カレンチャンの純愛ものではないんで、そこんとこよろしくです。
あ、未実装ウマはほぼ一頭しか登場しません。
あとオリキャラはあくまでモデルってことでよろしくお願いします……
「お兄ちゃん! こんにちは!」
「こんにちは、カレンチャン。 今日は早いね」
ジャパンカップも近づく11月。
一人部室で調べものをするところに、彼女──カレンチャンはやってきた。
僕がトレーナーを務めるチーム・アスケラは、カレンチャンも在籍するチームだ。
このチームには多くのGⅠウマ娘が在籍しており、特に勝負強いと呼ばれるウマ娘が多い。
僕はその勝負強さに何度も助けられており、彼女たちを頼りに、そして誇りに思っている。
──のだが、それと同時に、このチームにはやたら"問題児"が入ってくる。
追い込み戦法に異常なまでに拘る子、とにかくゲートに入ってくれない子、小柄なのに声は誰よりも聞こえる騒がしい子、僕を何度も投げようとする子、常に僅差の勝負でこちらを冷や冷やさせる子、食事制限を守らず体重を増やし続ける子──と、ざっと思いつくだけでもこんなにヤバい子が多い。
でもこれが凄いのは、全員GⅠ勝ってることだよなあ……
「あれ、お兄ちゃん大丈夫? 疲れてるの?」
「いや大丈夫。 アスケラのこと考えて、ちょっと眩暈がしただけだから……」
「それは大丈夫じゃないよ!」
あぁなんて優しいのだろうこの子は。
問題児だらけと言われるアスケラではあるが、カレンチャンは全くもって気性面に問題はない子だ。
ウマスタグラマー"Curren"としての使命に燃えすぎてる面はあるが、他の子に比べれば些細なもの。
僕の指示には素直に従ってくれるし、レースぶりは優等生の一言。
そして何よりも──
「お兄ちゃん、疲れてるならカレンがお兄ちゃんを癒してあげるね! ほら、背中向いて!」
こういう風に、僕がくたびれてる時に肩もみで僕を癒してくれる。
僕はいつも、いいよいいよってやんわりと拒否するんだけど、彼女は絶対にそれを曲げたりしない。
あまり担当してるウマ娘に甘えるべきじゃないんだけど──おおっ、これはちょっと、甘えるのも悪くはないかもな……
「ふふーん、上手いでしょ、カレンの肩もみ。 お兄ちゃんの為に、一生懸命練習してるんだ!」
「あぁ凄いよ。 多分オルフェーヴルがやってたら、腕を上げられなくさせられたんだろうな」
ふと、このチームのエースと言える彼女の名前を出してしまう。
せっかくカレンチャンが僕を元気にしようとしてるのに、こうやって他の子の名前を出すのはマズイかな。
「あ! もう、お兄ちゃんまた他の子の名前出してるー! こんなにカワイイカワイイカレンがせっかく甘えさせてあげてるのにー!」
案の定、カレンチャンは頬をぷくっと膨らませ、威嚇するように耳を差し向けて、無礼を働いた僕を怒っていた。
アスケラの子たちなら無言で肩を締めて僕を痛めようとするはずなのに、それもしないどころかわざわざ怒っていることを報告するなんて……
彼女を褒めちぎるのは良くないかもしれないけど、やっぱり天使のようだ。
「いいの? 謝ってくれなきゃ、もう肩もみしてあげないけど?」
「ははは、ごめんなカレンチャン。 君がせっかく頑張ってくれてるのにね」
少し笑いながら、せめてものの謝罪を伝える。
彼女は随分と僕に甘いようで、こんなふざけた謝罪でも結構許してくれる、はずだ。
「うんうん! 許します! ちゃーんと謝ってくれたし、もう怒ってないよっ!」
僕の予測通り、彼女は不機嫌な顔をすぐに崩して笑顔で許してくれた。
耳はさっきとは違ってピーンと立っている。
──やっぱり、この子の気分は分かりやすいなぁ。
「そういやお兄ちゃん、今日はどういう練習するの? さっきカナロアちゃんが近くにいたけど、香港の調整のことやるのかな?」
「お、もうあの子来てたんだな。 ご名答、今回は香港のレース場を想定した練習をするんだ」
「え! じゃあ、カナロアちゃんとも一緒に練習できるの!?」
「もちろん。 だって二人で出るからね」
彼女がさっきから言っているカナロアちゃん──本名"ロードカナロア"は、彼女と同じスプリント戦を主に戦うウマ娘だ。
入学当初から高い期待を受けていて、先月のスプリンターズステークスでは、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだカレンチャンを破り、初めてのGⅠ制覇を成し遂げていた。
現在はカレンチャンも目標にしている海外の大レース、"香港スプリント"への出走に向け、準備をしている。
そんなロードカナロア、普段はしっかりしてる良い子なのだが、カレンチャンを前にすると少しおかしくなるところがあって──
「そういえばそうだもんねー! あ! じゃあ今からここにカナロアちゃんも連れてくればいいんじゃないかなっ!」
「ん、まあ確かにそうだな……」
「じゃあ迎えに行ってくるね! お兄ちゃんはここで待ってて!」
あ、ちょっと──と言う前に、彼女はこの部室から出て行ってしまった。
さすがトップウマスタグラマー、一瞬での行動力には相当長けている。
しかし、彼女を一人で行かせて、大丈夫だろうか──
* * * * *
色々嫌な予感がよぎったものの、結局は何事もなく、部室のドアは再び開かれた。
「お兄ちゃん、カナロアちゃん連れてきたよー!」
「あ、お疲れ様。 って──」
あれ、意外としっかりとしてる──これは驚きだ。
「お久しぶりです、カレンさんのトレーナー。 "龍王"ロードカナロア、カレンさんの為に推参です」
ロードカナロア──セミロングの鹿毛を靡かせ、理想的なプロポーションを持ってレースを支配する"龍王"。
チャームポイントは青ぶちのメガネだが、どうやらこれは伊達メガネらしい。
なんとも、別の称号の"竜王"を意識したんだとか──
そんな完璧そうに見える彼女だが、一つだけ弱点がある。
それはライバルとも言えるカレンチャンをめちゃくちゃに意識する点、というか意識しすぎて頭がおかしくなりすぎる点。
なので、本来ならカレンチャンと一対一で対面なんてさせたら、熱暴走して脳がクラッシュするはずなのだが、今日はそんな様子を全然見せてない。
──これは、どういうことだ!?
「う、うん。 それじゃ少し話には聞いてるかもしれないけど、今日は香港のシャティンレース場をイメージして──」
────
「ふーん、おっけい分かったよっ!」
「はい。 今日の練習の意図、よくわかりました」
カレンチャンは満面の可愛らしい笑みで、ロードカナロアはクールな凛々しい顔で、それぞれ応えてくれた。
──にしても、ロードカナロアの様子が全く変わらないのは、本当に何があったのだろうか。
説明するのに5分かかったはずだし、その間ずっと彼女は我慢し続けたわけである。
これは珍記録──もとい、新記録であろう。
「あれ、ロードカナロアはもう服着替えてきてるんだな。 用意が良くて助かるぞ」
「えぇ、それはもちろんのことで──!?」
ど、どうしたロードカナロア!
カレンチャンを見た瞬間、何故か驚いて固まっている──これは、やっちまったという表情か……?
「ん、カレンだけなのかな、まだ準備できてないの……ごめんね! 今スグ着替えてくるから!」
と、勢いよく言ってカレンチャンはまたも部室を出ていった。
すると当然、残るのは僕とロードカナロアの二人だけ。
「はぁ……なんであなたと、ここで二人にならなければいけないんですか……」
カレンチャンがいなくなってすぐ、ロードカナロアから大きなため息が聞こえてくる。
顔は俯き、尻尾も垂れ下がって、見るからに重大ミスを犯しましたよ、という風に見えた。
「その……大丈夫?」
「……大丈夫なわけないです。 せっかくのチャンスを逃したのに……」
少し顔を上げたかと思いきや、僕を睨みつける為の行為だったようだ。
そこまでしなくても、とは思うも、彼女のことを考えればしょうがないことだろう。
「一緒に着替えて、そのまま二人でトラックに向かう──予測できなかったとはいえ、あまりにも悔しすぎます」
「そのさ、これまでのことを考えれば今日は随分と頑張った方じゃないかな……?」
「それはもちろん、このままではいけないと思ったからですよ。 私も先月、カレンさんを破ってGⅠウマ娘となった身。 これから二人で短距離界を盛り上げていく為にも、一人前のウマ娘になる為にも、カレンさん相手でも決して取り乱さないことを心に決めたのですよ。 まあ、正直ギリギリでしたが……」
「そ、そうだったのか……」
彼女も彼女なりに、ちゃんと考えているようだ。
確かに、香港のレース時には知ってる子がカレンチャンしかいないし、来年からもGⅠで顔を合わせる機会があるだろう。
そうなると、GⅠで活躍するには当然、あの子に慣れるのは必要と言える。
実際、今年の高松宮記念では初対戦の影響からか、三着に敗れてしまってるし──
「でも、さすがだな。 龍王たる所以が知れたよ」
「ありがとうございます。 カレンさんからの褒め言葉だと処理しておきます」
ひ、酷い言い様だなぁ……
そうしてカレンチャンを待って5分。
遂に扉が開かれた──と思いきや、やってきたのは思わぬ客人だった。
「やぁ。 元気してるかい」
「っ!? あなたは……!」
扉から現れた謎の男。
その男が登場するやいなや、ロードカナロアは先ほどの比にならないくらいの睨みを相手に利かせる──そう、彼女にとっての天敵の登場だ。
「あ、お疲れさまです。 ヤスダ教官」
ヤスダと呼ばれるこの男は、トレセン学園直属のウマ娘指導教官。
教官というのは基本、トレーナーが付いてない子の指導を請け負う役職なのだが、手が余ってる優秀な教官は時折、トレーナーに頼まれてウマ娘への指導を行うこともある。
彼は特に短距離レースの指導に長けていて、その為か一部のスプリント路線を志す子から何度も指導を頼まれる姿はよく見る。
ここにいるロードカナロアも例外でなく、教官の指導を受けた子の一人である。
僕も短距離の指導に絶対の自信があるわけじゃないから、彼にカレンチャンの指導をお願いすることもままあった。
しかし彼は、ただ指導が上手い教官にすぎないわけではなく──
「お疲れさまです教官。 またあれですか、芦毛の子を引っかけにでも来たんですか?」
「いやいやそんなわけないよ。 僕はそこの、トレーナーさんにちょっと話があってきただけなんだ」
「そうですか。 にしても今朝は凄かったですね、あんなに芦毛の子に囲まれたら一生分困らないでしょうね」
「え、見てたのかい。 あれは普通に歩いてたら、みんなが妙にたくさんついて来ただけなんだけどな……」
彼の特徴、それは芦毛のウマ娘にやたらと好かれやすいことであった。
その原理は不明。
確かに彼は、年齢的にも非常に若い好青年。
ウマ娘の面倒見も良く、年頃のウマ娘から実の兄のように好かれ親しまれている。
だがそれと芦毛には、なんの関わりもないはず。
彼に何回か理由を考えてみてもらっても、いつも答えは──
『なんでだろう……正直、自分自身でもよくわからないんだ』
としか返ってこないのだ。
これはこれでいいことじゃないか! と思う人もいるかもしれないが、恵まれない子への指導を生業とする教官としての職務に使命感を持つ彼は、その状況を嫌がってこそいないが、快くも思ってないのが事実。
まあそんな彼の性格には、正直脱帽物だが……
「この人に用があるんですね。 それじゃ、さっさと用件を終わらせるようにしてください。 可及的、速やかに!」
「う、うん分かった!」
ロードカナロアの鬼気迫る気迫に押され、僕の近くまでやってくる。
何故ロードカナロアがこんなにも気分を害してるか──それはやはり、カレンチャンのことである。
ご存知の通り、カレンチャンは芦毛のウマ娘。
そして教官は、芦毛の子にとても好かれやすい。
更にカレンチャンは、そんな彼に時折指導を受けている。
これらが生み出す化学反応は当然、凄まじいものとなる。
「あ、あの……」
ひそひそ話をする態勢で、僕たちは話し合った。
「もうすぐカレンチャンがここに来るはずです。 なので、申し訳ないですが早めに用件を済ましていただければ……というか、そうした方がいいですよ」
「そ、そうなんですね……分かりました」
申し訳ない……でもこの部室の平和の為、協力してもらうしかなかった。
教官の表情を見ると、とんでもなくおびえていた……
────
幸い用件は理事長からの伝言を伝えることだけだったので、すぐに終わることができた。
「それじゃ、僕はもう帰ります。 トレーナーさん、それではよろしくお願いします」
「分かりました」
形式的な会話の中、よそ目でロードカナロアを見る。
邪魔者を払うように、どっかいけ、どっかいけ、と言わんばかりの顔をしていた。
指導してくれた人なのに、随分と酷いことをするなぁこの子……
「それでは、失礼しま──」
彼が帰ろうと振り向いたその瞬間、入り口の扉が開かれる。
今度こそ、今度こそ──現れたのは──
「あぁっ!?」
芦毛の小柄なウマ娘。
可愛さを可愛さで塗りたくる鉄壁の少女。
そう、我がチームの可愛さエース、カレンチャンがとんでもないタイミングで帰ってきてしまったのだ。
「あ……」
教官も、ロードカナロアも、そして僕も。
誰もがマズイと感じ、思考を停止していた──その刹那だった。
「え! 教官ちゃんだー!」
悪意の欠片もない、カレンチャンの超接近、そしてハグ。
僕たちはそれを、ただただ見ることしかできなかった。
「もう! 来ているなら言ってくれてもいいのにー! ねーなんで来てるの!? カナロアちゃんに用事? それとも……カレンにかなっ!」
「そのどちらでもない、僕への用事だったんだ、カレンチャン」
なんとか今頃になって声を発っせたが、まあ時すでに遅し。
それに、そんなことはカレンチャンにはどうでもいいことだった。
「ふーんそうなんだー。 あ、教官ちゃん!」
「え……何……?」
怯えるような様子のヤスダ教官。
──ごめん、助けてやれなくて。
「あのね。 次、いつ指導してくれるのかなぁって。 だって、スプリンターズステークスの前に教えてもらってから、ずーっと忙しいって言ってたもん! そろそろ教えてくれないのかなーって! ね、お願いっ!」
奥義・上目遣いで、必死に頼むカレンチャン。
いやもう、これ以上は止めてくれ──そう願わざるをえなかった。
「いや、しばらくは忙しいから難しいかな……多分……」
その上目遣い、要注意なり──
これからの自分にそう刻み付け、その危険行為に危うく負けそうになる教官を見遣る。
「むぅ……ま、それならしょうがないかもっ。 香港から帰ってきたら、ぜひぜひ指導、お願いしまーす!」
そこでようやく、彼を解放するカレンチャン。
自分も事が収まったことに一息を──と、何か忘れてるような。
「カレンもね、絶対勝ちたい! って子が出てきたからね! ほら、そこに……って、カナロアちゃん!?」
「あ……か、カレンさん、が……」
"目撃"してしまったロードカナロアは、それはそれは綺麗に口を開けていた──
二週間後、ロードカナロアは日本勢初の香港スプリント制覇という快挙を成し遂げ、師走の日本は歓喜に包むこととなった。
──が、ネットでは表彰式の死んだ魚のような目がバカ受けし、しばらくその話題が続いたそうな──
カレンチャン、ある意味では本当に天使様みたいな馬だったそうですね。
まああの方のお手馬は癖馬しかいませんから……
でも見たかったなあ……サートゥルナーリアとのコンビ。
一応短い後日談的なのも考えてるんで、気が向いたらそれも出したいですね。
最後に、読了ありがとうございました。