テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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最終話「ボクの魅力ってなぁに?」「ためらわないことですわ」

 ──前回までのあらすじ!!

 体裁とかその他諸々を気にするトレーナーと距離を詰めてきたテイオーだけど、結局いっつもヤキモキさせられてるぞ!

 因みにテイオーのトレーナーは結婚適齢期で同僚から「そろそろ結婚とかしないの?」と言われてるぞ!

 ところで、ウチのマックちゃんってば減量が開けてから、ちょっとお腹がぷにぷにしだして、それはそれは大層な雪見だいふくに──ゲェッ!! マックイーン、話を聞いてくれ──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──URA、年間最優トレーナー……かあ」

「あら。テイオーのトレーナーさんですわね」

 

 

 

 ──そんな新聞記事が学園に張り出されていた。

 改めて、自らのトレーナーの世間からの評価というものを思い知らされる。

 クラシック三冠。昨年の有馬記念。そして今はドリームトロフィー。

 数々のG1を制してきたテイオーだが、彼女をそこまで引き上げたトレーナーの評価もまた高い。

 才能だけで勝ち残れるほど競争バの世界が甘くないことなど、トレセンにいればイヤでも痛感する。

 故に。彼のような優秀なトレーナーの手にかかれば、もっと夢を掴みとれるウマ娘は増えるのではないか、と言われるほどだ。

 

「今思うと……華麗なる復活でしたわね、テイオー」

「やぁだなぁ、マックイーンもとうとうボクがサイキョーってことに気付いちゃった?」

「ええ。素晴らしいトレーナーさんですわ」

「ボクを褒めてくれないかなぁ!?」

「──さて、そんな事はどうだっていいんですの。些事ですわ」

「些事じゃないやい!! ボクにとっては!!」

「今まで、聞くに聞けなかったんですけども……」

 

 一呼吸置いてから、マックイーンはテイオーに問いかけた。

 

「貴女のトレーナー、他に担当を持つつもりはないんですの? 此処の記事にも”将来的にチームを結成することが期待されている”って書いてますけど、未だにそんな気配無いですわ」

「……うーん。全然無いねー。そういえば、マックイーンのところのは──」

「既に天皇賞を目指す娘を何人も抱えてますわ」

 

 マックイーンのトレーナーは、半ばチームのような形でウマ娘たちを育成している。

 因みにゴールドシップもその一人で、今は秋天を目指して練習を積んでいる(真面目にやっているとは言ってない)。

 トゥインクルシリーズを退いたマックイーンは、後輩たちを引っ張る役目も担わされていた。

 

「メジロのウマ娘として答えるならば、私の主張は変わりません。……ノブレス・オブリージュ。持つ者は持たざる者のためにその力を振るうべきですわ」

「……」

「貴女のトレーナーは、貴女の担当を通して務めたことで世間では最も評価の高いトレーナーに数えられていますわ。彼が貴女以外の担当を増やすことは、純粋に多くのウマ娘への利益になるでしょう」

「……」

「最も、テイオーには耐えがたいかもしれないですわね。かく言う私も、チームを持ってから、あの人と一緒に居られる時間も減ってしまいましたから。でも、メジロ家の当主として。そしてチームのエースとして……自重すべきところは自重せねば」

「ねえマックイーン」

「何ですの?」

「その割には公私ともにベッタリしてるって、君のチームのウマ娘たちが言ってるんだけど」

「……そんなことはないですわよ?」

「へえーえ」

 

 マックイーンの肩が跳ねた。

 ゆらり、とテイオーは立ち上がるなり、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「……ボク、知ってるよ? マックイーンがトレーナーの家で夜な夜な野球中継を見に行って帰って来ない時があるって……イクノがボヤいてたのを」

「イクノさんが!?」

「……ボク、知ってるよ? マックイーンが練習中、さりげなーくトレーナーの腕をぎゅうってするタイミングをうかがってて、ぶっちゃけ露骨すぎだって君ン所のチームメイトがボヤいてたのを」

「ッ!? そうでしたの!?」

「……ボク、知ってるよ? それだけトレーナーに押せ押せして泊まり込む日もある癖に、結局マックイーンが未だに告白の一つも出来てないってことを」

「も、もうやめてくださいまし──」

「……ボク、知ってるよ? 今の生温い関係を壊したくないし、いざとなればメジロ家の力で外堀を埋められるのに胡坐をかいて、チームを言い訳にしてマックイーンが関係を停滞させてるのを──」

「やめやがれですわよッ!!」

「ミ”ッ!?」

 

 マックイーンの空手チョップがテイオーの頭頂部に炸裂。

 そのままカフェテリアのテーブルに彼女の顔面が叩きつけられたのだった。

 

「うぇーん!! 痛いよーッ!!」

「はぁ、はぁ、知り過ぎてしまいましたわねテイオー……!!」

「ひ、ひどいよマックイーン……ちょっと本当の事を言っただけじゃんかさあ」

「酷いのはどっちですの!! 事実陳列罪ですわ!!」

「それ自分で認めたようなものじゃんかさあ!! ふえーんっ!! マックイーンがボクのこといじめるよーっ!!」

「さて。元はと言えばあなたの話ですわ。どうするんですの?」

「うーん、確かにボクの専属のままで居てくれた方が良いには決まってるんだけどさあ」

「……?」

 

 マックイーンは首を傾げた。

 今までならば「ヤダヤダーッ!! トレーナーガボクイガイノコヲタントウニスルナンテヤダーッ!!」と喚きだすところである。 

 むしろ、マックイーンとしてはその反応を期待してからかっていたのもある。普段散々からかわれる側であるのは疑いようがないため、こんな機会でもなければ些細な仕返しも出来ないのだ。

 しかし──

 

「──思うに、それは逆にチャンスだと思うんだよね」

「……は?」

「倦怠期なんて言葉があるくらいだからさ、男女って一緒に居過ぎると愛情とか恋心とかドキドキが薄れちゃうものなんだよね」

「……はぁ。貴女の口からその言葉が聞ける日が来るなんて夢にも思ってませんでしたわ」

「マックイーンもそうだよ。一緒に居すぎると娘か妹くらいにしか思われなくなっちゃうかもね?」

「はァ?」

「チームを組むってことは、トレーナーと担当ウマ娘の距離が、増えたチームメイトの分だけ離れるってことでもある……でも、それをピンチとしか思わず、無理に距離を詰めていってる時点で既に余裕の無さが露呈してるんだよマックイーン」

 

 マックイーンは拳を思いっきり握り締めたものの、糖分が足りていたので我慢は出来た。えらい。

 しかし、この時点では既にテイオーが自らにマウントを取りにいっていることは事実以外の何でも無かった。

 かつて自らが彼女に説いた「大人の余裕」が、今の自分には欠けていることを思い知らされることになってしまったのである。

 ……いやこれ何の戦い?

 

「前に君が教えてくれた大人の余裕さえあれば、これを逆にチャンスとすることが出来るわけ。距離が離れるのがきっかけで生まれる恋愛感情も、あるッ!!」

「ッ……そんな……私としたことが……! よ、よよよ……」

 

 がくり、と項垂れるマックイーン。

 それを前にして腕を組むテイオーは勝ち誇りながら鼻の孔を膨らませるのだった。

 

 

 

 

「つまり、今のボクは──大人の魅力を、完全にモノにしたってことなんだよ!! 敗れたり、メジロマックイーンッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「異動ッ!! URA海外支部への出張を命じるッ!!」

 

 

 

 ──バカデカい理事長の声が、理事長室どころか廊下にまで響き渡った。

 URA海外支部での長期研修。

 つまり、海外のレース研究や国際レース制覇に向けたウマ娘の育成を行える人材として、URAはテイオーのトレーナーに目を付けたのである。

 

「……海外に?」

「うむッ! これはまさにチャンスであるッ! 有馬記念で復活を果たしたトウカイテイオーの偉業は世界にも伝わっている! そして同時に、それを成し遂げた其方の偉業も!」

「そんな……俺は、何もしてませんよ」

「謙遜などしなくて良い。ウマ娘に寄り添い、理解し、そして支える。理想的なトレーナーであることは確かだ。しかし同時に、其方には世界を見てほしいと考えているッ!」

「世界……」

「まだ見ぬレース場、まだ見ぬウマ娘が待っているだろう。同時に向こうもその力を欲している。より一段上のトレーナーを目指すなら誰もが一度は目指す道だッ!」

「……凱旋門賞のために、ですか」

「慧眼ッ! 流石に察しが良いな」

 

 ──フランスで行われる国際レース・凱旋門賞の制覇はURAにとって悲願だ。

 今まで何人もの強豪が挑み、日本とは違う環境、海外の猛者を前にして敗れてきた。

 そもそも、かのシンボリルドルフでさえ海外レースで敗北を喫しているのである。

 URAが今目指しているのは「世界で戦えるウマ娘の育成」であった。そして同時に「それを共に成し遂げられるトレーナーの育成」も急務であった。

 トレーナーからしても、高みに進める以上は悪い話ではない。断る理由は何も無かった。

 

「僥倖ッ! このような誘いは滅多とないものである。君自身のキャリアアップの後押しとなるだろう」

「……分かりました。前向きに検討します」

 

 ──さて。

 此処までの話を聞いているウマ娘が居た。

 たまたま理事長室に自らのトレーナーが入っていくのを見かけたのが運の尽き。

 いつもの耳ピトでその話を聞いていたのであるが──顔は真っ青。大人のヨユーは何処へ行った。

 

 

 

「ど、どーしよ……トレーナー、海外に行っちゃうの……!?」

 

 

 

 トウカイテイオーは──断片的だが、その話を聞いてしまっていた。

 

「最も、その期間、担当ウマ娘とは──離れることになってしまうだろうがな」

「……」

「そうなった場合は新たなる担当を彼女に付ける事になるだろう。よく考えると良い」

 

 叫び散らした彼女はそのまま理事長室の扉から逃げ出す。

 寮に辿り着いたころには、顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 

 

 

「わーっわーっ、聞きたくなーい!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ヤダヤダヤダヤダーッ!! トレーナーが海外に行っちゃうよーッ!! どーしよーぅ!!」

 

 

 

 そしてこれである。

 グラウンドのベンチでトウカイテイオーは泣きそうな顔でマックイーンに泣きついていた。

 

「やれやれ、この間散々私に余裕がどうこう魅力がどうこうと説いていたのにこの体たらく。情けないとは思いませんの?」

「思わないね!!」

「……あのですね。残酷かもしれませんが、貴女にとってトレーナーはあの方一人、でも──トレーナーはこれからたくさんのウマ娘を担当に持つんですのよ?」

「ぴぃ……っ」

 

 痛い所を突かれて、テイオーは口を噤んでしまう。

 

「……ずっと貴女の専属のトレーナーという訳にはいかないんですのよ。貴女と別れた後の事を考える日が、あの方にもやってきたのでしょう」

「……」

 

 テイオーの目が死んでいる。

 頭では分かっている。しかし、理屈では拒んでいる自分が居る。

 そして、それに自己嫌悪してしまう自分も居る。

 いつかは来ると分かっていた。

 トレーナーも、自分自身の夢に向かって歩む日がやってきたのだ。

 だがそれは当然、テイオーとの別れを意味していたわけで──

 

「分かってた。でもさ、思いたくないじゃん。ずっとこのまま、同じ日が続くって思うじゃん」

「でも、それは違いますわ。夢に進むことは……大なり小なり何か変化があるということ。貴女自身、分かっているはずですわよね?」

「……うん」

「ゴールドシップを見てごらんなさい。あの方の強さは一点の迷いも曇りもない所。自らが目指す道を定めれば一直線ですわ」

 

 最も、それまでがずっと迷走しているのであるが。

 

「あの点に関しては見習うべきだと思いますわよ」

「性能だけじゃなくって、見た目も重視したいよなぁ……気持ち、分かるぜ?」

「すごーい! ゴルシさん鍛冶も出来たんだ!」

「あたぼーよ、蹄鉄は走りの要だからな……作るか? 鍛えるか?」

「……」

「……」

 

 聞き覚えしかない声でテイオーとマックイーンは黙りこくった。

 グラウンドの妙な人だかりの中からゴールドシップの声が聞こえてくる。

 カーン……カーン……熱された鉄を打つ奇行種の姿があった。

 マックイーンは激しく後悔した。やっぱコイツだけは見習わせてはいけないかもしれない、と。

 

 

 

「ほーい完成、極太スパイク付き蹄鉄ーッ! これでゴルシキックの威力が120%上昇するぜッ! これならミラボレアスも狩れるかもなッ!」

「ええ……? ゴルシ先輩、これってレースに使えるんですか……?」

使えねーよ?

「じゃあ只のゴミじゃないですのッ!!」

「ゴルシッ!!」

 

 

 

 奇声を上げて地面に斃れ伏せるゴールドシップ。死角からマックイーンのハリセンが頭に炸裂したのである。

 それを一瞥したテイオーはしゃがみ込む。

 モンスターを倒した後にやることなど一つしかない。

 

▼「帽子」を手に入れた。

 

▼「耳に付けてるアレ」を手に入れた。

 

▼「カブトボーグ」を手に入れた。

 

「ちぇっ、3回かあ。しぶとさだけなら古龍クラスだからもう1回くらいいけると思ったんだけど」

 

 死んだ目で剥ぎ取りを行うテイオー。メンタルはライズどころか、既にサンブレイクしていた。

 

「コラコラ、剥ぎ取らない!! ゴールドシップの素材からは何も錬成出来ないですわ!!」

「そうだぞー、そこから先は修羅の道だぞー」

「貴女も貴女で復活が早い!!」

「うん、ところであたしの帽子返してくんね? ただの超☆絶美少女ゴルシちゃんが誕生しちまったじゃねーか、黙ってれば美人ってよく言われるけどさあ」

「じゃあずっとそのままでいて下さいまし」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「トレーナーが海外に行っちゃうかもしれないぃ?」

「ゴルシだったらどうするのさ」

「考えた事も無かったな! てか、どうしようもねーことを考えるのって時間のムダじゃね? その時間で一狩り行こうぜ!」

 

 奔放で豪胆なゴルシらしい返答であった。

 考えても仕方ない事を考えるような人物ではない。

 ある意味では聡いとも言えるが。それでも、思考停止で諦められるほどテイオーは良い子ではない。

 

「……頭で分かってても、そんな簡単に諦められないんだ」

「……」

「確かにボクはトレーナーにとって大勢いるウマ娘の一人でしかないかもしれないけどさ、ボクにとっては……たった一人のトレーナーだもん。割り切れって言われても簡単には割り切れないよ」

 

 自分勝手で、ワガママなことなど分かっている。

 自分に引き留める権利など無いことなど分かっている。

 しかし、胸が締め付けられる思いは本物だ。

 今の日々を、二人で追いかける夢を諦めたくない思いも本物だ。

 そこまで執着する理由が彼女にはある。

 

「なあ、お前さ、何でそんなにトレーナーが好きなん?」

「正直、冴えないですわよね。もっと良い人いっぱいいると思いますわよ」

「ニブちんだし」

「乙女心は理解していませんし」

「顔はちょっといいよな」

「むっ……!!」

 

 急に彼の事を悪く言う二人にテイオーは殺気立つ。

 

「ボクがケガして不安だった時に一緒に諦めないでくれたのは彼だ! 一緒に夢を追いかけてくれたんだ! カイチョーを超えるウマ娘になれるって笑わないで言ってくれて──」

 

 今までにない勢いでまくし立てていた。

 そしてそこまで言って、漸く気付いた。

 自分が何をするべきかを。彼女はもう一度深く息を吸った。

 涙を拭うと──マックイーンに問いかけた。

 

「ッ……ねえ、マックイーン」

「何ですの?」

「ボクの魅力ってなぁに?」

 

 その問にマックイーンは──ふっ、と一度笑うと答えてみせる。

 

 

 

「ためらわないことですわ。一度決めれば、夢へ駆けて一直線!」

「へへっ、そういうことっ!」

 

 

 

 その言葉を聞き受けた後──だっ、とテイオーは駆け出していた。

 目指すのはトレーナー室だ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……海外転勤、か」

 

 

 

 テイオーのトレーナーは一人、トレーナー室でごちる。

 そうなれば、残りの期間、テイオーのドリームトロフィーの面倒は見れなくなる。

 彼女とてもう一人前のウマ娘だ。自分が直接教えずとも、残した練習ノートで己を鍛え上げ続けるだろう。

 彼女は文字通りの──天才なのだから。

 

「……出来りゃあ、俺だって終わりまで見届けたかったけどね」

 

 そうはいかないよな、とトレーナーはあるポスターを見やった。

 凱旋門賞のポスターだった。日本のウマ娘がこの国際レースで優勝することは悲願となっている。

 そしてそれは同時に、トレーナーの夢でもあった。

 テイオーはケガが重なったこともあって、結局海外レースに出る機会は無かった。ジャパンカップで世界の強豪に打ち勝ち、テイオーが世界に通用することは証明できたが、それだけが心残りだった。

 しかしそれでも、彼女はそれ以上の偉業を成し遂げた。有馬記念での復活を以て、ある形でシンボリルドルフを超えたのだ。

 その彼女が行き着く先を見てみたいという気持ちもあった。

 

「……俺の愛バは……テイオー、お前だけなんだよ」

「トレーナーッ!!」

 

 急にトレーナー室に誰かが駆け込んで来る。 

 慌てて彼は凱旋門賞のポスターを放り投げた。

 彼女にはまだ、直接海外転勤の事を伝えてなかった。

 断ろうと思えば断れる話だったからだ。

 

「何だ? どうしたんだよ慌てて……今日のトレーニングはまだだろ?」

「……海外に、行くんでしょ」

「ッ! 何処でそれを……」

「そして、トレーナーも海外に行きたいんだよね」

「……」

「だって最初のころ言ってたよね! 世界を獲れるウマ娘を育てたいって」

「なあ、それは叶ったんだよ。お前がジャパンカップを優勝したから──」

「違うッ!!」

 

 甲高い声で彼女は否定した。

 不可能と言われたことを成し遂げた執念。 

 それは決して、テイオー一人のものではなかった。

 その傍には必ず、彼が居た。

 

「それで妥協するような人ならボクは……今此処に居ない!! キミはトレーナーだッ!! ”次”があるんだよ!!」

「っ……”次”か……」

 

 ソファにもたれかかる。

 今までの思い出が駆け巡った。

 あのバカみたいな日常も、ケガをした彼女を菊花賞までに必死に復帰させようとした時も、1年間の休養で心身ともにやつれた彼女を支えた時も、そして──あの栄光の数々も。

 此処まで至るのに、夢は決して諦めなかった。

 

「っ……俺はな……お前が走る姿を最後まで見ていたいんだ」

「そのために、今目の前にあるチャンスをムダにするの? 二度と無いかもしれないんでしょ?」

「俺はお前のトレーナーだ、今目の前にいるお前を蔑ろに出来ない」

「でも、いつかは()()()()()()()()トレーナーになるんだ!!」

 

 トレーナーは口を噤んだ。

 

「ボクを此処まで連れてきた人なら出来るよッ……!! だってキミは、このボクのトレーナーじゃないか……ッ」

「なあテイオーっ……」

「トレーナーは、トレーナーの夢を追いかけてよッ! 今度はボクが応援する番だッ!」

 

 力強く鼓舞する彼女。

 その手は震えていた。

 声も彼女を奮い立たせるようだった。

 

 

 

「ボクは……誰かの夢を追いかけている君が好きだ。世界で一番大好きだっ」

 

 

 

 

「ボクの事は気にしないで! ……大丈夫ッ! キミが居なくなって、ボクはサイキョーのウマ娘のままだよ! 卒業までずっと、ね!」

「だってテイオー、お前……」

「ひっく……大丈夫ッ……大丈夫だから……」

「お前……」

「っうぐっ、ひぐ……ッ」

 

 

 

 何かが決壊したように、彼女は嗚咽を漏らすのだった。

 

 

 

「泣いてるじゃねえかよ……ッ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……落ち着いたか?」

「……ごめん」

「何、早くに言わなかった俺が悪かったんだ。何処から漏れたか知らないが、俺の口から言うべきだったことなのにさ」

「うん……」

 

 自分で盗み聞きしたことはこの際黙っておくことにしたテイオーであった。

 涙を拭きながら、彼女は頷いた。

 

「……ボクはウマ娘だけど、トレーナーはこれから何人もウマ娘を担当するんだ。ボクが夢の枷になっちゃいけない」

「そんな事思ったこと無いんだけどなあ」

「トレーナーが思ってなくても、だよ。折角の大チャンスを逃すなんてダメだ。トレーナーがボクと同じ立場なら何て言う?」

「……敵わないなあ、やっぱお前には」

 

 ぎゅう、と腕にしがみつく彼女にトレーナーは笑いかけた。

 

「俺はね、初めての担当がお前で良かったよ」

「え?」

「俺が辛かった時、俺の心を支えたのもまた、お前だったよ。お前が諦めなかったから、俺は今此処にいる」

 

 もし諦めていたら?

 きっと心が折れて、今頃中央には居なかったかもしれない。

 彼もまた、テイオーが支えとなっていた。

 

「特別扱いなんてしちゃいけないんだけどさ……やっぱ無理だわ! 俺の愛バはお前だけだよ」

「っ……! えへへへへっ、こそばゆいよ」

 

 そう言いながらも彼女は尻尾を揺らしながら、彼に抱き着く。

 もう抑えきれない。熱い思いは溢れて出てくるばかりだ。

 どうせいつか別れるならば、せめて今だけは──彼を独り占めしていたい。

 

「……ね、トレーナー」

「何だ?」

「ボクも、もうガマンなんてしない。キミがこれから担当するウマ娘が追い付けないくらい、強いウマ娘になってみせるよ」

「……身体は壊すなよ?」

「分かってるよっ」

 

 その日のトレーニングは休みだった。

 確かに、そしてもう二度と消えない絆を結んだ人間とウマ娘が──寄り添いあっていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ねえねえトレーナーっ! 聞いて聞いて! キタちゃんがゴルシに勝ったんだーっ!」

「ははっ、そりゃあすごい、ぜひとも直接見てみたかったよ」

 

 電話越しだが、彼女の楽しそうな声が聞こえてくる。

 あれから数か月。地理的な距離は離れたが、二人の心の距離はずっと近いままだ。

 彼女は毎日、トレセンでの出来事やトレーニングについて連絡をくれた。

 知る人が誰も居ない彼も、彼女のおかげで寂しさを紛らわせていた。

 

「ところでここ数日、LINE送って来なかったけど……何かあったのか?」

「あっ、トレーナー、寂しかったの~? うりうり~」

「ああ、寂しかったよ。愛バが急に連絡を寄越さなくなったからな」

「っ……も、もうっ、ちょっとくらい照れ隠ししてもいいじゃんか」

「で、何かあったのか? 正直心配してたんだぞ?」

「ちょっと忙しかったんだよねーっ。ごめんね」

 

 何かを誤魔化すように彼女は謝る。

 そして──急に話を変えてきた。

 

「ところでさ、トレーナー。ドリームトロフィーって半年に1回しかないんだけどさ、その間にボクも海外で修行する事にしたんだよね」

「あー、留学制度って奴か。良いんじゃないか? だけど要相談だな、海外の環境でコンディションを崩すウマ娘は少なくない」

「そーだよねえ……ところでトレーナー、もしもボクが海外に行ったら、キミならどうする?」

「ん? そりゃあ1回くらいは心配で見に行っちゃうかもしれないなあ。まあ、それは俺が日本に居る時の話で──」

 

 そこでトレーナーは眉を顰めた。

 

「……おい待てよお前……まさかと思うが」

「そーだよ? 数か月だけどボク、海外のトレセンに留学することになってね。後輩たちの面倒を見る事になったってワケ」

「お前……ちょっと待て。俺の相談も無しに、か!? し、しかもその口ぶりだと──」

「えへへっ、テイオー様をナメないでほしいかな。目指すところは違うかもだけど、ボクだって見てみたいんだっ! 君の目指す夢ってやつを!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきて、思わず期待と共に、そしてある種の確信をもってスマホを取り下げた。

 呆れたような、嬉しいような、そんな気持ちがないまぜで、駆け出したくなる。

 目の前には──同じくスマホを手に掲げたポニーテールのウマ娘が太陽のような笑顔で立っており、

 

 

 

「地平線の果てまで、今度は君の夢についてきてあげるもんねっ!」

 

 

 

 そのままいつものステップで、トレーナーの胸に飛び込むのだった。

 トウカイテイオーに、不可能は無い。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「行っちゃいましたわね……テイオーも」

「寂しくなるなあ、ずぞぞぞぞぞ」

「ちょっと飛び散りましたわよ」

「ねえ思ったんだけどよ、マックちゃん」

「何ですの?」

「此処までの話、全部マックちゃんにもブーメランだよな? お前、トレーナーと別れたらどうすんの? 好きなんだろ? ぶっちゃけ」

「……私は平気ですわ。覚悟していたことですから。テイオーの姿を見て、私も決心つきましたの」

 

 

 

 

「──トレーナーさんは私専属ではなくメジロ家専属のトレーナーになる予定ですわ」

「あっ……」

 

 

 

 ──テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」(完)




 此処までお付き合いしていただき、本当にありがとうございました!約1年ぶりのブランクこそ空きましたが、改めて本作も完結と成りました!トレーナーへの愛情が深いトウカイテイオーと、割とはっちゃけたマックイーン、そして一周回って常識人なゴールドシップ、その他本編よりもハジけたウマ娘たちによるラブコメ、楽しんでいただけたでしょうか?正直筆が乗り過ぎていつ怒られるかとびくびくしていた時もありましたが、無事に完結と相成りました。夢は続くよ、何処までも。そんなわけで──ウマ娘ジャンルかどうかは分かりませんが、作者の次回作をお楽しみに。それでは、また!
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