ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※今回はハリー視点です。


第44章 ~神秘部~

 

 魔法省に足を踏み入れた時、僕――ハリー・ポッターは、前に来た時のように守衛がいるはずだと思っていた。

 

 だが、今の魔法省は静まり返っている。

 

 

「守衛たちはどこに行ったんだろう?」

 

 

 全員が感じていた疑問をロンが口にすると、イレイナが答えた。

 

「たぶんアズカバンで反乱を起こした吸魂鬼の鎮圧、そして脱獄した凶悪犯の逮捕に向かってるかと」

「でも、さっきの話じゃダンブルドアが助けに向かってるんだろ? だったら何も空っぽにしなくても……」

「いえ、状況は思った以上に最悪です」

 

 イレイナが苦々しげに首を振る。

 

 

「さっき魔法警察のフリントと連絡が取れたんですが――吸魂鬼と脱獄犯たちは散り散りになって、そこかしこでマグルの集落に無差別テロをしかけているそうです」

 

 

 おかげで魔法省は反乱鎮圧に加えて、襲撃されたマグルたちの治療と隠蔽工作、そして対テロ警戒パトロールに追われているらしい。

 

 

「ますます嫌な予感がするわ……」

 

 今度はジニーが全員の気持ちを代弁する。さすがの僕も「やっぱり罠なじゃないかな」という気がしてきたけど、かといってシリウスを見捨てることなんて出来ない。

 

 少しでも気を紛らわそうと、わざと明るい声を出す。

 

「今さらだけど、みんなが一緒で心強いよ」

 

 ハーマイオニーが頷いて、それからイレイナを見た。

 

 

「でも、よくマルフォイたちから逃げられたわね」

「簡単なトリックですよ」

 

 

 イレイナが肩をすくめる。

 

「ブラフの呪文を唱えて相手を勘違いさせ、別の呪文を無言呪文で発動させる――スリザリン生が決闘でよく使うテクニックです」

 

 マルフォイたちには「姿くらまし」すると思わせ、実際には無言呪文で全員に「目くらまし」の呪文をかけたらしい。カメレオンのように周囲の色や質感と同化させてステルス状態にする魔法で、マルフォイたちが面食らってる間にまんまと逃げおおせた、というわけだ。

 

 

 やっぱり頼もしいな、と思った。

 

 

 昔はちょっと英雄気取りで「危険な場所には1人で行く」みたいなのが正解だと思ってたけど、今はこうして皆が一緒にいてくれるのが心強い。

 

 皆で強くなって、それぞれの得意分野を活かして、お互いに助け合う――そうやってチームを組んだ方が、1人で立ち向かうよりずっと沢山のことが出来る。ここにネビルたちがいるのだって、ダンブルドア軍団が尋問官親衛隊から助けてくれたからだ。

 

 

「行こう」

 

 そう囁き、先頭に立って廊下を歩く。金色の門をくぐってエレベーターを降り、ついに夢で見たその場所にやってきた。

 

 

 ――神秘部。

 

 

 取っ手のない扉の方へ向かうと、ひとりでに扉が開いて大きな円形の部屋が現れる。床も天井も黒い部屋には、まったく同じ取っ手のない黒い扉が壁一面に等間隔で並んでいた。

 

 

「それで、どの扉なの?」

 

 ルーナがふわふわとした声で聞いてくる。

 

 

「たしか夢では、キラキラと光っているものがある部屋だったから……」

「順番に全部開けていけば、そのうち正解の部屋が見つかるわけですね」

「……」

 

 イレイナってさ、結構パワー系の解決策好きだよね?

 

 

 というわけで、一度開けた扉にはハーマイオニーが焼き印をつけて記録し、次から次へと扉を開けていく。

 

 

 脳みそが入った水槽が沢山ある部屋、中心部に薄いベールのようなものがかかっているアーチのあるコロッセオみたいな部屋、開錠呪文でもシリウスの万能ナイフでも開かなかった扉……そして次の扉を開けた途端、綺麗なダイヤのような照明の光がきらめいた。

 

 

「ここだ!」

 

 

 扉を開くなり、この部屋が夢で見たのと同じ場所だと分かった。眩しい光に目が慣れてくると、あらゆるところで大小さまざまな時計が絶え間なくチクタクと音を立てているのが見える。

 

「こっちだ」

 

 正しい方向が見つかり、心臓が激しく脈打つ。先頭に立って何列も並んだ机の隙間を、夢で見たのと同じように光源へと向かって歩を進めた。

 

 部屋の奥にはそびえたつ釣り鐘型のクリスタルが光を放ち、その中ではハチドリが孵化しては卵へ戻ってを繰り返している。

 

 

 その釣り鐘を通り過ぎて裏にある扉へと進むと、ついに「そこ」へと到達した。

 

 部屋はとても寒かった。そこに教会のように高く、ぎっしりと高くそびえる無数の棚が並んでいる。棚には小さな埃っぽいガラス玉がびっしりと置かれていて、その間に間隔を置いてとりつけられた燭台の青い灯りを反射して鈍い光を放っていた。

 

 

 じわじわと前に進み、棚の間の薄暗い通路のひとつを覗く。しかし、何も聞こえず、何かが動く気配もない。

 

「えーっと、97列目の棚でいいんでしたっけ?」

「あぁ」

 

 サヤに囁き声で答えて、ゆっくりと進む。息を殺し、杖を抜いて忍び足で前進していく。

 

 

「……ねぇ、ちょっと変だと思わない?」

 

 後ろを進むハーマイオニーが眉根に皺を寄せ、小さな声で囁いてきた。

 

「もしシリウスが拷問されてるなら、もっと悲鳴とか暴力を振るってる音がするはず……なのに、ここは静か過ぎる」

 

 やめてくれ――と頭の中で声がして、険しい顔で言い返してしまう。

 

「シリウスが()()()()()()()()()()()()って、そう言いたいのかい?」

 

 ハッとハーマイオニーが息を呑む音がした。

 

「違うの! ごめんなさい、私そういう意味で言ったんじゃ……ただ、もしかすると罠なんじゃないかって」

「だとしても、シリウスを見殺しには出来ない」

 

 ハーマイオニーの言いたいことは分かる。そもそも魔法省に人気が無い時点で、あやしさ満点だ。

 

 でも、ヴォルデモートの狙いが僕で、シリウスを使って罠に嵌めようとしているのだとしても、結論は変わらない。

 

 

 たった一人の名付け親を、父さんの親友を見捨てるなんて、やっぱり僕には出来ない。

 

 

 ようやく97列目の棚に辿り着き、奥へと歩を進めていく。

 

 

(シリウスはここにいるはずだ。僕はここでシリウスを見たんだ――)

 

 

 なのに。

 

 

(どうして、シリウスは此処にいないんだ……?)

 

 

 **

 

 

「ハリー、これ見て」

 

 イライラしながら棚を行ったり来たりしていると、不意にネビルから呼び止められる。やはり「ホグワーツに戻るべきだ」と言われるのかと思って身構えるも、ネビルの口から出てきたのは意外な言葉だった。

 

「これ……ここに君の名前が書いてある」

 

 僕の名前? 一瞬、何を言われたのか分からず、キョトンとした顔で振り返ると、ネビルが棚に置かれた1つのガラス玉を見つめていた。

 

 僕は少し背を伸ばして、ガラス玉のすぐ下に貼られた黄色味を帯びたラベルを読む。そこには16年前の日付が細長い蜘蛛の足のような字で書いてあり、その下には謎のメッセージがあった。

 

 

 『S.P.TからA.P.W.B.Dへ 闇の帝王そして(?) ハリー・ポッター』

 

 

 僕は目を見張り、思わずガラス玉に手を伸ばす。

 

 ガラス玉を掴んだら、危険な旅に釣り合う劇的な何かがが起こるのかもしれないと思ったけど、期待に反して何も起こらない。思ったよりガラス玉は冷たくないな、と何の意味もない感想が出てくるだけだった。

 

「これ、どういう意味かな?」

「……僕にも分からない」

 

 ネビルにそう答えた直後、背後から冷たく気取った声がした。

 

 

「よくやった、ポッター。さあ、こちらを向きたまえ」

 

 

 聞き覚えのある声は、ルシウス・マルフォイのものだった。

 

 

 **

 

 

「手に持っている玉を、私に渡すのだ」

 

 ルシウスの声に続いて、どこからともなく黒い人影が周囲に出現していき、僕たちの退路を断っていく。フードの裂け目から目をぎらつかせ、十数本もの杖先が真っ直ぐに僕たちの心臓を狙っていた。

 

 

(数はこちらの2倍ぐらいか……)

 

 せめてこちらの動揺を悟られないよう、敢えてルシウスの質問を無視して強気で聞き返す。

 

「シリウスはどこにいるんだ?」

 

 すると死喰い人が数人、声をあげて笑う。そのうちの一人、腫れぼったい瞼の女が「シリウスはどこにいるんだ?」と僕の声音を真似て、嘲るように言った。

 

「聞いたかい? 私らと戦うつもりだよ! ―――愛されてるねぇ、シリウス?」

 

 女がしわがれた悲鳴のような笑い声をあげて、後ろにいたフードの人物に合図をすると、その人物が何か大きなものを担いで前に進み出た。

 

 

 

「シリウス!?」

 

 担がれていたのは、縛られた上に金縛り呪文で硬直した――傷だらけのシリウスだった。

 

 

 

「ハリーの話、本当だったンだ……」

 

 もともと大きな目をさらに見開くルーナ。その様子がおかしかったのか、ルシウスが小馬鹿にしたような失笑を漏らす。

 

「当たり前だろう? 人質が本当にいるかどうかなんて、少し確認すれば分かる話だ。ロクに確認もしないで、どう考えても罠な誘いに乗っかる単細胞がどこにいる?」

 

「「「……」」」

 

 みんな、どうして僕をそんな目で見るんだい……?

 

 

「人質がいないのに神秘部に忍び込んで待ち伏せなどしてみろ。嘘だと分かった途端に通報されて私たちは敵の本陣(魔法省)で一網打尽――そんなヘマを私がするとでも思うのかね?」

「……」

 

 正論の刃で僕の心をグサグサと刺してくるルシウス・マルフォイ。明らかに馬鹿にされてるのに、おっしゃる通り過ぎて何も言い返せない。

 

(もしシリウスが捕まってなかったら、今ごろハーマイオニーたちからの信用はゼロどころかマイナスだったかも……)

 

 結果的にルシウスの確実な仕事のおかげで、僕の信用は九死に一生を得たまである。アズカバンに放り込まれるべき死喰い人ではあるけど、お菓子の差し入れぐらいはあげてもバチは当たらない気がしてきた。

 

 

 イレイナが不安そうな顔で質問する。

 

「どうやって捕まえたんですか? GM社にはそれなりの警備網を敷いたはず――」

「最先端のマギテク満載のオモチャよりも、もっとネズミ捕りを仕掛けるべきだったな」

 

 ワームテールを一瞥し、ルシウスがにべもなく切り捨てた。

 

「そして深夜残業と一人作業も控えることだ。業績が良い時期にはつい無理なスケジュールを組んでしまうものだが、見ての通りいざトラブルが起きた時に対処する余裕がなくなる」

「分かってはいるんですけど、株主から利益還元のプレッシャーが強くて……」

「利益率が簡単に高まれば苦労はしないが、ビジネスはそんなに甘くない。結局、それに加えて効率化(ワンオペ)売上拡大(長時間労働)経費削減(リストラ)を地道に組み合わせるしかあるまい」

「そうなると真っ先に削減対象になるのが職場環境、特に平時は金食い虫のセキュリティ関連予算でして……」

 

 なんだか経営の話で意気投合しているイレイナとルシウスだけど、要は安全対策をケチってネズミに変身したワームテールの侵入を許したということらしい。そして警備が手薄になる深夜帯を狙い、残業で疲れ切ったシリウスを襲撃して拉致したのだ。

 

 

 

「さてワームテール、しっかりナイフを首元に突き立てておけ。ベラトリックス、お前も従弟をよく見張るのだ」

 

 大事な人質だからな、とルシウスが落ち着き払って言う。

 

「ポッターの英雄気取りを、闇の帝王はよくご存じだ。さぁ、予言を私に渡すのだ。そうすれば、シリウス・ブラックは解放すると約束しよう」

 

 誠意を示すためか、わざわざ自分の杖をベルトにしまい込むパフォーマンスまでしている。けれど、その周囲にいる10人以上の死喰い人たちは相変わらず油断なく杖を向けていた。

 

「……シリウスの解放だけじゃない。僕たちがホグワーツに帰るまで、全員に手を出すな」

「いいとも。マルフォイ家の名誉にかけて、私が約束しよう」

 

 あっさりとルシウスは頷いた。

 

「ハリー、マルフォイの父親の言う事なんか信じちゃダメだ!」

 

 ロンが叫ぶと、ルシウスは冷たい視線を向けた。

 

「ふん、ウィーズリーの(せがれ)か。落ちぶれるとこまで落ちぶれると、思考回路まで貧しくなるらしい」

「もしかして僕の家族に喧嘩売ってる? 買うよ?」

 

 けんか腰で拳を握り締めるロンを無視して、ルシウスは再び僕に向かって口を開いた。

 

「私とて、無用な殺傷は好まん。魔法族の血が無駄に流れることは、我が君の意に反する」

「つまり?」

「ポッター、お前は私に予言を渡す。同時に、ワームテールがブラックをお前たちの誰かに渡す――それでいいかね?」

 

 逸る気持ちを抑えるように、ルシウス・マルフォイが落ち着いた声で言った。

 

 

「……わかった」

 

 

 僕が答えると、ベラトリックスをはじめとする数人の死喰い人がケラケラと笑い声を漏らす。たぶん、バカな子供だと思って嘲っているのだろう。

 

 もちろん、僕だって死喰い人たちが律儀に約束を守ってホグワーツまで手を出さないだなんて、端から信じては無い。

 

 けれど、まずは死喰い人からシリウスを取り戻さなけきゃ、何をされるか分かったものじゃない。去年のイレイナやセドリックが酷く拷問されていたのを見ているから、なおさら他に選択の余地はないと思う。

 

 

「それじゃあ……」

「僕が行く」

 

 シリウスの受け渡しに立候補したのはロンだった。心配そうなハーマイオニーに見送られ、青い顔をしたロンが隣に並んだ。

 

「……いいの?」

()()()()()()が懐かしくてね」

 

 ニヤッと笑ってワームテールに目をやるロン。しょうもないジョークだけど、少しだけ気分が軽くなる。

 

 

 正面に向き直ると、ルシウスが気取った様子で聞いてきた。

 

「準備は出来たかね?」

「ああ」

「では、取引開始といこう」

 

 

 一歩、二歩、三歩………。

 

 

 少しづつ、ルシウス・マルフォイと距離を詰めていく。隣では、ロンがシリウスを担いだワームテールの方へと歩いていき、そして互いの手が届くまで近づいて4人とも動きを止める。

 

 再びルシウス・マルフォイが口を開いた。

 

「3つ数えたら、ワームテールがブラックをウィーズリーの倅に渡す。同じタイミングでポッター、お前は予言を私に渡せ。いいな?」

 

 僕が頷くと、ルシウス・マルフォイが数え始めた。

 

「では、いくぞ。いち、に、さん―――!」

 

 ルシウスの指がガラス玉に触れ、ロンの手がシリウスを支えた次の瞬間、6つの声が背後で叫んだ。

 

 

「「「「「レダクト-粉々!」」」」」

 

 




 マルフォイパパはシゴデキなので、ちゃんとシリウス捕まえてきました。

 神秘部の戦い、もしハリーが冷静に待機してシリウスの無事を確認してた場合、逆にお辞儀さまも人質もいないのに敵の本拠地で待ち伏せしてたルシウスたちが一網打尽になるから、まぁまぁリスキーな作戦のような気が・・・。
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