東方不動語 〜岸辺露伴の幻想入り〜   作:佐々木邦泰 

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※アレルギーは個人差があります


幻想郷の奇妙な事件簿 第十九話

永遠亭を退出する頃には日が傾き掛け、この季節なら体感的には午後四時半頃かと思われた

竹林の出口からは鈴仙うさぎが深々とお辞儀をしていた

「入りは入口、出たるは出口...」

どうも人間主体的な感覚でなにかに名前をつけるという行為に少し違和感があった

モノの本質とは名前ばかりで決まってはいけないように思う個人的な意見からである

しかしそのように言ったところで、『名』がなければ雲を掴むようなものであるような代物も触れてきたから、それもどうかと思う

思うに、立場や価値観によって。あるいは白か黒では性質全てを説明はできないし、一方的な善悪では計れないナニカがこの世にはあるのだ

 

月の賢者、八意は八雲のような腹黒ではなかったが、その底知れなさは匹敵するだろうと少ない会話から思った

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

人里で少しばかりの画材の調達を済ませ、安っぽい夕食をいそいそと終えて帰宅すると、家の前にふざけた格好の巫女がいた

「チッなんだよ、久しぶりだな博麗の」

「用があって来たんだけど『ちょっと』いいかしら?」

例えるなら、『怒らないから言いなさい!』と言っているヒステリックな女教師のような、そういう雰囲気を纏っていた

いやもう怒る寸前じゃ〜ん!ちょっと勘弁してよォォ〜!!というツッコミは誰もが経験したことだろう

『声を掛けずに無視すればよかった』と後悔先に立たずであった

「長話なら今日は悪いが帰ってくれないかな。僕だって君に構えるくらい余裕がある日とない日とがあるんだ。暇人の君にはわかんないだろうけどねェ〜ッ」

「んなっ、暇ってわけじゃ!ちょっと!」

「ナァもうともかく今日は帰ってくれよ。僕は君と違って忙しいんだぜ。アポなし訪問に対応できるほど暇してるわけじゃない。明日だ明日。午前ならずっといるから来い」

嘘である

本当は明日は頼まれたスケッチをしに行くのだ

「絶対!絶対よ!約束よ?」

「わかってるよしつこいナ〜」←わかってない

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

骨折の治療を行なった男児

副鼻腔炎で高熱を出してブっ倒れた女性

脳梗塞で右足に麻痺の残る老人

そして、致命的なダメージを負った土方の兄ちゃん

 

四名のスケッチを取り、人里へ降りていた鈴仙うさぎにスケッチを渡して報酬をその場で受け取って小遣い稼ぎは終了した

早朝から歩き回ってスケッチを取り、指の運動にもなったとホクホク顔であった

適当な店で買ったつまみ食いで適度に空腹を満たし、午後からの仕事を考えながら帰路を歩いていると、いきなり目の前に射命丸がカッ飛んできた

「露伴先生早く帰って霊夢さんに謝ってくださいお願いします殺されちゃいますよ」

「なんであいつが僕の家に?」

「約束がどうこうって言ってましたけど、なにかお忘れじゃないですか?」

印象に残らなかったので記憶にならなかったこと、昨日適当にあしらったことを思い出した

「おいちょっと待てよ。あいつリップサービスってのを知らないのか...?」

「というか今日は、原稿を取りに昼に来いって言っておきながら不在だった件についても約束でしたが...」

「それについては心底悪かったと思ってるよ。だからこうして謝ってるだろ?大体、〆切の3週間も前に君には渡してやってるんだからそうカリカリするなよな」

「いや、それはまあ、いいんですけどね?霊夢さんはどうする気ですか?あんまりお金はないですけど露伴先生のお葬式は私の懐から...」

「君さァ〜〜!!助かる方法を考えようとかそういうアタマはないのかよォォ〜〜??」

露伴は知らないからそういうことを平気で言えるが、そういうことはできないと射命丸は知っている

「とにかく一緒に謝ってあげますからっ...!なんとか許してもらって話し合いましょう...!」

ちょっとした茶菓子を三人分買って、急いで帰った

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

アフリカに生息するとあるシカの仲間には、超能力に近い能力があると言われている

ハイパー・センス(超感覚)と言われているもので、近縁種と比べても危機察知の能力が非常に高いという

野生動物の感覚の鋭さでは説明のつかないほど遠くから危機を察知するというが、もしそのシカがこの場にいてもそんな能力は必要なかっただろう

きっと逃げ出していただろうから

必要なかった。というのは、今まさにこの場がハイパー・センスで捉えたらその場で泡を吹いて倒れてしまいそうなほどの空気だったからだ

「やい、射命丸編集部長さんやい...なんだい、この、空気...」

隣を見るとガタガタ震えている射命丸

ボソボソ口を開くと、なにかを言っているのはわかるが、奥歯のガタガタという音で掻き消えた

霊力混じりの殺気が進むにつれ、家に近づくにつれどんどん濃くなっていく

「この、殺気が、露伴、せんせい、のお宅から、近くから、出てて、それで、」

と言ってバッタリ座り込んで、ゼェーハァーとしている

殺気の混ざった濃い霊力にアテられたのだろう

露伴は純粋な人間であるから、互いの妖力や霊力が干渉してしまってアテられるということはない

そもそも、スタンドはそういった能力とは別系統の能力であって、混ざることも干渉することもないのだ

だが逆に言えば、混ざらないということは、外から見たら筒抜けというわけで...

「ムッ、霧だと...?」

さーっと霧のようなものが辺り一体を包む

霧に触れた射命丸の肌が軽く火傷をしているように見えるのから、恐らくは相当に濃い霊力か、殺気が特に濃く混ざったものかだろう

遠くから聞き覚えがあるような声がする

『岸辺〜岸辺エエ、露伴ンン〜』

多少枯れてはいるが、すぐに巫女の声だとわかった

声の聞こえる方向は殺気の来る方向だ

動けない射命丸を置いて、スタスタと霧の奥へ進んでいくと呆然と立つ巫女がいた

「『天国の扉(ヘブンズドア)』」

 

殺気混じりの霧はたちどころに消えていった

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

ボソボソした茶菓子を食べながら霊夢の話を改めて聞く

「この話、本来なら紫のとこの九尾がやる仕事だったんだけど、当の本人の紫が『露伴に相談しろ』って言うからここへ来たの」

「オイオイ、なあちょっとオイオイ。まさか、オイオイ。君まで僕に描けなんて言わないよな?」

「?全く状況が飲み込めてないんだけど。いや、絵の話じゃなくて、あんたって外から来たんでしょ?だからさ、あれるぎー?ってのを聞きたくて」

「それこそ医者の領分だぜーっ。僕は医者じゃない漫画家だぜ?一般教養の知識しかないが、それでいいのか?」

餅は餅屋...である

専門家でない意見を言ったところで正確なことも伝えられないし、踏み込んだ質問にも回答できない可能性がある

「アレルギーってのは、免疫、つまりは身体から異物を排除しようって反応が原因だな。これだけ聞けばよくわからんって話だが、アレルギーは過剰反応だ」

「それって、例えば、アレルギーは風邪をひいたら高熱が出る...って意味?」

「だからさァーッ!僕は医者じゃないって言ってるだろ?僕は漫画家という職業にプライドを持ってるップライドだぞ。テメーは今ッ、仕事に対して真剣に向かう全ての人間を侮辱してるぜ」

文も霊夢もポカーンである

「帰ってくれ。君とは話したくない」

「ハァ?ちょ、岸辺露伴!?」

「八意って知ってるだろ?そいつのとこに聞きに行けよ。君が知りたいことが聞けるんじゃないか?それか八雲だ。あいつを呼んでこい」

家から押し出して、口をつけなかった個包装の茶菓子と一緒に放り出した

「茶菓子の一つくらい遠慮するなよビンボー巫女」

とはっきり言ってやった

状況に置いてけぼりの文は固まったままだったのでそろそろ追い出そうと思って、原稿の話を振った

「で、キミは原稿か」

「原稿もですけど、露伴先生、お聞きしたいんですけど、さっきの霊夢さんの怒りってどうやって鎮めたんですか?」

「ン、まあ...ちょっとした催眠術のようなものが使えてね。それでちょちょーっと鎮めたんだ」

「そんなことが...」

「エジプトに取材旅行に行った時に小汚いババアに教えてもらったのさ」

語りすぎず、会話の主導権を相手に渡さないペース配分を行えば、人は深く追求しない

催眠術の前後の記憶がはっきりしないとも付け加えておけば、1:1の場面では催眠術を実際にやろうとやるまいと大差はない

原稿を渡して文を帰らせて、机に向かって仕事を始めたのは午後三時を少し回った頃だった

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

仕事を終えたのは午後七時前

いつもより始めたのが遅かった分長くかかってしまったが、どうやらナイトルーティンを始めるわけにはいかなかった

先程から気配がするのだ

しかも二人いる

「...?」

忘れ物を取りに文か霊夢が来たのかと思ったが否定した

仮にそうであっても、それではもう一人の気配の説明ができない

「家主の許可なく他人の家を物色なんて悪趣味なんじゃあないの?八雲さんや」

「露伴先生ェ〜〜!バレちゃった⭐︎」

キラーンと星のようなエフェクトがアニメなら出ていただろう

八雲紫である

「他人の家に勝手に上がり込むなんてことが出来るのは君くらいだろうとは思ってたぜ。本当に一言も断らずに入って来るとは思ってなかったが」

「いけずゥ!ちょっとお茶しましょうよ♪。晩御飯まだでしょう。ご招待いたしますよ?」

態度がいやらしかったのが気に入らなかった

それこそ、少し脅迫じみた嫌な態度であった

この岸辺露伴、八雲紫の『顔』を評価していなかった

彼女のそれはどのような表情でも裏があるようなそういう顔に見えてくる。それは不幸な顔だろうと思った

「お茶くらいなら付き合うけど、晩御飯までご馳走になっちゃ悪いよ...」

「『アレルギー』でもありましたか?」

「ヘェ!図星かい...」

九尾こと八雲藍がお茶を持ってきた

二人の気配は紫と藍であったと納得顔である

「改めて聞きます。嘘はいけませんよ?」

同じ殺気である

八雲紫と博麗霊夢、深い関係にあると聞くが、それはその殺気が証明した

親子のようであると無意識のうちに思った

「奇妙な経験をたくさんされてきた人であると見込んで、もしかしたらと思っています。こちらもはっきり申し上げますが、アレルギーというものについて、『その力』で見たことはありますか?」

まっすぐな目であった




次回更新未定

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