺しすぎている感は否めない。
ひとまず優先すべきは箒を紛失した旨を寺の誰かに報告することだろう。もしかすると健忘の類いを疑われるリスクがあるかもだが、実際に箒がひとりでに消え失せてしまったのは紛れも無い事実。付喪神云々の珍説を抜きにしても、何か異様な事態が起こったに違いない。てかそうでないと困ったことになる、この歳で物覚えに難ありとか全く笑えないんだが……
いったい何がどうなっているのやら。奇天烈な超能力をこれ見よがしに披露された時と似たような当惑を覚える一方で、最後に縋る心地で視線を周囲に再び巡らす。
……んん?
往生際を悪くしたってどうせ見つかりはしないだろうにと諦め九割で行ったこの行動は、意外にも無駄ではなかったようで。
寺へと続く石段から俺を挟んで少し進んだ反対側、つまり奥深くにまで広がった木々の最前列。そのうちの一本の陰に身を隠しながら、こちらをひっそり窺っている様子の女の子をチラリと視認できた。
女の子、と言っても無論その正体は人間ではない。ここ命蓮寺が位置しているのは里の人間にとっての安全圏ギリギリのギリなわけで、となればあの少女が立っている向こう側はまさしく人外の領地。幻想郷に迷い込んだ直後を思い起こせば今にも彼女が牙をむきこちらに襲いかかってきてもおかしくはない、すぐに逃げ出さないと──そう最大限に警戒すべき危機的状況だった。
「なぁんだ、またお前か」
しかし自分の口からはそんな心底ほっとした声が漏れ出てくる。
それは、この数日間を通してあの妖怪少女からの幾度とない襲撃を受けた上での妥当な心境だった。
やはりやり口が大体どんなものなのか、既に身をもって知っているというのは大きい。結果、彼女の持つ妖怪としての脅威度は“特に警戒に値しない”ものとして心の中で定着してしまっている。むやみやたらに俺をびっくりさせたがる割には、肝心の恐怖心を煽るセンスがいまいちなのだ、あの子は。
住職さんの言葉を借りて尤もらしく表現すれば、それこそ“力無き妖怪”というやつなのだろう。
率直に言って人を怯えさせる才能に乏しい。曰く『元来、妖怪とは人間を脅かしてこそ、その存在意義が保たれるもの』らしいのに。
そう考えると少しだけ同情の念が湧いてくる。が、仮にいま俺が彼女の存在に気付かず箒を紛失した状態ですごすごと寺に戻っていたらと思うと、そのしんみりした気持ちはどこかへと消え失せていった。
気を切り替え、おーいとその少女目掛けて大きく手を振る。そこに隠れてるのは分かってるぞとアピールする分には、これほど効果的なものは無い。
すると、一度発見された以上もう隠れていても仕方がないと潔く観念したのだろう。幹の陰からぬるりと彼女はその姿を現していく……
「なんか色々と物申したいことはあるが、取り敢えずは箒を返してもらうとこから話をっ!?」
第一に、取られた物を返却してもらうのが最優先。そんな判断をもとに喋っていると、いつの間にか少女の足元でぬっと出現していた件の箒が、こちらを標的にして勢いよく飛び掛かってきた。
いや、あっぶないなぁ!
地をくねくね這うという不自然極まった軌道を描くそれを、咄嗟に前傾して辛うじてキャッチ。直後、手の中から奇妙な感触を覚える──物理的にではなく超自然的な意味合いで。直で触れるのは初めてのことだが、これこそが妖力ってやつなのだろう。推進剤としての役割を果たしていたと思しきそれはどうやら急激に空中へと霧散していったようだった。
最早この箒自体に脅威は無い。その上、どうやらあちら側も今のでネタ切れらしくその場でただ立ち尽くしているだけのようだ。以上の二つを鑑みて再度緩やかな息を吐く。
……もしもこの暴投とも呼べる荒々しい返却が本日最後のイタズラであるのなら、毎日こうした些細な迷惑をかけられている身としては非常に喜ばしい。さてはてご機嫌はいかがなものか。
そうだ。表情を読み解けば、先程までの俺のリアクションからその悪戯心が満たされたかどうか、その判断が可能になるのではなかろうか。
淡い期待を込めて、木々を背にして少し離れた場所で立つ少女の方へと目を向けてみる。
──赤い色の瞳に黒髪のショート。赤いリボンをあしらった丈の短い黒のワンピースと黒のニーソックス。片腕に一匹の蛇を絡めつかせ、もう片方の手には三叉の槍。背中から翼のようにして生える三対の赤い鎌と青い矢印が特徴的な、その妖怪。
「……ねえ、どうして怯えないの? 驚かないの?」
「ええと、どうしてと言われてもなぁ。まず人間って物ひとつがどっか行ったところで、取り立てて大騒ぎするような生き物じゃないからというか……」
封獣ぬえが浮かべるむすっとしたその表情は、どこからどう見ても不機嫌そのものであった。
どうやら俺はまたしても彼女からの不興を買ってしまったらしい。
それもむべなるかな、おそらく期待されているリアクションは、恐怖のあまり絶叫のちに失神!とか、なりふり構わぬ脱兎の如き逃走!とかそのレベルだ。この子のビビらせ技術は毎回こんな感じなので密かに確信しているが、ぶっちゃけ高望みのしすぎだと思う。
だがこうして何度もうっすい反応をされてもめげずに挑戦してくるあたり、やはり事前に聞いていた通り、妖怪にとって人間の恐怖心とは決して欠かせないものなのは確からしい。もしかすると彼女は、ちょっと前の食い扶持に困っていた俺と似た境遇なのかもしれない。となると先に消え失せていた筈の同情心は再び蘇ってくるもので。
「で、でも正直に告白すると結構焦りはしたよ? 借り物を自分の不注意で無くしてしまうとか、下手な怪談よりもよっぽど肝が冷える体験談と言えるわけで」
「ふん、そっちは別に私が見たかった反応じゃないし」
「ああ、そう……」
中途半端に相手を気遣った台詞は、ツーンとした素っ気無い応対によって撃沈される。明らかなバッドコミュニケーション。
これが普段なら少し落ち込んだ後その者とのより良い交流方法を模索するところなのだが、彼女は初対面のときからずっとこのような塩対応の一点張りなので既に残念とも思わなくなってしまっていた。ぶっちゃけ諦めの境地にまで至っている。個人的にはただ、同じ屋根の下で暮らす者同士、お互いにとって不愉快の無い良好な関係を築きたいと考えているだけなのに。どうしてこうなったんだ?
原因は何だろうかと心当たりを探ろうとすると、んん!という非常にわざとらしい咳払いが耳朶を打つ。
見れば、封獣ぬえはこちらを射貫かんばかりの険しい視線を向けている。いやだから、なんで彼女は俺のことを嫌っている風なの…?
「もう何回も訊いたけどもう一度言うわ、あんたにはソレが何に見える?」
「……まーたその謎の問いかけか」
少女が顎で示すソレとは、俺が今しがた返してもらったばかりの箒のことだ。奇妙なもので、彼女はいつもこうして何かしらの物体をこちらに寄越しては、それが果たして何に見えるのかを問うてくるのだ。(因みに昨日は風呂桶だった)
これが一丁前の怪談であれば、やけに重たいそれをよくよく見れば実は人の生首で──と話がつづくのが定番の流れだ。しかしこの妖怪が寄越してくるのは極々普通の物で、筆、箸、枕、経典に警策、果ては木の枝に石ころといった、いかにもその場で雑に現地調達しました感溢れるラインアップであった。これで本気で人をビビらせられると自信たっぷりなあたり、妖怪としての残念さに拍車がかかっているように思えてならない。
とにかく、ここは普通に受け答えしておこう。
「何に見えるって、どう見ても箒だろ? 毎朝、いつも響子ちゃんが使ってるやつだ」
「あー今はそうかもね。じゃあ私があんたに投げて寄越したときはソレってどう見えてたのよ。とても箒とは思えない動き、してたでしょ?」
「そりゃまあ確かに奇妙な動きはしてたけどな。何というかそう、地面をのたうつ蛇のように見えて……」
でもそれってデタラメな方向に飛ぶよう妖力でコントロールしてただけじゃ、と繋げようとした言葉は続かない。
不機嫌そうだった少女の顔に、突如として喜色が差し込んだのに気付いたからだ。
「そうそれ! 蛇! つまりあんたはその箒が蛇に見えていたってことでしょ!?」
「うん? お、おう。あくまでも比喩的な意味でね? なんだその、あたかも俺が箒を蛇そのものと見間違ってましたー的な誤解を招く言い回しは」
「え、だからそう言ってるじゃない。箒が蛇に見えたんでしょ?」
「……なに言ってんの? 箒は箒だろ、蛇じゃない」
「は? あんたこそ何言ってるの? 蛇のように見えたって白状しておいて。つまりあの時のあんたにとってソレは蛇以外の何物でもなかったわけで」
「いやいや。だから蛇云々はあくまで比喩だって言ったろ? 箒は箒だよ」
普通に受け答えしている筈なのに。何故だろう、全く会話が噛み合わないのは。
というかこの子は本気で主張しているのだろうか。手に収まっているこの箒が蛇であるとかなんとか、とても正気とは思えない戯言を繰り返しているけれども。
もしやこれもイタズラの一環なのではないかと疑いたくなるものだ。しかし少し離れていても彼女の表情は真剣そのものと分かる。つまり本気も本気というわけだ。
しかしそうなってくると『箒は蛇ではない』という自分の主張が誤りである可能性を本格的に検討せねばならない。
他者とのズレを感じた際はまず己の正気を疑うこと、これが俺にとっての世の習いなれば。もしかすると本当にもしかするのかもしれない。
改めて、箒をじっくりと観察してみる。そうするとうーむ確かに、この持ち手の細長いシルエットのみに着眼すればそこはかとなく蛇に見えなくも……うん、やっぱりどう考えても無理がある。
「ほらお前もよく観察してくれ、これのどこが蛇に見える? どの角度から見ても箒にしか見えないだろ」
「ハ、正体不明の種が抜けたソレを今更得意げに見せつけられてもね。そもそも蛇に見えるって言ったのはあんたの方でしょ? 私にとって最初からソレは箒よ」
「それを言ったら俺にとってもこれは初めっから箒なんだが──って正体不明の種? 何だそれ?」
「ふん、正体不明の種は正体不明の種よ。誰があんたなんかに明かすものか、べ〜っだ」
「んなっお前な……今時子どもでもそんな分かりやすい挑発しないって」
なんかもうこれ以上まともに取り合う必要無いんじゃないかな? 少し離れた場所からこちらに向けて可愛らしく舌を出す彼女を見ていると、そんな諦観が心中の多くを占めてくる。
この箒が蛇であるとかそうでないとか、なんだこの訳の分からない言い争いは。あまりに意味不明すぎる。
脳の奥からちょっとした疼痛を感じるのは決して勘違いではあるまい。さっさと切り上げてゆっくりお茶でも飲みたい気分だった。ここはもう適当にあしらっておくのが吉なのかもしれない。
「わかったわかった。これは箒じゃなくて蛇でした! はいもうこれでいいだろうこれ以上は勘弁してくれマジで」
「ハッ、ちょっとムカつく言い方だけどやっと認める気になったのね」
「うん認めた、認めたから。もういいだろ? じゃあ俺つぎの修行があるしこの辺で失礼させてもらおうか……」
「待ちなさい」
踵を返し足早に去ろうと試みたが失敗に終わる。ギリリと振り向きたくない首を曲げると、いつの間にか封獣ぬえがすぐ後ろに立っていた。
そして間髪入れずに聞こえてくる彼女の声。
「で、どうだった?」
「どう、とは?」
「何日もこの恐るべき私の力を目の当たりにしてあんたはどう感じてたのかってこと。悍ましかった? 惨たらしかった? それとも何の反応も示せないほど精神的に参っちゃったのかしら? なら、あんたのその鈍すぎる驚き様も納得だけど」
勝ち誇ったかのようなえらく上機嫌な声音だった。それと同時に、三叉槍の石突き部分でこちらの背中をぐりぐりしてくるあたり、俺にこの箒が蛇であると認めさせたことがよほど嬉しいらしい。
思うに、あまり人を驚かせる才の無い彼女にとって今回のような成功?体験は滅多にないことなのだろう。そう思うと、ぬか喜びさせてしまった形になるのでほろ苦い気持ちになる。
「正直全然怖くも恐ろしくもないんだけど」
「────あ? なんて?」
「ヒエッ、ま、まだなんも言ってないよ? それにしてもいやぁ怖いな〜怖いな〜って」
「フフン、でしょー? ……もっと言って?」
きっとこの子は回りくどい手段を用いて変に工夫をこらすよりも、こうして直接的な手段で人を驚かせた方が妖怪としていい結果を得られるのではなかろうか。
一瞬にして当てられた猛烈な殺気に凍えるような錯覚を感じながら、俺は当分の間、彼女に襲われた際はそのご機嫌を損ねないよう終始することを心に誓った。
つ、疲れた…!
それから暫く自分の思いつく限りの語彙を尽くし、封獣ぬえという妖怪がどれほどの恐ろしさを秘めた存在であるのかを賞賛していれば、こんな感じでぐったりとした徒労を覚えるのは当然のことなのだろう。
日の高さを見るにもうそろそろ次の修行の準備に取り掛かっていてもいい時間帯だった。つまりそれまでの間ずっと彼女から拘束されていたわけで。
「お疲れ様〜、災難だったわね?」
階段を登り表門をくぐって直ぐ様に気楽そうな声をかけられる。その方向に目をやればセーラー服の少女がいた。
「ムラサか……いつから見てた?」
「ええっと。ぬえが藤宮さんを狙ってソレを発射するよりも少し前、くらいから?」
手に持ってる箒に視線を向けて、しかし何故だか少々解せない様子を見せながら彼女は応答する。って結構長い間盗み見されてたんだな俺。別にその間やましいことなど何も無かったからいいんだけれども。
「そんだけ見てたんなら多少の助け舟くらい出してくれてもよかったんじゃないか? 俺が困ってるのはすぐに分かっただろうに」
「え〜そう言われてもね〜。ほら、いくら聖を慕っていても私もいっぱしの妖怪であることに変わりはないし? 人を脅かしたい欲求は正直判らないでもないというか……」
「おうそんな物騒な目をすんなやめろやめろ。ぬえと違ってお前の場合、被害が洒落にならないだろうが」
舟幽霊とは、簡潔に説明すれば人を水場に引き込んで溺れ死にさせる妖怪だ。そして日頃彼女から一番物理的に距離の近い──つまり一番被害を受けやすい人間とは、命蓮寺に体験入信という体で寝泊まりしてるこの俺に他ならない。
水死とか普通に嫌である。じゃあ他の死に方はいいのかと言えば無論そんなわけもないが。だってそうなると外の世界では俺は行方不明扱いのままってことになる、あまりにもゾッとする話だ。
ぶるっと身震いしていると「ぬえと違って、ね」と意味深そうな呟きが聞こえてくる。
なんだ? と思ってよく見れば、眼前の舟幽霊の表情がこれ以上無く真剣なものへと移り変わっていることに気が付いた。
「その、よく藤宮さんは平気な顔していられるわね? 毎日のようにぬえからちょっかい出されるのって結構苦痛だと思うんだけど」
「苦痛? あれが? 全然そうは感じないが」
「え、嘘。本当に?」
しかしシリアスな口調で話す割には、なんともその内容は的外れなものだった。彼女は何かとても信じられないことを耳にした、みたいなオーバーな反応を示しているが、逆になんでそうなるのか問い詰めたいくらいだ。
確かに、鵺という名の響きだけであればかつて平安京を震撼させたという名の知れた大妖怪がいるにはいる。が、とは言え鵺と封獣ぬえを直接結びつけるには、いかんせん彼女の妖怪としての技量がしょぼすぎた。あれで当時の都の人々から恐れられていたとか土台無理がある。
ポンと何かを渡してきて、それが何なのか突然質問してくる。要するに、なぞなぞ妖怪か何かでしょあの子は。受験シーズンの学生が英単語帳とか渡しておけば、きっといい刺激になること請け合い。それの一体どの辺が苦痛というのか。
まるで封獣ぬえが真に恐るべき妖怪である、みたいなことを言うんだなぁ。そう思いながらのほほんとしていると、どうやら態度で伝わったらしい。「強がりとかじゃなく本気で言ってるみたいね」と何故か不可解なものを見る目が突き刺さってくる。
ちょっと? そういう感じの視線を寄越されると子供の頃をフラッシュバックしそうになるからやめてほしいんだが?
咄嗟に抗議の声を挙げようとしたのだが、その前にムラサが再び尋ねてくる。
「そういえば趣味は肝試しとか言ってたわよね、まさか藤宮さんって恐怖とか全く感じない系の人?」
「何を言いだすやら。『恐怖とか全く感じない系の人』とか全然耳慣れない言葉だなぁおい。それに、細かいようだけど肝試しじゃなくて心霊スポット巡りな? 一般的に混同されがちだけど俺にとっては全然別物で──」
「いいからいいから。質問に答えてよ」
「……恐怖を感じないわけないだろ? この世はどこもかしこも怖いものだらけだよ。あの心優しい聖さんだって怒ったらめっちゃ怖いだろ、そういうことよ」
「ふーん? じゃあ例えば藤宮さんにとって、この世で最も怖いものって何?」
「…………あの、それ今じゃなきゃダメか? もうじきお昼の支度手伝わないといけないんだけど」
「ダメ、今答えて」
自分はただただ思っていることを包み隠さず話しているだけだ。それの一体何処に、彼女の好奇心をこれほどに引き出す要素があったのだろうか。
思わぬ質問攻めに困惑する。なんならさっきの『箒が蛇かどうか』論争やらと立て続けであるために、数分くらいでいいからいい加減自由にしてもらえないだろうかとすら思えてくる。
……俺にとってこの世で最も怖いもの、か。
ここはひとつ、饅頭!とか濃いお茶!とでも元気に答えて煙に巻いてしまおうかという発想がふと頭をよぎる。多分それをした瞬間、明日にでもこの身が土左衛門と化す可能性が発生するので実際にはしないけど。
怖いとか、恐ろしいとか。そういった負の感情に支配される場面といったら、それはもういろいろと思い浮かぶことがある。
訳の分からぬまま暗い森を彷徨ったり、その状態で妖怪に襲われたり。頼れる人も金も無しにこの世界で一時留まらねばならないと、独り借りた見窄らしい部屋の中で心が冷えるほどに理解した時とか。直近で経験した出来事のみを選出しても心当たりは沢山あった。これが俺が幻想郷に迷い込む以前の、外の世界での出来事にまで遡ってしまうと最早収集がつかなくなってしまう。
つまり今彼女に答えるべきは、最近見聞きした物事の中で一番怖い・恐ろしいと印象的だったものだ。それは果たして何だったのだろうか? 目を瞑り、ここ最近の記憶を掘り起こしてみる。
「……目ん玉」
「はい?」
選択肢は多岐に及ぶので回答には時間がかかりそうと思ったが、意外にもすぐに結論が出た。
どちらかと言えば怖いというよりも薄気味悪い、悍ましいといったニュアンスの方が適当ではあるが。まぁうん、きっとこれこそが『この世で最も怖いもの』と題名づけるに相応しい。
「こう、暗闇の中で目ん玉がうじゃうじゃとひしめいていてな? 一つ一つがこれまた不規則に動くんだよ。うわ、ちょっと思い出すだけでも鳥肌たってきた。あんま視界に入れないよう気を付けてた筈なんだが」
「そ、そう。とにかく藤宮さんにもちゃんと怖いものがあるってことね。それが判っただけでも収穫だわ……あれ、なのにぬえに襲われても平然としてるってことは──つまり、どういうわけ?」
「いやそれは。単純に人をビビらせるのが苦手ってだけの話だろ?」
ぬえが? まさかそんなわけないじゃない──ムラサはそう言って、やけに自信ありげな断定をする。
そのぬえへの絶対的信頼は何処からやって来るものなのか。つくづく疑問は尽きないが、自分にはもうそれに関して深掘りしようとする気概はさらさら無かった。
なにせ次の予定が差し迫っている。庫裡にて既に食材の下拵えに取り掛かっているであろう響子ちゃんを待たせるわけにはいかないのだ。急いでこの場から立ち去るべし。
「ね、初めて会った時から疑問に思ってたんだけどさ」
「まだ続くのか。時間無いしもう俺は行くぞ」
「まって。最後! これで最後だから!」
そのやたらと焦ったような口ぶりが気にかかり、庫裡の方へと進まんとする足を止めた。「本っ当に最後だな?」と念押しに尋ねるとコクコク頷いたので、再び彼女と向き合う。
よほど重大なことなのだろうか。その目には分かりやすく迷いの色が映っていて、立ち姿ももじもじとした落ち着きの無いものに様変わりしている。その緊張のほどは見ているこっちにも伝染し『これは心して応対せねば』と思わせるくらいだった。
──だからこそ、その問いを聞いたあとはひどく拍子抜けした気分に襲われる。
「ふ、藤宮さんってもしかして、私たちのこと怖くなかったりする?」
「はあ? 怖くないに決まってるだろ……じゃなきゃとっくにこのお寺から逃げ出してるよ、ってか一輪も含め俺たちが初めて会った時も既に似たようなこと伝えたじゃんか。こんな当たり前のこと、二度も言わせないでくれよ」
重々しい雰囲気を醸してきた割には内容が大した事なさすぎた、その反動のせいでと言い訳すべきか。少々粗雑な口調が滑り出てきて内心ドキっとする。
やべえっす神様、明日にはこの身はもう何処かの水底に沈められてるかもしれません。土左衛門だけは回避しようと意識した矢先、これはあまりにも迂闊だった。
ナメた口叩かれてブチ切れてない? 大丈夫? 不安に駆られながら恐る恐る、彼女の表情を窺ってみる。すると、予想に反して意外にも。
「……当たり前かぁ、そっかそっか」
村紗水蜜はとても穏やかな顔をして微笑んでいた。どちらかと言えば慎ましく笑むよりも快活に笑っている方が彼女らしいと密かに思っていた分、意表を突かれた形になったというかなんというか。
最後の質問にちゃんと答えたのだからこの場からすぐ立ち去ってもいい筈なのに、俺の足は地に根を張ったかのように動かない。
『その、恐ろしくはないのですか?』『まさか、ちっとも恐ろしくなんかありませんよ』
──そうですか、そうですか。
裏では。あの時の聖さんの言葉と、それに対する返答を聞き示した彼女の反応が脳裏に浮かぶ。それが先程のムラサとの問答と妙に符号しているように思えてならないのは気の所為だろうか。同じ宗派の門徒でありかつ長年の付き合いであるから、たまたま思考が似通ったのだと解釈すればそれまでの話。
しかし、である。聖さんはまだ一回目の問いでその答えを知らなかったのだから問題は無い。だがムラサの方はどうだろう?
これで二回目なのだ、俺が彼女達のことを恐ろしいと思うかどうかを質問してくるのは。そしてその答えを知るに至ったのは。
一回目は初対面のとき、まだ酒を酌み交わすより以前のこと。その答えを、酔いで忘れたとは考えにくい。どうでもいいから忘れたのだと考えるのも無理がある。本当にどうでもいいならばなぜ、先程はあんなに重要そうな雰囲気出してきたんだという話になってしまう。
『ふ、藤宮さんってもしかして、私たちのこと怖くなかったりする?』
この、何気ない問い。これには何か俺が見つけられなかった特別な意味が隠されているのではないか。それに丸っ切り気付かなかった俺は、何かとんでもない誤謬を彼女達にもたらしてしまっているのではないか。
そんな確信めいた疑念が、心の底に積もっていく。
「藤宮さん? 急に黙り込んでどうかしたの?」
「……いや、なんでもない。とりあえず、最後の質問にも答えたわけだしもう行っていいよな?」
「あ、うん。頑張ってね、この間みたいにお米焦がしちゃダメだからね」
「もう火加減は完璧に調整できるようになったから大丈夫だよ。心配には及ばん、ちゃんとした献立に仕上げてやるから楽しみにしとけ」
「わ〜偉そう、あくまで役割はお手伝いなのにね?」
「うっせえ。お前のだけ分量を減らしてやろうか」
「またまたぁ、口で脅すだけで実際にやるつもり無いくせに〜」
小さく手を振って見送ってくる一言多い舟幽霊に、立ち去りながらなんとなく同じく手を振って応じる。なんかやけにテンションが高い様子なのが気になるが、ひとまず意識は次の修行のことへと切り替えておく。
変わらず心の内に引っかかるものがあるけれども、それを口実にして仰せつかった役割を放棄できるほど、俺は不真面目ではないのである。
仕方ない、これもまた後回しにするか。
まったく、あれもこれも後回し後回し。一体いつになれば取り掛かるのやら──不意に、己のひどく冷静な部分が、非常に鋭い指摘をもって心の平静を乱してくる。幸いにしてこの動揺に対処する方法は、体験入信の甲斐あってよく知っていた。だから引き続き庫裡へと急ぎ足で向かう。
雑念を排し無心となる為にはひたすらに雑用をこなすのが一番だ。もっともその無心を求めるようになったのは、命蓮寺の皆との関係性に頭を悩ませてのこと。なのでなんとも皮肉な話ではあるのだけど。
なんかこのオリ主はぬえのことを過小評価していますが彼女の実力をちゃんと吟味していればそれが誤りであるとちゃんと気付ける筈なのです ただ相性だったり、彼女にも只の人間を直で害するのは流石にヤバいかなと判断できる良心が存在したり その辺が奇跡的に噛み合ってしまった結果の過小評価といいますか
何にせよ、例え同じ物を見ていたとしても感想までが同じになるとは限らない 人によって認識の仕方が異なってしまうだなんて、この上無く恐ろしい能力と呼ばざるを得ません 伊達にExボスしてないね
備考 :『正体を判らなくする程度の能力』
歴とした大妖怪、封獣ぬえの能力 対象に正体不明の種を仕込むことで、その対象に対する認識を惑わせる 仕込まれたその対象は姿形、音、匂いなどが奪われ行動だけが残る そしてその対象を見る者の知識や先入観によって奪われた情報が補完され、見る者によって対象の見た目が変わるという結果になる(by東方大百科)
封獣ぬえの能力を知らないよって読者が万が一にもいらっしゃった場合に備え、ここに記しておきます
オリ主にこれを見抜ける洞察力があったりぬえちゃんが正体不明の種について事細かに説明してくれれば本文中で帰結できてよかったのにね そうはならなかったね……