テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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テイオー「大人の余裕って?」

 トウカイテイオーは激怒した。

 必ず、かの鈍感浮気トレーナーを振り向かせねばならぬと決意した。

 テイオーは恋愛がわからぬ。テイオーは無敵の三冠ウマ娘である。

 しかし、恋のダービーには無知蒙昧であった。

 

「──ひっどいよね!? ボクのトレーナーったらさぁ、このボクがちょーっとだけオシャレに気を遣って新しいリップ付けたのにさあ、ぜーんぜん気付いてくれないんだよ!」

 

(何しに来たのかしら、この御方は……)

 

 注釈。

 相席しているマックイーンはレース前の為、減量中である。

 その目の前で大量のケーキを頬張るテイオーの姿を見せつけられているため、そのストレスは察するに余りあるものであった。

 

「おまけに、桐生院トレーナーや、たづなさんと二人っきりでどこかに出かけたりしてるんだよ!? ボクというウマ娘が居ながらさあ!」

「貴女のトレーナーも年頃でしょう? あの方も貴女にいつまでも構いっきりだと婚期を逃しましてよ」

「地味に嫌なこと言わないでよ!」

 

 ばくばくばく。

 ストレスのままにテイオーは目の前のケーキを平らげていく。

 ……減量中のマックイーンの前で見せつけるように。

 

「……好敵手のよしみで忠告しますわ。そんなにスイーツを食べていたら太りますわよ?」

「えー? ボク、太らない体質だからさぁ、関係ないかなーって」

「……言葉が足りなかったようですわね。幾ら万年寸胴体の貴女と言えど、おブタになりますわよ」

「ならないもーん。それにオグリやスペちゃんは太ってもすぐ痩せてたしー」

 

(アレは一部の例外ですの!! むぐぐぐ、人が減量中で珈琲しか飲めない時に……!)

 

「あー、ケーキ美味しいなあー、こんなに美味しいのに食べられないなんて、マックイーンも勿体ないよねえ、うんうん」

 

(こ、こんの──コホン、いえいえ私は由緒正しきメジロ家の令嬢……耐えて、耐えるのよマックイーン……!)

 

 再三注釈。

 マックイーンは減量三週間目で、普段にも増して大分キていることを念頭に置くべし。

 その上で──幾ら由緒正しきメジロのお嬢様と言えど、今回ばかりはグーが出そうだった。

 しかし、お嬢様としての最後の矜持が彼女にはそうさせなかった。

 例え幾らウザ絡みして来ようと、連戦連勝で調子に乗っていようと、目の前の相手は替えの利かない親友であることには違いないのだから。

 最も、同じくほぼ毎日──いや毎時間の頻度で自分をおちょくりに来る某黄金船相手には何時もプロレス技か眼球への攻撃で返り討ちにするのがマックイーンの日課であったが。

 

「コホン、そもそもウマ娘とトレーナーは恋愛禁止ですわ。不純でしてよ」

「マックイーンだって人の事言えないじゃん」

「私と、私のトレーナーは清い絆で結ばれた間柄ですわ!」

 

 「とか言って、こないだ商店街の福引で当たった温泉旅行に一緒に行ってたじゃん」とはテイオーは敢えて口にはしなかった。多くのウマ娘が居るこの場で爆弾を投下するほどテイオーは空気が読めないわけではなかった。

 ウマ娘とトレーナーは一心同体とは言うが、マックイーンのペアのように公私べったりで距離感がバグっている例もあるにはあるのである。

 尤も、隙さえあればテイオーもトレーナーの部屋に入り浸っているのであるが。

 

「大体、貴女はトレーナーの相手役を努めるには聊か子供っぽすぎるのではなくて?」

「うー……オトナの魅力が足りないってこと? でも”ずんどー”なのはマックイーンも大して変わらないじゃん」

「私のはスレンダーと言いますの! 身長差を見てから言って下さる!?」

 

 マックイーンが言いたいのは、テイオーの幼さが残る性格についてだった。

 最も、彼女の無邪気なところに惹かれる人やウマ娘が多いのも事実ではあるのだが、彼女のトレーナーは20代前半である。

 とてもではないが、見た目も中身も中学生並みのテイオーなど異性としてはアウト・オブ・眼中なのではないか、とマックイーンはテイオーにぶつけた。

 

「──今の貴女はさながら恋に恋する乙女。トレーナーのことが好きなのではなく、トレーナーと恋愛している気分になっている自分が好きなのではなくって?」

「むかーっ! ひどいよマックイーン! ボクは本気なんだよ!?」

「何処まで本気やら、ですわね。レースも恋愛も妥協が命取りでしてよ?」

「じゃあ、どうしたら良いの! オトナの魅力って何なのさ!」

 

(クッ、この……子供っぽいくせに、毎回痛い所で食い下がるんですのね……大人っぽさ……大人っぽさ……)

 

「それはもう……大人の()()ですわ」

「ヨユー?」

「ええ。例えば生徒会長なんて、どうでしょう」

「ッ……カイチョー……はっ!」

 

 マックイーンは、生徒会長もとい、テイオーの憧れの相手であるシンボリルドルフを例に挙げる。

 皇帝の異名を持つルドルフは、何があっても動じることがない。常に平静で穏やかであり、生徒からは慕われている。

 ……たまに挟むしょうもないダジャレで、副会長・エアグルーヴのやる気が下がっていることもセットで語り草であるが。

 

「確かに! カイチョーは、いつもどんな時も落ち着いてて、ヨユーって感じだ!」

「でしょう? トレーナーが他の女の人と出かけているくらいで一喜一憂しているくらいでは、大人の余裕とは程遠いというものですわ」

「じゃあボク、早速カイチョーに大人のヨユーってやつをどうやったら身に着けられるのか聞いてくるよ! ありがと、マックイーンっ!」

 

 そう言って、彼女は食堂を飛び出していく。

 ……なんとも慌ただしい少女だ。

 

「全く……世話が焼けますのね」

 

(殆ど口から出まかせのテキトーでしたけど、まあ何とかなるでしょう……テイオーですし)

 

 殿方を夢中にさせる大人の魅力など、マックイーンが聞きたいくらいであった。

 しかし、本人が納得しているようだし、まあ大丈夫だろう──と彼女は踏んでいた。

 

(さあて、ゴールドシップが来る前にそろそろ私もお暇しないと──)

 

「そうだなー、世話が焼けるよなー、マックイーンもこないだトレーナーが出張に行ってた時、一週間くらい大荒れしていたもんな、帰ってくるなりトレーナーに抱き着いてたもんなー」

「……」

「そういうわけでマックイーン、ついてきな! 今日はタイタニック号の上で大人の魅力が何たるかをマックイーンに教えてやろうじゃねえか!」

「……何で」

「……ん?」

 

 最早、突っ込みは放棄したマックイーンだった。

 テーブルの下からぬっと顔を出したのは──説明不要・ゴルシであった。

 恥ずかしさと減量のストレスが合わさり、顔を真っ赤にしたマックイーンは備え付けのマスタードのチューブを手に取って、

 

 

 

「──何で貴女が()()を知っていますのッッッ!!」

「ちょっ──目にマスタードは、らめええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 今日もゴルシ折檻のデイリーミッションを完遂したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──トレーナー。今日も良い天気だね。青天霹靂? とはこの事を言うのだろう」

 

 ※言いません。

 

「……どしたん?」

「さあ、今日のトレーニングメニューを教えてくれるかい? 一日千秋の思いでボク──じゃなかった私は待ちわびたよ」

「……いや、マジでどしたん?」

 

 頭でも打ったか、タキオン製薬の新作でも飲んだのかは分からない。

 今日のトウカイテイオーは……何処からどう見てもおかしい、とテイオーの担当トレーナーは頭を抱える。

 ジャージ姿で優雅にベンチの上に座り、何処から持ち出したのか珈琲カップでコーヒーを飲んでいる。

 見ると、すぐそばに自販機があった。コーヒーはあそこから調達したのだろう。

 

(成程成程、おかしな薬を飲んだわけじゃなければ……一丁前にシンボリルドルフの真似をしてってわけだな。……本当に可愛いヤツだな)

 

「ふっ、狼狽えることはないよトレーナー。ウマ娘の成長は日進月歩? だからね……昨日までのボク──じゃなくて私とは違うんだ。さあ、トレーニングを始めようじゃないか」

「くっくっくっ、そうかそうか、日進月歩か、それなら仕方ないな」

「……何を笑っているんだい?」

「いや、違う。おかしいって訳じゃなくってだな? 取り合えずタキオンの薬を飲んだとかそういうのじゃないんだよな? 安心したよテイオー」

「……酷いな! ボク──じゃなかった私は本気だよ。今日から私は大人の余裕というものを以ていついかなる時も過ごすことに決めたんだ」

「今日からかよ」

「この通り、カイチョーと同じ珈琲だって飲んでみせ──ずびびびごくごくごく……ブーッッッ!!」

「ぎゃぁぁぁぁっ目がああああああああ!?」

「ぴゃーッ、トレーナーァァァーッ!?」

 

 ああ哀れ、トレーナーの顔面に吹き付けられる熱々のブラックコーヒー。

 結局、レース・私生活共に、背伸びをしたところで皇帝・シンボリルドルフに追いつけるわけがなかったのである。

 半泣きで保健室にトレーナーを背負って運び込んだ後、たづなさんからしこたま怒られたテイオーであった。

 

 

 

「トレーナー、ごめんなさぁい……」

「あははは……こういう時もあるさ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──というわけで、笑われた挙句、怒られて酷い目に遭ったよぅ! もぐもぐ……」

「貴女は生徒会長から何を学んだんですの? 誰も幸せになっていなくて芝が生えましてよ?」

 

 

 ──減量4週間目に突入し、いよいよ修羅の如き形相に相成って来たマックイーン。

 未だに食堂で自分の眼の前でスイーツを貪るガキンチョテイオーを睨みつけ、そして溜息を吐く。

 決してテイオーは座学が不得意なタイプではない。アホっぽいがバカではない、むしろ真逆の天才タイプである。

 そんな彼女であっても……恋のダービーを制するのは難しいようであった。

 

「やれやれ、無敵の帝王も恋のダービーはダメダメでしたのね。このマックイーン、ライバルとして呆れを通り越して情けなさすら込み上げてきますわ」

「うう……ボクじゃ、カイチョーみたいになれないのかな……」

「どうして身の丈に合わないやり方をしますの。ゴールドシップがエアグルーヴ先輩みたいになれるわけがないのと同じですわ」

「ぴぇ……」

 

 しゅん、とテイオーの耳がしおれる。

 

「だってぇ……トレーナーが他の人に取られるの……ヤだもん……」

 

 元より甘えん坊で独占欲が強いテイオーにとっては、それが我慢ならないのだろう。

 どうしよう、このまま手を貸し続けるのが最善だろうか、とマックイーンは考える。

 

(まあ、弱っている彼女も珍しいですし……レースに差支えが出たら、ライバルとして迷惑ですもの、仕方ありません。ノブレス・オブリージュ……此処は恋愛強者たる私が直々にテイオーにレクチャーしましょう)

 

 尚、人のことは言えないマックちゃんであるが、それはさておき。

 

「では、参考にする相手を変えれば良いのです」

「え?」

「無理に気持ちを押し隠したり、言葉遣いを変えようとするからボロが出るのですわ」

「成程……マックイーンと野球みたいにね!」

「ハッ叩きますわよ」

「あははごめんごめん」

「トレーナーを離したくないのなら……そうすれば良いのです。……スーパークリークさんなんて、その最たるですわ」

「ッ……!」

 

 ──スーパークリーク。

 彼女はまさに母性の権化、言うなれば母性のブラックホール。

 彼女を担当したトレーナーは、彼女の甘やかしによって二度と抜け出せない領域に持っていかれたらしい。

 いや、トレーナーだけではない。

 彼女の母性は全範囲に及ぶ。例えそれがウマ娘相手であっても。

 

「要はトレーナーを貴女から離れられなくすれば良いのでしょう? それならズブズブの甘々にしてしまえば良いのです!」

 

(それで本当に良いかは……やってみないと分かりませんわ! どーせテイオーのトレーナー、ニブチンの唐変木ですもの!)

 

「そ、それって大丈夫なのかな……!? ボクの目指す、カッコよさとは違う気が……」

「ふっ、殿方は殿方の前でしか見せないギャップに心をやられるもの! トレーナーの前でだけ、そう振る舞えば問題無しのモーマンタイですわ!」

 

(──って、感じにレディース雑誌に書いてたような書いてなかったような気がしますわ! ……まあ、モーマンタイですわね!!)

 

 一ヵ月前の雑誌の内容など、マックイーンの知った事ではない。

 彼女の思考は既に一ヵ月近くに渡る糖分不足でエクストリームの領域に至りつつあった。伊達にゴルシにいつも絡まれているわけではないのである。……本人からすれば誠に遺憾であるだろうが、これが現実である。

 幾ら好敵手で親友と言えど、聞く相手を間違えたテイオーのそもそものプレミである。

 

「分かったよ、マックイーン……ボク、トレーナーをズブズブにしてみせる! 早速スーパークリークのところに行ってくるよ!」

「ええ」

 

 勢いよく、テイオーステップで走り去っていくテイオー。

 大丈夫だろうか。勢いでとんでもないことを言ったんじゃなかろうか、とマックイーンは後から若干反省する。

 

「まあでも……テイオーは私の認めたライバルですもの」

「ねーえマックイーン、このゴルシちゃんがズブズブに甘やかしてやろうかぁ~? ホレ!! ゴルシちゃんの腕の中に、ハイ飛び込んでッ!!」

「……」

「あ、そうだ! 今度、「マックちゃんの寝言ASMR」ってCDを勝手に出すんだよ……でもマックイーンの寝言がデカすぎて、ASMR? じゃなくて野球の応援歌で売り出した方が良いんじゃないかって天才ゴルシちゃんは気付いちゃったワケ」

「……」

「……ところでマックイーン、ASMRって何か知ってる? 勿論あたしは知らないぜッ☆」

 

 天井裏からぶら下がって来たゴルシの首を掴み、そのまま引きずりおろして──マックイーンのウルトラネックブリーカーが炸裂する。

 

 

 

「今すぐ消しなさい、こんのオバカァァァァーッ!!」

「ぎゃあああああああああ、ナイスワザマエエエエエエエエエエエッ!!」

「すごーい! マックイーン先輩の生のプロレス技よ!」

「あれが……メジロ家の技なのね!」

 

 

 

▼マックイーンのパワーが5上昇した! マックイーンのファンが増えた!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ねーねートレーナー、ちょっといーい?」

「んあー? 何だテイオー」

 

 カタカタとデスクワークするトレーナー。

 彼の部屋に、テイオーが入りびたるのは珍しいことではなかった。

 しかし、今日の彼女は──いつもと少し様子が違っていた。

 

「……いーこ、いーこ……」

「な、なんだテイオー、いきなり!?」

「ぴゃぁ、動かないで! ……頑張ってるトレーナーを、今日はボクが甘やかすんだもん」

「でも俺今仕事中──」

「あーまーやーかーすーのーっ! トレーナーは大人しくしててよう! ……仕事してて、いいからさぁ」

 

 なでなで、と頭を撫でまわすテイオー。

 誰から吹き込まれたのだろう──と考えて、トレーナーはスーパークリークの顔が浮かぶ。

 それにしても一体どうして、こんなことを思いついたのだろう、とトレーナーは考える。

 考えているうちに──彼女は続けた。

 

「今日は、このテイオー様がトレーナーのことを褒めてあげるぞよ!」

「褒めるって……」

「えーと……トレーナーは、いつもボクのことを第一に考えた練習メニューを作ってくれて」

「そりゃあ、お前は俺の担当ウマ娘だからな。お前を勝たせてやりたいのは当然のことだ」

「それにとっても美味しい料理も作ってくれるしー、トレーナーは優しいし、ボクの事を怒らないし!」

「はははは、そうかあ?」

 

(他のトレーナーからは甘いってよく言われるんだよな……)

 

 そこは教育方針の違いという奴である。

 事実、彼女は今の接し方で結果を出せている。

 

「でもボクが、無茶しかけた時は……本気で止めてくれるよね」

「……そりゃあ、そうさ。それがトレーナーの仕事だからな」

「うん……うん。ボク……トレーナーに、たくさんたくさん色んなことを教わったよ。レースもたくさん勝たせてもらったし……故障もせず、無敵の三冠バになれたのはトレーナーが居たからだよ」

 

 それは──以前の彼女ならば、口にしなかったであろう言葉だった。

 自らの実力に絶対的な自信を持って増長し、シンボリルドルフにただ憧れていただけの少女はそこには居なかった。

 それは、テイオー自身も分かっていた。

 

「ボク、こんなに、トレーナーから色んなものを貰ったのに……まだ、欲しいと思ってる」

「……?」

「トレーナーに、遠くに行ってほしくない。この最初の3年間が終わった後のことを考えたら、トレーナーはボクじゃない誰かと結婚したりするのかな、って考えて」

「……!」

「たづなさんみたいな大人っぽい人や……桐生院トレーナーみたいな同じくらいの年の女の子と結婚したりするのかな、って……」

「……テイオー……」

「勿論、トレーナーが結婚して幸せになるのは……嬉しいよ? ボクも……それが、嬉しい。嬉しいけど……そんなことを考える度に、胸の奥が、すっごくイガイガするんだ」

 

 彼女の声は──泣きそうだった。

 何時の間にか、頭をなでる手はずり落ち、トレーナーの大きな背中に両手を突いていた。

 それで、最近いきなりシンボリルドルフやスーパークリークの真似を始めたのか、とトレーナーは合点が行く。

 

「いけないよね……こんなの……いけないことだって分かってるのに……トレーナーはトレーナーで、ボクはウマ娘なのに……」

 

 ぽろり、ぽろり。

 

 抑えていたものを吐き出す度にシャツに雫が落ちていく。

 

 

 

「……こんなに、トレーナーにいっぱい貰ったのに……お返しも無しに、トレーナーにずっといてほしいだなんて……ワガママかな……」

「お返しなんて要らないよ」

 

 

 

 振り向き、ただ一言。

 トレーナーは言った。

 一瞬、テイオーの顔が強張り、そして凍り付いた。

 しかし──トレーナーの手が自らの頭に置かれる。

 それは、先の言葉が拒絶のそれではないことを示していた。

 

「なあ、テイオー。レースで勝つとかそれ以上に、お前が夢を追いかけ続けて元気で笑っていてくれる。それ以上のお返しがあるか? ん?」

「……ぴぇ」

「俺はトレーナーで、お前が此処の生徒のうちは……お前の気持ちには答えてやれない。だけど……俺は最初っから、お前の事しか見てなかったぞ?」

「で、でもっ! たづなさんや桐生院トレーナーと──」

「お前、今度誕生日だろ?」

「……ふぇ?」

「だから、誕生日プレゼントをずっと考えてたんだ。たづなさんや桐生院トレーナーには、相談に乗って貰ってたんだよ。色々プレゼント買えそうな店回ったりしてな。サプライズにしたかったから、内緒にしてたんだけどな」

 

 そう言って、トレーナーは2枚のチケットをテイオーに差し出す。

 

「これって……!?」

「色々考えたんだけどさ、思い出作りのために……これにした。温泉旅行のチケットだ」

「っ……どう、したの、これ……!」

「福引の特賞、当たらなくて残念がってただろ? だから、ちょっち奮発して用意した。テイオーが喜ぶかなって思ってさ」

「っ……トレー、ナー……!」

「お前が良ければだけど……一緒に行こう。構ってやれなかった間の埋め合わせみたいになっちまったけど……」

「行くっ! 行くよっ! 行くに決まってるじゃんかあっ!」

 

 泣き笑いながら、テイオーはトレーナーに飛びついた。

 今まで抑え込んでいた、とびきりの気持ちをぶつけながら──

 

 

 

「トレーナー! 大好きだよっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──時にエアグルーヴ」

 

 

 

 ──皇帝・シンボリルドルフは何時になく真剣な面持ちでエアグルーヴに問うた。

 

「ウマ娘であれば、自らが負ける想像など、敢えてするまい。レースであろうと、そうでなかろうと」

「はい会長。各々が頂点であるべき、という自負を持って勝負へ望むのですから当然のことです」

「そうだろう。しかし、それでもあえなく惨敗するときもあるかもしれない。レースに限らず勝負の世界に絶対はないからな。私とて例外ではない」

「そんな──会長に限って、有り得ません」

「──言っただろう? 私とて覚悟はしている。億が一のその時が来るかもしれないんだ。だが、挫折から立ち上がれるかどうかは……結局、周りの支えと当人の心持ち次第だ」

 

 彼女の視線は、生徒会室からグラウンドに向かう。

 そこには──今日も元気にポニーテールを揺らす溌剌とした少女の姿があった。

 ここ数日抱えていた悩みが全て晴れたかのような、華麗なステップだった。

 

「だから……もし、私に”その時”が来たら……こう思うことに決めているんだ」

 

 ふっ、と彼女は小さく笑みを漏らす。

 

 

 

「──負けても決して……ションボリルドルフしない、とね」

「……」

 

 

 

 ……この時、エアグルーヴは悟った。

 この人は当分、不調とか挫折とは無縁ではあると。

 だが、それはそれ。これはこれ。

 

 

 

「……彼女は今日も快調のようだな。張り詰めた顔で生徒会室に来ていたのがウソのようだ。私も生徒会長として安心したよ」

 

 

 

 ▼エアグルーヴのやる気が下がった!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「マックイーン、レースお疲れ様ですよ。文句なしの一位でしたね」

「……」

「あらら、こりゃ完全に魂が抜けてますね……だから減量以前に好きなものを我慢するのはやめろと言ったのですよ」

「……」

「マックイーン、野球観戦の後にスイーツバイキングでも行きませんか? その後、見たいと言っていた「ベースボールシャーク」の映画でも──」

「行きますわ!! どこへでも!!」

 

 トレーナーの一声ですぐさま黄泉帰ったマックイーンだった。

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