地上最強のホモ(に追われる俺)   作:100000

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ホモ(一方的な決めつけ)


全ての始まり

神様転生なんて言葉があった。死ぬと違う世界に転生し、何かしらの特殊能力を手にすることができるというある意味夢のある二次元用語だ。

 

現代アニメはこれでもかというくらいにこの神様転生に溢れて1つのブームとなっていた。もっともそのブームから生まれた作品を俺は愛読していたのだが。

 

神様転生の良いところは個人的には無双要素にあると思う。主人公の思考はともかく、何かしらの能力でその世界の強敵や仕組まれた罠をことごとく粉砕していくのが見ていて楽しかった。

 

もし俺が死んだらこんな風に神様転生して無双したいなと思わずにはいられなかった。

 

もっともそれはあくまで()()()、非現実の話だ。だからこそ、それが叶わないと知っているからこそ、あれこれ妄想をしてしまうのだ。

 

色んな欲望を抱いても思う分には自由だしね!

 

昔は無双系でも熱血系ヒーローを見て、かっこいいと思っていたが歳をとると何故か知らないがこういう『あれ?俺なにかやっちゃいました?』に憧れを抱くようになってしまったのはどうしてだろう。

 

某ゴブリン系のアニメを見て、俺もゴブリンに・・・なんて考えてしまうともはや末期かもしれないけど。

 

 

 

だが、実際に神様転生というのは本当にあった。ぶっちゃけ死んでるのに興奮した。死んだはずの俺が何故かまだ意識があったから、神様がしてくれたんだ、と解釈する俺を生前の俺なら何言ってんのと訝しげな目線を投げてただろう、あるいは自己嫌悪。

 

トラックに轢かれた記憶あるので、即死間違いないのだが、奇跡的に一命を・・・なわけない。

 

これが夢ならいいが、どこか現実的な感覚が身体にあり、夢ではないという気持ちが強くなっている。

 

教えて

 

何かが聞こえた。神様の声だと直感的に分かったが当時の俺はテレビか何かのドッキリだとまだ心のどこかで思っていたのか、アナウンス的なやつだと半信半疑だった。

 

何が欲しいの?

 

神様転生だろうか、あるいはそれに似せたドッキリだろうか。ともかく俺がその時に思ったのは生前かっこいいと思ったとあるアニメのキャラクターの武術である。

 

流水岩砕拳(りゅうすいがんさいけん)!!!』

 

今にして思うが、財力とか当たり障りのないこと言っておけば()()()に絡まれることもなかったのだった。

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また勝ったァ!強い!強過ぎる!一体お前はどこまで強くなるんだ流野岩技(ながれのいわぎ)ぃ!』

 

実況のなにやら盛り上がった声を聞きながら、挑戦者()()()男を見下ろす。試合前は意気揚々としていたが、最後のクロスカウンターがよっぽど効いたのかピクリとも動かない。

 

歓声にあがる周囲を見るに今日もうまく()()()()()()()()()()()ようだ。

 

『よく勝ったな!正直ヒヤヒヤしたぞ!』

 

満面の笑みを浮かべるコーチと拳を合わせる。なんやかんやこの人ともそれなりの付き合いになってきたな。

 

『今の気持ちを聞かせてください!』

 

「今回も勝てて良かったです。次も勝てるかは分かりませんが頑張ります」

 

勝利者インタビューにいつもの文言を返す。ここで傲慢になったら万が一負けた時に色々バッシングを受けそうだし、謙虚に出ておくのが一番だ。

 

『・・・・・・』

 

喜びに湧くセコンドや俺を見に来てくれたファン、一色に染まる会場の中でたった一人俺を睨みつける人がいる。

 

なんでこのじいさんには()()()()()()

 

 

 

 

一方的な試合は誰の胸にも響かない。だから相手にもある程度手を出させてから最後はカッコよく決める。それが俺、流野岩技のボクシングだ。

 

もっともそれは今世の名前なのだが。

 

結局ドッキリでもなんでもなく普通に転生した、どういうわけかそこは現代日本。魔法もなければ剣も技もなんか見た事あるようなものしか無かった。

 

故に俺が持つ転生特典『流水岩砕拳(りゅうすいがんさいけん)』は全然使えなくなってしまった。まぁ殴ったら捕まるし。

 

それでもなんとかこれを活かそうと始めたのがボクシングだった。早速ジムに行って、練習生として参加し体力作りから始めることに。

 

そこからリングに立つことになるのだが、そこにはちょっとした()()()()があった。それはもう少し自己分析が必要だと感じる出来事だった。

 

 

 

はじめにジムのコーチがいきなり『俺が止めというまで絶対に止めるな!』と中々に厳しい指導を飛ばしてきて、おもむろに縄跳びが始まった。走り込みはしないの?と思ったが素人の俺には分からなかった。

 

はじめはみんな余裕そうだった。中には二段飛びをしてる人もいた。俺はセオリーを知らないので、周りに合わせたペースで飛ぶことにした。

 

10分、20分と何時まで経っても終わらない。

 

しかし一時間経っても脱落者が出なかった。さすがにおかしいと感じたが、なんか周りは真剣な表情になってるし俺だけ止めるに止めれなかった。

 

そこから止めがかかるまでおよそ4時間。残ったのは最初に二段飛びしてた男と俺だけになった。

 

汗をダラダラと垂らし、なんとか立っているその男を横目に俺はこれでよかったのか悩んでいた。

 

周りの、それも明らかに玄人を思わせる人達が息を切らすなかで俺だけ余裕そうに振る舞うのは・・・優秀と思われるかもしれないが悪目立ちもしそうと思ってしまうからだ。

 

『次、シャドー!2分!』

 

シャドーとはシャドーボクシングのことだろうか?しかしさっきまで馬鹿みたいな時間縄跳びしたのにもう次とは中々にスパルタなようだ。

 

ヘロヘロとした感じで皆立ち上がるが、なにやらスイッチでも入ったのか、シュシュとステップしながら拳を前に突き出し始めた。

 

『おい!お前もしろ!』

 

そんな事言われても、まず構え方すら教わってないのですが。

 

周りが一心不乱に腕を振るってるので俺も取り敢えず構える。

 

俺が構えた瞬間、周りからバカにしたような笑い声が聞こえる。しょうがないじゃん、俺は()()なんだから。

 

ふぅ、と息を吐く。そして自分の中で水の流れをイメージしながら腕を回す。

 

周りから笑い声がピタッと止む。どうやら何かに勘づいたようだ。

 

──流水岩砕拳

 

心の中で思うはあの漫画に出てくる武闘家の勇姿。高齢ながらもそれを思わせぬ身のこなしと圧倒的な『武』。そこでヒーローと呼ばれるにふさわしいあの動きを・・・再現する!

 

両腕を激流の如く苛烈な動き、軌跡を描きながら掌打を繰り出す。相手がいることを想定しそのまま素早く回り込み、同様の動きを繰り返す。

 

蹴りは使わないようにしないとな。ボクシングは足を使って攻撃しないし。

 

そこから2分間、ひたすら動き続けた。始めは自分の練習に集中していた人も同じシャドーをしていた人もその手を止めていつの間にか俺の方を見ていた、いややってよ。

 

『おい、お前。ちょっとこのサンドバッグを思いっきり殴ってみろ』

 

「え?」

 

シャドーが終わるとコーチの人が俺にそう提案してきた。サンドバッグを殴ってみろって急にどうしたんだろ?

 

不審に思ったが、断るわけにもいかず、とにかく近くにあったサンドバッグと向かい合う。改めて思うけどデカいな、それに凄い重そう。漫画でよくこれを揺らしたり、吹き飛ばしたりしてるけど冷静に考えると人間技じゃないよな。

 

そんなことを思いながら、もう一度構える。イメージ良し。取り敢えず殴る、後は野となれ山となれ!

 

「はっ!」

 

足元からチカラを練り上げるようにして正拳突きを放つ。

 

しかしその拳がサンドバッグを揺らすことはなかった。

 

「・・・やっべ」

 

そのかわりに俺の拳はサンドバッグにめり込んでいた。てかその皮を貫いて、その内側まで拳を届かせてしまっていた。

 

どうしよう、サンドバッグを壊してしまった。これっていくらすんの?皮だし、デカいしもしかしてめちゃくちゃ高額な値段請求されるのでは?

 

唐突に訪れた悲劇に顔を青くする俺にコーチは告げた。

 

 

 

『お前、明日からリングに上がれ』

 

 

 

 

 

 

 

ほんの数ヶ月前のことを思い出しながら、我ながら破天荒な人生歩み始めてるなと思う。もっとも目の前のこの老人ほどではないが。

 

「いや〜、今回も大勝だったじゃないか!流石だのぅ、岩技!」

 

そう言いながら満足気にソファでぽんぽん跳ねるこの人の名前は徳川光成(とくがわみつなり)。何を隠そうあの教科書に出てくる徳川の末裔・・・らしい。もっともこの人が抱える財力を見る限り、その話は本当だということは確かだ。聞いたところでは、世界でも五本の指に入るとか。

 

そんな、いわゆる、超富裕層が何故こんなしがないボクサーの目の前にいるのかというと、

 

「全くお主の戦いを見てると胸が踊るのぉ!この老いぼれにも楽しみがあってなによりじゃ!」

 

まぁ、金持ちの道楽に付き合ってるのである。デビューから数試合で、チャンピオンにまで上り詰めた俺を徳川さんが気に入ったのか、こうして定期的にどこから拾ってきたのか分からない凄腕ボクサーと戦わされることになっている。

 

「して?今回の挑戦者(ボクサー)はどうだったか?」

 

「・・・ふむ」

 

顎に手を当てて考える。徳川さんが言ってるのは間違いなくあのボクサーのことだ。どう、というのは強かったかどうか。結論を言うと、強かった。てか、普通に日本のてっぺんを取っても何らおかしくない実力だった。

 

「とても強かったです。恐らく次はないでしょう」

 

こう返すのが、当たり前の反応・・・と思いたい。

 

「なるほど・・・わしは()()()()()を聞いとるのじゃが?」

 

さっきまで満面の笑みだった徳川さんが急に真顔になる。この人の怖いところは変なとこでスイッチが入るところだ。俺が戦ってる時なんかは観客と一緒に絶叫してるくせに、何か返答を間違えるとこうなる。

 

「・・・・・・正直なところ、相手になるかと言われると弱かったです。ジャブはまあまあ速かったですが、結局それだけでしたし」

 

これは俺の本音だ。しかしこんな相手をバカにしたようなことこの人以外の前では言えないぞ。

 

「カッカッカッ!()()()ではそれなりの戦績を納めてる実力者だったのだがな〜!」

 

俺の返答に満足したのか、再び笑顔になる。なんで俺この人のご機嫌とってるんだ?

 

コッチ、ていうのは・・・おそらくあの闘技場のことだろう。

 

「あの男でも満足しないなら、もうこちらから出せるのは限られてくるのぉ」

 

徳川さんがそんなことを言い始め、腕を組み、うーんと悩みだす。あ、これまた変なカード組まされるやつだ。

 

「あ、俺この後記者会見あるんで行きますね!」

 

「おぉ!次のカード、期待しておれよぉ!」

 

どうやら徳川さんの中で俺がまた戦うのは決定事項らしい。くっそ、一試合、億のファイトマネー積まれたらやるしかないだろこのやろ。

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

あれから記者会見を終え、帰路に着いた俺は特に寄るところもなく、真っ直ぐ自宅であるアパートへ向かう。

 

転生者のお約束なのか、天涯孤独だった俺はそのまま施設で育ち、ちょっとしたことからプロボクサーとなった。施設に特に思い入れがあったわけでもないが、恩はあるので定期的に仕送りしてる。

 

天涯孤独なのは寂しかったが、自由というのも存外悪くなかった。

 

それに今はボクシングというやりがいもあり、富も名声もそこそこ手に入れられてる。

 

転生特典の使い方が少し違う気もするが、こんな物語もあってもいいだろう。人間は争いも求めるが平和も求める。変に火を増やすよりもここいらで落ち着くのが生きるってことだろう。

 

 

 

 

「よぉ」

 

その声がしたのは俺の真後ろからだった。

 

すぐさま振り返る。そこには俺より頭1つ抜けた高さの背に、服の上からでも分かるほどに筋肉が隆起した大男が立っていた。

 

「ッッッッ!!!」

 

一瞬でその容姿(すがた)に圧倒された。その男はもはや人としての領域を超えた人間だと直感的に理解した。そもそもオーラが今まで見てきたどのボクサーよりも禍々しく、強大だ。気のせいか周りから聞こえていた虫や鳥の音が聞こえなくなっている、まさかこの人を察知して逃げたとかないよな?

 

ではここで一つ疑問が生じる。そんな人物がなにゆえ俺に声をかけたのかだ。言っておくが、俺は裏世界に関わるようなことはしていない。それに関わってそうな人はついさっき居たが、俺は全くノータッチだ。

 

「ククク・・・」

 

何だこの男、急に笑い始めたぞ。やっぱりそっちの世界だから()()()とかやっているからだろうか。今から全力で逃げればなんとかなるか?

 

「やれやれ、徳川も面白い男を見つける・・・」

 

トクガワ?今徳川って言ったよね?え、なんでここであのじいさんが・・・?

 

 

『次のカード、期待しておれよぉ!』

 

 

え、まさかとは思うけどこれがあの人が言ってたカード・・・?

 

・・・スゥー、もしかしてなんだけどあのおじいさんってけっこう頭イカれてる?イカれてるよね?さっき試合ばかりなのにもうカード組んだの?てかここリングじゃないんだけど・・・。あの人ヤバすぎるだろ。

 

俺の中で徳川さんの株がどんどん下がっていくなか、男は口を開く。

 

「なぜお前はボクシングをしている・・・いや、()()()()()()?」

 

「え?」

 

急に問答始めたぞ、やっぱりおクスリ・・・

 

「お前が持つ技術(わざ)は本来ボクシングなんぞに使うものではないだろ?」

 

「・・・・・・」

 

これは驚いた、まさか流水岩砕拳に気づかれていたとは。テレビでは岩技流ボクシング、なんて言われてるがそもそもこの武術はボクシングではなく実践格闘に近い。

 

「答えろ、お前は何故それを使う?」

 

嘘は許さんとばかりに圧をかける男。いやいやヤバすぎる。別に嘘を言ってもバレないと思うけどなんかそれをすると危ない予感がする。

 

「え〜と、あの戦い方は生まれつきというか、気づいたらできてたっていうか・・・まぁそんな感じです」

 

嘘は言ってない。実際生まれた(転生した)時から身についていたし、それの使い方には自分で気づいた、だから嘘は言ってない。

 

「ほぅ・・・ッ!」

 

俺の言葉に目を見開き、とても興味深そうに俺を見る大男。なんだろうこの人、スゲェ舐めるように見てくるんだけど気持ち悪いな。まさかホ○とかじゃないよな?

 

「なるほど・・・・・・なッ!」

 

「は!?」

 

俺がこの男について推理しているなか、突然男は拳を握り、俺に向かって振るってきた。

 

上からの大振りだったので咄嗟でも避けることができた。だが・・・

 

「・・・嘘だろ」

 

男の拳が叩きつけられたコンクリートの地面には小さなクレーターができていた。一体どんなチカラで殴ればここまでできるのか、しかしそんなことを考えている余裕はなかった。

 

「生まれながらにしての強者、種は違えど俺とお前は同じだ」

 

男が突然訳分からんことを言い始める。どうやら本当にクスリをやってるらしい、いきなり殴りかかるわ、変なこと言うわ、とても話が通じる相手じゃない。

 

「おま、警察呼ぶぞ!」

 

「警察を呼んでも俺は止められんぞ」

 

それはその通りだ。少なくとも銃を携行していない警察官に止められるとは思えない、てか銃を携行してても抑えられるか怪しい。

 

「ちょ、ちょっと待って!せめて一つ聞かせて!」

 

「ん?」

 

もはやクロ、てかただの暴漢であることは確定だ。であるならこちらとして確認しておきたいのは一つだけ。

 

「もしかして、俺のこと(性的に)好きだったりする?」

 

ここでもし、イエスなら仮にここでやられれば、お尻の穴が文字通り広がってしまう。ノーなら正当防衛ってことでなんとかなる可能性がある。

 

・・・さぁ、どっちだ!

 

「・・・・・・あぁ、(好敵手として)大好きだ♡」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・スゥーッッッッッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一期一会という言葉がある。出会いはその時、その間だけ、だから一つの出会いを大切にしなさいという教えを説く接客の心構えみたいな言葉だ。人生出会いと別れの連続だと俺も思うが、そこから更に相手と友好関係を築ければ、出会いはその場限りではないということにもなるはずだ。

 

それに、思わぬ出会いというものがそのまま腐れ縁のようになってしまう場合もある。なんやかんや変な繋がりを持つとその関係が月日が経ってもそのままだったりする。

 

これはそんな()()()()()を持ってしまった俺の話。

 

具体的に言えば、

 

 

 

 

「助けてえええええええええ!!!」

 

「待てぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

なんか変なオッサンに目をつけられて追いかけ回されることになった俺の話。




50代 男性 コーチ
『一目見たときから分かった、コイツは化けるってな』

『結果はアンタも知ってる通りさ』

『でもよ、何がヤバいってアイツ・・・』

『アレで運動経験ないって言うんだよ、ありえねぇよな!』

『そういえば最近なんか疲れた様子だが、まぁチャンピオン特有の気疲れだろうな』

誰とイチャつく?(物理的に)

  • ゴキブリ男(範馬刃牙)
  • 愚地独歩です。(愚地独歩)
  • この渋川、若すぎるッッッ!(渋川剛気)
  • 日に30時間鍛錬する人(ジャック)
  • 当てない打撃(愚地克巳)
  • その他

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