テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」 作:タク@DMP
※※※
──来たる学園祭の催し物。
今年は、有志でロックバンドを募り、ステージを行うとのことだ。
ウィニングライブに備えて普段から練習していることもあり、音楽に明るいウマ娘は多い。
しかし、それでも普段の練習に加えて文化祭のステージでの練習も行うような物好きは早々居はしない──
「──ロックバンドって大人っぽくて、カッコよくて、すっごく良いよね!! ボク、やってみよーかなー!」
──居た。
無敵の三冠ウマ娘・トウカイテイオーである。
募集ポスターを見て目を輝かせている彼女に、マックイーンは肩を竦めて問いかけた。
「でもテイオー。貴女、楽器は演奏出来ますの? ダンスと歌は得意でしょうけど」
「うっ、それは……いや、あるよ! 音楽の授業で習ったコレなら!」
そう言ってテイオーが取り出したのは──リコーダーだった。
「……ランドセルでも背負ってみます?」
「ぴぇ……バ、バカにしたなーっ!? マックイーンでも許さないぞーっ!?」
ちょっと涙目で彼女は掛かり気味になり、マックイーンに怒鳴る。
それを指で鼻先を抑えてあしらうマックイーン。
「し・か・も、ロックバンドに管楽器はありませんわよ、ジャズならさておき」
「ぐ、ぐぬぬう、練習するしかないのか……!」
「でもどうしていきなりロックバンドなんか参加しようと思ったんですの?」
「なんかカイチョーも参加するみたいだよ?」
「……えっ?」
隣のポスターを見てマックイーンは絶句した。
そこには「チーム・バンドリルドルフ」と書かれ、勝負服でバンドをしている写真の生徒会三幹部の姿があった。
「はぁん……ギター持ってるカイチョーもカッコいいなあ……!」
(……写真のエアグルーヴさん、目が死んでいますわね……)
心中は察するに余りある。
あれは「壊滅的なネーミングのチーム名とクソダサTシャツによるバンド参加のうち、後者は辛うじて回避できたものの結局前者はどう足掻いても受け入れるしかなかった」という顔だ。
「それなら、参加せず普通に見に行けばいいのではなくって?」
「ふ・ふ・ふ、これだからマックイーンはいつまで経ってもおこちゃまなんだよー! こういう時がアピールチャンスってわけ!」
「チャンス?」
「確かにカイチョーは無敵の皇帝さ! レースだけじゃない、ウィニングライブも、バンド演奏だって完璧さ! だけど、バンド演奏でもボクがカイチョーを超えたら、カッコよくない!? サイキョーに!」
「要は、いつもの負けず嫌いですわね」
「それだけじゃないやい! 男の人は、好きな女の子の普段とは違う一面にドキッとするらしいよ? バンドをしているボクを見たら、トレーナー惚れ直すんじゃなーい? うぇへへへへ……」
ああ、どこまで自意識過剰、自信過剰になったら気が済むのだろう、とマックイーンは己のライバルの行く末を憂う。
この少女が大人になった姿が全くといって良い程想像がつかない。
「それにそれに、トレーナー、前に言ってくれたんだもん! 全部出来たらカッコイイ、って! ボクはレースだけじゃない! バンドでも無敵の三冠になるんだい!」
「テイオー……」
「だから、このバンドフェスでも勝って、カッコいい無敵の帝王をトレーナーに見せてあげるんだ! 一番カッコいいボクを……トレーナーに好きになってもらうんだ!」
「──あら、残念だけど優勝はあたしたちよ!」
遠くから声が聞こえてくる。
現れたのは──負けず嫌いで知られる紅蓮の姫君・ダイワスカーレットだった。
「スカーレットもバンドフェスに出るの!?」
「ふふん、バンドもあたし達が勝ってイチバンになってみせるんだから! そうでしょ、ウオッカ!」
「……おう」
死んだ声で受け答えたのは──スカーレットのライバルである男勝りなウマ娘・ウオッカだった。
いつもは元気いっぱいの彼女だが、今日は心なしか目に精気が無い。
「……ど、どうしましたの?」
「スカーレットとバンドの名前をどっちにするかを賭けて模擬レースで勝負したんだ……そしたら負けて……」
「もーぅ!! 何よウオッカ! あたしの”イチバンズ”ってチーム名がそんなに不満なの!?」
「……」
「……」
それは誰だって不満に思うだろう、とテイオーとマックイーンはほぼ同時に思った。
しかし、敢えて口にはしなかった。
「なあスカーレットぉ、考え直せよお……ぜってー”ACCELERATOR”の方がカッケーよぉ」
「そんな恥ずかしい名前つけられるわけないでしょ!」
(どっちもどっちですわね……)
(強いて言うならウオッカの方がマシかな……)
「というわけで、宣戦布告するわ! あたし達”イチバンズ”は、今年の文化祭バンドフェスで一位になってやるんだから!」
「ふっふーん、悪いけどボクたち負けないからね! ボクはバンドでも無敵の三冠をとってやるんだ!」
「いや三冠も何も、今回が初めてでしょうに……」
「おう精々頑張れよ……俺はベースの練習に戻るわ……」
「あっちょっとぉ、ウオッカ!! 待ちなさいよ──ッ!」
死んだ声で踵を返していくウオッカ。あそこまで精気が無い彼女も珍しい。
「にしてもバンドのメンバー、どうするんですの?」
「マックイーンは確定として、あとはゴールドシップとか?」
「私、まだ参加するとか一言も言ってませんことよ!? それに、なんて恐ろしい提案をしますの!?」
「大丈夫ダイジョーブ! 確かにゴルシは頭ン中宇宙人だけど、意外とノリが良いし! 最悪はマックイーンと2人でボクのギター演奏のバックダンサーやってくれればイイよ」
「最悪なのは貴女の提案ですわ!」
「じょ、冗談だよぉ! そんなに怒ることないじゃんかさあ!」
「大体貴女、毎回のように私をおちょくりすぎですわ! そんなに楽しいんで──」
ぷすぷす笑うテイオーの胸倉を、マックイーンが掴んだ、その時だった。
「──ウマンゲリヲン弐号機出撃おああああああああああああああああああああ!?」
なんか紅い改造セグウェイが校舎の壁に突っ込んでいき、派手に爆発した。
煙が辺りに立ち込め、部品が爆ぜてポンポン跳ねる。
ポコン、とネジらしきものがマックイーンの頭をジャンプした。
そして煙の中から現れたのは──赤毛のツインテールが特徴的なウマ娘・ダイワスカーレット──ではなく、そのお面を被った黄金船であった。
理事長が見たら何というだろう。「末法ッ!! まさにこの世の終わりであるッ!!」とか言いそうな……そんな感じの混沌であった。
「ゲホッ、ゴホッ、畜生、このウマ波・ダスカ・ラングレーの初陣がこんな結果に終わるなんて……ウマンゲリヲンの根性と賢さの育成が足りなかったか……根性が足りていないようです、重点的に育成しましょう、ってかぁ!?」
「……人のお面を公衆の面前にブラ下げて何をしているのかしら? ゴールドシップさん?」
「おいおい怒るなよマックイーン、そりゃあ見ての通り、このウマンゲリヲンで鬼と宇宙人を退治しに行くんだよ──あ」
答えたのはマックイーンではなかった。
ダスカ・ラングレーの目の前に現れたのは──本物の紅蓮の姫君・ダイワスカーレットと、ウオッカであった。
そりゃああれだけの爆発音を立てれば戻ってくるのは当然である。
ラングレー改めゴルシの顔から血の気が引く。
テイオーもマックイーンも、この時ばかりは黙りこくるしかなかった。無言で二人は手を合わせる。南無。
「いや、これはその──悪ふざけが過ぎたっていうか」
「言い訳なんて挟む余地が欠片でもあるとでも思っているのかしら?」
「ヒュッ」
ダイワスカーレットは激怒した。
必ず、この邪知暴虐なゴールドシップを除かねばと決意した。
ダスカはゴルシの頭のことは分からぬ。レースで一番だけを目指して生きてきた。
「ちょっとお話しましょうか? あたしのお面で好き勝手した申し開きと、あんたがブッ壊したセグウェイについて……エアグルーヴさんと一緒にみっちりと……ね?」
「あっ、ちょっと!! やめて!! ウマ娘補完計画はっ、イヤあああああああああああああああああああああ!?」
「……」
「……」
「やっぱゴルシは誘わないでおこうっと……」
「……ええまあ」
▼エアグルーヴのやる気が下がった!
※※※
「さーてと! 後はバンドのメンバーを揃えるだけだねー!」
「──ひとつ、問うていいかしらテイオー」
──嵐のようにゴールドシップは去った。
さて、この時……テイオーは一つだけ失念していた。
常にチャレンジを求め続ける彼女であるが故の盲点だったのである。
「ん? なぁーにぃ?」
「貴女言ってませんでした? 文化祭の当日はトレーナーとデートするんだーって。イチャコラを皆の前に見せつけてやるんだーって」
「……」
彼女は頭を抱え、地面に伏せる。
「ぴゃあ”あ”あ”あ”あ”-ッ!! ボクとしたことがああああ!!」
「……やっぱり……」
「どうしよう、バンドフェスを諦めるかデートを諦めるか……イヤだよーう!! 夕陽の沈む学園で、今度こそトレーナーのハートを撃ち落とすって決めてるんだよーう!!」
「貴女マヤノさんの少女漫画読み過ぎでしてよ。じゃあ今からやっぱり出場を取り消します?」
「……ヤだ」
テイオーはキッとスカーレットがゴルシを引きずっていった方を睨む。
「──宣戦布告したし……一度決めたことは、変えない。ボクは、帝王だから」
「ッ……」
恐ろしい気迫。
これが──故障した後、死ぬ思いで回復して菊花賞に出て、三冠を成し遂げたウマ娘の執念というものだった。
例え、勝負の内容が何であれど手を抜くウマ娘など居はしない。
それはテイオーとて同じだ。
(でもトレーナーとデートはしたかったよおおおおう!!)
──内心は半泣きであったが。
「……仕方ないですわね、テイオー」
「……マックイーン?」
「今回だけは協力してあげますわ。貸し一つですわよ?」
「え? マックイーン、ボクとバンド組んでくれるの!?」
「ええ。貴女はこの私が認める数少ないウマ娘ですもの」
「……マックイーンッッッ!!」
「わぁ、テイオー!?」
抱き着くテイオー。
驚いてよろめくマックイーン。
そんな二人の美しい友情を──ゴルシは目に涙を溜めて眺めていた。
「──紀州のウメってよ……酸っぺえんだな……うっうっ」
美しい友情を眺めて抜かすことがそれで良いのかゴールドシップ。
綺麗かと思ったら、やっぱりいつもの黄金船だった。
そして──
「ちょっとあんた!! 何途中で逃げてんのよ!!」
「今度という今度は抹殺してやるぞゴールドシップ……ッ!!」
「げえっ!! 追っ手ェ!?」
※※※
「──エンペラーズが良いに決まってる!!」
「ザ・エレガンスの方が良いに決まってますわ!!」
──そんな美しい友情の契りが行われた翌日の食堂にて。
テイオーとマックイーンは早速言い争っていた。
やはり問題となるのは──バンドの名前である。
互いに自己主張が強いタイプの為、一歩も譲らない。
そしてバンドの名前は最悪妥協すれば良いとして、一番妥協できないのが──楽器のチョイスだった。
「そして、ポジション!! ギターとベースはどっちなのか!!」
「ギターが良い!!」
「ギター以外有り得ませんわ!!」
「「ぐぬぬぬ……ッ!!」」
この二人、さっきまでは仲良く手を繋いで生徒会室に向かっていたのである。
それがコレである。美しい友情とは何だったのか。やはり友情とは脆く儚く切ないものなのか。
「──エンペラー・エレガンスで良くね?」
──否。否不。
救いはそこにあった。
ゴルシである。
「──何ならギターもツインギターで良くね?」
ツインギター。
ギターが二人で演奏する方式である。
確かにこれならば、自己顕示欲剥き出しの2名も納得のアイディア。
しかし、問題はテイオーとマックイーンは互いにライバル同士。
互いに優劣を付けなければ気が済まないタチであった。
それをゴルシはよく理解していたし、正直余計なおせっかいであるとは分かっていた。
だが──
「……ゴルシ?」
「ゴールドシップさん……?」
「あっ、わりーわりー、差し出がましいマネしてよ。だけどあんまり剣呑なモンだからな」
──プライドの高い二人は押し黙る。
そして──口を開いた。
「「ひょっとしなくても、天才!?」」
ゴルシはこの時、ああやっぱりコイツらレース以外だとちょっとアホかもしれん、と頭に過った。
繊細なようで意外と単純。
この二人は正反対のようで──似通っているのである。
「ゴールドシップさん、今私は機嫌が良いですわ! 貴女もバンドに入りませんこと!?」
「そうだよそうだよ! ゴルシ、こういうの得意なんでしょ!? ゴルシだし!」
「いやぁー、ゴルシちゃんが天才なのは一片の曇りもない事実で間違いないんだけどぉ」
「──ゴールドシップさああああんッ!! 罰清掃がまだ終わっていませんよーッ!!」
向こうからバクシンしてくる影。
あれは──頭バクシンの委員長にして短距離ならば誰にも負けない迅雷のスプリンター・サクラバクシンオーである。
ゴルシは今度こそ逃げられない事を悟ったのか、サムズアップ。
「わっりぃ……しばらく
そりゃそうか、と2人は納得。
まだウマンゲリヲン2号機の後始末が終わっていない。
そのままバクシンオーに引っ張られていくゴルシを眺めることしか出来ないのだった。
※※※
(──さあて、問題はドラムとベースですわね……まあでもそれは後。部屋に帰ったら、野球のお時間ですわッ!!)
──身の毛がよだつようなトレセン学園の闇をご紹介しよう。
それは執念と執着。
野球中継を楽しみにしながら自室に帰ろうとするマックイーンの後ろを着ける黒い影。
年がら年中、まるで背後霊の如く彼女についていく影がそこにはあった。
「ついてく……ついてく……」
「ふっふふふーん、ふっふっふ(かっとばせー、ユ・タ・カ)♪」
「ついてく……ついてく……」
「ふっふふふーん、ふっふっふ(かっとばせー、ユ・タ・カ)♪」
「ついてく……ついてく……」
最も──背後霊にしては可愛らしいものであったが……。
「マックイーンさんに……ついてく……」
──彼女の名は、ライスシャワー。
長い髪と小さな帽子が特徴的な小柄なウマ娘。
しかし、そんな可愛らしい容姿に反し、マックイーンとは何度もレースで競り合い、彼女の3連覇を阻止したほどの実力者である。
一方でライスシャワーはマックイーンのことを尊敬している節があり、彼女のスタミナと集中力から学びを得る為に、こうしてしょっちゅう付き纏っているのであった。
そしてその後ろに──更にもう1つの影。
「──ライスの姿を確認。きっかけになりそうな話題を検索──該当無し」
──そしてこっちはと言えばミホノブルボン。
サイボーグとも形容される鉄面の持ち主で、ライスシャワーとはライバル兼友人……のような関係である。
しかし、持ち前のコミュニケーション能力が壊滅的な所為で、イマイチ距離が引っ付かないのだった。
つまるところ、マックイーンについてくライスについてくブルボンという構図。
さしものマックイーンも既にこの奇怪な状況には気付いており。
(部屋に、入りづらいですわッッッ!!)
部屋に入るに入れないのだった。
もうすぐ楽しみにしていた野球中継だというのに。
(ん? 待ちなさいマックイーン……ベースと……ドラム……ハッ!)
「貴女方ッ!? バンドに興味はありませんッ!?」
「「ッ!?」」
※※※
「……ス、スゴいメンバーが集まっちゃったね……でも、心強いよ!」
──ギター兼ボーカル・トウカイテイオー。
「ええ、でも……生徒会やスカーレットさんに太刀打ちするなら、これくらいしなければ意味がありませんわ」
──同じくギター兼ボーカル・メジロマックイーン。
「……マックイーンさんがやるなら……ライスも……ッ!! バンドとか、やったことないけど……ッ!!」
──カスタネット担当・ライスシャワー。
「バンドというものに触れたことがないので、何から手を付ければ良いのか……ですが、勝負ならば手を抜く理由はありません。太鼓なら辛うじて叩けます」
──和太鼓担当・ミホノブルボン。
((……いや、大丈夫ッッッ!?))
……斯くして此処に、負けず嫌いと素人だらけのツインギターバンド……エンペラー・エレガンスが結成されたのだった。