テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」 作:タク@DMP
クソ映画を鑑賞するカイチョーと副会長の姿をお楽しみに。
「ふたりはウマキュア、ですか……?」
「ああ。URAはトウカイテイオーと、メジロマックイーンというふたりのウマ娘のキャラクターの強さに惹かれたみたいでね。このふたりの主演の特撮映画を急遽、作成することになった」
「その予算は一体何処から湧いたのですか?」
「理事長の……懐だ」
「たづなさんは何をしていたんですかッ!?」
エや下。
エアグルーヴは生徒会長に「たまには二人っきりで映画でも見て過ごさないか?」と誘われ、やってきたのは映画館──ではなく生徒会室。
うっきうきの気持ちだった彼女は、ロクでもない用事の匂いがしてきたからか直帰を提言したが却下された。
「まあ良いじゃないかエアグルーヴ。たまには童心に帰るということで、な?」
「もう嫌な予感しかしないのですが……」
「何、良いじゃないか。私とて……テイオーの成長した姿が見たくってね」
「……仕方ないですね」
ポチ。
再生ボタンを押すと、早速映像が流れる──
「──ボクはトウカイテイオー! ごく普通の女子中学生!」
「私はメジロマックイーン。ごく普通のスイーツ大好きお嬢様!」
「だけどボクたちは人々に正体を隠して学園の平和を守ってるんだ!」
「そう、何てったって私達──」
ふたりはウマキュア!
大モニターにはデカデカと「ふたりはウマキュア!」というタイトルが映し出されていた──
「……会長。これは所謂、煎じすぎて味がしないという──」
「脚本については……言ってくれるな……」
──場面は、平穏な学園の1シーンから始まる。
サイレンススズカがクラスメイトに会釈をして学園を出ていく姿が映し出されていた。
親友が出演しているのを見て、エアグルーヴは視聴継続を決意する。
(やれやれ、スズカ……出演するなら応援に行ったものを……)
脇役なのが勿体ないな、とエアグルーヴは肩を竦めた。
友人たちと談笑するスズカ。
しかし、その顔は何処か憂いを帯びている。
「私、最近悩みがあるの……私、先輩のことが好きなんだけど、告白する勇気が出なくって……」
「えー? スズちゃん可愛いんだから勇気を出しなよ」
「無理よ! 私なんて走ることしか取り柄がないし……」
「そんな事はないッ!! スズカの取り柄はこの女帝である私が一番知っているッ!! お前の想いはその程度かッ!? 自信を持って思いのたけをぶちまけてみせろッ!!」
立ち上がり叫ぶエアグルーヴ。
ドン引くルドルフ。
「エアグルーヴ、映画の途中に叫ぶんじゃない」
「ハッ、すみません……つい癖が……」
「この手の話に恋する乙女の悩みは、それにつけこむ悪役が出てくる前フリ……とアグネスデジタルが言っていたような気がする。恐らくこの後、スズカの悩みにつけこむ不逞な輩が出てくるのだろう」
(会長がどんどん変なサブカルにハマりつつある……)
悩みを友人たちに打ち明けるスズカの視線の先には暗い雲がかかっている。
どことなく不穏だ。緊張感のあるBGMが流れる。
「ああ……私は一体……どうすれば良いの?」
スズカが不安そうに声を漏らした、その時だった。
「YO! そこの道行く兄ちゃん姉ちゃんッ!!」
「突き進むスタイル、確立ッ!!」
──突如、学園のセットと、それまでの雰囲気、話の流れをブチ壊して1台のイカつい車が突っ込んでくる。
逃げ惑う生徒達。
テレビの前で困惑する会長と副会長。
明らかに脈絡のなさ過ぎる敵役の登場、そして──その配役に二人は絶句した。
片や、マスクを着けた全身金タイツのナイスバディな葦毛のウマ娘。
片や、ボサボサの髪をした全身金タイツのスレンダーな黒毛のウマ娘。
二人にとっては、見覚えしかない連中であった。つまり、生徒会室で怒られる常連組。
「ゴールドシップに……キンイロリョテイ……ッ!?」
エや下。
よりによって、学園でも屈指の問題児約二名である。
前者の黄金船は言わずもがなであるが、後者の金色旅路は更に輪をかけて酷い。
レースを真面目に走らないわ、スペちゃんの尻尾を噛むわ、左にヨレるわ、練習をサボる、スペちゃんの尻尾を噛む、ヨれる、スペちゃんの尻尾を噛む……とにかく逸話に事欠かない問題児であった。
誰だコイツらを一緒に映画に出演させた大バ鹿野郎は。劇物に劇物を混ぜると劇物になるのは当然の帰結であった。混ぜると危険。混ぜなくても危険。
「ちょっとあの金色のバカ共を抹殺し……」
「待て待て待つんだエアグルーヴ、此処からが! 此処からが面白いんだ」
「私は既に面白くないのですがッ!? 恋する乙女の悩みではなく、私の悩みにつけこむカタキ役が出てきたのですがッ!?」
「な、何なの貴女達……!」
スズカが怯えたように言った。エアグルーヴが一番それを言いたかった。
それに対し、ゴルシが名乗りを上げる。
「あたしはゴールド1号、右の相棒はゴールド2号……二人合わせて悪のゴールド団ッ!!」
「ゴールド団……ッ!? ウソでしょ、二人しかいないのに団なの……!? ……マイナーなのね」
「マイナーって言うんじゃねえよ! 泣くぞッ!! 腹いせに平穏な学園生活をブチ壊してやるぜ!! 今日から全員、午後の紅茶を朝に飲むんだよッ!!」
「意味が、分からないッ……!」
当然だが視聴者も意味が分からない。
「さあゴールド2号!! 早速、お前の力を見せてやれッ!!」
『撮影が面倒くさくなったので帰る。 byキンイロリョテイ』
──そこには、張り紙だけが残っていた。
ゴールド1号も、そしてスズカも沈黙。
視聴しているルドルフとエアグルーヴも沈黙。
そして──
「「「ステゴァァァァーッ!!」」」
奇遇にも、画面の中のゴルシと一緒に、ルドルフとエアグルーヴは同時に謎の奇声を上げていた。上げざるを得なかった。
魂がそう叫べと言った気がした。「ステゴ」の意味なんて皆知らん。
因みに後から聞いたが、キンイロリョテイはマジで撮影の途中でバックれたらしい。ウソでしょ……?
「なんてふてえ奴!! そんなんだから何時まで経っても実装されねえんだぞッ!! くそッ、ウマキュアめ……ゴールド2号を倒すとは……絶対に許せねえ!!」
相方の居なくなった助手席を見つめるゴルシの眼が心なしか寂しい。流石の彼女も大分堪えたようである。エアグルーヴは今度からゴルシへの接し方を少しだけ変えてやろうと思ったのだった。
それはそれとして、まだ登場すらしていないウマキュア二人にゴールド2号討伐の冤罪が掛けられている。良いのかそれで。
「ウソでしょ……!?」
そう言いたくもなる一般学生役スズカの気持ちは大いに分かってしまうエアグルーヴだった。
「もう、スズカだけがこの映画の癒しだな……」
そう言いたくもなる副会長エアグルーヴの気持ちも多いに分かってしまうシンボリルドルフだった。
「こうなったら最終兵器、ウマンゲリヲン4号機を使うしかねえ!!」
ポーズをつけて叫んだゴルシの背後から、巨大なロボットが現れる。
戦慄するルドルフとエアグルーヴ。
「馬鹿な、あれは私と会長が海に沈めたはず……!?」
「それは本来、映画の登場人物が言う科白なのだが……」
「やっちまえ、4号機!! スズカを連れ去るのだーッ!」
「きゃーっ、助けてーっ!」
もんず、と伸びたアームがスズカの身体を掴む。
色々予定は狂っただろうが、流石ゴルシのアドリブ。
何とかヒロインのピンチまで持って行った。
場面は緊迫しているのに、なぜか安堵が隠せない視聴者2名だった。
「んっ、はぁ……これ、ちょっと……くすぐっ、たい……!」
「スズカーッ!?」
そして、捕まってるスズカがちょっと色っぽいことに焦りを隠せないエアグルーヴ。
何故彼女がキャスティングされたのか理解できてしまった女帝であった。うまだっち。
「くっくっく、人質を解放してほしかったら、このあたしに午後の紅茶を献上するんだなッ!!」
「「ちょっと待ったーッ!!」」
何処からともなく声が上がる。
現れたのは──主役二人。
制服姿のトウカイテイオーとメジロマックイーンだ。
「何だぁ!? お前らはーッ!」
「恋する乙女の悩みにつけ込むなんてボクたちが許せないッ!」
「貴方の行い、ウマ娘として見過ごせませんわ!」
ひたすら午後の紅茶戦争しかしていなかった気がするが、もうルドルフとエアグルーヴは突っ込まなかった。
「「とうっ!」」
二人が飛び出し、お決まりの変身バンク。
幾ら金を注いだのか分からないが、CGの出来が良い。
不死鳥の如き燃え滾る炎がテイオーの背中から現れ、彼女の身体を包み込む。
白い羽が舞い降り、マックイーンの身体を包み込んでいく。
「大地を駆ける、愛と勇気と不死身の帝王、ウマフェニックスッ!!」
「大空を翔ける、正義と宿命と純白の名優、ウマアクトレスッ!!」
「「ふたりはウマキュアッ!!」」
新しい勝負服を更に派手にしたようなデザインの衣裳を身に包んだ二人が現れる。
映像美に息を飲まれたルドルフとエアグルーヴだったが、同時に──
((この後たづなさんにしこたま怒られたんだろうな……))
と、理事長の心配をするのだった。
「ゴールド団! お前達の野望はボクたちが砕く!」
「とっととおうちに帰りなさい!」
「クッソーッ!! 変身したからって調子に乗るんじゃねえ! ウマンゲリヲン4号機! 二人を潰せーい!」
巨大ロボット・4号機の拳がウマキュア二人に迫る。
しかし、それをバク転で躱すテイオーとマックイーン。
これをスタント無しでやっているというのだから、ウマ娘の身体能力には目を見張るものがある。
そのまま、振り下ろされた拳を伝って走り、ロボットの頭に蹴りを入れる二人。
CGの爆風と共に、4号機の頭部は吹き飛んでゴルシが慌てる。
「くっそぉ!! 何故、あたしの邪魔をする!!」
「午後の紅茶を朝に飲むなんて、許せないからですわ!」
「確かにボクも午後の紅茶を朝に飲むけど、それはそれとしてスズカを放せ!」
「「……ん?」」
顔を見合わせるウマキュア二人。
しばらくその場に流れる沈黙。
これもう放送事故レベルだろ。
既にウマキュア二人のスタンスが噛み合っていない。
「は? 午後の紅茶は午後の紅茶でしょう? 朝に飲むなんて有り得ませんわ」
「何言ってんのアクトレスは!? 朝に飲む午後の紅茶程、気持ちのいいものはないよ!」
「そもそも貴女、旧家の令嬢でしょう!? 何で午後の紅茶を飲んでますの!?」
「アクトレスには言われたくないね! お嬢様のくせに、皆に隠れて午後の紅茶と一緒にキノコのお菓子なんかを食べてたじゃん!」
「なんか!? なんかとは何ですの!! フェニックス、貴女さては隠れタケノコ派でしたのね! 許すまじ!」
「……やっぱりボクたちは相容れないんだね」
「ええ。ウマキュアは二人も要りませんわ」
……ルドルフとエアグルーヴは顔を見合わせた。
何でこいつら急に仲間割れ始めたの?
「ちなみにあたしは、すぎのこ派だーッ!!」
「「お前の意見は聞いてないッ!!」」
「ゴルシッ!!」
いきなり主張をしたゴルシの胸にキックが飛ぶ。理不尽。
「やめて! 私の為に……争わないで!」
叫ぶスズカ。そのセリフは絶対に違うと思う。
この脚本を書いたのは一体誰なのだろうか、と頭を抱えるルドルフとエアグルーヴ。
最早何から何まで支離滅裂だ。
激しく格闘戦を始めるテイオーとマックイーン。
その末、二人は傷つき、地面に倒れてしまう。
「くそっ、なんて手強いんですの……ゴールド団……!」
「ボクたちに仲間割れを強いるなんて……卑怯だぞ!」
「ひきょうもらっきょうも大好きだぜ!!」
(完全に自分で蒔いた種を踏んでいっただろう……)
最早、何も言うまい。
高笑いを上げるゴルシと、頭の吹き飛んだ4号機。
そして結局捕まったままのスズカ。
「よわっちぃヤツらだな……スズカはこっちで洗脳して、新しいゴールド2号にしてやるぜ」
「た、助けて二人ともーッ!! 私、この人に一生ツッコミを入れ続ける生活なんてイヤーッ!」
「くっ……」
「何とむごいことを……!」
「さーてと、ゴルシちゃんはさっさとお前達を倒して、晩のシチューライスを頂くとするぜ」
ブチッ
「一時休戦ですわ、フェニックス」
「うんっ、そうだねアクトレス」
え? 何? いきなりキレる若者怖い。
ルドルフとエアグルーヴが困惑する中、ウマキュア達は地面を蹴って思い切り跳び上がり、ロボットの胴体目掛けて足を向ける──
「えっ、ちょっ、おま──」
「ご飯の上にシチューをかけるのは──」
「シチューへの冒涜ですわッ!!」
「キレたの、そこォォォーッ!?」
スズカの鋭いツッコミが入る中、ウマキュア二人の必殺キックが4号機を今度こそ貫く。
「ゴールシーィィィィーッッッ!!」
爆散するロボット。
炎上する背景。
そして天高く吹き飛ぶゴールドシップ。
それをバックにして、決めポーズを取るウマキュア達。
最早、ルドルフとエアグルーヴは何も言わなかった。
「「大勝利!! ビクトリー!!」」
『こうして、ゴールド団は倒され、学園の平和は守られた……ありがとうウマキュア! 君達の活躍は忘れない!』
「──じゃ、ないでしょおお……!?」
その時だった。
ウマキュア二人の後ろから怨嗟の声が聞こえてくる。
現れたのは──爆発に巻き込まれ、すっかりアフロヘアーになってしまったサイレンススズカの姿が──
「げっ、しまった!」
「人質の事を忘れていましたわ!」
「告白どころじゃないじゃない、どうしてくれるのーッ!?」
追うスズカ。
逃げるウマキュア達。
がんばれウマキュア! 明日の平和を守るのは君達だ!(END)
プツリ
……しばらく、生徒会室を沈黙が包み込んでいた。
さしものエアグルーヴは、すっかりやつれた様子で溜息と共に呟く。
「──とんだZ級映画を見せられてしまった……スズカがこの映画のことを私に言わなかった理由がよくわかった……」
「すまないエアグルーヴ……」
「会長、このイカれた映画の脚本を書いたのは……ッ!?」
「理事長……ではなくゴルシだ」
「やっぱりあいつ抹殺してきます」
▼エアグルーヴの殺る気が上がった!
▼シンボリルドルフのやる気が下がった!
※追記:作者はシチューライス大好きですが、ウマキュアは許してくれなかったようですね……ほら、一応お嬢様だし二人とも……