東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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 いいですね 予約投稿 便利ですね (字余り)
 サブタイトルはその話の概要だったり、パロディだったり、何となくだったり、色々考えたり考えなかったりで決めてます



こんな最低で最高な人生の始まりは

 

 

──『常識に囚われる程度の能力』

 

 

 八雲紫は俺の能力をそう名付けた。

 

 なるほど。常識的な事象は受け入れて、非常識な事象は受け付けない。

 その上、自分の意思で能力のオンオフが出来ていないから“囚われる”なんてネガティブな表現なのか。

 

 もしや、この能力をオフにしたら、『境界を操る程度の能力』の干渉を受けることが出来るようになるのでは?

 

 うんうんと身体の奥を意識して、能力を止めようとする。

 そうしつつも俺は頭を抱えた。

 

 そもそも自分にそんな能力が備わっているだなんて今の今まで知らなかったのだ。能力を止めようとしてもその方法なんて分かるわけがないじゃないか。

 

 では、目の前の少女たちに能力の止め方を聞いてみたらどうだろう。

 『〇〇する程度の能力』に関しては、少なくとも俺よりは詳しいはずだ。

 

 質問してみるが、その返事はあまり芳しいものではなかった。

 

 どうやら、『名付ける』という行為自体に意味があったらしい。

 それをすることによって、その能力の使用者はさらに十全に力を振るえたり、その能力を細かく調整することができるようになるんだ何とか。詳しい理屈はよく分からなかった。

 

 俺の能力が名付けられたその時点で、能力を切り替えることが可能になるはずだったらしいのだが、当の『常識に囚われる程度の能力』は、それすらも阻害しているのだとか。

 

「わざわざ名付けてあげたのに甲斐性が無いわねぇ」

 

 彼女は俺に向けて、

 

「『名付け』の真に意味するところを、きっと貴方は理解していないのでしょうね」

 

 そんなことを言う。

 

 

 

 

 

 その一言に、ひとつ光明を見出せたような気がした。

 

「──例えば、俺が名付けを完璧に理解する。

 つまり『()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが出来たとしよう。

 そうすれば、この能力をうまく扱えるようになって発動を止めることが出来て、あんたの境界の能力を無効化せずに済むってことなのか?」

 

「確かにそれならば可能だけど、『名付け』のことを完璧に理解しようだなんてそんな途方もないことをするのはお勧めしないわよ」

 

 それほど難解なことなのか、と顔を顰める。

 

 

 

 彼女曰く、なんでも俺の『常識』を“更新”するためには、それに付随する知識だけではなくある種の実感、経験が必要になるそうだ。

 

 『名付け』という行為は知識だけならまだなんとかなるが、実感、経験となると特段に難しくなるそうな。

 ここ幻想郷で未だに名前の無いものを探し出して名付ける必要がある。

 例えば、産まれたばかりの赤ちゃんとか。

 

 今から人里へ行って『これから誕生する全ての赤ん坊の名付け親になります』と宣言して両親がそれを諸手をあげて歓迎する──なんでも受け入れられることが大事らしい──という状況を作り出すことで、やっと実感と経験を積めることが出来るらしい。

 

 まあ、実現不可能だと断言できる。

 

 また、そこいらの木や石に適当にネームプレートを付けて回っても意味がないとのことで。

 

「変に名前をつけて回られて、万が一それら全てに意思が宿ったりでもしたらそれこそ“異変”ですもの。黒幕として、霊夢に退治されるのがオチでしょうね」

 

 チラリと横を窺うと、巫女さんも俺の方を見ていた。『ほんとにやる気?いい度胸してるわね』という心の声が聞こえた気がしてぶるりと震える。

 冗談じゃない。経験上、怒った女の子ほど手の負えない存在はないと断言出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度、話を整理してみよう。

 

 最終目標は『外の世界へ帰ること』だ。それを達成する方法は博麗神社で巫女さんが開けてくれた博麗大結界の穴をくぐり抜けるというもの。

 

 しかし、いつの間にやら俺という存在が“幻想側”に寄ったせいで『常識と非常識の境界』に引き寄せられ、このままでは脱出することが叶わない。

 

 で、引き寄せられなくなるする為には八雲紫が『境界を操る程度の能力』で俺という存在の境界を操り、“現実側”に戻すという手段を取る必要がある。

 

 すると今度は『常識に囚われる程度の能力』という俺の性質が彼女の能力の干渉を妨害する。『名付け』で能力の発動を止められるようにするという試みも通用しなかった。

 

 そこで閃いた俺は『名付け』を自分の“常識”にしてしまえばいいのではと提案する。だが八雲紫によって実現不可だと暗に却下されてしまった。

 

 

 

……もうこれ以上どうすれば良いのだと頭を抱えそうになるが、しかし何故か確実に一歩ずつ前進できている感触がある。

 

 俺の“常識”を更新させる。

 

 恐らくそういう方針自体は間違っていない。

 そんな確信が、不思議と芽生えていた。

 

 

 

 このままでは埒が明かない、そう感じ沈んでしまった気持ちを浮上させて再び考え込む。もっと簡単に、短絡的に。何か思い付く事はないか。

 

……そうだ。

 

 俺が『境界を操る程度の能力』を常識だと思うようにすればいいのか。

 境界について深く理解することが出来れば、何かしら事態が好転するかも知れない。

 

 早速彼女に聞いてみる。

 しかし、すぐさま断られた。

 

「貴方がこの私、スキマ妖怪の秘奥を探ろうだなんて百年早いわ」

 

 ツンと可愛らしく顔を背ける。

 

──急にどうした、さっきまで真面目にしてたくせに芝居がかった仕草なんかして。

 

 少しドキリとしてしまったけどそれは彼女を美人だと思う例外的な自分だけで、現に巫女さんは苦虫を噛み潰したような凄まじい顔をしている。

 

 他方では、薄々感じてはいたがやっぱりあんた妖怪だったんかい──そう心の中でツッコミを入れる。

 スキマ妖怪とか余り聞いたことがない名称だ。

 恥ずかしながらにわか知識であんまり妖怪について詳しくはないんだけど……河童とかぬらりひょんとか土蜘蛛とか、俺が知っているのはその程度だ。

 

 俺と巫女さんとの共同作業によるジト目が効いたのか、八雲紫は白々しげな空咳を挟んでから口を開く。

 その顔には、先程の小芝居など無かったかのような真剣さが宿っている。

 

 なんというか、切り替えがすごくスムーズだ。

 

「私という妖怪の存続に関わる事柄だもの。今日初めて会った殿方にみだりに明かすだなんて、そんなはしたない真似できるわけないでしょ」

 

……よくわからないが俺の考えが否定されたことはよくわかった。

 

 それじゃあ何か次のアイデアを思いつかなければ、そうして脳をこねくり回していると彼女は仕方ないわね、と嘆息して話し始めた。

 

 

 

 

 

 

──その言葉は、俺の今後の行動方針を明示していた。

 

 

 

 

 

 

 結構長い間話し込んでいたので当然のことではあるのだが、いつの間にやら日は沈んで夜の帳が下りている。

 

 博麗神社はその境内にて、俺は博麗霊夢さんから空の飛び方を教わっていた。

 何故そうしているのかと聞かれたら、俺は『今から人間の里に戻るつもりだからだ』と答えるしかない。

 

 夜は妖怪共が活発になっている為、徒歩での移動は危険が伴う。

 空もそこそこ危険ではあるらしいのだが、この『ありがた〜い博麗の御札』──ボロボロな見た目だが効果は抜群らしい──とやらを身につけていれば問題ないらしい。

 

 ちなみにあのスキマ妖怪は言いたいことだけ言って空間の裂け目──スキマに入って消えてしまっていた。

 スキマは別々の空間を繋げることが出来るようなので、どこかにワープしたのだろう。

 よくまあ、あんな目玉だらけの暗黒空間に身を投じられるものである。俺なんか見るだけで鳥肌が立って仕方ないというのに……

 

 

 

 まあなんにせよ、人里に戻ると言い出した俺に「霊夢から飛び方を教えてもらったら?」と提案したのは彼女だ。

 巫女さんはあまり俺に対して興味を持っていなさそうだったのに、別に構わないわよ──と難色を示さずに返事したことに若干の意外さを感じた。

 

 巫女さんは所謂感覚派のようで、イマイチ説明は要領を得なかった。

 

 しかしながらお手本で彼女がやってみせた通り機敏に、とまではいかなかったがなんとか飛行術を体得出来たのは、人生で霊力という存在に終始向き合ってきたお陰なのだろう。

 

 子どもの頃、空を飛びたいなんて思っても実際に練習しようとしなかったのは、それこそ常識に囚われていた故か。

 

 

 

 

 

 フヨフヨと浮きながら、姿勢制御のコツを習う。そうこうやって、なんとか人里まで辿り着けそうなくらいには練度を上げることができた。

 

 空を飛ぶ稽古をつけてくれた巫女さんに頭を下げる。

 

「その恩義に報いたいと思うのであれば、今度来たときお賽銭を入れなさいよね。ちなみに見れば判ると思うけど、お賽銭箱はあれね」

 

 すると彼女はそう言って、本殿の方を指差していた。

 

 そういえば、この神社までの道のりは寂れていて、あまり使われていない様子だった。

 ということは、参拝客は殆ど居ないという認識で間違いなさそうだ。

 じゃあ、ここの収入は一体いかほどのものであろうか。

 もしや、かなり貧相な生活を送っているのでは?

 

 そう想像して決心する、ここで賽銭を投げるときは奮発すると。

 

 それを聞いて彼女は今日一番の笑顔を咲かせた。

 

──もしかしてこうなる事を期待して稽古をつけてくれたのかなあ。

 

 なんて思いつつも、その満面の笑顔を前にしては何も言えない。また今度と挨拶して、人間の里方面へフラフラと浮かんで進む。

 

 

 

 

 

 今夜は雲が厚く、月明かりがない。

 

 そのおかげで人間の里の営みの明かりがこの上空からでも、いや上空であるからこそよく見渡せる。

 

 その外周にある門の前へと降りられるように、高度を落としていく。

 よく見ると、昨日お世話になった門番さんが驚いた様子でこちらを見上げていた。

 

……当たり前か、昨日ぼろぼろになって保護された外来人が、今度は悠然と空を飛んでやってきたのだ。

 

 誰だってびっくりしてしまうだろう。

 

 門の前に降り立ち、真夜中であっても未だにわいわいと活気溢れる様の人里を見つめる。自然と感慨深い気持ちになった。

 

──ここから、俺の新しい日常が始まるのか。

 

 

 

 

 

 

 

『貴方はまず、その中途半端な常識を捨てて幻想郷の常識を身につけなさい』

 

 スキマ妖怪、八雲紫は言った。

 

『なるべく広くこの“妖怪たちの楽園”に住む者たちと交流を深めるのよ。──それが巡り巡って、貴方の未来を切り開いてくれるでしょう』

 

 彼女の言っていることはまるで雲を掴むようで捉えどころがない。

 

 しかし、今のままでは外の世界へ帰ることが出来ないのもまた事実。

 

 

 

 

 

 ならばやってやろうじゃないか。

 

 俺の“常識”を、“非常識”に塗り替えてやろう、

 幻想郷の住人たちの“常識”を、是非とも(こうむ)っていこうではないか。

 

 

 

 

 

 そんな決意を胸に秘め、

 

 当分の間はここで過ごすことになるだろう。

 

 

 

 

 

──この幻想郷で、“被”常識(ひじょうしき)な日常を。

 

 

 

 

 




 




『東方被常識 あべこべなこの世界で俺は』
 これにて完結です
 ご愛読ありがとうございました
 作者の今後にご期待ください

 嘘です

 ここまで全てプロローグ
 次回から本編が始まります
 といっても何かが劇的に変わるなんてことはないんですけどね

 なんだか無理にタイトル回収しようとして失敗した感ありません?(他人事)

 『さらば愛しき(?)幻想郷』『素人による華麗なる推理ショー』『こんな最低で最高な人生の始まりは』は本来一つのページにまとめて出す予定でした
 ガッツリ本腰を入れて読むのも悪くないですが、ちょっと空いた時間で気軽にサクッと一ページ読めるのがこういう小説サイトの強みだと思うんですよ
 分割して投稿したのは短時間で読み終えられるようにしたかったからです
 ギッチギチに文字を詰めるのも読んでて疲れちゃいますから余白も十分にとりました 
 物足りないと思う方もいるでしょうが、どうかご了承ください


 誤字報告、ここのところおかしくない?と感想で指摘してくれた方々、ありがとうございます 上手く訂正できたはず

 『…』や『─』などの表現を多用していますが特に使い所をコレと定めてるわけではないんですよね なんとなくの雰囲気で使っちゃっているのが現状ですから読む人が読めば変な文だなあと感じるのは道理です

 このまま書き進めていけば自然と上達してくれる筈だと甘っちょろい考えに縋るしかありません
 校正ソフトとか読み上げ機能とか面倒くさ(ピチュ-ン
 ダラダラと横になって書いてるのが駄目なんですかね



 良い区切りなので連日投稿はここでお終い
 “首を長くして”待っててくださいな
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