テイオー「大人の魅力ってなぁに?」マックイーン「ためらわないことですわ」   作:タク@DMP

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テイオー「ボク、オバケ怖くないし……」(後編)

「さあて始まりました、GⅢ肝試し杯、各ペアの様子を見ていきましょう、Aチームテイオー&トレーナーペア」

「くっくっ、テイオーは流石に震えているようだねえ」

「Bコース、マックイーン&トレーナーペア」

「速足で歩いているようだ。しかし──そんなにさっさと進んでいていいのかな?」

「と言うと?」

「各コースにはオバケ役が潜んでいる。そしてBコースの最初に隠れているのは──」

 

 

 

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!!』

 

 

 

 

 マックイーンの恐怖顔が映像に映し出される。

 トレーナーの腕を掴み、全速力でダッシュするマックイーン。

 その後ろからは──薄緑色に発光する何者かが追いかけて来るのだった。

 

「ザマー見やがれ、マックイーン!! ところで解説のタキオンさん、あの発光してるのは──」

「Bコースには、私の薬を飲んだモルモット君が潜んでいたのだよ。今のモルモット君はゲーミングカラー、凡そ人が発してはいけない16777216色の極彩を纏って輝──眩しッ!? 眩しすぎるぞモルモット君、実験は成こ、眩しッ!!」

 

 倫理観の欠片も無いタキオンの発言は置いておき、各3コースにはそれぞれオバケ役が潜んでいる。

 開幕から常識を超えて発光する怪物体──いや、怪人物に遭遇してしまったマックイーンに、観客のウマ娘たちは同情を禁じ得ない。

 

「暗闇でもここまで分かりやすく発光するとは……」

「お前……だんだん光らせるための薬になってねーか? 肉体改造何処行ったんだ?」

「これもまた研究の過程さ。一つ一つは取るに足らないことのように見えるがね。だが、これは偉大なる一歩さ。この調子なら、いずれモルモット君は自力で光合成が出来るようになるかもしれない」

「えっ、何言ってんのこの人……」

 

 流石のゴールドシップもドン引きであった。

 

「さ、さーてマックちゃんの恐怖顔がナイス撮れ高だったところで……Cコースを見ていくか!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ねえ、キタちゃん……オバケが出たら守ってね……?」

「勿論! まっかせてよ!」

 

 ぎゅっ、とダイヤはキタの袖を掴む。

 目は恐怖で潤んでいる。

 少し罪悪感が湧いてくるキタ。

 しかし──肝心のダイヤの内心はと言えば、そう悪いものではなかった。

 

(ふふっ、ちょっと怖いけど、何だかキタちゃんとデートしてるみたい……肝試しも何時ぶりかしら?)

 

 サトノダイヤモンド、策士。

 確かに肝試しは怖いが、これはこれで良し、と結論付けたのである。

 

「あ、あの、ダイヤちゃん、さっきから近くない?」

「えっ!? あ、い、いや、その……怖くって」

「そんなに引っ付かれたら動きづらいんだけど……」

「……キタちゃんは、私が引っ付くの、イヤ……?」

「そっ、そういうわけじゃ……!」

 

 むにゅ。むにゅむにゅ。

 

 自分のそれよりも大きく、たわわなそれが腕に押し付けられており、キタの目は泳いだ。

 感触が二の腕を伝ってはっきりと分かる。ジャージ越しだが、確かにはっきりと。

 スクール水着でも隠せないあの魅惑のふくらみが、確かに。

 

(あーもうッ!! 普段っから危なっかしいところはあるけど、わざとなの!? わざとなのかなあ!?)

 

(キタちゃん、目が泳いでる……どうしたのかしら?)

 

 この無自覚である。

 サトノ家のご令嬢、恐るべし。

 そんなことを知る由もないキタが、顔を俯かせたその時。

 

 

 

 ひゅ、ひゅふふふっ……

 

 

 

 ゾクゾクッ、と二人の背筋にぶつぶつが走って行った。

 何処からか響いてくる不気味な笑い声。

 周囲は暗く、懐中電灯だけが頼りだが、キタはそれを動かせなくなってしまった。

 もし、動かしたら──「何か」が見えてしまうような気がした。

 

「キ、キタちゃん、今のって……!」

「き、気の所為だよダイヤちゃん! とっとと、鳥の、笑い声だって!」

「キタちゃん錯乱してる!?」

 

 

 

 

 ひゅ、ふふふふふ……ッ!!

 

 

 

 キタは思わず振り返った。

 振り返ってしまった。

 背筋が凍る。

 路地に──赤い血だまりが出来ており、自分達の足元にまで流れてきている。

 絵具かと思ったが、ほんのり赤黒くなっている。

 

(ッ……ウソ、でしょ……!!)

 

「血、血ッ……!? 何でっ──!?」

 

 ダイヤの顔に最悪な想像が浮かぶ。

 血をしたたらせた、幽霊かゾンビか。

 それとも人を喰らうケダモノか。

 少なくとも路地を濡らす赤い液体は作り物ではない。

 肝試し陣営も想定していなかった何かが、背後にいる。

 

「ッ……ダイヤちゃん、隠れてて」

「でもっ」

「震えてるじゃんッ! でも、安心して。あたしが──守るから」

「っ……!」

 

 キタは構えを取る。

 大好きな幼馴染を守る為に。

 そして躊躇なく、懐中電灯で思わず路地を照らした──

 

「はぁ──ッ!! 来るなら……来いッ!!」

 

 

 

 ひゅふふふふふふッ……!!

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 キタとダイヤは──驚きに目を見開く。

 照らされたその先には──

 

 

 

 

「でゅ、でゅふふふふ……」

「……」

「……」

 

 

 

 幽霊の正体見たり。

 路地に這いつくばって、鼻血を流しているアグネスデジタルがビデオカメラを構えていた。

 尚、衣装は申し訳程度の真っ白な服。

 先生、何やってんすか。

 

「えーと、アグネスデジタルさん、ですよね?」

「……ぐぇへへへへ、本当もう御馳走様です、幼馴染同士の絡み、良いッ……!! あたしが守るから、ってすっごくこう……キュンでした」

 

 指ハートはちょっと時代遅れなアグネスデジタルであった。

 

「は、恥ずかしいんだけど……!?」

「あ、もう、大丈夫、これ以上は供給過多だから……これ以上は私、尊みがしんどくて死んじゃう……! ウマ娘ちゃん同士の絡みが見られるって聞いてたけど、こんなに良い役引き受けてたら残機無くなっちゃうよお!!」

「ということはデジタルさん、肝試しの幽霊役を……?」

「タキオンさんから頼まれて……で、でも、思わぬ副産物が手に入ったワケで……げほっ、えほっ、これでしばらくは何も食べなくても、生きていけるッ!!」

「あたし達はダシにされたわけか……って鼻血凄いですよ!?」

「本当にそれはゴメンなさい──でも、あたしはこれで退散するんで……尊みに頭をやられて、ウマ娘ちゃんに気付かれるなんて、デジタル一生の不覚……ッ!」

「待ってください、デジタルさん! ……私は、悪くなかったですよ?」

「ふぇ?」

 

 そう言うなリ、ダイヤはキタに抱き着く。

 

「キタちゃんのカッコいいところ、たっくさん見られましたから♪」

「ダ、ダ、ダイヤちゃんっ……!?」

 

 キラッキラの笑顔で言ってのける幼馴染に思わず顔から火が出そうになるキタ。

 そして──それがデジたんの致命傷となった。

 

 

 

「ん”ほぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 奇声を上げて、鼻血を思いっきり噴出させるアグネスデジタル。

 今度は仰け反って路地に倒れ伏せた。

 完全に昇天している。供給過多だ。

 

「もー無理ぃ……死ねる……ひひ^~ん」

「デジタルさああああん!?」

「あ、あらら……」

 

 ──肝試しCコース。

 幽霊役・アグネスデジタル、脱落。

 そして──

 

「ダイヤちゃん、宿舎の方まで運ぶよ!」

「う、うんっ!! デジタルさん、しっかりしてください!」

「ほ、星が見える……あ、あれは、死兆星?」

「しっかりしてぇ!! 気を確かに持って!! 死兆星はそういうのじゃないから!!」

 

(どうしよぉ……こんな事になっちゃうなんて……)

 

 ──デジタルにトドメを刺したのを激しく後悔したサトノダイヤモンドであった。

 キタサトコンビ、コース逆走につき脱落。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その頃、Bコースにて。

 

 

 

「はぁっ、はぁ、もう追ってきないですわね!?」

「そのようですが……」

 

 

 

 無事、極彩色に光り輝くオバケから逃げおおせたマックイーンペア。

 しかし、早速精神力が削れたからか既にマックイーンは掛かり気味。

 このままではコースを渡り切るのも難しいかもしれない。

 

「……全く、世話を焼かせますね」

「何とでも言って下さいな! 何でしたのアレ!?」

「さ、さあ……解説席にはアグネスタキオンが座っていましたし、恐らく彼女の薬を服用した担当トレーナーかと」

「……ああ、それなら納得ですわね」

 

 息を整えたマックイーンは顔を上げる。 

 見ると──目の前の道は二つに別れていた。

 

「コース、一本道だったはずですわよね?」

「どうやら迷い込んでしまったようですね、マックイーン」

「そんな!? ど、どうすれば……」

「監視ドローンの姿も見えませんし、スマホも──」

「……どうしましたの? トレーナーさん」

「……いえ、何でも」

 

 何か思い当たることがあったのか、口を噤むトレーナー。

 しかし、結局彼はマックイーンの質問に答えることはなかった。

 

「あっ、二人共……道に迷ったの?」

 

 その時だった。

 後ろから──声が聞こえてきて、マックイーンは仰け反った。

 振り返ると、そこに居たのは小さな帽子を被ったウマ娘・ライスシャワーだった。

 

「ライスさん!? 何で貴女が此処に!?」

「……こっちだと思うなあ」

「え?」

「ライス、こっちが出口に繋がってると思う」

 

 トレーナーは押し黙る。

 ライスシャワーはにこにこと笑いながら、右の道を指差している。

 マックイーンは、親しい彼女の云う事を信じようとしたのか、その方に向かおうとするが──

 

「……マップによれば、恐らく左ですよ」

「トレーナーさん!?」

「……ライスは右だと思うんだけど」

「いいえ、現代技術を侮ってはいけませんよ。左です」

「……そっか。それなら仕方ないね」

 

 そう言って、ライスは何処か諦めたようにトレーナーとマックイーンに着いていくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 分かれ道のその先には──また分かれ道。

 林道は右と左に分かたれている。

 

「また分かれ道!? トレーナーさん、本当にこっちで合ってますの!?」

「……」

「トレーナーさん!?」

 

 マックイーンの呼びかけにトレーナーは答えなかった。

 何か、恐ろしい事を考えているような──そんな表情だった。

 

「マックイーン」

「は、はい!」

「ライスさんの姿が見えませんが」

「ッ……!」

 

 彼女は思わず辺りを見回す。

 先程まで着いてきていたライスシャワーの姿が無い。

 もしかしたら一人で迷っているのかもしれない。

 

「トレーナーさん、引き返しましょう!」

「……いえ、その必要はないみたいですね」

 

 トレーナーは指を差す。

 分かれ道の岐路に、また誰かが立っている。

 ぐるぐる、ぐるぐる、と何か思案するように右回りで回転するウマ娘──サイレンススズカだ。

 

「此処は肝試しのコース。ウマ娘たちがこうして立っているのでしょう。きっと誰かが見つけてくれますよ」

「そ、そうですが……それより何故、スズカさんが此処に?」

「……二人共、道に迷ったの?」

 

 サイレンススズカは──そう問うた。

 

「え、ええ。何故か分かれ道が多くって」

「……そう。それならきっと、右に行くと良いわ」

「……いえ、その必要はありませんよ」

 

 トレーナーはマックイーンの手を引いた。

 

「トレーナーさん!?」

「……信じて下さい、マックイーン」

「で、でも、スズカさんがこっちって──」

「……早く!」

 

 強く、彼女の手を引っ張る。

 前髪に隠れて、スズカの眼は最後まで見えなかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 ──そして同じ頃、Aコースにて。

 

「とれぇぇぇなぁぁぁ」

「何で挑戦したんだよオマエは……」

「だってぇぇぇ」

 

 トレーナーに抱き着きながら震えた声で引きずられているテイオー。正直、かなり歩きづらい。

 

「やれやれ、あのゴルシが考えた肝試しだろ? どーせロクでもないに決まってる」

「そんな事言われても何の気休めにもならないよぉぉぉう」

「はー全く世話の焼ける……」

「トレーナーは怖くないの!?」

「良いかテイオー、大人になったらオバケよりも電気代や給料からしょっぴかれる税金の方が怖いんだよ」

「世知辛くて逆に怖いよぉー!!」

 

 テイオーの耳が垂れた。

 大人とは、かくも辛いものなのである。

 しかし、此処までは特に何も出ることはなく、トレーナーとテイオーは順調に歩を進めているのだった。

 が。

 

「ぴぃっ!!」

「テイオー!? どうした!?」

「な、なんか、ガサガサ音がするう……っ!」

「俺には何にも聞こえないが──っあ!」

 

 すぐ目の前の茂みにトレーナーは目を遣った。

 あからさまに揺れている。

 身構えた。

 テイオーの瞳が恐怖で揺れる。涙が湧き出てきている。

 そんな彼女の頭を大丈夫だ、と手を置きながらトレーナーは生唾を飲み込んだ。

 そして──

 

 

 

「──ゴーストバスター・マルゼン、ドロンと参上~!!」

 

 

 

 ──ずっこけそうになった。

 現れたのは清掃業者の恰好をした、超速ウマ娘・マルゼンスキーである。

 その手には掃除機が握られており、何処からどう見ても一世を風靡したあの映画のアレであった。

 

「……マルゼンスキー?」

「ナ、ナンデ、こんなところにいるのさ!? ビックリしたじゃんか! てか、何その衣装!?」

「これが今流行りのチョベリグなゴーストバスターズの衣装ってワケ。イカしてるでしょ? 私の次のレースの勝負服、これにしちゃおうかしら」

「勝負服って、オヤツみたいなノリで決められるモンだっけ!?」

「もー、冗談はよしこちゃん! マルゼンのイケイケジョークよ!」

「……このテンションにはついていけん」

「ボクも……」

 

 ちょっとセンスが古いマルゼンスキー。

 幽霊退治の衣装も、大分古い。ゴーストバスターズとか今の子は知らないんじゃないだろうか。

 

「あっ、その目はお姉さんの幽霊退治が古臭いって顔ね! 侮らないで頂戴! 今の流行りはこうでしょ──術式展開

「何でそれだけ知ってんだよ!!」

「合ってたぁ~! お姉さん嬉し☆」

「……マルゼンスキー、何しに来たの?」

「もー、テイオーちゃんったら、お姉さんがトレーナーと話してるからってヤキモチ焼いちゃダメよ? 心配しなくても取ったりしないんだから」

「取ったら怒るもん」

「あら可愛い」

「怒るよ!」

 

 ぎゅう、とテイオーがトレーナーを抱きしめる力が一段と強くなった。

 それを見て微笑ましくなるマルゼンスキー。

 普段の凛々しさから一転して、好きな相手への執着が強くなりがちなのは可愛らしい、とここにはいないルドルフのことを思い浮かべながらそう考えるのだった。

 

「うっふふ、実はルドルフに頼まれてね……ある幽霊を退治してほしいって頼まれたのよ」

「幽霊?」

「ええ。この道、実は合宿中にマンホールに落ちて死んだウマ娘や、お正月にお笑い番組を見ていて紅茶を喉に詰まらせて死んだウマ娘の亡霊が出てくるらしいわ」

「な、なんつー笑えるようで笑えん死に方……」

「なんか既に胡散臭いんだけど。で、マルゼンスキー、どんな幽霊なのさ?」

「待っててねー、資料を取り出すから」

「幽霊に資料もクソもあるのか?」

 

 そっぽを向いてカバンをゴソゴソと漁るマルゼンスキー。

 ぽんぽん、と道具やらなにやらが飛び出してくる。いちいち古臭い。

 

「……そういえばさっきの幽霊、元はトレセン学園の娘らしいのよね」

「え?」

「大事なレースの前に死んだ無念から、今でも出てくるらしいのよ」

「……マ、マルゼンスキー、じょ、冗談だよね?」

「本当よ」

 

 平坦なトーンでマルゼンスキーは言った。

 

「なあ、マルゼンスキー。まだ資料、見つからないのか?」

「……」

「マルゼンスキー?」

「……ああ、あったあった」

 

 彼女は、振り向く。

 

 

 

 

 

 

「こ

 

 

 

 

 

 

 

            んな

 

 

 

 

  の……だったか

 

 

 

            しらあ?」

 

 

 

 

 ──マルゼンスキーの顔は、無かった。

 ただただ平坦と、のっぺりとしており──目も、鼻も、口も、消え失せていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……なぁんてね! ビックリした!? お姉さんの特製メイク!」

「あ、ああ、ビックリしたよ」

 

 顔のパーツが消えたまま、マルゼンはニコニコと笑ってみせる。

 どうやら、道具を漁っているように見せかけて、顔にメイクを塗っていたらしい。

 恐ろしい技術だ。本当に顔が消えたのかと思った。

 

「それにしても──参ったな、どうするんだ?」

「そうね……王子様のキスで目覚めるんじゃない?」

「冗談はやめてくれ」

 

 オバケは居なかった。

 幽霊なんて居なかった。

 問題は──肝心のテイオーが立ったまま気絶してしまったことだろう。

 白目を剥いたまま突っ立っている。このままでは肝試しどころではない。

 マルゼンスキーの演技が迫真だったこともあり、ショックが大きかったようである。

 

「お前が前置きに作り話で盛り上がらせるから……」

「あら、作り話じゃないわよ?」

「え?」

 

 マルゼンスキーはメイクを拭ってみせると言った。

 

 

 

「──出るらしいのよ。ウマ娘の幽霊、本当に……()()()、出てくるって」

「……」

 

 

 

 トレーナーは押し黙る。

 この事はテイオーには言わないでおこう。

 彼女が夜独りで眠れなくなるだろうから。

 

(それにしてもマンホールに落ちたりお笑い番組で死んだって……)

 

 微妙に怖がって良いのか悪いのかよく分からないトレーナーであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あ、あれ、何時の間にか抜け出したみたいですわ」

「……ゴール地点、のようですね」

 

 気が付けば。

 肝試しのゴールに二人は立っていた。

 何とも言えない不思議な体験だった。

 一本道のはずなのに繰り返す分かれ道。

 そして、岐路に立っていたライスシャワーとサイレンススズカ。

 彼女達が示した方とは逆の方向を進むと、ゴールに着いた──

 

「ねえ、トレーナーさん」

「何でしょう?」

「トレーナーさんは、全て分かっていたのではないですか?」

「何の事ですか?」

 

 努めて冷静を取り繕うようにトレーナーは言った。

 彼の息は荒かった。

 

「……あっ、マックイーンさん! トレーナーさんっ!」

 

 その時。

 向こうの方から、ライスシャワーが駆け寄ってくる。

 ゴールで待機していたであろうヒシアマゾンや、エアグルーヴといった面々も見える。

 良かった、恐らくあの後自力で此処まで辿り着いたのだろう、とマックイーンは胸を撫でおろす。

 

「ライスさん! 心配したんですのよ!?」

「ふぇっ!?」

「分かれ道までは一緒に進んでいたのにいきなり居なくなるから……」

「……え? マックイーンさん、何を言っているの?」

 

 ライスシャワーは首を傾げた。

 

「ライス、最初からずっとゴール地点でマックイーンさんを待ってたよ?」

「……え? で、でも、ライスさん、コースの中で……」

「それより心配したんだよ!? ドローンが急に、故障してマックイーンさんたちだけ追えなくなって……」

「……」

「無事に帰れるかなって皆心配してたんだよ!?」

「……ねえライスさん、一つ聞いて良いかしら?」

 

 マックイーンは蒼褪めた表情で問いかけた。

 

「……スズカさん、どちらに居られるか存じてます?」

「え? 確か……今日はスペちゃんと一緒に宿舎で映画見るって言ってたけど」

「……」

「……」

 

 マックイーンとトレーナーは顔を見合わせた。

 そして、再度マックイーンはトレーナーに問いかける。

 

「……トレーナーさん。スマホのマップで本当に分かれ道の先を見つけたのですか?」

「すみません、マックイーン。あの時私はウソを一つだけつきました」

「……?」

「あの時、スマホは圏外で──ネットもマップも使えませんでした。しかし、現代日本において屋外でスマホが圏外になるということはほぼ有り得ません」

 

 マックイーンさんがパニックになっては困るので黙っていたのですが、とトレーナーは付け加えた。

 ではあの時。

 もしもトレーナーのハッタリを信じずに右に進んでいたら?

 あのライスやスズカ──のような姿をした「何か」と一緒に進んでいたら?

 

「私達が進んでいたのは本当に肝試しのコースだったのでしょうか? マックイーン」

「……じゃ、じゃあアレは──」

「……マックイーン。この事は忘れましょう。何も無かったんですよ。何も──」

 

 沈黙がその場に横たわった。

 そして、とマックイーンの身体から力が抜ける。

 

 ぱたり。

 

 軽い身体がトレーナーの元に倒れ落ちた。

 

「マックイーン!? ……大丈夫ですかマックイーン!?」

「マックイーンさん!? だ、誰か担架を持って来てえ!?」

 

(もう、肝試しなんて金輪際二度とやりませんわ……)

 

 

 

▼マックイーンの根性が20上がった!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

 

 

 

 気が付くと、朝だった。 

 チュンチュン、と外から雀の泣く声が聞こえてくる。

 テイオーは朝練に行かなければ、と身体を起き上がらせた。

 そして──昨晩の顔の無いマルゼンスキーのことを思い出し、布団に潜り込んだ。

 

「おーいテイオー」

「ピギャーッ!!」

 

 呼びかけに悲鳴で返すテイオー。

 もっと深く布団に潜り込んでしまう。

 

「お前が起きて来ないからって聞いてやってきたんだよ」

「……トレーナー?」

「昨日のマルゼンスキーは特殊メイクだ、驚かせて悪かったってさ」

「……」

 

 因みに肝試し杯で優勝したのは結局マックイーンのペアだったという。

 それを聞いて、余計にテイオーは機嫌を悪くした。

 負けたのだ。肝試しでマックイーンに。それがとても悔しかった。

 

「……ヤになっちゃうな。何でボク、こんなに子供っぽいんだろ」

「いや、マルゼンスキーのアレは俺でもビビったから」

「……」

「……出て来いよ。もうお化けも何も出てこないからさ」

「……」

 

 ドキドキ、と胸が高鳴る。

 恐怖もないまぜだ。

 トレーナーの顔がもしかしたら無いかもしれない。

 そんな事を考えると、身の毛がよだつ。

 それほどまでにショックが身に刻まれていた。

 

「……テイオー」

「ん」

 

 彼女は布団から少しだけ顔を出した。

 そして、トレーナーの顔を確かめると──その胸目掛けて飛びついた。

 

「……怖かった」

「よしよし、頑張ったな」

「怖かったよう、トレーナー……!」

 

 普段は、気丈な彼女だが、脆い部分もある。

 そんな彼女を支えていこうと考えるトレーナーだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ちぇっ、残念だよ! マックイーンに肝試しで負けるなんてさ!」

「……」

「昨日聞いたら、マックイーンだけだったみたいじゃん! 最後まで完走したのはさ!」

「……あの、テイオー」

 

 死人のような顔色でマックイーンは言った。

 

「……肝試しなんて、やるもんじゃないですわ、本当に……」

「……マックイーン?」

「……聞きます? 昨日、何があったか──」

 

 

 

▼コンディション獲得……「寝不足」

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