東方被常識 あべこべなこの世界で俺は   作:自律他律

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 先に一言だけいいですか?

 “あべこべ”は浜に捨てました(毎話言及するのが難しい)



幻想郷の日常 その一

 

 

 人里には『鈴奈庵(すずなあん)』という貸本屋が存在する。

 

 そこは主に外の世界から流れ着いた本を取り扱っており、そこそこな人気を博している。

 外の世界のインドアな娯楽──例えばアニメ、ゲーム、映画など──に慣れ親しんでいた身としては、少々刺激が物足りないと感じて敬遠していた小説という趣味も、環境が変われば人の好みも若干変わるらしく、気づけばこの貸本屋を定期的に利用する様になっていた。

 

 いつものように、店番をしている可愛らしい少女にお節介を焼きに行くというわけではない。

 

 彼女の父親から仕事を依頼されたのだ。つまりこれよりは『藤見屋』として、活動開始である。

 

「どうもー、藤見屋でーす」

 

 鈴奈庵に到着してそのまま店内に入る。しかし、いつものカウンターに彼女の姿がない。

 そこまで行ってやっと気づいた。

 今日って定休日だったな、と。

 

 確か、出迎えてくれると昨日の依頼書にはあったのだが──

 

 きっと彼女は、明日が定休日だからこれ幸いと妖魔本片手に夜更かしして、結果寝坊してしまったのだろう。もしかすると完徹してしまう気概すらあったかもしれない。

 そんな予想を立てられるくらいには仲良くしてもらっている自信がある。

 

 確か初めて会った頃は──

 

 と、つい回想してしまいそうな頭を切り替える。

 

 いかん、いかん。

 まずは仕事をこなさねば。

 

 引き受けた依頼の内容は『教本を上白沢先生のいる寺子屋に運送して欲しい』というものである。報酬はまた後日とも。

 

 本来ならば自分で全部やるつもりだったのだが、作業途中でぎっくり腰になってしまい急遽娘にしたためてもらった、と送られてきた依頼書に書かれていた。

 なにぶん急な仕事なので断っても構わない、そう書かれてもいたのであるが普通に都合がつく。その場でささっと依頼を引き受けた由を書いて、依頼書を持ってきた飛脚さんに手間賃を払った。

 

 それがつい先日の事。

 

 きっと今頃二階で苦しい思いをしているのだろう。どうやら返事するのもつらい状況であると見た。

 直接無事かどうか様子を見たいのは山々だが、別に気にかけなくていいと依頼書にあったのを思い出した。

 

 生憎こちとらぎっくり腰を体験した事が無い。

 なのでその痛みは想像するしかないのだが、取り敢えず快調を願って合掌しておく。

 

 医者とか呼ばなくていいのだろうか?

 

 そう思いながら仕事に取り掛かる。

 寺子屋に送るという教本たちはかなりの量であったのだが、腰を痛める前に纏めていたのだろう、しっかりと荷車に固定されていた。……自前の荷車を持って来なくても大丈夫と書いてあったのはこういうことか。

 

 荷車を引いて外へ出る。

 結構な重さであるのだがもうこちらも慣れたもの、えっちらおっちらと通りを行く。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 寺子屋、そう一口に言ってもこの人間の里にはそれは何か所か存在するので、まずどの寺子屋のことを言っているのかを伝える必要がある。

 

 その中でも上白沢先生がいる寺子屋、といえばその名の有名さは折り紙付きである。──いい意味でも、悪い意味でも。

 

 曰く、人間の里最古の寺子屋を開設した“半妖”で(種族的な差別が起こりそうなものだが彼女の人格の良さ故かその気配は無い)、そのままずっと教鞭を取り続けているらしい。実際に彼女の授業を見たことがあるのだが、熱意に溢れたその様子はまさに教員の鑑と言えるだろう。

 

 しかしまあ、ある種悪名高いという話にも俺は一定の理解を示さざるを得ない。彼女の容姿についてはひとまず置いておくことにしても。

 

 まず、話が長い。とても長い。

 所謂朝礼の校長先生の比ではないくらいで、特に歴史の話になるとその長さはさらに倍化される。

 俺の年だと丁寧にわかり易く説明していると思えるのではあるが、お昼を済ませたばかりの子供たちが居眠りをしてしまうもの無理はない。

 そんな居眠りをした子供に呼びかけて返事しなければ、待っているのは上白沢先生名物、“頭突き”である。

 

 傍目から見て──あれ、ヤっちゃったんじゃね? と思えるほどの轟音には肝を冷やした。

 

 現代日本で過ごしてきた元外来人としては、その“指導”はやりすぎだと抗議したいところではあったのだが、その頭突きを受けた子どもは永遠の眠りにつくことなくしっかりと引き続き授業を受けていた。

 

 かなりえげつない音をしていたが一体どうなっているのだろうか?

 気になるなあ、と内心で思っていた。

 

 そんな彼女の派手な頭突きをもってしても、大抵の場合今度はその隣の子が頭で船を漕ぎ始めるのは、それだけ彼女の説明が子供たちにとっての子守唄であるからだろうか。

 

 

 

 

 

 寺子屋の中に入って彼女の姿を探す。どうやら丁度休み時間であるらしく子供たちの活発な声が聞こえてくる。

 

 ああ、見つけた。

 

「先生ー、鈴奈庵さんの方から教本をここへ運ぶよう依頼を受けました。荷物を裏まで持ってきたので確認をお願いします」

 

「おお、今日は藤見屋としてやってきたのか、お疲れ様だったな。おっとそうだ。今度気が向いたら是非また子供たちの面倒を見てやってくれないか? 結構評判良かったんだぞ?」

 

 その時の事を思い出してつい苦笑いしてしまう。

 

「あはは、まあ前向きに検討させてもらいますよ」

 

 そうかそうかそれは良かった、と喜ぶ彼女を見て少し不安な気持ちになる。

 

──もしや、遠回しにお断りしますって言ったのが伝わっていない?

 

 『評判良かった』って単純に先生より俺の方が御し易いからとか、絶対そういう感じの理由なのだが。

 

 

 

 

 

『一時限だけ、子供たちの自習の様子を見てやってくれないだろうか』

 

 過去に一度、そんな依頼を引き受けて寺子屋まで赴いたことがある。

 

 元外来人と知って()()と一斉に外の世界について質問する子供たち、その無邪気で元気が有り余ってますとばかりの様子に、俺もこの年の頃は何も知らず幸せだったなあ、とちょっと感動しながら対応していた。

 

 こちらとしても子供の視点からの幻想郷像というものに興味があったので、色々と質問を返してみた。ついでにあの“頭突き”について聞いてみたりなんかして。

 

 それを横目にしめしめと遊び始めた子供たちがいたのを見逃さなかった。まあ、その時の俺は子どもの仕事は遊ぶことだと思っていて特段注意しなかったのであるが。

 

 多分、その味を占めた子供たちが要望を出したのだろう。

 

 実質一時限ずっと休み時間みたいなもんだったからな、あれ。

 全然自習してなかったし、依頼達成出来てなかったなと猛省したのは記憶に新しい。

 

 

 

 

 

 寺子屋の裏手に到着すると先生──慧音さんは、俺が引いてきた荷車の中身をしっかりと(あらた)めて満足そうに頷いた。

 

「ふむ、確かに一通り揃っているようだ」

 

 これで、藤見屋としてのお仕事は終わりである。

 

 ふう、と息をつく。道中の時間は短かったが山積みの本を運ぶのはやはり体力的な消耗が激しい。依頼達成を確認してやっと落ち着くことが出来た。

 そういえばと何か気がついた様子の彼女を見て、こちらから話しかける。

 

「慧音さん、どうかしたんですか?」

 

「いや何、最近は忙しくて“彼女”のところへ顔を出してなかったなと思ってな。そっちはどうだ?」

 

「あー、そういや俺の方もそうですね。何だったら丁度この後暇なんで、様子見に行きますよ?」

 

 単なる“彼女”という呼称だけで通じるのは、やはり俺と慧音さんで一種の同盟を結んでいるからか。

 その名も、“なにかとズボラな彼女の生活環境を改善させよう同盟”。

 俺が内心そう呼んでいるだけなのでこんな名前付けてるとバレたら慧音さんに呆れられてしまいそうだ。

 

「そうか、では私がよろしく言っていたと伝えておいてくれ」 

 

 彼女がふと破顔する。

 

──彼女の穏やかな笑顔を見ていると少し気恥ずかしくなってしまう。

 

 “俺好み”の女性に耐性があんまりないのは、これまでまともに恋愛経験を積んでこなかったせいか。

 ついついもう少し言葉を交わしていたい、そういう誘惑に駆られてしまう。

 

「あの──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえば生徒たちから聞いたんだが、君が私の頭突きを是非受けてみたいって」「早速行ってきます。ではまた」

 

 前言撤回、速攻でその場を離脱する。

 

 誰だよそんなこと言った子、出てこい。

 

 いやまあ確かに、あの威力はどれほどか気になって前に質問した事はあったけどさあ。俺が実際に食らってみたいとまでは言ってなかったはずなんだよなあ。

 伝言ゲームみたく、俺が慧音さんの頭突きに興味持っていたことが生徒を通して本人に伝わってしまったのだろうか。

 なんという誤解。

 それでアレの餌食になるのは真っ平御免である。

 

 競歩みたいな歩き方になりながらその場から離れる。絶対に食らってやるものか。

 

 勢いそのままに目指すは迷いの竹林、そこにある廃屋である。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 万が一のことを考慮し、里で少しお買い物をした後。

 

 人間の里の外に出てから空を飛ぶ。

 

 別に里の上空の飛行を禁止されているわけではないが(実際に天狗などがよく飛び回っている)、やっぱりどうしても目立ってしまうものだ。

 仕事中なのであれば良い宣伝になるし、俺が飛んでいるのに気づいた人が臨時の依頼をする為に地上から呼び掛けてくるなんてこともある。

 それなりの期間を人間の里で活動したので、そこそこ名が通ってきているのだろう。

 

『おーい藤見屋ー、今いいかー?』

 なんて調子で。

 

 そうじゃない時、つまりプライベート中は地上を歩いて移動している。あまり不用意に目立ちたくねえなぁと考えているからというのが理由の一つ。

 

 その他に、霊力の温存という理由がある。

 

 霊力の弾丸然り、飛行能力然り、火の術然り、特殊なことをするにはとにかく霊力が必要になるのだ。

 残念ながら、俺の霊力は無限に湧いて出てくる代物ではない。

 

 霊力や妖力などのそういった“力”に恵まれた者は自身のそれのみならず、周囲の空間に漂う“力”でさえも己が術の行使に役立てるらしいが──そんな事は常人の俺にとってなんにも関係ない話。

 

 外の世界と比較して幻想郷の方がより多く霊力が漂っているのをなんとなく感じる程度だ、精々自分が出来るのは。

 

 

 

 因みに。

 俺の保有している霊力の総量、最大出力は共に“並”である──とは博麗神社の巫女、霊夢さんのお言葉。

 

──ここは規格外な霊力を持っていたり、ものすんごい威力を放てることが発覚して盛り上がるところではないのか。

 

 中学校へ進学する前の俺ならそう不満を持つところであったが、これまでの人生経験からして『まあそうなんだろうね』『知ってた』と冷めた視線で評価している自分がいる。

 

 『常識に囚われる程度の能力』がそれに当たるのではという発想もあった。自分の理解の及ばない事象からの干渉を防ぐ、そう言い表せばなんともそれらしいではないか。

 

 だが結局のところ、物理的なものや霊力的なものに対しては全く歯が立たない。躓いたら、殴られたら、切られたら、霊力や妖力で作られた弾に当たったら。

 正直、直接的に俺を害するものにこそ、その効力を発揮して欲しかった。

 

 それこそ全ての事象から身を守ることが出来る能力であったら諸手をあげて歓迎したのに──

 

……いや、やめよう。どうしようも無いことにいつまでも愚痴をこぼし続けるのは。

 こうして空を飛べるだけでも十分に俺は恵まれている。能力だっていつかは役立つこともあるはずだ。

 

 そう前向きな気分に切り替えて空を行く。

 

 

 

 

 

 ••••••

 

 

 

 

 

 迷いの竹林を見下ろし、その手前辺りにある目的地を目指す。

 

 人間の里からここまでの途中、野良妖怪から数度狙われたのだが、ある程度近づくと途端に踵を返して逃げ出していってしまった。

 

 それは俺が見事、霊力の弾丸でもって撃退してみせたから──というわけでもなんでもなく、霊夢さんから貰った『ありがた〜い博麗の御札』の効果によるものだ。

 

 ある程度以下の力しか持たない弱めの妖怪は、この御札のお陰で追い払うことが出来る。

 すぐに効力が切れてしまい頻繁に補充しに神社まで行かなければならないのが玉に瑕だが、それでもこれは非力な俺が人里の外で活動するのに、決して欠かせてはならないマストアイテムなのだ。

 

 

 

 本音を言えば危険な人里の外ではなく安全な中で仕事をしていたいのだが、そうも言っていられない。

 

 そもそもの話、人間の里には運び屋や何でも屋が自分以外にも多数存在している。

 俺がこの稼業を始める前から、それらの需要と供給はそこそこ普通に成り立っていたのだ。

 

 その為、最初は新参者の俺に依頼を回してくれる人を見つけるまで苦労したものだ。

 自分の全力を尽くして評判を落とさぬようにと遮二無二励んでいたら、いつの間にか“人間の里の外でも活動出来る貴重な運送屋兼便利屋”という評価を頂けるようになっていた。

 

 外に生えている薬草の採取や畑に出没した野良妖怪退治の援護など、人里におけるニッチな需要をいつの間にか満たしていたのである。

 

 さっきのように里の中でも仕事することはあるが、基本的に俺に求められているのは外でのお仕事。

 

 ならば、可能な限り身の安全を確保する手段の確保が急務であり、俺はその一つとして『ありがた〜い博麗の御札』を頼ったのだった。

 

 

 

 

 

 ここに来るのはもう何度目のことだろう。

 

 屋根は抜けてしまっていて、壁には大きな穴が開いている。

 すっかり朽ちてしまった木材の破片が辺りに散らばっており、最早かつての廃屋のどの部分を象っていたのか判別は不可能だ。

 

 慧音さんに連れられて初めて見た時は、“彼女”がこんな粗末な小屋に住んでいるとは、と驚いたものだ。

 

「おーい、妹紅ー。俺だ、勝手に入るぞー」

 

 ここの家主は客人を出迎えるなんて殊勝な真似はしない。

 しかもそれに“招かれざる”という修飾がつく時は特に。そもそも、彼女が他人をここに招くというのも想像し難い。

 

 破れまくって大層換気の効率が良さそうな障子を開けて、躊躇いもなく屋内へ侵入する。

 

 そこには、いつものように寝惚け眼を擦ってこちらを軽く睨む少女がいた。

 

 常識的に考えて女の子の部屋に本人の許可を得ず侵入するのは本来避けるべき事なのだが、こちらは“保護者(上白沢 慧音)”からの許可を得ている。何処も恥じ入ることはない。

 

 慧音さんからの頼みが切っ掛けとなって、毎度こんな感じで、俺はしばしば彼女の世話を焼きに行っている。

 

 即物的な報酬こそないものの、これもまた立派な依頼だった。

 





 そういえばこれ描写してなかったや と一々解説を挟み込んで話の腰を折ってしまうのが私の悪い癖

 気づきました? これまでの話でオリ主以外の視点を担当したキャラは“上白沢慧音”、“藤原妹紅”、そして“人里の門番さん”で全てだという事実に
 原作キャラと肩を並べるこの男性、何者なんでしょう 伏線か何かかな

 なんて冗談はさておき
 この作品には主人公以外のオリキャラは登場しません そりゃあ幻想少女たち以外にも沢山の人、妖怪、霊、神などなどが暮らしている幻想郷ですから彼らとの関わりは当然発生します 所謂モブという奴ですね 少なくともこの作品の本筋にはモブが本格的に絡むことはありません今のところは

 作者がオリキャラを複数用意して面白く話を展開させる脳がないと言い換えることも出来ますな




 タグ付けはこれいいですよね? 何か追加すべきという意見があればどうぞお知らせください 美醜感覚逆転ならまだしも”あべこべ”がどこまでを指しているのかイマイチ把握出来ていません サブタイに使ってるのに 貞操観念逆転も含まないといけないのかな


 ところで評価の色見えます? 真っ赤ですよ真っ赤 この作品が高い評価を受けている動かないもとい動かぬ証拠ってやつです 実はもっと前から言及したかったんですがそろそろ評価が固まってきたなと安心するまで時間がかかりました もう喜んでいいよね?

 全然赤くないじゃんと思ったそこのあなた、この作品もかつては高い評価を得ていたんですよー ほんとほんと 信じて

 当然、評価の色がその作品の全てではありません 私もいざ読んでみると『なんだよ、結構面白いじゃねえか•••』となったことは数知れず そういう理由でスルーしていた作品があるのであれば 暇な時間にちょっとだけでも読んでみてはいかがでしょうか ついでに評価や感想なんて書いてみたりね 結構励みになるんですよ?
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