テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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スズカ「イチャつき方って……何で私に聞くの?」

「チャージ三回、フリーエントリィィィーッ!! ノーオプションバトォウッ!!」

「ギャーッ!! カブト虫をこっちに向けるなァァァーッ!?」

 

 

 

 穏やかで静かなはずのトレセン学園の朝。しかし、頂点を目指す生徒達の目覚めは早い。

 ニワトリの鳴き声と、ゴルシの咆哮、そして朝練中に乱入されたトーセンジョーダンの悲痛な絶叫が響き渡る。

 ……この通り、今日も今日とて学園は平和なのだった。

 因みにゴルシのストッパー、もといマックイーンはまだベッドの中である。救いは無かった。

 それはさておいて、同じく朝練の合間に談笑するウマ娘たちが此処にもいた。

 

「カ、カップルのイチャつき方……?」

「──うん、スズカにはぜひ聞いておきたくってね」

 

 トウカイテイオーは、無敵の三冠ウマ娘である。

 しかし、恋愛というものには人一倍無知蒙昧で、同室のマヤノトップガンからマウントを取られる日々を送っていた。

 経験豊富な相手から学ぶのが手っ取り早いのはレースも恋愛も同じである。

 そう結論付けた彼女が向かったのは──栗毛のウマ娘、スピードの求道者・サイレンススズカだった。

 

「ごめんなさい……私、走ること以外に興味なんてないの。そもそも私……今、お付き合いしている人なんて……いないわよ? トレーナーさんは、妻帯者だし……」

「……いや、別に良いや。ボクはこの辺で」

「……? ヘンなテイオー」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その数時間後、昼休みの事である。

 

「すごいわ、スペちゃん……!」

「スズカさんのために、けっぱりました! どうですか、スペシャルウィーク特製スタミナ弁当!」

「これなら、午後も気持ちよく走れそう……! ふふっ、ありがとうスペちゃん……!」

「はい、スズカさん、あーん」

「あーん……スペちゃん、これ美味しい! どうやって作ったの!?」

「それはですね……スズカさんに、いっぱい走ってほしいなーって思いを込めて……」

「も、もう……そういうのじゃなくて……ううん、でも嬉しい」

 

 スズカの隣には、田舎出身の期待のスーパースター・スペシャルウィークが座っている。

 二人は同室ということ、そしてスペシャルウィークがスズカに憧れていることもあってか、仲は非常によろしい。

 紆余曲折あって、絆を深め合った二人はまさに無敵。

 

「そうだスペちゃん。近くに凄く綺麗な景色の見える場所を見つけたの。今度、一緒に走らない?」

「本当ですか!? 良いですね、私も行ってみたいです! 今度の週末は一緒に屋外デートですね!」

「で、デートだなんて大袈裟な……気に入ってもらえるかは分からないけど」

「ううん、スズカさんと一緒ならどこででも楽しいです!」

 

 ……とまあこの通り。

 学内からはカップルとまで称される仲の良さ。

 スペシャルウィークの手には彼女御手製のお弁当が持っており、見せつけるかのように二人でそれを仲睦まじく──

 

 

 

(──いや、イチャついてんじゃんッ!! 思いっきりッ!!)

 

 

 

 ──そして、それを眺める小さな影。

 無論、我らが無敵の帝王様であった。

 スズカとスペの仲睦まじさは当然、テイオーも知る所である。

 そのため、彼女達を参考にすればトレーナーと距離を詰めることが出来るコツが拾えるのでは? と彼女は考えたのであるが、見ての通りであった。

 敵わない。敵う訳が無い。

 

(ダメだこの二人……常時デート状態のコンディションじゃん……ッ! 隙あらばイチャついてんじゃん! あーあ、ボクだってトレーナーやカイチョーといつも引っ付いてたいのになあ)

 

「ん?」

 

 ──その時であった。

 勘の良いスズカは辺りを見回す。何かが近くにいる、とウマ娘の本能が継げている。

 明らかに怪しい茂みから、耳が二つ出ているのがスズカの眼には分かった。

 無論、それはテイオーの耳なのであるが……。

 

(ヤバッ、スズカがこっち見てる!? 気付かれた……ッ!?)

 

(……な、何かしらアレ……茂みから耳が二つ……?)

 

 ごくり、と息を呑むテイオー。

 最早こうなったら、半ばバラすつもりで──鳴いてみせる。

 

「ぱ、ぱお~ん……」

「なぁんだ……可愛いネコさんだったのね」

「ネコさーん、こっちおいでー♪ ……出てこないですね」

「もう、スペちゃん。驚かせちゃダメよ? ……そういえばスペちゃん聞いて、タイキがまたミステリーサークルを見つけたって……」

 

(え、何なのコレ!? ウソでしょマジで気付いてないの!? 正気!?)

 

 ほわほわしながら、微笑んで和むスズカとスペ。勘は良いとは書いたが、それは最早、スペと一緒に居ることで明後日の方向へ向かってしまっていた。

 再度繰り返すが、それはネコの耳などではなく隠れ方が恐ろしい程に杜撰な帝王様の御耳なのだった。

 しかし、レース以外の時、特にスペシャルウィークと一緒に居る時のスズカは、普段にも増して天然ボケが加速する。

 故に、すぐ目の前にテイオーが立っていたとしても気付かなかっただろう。

 これがまさに二人だけの世界という奴である。

 

(た、多分、アレはマジで気付いてないんだよね……だ、大丈夫なのかなあ、スズカとスペちゃん……色んな意味で……)

 

 頼むから、加速するのはレースだけにしてくれと心配になるテイオーであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「──ということがあったんだけど……」

「それは災難でしたわね、テイオー。あの二人は天然同士で上手くやってるようなものですから」

「ボクだって、トレーナーとイチャイチャねっちょりねちょねちょしたいよう……何であの二人、人前であんな……」

「その気持ちの悪い言い方止めなさいな。貴女も一応、旧家の子女なんですのよ?」

「そんなの知らないもーん」

 

 ──忘れられているかもしれないが、一応そういうことになっている。

 トレセン学園に在籍している生徒の多くは普段のテイオーの振る舞いから夢にも思っていないが、以前挨拶に行った彼女のトレーナーは家のデカさにビビったらしい。

 

「……ボクにはスズカみたいなお嬢様っぽいカンジとか、似合わないし。てかスズカ、下手したらマックイーンよりもお嬢様感すごいよ?」

「失礼な! スズカが浮世離れしているからそう見えるだけですわ!」

 

(マックイーンは俗っぽいところがあるもんねえ……にしし)

 

「でも、カップルでのイチャつき方を聞くだなんて……貴女しょっちゅうトレーナーとデートしてるのではなくて?」

「うん……ゲーセンにダンスゲームやマ〇カーしに行ったり、近場の遊園地に行くって言ったらマヤノに笑われた」

「何それ芝生えますわよ」

 

 やっぱり中身はいつまで経っても中学生のままなのだった。

 これでは付き合わされているトレーナーも、いつまで経っても子供の遊びの引率でしかないだろう、とマックイーンは嘆息。

 

「それで、フツーの……オトナのデートってどんななんだろうって……ほら、一応スズカって年上じゃん。だから何か知ってるかって思ったら、あの二人どこででもイチャついてて何の参考にもならなかった……」

「災難でしたわね……」

「結局、オトナのデートって何したらいいの?」

 

 ──オトナのデート。

 それは、レースに例えることが出来る、というのがマックイーンの持論であった。

 

(そう……恋がダービーならばデートはレース全般に例えられる……)

 

 マックイーンの想定するオトナのデート。

 それは──

 

(朝は二人で共にB級映画を見て笑い合い、昼は球場で殿方と一緒に歓声と野次を飛ばし、スイーツをたらふく食し、夜はオシャレなレストランで推し球団について語り合う……わ、私にはまだ早いけども、これが一般的なオトナのデートでしてよ!)

 

 ──流れは確かに凡そその通りであった。明後日の方向へ向いているだけで。

 幸い自己完結して思いとどまった彼女は、辛うじて無難なところから指摘をするのだった。

 

「先ずは私服を改めるところから始めるべきですわね。トレーナーに意識されるなら、女性として意識されるような身だしなみを心掛けるべきですわ。さもなきゃまたゲーセンデートですわ」

 

 当然だが、球場デートを妄想する女には言われたくはない。

 

「で、でも、そういうのってボクには合わないよう」

「あら、メイド服だって似合ったのだから、そっち方面のアプローチも似合うのではなくって?」

「ヤだよ、恥ずかしいもん……」

「セバスチャン」

「はいマックイーンお嬢様」

「何でェ!?」

 

 マックイーンが手を叩くと、すぐさま執事服姿の壮年の男性が現れる。

 

 それもそのはず、此処は休日のメジロ家。

 テイオーは彼女の実家にお邪魔させてもらっていたのだ。

 それ故──もう逃れることは出来ない。

 

「無敵の帝王であれば、如何なるファッションも着こなして当然でしょう?」

「ちょっとマックイーン!?」

「安心なさい。メジロ家の令嬢であるこの私が、貴女のデート用ファッションを見繕うと言っているのです。むしろ光栄に思うべきでは?」

「わけわかんないよーッ!? 何でこんな時だけ思い出したかのように、お嬢様キャラ出してるのさーっ!?」

 

 こうして、メジロ家総出によるテイオー改造計画が始まったのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何時合流しますの? 私も同行しますわ」

「メジロマック院」

 

 

 

 ──そして。デート当日。

 待ち合わせ場所に立っているテイオーのトレーナーを監視する二つの影。

 我らがメジロマックイーンと、それに付き纏ういつもの黄金船だ。

 

「お手並み拝見といきますわよトウカイテイオー……デートという名のレース、制してみなさいな!」

「何でお前が偉そうなんだよマックイーン」

「テイオーは私が育てましたわ。今日という日に備えて徹底的に」

 

 まーたこの娘は後方彼女面するー、とゴルシは肩を竦める。

 その手にはルービックキューブが握られており、ずっとカチャカチャ言わせながら揃えていた。

 

「で? 人様のデートを尾行するなんて、メジロ家のお嬢様も良い趣味してんな」

「勘違いしないでくださる? 私はトレセン学園のいち生徒として、二人の健全な外出を見届けているだけですわ」

「デートっつったのはマックちゃんじゃなかったっけ?」

「そして、テイオーを焚きつけた私には責務がありますわ──」

 

 ふぁさっ、と前髪を掻き分けた彼女は柱時計の前で待つトレーナーを見やる。

 

 

 

(──そう、二人がお城みたいな建物に入ろうとしたら全力で止めるという責務がッ!!)

 

 

 

 ……この通り、彼女はハーレクイン小説の読み過ぎであった。

 メジロ家の教育の是非が問われる瞬間だと言えよう。

 

(若い男女は逢瀬で熱く盛り上がった先に、行き着くのはお城みたいな建物と聞きましたわ……ッ! しかし、トレーナーと担当ウマ娘の()()()()()ないし()()()()()はご法度……ッ! 好敵手として、テイオーが道を踏み外すのは是が非でも止めなければッ! ちなみにソースは地下室にあった古い本棚の小説の数々ッ!!)

 

「まあ取り合えず耳年増のマックちゃんがメジロ家秘密の書斎に入った事はゴルシちゃんの優しさで黙っておいてやんよ」

「何で知ってますのッ!?」

「おっ、テイオーが来たぞう、黙ってないと気付かれんじゃね?」

「ぐぅっ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 一応年上の男の甲斐性として、約束の時間前には出向くものである、とテイオーのトレーナーは約束の20分前から待機していた。

 奇妙だったのは、今日のお出かけの約束をした時のテイオーの様子がいつもよりよそよそしかったことである。

 「ちょっと、オシャレしてくるから……」と言っていた。

 まあ、流石にあの私服では子供っぽすぎるといい加減気付いたのだろう、とトレーナーは勝手に納得していた。

 あれはあれで可愛らしいのだが、と彼は少し勿体なさを感じていた。

 

(……しかし、改まってデートってどうしたんだろうなあ。お出かけなんて、今更珍しいことじゃないのに──)

 

 

 

「お、お待たせ……」

 

 

 

 時計台の前で待ち合せていたトレーナーは、思わず鞄を取り落としそうになった。

 現れたのは──こげ茶の髪を下ろし、長いスカートを履いた清廉なウマ娘。

 間違いなく現れたのが「彼女」であることには違いないのだが、少し照れ気味に目を逸らしていることと相まって、奥ゆかしささえ感じさせる。

 

「……テイオー?」

「へ、ヘンだよね。メイド服といい、この服と言い……こ、こんなのボク、似合ってないのにさ……だ、だから、笑わないでよ……ね」

 

 そう言えば、とトレーナーは思い出した。

 いつもの生意気で子供のような態度で忘れがちだが──彼女もまた、名家の令嬢なのだ。

 そして、プライドが高く、自分らしさを崩さない彼女がこうしておめかしして自分の前に現れた。

 並々ならぬ覚悟があったに違いない。

 否、仮にそうであったとしてもそうでなかったとしても、目の前に佇むテイオーに抱いた率直な感想は──

 

「……可愛いし、似合ってる」

「……!」

 

 これであった。

 ずるい。ずるすぎる、とトレーナーは頭を抱える。

 だが、それだけではとどまらず──テイオーはぎゅっ、とトレーナーの手を握る。

 その顔は、赤く染まっており、不器用に照れを含んだ笑みが浮かんでいた。

 

「……行こ、早く。ボク、このままじゃ……恥ずかしくて死んじゃうよ」

「俺も、そうかもしれん」

「……ホントだ。トレーナー、すっごく顔赤いや」

「……お前もな」

「えっへへ……ボクにドキドキしてるってことだよね」

 

 ──彼女の問いかけに、頷いて肯定するしかない。

 

 

 

「デートしよう? トレーナー」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──映画を見て。

 ちょっと良い遊園地に行って。

 ちょっと良いレストランで夕食を共にして。

 普通の女の子のようなデートをして。

 そうして背伸びした帰り道。少し疲れたような顔で彼女は言った。

 

「……えへへ。慣れないことはするもんじゃないなあ。「普通」の女の子のオトナなデートって、こんな感じなんだね」

「俺は新鮮だったけどな」

「トレーナーは、こういうデートしたことなかったの?」

「スポーツバカで、こういうのとは無縁だったからな……」

「そっか」

 

 テイオーの表情は緩む。

 きっと──彼も「初めて」であったのだと知り、それを共有できたのがたまらなく嬉しかった。

 

「でも……やっぱムズ痒いや」

「そうなのか?」

「うんっ……こういうのは、やっぱり良いや。ボクには似合わないし……」

「そんな事はない」

 

 確かに不慣れだったかもしれない。

 彼女らしくなかったかもしれない。

 だがしかし──普段、誰にも弱みを見せず、理想の自分を確固として持っているテイオーが、敢えて違う姿でやってきてくれたのをトレーナーは嬉しく思っていた。

 

「俺は幸せだよ。普段の元気なテイオーも、こうやってオシャレしてくれるテイオーも……両方見られるんだからな」

「ぴッ……バ、バカだなあ、トレーナーは……そんな事言ったら……もっと、好きになっちゃうじゃんかさあ」

「……むしろ、俺には勿体ないくらいだ。俺はずっと……テイオーに夢を見させてもらっているのに、こんなに沢山、お前から貰って良いのかなって」

 

 今では、彼女が居ない日々など考えられはしない。

 それどころか、彼女はどんどん新しい顔を自分に見せてくれる。

 

「何言ってんのさ。トレーナーが居なきゃ、その夢も無かったんだよ?」

「え?」

「ボクの隣に立つのは、キミ以外考えられないよ。だから……ボクからも沢山、あげたいんだ」

 

 彼女は爪先で立ち、トレーナーの顔に手を伸ばす。

 そして、頬に──軽く口づけした。

 

 

 

「っテイオー!?」

「……だから、目を離しちゃダメだからね! 無敵のテイオー様の傍に、ずぅーっといてよね!」

 

 

 ふり絞るように、照れを隠すように。

 最後に彼女は、いつものような屈託のない笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「マックイーンッ!! しっかりしろマックイーンッ!!」

「ゴールドシップさん……私、此処で死ぬんですの? 糖分の取り過ぎで、太──」

「しっかりしろぉ……真っ当なウマ娘は他所様のデートから糖分を摂取しねえんだよ、マックイーンッ!!」

「ねえゴールドシップさん……私、どんどん、彼女に追いこされて……やっぱり、トレーナーさんの外堀を埋めるところから始めないと」

「やめろ!! 自分の恋愛にメジロ家の権力を持ち込むんじゃねえ!! ……マックイーン? ……マックイィィィーンッッッ!!」

 

 ──メジロ家令嬢、堕つ! ターフの外で!

 

 

 

▼マックイーンの賢さが5下がった!

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