テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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「マックイーン、この店ではヤサイマシマシニンニクアブラカラメって唱えるのがマナーだぞ」
「成程……ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ、ですわね!」

▼コンディション獲得……「太り気味」


マックイーン「実質うまぴょいでは?」

 テイオーの感情は顔ではなく耳に出やすい。

 ウマ娘は基本的に、トレーナー以外に弱みを見せる娘が少ないがテイオーはトレーナーにもなかなかそれを見せたがらない。

 しかし、耳は正直なのだった。

 

(……こりゃあトレーニングの途中に、人前で盛大に失敗したな……)

 

「ん? どうしたの、トレーナー。ボクの顔に何か付いてるのかな?」

 

 表情は何時も通りだが、耳はずっと垂れ気味。

 こんな時の彼女は、決まって内心ではフラストレーションかストレスが溜まっている時であることを、長年の経験からトレーナーは知っていた。

 仕方がないので、とびきり美味しいはちみつタピオカドリンクを奢ってやると、その日はずっと耳がピコピコと動いていた。どうやら機嫌を直したようだ。

 本人は気付いていないのがまた健気である。

 また、これはマヤノと一緒に3人でババ抜きをした時のことだが──

 

「……ふふん、どれを選ぶの?」

「……じゃあこっちで……」

 

 耳が垂れる。

 

「……じゃあこっちで……」

 

 耳がパタパタ。

 

「……もー! どっちにするのさー! 早く選んでよーっ! あ、それとも降参? 仕方ないよねー! ボクはババ抜きでも無敵のテイオー様だからさー!」

「ねえねえ無敵のテイオーちゃん? マヤは1番上がりなんだけど~?」

「うるさいなー! とにかく、ビリにはならないからねー!」

 

(分かりやすすぎて却って選びづらい……)

 

「じゃあこっちで、おっ……ラッキー、アガリだな!」

「ぴえっ……またボクの敗けェ!? なーんでー!? 2分の1の確率だったでしょーっ!?」

「テイオー……バレバレ」

「アレは誰でも分かっちゃうよね~」

「ええ!? なーんでー!? カードを覗きでもしない限り分かるわけないじゃんかさー! トレーナーも笑ってないで、どうしてわかったのか教えてよーっ!」

 

 とまあ、こんな具合であった。

 しかし、此処まで分かりやすいと気になってしまうのがトレーナーのサガ。

 それは──あのピコピコとせわしなく動く耳を触ると、テイオーはどのような反応を見せるのか、である。

 そして、それを確かめる日は意外と早かった。

 練習後、疲れたテイオーが、トレーナーに身体を預けてきたときのことである。

 

「あー疲れたー! 今日の走り込み、雨だったから、コースが最悪でさー! 大変だったよー!」

「だけど力強い走りだったぞ、テイオー。シンボリルドルフも感心していた」

「……まーねー! ま、当然だよ! ボクは無敵の帝王だもんね!」

 

 あぐらで座っている彼にもたれかかる彼女は、機嫌が良さそうにピコピコと耳を動かしている。

 シンボリルドルフに褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。

 それに呼応してか耳も一緒に動いていた。

 トレーナーの好奇心は──抑えきれなくなり、思わず頼む。すると──

 

「ふふーん、トレーナーは仕方ないなー。トレーナーにだけ、特別なんだからね!」

 

 快諾。

 普段からあれだけ好き好きと言ってアタックしてくる彼女が、トレーナーの頼みを断るはずもなかった。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

「どーぞどーぞ! たっぷり堪能するが良いぞよー!」

 

 さわ……さわ……

 

 軽く撫でてやると──「ぴゃっ」と小さく彼女の口から悲鳴に近い声が漏れた。

 

「……大丈夫か!? 嫌だったなら辞めるが」

「ん、くすぐったかっただけ! ほら、もっともっと!」

「うーん、そういうなら……」

 

 ふに……ふに……

 

 触っているうちに、彼女の耳はどんどん熱くなっていく。

 それはそれはもう、熱いタオルで包んで温めたのではないかというくらいには温度が上がっている。

 これは、本人は相当恥ずかしがっているのではないか、と罪悪感にかられたトレーナーはパッと手を離した。

 

「……やめちゃうの?」

 

 しかし。

 振り向いたテイオーの眼は、どこか熱を帯びていて希うようだった。

 

「やだ……やめちゃ、やだ……」

「テイオー……?」

「もっと、触ってよぉ……」

 

 ぎゅーっ、とトレーナーの胸に抱き着くテイオー。

 そのまま満足いくまで耳を触ってやるまで、彼女は離れなかった。

 こうして、早一時間ほど経った頃。

 

「ごめん……なんか、熱くなっちゃった……胸のあたりが、ぽかぽかして……」

「俺も……すまん」

「ト、トレーナーが謝ることないよ! でも……もう少し、このままで」

 

 すっかり我に返ったのか、恥ずかしそうに彼女は目を逸らす。

 しかし──その日は、トレーナーの傍から離れることは無かった。

 

 

 

(ボク、どうしたんだろ……トレーナーの事が大好きなのに……なんだか、ヘンだよう……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……ということがあって……ボク、おかしくなっちゃったのかな? トレーナーのことは大好きなんだけど……触られる度に胸がどきどきして……レースの時とも違って……なんか、ヘンだ……」

うまぴょいでは?

「は?」

実質うまぴょいでは?

 

 

 

 マックイーンは即答した。

 これはもう実質うまぴょい(可能な限りオブラートに包んだ表現)だったのでは? と。

 幾らそれ以上は何も無かったと言えど、帝王の威厳を揺るがしかねないイベントであった事には違いない。

 同輩以上からすればクソガキな面が目立つテイオーでも、後輩からは王子様のように慕われているのである。マックイーンはこの事を自分の胸に秘めておくことにした。

 

「とにかく……破廉恥ですわ。他人に耳をみだりに触らせるものではないですわよ?」

「うーん他の娘に触られてもなんともないんだけどぉ……」

 

(えっ、私触らせてもらったこと一回もないのですけど……)

 

 地味にショックを受けたマックイーン。

 よく考えたら、そんな機会なかったので当然と言えば当然なのであるが。

 

「あっ、折角だしマックイーンもボクの耳を試しに触ってみてよ」

「あら良いのです? それでは失礼して」

 

 ふに。ふにふに。

 

 動かす指が止まらない。

 毛並みの心地よさも相まって、マックイーンはつい夢中になってしまった。

「ねえ」とテイオーが呼びかける声にも気付かなかった。

 

「……マックイーン。手つきがやらしーよぅ」

「なっ!?」

 

 やらしー、と言われて思わず手を引っ込める。

 しかし、次の瞬間、テイオーは悪戯っ子のように舌を出していた。

 

「ウッソー! えへへー、マックイーン、真っ赤になっちゃって可愛いんだー」

「こんの……ッ!! 人をおちょくってますの!?」

「ごめんごめん、だってマックイーン、からかうと可愛いんだもん」

「むぅ……それにしても、どうでしたの? 何か発見は……?」

「うーん、やっぱり普通かなあ」

 

 やはり、触られる相手によるものなのか、とマックイーンは納得する。

 今度自分のトレーナーにもおねだりしてみるか、と思案する。

 

(ト、トレーナー。少し相談がありますの)

 

(その……私の耳、触って下さる……?)

 

(ひゃぁん!? そ、そんなところまで……!? や、やめてくださいまし……! 他の娘が見ていますのよ……!?)

 

 

 

「って、私は何を考えていますのッッッ!?」

「どうしたのマックイーン!?」

「……失礼。少々取り乱してしまいましたわ──」

「ほほーう、確かにマックイーンの耳ってやわっこいよなー、胸よか」

「……」

 

 ふに。ふにふに。

 

 背後からいきなり耳を触るのは──いつもの黄金船だった。

 

「誰に許可を得て触っていますのッッッ!!」

「ゴルシッッッ(断末魔の叫び)」

 

 華麗に決まるメジロ流巴投げ。

 哀れ吹き飛び、叩きつけられるのはゴルシの巨体。

 彼女は最後までサムズアップを絶やすことはなかった。

 

 

 

「へっ、それでこそマックイーンだぜ……! メジロの呼吸の免許皆伝だな……ッごふっ」

「ゴルシィィィーッ!?」

「やれやれ、良い薬ですわ」

 

 

 

 ▼マックイーンのパワーが50上がった!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──欲望。それは、雨の日のダートよりもぬかるんだ、トレセン学園の闇である。

 時に人間は欲望というものと戦わなければならない時がある。

 そして欲望に負けた結果、全てを失った例は有史上数えきれないのは事実である。

 では、何故人は欲望に負けてしまうのか?

 では、何故欲望は人を誘惑するのか?

 全てを解明するべくゴルシちゃんは一人、ヒシアマゾンの奥地へと向かったのだった──

 

「──や、やめろ、マヤノ……俺は、テイオーを裏切る訳にはいかないんだ……」

「そうは言っても、体は正直みたいだよ? トレーナーちゃん」

「ぐっ、やめるんだ……こんな事をしたって……俺は……」

 

 ──誘惑には、抗えない。

 テイオーのトレーナーは涙目で──山盛りのパフェを頬張った。

 

「ちっくしょおおうんめええなああああ!! テイオーに内緒で食べるハチミツパフェは背徳の味ーッ!!」

「あ、テイオーちゃんの分もあるからね!」

「ありがとうめえええええ!! あいつ喜ぶぜええええええ!!」

 

 ──この日。トレセン学園の一角では、ウマ娘とトレーナーの間で闇の取引が行われていた。

 片や、テイオーの同室のウマ娘・マヤノトップガン。

 そして、お取り寄せ抽選限定のハチミツパフェを頬張るのは、テイオーの担当トレーナー。

 欲望が渦巻く取引に使われたのは──勿論、この限定品のパフェであった。

 

「しかしマヤノ、此処までして俺に聞きたいことって?」

「いやー、テイオーちゃんに何かあったのかなーって」

「え?」

「あの娘、部屋にいる間、しきりに耳を触ってぼーっとしてる時があるんだよね……それで何かあったのかなって! 教えてよぉ、テイオーちゃんのトレーナーなんだからあ、何でも知ってるんでしょぉ?」

 

 耳──耳で思い当たるのは一つしかない。この間の一件だ。

 そんな理由、言えるはずがなかった。

 トレーナーとウマ娘の関係は、例え表面上であっても清いものでなければならないのだが。

 実際、テイオーとテイオーのトレーナーの間には、糾弾されるようなことは無かったのであるが、それでもトレーナーがウマ娘の耳を触ったとあれば大変なことになるのは間違いない。

 そうでなくとも──相手は色恋沙汰に目敏い上に、ヘンに勘の良いマヤノである。

 下手に勘繰られるとこの間の事も含めて、全部バレてしまいかねない。

 

「ふふん、隠しても無駄だよトレーナーちゃん──アレは、恋してる顔だよ……それはもう胸がバキューンッ!! ってドキューンッ!! ってなる感じの……」

「ソ、ソウデスカ……」

「あのテイオーちゃんがだよ!? もっと驚いてよトレーナーちゃん!! まだまだお子様だと思ってたんだけどなあー!! マヤびっくりしちゃった!」

「いやー、しかしとなると相手は誰なんだろうなあー」

「テイオーちゃんのことだし、カッコ良くて、イケメンで、生徒会長に似たカイショーのある男の人じゃない? トレーナーちゃんは……ちょっと頼りないしね!」

「アッハイ」

 

(泣いて良いっすか……俺)

 

 この時、トレーナーは思い出した。

 トウカイテイオーという少女を攻略するならば、遅かれ早かれ──皇帝・シンボリルドルフを乗り越えねばならぬ時が来るのだと。

 それがどのような形であれ、である。

 

(出来れば生徒会室に呼び出されるのは勘弁してほしいかなー……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「しかし、だれかれ構わず耳を触らせるのは良くないですわ!」

「うーん、そっかなー。皆ボクの事、可愛いって言ってくれるし悪い気はしないけどなー、まあボク、無敵の帝王だしねー! 仕方ないかー!」

「腹立ちますわね……」

 

 事実であるがゆえに、否定することも出来ない。

 なんせ彼女の人気は学内どころか日本各地に「トウカイテイオーファンクラブ」が結成されているくらいである。

 それほどまでに皆、三冠バというものに心を惹かれたのである。

 

(まあそれで、中身が色ボケテイオーだったらガッカリされること請け合いですわね)

 

 お前が言うな、マックイーン。

 

「本当に……こんな気分になるのは、トレーナー相手だけなんだよ?」

「それはテイオーがトレーナーさんのことが好きなだけではなくって?」

「やっぱり……そうなんだあ。好きな人に触られるのって……どきどきして、顔が熱くなるんだ……」

 

 顔を真っ赤にして、テイオーは言った。

 心なしか──耳から首元まで真っ赤に見える。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 マックイーンは問うた。

 

「……テイオー。さっきから目の焦点が合ってないですわよ?」

「そ、そーいえば、さっきからフラフラするんだよね……これが、恋……?」

「……さっきって?」

「マックイーンがゴルシを投げ飛ばした辺り……?」

「それは忘れて下さいまし! じゃなくて──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「──38.5、確実に風邪ですね」

「あ、はい、ご迷惑おかけしますわ……」

「ふぇえ……」

 

 道理でずっと顔が赤かったわけである。

 恐らく原因は、この間の雨の練習によるものだろうとのこと。

 敢え無く、テイオーは寮まで連れ戻されることになったのだった。

 寮の部屋でマスクをしながら、ゴホゴホと咳き込む。ベッドの上で天井を眺めながら、テイオーは独り熱でクラクラの頭で考える。

 

(あの時、顔が熱くなったのって……熱の所為だったのかなあ……)

 

 テイオーは──心はまだまだ子供だ。

 恋愛も、学び始めたばかり。

 戸惑いしかない。

 しかし──

 

「テイオーちゃん! これ、テイオーのトレーナーちゃんがお見舞いだって! 風邪に効くショーガのハチミツアメ!」

「……コホッコホッ……うええトレーナー……来れないの?」

「トレーナーは寮に入っちゃダメだから……それじゃあ、マヤはトレーニングあるから! また後でね!」

 

 ──この恋しい気持ちは、きっとウソではない。

 風邪なんかで誤魔化せはしない。

 

(……会いたいなあ……トレーナーに、すぐ近くでギュッ、てしてもらいたいよ──)

 

「……トレーナー?」

 

 その時。

 漸く彼女は、自分のスマホが鳴っていることに気付いた。

 着信先は──トレーナーだ。

 手をゆっくりと伸ばし、彼女はそれを手に取る。

 

「……トレーナー」

「大丈夫かテイオー!? いや、大丈夫じゃないよな!? 持ってきたアメ、好きだったろ? それを舐めて、治るまで元気を溜めてくれよな」

「……うん」

「俺もお前の不調に気付けなかったから……頼りないトレーナーで済まない」

「大丈夫。熱……急に上がったみたいだからさ……トレーナーの所為じゃないよ」

「そうか、なら良かったが……」

「……えへへっ」

「テイオー?」

「電話って良いよね……場所は離れてるのにさ……トレーナーが近くにいるみたい」

 

 耳をくすぐる彼の声。 

 テイオーの顔は自然と綻んでくる。

 しかし、それでも物足りない。

 それは電話機が再現した音声で、彼の声そのものではない。

 そして彼はそばには居ない。

 ワガママだと分かっていても、今すぐにそれは手に入らない。

 それが辛くて、せつなくて、そして狂おしい。

 ああ、こういうことだったのかと少女は理解する。

 

 

 

「……ねえ、ボクが元気になったら……たくさん、ぎゅーってしてね。約束だからね」

 

 

 

 これがきっと、満たしても満たされない「恋しい」という感情なのだ、と。

 

 

 

 ※※※

 

 

 ──3日後。

 

「んふーっ! トレーナーッ! もっとぎゅーってしてーっ!」

「ねえ、トレーナーさん……それは……」

「助けてくれマックイーン、もうすぐトレーニングなのに、くっついて離れないんだ」

 

 この後、滅茶苦茶引き剥がすのに苦労した。


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