ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第04話 ~ホラス・スラグホーン~

 

 ダンブルドアが夏休み中に突然現れて、「少し付き合ってほしい」と言った時点で、僕――ハリー・ポッターはもっと警戒するべきだった。

 

 というより、僕の人生において、ダンブルドアの「少し付き合ってほしい」は、たいてい「危険な大人に会いに行く」「ヴォルデモート絡みの何かを見せられる」「僕だけがなぜか事情を知らされない」のどれかだ。

 

 

 

 先生に連れられて入った小さなカフェは、見たところ何の変哲もなかった。窓際では老婦人が新聞を読んでいて、奥の席では魔法使いらしき男が居眠りしている。少なくとも、いきなり吸魂鬼が現れるような雰囲気ではない。

 

 

 だが、ここからが問題だ。

 

 灰色の髪をきれいに整え、涼しい顔で紅茶を飲んでおり、見た目だけなら可憐なのだが、そういう時に限ってロクでもないことを考えている、ホグワーツ1番の美少女はいったい誰か。

 

 そう――。

 

 

「私です」

 

 

 名乗らずとも知ってるやろ、ぐらいの自信に溢れたドヤ顔をしたイレイナが手招きしてくる。テーブルの反対側の席を勧められ、ダンブルドアと一緒に腰かける。

 

「久しぶりだね、イレイナ」

「ええ。お待ちしていましたよ、ハリー」

 

 にこやかに微笑んでから、イレイナはダンブルドアの方に向き直った。

 

「それから、ダンブルドア校長も」

「待たせてしまったかね?」

「いえ、紅茶が一杯増えただけです」

「それはよかった」

「請求は後ほど」

 

 よくなかった。

 

 ダンブルドアほどのVIP相手に紅茶一杯レベルの請求をするとか、普通はなかなか出来ることじゃない。けれど、それが出来ちゃうのがイレイナで、ダンブルドアも気にした様子はない。

 

 むしろダンブルドアは愉快そうに「おお、もちろんだとも」と微笑んでから、まるで今日の天気でも話すような調子で切り出した。

 

「今日、君を呼び出したのはホラス・スラグホーンという人物に会いに行くためじゃ」

「たしか……元ホグワーツの先生でしたよね」

「そうじゃ。優れた魔法薬学の教師であり、多くの才能ある若者たちを育てた人物でもある。彼に、もう一度ホグワーツに戻ってきてもらいたい」

 

 今のホグワーツには教師が必要だ。特に、まともな教師は常に不足している。防衛術の先生に至っては、毎年まともに終われた人の方が珍しい。学校というより、呪われた人事部だ。

 

「そこで、イレイナにも協力してもらおうと思ってのう」

 

 それから、ダンブルドアは僕を見た。

 

「ハリーも今後の参考に、よく見ておくのじゃ」

「今後の参考?」

 

 僕は聞き返した。

 

 教師の説得を見て何を学べというのだろう。将来、僕が引退した魔法薬学教師を集めて回る職業に就く予定でもあるのか。

 

 イレイナはカップを置き、「なるほど」と少し思案するような顔で言った。

 

「つまり、この私に人材紹介の依頼をしたいと」

「そう受け取ってくれても構わぬ」

 

 ダンブルドアは目を細めて、面白そうに「そうそう、それから」と微笑みかけた。

 

「もちろん、成功報酬はたっぷり出そう」

「さすが校長、話が早くて助かります」

 

 うふふ、と満面の笑みを浮かべるイレイナはルックスだけなら良家のお嬢様のごとし。だが、その正体は金に目のくらんだ守銭奴だった。

 

 

 

 ***

 

 

 そうこうしているうちに辿り着いた家は、外から見れば普通だった。古びた通りに面した、少しだけくたびれた家……けれど、中へ入った瞬間、酷く荒らされた部屋が目に入った。

 

 椅子は倒れ、クッションは裂け、棚は荒らされ、壁には赤黒い染みが飛んでいる。まるで襲撃された後のようだ。

 

 

 イレイナはというと、ゴソゴソと壊れた家具の引き出しやクローゼットを手当たり次第に開いている。火事場泥棒みたいだ、と思ったけど口には出さなかった。

 

 ある程度の物色が済んでから、イレイナは「ふむ」と顎に手をやる。

 

「よくできた演出ですが、詰めが甘いですね」

「演出?」

 

 見てください、とイレイナが指さしたのは半壊した家庭用ワインセラーから引っ張り出したワイン瓶だった。20本ほど入っていたワインのうち、無事に残っているのは7本ほど。

 

「割れているのは全て安物のワインで、無事なのは本物ばかりです。本当に襲撃されたなら、高級ワインだけ一本も割れていないのは不自然です」

「あっ」

 

 僕は部屋を見回した。

 

「他にも、食器棚にあった銀食器は引き出しの中に避難済み。壊れている椅子は安物。高価そうな椅子は無傷。ここまで荒らしたのに、高級品だけきれいに残す理由がありません」

 

 たしかに、よくみれば壊れてるのは安物ばかりだった。人は危機的状況でも、ついつい損得勘定をしてしまうものらしい。

 

「どうするの?」

「決まってます」

 

 イレイナは涼しい顔で高級ワインの1つを手に取る。 部屋の隅の肘掛け椅子が、かすかに震えたような気がした。

 

「1本割ってみるとか?」

「まさか。そんな野蛮なことはしませんよ」

 

 肘掛け椅子の震えが収まった。

 

「見てください、なかなか高値がつきそうです」

 

 まさか。

 

「オークションにかけましょう」

「最低過ぎる」

 

 すると次の瞬間、肘掛け椅子がぐにゃりと歪み、太った白髪の魔法使いに代わった。

 

 

「やめろぉッ!?」

 

 

 太った魔法使いは残ったワインを庇うように僕たちの前に立ちはだかり、ゼイゼイと荒い息を吐きながら啖呵を切った。

 

 

「職業に貴賎なしと言うが、世の中には消えた方がいい仕事が3つだけある――名家のマナー講師、死喰い人、そして転売屋だ!」

 

 

 なんかまた思想の強い人が出てきたな……。

 

 

 

「ホラス、久しぶりじゃの」

 

 

 ダンブルドアは僕を紹介し、それからイレイナを示した。

 

「そしてこちらはイレイナ。君の教え子だったヴィクトリカの娘じゃ」

「ヴィクトリカの……?」

 

 スラグホーンの顔がはっきり揺れた。

 

 僕を見る目と、イレイナを見る目が変わる。彼にとって、僕はリリー・ポッターの息子で、イレイナはヴィクトリカの娘らしい。

 

「これはまた……なんとも懐かしい名ばかりだ」

 

 それからしばらく、会話は思ったより穏やかに進んだ。

 

 スラグホーン先生は母さんのことを話してくれた。優秀で、明るく、誰にでも親切で、それでいて芯が強かったと。僕はそういう話を聞くたびに、胸の奥が熱くなる。母さんのことを知っている人が、まだこの世界にいる。そのことが嬉しくて、少し痛い。

 

 イレイナも、母親の話を静かに聞いていた。いつものように茶化すこともなく、ただじっとスラグホーン先生を見ていた。

 

 

 けれど、復職の話になると、スラグホーンの顔つきは変わった。

 

「ありがたい話だ。実にありがたい。だが、アルバス、今のホグワーツは危険だ」

「まるで昔のホグワーツは安全だったような言い方じゃの」

 

 ダンブルドアとしては「今さら気にすんな」的なフォローのつもりなんだろうけど、たぶん逆効果だと思う。どっちかっていうと「そもそも若い頃、自分は何を血迷ってあんな危ないところで働いてたんだろ……」ってなるんじゃないかな。

 

「ホラス、君ほどの教師が隠れているには惜しい」

「惜しまれるくらいがちょうどいい。死んで惜しまれるよりはな」

 

 その言葉には、冗談ではない重さがあった。

 

 

 

 ――結局、スラグホーンには断られてしまった。

 

 

 

 

「失敗だったね」

 

 普通なら、そこで少し沈黙があるはずだった。少なくとも、説得に失敗したのだから。ところがイレイナは、まるで実験結果を確認した研究者みたいな顔をしていた。

 

「当然じゃないでしょうか」

「どういうことかね?」

 

 ダンブルドアが聞くと、イレイナは肩をすくめた。

 

「たしかにハリーと私は、先生の教え子の子供ではありますが、直接の面識はありません。つまり、ほとんど他人です。他人がいきなり情に訴えても、距離をとられるのは当たり前かと」

 

 ダンブルドアは杖を軽く持ち替えながら尋ねた。

 

「しかし、君にはまだ考えがあるようじゃ」

「ええ。次は本物の教え子を連れてきて情に訴えましょう」

 

 情に訴えるって自分で言うんだ……。

 

 

 

 ――というわけで。

 

 

 

 二度目の訪問は、さらに奇妙な顔ぶれになった。

 

 イレイナの隣には、母親のヴィクトリカさんがいた。灰色の髪と柔らかな物腰はイレイナに似ているが、にこにこと本心を読ませないような笑顔を浮かべている。つまりは、親子だった。

 

 さらに、闇祓いのシーラさんとイルヴァーモーニーのフラン先生(夏休だから故郷のイギリスに帰省中らしい)までもいる。シーラは明るく豪快で、すでに何かを面白がっている顔をしている。

 この二人も、本作ではシリウスやルーピンの後輩で、スラグホーンの教え子らしい。

 

 

 

 扉を開けたスラグホーンは、顔を引きつらせた。

 

「……今度は同窓会かね?」

 

 

 しかし、中に入ると空気は前回よりずっと柔らかかった。

 

 ヴィクトリカが昔のスラグ・クラブの話を始めた。初めて招かれた時、緊張してカップを落としかけたこと。スラグホーンが、それを笑うのではなく、隣に座っていた先輩に自然に紹介してくれたこと。その出会いが、自分の旅や仕事につながったこと。

 

「先生は、ただ有名人や有力者を集めていたのではありません。少なくとも、私はそう思っています。あの場所には、自分の才をどう使えばいいかわからない若者が、外の世界を知るきっかけがありました」

 

 スラグホーンは、明らかに嬉しそうだった。

 

「大げさだよ、ヴィクトリカ」

「大げさに言われるのはお好きだったでしょう?」

「否定しにくいな」

 

 シーラさんは椅子にもたれ、腕を組んだ。

 

「あたしは正直、あの空気は苦手だったなー。セレブって柄でもなかったし、やたらフランと隣の席にされるし」

「それはこっちの台詞ですよ、シーラ。毎回のように問題児と組まされる私の身にもなってください」

 

 憎まれ口を叩くフラン先生の表情はとても楽しそうで、スラグホーンも穏やかな微笑みを浮かべている。

 

「懐かしいな。君たちは少々……いや、かなり問題児だった」

「でも、先生は完全には見捨てませんでしたよね? 推薦状を書いてくれたおかげで、シーラも私もなんとか就職できましたし」

「私はただ、早とちりしないよう忠告しただけだ。君たちに問題が無いとは言わないが、それ以上に見るべきものがあるから、よく見定めて欲しいと。内定を勝ち取ったのは君たちの実力だ」

 

 

 これはいける――。

 

 

 スラグホーンが揺れているのが分かった。この人はきっと、自分が必要とされていることや、褒められることに弱い。そして何より、優れた審美眼を持っていることが誇りであり、生き甲斐なのだ。

 

 けれど、スラグホーンは最後に深く息を吐いた。

 

「君たちの言葉は嬉しい。実に嬉しい。私は……今日、それを確認できただけで満足だ」

 

 

 **

 

 

 外へ出た時、僕は今度こそイレイナも諦めるだろうと思った。

 

「ねぇイレイナ、もう――」

「あと一押しでいけそうでした。あと一押し、あと一押しあれば……」

 

 まるで諦めていなかった。

 

「どっから来るのその自信?」

「1回目より反応は柔らかかったので、作戦の方向性は正しいことが分かりました。それでも失敗したということは、押しが不足していたということです」

 

 勉強でもスポーツでも、仕事でも恋愛でも、結果が出ない時は2種類ある。そもそも方向性が間違ってた場合と、方向性は正しくても最後のひと押しが足りてない場合だ。

 

 頭では理解してても、普通だったら心が折れそうになる。けれど、イレイナは自信たっぷりに。

 

「つまりは倍プッシュですね」

「それ言いたかっただけだよね?」

 

 彼女は僕のツッコミを無視し、指を一本立てながら、こう言った。

 

「私にいい考えがあります」

「その言葉を聞く度に不安になるんだけど」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 三度目の訪問の日、僕はダンブルドアと一緒に、スラグホーンの家から少し離れた場所に立っていた。

 

 通りは静かだった。夕暮れの薄暗さが、家々の窓に細く伸びている。普通なら、夕食の匂いでも漂ってきそうな時間だ。

 

 

 だが、今日は違った。

 

 

 空に馬のいななきが響く。見上げれば、ペガサスが牽引する黒塗りの馬車が何台も飛翔していた。軍帽のようなものを被った魔法使いが座っていて、荷台には深緑と黒を基調にした軍服風ローブを着た大人たちがぎっしり乗っていた。

 

 ヴィクトリカさん、シーラさん、フラン先生。さらに、魔法省の役人らしき人、聖マンゴの治療師、新聞社の編集者、魔法薬店の経営者、クィディッチ関係者らしい体格のいい男たち――。

 

 

「……先生、あれは何ですか?」

 

 僕は隣にいたダンブルドアを見た。

 

「ホラスの同窓会じゃ」

「僕の知ってる同窓会とは、だいぶ違うように見えるんですけど」

「奇遇じゃの。儂の知ってる同窓会とも、だいぶ様相が違う」

 

 

 そういう言ってるうちに、ペガサス馬車と魔法使いたちはマグルのヘリボーン部隊のように地上に降下して、荷台から魔法使いたちが次々に飛び降りていく。

 

「急げ!モタモタするな!」

 

 陣頭指揮をとっているのはシーラさんだった。現役の闇祓いなだけあって、無駄のないよく訓練された動きだった。

 

 

「フラン班は玄関前へ! ヴィクトリカ師匠班は裏口をそれぞれバリケード封鎖するんだ! いいか、蟻一匹逃がすなよ!?」

 

 

 バリケード封鎖する同窓会ってなんやねん。

 

 

「念のため、マグル避け呪文で結界も張っておきましょうか」

「近隣住民には危害を出さないように」

「くれぐれも失礼のないようにしろよー」

 

 その間にもヴィクトリカさん、シーラさん、フラン先生がノリノリで指示を出し、旧メンバーたちは慌ただしく展開していく。

 

 

 やがて、スラグホーンの家は、完全に旧スラグ・クラブの包囲下に入った。

 

 

「見事なものですね」

 

 最後の馬車から降りてきたのはイレイナだった。彼女だけは軍服ではなく、いつものローブ姿だった。灰色の髪を揺らし、にこやかに周囲を見回している。

 

「寮の垣根を超えた学生時代の繋がりが、卒業後にこうも見事に花開くとは」

「とりあえず全員ノリが良さそうなのは伝わってきたよ」

 

 魔法使い、基本的にヒマなのかな?

 

 

「ごめんくださーい」

 

 イレイナがドアをノックした数秒後、中から足音がした。扉が細く開き、スラグホーンが顔を出す。

 

 

「ま た 君 か」

 

 

 その声には、呆れと疲れがにじんでいる。けれど、イレイナの背後を見た途端、目が点になった。

 

 そこには、軍服風の厳つい服装をした旧スラグ・クラブのメンバーたちが整列していた。馬車は通りを塞ぎ、バリケードは家の周囲を囲み、立て札には堂々と「同窓会」と書かれている。

 

 スラグホーンは、扉の隙間から震える声で言った。

 

「……それで、今日は何の用かね」

「まずは入室許可をお願いします」

 

 スラグホーンは何か言いかけたが、背後の隊列を見て口を閉じた。賢明な判断だった。

 

 

 **

 

 

 スラグホーンの家の中、机の上に羊皮紙が置かれた。

 

 

『ホラス・スラグホーン教授のホグワーツ復職およびスラグ・クラブ再始動に関する確認書』

 

 

 スラグホーン先生は椅子に腰かけながら、今にもまた肘掛け椅子に変身しそうな顔をしている。その後ろには旧メンバーが背中に手を回し、ずらりと整列していた。

 

 その中からヴィクトリカさんが一歩前に出た。背筋を伸ばし、鋭い声で号令をかける。

 

 

「気をつけ! スラグホーン教授に、敬礼!」

 

 

 部屋中の旧メンバーたちが、一斉に敬礼した。

 

 

「「「「ホグワーツ、万歳!」」」」

 

 

 掛け声が壁を震わせる。武器も魔法も使ってないのに、すごい圧だった。

 

 

「これは脅しなのかね?」

 

 スラグホーンが震え気味に聞くと、イレイナは速攻で否定する。

 

「いえ、恩師に感謝の言葉を述べてるだけかと」

「大人数でプレッシャーかけてるようにしか見えんが」

「部屋を埋め尽くすほど感謝の気持ちが大きい、ということではないでしょうか」

 

 

 それから旧メンバーの一人、魔法警察の高官らしき女性が進み出た。制服風のローブの胸元には、立派な勲章が光っている。

 

「先生。私は、先生の推薦状がなければ、今の部署には入れませんでした。家柄も目立った才能もなかった私を、先生は晩餐会に招いてくださいました」

 

 彼女の声は真剣だった。

 

「私はあの夜、自分が誰かに期待されているのだと初めて思えました」

 

 

 

 次に、聖マンゴの療者が前に出た。

 

「先生の授業で、私は魔法薬の奥深さを知りました。先生が研究者を紹介してくださらなければ、療者として今の道には進めませんでした」

 

 

 

 日刊予言者新聞の記者が続いた。

 

「最初の記事を拾ってくれた編集者と出会ったのは、先生のクラブでした。あの時先生は、『この子は物事の裏側を見る目がある』と言ってくれました。私はその言葉を今も覚えています」

 

 

 

 

 魔法薬店の経営者は、深く頭を下げた。

 

「先生がつないでくださった人脈が、私の店を救いました。先生は、僕に機会を与えてくれた」

 

 

 彼らの言葉は、どれも本物だった。

 

 

 それは僕にもわかった。

 

 彼らはイレイナに集められたのだとしても、スラグホーンへの感謝を偽っているわけではない。昔、自分を見つけてくれた教師のおかげで、人生が広がった……本当にそう思っている。

 

 

 問題は、全員が軍服風の格好で整列し、署名欄を見つめていることだった。

 

 

 シーラさんが腕を組んで言った。

 

「先生、あんたの会は、ただの贅沢な飯会じゃなかった。寮も家も立場も違う連中が、同じ卓につく場所だった。今のホグワーツには、そういう場所がいるんじゃないのか?」

 

 

 

 フラン先生は穏やかに続けた。

 

「争いの時代には、人が互いを知る場所が必要です。スラグ・クラブは、きっとそのきっかけになれます」

 

 

 

 ヴィクトリカさんは一歩前に出た。

 

「先生。私たちは先生からホグワーツで、魔法薬の上手な調合だけを学んだだけではありません。私たちは、先生に自分でも気づかなかった才能を見つけてもらい、自分の人生を豊かにすることができました。今度は、私たちの後輩にも、同じことをしてあげて欲しいと思っています」

 

 

 

 スラグホーンは黙っていた。

 

 目の前には、立派になった教え子たちがいる。だが同時に、彼らは完全に隊列を組んでいる。感謝されているのか、詰め寄られているのか、たぶん本人にもわからないだろう。

 

 

 そこで、ダンブルドアがようやく口を開いた。

 

「もちろん、君に無理強いはせん」

 

 その言葉で、スラグホーンの肩が少し下がった。

 しかし、ダンブルドアは続けた。

 

「だが、その前に君の前に集まった彼らをよく見て欲しい。魔法省で働く者、病に苦しむ人を救う者、言葉で社会を動かす者、商いで人々の暮らしを支える者、空を駆ける者、知識を伝える者……皆、君の教え子じゃ」

 

 部屋が静かになった。

 

 さっきまで軍事作戦みたいだった空気の中に、少しだけ温かさが差した。

 

「ホラス、君は有名人を集めただけではない。若者たちの未来をつなげた。もちろん、多少の見栄もあったじゃろう。好奇心も、打算も、少しばかりの自己満足もあったかもしれぬ」

 

 スラグホーン先生が気まずそうに咳払いした。

 

「少しばかり、かね」

「少しばかり、ということにしておこう」

 

 ダンブルドア先生は微笑んだ。

 

「それでも、これほど多くの者が今日ここに集まった。いかにイレイナやヴィクトリカが上手に音頭を取ろうと、君自身に人望が無ければ、ここまで多くは集められんよ」

 

 スラグホーンは旧メンバーたちを見回した。

 

 思わず威圧されてしまいそうなほどの大人数。

 それだけの人間が、今なお自分を慕っている。

 

 

 長い沈黙の後、スラグホーンがつぶやいた。

 

「……わしのスラグ・クラブは、まだ必要とされているのかね」

 

 イレイナは何も言わず、羽根ペンをそっと差し出した。その仕草だけ見れば優雅だったが、冷静に状況を考えると降伏文書へのサインにしか見えない。

 

(正直、色々とセコいし、強引だとも思うけど――)

 

 旧メンバーたちは本当に感謝していた。スラグホーンも、本当は必要とされたかったのだと思う。

 

 でも、やっぱりヴォルデモートは怖い。だから、一人で逃げていた。

 けれど、自分が昔好きでやってきたことを、好きで捨てたわけじゃない。

 

 イレイナはそれを見抜いたんだ。

 

 

「……まったく」

 

 サインした後、スラグホーンは視線をヴィクトリカさんに移し、深く息を吐いた。

 

「君の学生時代を思い出すよ」

 

 ヴィクトリカさんはにっこり笑った。

 

「ええ。私に似て、娘も美人で頭が良くて人気者なの」

「それ以外のところも、だ」

  

 

 そしてイレイナの方を見ると、今は国際魔法協力部で働いているという卒業生と何やら話し込んでいる。

 

「あなた、スリザリン監督生なんですって? 来年、ウチの部署でブラジル支店の求人出すんだけど、小鬼語(ゴブレット)とポルトガル語が得意な知り合いとかっているかしら?」

「それなら、レイブンクローのモラグ・マクドゥガルさんなんてどうでしょうか」

 

 イレイナはイレイナで、さっそく使い倒す気満々のようだった。

 




 Q「イレイナさんにスラグ・クラブの事を教えるとどうなるか?」
 A「魔法界版ハナ会を作り始めます」

 本作だと尋問官親衛隊も爆速で腐敗してましたし、そもそも純血名家ネットワークが既得権益維持のための鉄のトライアングル的な感じでなので・・・
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