曲がらぬ夢と曲がれぬカーブ   作:月兎耳のべる

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ムムムムッホアァァッ
タイトルは誤字じゃないです。

※速度がちょっとバグってたので直しました(ハロン15→17)
 まだおかしい?気のせいです


第7レース トレセン学園 芝1000m(長距離) 右・外 深夜

「それじゃお嬢ちゃん達、お願いするよ。これライトね。俺は詰め所におるから何かあったら無線で連絡頂戴な」

「はひ……ががが、頑張ります!」

「そ、そんなガチガチにならんでいいんだよ? 怖い物は何一つないからさ」

 

 と、3人が警備員から人数分のライトを受け取ったのが午前0時の事。

 学園に突入したのがそれから10分後の事。

 そしておっかなびっくり真夜中の学園内を進んでいるのが今現在である。

 トウカイテイオー、メジロマックイーン、ゴールドシップは生徒会の作戦通り(?)深夜の見回りを実施していた。

 

「うぅぅぅ~~~……」

「……ど、どうして私がこんな羽目に……!」

「~♪ ~♪」

 

 ジャージ姿に身を包み、手に手にライトを持ち、薄暗い闇の中を切り裂くような光で照らして進んでいるのだが、テイオーとマックイーンは噂の陰に(おび)え無意識に体を寄せ合う形になっていた。

 それも仕方ない事か、深夜の校舎は昼間と違ってどこか人を寄せ付けぬオーラを放っているようで、随所で頼りなく光る非常灯も相まってどこもかしこも幽霊が隠れているように思えて仕方がない。

 そんな中、唯一恐れもなく楽しそうにしているのがゴールドシップただ一人。

 暗闇なんぞなんのその、鼻歌を歌いながら意気揚々と先導している彼女は何故かジャージの上から法被(はっぴ)を着て、両手にはサイリウム、頭にはハチマキを巻いていると来た、完全に楽しむ気満々である。

 

「ご、ゴールドシップ早いよ~……! もうちょっとペース落としてよ……!」

「ああん!? ナマ行ってんじゃねーぞテイオー! 今日と言う日を逃したら次はいつ会えると思ってるんだコラァ!」

「そもそもの話今日会えると決まった訳では……うぅ」

「マックイーンマックイーンマックイーンンンンン~~、会えるか会えないかじゃねえ。会うんだよ! 信じればアイツと会える! あたしは今日会えることを確信してるぞ!」

 

 この日の為にうちわもバッジも作ったんだからな! と隠し切れぬ興奮を顔に表すゴールドシップ。そんな事を言われても二人は全く乗り気になれなかった。何が嬉しくてこんな深夜に幽霊と出会わないといけないのだ、と表情も態度も真向から不機嫌を表している。そんな二人を見るにみかねたか、肩を(すく)めたゴルシがたしなめるように助言をしだした。

 

「それにな、アイツって誤解され易いけどいい奴だぜ? 別に変な奴じゃねーって」

「変じゃないなら噂になりませんわ!」

「そりゃごもっともだ! おっ、ゴルシレーダーが反応――この反応の強さ、間違いねえアイツがいるぞ! 皆の者続け続け続けー!」

「ちょっちょっと待ってよー!」「ゴールドシップ!? お待ちなさいな!」

 

 ぐりぐりとレーダーのように耳を回したゴルシは何をキャッチしたのか学園の奥に駆けてゆき、置いて行かれたマックイーンにテイオーも追わずには居られなかった。

 

 しかしながら深夜の学園の怖い事怖い事! 

 既に入学してから数年が経つ。最初は物珍しかったこの場所も既に慣れ切ったと言っていいのに、完全に陽が沈み切るとこんなにも恐ろしい場所に変貌(へんぼう)するとは!

 マックイーンとテイオーの耳はすでに力なく垂れ下がり、不安そうな顔を隠す事も忘れてちらちらと周りを(うかが)いつつ移動する。闇夜に潜むお化けが出ない事を祈るばかりであった。

 

「おぉーい! ここだぞここー!」

 

 そして辿り着いたのが問題の場所。トレセン学園が誇る巨大グラウンドである。

 ぶんぶん振り回されているサイリウムのお陰で宵闇の中でも何とかゴルシの存在を確認できるが、夜のカーテンが落ち、バックライトすらついていないグラウンドはまるで異形の地だ。

 普段なら一蹴出来るような馬鹿げた噂話の筈なのに、宵闇に染まったコースをいざ目の当たりにすると幽霊が現れてもおかしくないと言わざるを得ず、二人はまるで初めてレースを走った時のようにガチガチに緊張しながらグラウンドに足を踏み入れたのだった。

 

「オイオイオイ~、大丈夫かよ二人とも~? 何ビビってんだ、あぁん?」

「ビビってなんか! って、ていうかホラ今日の所はもうよくないかな……? 流石に幽霊さんも今日はいないよ……」

「そ、そうですわね。アポも無しでいきなり訪問も失礼な話ですわ。きょ、今日の所は手紙だけでも残してまた後日に……」

「――弱腰になってんじゃねーぞテメーらぁっ! 見回り行くぞオラーッ!」

「ひゃあんっ!?」「やだよー!」

 

 ゴルシがどこからともなく取り出したハリセンで逃げ腰二人組のお尻を狙い始めた。巻いたハチマキの隙間にサイリウムを立てて追いかけてくるその様相はまさしく悪鬼そのもの。余りの剣幕に反射的に逃げてしまった二人は深夜のターフで鬼ごっこをする羽目になった。

 

「大体の話っ、私は関係ないのにどうしてーっ! おかしいですわっ! おかしいですわ~~~っ!」

「うええええん! ボクだってこんな所で来たくなかったよー! 会長のバカー!」

「ぐへへへへ、逃げるな逃げるなウマ娘ども……! 私の首返せ~~~!!」

「「ぴぃぃぃぃぃっ―――!!」」

 

 前へ後ろへ、左へ右へ。固まって逃げる二人に迫りくるゴルシ。

 ステイヤー二人組を相手に息を切らすことなく追いかけてくる追込*1特化のゴルシのスタミナはやはり尋常ではない。

 そして二人の脳裏に捕まって無残にも尻を叩かれてしまうイメージが浮かびあがった頃、急にマックイーンの足がぴたりと止まり、驚いたテイオーは前につんのめりそうになった。

 

「ちょっ、何やってるのマックイーン! 早く逃げないと……」

「――あ、ああ……あぁあぁ……あれ、あれあれあれ!」

「え? ちょ、何? マックイーン一体何を……えっ」

 

 マックイーンの顔が暗闇でも分かるくらい恐怖に(おのの)いていた。

 ま、まさか……と震える指先をテイオーが見てみれば――そこには案の定ゴルシとは違う薄ぼんやりと光る何者かの姿があった!

 

「「ぎゃぁあぁぁああぁぁ――――!!」」

 

 おおよそ少女らしからぬ金切り声がグラウンド上に響き渡る!

 二人は抱き合いながらその場にへたり込み、一歩も動けなくなってしまう……そしてそんな二人を差し置いてゆっくりと近付いてくる光る存在! 

 噂はやっぱり本当だった、幽霊は実在したんだ……! あまりの絶望に泣き出しかけた二人、そんな二人の前に(かば)うように立ち上がったのがゴルシである。

 

「ほら見ろやっぱりいたじゃねーか! おーいこっちこっち! こっちに来てくれよー!」

「や、ややややだああぁあー! 呼ぶなよバカバカバカー!」「おバカなんですの!? おバカなんですの!? なんで呼ぶんですのー!」

「おいおい何で泣いてんだよお前達、本来の目的はアイツと会う事だろ?」

 

 ……まあ実際は庇う事などせず逆におびき寄せたのだが。

 オタ芸が如くペンライト(さば)きで幽霊を招き寄せようとするゴルシに、泣きながらキレ散らかすテイオー達。

 その人物はスズカの証言通り頭を除いて薄っすらと発光しており、ゆっくりとこちらに近寄ってくる姿は宇宙人と言うよりかは殺人鬼のソレに近い雰囲気が出ていた。

 そしてテイオーとマックイーンが氷漬けにされたかのように震える中、とうとう(くだん)の人物がこちらに辿り着いてしまった。

 

 二人はまず思った。めっちゃデカイ……と。

 

 ウマ娘の中でも1、2を争う大きさのゴールドシップを遥かに超える高身長。

 ジャージで包まれても尚分かる体の発光具合に、常に力なくへたれている()()()()()()()()()()()尻尾。そして近寄って初めて分かる、例の被り物! 

 犬のような野暮ったい鼻、ウマ娘のような長い耳、まるで死んだ魚のような大きな目と、虚ろに開いた大きな口はどれも恐怖心を否応なく煽るものであり、口と鼻の両方からふしゅーっと漏れ出る荒い吐息も相まって、何を仕出かしてくるのか分からない恐ろしさがあった。

 

「よー! また会えたなー! なあまたここにサインくれよサインー!」

……前もやっただろう

「2回目でもいいだろー? サインってのは一度貰ったら終わりじゃねえんだよー! ホラ、このハッピ! 背中に頼むぜ! ゴルシちゃんへって書くのを忘れずになー!」

 

 テイオーらが恐怖のあまりに声も出せない中、ゴルシだけは平常運転だった。

 彼女は憧れの人物に出会えたファンそのものの反応を見せており、そして件の幽霊もまた普通にゴルシと話しているのだから二人は頭がおかしくなりそうだった。

 

……条件がある

「おういいぞー。レースだろ? 誰とやる? 今日はなんと3人揃ってるぞ! 全員中~長距離得意な奴だから、アンタの得意な短距離はいないけどな~」

「ぴえっ」「ちょ、ちょっと……!」

 

 そしてやり取りを茫然(ぼうぜん)と眺めていたら話の雲行きがいきなり怪しくなっていた。よりにもよってゴルシが白羽の矢を自分以外の二人にも向け始めていたのだ。

 幽霊の視線が二人へと注がれ、テイオーらの尻尾がピンと逆立った。

 感情の読めない虚ろな目の奥で、確かに見える光る鋭い眼。それが二人をジロジロと品定めをしており――途中で何故かマックイーンへと視線が固定されてしまった。マックイーンは露骨に怯えた。

 

「ひ、ひぃぃぃ……! 食べないでくださいましぃぃ……!」

……別に食べたりはしないが……こんな所で会えるとはな

「……へ?」

 

 意味も分からず間抜け面をしてしまうマックイーン、この幽霊はこちらの何を知っていると言うのだろう。これもまた有名税だというのか? あぁそれにしても顔が怖い! 怖いですわ! と限界まで顔を仰け反らせていると、二人の間に唐突に腕が差し込まれた。それは意外な事にテイオーの腕であった。

 

「――レースだったらボクが……ボクがするから! マックイーンは関係ないから手を出さないで!」

「て、テイオー……」

「そもそもこれはボクの仕事だもん! ゆ、幽霊さんとの話し合いはボクだけがやるべきだったんだから!」

 

 涙を目に一杯貯めて、震える体で必死に親友を庇おうとするテイオー。

 そんな彼女の姿に流石に気圧(けお)されたのか、幽霊もまた数歩後ずさった。

 

……すまない。脅かすつもりはないんだ

「だから言っただろ~。()()()()()()()()()()()()その被り物はこえーってさ。おいテイオーにマックイーン、大丈夫だって。別にこの人はそんな取って食ったりするような事しねーって。単純にレースがしたいだけなんだよ。なぁ?」

……その通りだ……レースに勝っても負けても、そっちをどうこうするつもりはない

 

 二人してそう言うが本当の事なのだろうか? ただゴルシが真面目トーンで話す時は大抵真実であるという事を二人は知っていた。一信九疑を半信半疑程度まで回復させた事で、ようやくテイオーもマックイーンも全身に纏わりつく恐怖を少し剥がす事が出来たのだった。

 

こちらが度々指定するようですまないが……1000mで頼む。この地点から、向こうのグリーンウォールの辺りまで」

「直線1000mじゃなくてカーブありでの1000m? 随分と短いんだね……いいよ。でもレースやるならこんな真夜中じゃなくたっていいのに」

「……」

 

 体側、浅い伸脚、軽い跳躍(ちょうやく)、膝の屈伸――テイオーと幽霊がスタートライン前でそれぞれ準備運動を始める。レースとなるとスイッチが入るのか、テイオーには先ほどまでの恐れは微塵(みじん)も見られず、打って変わって小柄な体格から発せられる圧力を幽霊は全身で覚えていた。

 

「――分かったよ、でも今は明かりも何もないよね。走って転んじゃう可能性が結構高い気がするけど?」

「おー抜かりはねーぜ、ちゃーんと対策してあるぞ」

 

 片手でサイリウムを(もてあそ)ぶゴルシがコースを(あご)で指す。

 気が付けばターフの内ラチの近くに数百メートル間隔でサイリウムが転がっている。全体的な暗さは変わらないが少なくとも前よりかは走りやすくはなったようだ。

 

「うん……なら走るよ。でもそっちがお願いするんだったら、ボクの方からもお願いしていい?」

……なんだ?

「ボクが勝ったら二度とこんな真似をするのはやめて。キミの噂で怖がっている子がいるんだ、だから……!」

…………あぁ。それで構わない

 

 (かす)かな怯えをその目に宿しながらもしっかりと言い切ったテイオー。

 その確かな強い意志に根負けしたのだろうか、幽霊もまたしばらくの逡巡(しゅんじゅん)の後、(うなず)き返したのだった。

 

「おい、いいのかよ? お前それじゃ――」

「遅かれ早かれここで走れなくなる日が来ると覚悟はしていた――そして、騒ぎになってしまったなら、もうこのコースで走るのはおしまいだ」

「けどよ……」

「別にあきらめる訳じゃない。俺は挑戦し続けるさ」

 

 ゴルシが納得行ってなさそうに息を吐き、マックイーンは二人のやり取りを怪訝(けげん)そうに見つめる。そして幽霊は……改めてテイオーに向き直ってこう宣言した。

 

試させてくれ。今の俺の実力が、どこまでキミに通用するのか

「いいよ。挑戦されるのには慣れてる――負けてあげないからね」

 

 すっ、とテイオーの目が細まるのを見て、マックイーンは彼女がゾーン*2に入ったことを悟る。今の彼女はレース以外の事を限界まで遮断(しゃだん)した、レースに特化した1つの生命体だ。対する幽霊も顔こそ見えないが張り詰めるような雰囲気はまるで研ぎ澄まされたナイフのように見えた。

 スタートラインに立ち並ぶ二人は体格も、そしてスターティングのポーズも違う。唯一同じものがあるとすれば、そのレースにかける熱意だけだろう。

 

「いちについて――ようい」

 

 マックイーンの声が深夜のグラウンドに木霊(こだま)する。

 テイオーの体が一層の前傾姿勢になり。

 幽霊の腰が、くん、と持ち上がった。 

 

「スタート!」

 

 そしてマックイーンが片手を勢いよく下げた途端。

 2つの風がターフを駆け抜け始めた。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 マックイーンの目から見れば、幽霊は出掛かった*3ようにしか見えなかった。

 スタートダッシュのキレは良かった。ウマ娘としては異例のクラウチングスタートで始め、その長い脚を使ってぐんぐんと前に行くスタイルは、あの短距離の王、サクラバクシンオーを思わせる美しさがあった。

 だが前を行けたのは最初の数十メートルだ。

 テイオーの小さな体に包まれた大型エンジンで、どん、どん、どん! と地面を踏み抜けば瞬く間に彼我の距離が開いていく。

 一度火がついたエンジンは更に回転数を上げていき……三馬身。……五馬身。……あっというまに十馬身の差が出来ていた。

 そちらのエンジンはまだかからないのか? 後半で勢い付いていくのか? そんな疑問も置き去りに、互いの距離は数えるのも馬鹿らしい大差になっていた。距離が1000mなら、今ここで仕掛けねば到底挽回(ばんかい)出来ない致命的な差であった。

 

『いや、あいつの実力はすげーよ』

 

 マックイーンはゴルシの言葉を思い出していた。

 掛け値なしに賞賛した彼女だが、こんなのでは到底実力など感じ取れない。今日は偶然調子が悪いとでも言うのか、と隣で眺めている彼女をつい見れば、何故かタイムストップ片手にゴルシは驚いていた。

 

「あいつ……マジかよ。前より早くなってるぜ」

「はぁ?」

「っし結果は……1ハロン17.5秒! おいおいマジかよ、信じられるか!? 数週間かそこらで1.5秒以上更新! こんなに向上するもんかよ!」

「……いえ、そのペースは大分どころかかなり遅いのではなくて?」

「うおおぉっ!? おい来るぞ魔の第一カーブだ! 頼むっ、行けるぞ! 今度こそ行けるぞ!」

 

 こちらの話も聞かずに謎の盛り上がりを見せているため、マックイーンもまた視線を戻す。

 既にテイオーが第一カーブ終盤なのに対して、ようやくカーブに足を踏み入れた幽霊はやはり遅いと言わざるを得ず、このカーブで一体何を見せてくれるのだ、と呆れ半分で見守っていると――

 

「え?」「あっ」

 

 カーブに差し掛かり、幽霊の前足に体重が乗る。そして速度の低下を嫌って慣性を殺さずに無理やり体重を右に傾けた結果、足の踏み込みが(おろそ)かになった、ように見えた。

 そして慣性と体重を支え切れずにバランスをあっという間に崩した幽霊は、速度を殺しきれずに前のめりに転倒。聞くに()えない酷い音を立て、何らかのパーツをばらばらと零しながら数十m以上転がっていった。

 

「あちゃ~~~~……ダメだったか。カーブはやっぱ難ありだな」

「それどころじゃありませんわよ!? ちょっと、大丈夫ですの? もし!」

 

 露骨に残念がるゴルシをさておいて転倒した幽霊の元へと急ぐマックイーン。

 幽霊が転倒する、というのもおかしな表現だが、かなり派手に転んだのだ。遅いとは言えあの速度での転倒も致命傷になりうる。

 向かう先々で点々と落ちている、恐らくはあの被り物と思われるパーツ。ダンボール製と思われる目や口の部分が無残にも引き裂かれ、そして芝にまみれて転がっている。尻尾らしきものまで千切れているのは口が裂けても大丈夫だとは言えないだろう!

 

 スプラッタな光景を想像してしまうマックイーン。

 しかしライトを片手に現場を照らせば、五体満足でうつ伏せに倒れる幽霊の姿があった。

 当然マックイーンも事ここまで来て最早幽霊だとは思っておらず、そして薄々とその正体に気付き始めていた。

 

「大丈夫ですの!? 怪我は、痛みは!?」

う……いや、大丈夫だ……咄嗟(とっさ)に受け身もとった

「本当ですの? そうですか……良かったですわ。でも後で精密検査は受ける事ですわ……」

言葉もない。恥ずかしい所をお見せした……

「それで」

 

 兼ねてから違和感を覚えていたのだ。目立つ細長な痩躯(そうく)。声のトーンに口調。レースそのものを目的とする言動。そしてこちらへの反応。

 最初は何も言わずにおこうと思った。だが、互いの関係性を隠してくれた被り物はもう壊れて役目を果たしておらず、他ならぬその顔をマックイーンは見てしまった。

 

「それで――なぜこのような真似を? ジェシーさん」

 

 起き上がったその人物の顔を、ライトが照らしていた。

 そこにいたのは紛れもなく例の用務員。ジェシー・応援であった。

 照らされたジェシーの顔は、非常に悔し気な表情をしていた。

 

 

 

 

「……あのー。ねえ。ボク勝ったんだよね? もう戻っていいの? おーい!」

 

 

 

 

*1
スタート後、無理をさせずに後方につけスタミナを温存し、最後の直線で他ウマ娘をごぼう抜きする戦法の事。

*2
集中力が極限まで高まって、他の思考や感情、周囲の風景や音などが意識から消えて、感覚が研ぎすまされ、活動に完璧に没頭している特殊な意識状態のこと。

*3
何らかの理由でペースを乱し、予想以上にスタミナを消費してしまう事。かかり。出掛かりの場合はスタート直後のペース配分ミス。

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