テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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今回はキャラ崩壊度とはっちゃけと下ネタが多めです。ご注意ください。


テイオー「大きくなりたい……!」

「ぴ、ぴええ……」

 

 

 

 とうとうこの日が来たか、とトウカイテイオーは恥ずかしいやら何やらで顔が引きつった。

 彼女がトレーナーの部屋に入り浸るのはよくあることだったが、ふと出来心で彼のベッドの下をまさぐったのが悲劇、もとい喜劇の始まりである。

 出てきてしまった。

 凡そ成人向けとされる雑誌の数々が。

 際どい下着を身に着けたウマ娘のグラビアが。

 それはもう、ずきゅんどきゅんでうまだっちな感じな写真の数々が赤裸々に掲載されているのである。

 

「……ま、全くもー、トレーナーもまだまだ子供だなーっ! ベッドの下なんて、すぐにバレちゃうのにねー!」

 

 と、強がって言ったものの、いつもは自分に優しく接してくれるトレーナーにも性欲というものがあるということをまざまざと思い知らされる。

 それはそれで、お前は今まで担当の事を何だと思っていたのだ、という話になるのであるが。

 

(でも、此処に載ってるのって……)

 

 

 ずきゅん。

 

 どきゅん。

 

 ばいーん。

 

(……皆「大きい」娘ばっかり……ッ!!)

 

 テイオーは自らの胸に手を当てた。

 身長と比較した時、彼女も十二分にスタイルは良いと言える。

 だが、純然たる大きさの暴力の前では心許なく感じてしまうのは年頃の少女の感性としては珍しくない。

 

(いや、大丈夫……マックイーンよりは、あるし……ボクだって、いずれはカイチョーみたいなナイスバディになるはず……!)

 

 むぐぐぐぐ、と唸りながら彼女は開かれた雑誌のページを見やる。

 明らかに巨乳の娘の写真ばかりが連なったグラビア。

 それを捲りに捲ると、年頃の少女には刺激の強い「うまぴょい」だとか「うまだっち」だとかがバッチリ激写されており。

 

(あっ、あわわわ、あわ……)

 

 思わずテイオーは雑誌を閉じてベッドの中へ再び押し込んだ。

 

「おーいテイオー、戻ったぞー」

「ぴゃいっ!!」

「……どしたん?」

「いや、何でもナイヨ、あ、あはははははは」

 

 すんでの所でトレーナーには見られずに済んだが、頭の中にはいまだに雑誌の中身がぐるぐるしていた。

 そう言えば以前、エアコンを切られた腹いせにトレーナーへ服を脱いで迫ったことがあったが、もし一歩間違っていればどうなっていたのだろうか、と想像してしまう。

 彼のごつごつとした手に押し倒され、雑誌の中身のようなことをされる妄想が過る。

 男は狼。メジロドーベルもそう言っていた。

 ならば、自分もいずれは──

 

 

 

(や、ボクの方が力強いじゃん……)

 

 

 

 ──と冷静になってしまうのが、ウマ娘の悲しいサガであった。

 成人男性なぞよりも、中学生のウマ娘の腕力は圧倒的に大きいのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「珍しい来客だねえ……テイオー」

 

 ──此処は、アグネスタキオンの研究室。

 先日起こしたハチ事件によって凍結されていたが、昨日漸く使用のお許しが出たのだった。

 正直、学園の利益のためにも此処は一生凍結していた方が良かったんじゃないかと考えていたテイオーだったが、今回ばかりは感謝した。

 

「全知全能のアグネスタキオンを信じて話があるんだけど」

「ほほーう、いいだろう。何だね?」

 

 

 

「──此処には、伝説の薬”パイデカクナール”があるって聞いたんだけど」

 

 

 

「ンんんんんんッ、一体何処情報かなそれ?」

「お願いしますッ!! タキオンならどうにかできる!! ハチをバケモノにできるタキオンなら!!」

「それ微妙に褒めてないねえ?」

 

 テイオーの顔は真剣そのものであった。

 そして、土下座。

 泣きながら請願するのだった。

 

「お願いだよォーッ!! パイデカクナールでもムネデカクナールでも何でも良いから、ボクの胸を大きくする薬を作ってよタキオンンンッッッ!!」

「ちょいちょいちょい、止め給え!! 白衣に鼻水が付くだろうッ!!」

「トレーナーを悩殺するのに必要なんだようッ!! お願い作ってよおおおお!!」

 

 呆れたようにタキオンは溜息を吐く。

 

「やれやれ、たまにそういうことを相談しに来る生徒がいるんだけどねぇ。いったいコレの何処が良いんだい? 走るのに邪魔なただの脂肪じゃないか」

 

 ぷるん、とタキオンは意外と大きい自らのそれを揺らす。

 普段厚着しているので皆気付かないが、揺らせる程度にはあるのである彼女も。

 

「走るのに邪魔ァ!? それを求めてボクが幾つもの血涙を流したかと!!」

「知らないよ、そもそも局所的な部分の脂肪を増やすというのなら、それこそ手術でもしてシリコンを詰めれば良い話じゃないか? ンン?」

「急に現実的な事言わないで!?」

「いやあ出来ないことは無いんだがね……」

「ほら見た事か!! さあ出して!!」

「実はここに以前、臨床段階でNGにした試作品があるんだ……」

 

 タキオンがテイオーに差し出したのは──「パイデカクナール」というラベルが書かれた薬だった。

 

「……マジでパイデカクナールって名前だった!! ボクも飲む飲む!」

「そこまで言うなら仕方がない。君にはモル──被検体になって貰おう」

「何か不穏だけど巨乳の為ならどうでもいいね!! いただきま──」

「待ってください……それは欠陥品です」

「ピエッ、びっくりした!?」

 

 テイオーの背後から現れたのは──青鹿毛の何処か不思議な雰囲気を漂わせたウマ娘・マンハッタンカフェであった。

 最も、彼女は常時タキオンの実験に付き合わされており、悲しいかな薬品の副作用はもう大体覚えてしまったようである。

 

「……タキオンさん。流石に何も説明しないのは酷かと」

「うーん、やっぱり言った方が良かったかい?」

「……」

「分かったよ、カフェ……やれやれ、インフォームドコンセントというのは面倒だねえ、まあ私医者でも何でもないんだけども!! フッハハハハハ!!」

「マジでやめてください」

「何々? 胸が大きくなる夢の薬じゃないの!?」

 

 タキオンは無念そうに首を横に振った。

 そしてどこか気恥ずかしそうに──言うのだった。

 

「効果があまりにも局所的でねえ……」

「はい……」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()……つまり乳首が発光する薬だったのさ」

 

 

 

「……イヤダーッッッ!?」

 

 

 

 流石にそんなものは飲めない、とテイオーは突き返す。

 

「いや、でも!! 君ならもしかしたら結果が変わるかもしれないだろう!? ってことで此処は飲み込んでくれないか! 薬を!」

「上手くないんだよ!!」

「大丈夫だ、よしんば副作用が出たとしても両乳首が発光するだけだから!!」

「乙女の身体を何だと思ってるのさーっ!!」

「その乙女の身体をよりによってタキオンさんの薬で改造しに来た貴女が言っても……正直命知らずとしか」

「それもそうだったね!!」

「……そう。パイデカクナールは無いのね」

 

 残念そうな声が聞こえてくる。

 全員の視線は研究室の入り口に集まった。

 そこに立っていたのは──異次元の逃亡者・サイレンススズカだった。

 

「スズカ!? スズカが何で此処に!?」

「先頭の景色は譲りません」

「いや、それは知ってるから」

「勿論──スペちゃんも譲りません」

「ゴメン、何言ってるかよく分からない」

「……伝説の薬・パイデカクナールを手に入れに来たのよ」

 

 最初からそう言えば分かりやすかったのであるが。

 

「えー、それこそスズカそういうのに興味無さそうだったのに。走るのに邪魔そうとか言って」

「……そうね。私もそう思っていたわ。だけど──そんな事も言ってられなくなったのよ」

「え? 一体、どんな悲しい出来事が!?」

「この間タイキと併走した時のこと……」

 

 

 

 

(スズカだけゲートが広くて羨ましいデース!!)

 

(タイキ……ゲートの大きさは皆同じよ……)

 

 

 

「何度でも言うわ! ゲートの大きさは皆同じなのよ!? 私だけ広いって……そんな事、無いのに……」

「怒っていいんじゃないかなあ……」

 

 無論、それはスズカだけゲートが広いのではなく、スズカの友人・タイキ──もといタイキシャトルが色々デカいだけである。

 

「しかもそれだけじゃないわ。この間、スペちゃんがホームシックで泣いてた時……私、ベッドで一緒に寝てあげたの、そしたら……」

 

 

 

(うっ、うう……故郷の北海道の平原……むにゃむにゃ)

 

(ウソでしょ……平原ってまさか私の胸……!?)

 

 

 

「やっぱもう怒って良いんじゃないかな」

「違うの……私がいけないの! 私に力が足りなかったから……スペちゃんを抱きしめる事も出来ないの!」

「いやいや何も悪くないと思うよスズカは」

 

 泣き崩れるスズカを、テイオーは慰める事しか出来ないのであった。

 取り合えず薬には頼らない方向性で。

 そんな都合の良いモンは存在しないのである。

 

 

 ※※※

 

 

 

「おーっ!! これはこれはスズカさんじゃないですかーっ! まさか私の所に来てくれるなんて……感謝、感激ですっ!! テイオーさんも一緒で……二人なら何でも占っちゃいますよ!」

 

 

 

 ──此処はマチカネフクキタルの占い部屋。

 迷える子羊が彼女に相談をしにやってくる場所である。

 最も今回相談しにやってきたのは──

 

「何でも?」

「……何でも、かあ。聞いた? スズカ」

「ええ、聞いたわテイオー。確かに」

 

 ──子羊ではなく、猛獣であったのだが。

 

「……あのー、お二方。すっごく眼が怖いんですけど……?」

 

 ドンッ!!

 

 二人は、100均の開運グッズを報酬とばかりに台に叩きつけた。

 そして──

 

 

「「胸を大きくする方法を占って!!」」

 

 

 

 どう考えても占いでどうにもならない依頼も突きつけたのであった。

 これにはフクキタルも困惑するしかない。

 しかし、二人の顔は大真面目だ。

 

「胸を大きくする……方法ですか? ハテ、それを占うって言っても──」

「お願いフクキタル……今は貴女だけが頼りなの。私の胸は貴女に掛かってるのよ。貴女ならきっと、パイデカクナールの在処もわかるって信じてるわ」

「いやいやいやいきなりそんな事言われても困りますよ!! 胸を大きくする方法ならタキオンさんにでも聞きに行けば良いじゃないですか! 恋愛運ならまだしもそんなよく分からない薬の在処なんて分かりませんよ!!」

「頼むよぉーっ!! タキオンの薬じゃあダメだったんだよお!!」

「もう行った後!? 私が言うのもなんですけど、二人共もっとご自身の身体を大切にした方が良いのでは!?」

「フクキタル知ってるかしら? リターンはリスクの分だけ大きくなるのよ」

「ほぎゃーっ!! 当たり前のことを最もらしく言っても賢さトレーニングにはならないんですよスズカさんッ!!」

「ボクは──もう、手段を択ばないよ。胸の為ならね」

「しょうもないことのためにシリアスにならないでください!! 全国の貴女のファンが泣きますッ!!」

 

 ぜぇ、はぁ、とツッコミ疲れたフクキタルは占い台の上で突っ伏す。

 特大だ。今日のは超特大である。

 普段なら自らのブレーキになってくれるであろうスズカが、何処をどうトチ狂ったのかこの有様なのである。

 ……最も、状況上ブレーキ役にならざるを得ない場面があるだけで、スズカ自身はブレーキのぶっ壊れた大ボケ担当であるのだが。

 

「何で二人共今日はボケが急加速急転直下の大凶なんですかあ!? 私一応ボケって自覚はあるんですよ、ボケる暇無いんですがーっ!?」

「ねえフクキタル。もしかして何か知ってるんじゃない? こんな立派なものがあるんだからさあ?」

 

 もにゅん。

 

「ふぎゃっ!? テイオーさん、立派なセクハラなんですがーッ!?」

「前から思ってたのよ……同期で成長していないのは私だけだって」

 

 むにゅん。

 

「ふにゃんっ!? は、は、は、離してくださいスズカさんまで!! 身に覚えがない恨みつらみが凄いですーっ!? 救いは、救いは無いんですかーッ!?」

「ダメよフクキタル。後輩のセリフを取っちゃ……」

「誰の所為だと思ってるんですか!! 誰のーッ!? もう、今日は大凶ですーっ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……フクキタルの占いによれば、この廃材置き場に何かがあるはずらしいけど」

 

(エコエコアザラシエコエコオットセイ……豊胸を彼女達にカムヒア~~~~出ました!! 大吉です!!)

 

(見えます、見えます!! 捨てるウマあれば拾うウマあり!! 廃材置き場で何かを拾うお二人、そして──数日後には輝かしいカラダを手にしているウマ娘の姿が! ギブアップしなければ結果は身に着くでしょう!)

 

 

 

 テイオーとスズカがやってきたのは、府中のとある廃材置き場であった。

 様々なものが捨てられており、此処で拾ったものが豊胸の鍵になるとのことであった。

 しかし置かれているのは粗大ゴミやら鉄クズやら雑誌やら。

 使えそうなものがあるとは思えない。

 

「ねえ、フクキタルは輝かしいカラダって言ってたけどさあ、それって物理的に光り輝いてるって意味じゃないよね?」

「タキオンの薬に頼らないなら大丈夫……のはずだけど……あっ」

「な、何か見つけたの!?」

「こ、これは──」

 

 スズカはそれを拾い上げるなり、顔を真っ赤にする。

 何かの雑誌らしかったが、すぐにそれを投げ捨ててしまった。

 

「……テイオー、見ちゃだめ!!」

「ええ!? ……ああー……」

 

 気になって近寄ると──これまた過激なグラビア。

 誰がこんな所に捨てたのだろう。

 近くには紐で括って束になって廃棄されている。

 どれもこれも胸の大きいウマ娘がモデルとなっており、改めてテイオーは理想と現実の乖離に頭を痛めるのだった。

 プライドを捨てて縋れるもの全てに縋った後で言うのも何だが、本当に輝かしいカラダなど手に入るのだろうか、と。

 

(あれ? でもこれって見覚えがあるような……)

 

「はぁ……スペちゃんも大きい方が好きなのかしら……」

 

 ナーバス気味にスズカは言った。

 

「別にスペちゃんがそう言ったわけじゃないんだから……」

「でも……私……」

 

 

 

(スーペッペッペッペ、今度からタイキさんと同じ部屋にしてもらうスペ、大は小を兼ねると古事記にも書いてあるスペよ、スーペッペッペッペ)

 

 

「こんな事を言われたらもう私立ち直れない!! 二度と走れないッ!!」

「何この雑な妄想ッ!? 誰このスペちゃんとは似ても似つかないヤツ!?」

「あれから毎晩この夢を見るの……スペちゃんが出てくるの……」

「だからそれスペちゃんじゃないから!! スペちゃんはそんなこと言わないから!! だからナカナイデヨーッ!!」

 

 自分の妄想で泣きだしてしまったスズカを慰めるテイオー。

 多分枕が悪いと思うので、変えて貰った方が良いのかもしれない。

 そんなこんなで捜索作業は続いていった。

 そして──

 

「あら……?」

「ッ……これは!?」

 

 見つかったのは、一つのDVD。

 なぜかテープで厳重にまかれており、ケースから出せない。

 しかし。

 断じて呪いのDVDの類ではないことが分かる。

 何故なら、無理矢理こじ開けたディスクに書かれていたのは──

 

 

 

「「ウマーズブートキャンプ……ッ!? 理想の肉体を手に入れろ……!?」」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あら、ごきげんよう、ライアン」

「おはようマックイーン!」

 

 

 

 ──それから土日を挟んだとある月曜日の朝。

 メジロのウマ娘、マックイーンとライアンはいつものように談笑しながら校舎に向かっていた。

 

「あらそのダンベル、新調しましたの?」

「うんっ! もっと負荷をかけようって思ってさ! マックイーンもどう?」

「ふふっ、そうですね。私もライアンを見習って筋トレを──」

 

 

 

「ヘイヘイヘーイ!!」

 

 

 

 

 その時だった。陽気な語り口が何処からともなく聞こえてくる。

 声だけで分かる。

 あのトウカイテイオーに違いない。

 この土日の間、姿を見せなかった彼女だが何処に行っていたのだろう、とマックイーンは振り向く。

 

「やあマクウィーン。トゥデイは晴れ渡ってるね。キミのエレガンスラインもパーフェクトゥだ」

「はぁ? テイオー? 誰の腹がエレガンスラインですって──」

 

 

 

「──ボクの筋肉も晴れ渡ってるよ、ナイスバルクッ!!」

 

 

 

 

「イヤーッッッ!? ウマ娘のバケモノーッ!?」

 

 ──現れたのは見覚えのない筋肉ダルマであった。

 いや、しかし。ポニーテールに、白い流星。

 見れば見る程に──それはトウカイテイオーその人で間違いない。

 すぐさま異変ありまくりのテイオーを見て蒼褪めたのは──ライアンだった。

 

「て、テイオー!? その姿は……!?」

「知ってますのライアン!?」

「間違いない……あれはメジロ家に代々伝わる禁DVDの一つ”ウマーズブートキャンプ”……!!」

「ウマ……何ですのそのパチモン感あふれるサムシングは……!?」

「ウマーズブートキャンプは最強、いや最恐のトレーニングビデオ……その実態はサブリミナルと洗脳を伴う肉体改造カリキュラムで、ウマ娘の身体的リミッターを外して筋肉を膨張させるトレーニング……! 鍛え上げた自らの筋肉に負けて骨折するウマ娘が続出する程!」

「筋肉に負けて骨折ゥ!? それは本末転倒ですわ!!」

 

※実際にあるそうです

 

「元々ウマ娘の筋肉密度はヒトの云倍……それをリミッター解除すれば、ああなるのも止む無しというわけですの!?」

「あたしも興味本位で見た事あったんだけど、恐ろしかったよ……ドーベルが止めなきゃ大変なことになってた」

「何やってますの!?」

 

 メジロ家の禁書の警備、ガバガバすぎである。

 

「もしかして、テイオーのあの小憎たらしい喋り口は……」

「洗脳のもたらす副産物かな……視聴すれば最期。脳はマッスルを求め、危険なマッスルをマスらうことになる。だけどマッスルの不法所持は往々にして不幸な結果しかマッスルしないんだ……」

「ライアン、貴女まだ洗脳が残ってますわね?」

 

 このある意味で呪われたDVDの残す爪痕はあまりにも深い。

 元々ライアンは筋トレが趣味だが、此処までマッスルを連呼することはない。

 それほどまでに、この呪物が持つ洗脳力は恐ろしいものだったのだろう。マッスル。

 

「だからこないだ、好い加減に処分することにしたんだ。苦渋の決断だったけど……メジロ家の総意であのDVDは永久追放することにしたよ」

「何がメジロ家の総意なんですの!? 私今に至るまでこの事何にも聞いてなかったですわ!!」

「マッスルッ!! ヘイヘイ、マックイーン、ルックミー。これでボクはライアンも顔負けのバストをゲッツしたというわけさ。この輝かしいカラダ……マッソゥ!!」

「貴女が手に入れたのはバストじゃなくてチェストですわーっ!?」

「だ、誰かテイオーを、止めて……」

 

 その時だった。

 ふらふらになって現れたのは──サイレンススズカその人であった。

 

「スズカさん!?」

「わ、私が悪いの……私がテイオーと一緒に外泊申請を出して、泊まりのトレーニングに出たから……私はすぐ脱落してたんだけど、気付いた時にはもう遅くって……」

「ボクは気付いたんだ。バストが手に入らないなら、チェストを手に入れれば良い、ってね」

 

 自らの肉体を誇示するライバルに向かって、冷ややかにマックイーンは言い放つ。

 

 

 

「言っておきますけどトレーナーが今の貴女見たら卒倒しますわよ」

「ぴえっ」

「むやみやたらについた筋肉は美しくないからね……筋肉と脂肪はバランスだから……」

「ぴえっ……」

 

 追撃のライアン。

 ──しばしの沈黙がその場に横たわる。

 そして──

 

「……やっぱりこれじゃあ豊胸したってことにならない?」

「なりませんわね」

「ならないかな」

「ならないわね……」

「……ウワアアアアーッ!! 誰か元に戻してよーッッッ!!」

 

 

 

▼テイオーのやる気が下がった!

 

 

▼テイオーのスタミナと根性が25上がった!

 

 

※ウマーズブートキャンプの効果は一時的なものです。ご安心ください。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あ~~~~酷い目に遭った~~~……全身の筋肉ガビガビだよぉぉぉ」

 

 

 

 翌日。

 膨張していた筋肉はなんやかんやで元に戻っていた。

 ウマ娘の身体的フィードバックが早いのは、食べ過ぎても保健室で寝れば太り気味が治る事からも明らかである。多分。

 ただ、実際無茶苦茶なトレーニングであったことには間違いない。反動でテイオーの身体は全身筋肉痛であった。

 

「あんなDVD焚書だよ焚書!! 特級呪物もビックリの厄ブツじゃないのさ!! ああ、トレーナーに見られる前に元に戻って良かったぁ……でもさらば、ボクのバスト……はぁ」

 

 

 

「で、何? 結局全部捨てられたってわけ!?」

「そ、そうだな……」

 

 

 

(アレ? トレーナー?)

 

 テイオーのトレーナーの声が何処からともなく聞こえてくる。

 どうやら、同僚と話しているようだった。

 それをばれないように隠れて、彼女は聞き取る。

 

「んだよ! 折角協力したってのに……自分のじゃないエロ本持ってんの、結構フクザツなんだから!」

「お? 愛しのテイオー様に見られそうで気が気じゃなかったってか?」

「そういうわけじゃないが……」

 

 テイオーは黙りこくる。

 そして、頬が赤くなっていく。

 事の真相を──賢い彼女は悟ってしまった。

 

 

 

「……まあ、俺の愛バはテイオーだけだ。あいつしか眼中にない」

 

 

 

 

「かーっ!! あっついねえ!! やっぱ3年間一緒に居たら違うんだなあ」

「うるっせえ! とにかくお前は自分の所の担当とさっさと仲直りしろよ? つか、二度とあんなもん押し付けてくるんじゃない!」

「ははは……そうだねえ。ま、何とかなるっしょ」

 

 結論から言えば──あのエロ本は、トレーナーが同僚から一時避難のために押し付けられたものであった。

 しかし、その努力虚しく、返却された雑誌の数々は処分されてしまったようである。

 

(なっ、何だよ何だよう!! ぜ、全部、ボクの独り相撲じゃないかーっっっ!!)

 

 熱を帯びた頬をテイオーは抑える。

 そして。

 

 

 

 

(俺の愛バはテイオーだけだ)

 

 

 

 

 何度も。何度も何度も、胸でその言葉を繰り返しながら──彼女は走り、走り、走る。

 自分の身体がガタガタの筋肉痛で軋むことも忘れて。

 

(ずっるい……! ズルいよ、トレーナーは……! ボクと一緒の時は、絶対に言わない癖に……!)

 

 ぎゅうっ、と口を一本で結ぶ。

 嬉しい。だけど気に入らない。

 自分だけがドキドキしているようで、手玉に転がされているようで。

 一人で勝手に自爆してバカみたいだ。

 それが悔しくて仕方がない。

 

 

 

(絶対、面と向かって……好きだって言わせてやる……ッ! ドキドキさせてやるんだッ……!)

 

 

 

 テイオーは──負けず嫌いだ。

 レースでも。そして、恋愛においても。

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