地上最強のホモ(に追われる俺)   作:100000

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評価の伸び率が過去作一・・・嬉しい・・・嬉しい・・・。

この作品、原作の時系列とか全然気にしていないので矛盾があるかもしれません。

あとコロコロ視点が変わるのですが、それについて何かご意見がありましたら専門家の方、ご指導ご鞭撻お願いします。

次は、刃牙キャラの視点入れてみようかな〜。


詐欺そして覚醒

「おいおい、ホントにやるのか?」

 

試合が決まった翌日、既にコーチには話が来ていたのか、朝一番に声をかけられた。

 

「え?まぁ徳川さんからの要望ですし、いつものことですよ」

 

「いや、それはそうなんだが・・・う〜〜〜ん」

 

なにやら首を傾げるコーチ。なんだろう、もしかしてまたいつもの『勝てるわけない!』だろうか。最初こそビビりはしたが、なんやかんや普通に勝ててるし。いや確かに今回は相手が()()()から、コーチの警鐘は間違いではないだろう。

 

「まあまあ、今までもなんやかんやいけてましたし。今回もいけますって・・・多分」

 

「いや、まぁ、俺もお前の規格外には何度も驚かされてるからな。でもな〜・・・」

 

なにやらコーチの様子がおかしい。いつもの焦った感じではなく、悩んでいる様子だ。

 

「どうしたんですか?」

 

「お前は範馬勇次郎って知ってるか?」

 

「あ〜、なんでも地上最強らしいですね」

 

これは徳川さんの方で聞いた情報だったが、どうやらコーチは元々その人物を知っていたようだ。

 

「・・・これはあくまで都市伝説なんだがな、その男に関してこういった話があるんだよ」

 

怪談話でも始めるのか、おどろおどろしい雰囲気を醸しながら、コーチは話し始める。

 

曰く、その男、雷に撃たれても平然としていた。

 

曰く、その男、地震を己の拳ひとつで止めた。

 

曰く、その男、腕っぷしのみでアメリカすらも平伏させた。

 

「・・・・・・どうだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・ぷっ」

 

あまりの荒唐無稽な話に思わず笑ってしまった。たしかに偉人にそれぞれ人間離れした逸話が付き物だが流石にこれは人間離れ過ぎる、というより人間じゃない。

 

「コーチ、流石にその話を真に受けるのはどうかと思いますよ?」

 

「いや!万が一本当だったら、お前の相手が相当ヤバいやつだということになるぞ!」

 

「いやいやいやいや、ありえませんって!第一、そんなヤバいやつがいるなら国が放っておくわけないじゃないですか!」

 

そんな危険人物、いや動物がいるなら何かしら国の方から動きがあるはずだ。それすらないということはすなわち、その噂は眉唾物だったということだ。

 

「考え過ぎですよコーチ!」

 

「そうだな!全く、俺を心配させるんじゃねえ!」

 

二人して少年のように笑い合う。コーチも普段は鬼のように怖いが、こういった何気ない会話に気の良さが垣間見れる。そういったところが皆からの人望が厚い理由の一つかもしれない。無論、俺も含めて。

 

『ハハハハハハハハ!!!』

 

俺とコーチにつられて周りの人達も笑い出す。

 

「・・・・・・」

 

大笑いする俺たちを他所に、澪花さんは真剣な顔で何かを考えていた。

 

 

 

それから一時間もすると徳川さん直々にお迎えが来た。なんと、今回このジムにいる全員を招待するとの事だった。その言葉に沸き立つ周囲だったが、普通、招待関係なく試合なんだから、ジムの面子は問題なくね?と違和感を抱いた。だが、それも入口に停められてたクソデカリムジン車で消し飛んだ。

 

「まずは今日の試合を引き受けてくれて感謝するぞ」

 

「「ははあ〜!」」

 

徳川さんの言葉に俺もコーチもまるで昔の家来のように深々と一礼する。隣で澪花さんが冷たい目をしているが、札束ビンタをされた頭はとても簡単に下がってしまうものなのだ。

 

「そういえば、今日はどこで試合するんです?私の方は何も聞いてませんが・・・」

 

コーチが徳川さんへ恐る恐る問いかける。たしかに、俺の方でも試合を受けただけで場所は聞かされておらず、日時しか指定されていない。

 

「ホホッ、それは見てからのお楽しみじゃ♡」

 

・・・なんだろう、富豪のお茶目さを垣間見る場面なのだろうがどういう訳か凄い寒気に襲われるものがあった。徳川さん自身に感じたものではなく、その裏に潜むものに対してだが、それが異様な危機感となって俺を包む。

 

「あ、あの徳川さん!」

 

「あ、いや、えーと、せめてどこに行くか教えてもらってもいいですか?」

 

「なんじゃ!せっかちなやつじゃ!」

 

 

「・・・今から行くのは東京ドームじゃ」

 

「と、東京ドーム?」

 

東京ドームって、なぜかいつも広さの基準に使われてるあの東京ドームか。いつも野球をしてるイメージあるんだけど、あそこって格闘技もしてるんだな。・・・いや待てよ。

 

「もしかして特設リングですか?」

 

「まぁそんなものじゃ」

 

・・・やっぱり富豪の考えることはスケールが違うな。たしかにそれは着いてからのお楽しみ♡ってなるよな。

 

「金持ちってスゲェな・・・」

 

「お前の口座も似たようなもんだけどな」

 

俺の独り言にコーチがつっこむ。いや、そうなんだけどさ。試合の度に文字通り桁違いに跳ね上がっていくお金に、一周回って怖くて手つけられないんだよな、アレ。もういっその事、寄付でもしようかな。

 

そうこうしている内に東京ドームに着いた。見るのは初めてだが、ドームというだけあってとても大きい。この中に特設リングがあるのか・・・。

 

「よし、行くぞ」

 

独り言で自分に喝を入れる。いくぜ百億!

 

「おい、どこへ行くのじゃ」

 

「はい?」

 

控え室があると思われる方へ歩こうとすると徳川さんに呼び止められる。徳川さんはなぜか控え室方面ではなくエレベーターの方へ向かっていた。

 

なぜエレベーター?あ、それで上の階に行くのか、別に俺は階段でも良かったけど徳川さんの年齢的にエレベーターで行くのはむしろ当たり前か。

 

・・・・・・・・・あれ?なんかこのエレベーター下に下がってね?

 

東京ドームって地下もあったんだな、初耳だ。

 

 

 

 

あの、徳川さん・・・。

 

「これ、ボクシングですよね?」

 

────────────────────

 

 

 

 

 

『離せ!HA☆NA☆SE!うあああああああああああぁぁぁふざけるな、ふざけるな!バカヤロウ!』

 

「しかしまさか東京ドームの地下にこんな血生臭いリングがあったなんてな」

 

岩技が絶叫しながら控え室の方へ連行されていくのを横目に、観客席からリングを見下ろす。リングというより、闘技場の方が見た目的に最も近しいようだが。

 

ロープなんて物はなく、あるのは砂の地面と観客席と向こうを遮る木柵だけ。まぁ、一般的なリングと呼べるものではないな。

 

「こ、ここで岩技さんが闘うんですね」

 

「あぁ」

 

澪花ちゃんも流石にこのリング、闘技場の異様な様に呆気を取られてるようだ。それもそうだ、足元が砂で固められてると言っても、その砂の中には歯がそこら一面に散らばっている。恐らく、ここで闘った奴らが落としていったものだろう。全く、掃除ぐらいして欲しいものだが。

 

「岩技さん、大丈夫なんですか?」

 

「分からん。アイツは規格外だが、今回は向こうも恐らく規格外だ。なんせ、地上最強なんて言われてるからな」

 

地上最強とは、果たしてどれほどのものなのか。あの徳川さんですら今までのどのボクサーも『地上最強』と称さなかった。つまりは今までの相手よりも、さらに上をいくということだ。

 

「正直、私は岩技さんが心配です」

 

「まぁ、アイツなら大丈夫だろ。もうアイツは常識の範疇に収まる人間じゃないからな」

 

澪花ちゃんの言うことも分かるが、普通じゃない人間に普通を当てはめてはいけない。それはいままでの岩技の試合がそれを教えてくれた。なにより──

 

「もしかすると見られるかもな・・・岩技の本気」

 

「岩技さんの・・・・・・・・・本気」

 

入団テストから今日まで、まだ俺は流野岩技という男の本当の実力を見たことがない。本人は常日頃、自分は全力だと主張するが、俺とて格闘技経験者、それもかなり経験は積んできた。だからこそ分かってしまう、アイツが未だに本気じゃないことに。

 

恐らく、岩技は自分の中で勝手に安全装置(セーフティー)を作ってしまっているのだろう。それが無意識下であっても、ほんのちょっとした仕草、オーラのようなものにその片鱗が見え隠れしていた。

 

「本気を出したアイツが見られるならこの試合を受けた甲斐があるってもんだ」

 

「・・・まさか、それを見越して引き受けてたんですか?」

 

「当たり前だろ、俺がそんな金だけに釣られるような小物に見えるか?」

 

今まで岩技に強敵ばっかり相手させていたのは、アイツに本当の実力を発揮させるためだ。あくまであの莫大なファイトマネーは付属品だ。

 

しかし、百億か・・・もちろん俺の取り分もあるよな?岩技だけが百億全てを手に入れるなんて事はないだろう。仮に取り分が一割だったとしても十億、なんて素晴らしい額だ。引退したあとは最高級の老人ホームで豪遊の限りを過ごしたいものだな。

 

「うへ、うへへへ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・それにしてもここ、地下だというのに凄い観客の量ですね」

 

「ん?まぁたしかにな。少なくとも正規の段取り(ルート)で来たヤツらではないだろうな」

 

周りは見渡す限り空席なし。この盛況ははたして有名人である流野岩技なのか、それとも・・・・・・。

 

「・・・ッッ!?お、おいおいマジかよ・・・!」

 

「どうかしましたか?」

 

観客席を見回していると向こう側の最前列を位置取る集団に目が離せなくなる。そこには()()達がいた。

 

「ひ、人喰い愚地に達人、アンチェイン、海皇までいるのかよ・・・!!」

 

「人喰い愚地とは、独歩先生のことですか?」

 

「え、澪花ちゃんなんで知ってんの?」

 

「前にお会いしたことがあります」

 

「マジかよ・・・・・・ともかくあそこに並んでいる男達はそこらのプロじゃ話にならない猛者(もさ)ばかりだ」

 

「えぇ、そのようですね・・・」

 

同業者(ボクサー)ではないから戦ったことはないが、それでもその道を志すなら誰もが聞いたことあるビックネームばかり。

 

「そこまでレベルが高いのか、この闘技場ッ!」

 

今まで相手にしてきたボクサー達が霞んでしまうような強者達に、思わず唾を呑んでしまう。

 

『さぁ皆様おまたせしましたァ!』

 

そんな時、実況のアナウンスが聞こえ、会場のボルテージは一気に跳ね上がった。

 

 

───────────────────

 

 

 

『青龍の方角ッッッ!!!今や日本でこの男を知らないヤツはいないだろう!ボクサーでありながらボクシングをしない破天荒ッ!されどその実力、曇りなきナンバーワンッッッッ!!!』

 

『流野ォォォ岩技ィィ!!!』

 

 

叩きつけるような歓声に導かれ、リングへ足を運ぶ。拳を突き上げ、己の存在を誇示する。

 

我、ここにあり、と。

 

あれほど立派なアナウンスをされたのであれば、出てこないエンターテイナーなんていない。答えてやろう、この流野岩技がッッッ!

 

 

 

どうしよう、めっちゃ帰りたい。

 

地下にあるのは驚きだったが、一番驚いたのはリングだった。なんとボクシングでよく見るアレじゃなくて、砂地と木柵だけというなんとも簡素なものだった。

 

だが、その簡素さの中におびただしい血の匂いを感じる。足元を見れば、砂の中に人の歯のようなものが混じっている。殴られて、歯が欠ける、抜け飛ぶみたいなのはある話だけどどうしてそれを放置するのだろうか。

 

正直、試合前なのにセコンドも誰もつかない時点で色々と察していた。あとグローブはめてるのにマウスガードないのってどうなの?

 

『岩技ィ!頑張れよォ!』『岩技!』『岩技くん!』

 

コーチの聞きなれた激励や他のみんなの声が聞こえる。後ろを振り向くとどうやら入場ゲートの隣の席が我がジムのスペースだったようだ。しっかり配慮してるんだな。

 

クッソ、あんなに応援されるなら期待に応えたくなるじゃないか。しかし今回に限っては勝利を約束出来なさそうなのが辛いところだ。

 

『岩技!岩技!岩技!』

 

どうやらここでも俺の名前は有名らしい。有名なのは良いことだ。これだけのファンがいるとは、我ながら誇らしい。

 

 

『おまたせしました皆さん。今宵、我々は伝説、地上最強を目撃する!』

 

そんなアナウンスの声に会場が急に静まる。アナウンスが聞こえたから静まったのではない。

 

そこにいる、ヤバいやつが。

 

ゲートの方から伝わってくるとんでもない()。それが会場にいる人を一気に黙らせたのだ。

 

「・・・ッ」

 

自然と拳に力が入る、それは恐怖かそれとも・・・。

 

『オーガ、その名を聞いた者は例え合衆国大統領であろうと震え上がった!その内包する武力は核さえも凌駕した!』

 

──人呼んで地上最強の生物ッ!!!

 

『範馬ァ勇次郎ォォォ!!!』

 

オオオオォォォ!!!

 

会場中から歓声が沸く、それも俺の時よりさらに大きく。それが範馬勇次郎という人物の知名度を何よりも表していた。

 

ゲートから鬼が出てくる。その歩みの一歩一歩が巨大な威圧感を放ち、思わず固唾を呑んで見入ってしまう。

 

「今日という日を待ち詫びたぞ、流野岩技」

 

勇次郎さんが口を開く、その顔を獰猛な笑みに変えながら。

 

「だが、これは一体どういうことだ?」

 

そういうと勇次郎さんは自身の拳に付けているボクシンググローブを俺に突きつけてきた。

 

え、どういうことって言われても、これボクシングですよね?

 

「こんな物を付けていてはお前も本気を出せないだろう」

 

「・・・・・・え、急に何を言ってるんです?」

 

「岩技、貴様を()()()()()()()()()()()

 

俺を、解放する?

 

どういうことだ、この人は一体何を言っているんだ・・・。

 

『始めィ!!!』

 

その時、試合開始を告げるゴングが鳴る。

 

反射的にいつもの構えをしてしまったが、勇次郎さんは構えない。というより構えていない?両腕をダラりと下げた状態で構えようとしていない。

 

「来いよ・・・」

 

「ッ!」

 

構えていないのではない、この人は既に構えていたんだ。ノーガード戦法とは恐れ入る。一応、コッチはボクシング日本チャンピオン、対して向こうは何が専門か分からないけど、ボクシングに関しては素人(のはず)・・・ここは一発、今までの()()も兼ねて、キツいのをおみまいしてやる。

 

一気に駆け出す、足元は砂だったが不安定ということは無く、むしろ足の指先まで力を込められるので動きやすい。

 

「シィッ!」

 

ダッシュの勢いも含めた渾身の右ストレート。文字通り、()()だ。さぁ、どう出る?

 

「・・・え?」

 

俺が放った右ストレートはなんの障害もなく勇次郎さんの顔へ吸い込まれた。肉を打つ音に、何か硬いものを殴った感触、この世界に来てから何度も味わった人を殴った感覚だ。

 

しかし、今の感触は少しだけ違った。骨というよりは鉄骨、肉というよりはもっと密度の高い塊、おおよそ人を殴ったとは考えにくいものだった。

 

「・・・()()()()()

 

「う───」

 

腹を打たれた、その事実を認識したのはそこから吹っ飛び、地面に叩きつけられた後だった。

 

「ぐうぅぅ〜〜〜〜〜〜!!!」

 

お腹から広がっていく鈍い痛み、ジャブにしか見えなかったその一撃がこれまで受けてきたどのパンチよりも重く、速く、そして効いた。

 

想像以上とかのレベルじゃない。もはや同じ人間と戦ってるのかも怪しい・・・!

 

「これ、受けちゃ、いけないタイプの、やつかッ・・・!」

 

フラフラする足に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。少なくともこちらから動けば、カウンターでまたアレを喰らってしまう。

 

なら、こちらからカウンターを狙う!!!

 

「ふん、やはり少し力を込めづらいな」

 

そう言う勇次郎さんの手はグローブを嵌めているというのに、その拳の形がありありと分かる程に握りこまれていた。一体どれほどの握力で握ればそうなるのか、頬に嫌な汗が伝う。

 

『岩技ィ!』

 

コーチが何かを言っている、でも止まらない、()()()()()()()。逃げたいけど、俺の心がどこかでもっと戦いたいと言っている。

 

「初めてだよ、この感覚ッ!」

 

再び、勇次郎さんに向かって駆け出す。勇次郎さんは少し笑っていた、こっちは真剣なのになんて呑気なんだ。

 

急速に接近する俺に勇次郎さんは迎え撃つように左ストレートを放つ。

 

──流水岩砕拳ッッッ!

 

イメージするのは水。自分の、そして相手の攻撃を変幻自在に操り、流す。

 

勇次郎さんの拳は始めから俺の横の空間を狙っていたかのように空を切る。

 

「ハッ!!」

 

攻撃を流した後の敵は決定的な隙を晒す。勇次郎さんの無防備な顎を思いっきりアッパーでかち上げる。

 

──硬ッ!?

 

しかし、勇次郎さんの顎は上がらない。本当に固定されているかのように頑強だ。

 

「シッ」

 

そんな声が勇次郎さんから漏れる。それと同時に、右の拳は轟速でこちらに迫る。だけど流水岩砕拳は鉄壁の武、至近距離だろうが遠距離からだろうが流す技だ。

 

右左から連続で拳を繰り出す勇次郎さんの攻撃を全て流す。一撃でも喰らえば無事じゃ済まない、極限まで集中力を高め、一挙一動見逃さず対処する。

 

「・・・どうだ、岩技。全力というものは楽しいだろう」

 

「・・・ッ!」

 

唐突に声をかけてくる勇次郎さん。こっちはあんたのラッシュを捌くのに全神経を注いでいるというのに、なんという余裕だ。

 

「だが、まだ()()ではないな」

 

その言葉と共に放たれたのは左腕からの薙ぎ払い。それをこちらは両腕で流そうとするが、その一撃だけは重さが違い、流せはしたが腕ごと持っていかれてしまう。

 

「チィッ・・・!」

 

持っていかれた腕の力のベクトルに逆らわず、そのまま体を回転させ、威力を逃がすついでに距離をとる。

 

「もしかして、まだ本気じゃない?」

 

「それはお前もだろう」

 

それはない。少なくとも、今の俺は間違いなく全力だ。もっとも、それ以上に()()()()()が起こっており、俺はもうそれで嫌な汗が止まらなくなっている。

 

『おぉ・・・!!』

 

どうやら周りのギャラリーは気づいたらしい。

 

俺の足元に落ちているのは()()()()()()。両拳のグローブを見ると勇次郎さんの拳を流した部分が抉れている。

 

流水岩砕拳で流しきれなかった、その余波だけでこの有様。今のをマトモにくらったらと思うと想像もしたくない。

 

「こんな物、この闘争には必要ないだろ?」

 

気を使ってやったんだと言わんばかりに傲慢に言い放つ勇次郎さん。本来なら一旦試合を止めて、グローブを交換するくらいはするのだが・・・。

 

『おほぉぉおおおおおお!!!!!』

 

ハイになっている徳川さんを見るにそれは無理らしい。審判もリング内にいないし、いよいよボクシングさせる気がなくなってきたらしい。

 

「・・・ッ」

 

それでもせめてもの抵抗でボクシングのファイティングポーズをとる。

 

「ケッ、お膳立てがまだまだ足りんようだなッ!」

 

そう言う勇次郎さんがついに構える。それは構えというより、獣のようだった。両腕を水平より少し上にあげて、広げる。本人は闘争と言っているが、相対しているこっちとしては、狩りの獲物になっているような気分になる。

 

ビキビキと勇次郎さんの腕の筋肉が僅かに膨れ上がったように見える。浮き上がる血管がそこに込められた尋常ではないパワーを示している。

 

だけど、大丈夫。

 

「流水岩砕拳に流せないものはないッ!」

 

俺にはこの最強の武があるのだから。

 

「ハァッッッ!!!!」

 

勇次郎さんの右ストレート、いくぞッ!!!

 

「流水岩───」

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

世の中、上には上がいる。それは俺がコーチとしてだけでなく、現役のボクサーだった頃から何度も思い知らされてきたこの世の理だ。コイツより上はいないと思っても、そいつも次の日にはリングに伏していることなんぞ、よくあることだった。

 

だが、突如として現れたこの男、流野岩技は他とは一線を画す強さだった。プロジムの中でも上のクラスに位置する我がジムにやってきた初心者(ルーキー)。しかし、常軌を逸した反射神経、スピードに加え、得体の知れない武を携えたこいつは瞬く間に日本ボクシングの頂点に立ち、しかも数々の伝説的ボクサーですら寄せ付けなかった。

 

流野岩技を上回る人間なぞいない・・・そう思っていた。

 

目の前でぐったりと力なく座る岩技を見下ろす。たった今、あの男の一撃でリングを仕切る木柵まで吹っ飛び、めり込んだ岩技はとても無事に見えない。

 

『はは、これやべぇな〜』

 

「岩技、降参するんだ!あれはお前が戦っていい相手じゃなかった!」

 

岩技に降参するように声をかける。岩技も尋常ではない人間だが、相手はそれを上回る・・・もはや、人と呼べるレベルではなかった。

 

このままやり合えば岩技は間違いなく殺される。そう確信したからこそ、降参の意志を示すタオルを投げ入れようとする。

 

だが、それを止めたのは他でもない

 

『ちょっと待ってくださいコーチ』

 

岩技だった。

 

「おい、何を言ってるんだ・・・。流石に今回はスケールが違い過ぎるぞ!人が獣に勝てるはずがない!」

 

『獣というか怪物なんですけどね、アレ』

 

「分かってるなら・・・。・・・ッ!」

 

その時に岩技が俺を見上げた顔は・・・いままでに見た事がないほど、獰猛だった。ワクワクが抑えきれない子どものようで、誰が相手でも食らいつく獣のようで・・・・・・。

 

『なんでか、分かんないんですけど・・・凄い楽しいんです』

 

「岩技、お前・・・」

 

今まで俺に見せなかった、心から闘いを楽しんでいる顔。そんな顔を見せられたら、何も言えねぇじゃねぇか。

 

『すいません、なんか、こんなになってますけど、今凄い調子がいいんですよ』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いってこいよ」

 

『コーチ・・・』

 

「いってこい岩技!そこまで言うならお前の本気を見せてこい!」

 

まだ闘いたいだって?馬鹿野郎お前・・・

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

─────────────────────

 

 

 

 

「さて、コーチにそう言った手前、しっかり闘わないとな」

 

さっきの一撃、俺は勇次郎さんの拳を流せずにモロにくらってしまった。おかげで意識は一瞬飛んでいったが戦闘はまだ続行できる。

 

()()()()()()()、リングの中央へ・・・は行かずに、徳川さんが居る上座の方へ歩いていく。

 

「徳川さん!」

 

勇次郎さんの攻撃に削られ、ボロボロになったグローブを徳川さんに投げ渡す。

 

「ボクシング、一旦やめてもいいですか!?」

 

できる限り大きな声で徳川さんに伝わるように声を出す。俺の言葉に、観客は一瞬どよめいたが。

 

『ッッッ!!!当たり前じゃッ!おぬしの本気、しかとこの目に刻ませてもらうぞ!』

 

徳川さんの鶴の一声プラス満面の笑みに、より一層の盛り上がりを見せた。

 

「ようやく、だな」

 

勇次郎さんの声がする。見れば既にグローブを外しており、いつでも再開できるようだ。本当は審判の止めがない以上、追い打ちをかけてもよかったのにわざわざ待っていてくれたようだ。

 

「えぇ、ようやく()()です」

 

自分ではついさっきまで本気だったのだが、周りの人にはそうは見えてないらしい。いつもなら気のせいと言うのだが、今回ばかりはそうでもないようだ。

 

体が軽い、思考も冴え渡っている、なにより今凄い心が燃えている・・・。

 

「・・・」

 

目を閉じ、意識を内側に集中させる。今までの流水岩砕拳は、もうあの人には通用しない。なら、俺がやるべきことは一つ、レベルアップだ。

 

イメージしろ、あの武術を鮮明に。水面のように静かで、清流のように滑らかで、それでいて岩をも砕く強さを持つあの技術(わざ)を。

 

いや、イメージするだけじゃダメだ。本気で、本気でなりきるんだ。水に、川に、己を変身させるんだ。

 

「いくぞォ、岩技ィ!!!」

 

流石に待ちきれなかったのか、勇次郎さんが飛び込んでくる。

 

「スゥッー」

 

息を吸う、構える。その動作だけでも自分の身体を何かが巡っていくのが分かった。

 

──流水岩砕拳。

 

先程は流せなかった勇次郎さんの右ストレート。それに合わせるように左ハイキックを放つ。

 

そのキックは勇次郎さんの右拳を捉え、勇次郎さんの右ストレートは・・・

 

そのまま軌道を変え、勇次郎さんの顔面へ直撃した。




「本部さん、あんたはあの拳法知ってるかね?」

「・・・残念ながら私はあの系統の武術は見たことがありません。しかし、とても理にかなった武術と言えます。渋川先生の合気同様、相手の力をそのまま扱う技術、もっとも渋川先生の柔術とはまた違ったやり方ですが・・・。相手の力を利用するのではなく、相手の攻撃そのものに対して作用する。我々武術家もあのように攻撃を()()()ことはできますが、それはタイミング、呼吸、体捌き、手捌き、それら全てが一致してこそできるものですが、あの青年は手、手首、果てには足一本でそれを可能としています」

「ほほぅ、ならあの男の技術(わざ)はワシらより上か?」

「もしくは我々武術家が歩んできた道と全く別系統で発展してきた武術であるかもしれません」

「それは興味深い・・・」

「えぇ、全くです」

「「・・・・・・・・・」」

「「闘ってみてぇなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」

誰とイチャつく?(物理的に)

  • 元祖ハーレム(ピクル)
  • かませ犬なわけないだろ!(オリバ)
  • 噛道!(`・ω・´)キリッ(ジャック)
  • その他(鎬兄弟とか相撲とか)

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