テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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テイオー「幾つになっても注射は嫌」

「──主治医です」

「……」

 

 

 

 ──トウカイテイオーの顔から精気が一瞬で消え失せた。

 トレーナーに連れて来られた場所は保健室。

 何故かメジロ家の専属主治医が注射器を持って、真顔で鎮座している。

 テイオーは全てを察した。

 

「──メジロ家の主治医です」

「……ナンデオチュウシャモッテルノ?」

「──それは、お前のすっぽかした採血検査を受けさせるためだが?」

 

 逃げ出そうとするテイオーの首根っこをトレーナーは掴んだ。

 

「……テイオー、マックイーンから聞いたぞ。4月の健康診断の途中、お腹が痛いって言って休んだんだってな?」

「……」

「クラシックレース、出るんだったよな? だけど健康診断書提出しなきゃ出られないんだよ、分かるな?」

 

 テイオー、沈黙。

 言い訳の余地も情状酌量の余地も無かった。

 ウマ娘たちが一斉に受ける健康診断を抜け出したテイオー。

 理由は当然、注射が怖い、痛いの嫌だ、の一言に尽きる。

 

「健康診断を欠席した生徒は、後日病院で残りの項目を受けることになっている……だけどお前はとうとうこの日まで血液検査だけは受けなかった」

「……」

「注射の為にレースをフイにするのか?」

「……待ってよトレーナー」

 

 彼女は神妙な顔で言った。

 

「確かにクラシック三冠はボクの夢だよ。だけどね、それ以上に──注射は怖いんだ

「シリアスな顔でしょーもない事言うな!!」

「……ヤダヤダヤーダー!! 痛いのは嫌だー!! トレーナーがボクをいぢめるーッ!!」

「テイオー……無敵の帝王が注射から逃げるのか?」

「ッ……!」

「そんな体たらくで、シンボリルドルフに……皇帝に顔向け出来るのか? それとも何だ? 憧れの会長に見守って貰うか?」

「……カイチョー、に……それはそれで良いかもしれない!」

「オイコラ!!」

 

 シンボリルドルフはお前の父親でも何でもないぞ!!

 ……無いよな?

 そんな思考がトレーナーの脳裏に過るのだった。

 事実、彼女はテイオーのことになると過保護になるきらいがある故。

 

「……コホン。あいつならこう言うだろう。”健康管理を怠るとは笑止千万、レースの世界を無礼(ナメ)るなよ”と……」

「トレーナー……!」

「……分かったな?」

「そうだ、ボクが間違ってたよ。こんな情けない姿、カイチョーには見せられない」

 

 こくり、とテイオーは頷く。

 そして──

 

 

 

「──でも無敵の帝王なら注射しなくても別に大丈夫じゃ──」

「逃げる前にブスッと勢いよくやっちゃってください」

「はい」

 

 

 

 ──ぴぎぃえええええええええ

 

 

 

 保健室の窓ガラスが割れる勢いで震えた。

 練習中だったウマ娘たちが何事かと保健室に駆け付けたが、そこにはすっかりグロッキーになったテイオーが床に伏せているのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──なんてこともあったのは今も昔。

 怪我とか故障を乗り越え、トゥインクルシリーズの最後の有馬を走り切り、ドリームトロフィーに進出したテイオーからすれば、最早注射の1本や2本くらい大したことはないのであった。

 ……はずであった。

 

「さあ、お前がこないだすっぽかした採血検査をしような?」

「ヤダヤダヤダヤダーッ!! 痛いのヤだぁぁぁーっ!!」

 

 うーんこの。

 これが無敵の三冠ウマ娘の姿である。

 

「マヤノだってなぁ!! ブライアンに恥ずかしいところ見られたくないっつって大人しく受けてたんだぞ!! それをお前はどうだ、それでも帝王か!!」

「……ボクは健康だもん」

 

▼テイオーのやる気が下がった!

 

「ハイそこー!! 息を吐くようにやる気を下げないッ!!」

 

 テイオーを羽交い絞めにしながら保健室まで連れていく。

 この間検査が受けられなかったウマ娘の補欠検査があるのだ。 

 だが、そこまで彼女を連れていくのは至難の業であった。なんせウマ娘の力で暴れられるのだ、堪ったものではない。

 

「良いかテイオー!! そんなんでキタちゃんに顔向け出来るのか!?」

「出来るもん!!」

「恥を知れ恥を!!」

「恥はかき捨て、ってね」

「やかましいわ!!」

「良い!? ボクに注射を受けさせるのは、マックイーンからスイーツを取り上げるのと同じくらい酷い仕打ちなんだよ!?」

「そのマックイーンの前でスイーツバカ食いしてたよなオマエは!!」

「とにかくっ、注射の一本や二本くらい──」

 

 

 

「ねえ知ってるキタちゃん? テイオー先輩って注射が苦手なんだって噂があるんだけど」

 

 

 

 その時だった。

 ふと、そんな声が聞こえてきた。

 見ると──窓の向こうで、下級生たちが話している。

 

「えー!? 何それ本当!?」

「あんなにカッコいいのに、可愛い所もあるんだねえ、テイオー先輩って」

「むっ、テイオーさんがそんな恥ずかしい人なワケないじゃない!」

 

 他の同級生たちに反駁したのは──テイオーの大ファン筆頭、期待の新星・キタサンブラックだった。

 

「テイオーさんはいつだってカッコ良いんだよ? なのに、注射くらい怖がるわけない! だって、無敵の三冠だよ!」

「それと注射が怖いのは関係ないんじゃないかな……」

「大体、皆テイオーさんが可愛いからって、子供扱いしすぎだよ! そりゃあテイオーさんが可愛いのは揺るがない事実だけど、それ以上にカッコいいアタシの憧れの人なんだから!」

「はいはい分かったから……キタちゃんは本当にテイオー先輩が好きなんだねえ。ちなみにキタちゃんは注射平気なの?」

「え? 当たり前じゃん、幼稚園児じゃあるまいし……」

「……」

「……」

 

 黙りこくるテイオー先輩。

 眩しい。あまりにも眩しい後輩からの賞賛。そして、テイオーの耳は決してそれを聞き逃さない。

 後輩からのイメージは壊せない。

 彼女はすん、と目からハイライトを消すと──暴れるのをやめた。

 

「……じゃあねトレーナー。また生きて会えるかな」

 

 その目には──悲壮な覚悟が宿っていた。

 トレーナーはサムズアップ。

 

「おう、3分後にまたな」

 

 頷き、保健室に入っていく無敵の三冠王。

 しばらくして「やっぱりボク帰──ゲェッ、何でライアンとゴルシが居るのォ!?」「エッ、マックイーンからボクが逃げないようにって言われたッ!?」と喧騒。

 遅れて「ぴぎぃえええええええええええ」と甲高い悲鳴が響いたのだった。

 念には念を押して正解だったようである。直前で彼女が怖気つくのは計算済みだ。

 だが、さしものテイオーも筋肉自慢のライアンと、体格の良いゴルシに押さえつけられては逃げる事も敵わないはずである。

 

 

 

「あれ? 今のってテイオーさんの悲鳴……?」

「そんな訳無いでしょキタちゃん、あんなカエルの潰れたような声、テイオー先輩から出てくるわけないでしょ」

「でも似てたような……」

 

(テイオー……後輩たちの期待を背負うのも大変なんだな……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はちみーはちみーはっちみー……はぁ」

 

 

 

 よれよれになったテイオーは、そのままジャージ姿で生徒会室に向かっていた。

 曰く、ルドルフに慰めてもらうんだとか何とか。

 

(そう言えばカイチョー、健康診断の日に用事があったんだよね……カイチョーも注射したのかな)

 

(はぁ、カイチョーはすごいなあ。きっと注射なんて目じゃないんだろうなあ)

 

 そんなことを思いながら、生徒会室の大きな扉に手を掛けたその時だった。

 

 

 

「やっぱり、注射は慣れるものではないな……はあ」

「おーいルドルフー、機嫌治せよいい加減に」

 

 

 

 そんな声が、生徒会室から聞こえてくる。

 思わずテイオーは息をひそめて生徒会室の扉に耳をぺとり、と当てた。

 どうやら、ルドルフは彼女の担当トレーナーと一緒に居るようだった。

 そして意外にも──ルドルフも注射が苦手なようだった。

 思わぬ共通点が見つかり、テイオーはご満悦。笑みがこぼれる。

 

(なぁーんだぁ、カイチョーも注射苦手だったんだあ、今度このネタでからかってやろうっと)

 

「──駄目だよトレーナー君……二人っきりの時はルナと呼んでくれ」

「……いやでも膝が痺れてきて……」

「……」

「分かったよ……頑張ったね、ルナ」

 

 ──ん? ルナって誰だろう? そんな娘、トレセン学園に居たっけ?

 テイオーの耳からは断片的にしか聞き取れず、そんな考えが頭に過ったのが悲劇の始まりだった。

 

「カイチョーッ! ルナってだーれー!? ボクにも紹介してよーう!!」

 

 勢いよく生徒会室の扉を開ける。

 そこには──担当トレーナーに膝枕してもらっているシンボリルドルフの姿があった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 その場の全員は沈黙する。

 そして──ルドルフは、何事もなかったかのように落ち着き払った様子で生徒会長の席に座る。

 

「テイオー、頼まれてくれないか?」

 

 一度、咳払いした彼女は固まっているテイオーに一言。

 

「な、なに、カイチョー」

「グラスワンダーを……呼んでくれないか」

「え?」

 

 ルドルフは切なそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

「──私は逃げも隠れもしない。介錯は彼女に任せることにするよ」

「カイチョーッ!?」

 

 

 

 この後、ルドルフのトレーナーと一緒に全力で慰めた。

 ルナはシンボリルドルフの幼名。

 人前では無敵の皇帝として振る舞っていても親密な間柄の人間には、そう呼んでほしいのが乙女心。

 ……結局、皇帝・シンボリルドルフもまた、一人の少女に過ぎないのである。

 

 

 

 ▼シンボリルドルフのやる気が下がった!




「私も大食い大会頑張ったら、トレーナーにハツラツと呼んでもらえるだろうか?」
「オグリ……」
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