テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」 作:タク@DMP
──幕間。
曲決めのためにカラオケに集う生徒会三幹部。
「「Catch my dream」や「SING MY SONG」がどうもしっくりくる……何故だ」
(ッ……会長の事だ。何かしら、語感で選んでいるのか……ッ!? 気付け、気付かねばッ……!? しかし私には分からぬ……ッ!!)
(エアグルーヴがまた苦しんでる……)
「ううむ……何故だ。分からぬ……」
「会長、ダジャレの語感で選んでいるのではないですよね?」
「……曲の選択にダジャレを持ち込むわけがないだろう、エアグルーヴ。大事な事なんだぞ? 君は普段の私の何を見ているんだ?」
(全部だよおおあああああああーッ!! でも貴女への忠誠心はこの程度で揺らがんぞあああああああーッ!!)
「しかしルドルフ。あんたの推す曲、同じアーティストのばっかりじゃないか……ファンなのか?」
「いや、そういうわけではないのだがなブライアン……一心同体……声帯と声帯が合致するような……」
それが何故なのかは結局分からないシンボリルドルフなのだった。
※※※
──そして、学園祭当日!!
「なんでだよぉーう!! あんなのズルじゃんかさーっ!!」
──バンドフェスは文化祭午前の目玉だった。
結論から言えば、メンバー二人が和太鼓とカスタネット担当という惨状から、よく持ち直したと言えるだろう。ライスはベースを、ブルボンはドラムを演奏できるようにはなっていた。
だが、バンドは非情である。
──優勝はシンボリルドルフが率いる「バンドリルドルフ」が飾ったのだ。
何と、よりによってあのテイオーがステップを踏み外すという大ポカをやらかしたのである。
だが、チームの中で誰一人として彼女のミスを責めるものは居なかった。
むしろ彼女をよく知る者ならば、同情せざるを得なかった。
「うっうっ、悔しいよう……カイチョーのチームに負けるなんてえ……」
「テイオーさん、泣いてる……」
「流石に”皇帝”は皇帝でしたわね……まさか、あんな手を使って来るなんて」
「
「いえ、
テイオーステップを狂わせた
それは──本番直前に起こった生徒会の悲劇であった。
そして、生徒会「バンドリルドルフ」の演奏が丁度、テイオー達の直前に行われたことで引き起こされたのである。
「今年は私には及ばなかったが……いずれ、彼女たちは私達を超えるバンドになるだろう」
原因──シンボリルドルフは、本当に何も知らない様子で言い放つ。
「うっうっ、そうですね……」
「何だ……泣いているのかグルーヴ、君らしくも無い。この涙は、レースでの優勝にとっておくべきだぞ?」
「はい……」
(普通ならそう言うべきなんだけどな、ルドルフよ……)
ナリタブライアンは、エアグルーヴの涙の理由を知っていた。
そして、テイオーがイマイチ実力を発揮できなかった理由も知っていた。
視線を下にずらす。
そこにあったのは──
『バンドならバンとブッ飛ばんと』
──会長直筆の達筆でダジャレが書かれたクソダサTシャツであった。
本番の直前に「当日は皆でこれを着よう。生徒会の結束を高めるために、と思って夜なべして作ってきたんだ」とのことで……結局クソダサTシャツによる参加も免れなかったのである。
皇帝が直々に夜なべして作ったというTシャツ。善意100%の籠ったクソダサTシャツ。
それを着ろと言われてエアグルーヴが断れるだろうか? 否である。
そして、テイオーがクソダサTシャツを着た彼女を見てショックと笑いの神を抑えきれるだろうか? 否である。
エアグルーヴは流石にそれで演奏中に調子を乱すことは無かった。しかしやる気は常時下がっていた。
問題は──思い出し笑いで吹いてステップをミスったテイオーであった。まさに致命的だったと言えよう。
やっぱりテイオーとエアグルーヴは泣いて良いと思う。
(あああああああああ、会長の厚意は無下には出来ない、しかし、しかし……ッ!!)
(エアグルーヴ……お前は女帝だよ……誰が何と言おうが……)
「うむ、バンドフェスは大成功だったようだな!」
▼エアグルーヴのやる気が下がった!
※※※
「テイオーさん頑張ったのに……」
「いいや、ボクが弱かったんだ……ダジャレを重んじるカイチョーのことをもっと考えて練習するべきだったんだ……」
(いやアレはもう不可抗力でしょう)
実際、マックイーンも演奏中にやらかしそうになったので気持ちは痛い程分かる。
「他でもないボク自身がポカをするなんてぇ……本当に皆ゴメン……」
「テイオーさん、謝らないで! ライス、バンドするの楽しかったから……!」
「同感です」
「ですが、文化祭でトレーナーにアピールをするという当初の計画は失敗ですわね」
「それもそうだし、優勝できなかったのも悔しいよう……折角皆にも協力してもらったのに……」
落ち込むテイオー。
この後、トレーナーと顔を合わせる事も出来ないといった様子のようだった。
「──あっ、テイオーさんッ!!」
その時。溌剌とした声が響き渡る。
テイオーの姿を見て、ぱっと明るい顔を見せたのは──黒髪のウマ娘・キタサンブラック。
テイオーに憧れる期待の後輩だ。
しかし、彼女の衣装は何時ものそれとは違う。
フリルのついたスカートに、コケティッシュに胸元を強調したメイド服姿だ。清楚さこそ失われてはいないが、彼女の抜群なスタイルが際立ち、思わずテイオーの尻尾が跳ねた。
「うへぇあ!? キタちゃん!? ど、どうしたのッ!?」
「ごめんなさいっ! テイオーさんのバンドライブ見たかったんですけど、メイド喫茶のシフトが急に変更されて出られなくって……」
(良かった……見られてなかったんだ……)
「ライス。メイド喫茶というものが何なのか分かりません。説明を願います」
「ええ!? それ、ライスに聞いちゃうの!? ど、どうしよう、ライスも分からないよぅ……」
「ああそう言えば、キタサンブラックさんのクラスの催し物は……メイド喫茶でしたわね」
「あっ、はい! これを見て下さい! 似合ってますか、テイオーさん!」
くるくる、とその場で右回り。
思わずテイオーも見惚れてしまい、頷くばかり。
昔はあんなにちっちゃかったのに、本当に立派になったなあ、とテイオーはしみじみ。
ぷるん
たゆん
「……」
テイオーは黙りこくる。
本当に、何でこんなに大きくなってしまったのだろう、とキタの一部を凝視しながら感慨と敗北感に浸っていた。
「って、衣装を見せに来たんじゃないんです! いや、衣装も見せたかったんですけど!」
「どうしたの? キタちゃん」
「実は、今日シフトに入っている子達が風邪で来れなくなっちゃって、人手不足なんです! 誰か手伝ってくれる人が居ないか探してたんですけど……」
「そ、そうなんだ──悪いけど、ボク疲れてるから頑張っ──」
「あら奇遇でしたわね! テイオー、メイドさんを前からやりたいって言って聞かなかったんですの」
「ちょっとマックイーン!?」
「そうなんですか、テイオーさん!? 嬉しいです! では早速、衣装の方を手配するので私のクラスの方に来てください!」
「えっ、あっ、ちょっ、ぴええええええ!?」
勢いよくキタに引っ張られていくテイオーに目配せするマックイーン。
全てが計算通りだ、後は任せろ、と言わんばかりに。
……実際は、たった今思いついたのであるが。
「あ、あわわ……テイオーさん、連れ去られちゃった……」
「マックイーン。何か考えが?」
「ええ。本当に世話が焼ける方ですわ」
(ステータス「後方彼女面」を確認)
と言いかけたが、すんでのところで飲み込んだブルボンだった。
※※※
「ぴえ……」
(今日は、厄日だぁ~……)
フリフリのメイド服を着て接客をするメイド喫茶。
しかし、慣れない格好だからか動くのもままならない。
一方のキタサンブラックと言えば、くるくると回りながらてきぱきと、そして明るく接客していく。
(こ、こんなところ、トレーナーに見られたらぁ、どうしよう……恥ずかしさで死んじゃうよう……)
「──はーい、一名様ごあんなーい!!」
「テイオーさん、行って行って!!」
「ええ、ボクゥ!?」
「挨拶の練習はしたでしょ、ほらっシャキッと!!」
「キタちゃんは恥ずかしくないのぉ!?」
「学園”祭”なのに、燃えない理由がありますか!」
(そう言えばお祭り大好きなんだった……)
「大丈夫! テイオーさんは可愛いから! 似合ってますよ!」
「も、もう、仕方ないなあ、キタちゃんは……」
後輩に押される形で、テイオーは教室の扉に出向き、やってきた客に「おかえりなさいませ、ご主人様~♪ ボクがご奉仕してあげるねっ♪」とキャッピキャピの声で言い放つ。
流石自意識の塊、プロの切り替え方のそれであった。
彼女の持ち味を生かした、完璧な振る舞いだったと言えよう。
問題は──
「──あれ? テイオー……?」
「ぴぇ」
──その客が、他ならぬテイオーのトレーナーだったことであるが。
「ぴぇえええええええええええええ!?」
※※※
「……何でトレーナーがこんな所にいるのさぁ。あっ、そーだ! 他の娘のメイド服見たかったんでしょ? ト、トレーナーも好きだよねぇー、あ、あははは」
上ずった声でいつものように煽ろうとするテイオー。
しかし、恥ずかしさからか全く本調子ではないことは誰の眼にも明らかだった。
勿論、トレーナー本人にも。
「マックイーンから面白い事になってるから、このクラスのメイド喫茶に行けって言われたんだよ」
(マックイーンッッッ)
腸が煮えくり返るのと、ガッツポーズを足して二で割ったような心境だった。
「……それにしても、どういう風の吹き回しだ? バンド演奏で派手にこけたかと思ったら、メイドさんとは」
「わーっ!! わーっ!! それは言わないでよう!! ……ボクの見られたくない所ばかり見るんだから」
「アレを見るなって言う方が無理あるだろ」
ぶすぅ、と完全に拗ねてしまうテイオー。
「まあ、何だ。俺は大好きだけどな」
「ぴえっ!? メイド服が!?」
「違うわ! ……いや、違くはないが。そっちも似合ってるぞ」
「似合ってないよう……」
テイオーの顔は真っ赤になっていく。
こんなのは辱めだ、一生の恥だ、と言い聞かせるように「似合ってない」と呟く。
だが一方で、自慢の耳は嬉しさを隠せていないのか機嫌が良さそうにパタパタしているのだった。
「似合ってるんだけどなあ」
「似合ってないってば! ボクは……カッコ良い所だけ、トレーナーに見ていてほしいんだい! 走りだけじゃない、いつだって凄いボクを……見ててほしいのに」
「あのなぁ、今更だろ……何年お前のトレーナーやってるんだ?」
「ぴぇ?」
「例え転んでも何事にでも挑戦するテイオーがカッコ悪い訳ないだろうが」
「……!」
「俺が保証する。テイオー……チャレンジ精神あってこそのお前だ」
2人で行った、皇帝・シンボリルドルフへの宣戦布告。
それは、ただただ彼女に憧れるだけだったテイオーが、夢へと一歩踏み出すための大きなきっかけとなった。
怪我をして、菊花賞に出られなくなりそうになった時も、トレーナーはテイオーの意思を尊重し、足が治るように最善の策を尽くした。ギリギリまで。
挑戦するテイオーの傍には、いつもトレーナーが居た。
「……えっ、えへへっ……そっかぁ、トレーナーが言うなら仕方ないよね」
「というわけで、フレンチトーストにテイオーの萌え萌え注入をお願いします」
「ちょっとぉ!? 何でそうなるのさあ!?」
「テイオーさんお願いします! 私にも!」
「キタちゃんはメイドさんだよね!?」
「テイオーさん。教えたアレですよ。早く!!」
──故に、トレーナーは更なるチャレンジをテイオーに押し付けるのだった。
ついでに便乗するキタサンブラック。
接客は何処へやら、である。
「ぴ、ぴぇっ……ど、どうしてもやらなきゃ、だめぇ……!?」
「お願いしますテイオーさん!!」
「何でキタちゃんの方が食い気味なのさぁ!?」
「頼むテイオー……故郷の妹が危篤状態で、今すぐテイオーの一番凄いのが無いとダメなんだ……」
「トレーナー一人っ子だよね!?」
しかし、周囲の視線からも皆が無敵の帝王の萌え萌えきゅーんを期待していることは明らかであった。
トウカイテイオーは──ファンサービスを決して怠らない。
故に。
「……も、萌え萌え、きゅーん……?」
照れ混じりに彼女は手でハートを作り、運ばれてきたフレンチトーストに愛情を注入したのだった。
「う”っ」
──その瞬間。一人のウマ娘の心臓が破裂した。
床に物凄い勢いで倒れ込むキタサンブラック。
駆け付ける他のウマ娘たち。
「おい! しっかりしろ……おい!」
「ありがとうございますテイオーさん……私、後数週間は祭りが無くても生きていられます」
「そーなの!?」
「ちょっと誰か!! キタちゃんが浄化されてるんだけど!!」
「担架と一緒にサトノダイヤモンドを連れて来て!! これは重傷よ!!」
「そーなの!?」
「うっ……お、推しのメイド服……仰げば尊死……」
「オイ誰だ此処にデジたん入れたヤツは!! 致命傷だぞ!!」
デジたん=アグネスデジタルの意。
「えっ、待って、何でこんな大事になってんの……!?」
「何てことだ……」
慌ててクラスメイト達に運び出されるキタサンブラックを横目に、トレーナーは恐れ戦く。
まだ、テイオーには自分が把握していなかった才能があったということに。
これが、無敵の帝王──トウカイテイオー。
URAファイナルを制して尚、止まる事を知らない優駿の実力なのである。
「一撃で死傷者を出してしまった……これが無敵の帝王の破壊力か」
──こうして、文化祭は無事に終わりを告げたのだった。
がんばれテイオー。負けるなテイオー。
少なくともキタサンブラックのハートは掴めたのではなかろうか。
「ボクもうヤだあああああ!! 恥ずかしいんだけどおおおお!!」
※※※
「あれで、良かった……のかな? テイオーさん……嬉しそう」
「ライスもメイド服を着てみますか?」
「何でぇ!? ……絶対着ないからね!?」
「それは所謂”前フリ”というものでしょうか」
「違うよ!?」
「あっ、お二方の分も用意してますわよ。メジロ家の使用人仕様ですけども」
「ええ!?」
──メイド服からは逃れられない! ウマ娘であっても!