無法地帯とされる外郭に住まう普通の少女、エマ。
彼女がLobotomy Corporationのトラウマとして名高い深紅の試練の″深夜″の名を冠するまでの物語。

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今作品はLobotomy Corporationの二次創作です。
グダクダ、読みづらいといった点があります。
※オリキャラです。


深紅の人形劇団

『ブーッ!ブーッ!』

 

 

けたたましいアラーム音が響き、赤いランプが点滅する。

 

 

 

『職員に告ぐ、試練だ!メインルームに″深紅の深夜″が出現、これを直ちに鎮圧しろ!』

 

 

と、何処からかアナウンスが入り、バタバタと走り回るような音が次第に近づいてくる。周囲にいる″職員″とやらは私のを顔を見るなり顔色を変えて発狂し、奇声を上げながら脱兎の如く逃げ出す。

 

私はそんな彼らの反応を半ば楽しみながら口角を上げる。

 

 

 

 

ズンッ!

 

 

 

 

パニックに陥った職員の横を通りかかり、こちらをハッキリと見やり武器を地面に突き立てる新たな職員。彼の身なりや歴戦の猛者が見せる表情。

 

 

 

 

多くを語らずともわかる。彼は″強者″だ。

 

 

 

「鎮圧……する。」

「……随分手厚く歓迎してくれるんだね。」

 

 

強者には相応の舞台で踊らせてあげなければ。彼らに閉鎖的でカビついたここは似合わない。

 

 

『ジョシュア、他のチームの職員はコントロールチームで暴れている【絶頂の身震い】の鎮圧をさせる!ソイツは任せる!油断するんじゃないぞ!』

 

 

「了解、管理人。」

 

 

ジョシュア、と呼ばれたこの職員は複数の眼のような刺繍が入った黒い服に身を包み、万全の態勢で私を睨む。眼と口を持つ、まるで生きているような大剣は間違いなく上物だ。

 

 

「ジョシュア、か。呼びづらい名だね。」

「……ピエロが喋るな。」

 

 

おう、随分酷い言い草じゃないか。私だって好きでこんな姿でいるわけじゃないんだから。ちょっとしたスキンシップすら許してくれないのか。随分ストイックというか、手厳しいねえー。

 

 

「こうやって話せるのが、そんなにいけないこと?」

「気色悪い、早く消えろ。」

 

 

ジョシュアは眉ひとつ動かさず、私を蔑みの目で睨む。ま、向こうもやる気みたいだし、それじゃ一丁、暴れちゃいますか!

 

 

『深紅の深夜、脅威度はALEPH!Nameは……』

 

 

彼らの中では【深紅の深夜】という名で通っているらしい。いやまあ、ここに来たのは初めてだし名乗ってなかったけどさ。

 

 

 

『【輪廻の幕開け】……だ!!』

 

 

 

ここでもそう呼ばれていたか。ちょっと軽く地獄ってやつを見せてやりますか!

 

 

 

 

【輪廻の幕開け】

【団長の指揮の下、今宵地獄の幕が上がる。】

 

 

 

開始の合図と共にジョシュアの武器と私の武器がぶつかり合う。それは凄く、凄く懐かしい感触だった。

 

 

───────

 

 

 

 

「やめ、やめてくれぇぇっ!!」

 

 

 

荒れ果てたごみ溜めの中、悲鳴が響き渡る。″私″は男の懇願を無視し、その頭を押さえつけながら″針と糸″で縫い付けていく。なんの力もないヒト一人、殺すことは容易い。

 

 

 

男は断末魔と共に血飛沫を撒き散らし絶命する。その顔は最後まで恐怖と絶望に歪み、ひきつっていた。

 

 

 

──ここの人達は皆、いつも恐怖に支配されている。なにも彼だけではない。今も無力な人間は人智を越えた存在による暴力に蹂躙され、安全な場所を求めて躍起になっているという。

 

 

 

「....。」

 

 

 

私から言わせればなんと滑稽で、この上なく馬鹿馬鹿しい。どうせ死ぬならもっと笑えばいいのに。苦しみの中で死んでいくことをどうして皆が美学だと考えるのか理解に苦しむ。

幸せで何が悪い、外郭で暮らしていて何が悪い。どこに住んでいようと文句を言われる筋合いはないし、幸福の押し付けなど反吐が出る。

 

 

 

 

外郭に住まう人々は笑わない。ここは録な娯楽もなく、脆い彼らは生きていくことすらやっとという、本来人間が住まうべき都市からは隔絶された場所だ。

 

加えて私のような存在であったり、アブノーマリティと呼ばれる外郭にはこびる異形達に命を狙われ続け、恐れているのだ。

 

 

なんでこんな場所に人間がいるのか、無知な私は理解に苦しんだ。私もどちらかと言えば、彼らが恐れるアブノーマリティや掃除屋という存在に近かったからである。

私は彼らがもたらす脅威を知らない。かくいう私も紛れもなく普通の人間だが、掃除屋や低レベルのアブノーマリティであれば大抵どうにかなってしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

「退いて、邪魔だよ。」

『……』

 

 

今日も激しい金属音を打ち鳴らしながら、私は暗闇の中戦う。その相手は掃除屋。彼らは外郭に住まう人型の化け物の総称であり、同種である人間、特に子供を好んで食糧とする不可解な存在である。

 

 

「私が先に見つけたんだから、諦めてくれると嬉しいのだけど。」

『......』

 

 

掃除屋は特に私の言葉に反応を示さない。抗争の種は真新しい子供の死体であり、私が求めていたモノだ。

 

 

「んー、まあ仕方ないか。じゃあ後悔だけはしないよう、笑って笑って!」

 

 

軽く威嚇はしてみるが、相手も退く様子は見せない。こうなれば衝突は避けられないか。そもそも狙いが同じなもので、こうならないほうがおかしいと考えるべきでもあった。

 

 

 

私は両手に糸を絡め、縫い付けるような動作を取る。この糸と針こそ私の持つ武器であり、私の存在理念だ。

 

 

 

 

 

ヒュバッ!!

 

 

 

私の持つ糸は掃除屋の固い装備を貫通し、全身を瞬く間に縫い付けていく。その過程で物言わぬ屍と化した掃除屋の身体はドロドロの液体へ溶け、地面にシミを作った。

 

 

あーぁ、また逃した。掃除屋の身体を使えばそれなりの作品は出来たと思うんだけどな。″液体″になっちゃあそれは叶わない。

 

 

私は液体となった掃除屋から目を逸らし、まだ虫も集っていない真新しい子供の死体に手をかけた。皮膚を剥ぎ、糸を通したそれは継ぎ接ぎの人形へと姿を変える。生気のない苦悶の顔は不気味なほど爽やかな笑顔を見せるようになる。

 

 

『ケケケ、ケケ、クカカカカ』

 

 

人形がケタケタとけたたましい音を出して笑う。人間のような自然なものではないが、その愛らしい見た目や一切の悪意が感じられない純粋な笑みにどこか惹かれる。

 

 

 

 

【笑顔を追求する人形師】、エマ。それが私の名前であると同時に存在意義であるのだと……。手塩に掛けて造り出したこの子を見てそう確信した。

 

 

 

 

 

─』次の日、言い換えればNext day。

私は外郭に散らばるゴミクズを集め、適当にがっちゃんこしていた。掃除屋の連中や、外郭の人間がアブノーマリティに対抗しようと時折こんなことをしているのを目にする。

 

外郭は死と隣り合わせであると同時に、宝の山でもある。未知の技術や武器の材料が至るところに落ちているのだから。まあ多くの人間はその価値を理解しようともせず、嫌悪感を示すのだが。

 

 

そんな凡庸な価値観で外郭は生き残れやしない。ましてや非力で何の才能にも恵まれない″人間″では尚更だ。

 

 

 

いや、きっと都市に住まうことを許された人間は、才能というのは────

 

 

『ケタケタ……』

『カタカタ……』

 

 

私は考えるのをやめ、人間の死体を次々と継ぎ接ぎにして可愛らしい人形を作り上げていく。彼らは自立して動き回り、甲高い音を鳴らしながら周囲を歩き回っている。

 

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

『ケr』

『カタr』

 

 

 

バヒュッ!!

 

 

だが、私の造り出したこの人形達はハッキリ言って弱い。まともな攻撃手段を持たず、徘徊するアブノーマリティらに成す術もなく壊されていく。反撃もできぬまま、攻撃を喰らって肉塊へ変わっていく姿は痛々しい。

 

 

一応物言わぬ肉片となる瞬間に爆発する機能こそあれど、それが目の前のアブノーマリティに対して有効であったかどうかは、あのピンピンしている様子を見るに明らかだ。

 

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

 

「……!!」

 

 

向かってくる四足歩行のアブノーマリティの攻撃を避け、両手を構える。そのまま人形を壊したアブノーマリティの顔面に向かって、私は糸を飛ばして縫い付けていく。

初めはバタバタと暴れていたが、ソイツは暫くして動かなくなるとその場から消えた。

 

 

 

 

これが、私の持つ″才能″。鉄をも貫く″針と糸″が私の唯一無二の武器だ。これで頭、胸、手足を縫えば、どんな人間もアブノーマリティも、私にとっては同じ縫いぐるみでしかない。

 

 

 

……アブノーマリティも死ねばいいのに。彼らの頑強な身体は素材として申し分ないというのに、そういうのに限って私の期待を見事なまでに裏切っていく。掃除屋といい彼らといい、どうして私の神経を逆撫でするのだろう。

 

 

 

「……。」

 

 

 

けど、そうだな。そろそろ単体で戦える子をつくってやらないと。私は周囲に転がる、物言わぬ死体の塊を横目にそう考えた。

きっとこれはさっきのアブノーマリティの騒動に巻き込まれて死んだ人間なのだろう。脆すぎて見ているこっちまで悲しくなってくる。

 

 

 

今回のアブノーマリティも精々HE程度の量産型みたいな奴だった。なんて、私にはわかりもしないのに。外郭に棲むアブノーマリティを鎮圧する兎耳の集団っぽく言ってみた。

 

 

彼女らはアブノーマリティに、TETH.HE.WAWというよく分からないコードネームを付けている。初めは何のことかさっぱりだったけど、何度か見ていく内にアブノーマリティの脅威度を推し量っているだろうということがわかった。

 

 

外郭に棲むアブノーマリティの多くはTETHかHEで、兎耳の彼女らはものの数秒でそのアブノーマリティを鎮圧できる。ただでさえ強い武器を装備し、加えて複数人で部隊を組んでいる。

 

 

そしてアブノーマリティの鎮圧に完了すると、まるで最初から居なかったかのようにその場から姿を消すのだ。

勿論初めてお目にかかった時は幻覚を疑ったが、耳に残る銃声やアブノーマリティが上げる悲鳴。残された兎の死体から彼女達が実在することを確信した。

 

 

 

一度話を聞いてみたくはあるが外郭にすんでいる人達ではないだろうし、あんな武装団体が何らかの慈善団体であるとも正直思えない。目視したモノを慈悲無く蜂の巣にする彼女らと、まともに接触しコンタクトを取れるとは思っていない。

 

 

どうすれば……どうすれば彼女達から話を聞けるのだろう。私が外郭の人間である以上不可能なのかな。

 

 

私はそんな事を考えながら、複数の人間の″頭″をひとつの″胴体″に繋ぎ合わせていく。兎耳の彼女達も、生きていくのに必死な彼らだって一人じゃない。考えてみればすぐにわかることだった。

 

 

複数の人間がひとつになり、調和すること。ひとりでは出来ないことも複数いれば希望を見いだせる。彼らはそうやって生きてきた。

 

 

無論私もここまでずっと、一人でやって来たなどとぬかす程浅はかではない。

 

 

 

 

「出来た。」

 

 

 

 

そうして私はひとつの作品を造り上げた。複数の人間の身体を繋ぎ合わせた自信作。

 

 

これに名前を付けるなら、さしずめ【肉体の調和】……かな。人形には心がない。精神で繋がりを感じる彼らと、継ぎ接ぎの身体を文字通り繋ぎ合わせた私の作品。

 

 

心か身体か、鶏か卵か。どちらが先に付くものか実践といこうじゃないか。

 

 

と作品の完成に喜ぶのも束の間、複数の掃除屋が私を取り囲んでいるのに気づいた。その数は3。ちょっと目立ち過ぎたかな。私も人間だから彼らの標的になりやすい。

 

 

 

 

けど私は、ただの人間とは違う。外郭に棲み続けて実力を付けてきた。今さら掃除屋の3人程度どうにでもなる。

寧ろ良いタイミングで来てくれたとすら思っているくらいだ。私の作品をぶつける相手としては、やつらはこの上ない。

 

 

 

「……【開始の歓声】といこうじゃない。」

 

『クカカカカカ』

『ケケケケケケケケ』

 

 

でもとっておきはまだ使わない。すぐに終わってしまってはつまらないじゃないか。試してみたいことだってまだ沢山あるのに、こんなチャンスをみすみす見逃すのは先の見えない馬鹿がすることだ。

 

 

『ケーッケッケッ!』

 

『カ、カ、クカカ……!!』

 

 

私の人形から、歪な人間の悲鳴に近い音が発せられる。男とも女ともとれるその音は、まるで本当の人間のようだ。まあ一応素材は人間なのだから、違う音が出てたら驚くけど。

 

 

 

人間の悲鳴。血の臭い。この二つがあればきっと″彼ら″はやってくる。

 

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

 

 

その答えはそう、アブノーマリティだ。アブノーマリティの中には人間を補食対象にしてるものも少なくない。私の作品、【開始の歓声】にはアブノーマリティを呼び寄せる力があるようだ。

 

 

 

「……!!(マズイ)」

「……!!(アレヲダマラセロ)」

 

 

自分たちが置かれている状況に漸く気づいた掃除屋は、私の人形を睨み鋭利な武器を握りしめた。

 

 

彼らとて人間、武装しているとはいえアブノーマリティの脅威は肌身で感じているということか。

 

 

「いいね、マスク越しにもわかるよ。そのひきつった顔。」

 

「……!!」

 

 

人の表情はよくわかる。だけど外郭の人間は笑わない。人を補食するアブノーマリティみたいな面した掃除屋でさえ、その顔を綻ばせることはない。

 

 

 

決まって人間は絶望と恐怖、憤怒の表情しか見せてくれない。彼らの表情のレパートリーは少なく、そろそろ見飽きてしまいそうだ。

 

 

 

「もっと笑えばいいのにな。」

『アオオオオオオオオオッ!!』

 

 

自然とため息を漏らした私は【肉体の調和】を前へ出し、【開始の歓声】を守るように立たせる。一応これでもHE程度はあるかな?この子の身体には針を仕込んであるし、攻撃力も確保したつもりだけど。初陣だから不安だな。

 

 

 

「……!」

 

【肉体の調和】が身体を前に振り、針を突きだして掃除屋の一人を捉える。すんでのところで後退されて当たらなかったものの、筋は悪くない。

 

 

『ケケケケケケケ』

 

『クカカカカカ』

 

 

【肉体の調和】に守られた後ろで、【開始の歓声】が叫び続ける。甲高い人間の悲鳴がやんややんやと響き渡り、掃除屋の顔に焦りが窺える。

 

 

 

 

 

バチッ!!!!

 

 

『クk』

 

 

だが私は失念していた。アブノーマリティにとって私達はあくまでも敵だということに。それに気づいたのはアブノーマリティが横から爪を振りかざして【開始の歓声】の身体を抉った瞬間だ。

 

 

「…………!?」

 

 

さらにそれを理解した掃除屋が急激に距離を詰めてくる。ひとまず【肉体の調和】を盾に攻撃を防ぐ。かなり硬く造ったからか、掃除屋の武器によるダメージはかなり少ない。飛び掛かりってきた彼らを弾き飛ばし、一度後退する。

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

 

私が不利な状況にあると思い込むアブノーマリティと掃除屋が間髪いれずに追撃を入れてくる。

 

【肉体の調和】に攻撃をひたすら防いで貰いながら、私も針を飛ばして反撃する。残念ながら私が扱う人形達はどうも戦闘に不向きならしい。【開始の歓声】は論外で、【肉体の調和】も耐久こそあれど攻撃面が壊滅的すぎる。

 

 

今度はそこそこ殴り合える作品でも作ってみようかな。【肉体の調和】の耐久力は申し分ないのだから。

 

 

ドスッ

 

 

「……!!!」

 

 

掃除屋の一人の左胸に、私が放った太い針が刺さる。断末魔を発す間もなく、瞬く間に掃除屋の身体は液体に溶ける。残った二人もアブノーマリティに踏み潰され、【肉体の調和】に引き摺り回され同じ末路を辿った。

 

 

 

 

『アオオオオオオオオオッ!?』

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

 

 

掃除屋を一掃した後、今度はアブノーマリティと【肉体の調和】がぶつかり合っている。アブノーマリティの火力とうちの子の耐久、実力は拮抗しているのか中々決着はつかない。

 

 

だが流石の【肉体の調和】でもアブノーマリティの鋭利な爪に無傷とはいかず、堅牢に造った筈の皮膚が裂け始める。

 

 

『アオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

 

【肉体の調和】が悲痛な叫びを上げ、全身から真っ赤な血を滴らせながらのたうち回っていた。

 

 

……これはキツそうだね。また調整が必要か。

 

 

『オrrrrrrrrr』

 

 

ボシュ!!

 

 

そしてアブノーマリティからの攻撃を数発受けた【肉体の調和】がその場で爆ぜる。勢いよく弾け、血を吹き出しながら【開始の歓声】を数体生み出した。

 

 

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

 

アブノーマリティは突如現れた【開始の歓声】に気を取られている。あの強靭な爪で切り裂かれれば、【開始の歓声】などひとたまりもないだろう。

 

 

 

……でも時間稼ぎには十分。アブノーマリティの顔に針を刺し、いつもの要領で糸を身体の中に埋め込み縫い付けていく。

 

 

『オオオオオオオッ!!!オオオオオオオッ!!!』

 

 

 

 

 

 

アブノーマリティは苦しそうにじたばたともがいていたが、暫くすると限界を迎えたようで何時ものように肉片を残して消えた。

 

 

……私の他に結局、なにものこらなかった。アブノーマリティは不死の存在。また暫く経てば復活はするだろうが……造ったものもただ失うだけでやりきれない喪失感に苛まれる。

 

 

「……今日はもう寝よう。」

 

 

そう呟いた私は、廃墟と化した建造物の瓦礫に向かって糸を飛ばす。先端には針が付き、瓦礫を深々と突き刺した。

 

 

私はそれをワイヤー代わりに高所を陣取り、外郭で安住の地を得ている。空を飛ぶアブノーマリティや外敵は少ないから。

私はアブノーマリティを凌ぐ攻撃力や才能はあれど、一応人間の為身体は脆い。掃除屋のバール一本、まともに喰らえばただではすまないだろう。

 

 

 

一応これでも身の程は弁えてるつもりだ。こんな私が路地裏で野宿しようものなら、明日には血溜まりを作っているだろう。

 

 

 

──更にそれなりの月日が経った頃、私は新たな作品と共に外郭を″転がり回っていた″。

 

 

 

「ギャr」ブチッ

 

 

「ヤy」プチッ!!

 

 

 

 

【肉体の調和】では物足りなくなった私は、巨大な肉団子ならぬ皮団子を造ったのだ。これだけの素材を集めるのには実に苦労したが、それ故戦闘能力は【肉体の調和】を凌駕していると言えるだろう。

 

 

ちょっとした定期メンテナンスはランクが上がるにつれて数多くこなさなくちゃならないけど、ま、可愛い子程手が掛かるってやつさ。

 

 

両手に鉈を持ち、真昼から出歩いていた人間を紙屑同然に踏み潰していく。男も、女も、老いも若いも、子供も、なにもかも。

そうして外郭の地面は一瞬にして血溜まりへと変わっていった。

 

 

「悪くないねぇー。うんうん、いいよいいよ。」

 

 

この子のお陰で人形の素材調達が凄く楽になりそうだ。また新しい人形を手掛けられるかな。

 

 

 

「止まれ、女。」

 

「……はい?」

 

 

新しい人形が作れる、と気持ちを高揚させていた私を呼び止める、空気が読めない女の声。一気に不機嫌になった私はぶっきらぼうに振り向くだけ振り向いた。

 

 

「……あ?」

 

「ここ暫く、外郭を荒らし回っているようだな。″頭″の命により異分子である貴様を排除する。」

 

 

私は振り向いた事を後悔した。だってあれ、人間じゃない。どう見ても人間じゃないもん。掃除屋や″便利屋″が赤子のように見えてくるほど、それは異質だった。

 

 

頭がどうとか言ってるソイツの頭が変形していた。頭おかしいよこの人。目とか顔のパーツが死んでるけどあれで見えてるのか。

 

 

 

「逆らわないのならせめてもの慈悲。楽に死なせてやる。」

 

「私は″作品″を作ってるだけ。あんたに関係ない。」

 

「そうか。」

 

 

 

理不尽に殺される理由がない、と私が突っぱねると″彼女″は短く呟いた。あいつは間違いなく、私を殺す気でいる。

 

 

「ならその結末はわかりきっているだろう。死ね。」

 

 

「頑張って。私の作品達。」

 

「上は騒がしいのがお嫌いなのだ。さっさとくたばれ小娘。」

 

 

さて、そう息巻いたこの戦いの結果について語ろうか。結果は見るも無惨に私の敗北である。作品はぼろ切れ同然に切り捨てられ、私も抵抗はしたがまるで意味を成さなかった。

 

 

片腕を失い、心臓を潰され″一時は死んだ″と言って差し支えない。

 

 

「くっ……!!!」

 

 

全身を余すことなく切り裂かれた激痛に苦しみ悶える。これでもなお生きてる理由は、″私自身が作品になった″からだ。死体からもぎ取った仮初めの心臓を、針と糸で縫って無理矢理鼓動させている。まだ適応出来ていないのかギチギチと締め付けられるような痛みに血を吐きながら、生きているという実感が湧いていた。

 

 

それと同時に、私の苦悶の表情は笑みへと変わった。赤く染まった水溜まりは、口が大きく裂けて傷だらけになった醜悪な私の顔を映す。

 

 

 

……まるで道化だな、ハハッ。

 

 

そんな顔でも私は笑っていた。顔が裂けていたから笑っているように見えただけかもしれない。けど、人に笑うよう強要していた私が笑っていないのは、なんとなくおかしい。

 

 

いや、そもそもそんなんで人が笑うわけがない。人を楽しませるなら、自分も楽しまなくては。

 

 

私はボロボロになった身体を引き摺りながら、残った腕で自分の身体を縫い付ける。

 

血がでる。吹き出す。痛い、痛々しい。それでも溢れる表情は笑顔だけ。涙なんて溢れない。

 

 

私は心から″作品″へ生まれ変わったようだと理解した。でも私は生きている。それに例え死んでも、こうして生き返る。

 

 

 

……これは輪廻だと。私は意識を一定に保ちながら、人々が望む一種の不死の在り方を知った。

 

 

 

 

 

─────

 

『ブーッ!ブーッ!』

 

 

『収容中のアブノーマリティが脱走!』

『職員が死にました!なにやってるんですか管理人!』

 

 

この施設の異常を知らせるアラートで、私の意識が覚醒する。ちょっと昔の事を考えていたような気がするが、うちの″団員″達はまだ仕事をしてくれている。

 

 

まったく、″団長″である私がサボっていては様にならないだろうに。

 

 

私はいつの間にか肉片と化していた職員を一瞥し、観光がてらを歩き回ることにした。

 

 

「へえ、随分沢山のアブノーマリティを収容しているんだ。」

 

「な、なんなの!?こいつ……ア″」

 

 

人の顔見て「なんなの」は失礼すぎるだろ。ここの職員とおぼしき女の顔に糸を通して縫い付けた。断末魔を上げる隙もなく即死だが。

 

 

「……わあ、凄い。争ってる争ってる。」

 

 

施設内は狼と赤フードの女の子がかち合っていたり、弾丸が飛んできたと思えば壁を貫通してどっか飛んでったり、堅苦しい施設に似合わず赤ちゃんが泣いていたり、どこからか黒い列車が走ってきたりと踏んだり蹴ったりだ。

 

 

 

あ、いまなんか蛇みたいなのが走ってった。

 

 

ここ、もしかしなくても外郭よりヤバイ場所なんじゃないかな?なんなのこの施設、怖いよ。ハッキリ言って地獄絵図だよ。

 

 

 

バチッ

 

 

 

ああもうなんか停電してるし。なんかもう駄目そうだな、知らんけど(遠い目)。

 

 

『ケケケケ』

 

 

一応呼んできた【開始の歓声】はまだ生きている。良かった。この地獄絵図の中とっくにミンチにされてると思ったよ。

 

 

『ケケケr』

 

 

コオオオン!!

 

 

鐘……にしては低く重い音が鳴り響き、【開始の歓声】が砕け散った。頭を揺さぶられるような痛みが襲ってくる。

うーん、頭痛が痛い。

 

 

「あっはー。賑やかだねー。」

 

 

複数のアブノーマリティがあちこち脱走し、我が物顔で鎮座している。鉄のハンマー頭と、黒団子三兄弟と、妙に親近感の湧く大量の目がこちらを睨む赤い卵……翼の生えた蛇……

 

 

コオオオン!

 

 

見ている限り相当やべーもん収容してんな、ここ。外郭の地獄を全部つぎ込んだみたいになってる。というか最早この世の地獄なんじゃね、知らんけど。

 

 

「……」

 

「……ハロー。」

 

「Hello!!!」

 

 

どうやらこんなヤバイ施設内でまだ人間の生き残りがいたようだ。彼は白と赤の二色で纏めたシンプルな服に身を包み、何故か私を睨んでいる。

 

 

「Help!!」

 

そしてあの卵みたいなやつが人型になってた。え、なにあれ人間ですか?全身真っ赤な皮みたいな奴だけど、え?なにあれ。

 

 

「……クソッ!」

 

生き残りだった職員は手に持つ白いハンマーを振りかぶりながら周囲のアブノーマリティをバッサバッサと殴って鎮圧していく。ものの数分で床が真っ赤に染まり、静かになった。

 

 

その間私とこの赤い塊も互いにぶつかりあう。

 

 

「皮……か。私の攻撃は効いてなさそうだね。」

 

 

糠に釘……とでも言うべきだろうか。継ぎ接ぎの人形にそっくりな奴の身体は、私の武器を受けても全く効き目がないようだ。

 

 

『Good bye……』

 

でもそれは逆も然り。今の私は″不死″なのだ。物理攻撃など効きやしない。

 

 

 

そして残っているのは謎の職員と、私と、この赤い奴だけ。加えて私とこいつは互いを潰す力を持っていない。

 

 

 

「フフフ。ヒヒヒ!!!」

 

 

それがつまり何を指しているか。この幕を下ろすのはこの職員の役目であるということだ。

 

 

 

だが私が彼に対して抱いた感情は恐怖ではない。彼の強さを知りたいという好奇心と、彼を人形にしたいという独占欲だ。久しぶりにこんな純粋なピエロみたいな笑いが出た気がする。

 

 

 

 

私達の本質、ピエロとは───

 

 

 

 

 

 

 

 

───人を楽しませるために存在しているのだから。

 

 

 

「Good bye……」

 

 

ゴオオオオン!!

 

 

『....。』

 

 

結局、私は彼に負けた。とんでもない実力者だ。あの時見た異形頭と同等か、それ以上か。私は倒れた状態で、この場に残っていたもう一匹の様子を見る。

 

 

……が、その姿はなかった。どうやら他のアブノーマリティと同じく鎮圧されたらしい。なんだよアイツ、強すぎだろ。

 

 

 

『....ッ!!!』

 

 

全身がちぎれるような痛みを訴えだし、遂に限界を迎えた。ま、これでも別に死にはしないけどね。あとでまたスペアを埋め込めばいいだけだし。

 

 

 

私は最後にあの職員を睨む。ジョシュアとやらの比ではない強さに魅せられた気がする。私がアイツに勝てる日は、果たしてくるのだろうか……

 

 

 

 

 

……でもそれ以上に凄く、凄く楽しかった。やっぱりカーニバルって、最高だね!

 

 

 

『ケヒャヒャヒャヒャ!!!』

 

 

 

私は意識が途切れる直前に、道化になる前には絶対しなかったであろう下品な高笑いを響かせた。

 

 

 

 

【輪廻の幕開け】

【終わらない演目などありはしない。我々はまた、繰り返すだけなのだ。】

 

 

 

 

鎮圧完了。




深紅の深夜解説

(輪廻の幕開け)

【団長の指揮の下、今宵地獄の幕が上がる。】

 

輪廻の幕開け(ALEPH)

イベント開始のメッセージと共に、顔の一部(頬)が裂けたかのような長身の女性が1体ランダムな部門の廊下に出現し、宛もなく徘徊し始めます。

見た目は顔を露出した『爪』のような人型ですが、右腕はまるで無理矢理引き伸ばされたかのようで、歩行の際はパーツを持て余し引き摺っているかのようにも見えます。赤一色の服に身を包みますが、それが元々なのか返り血を浴びたものなのかは定かではありません。

 

 

 

彼女は職員を見つけると、複数の小道具を使って職員を攻撃します。

 

 

最もメインとなる手に持つ刃物による近接攻撃は、職員一人に30ポイントのダメージを与えます。

 

 

糸で紡がれた鋭利な針を飛ばし、職員一人に10~50ポイントのREDダメージを与えます。このダメージの振れ幅は対象と輪廻の幕開けの距離によって変わり、一般的に離れているほどダメージは小さくなります。

この攻撃を受けた職員は距離に関わらず1~2ポイントのREDダメージを持続的に受け、移動速度低下と拘束状態になります。

 

※ここで退却の指示をすると、職員が無抵抗のまま逃げられない状態になる可能性があり注意が必要です。

 

 

彼女の周囲に職員が見られない場合、輪廻の幕開けは時折足を止めて綾取りをしているかのように指を動かし始めます。

その行動後しばらくすると、深紅の夕暮【絶頂の身震い】を1体施設のランダムな場所へ出現させます。

 

しかし彼女が職員と交戦中にこの行動を行ったのを確認した場合、すぐに鎮圧作業中の職員に退却の指示を行ってください。

彼女は同上の行動を行った後、目の前の複数の職員の皮膚に針と糸を通し、力ずくで縫い合わせようと試みます。

これにより正面の対象すべてに約130ポイントの極めて高いREDダメージを与えます。複数人での鎮圧は有効ですが、一網打尽にされる可能性を持っていることを忘れないでください。

 

 

また、彼女が手を1~3回叩く様子が見えたとき、施設内に異変がないか確認してください。同じ部屋、廊下の職員全てに10ポイントのREDダメージを与え、深紅の黎明に出現する開始の歓声をランダムな廊下に出現させます。

 

 

 

 

 

輪廻の幕開け

脅威度(ALEPH)

HP4000

属性ダメージ RED

赤 免疫(0) 白 抵抗(0.8)

黒 耐性(0.5) 水 耐性(0.5)

 

輪廻の幕開けは約4000の深夜の試練の中ではやや低めのHPと普通の移動速度を持ちますが、その性質上施設が壊滅する危険性を孕む強力な試練です。

 

絶頂の身震いが施設内に存在している場合、彼女は新たに同生物を産み出すことはありません。しかし【絶頂の身震い】の存在が見られない場合は施設の状況に限らず同行動の後また新たな【絶頂の身震い】を産み出します。

 

これは即ち対処を間違えると深紅の黎明、白昼が無尽蔵に産み出され施設を埋め尽くすことを指します。まずは早急に【輪廻の幕開け】を鎮圧することを念頭に置いてください。

 

 

試練は輪廻の幕開け、またそこから産み出された絶頂の身震い、肉体の調和、開始の歓声全てを鎮圧することでメッセージと共に試練が終了します。

 

【終わらない演目などありはしない。我々はいつも繰り返すだけなのだ。】







──────


Name エマ
年齢14歳→18歳

外郭に住まう普通の少女であり、裏路地の発明品である【Needle and thread】(針と糸)を見つけ、それを器用に扱う。それは人間は勿論、掃除屋やHEクラスアブノーマリティを仕留めるレベルの発明品である。

しかし本人の実力はせいぜい武器をもった人間程度であり、爪に目を付けられた際は成す術もなく沈黙させられている。
だが周囲に転がっていた新しい死体の心臓を代わりにして生き返り、顔を傷つけられたことと紛いなりにも不死を得たことでピエロと化す。

彼女はその後、複数の作品を【深紅の試練】仕様にアレンジし彼らを解き放って暴れさせている。全ては″人々に楽しんでもらうために″。



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