地上最強のホモ(に追われる俺)   作:100000

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渋川さんです。渋川流柔術、『武』って感じがしてすごい好きです。アンケートでは刃牙くんが一位でしたが、何故か渋川さんの戦いが思いついてしまったためこのようになってしまいました。すいません。

Twitter(URLはプロフィールに記載)やってますんで、ご要望があればそちらの方でお聞きします。こういう話が見たいとかでしたら(創作意欲が湧けば)書きますのでどんどん言っちゃってください。




番外編
スーパー老人に遊ばれる


「道場見学だぁ?」

 

コーチが何言ってんだお前という顔をしてこちらを睨みつけている。そ、そんな顔しなくても・・・。

 

「い、いや勉強のために・・・」

 

「勉強ぉ?」

 

俺の言葉にさらに眉をよせるコーチ。まぁボクシング選手が突然道場行きたいですって言ったら普通疑うよな。しかし実際のところ俺は()()()()なのだ。格闘技をボクシングしかしていない、故にそれしか知らない。

 

「えっと、俺ってボクシングオンリーじゃないですか?異種格闘技対策として他の格闘技を知っておきたくて・・・」

 

「異種格闘技ってお前・・・それでなんで道場なんだ?」

 

「まぁ徳川さんにも同じ相談をしたんですけど出てくる人の名前がナントカ流の人ばっかりで・・・」

 

「・・・・・・岩技、お前には理解できないことかもしれないが近代格闘技と日本武道は結構相性が悪いんだ」

 

「それは分かっています」

 

あらゆる競技の基本における『足』においても剣道や空手、相撲などの武道は、すり足で移動するのに対しボクシングはステップワークを基本としている。すり足の場合、あらゆる攻撃に即座に対応できるようになるが、ステップの場合そのスピードで相手を翻弄、先手を取ることに起点を置くようになる。

 

そして、武道は倒すことを前提とするが、ボクシングは当てることを前提とする。この差は大きい。当てることで真価を発揮するボクシング、相手を地に伏すことを前提とした武道、そもそも攻撃の方向性が違う。

 

「まぁつまりだな、ここで変な知識をかじってお前自身が弱くなったらなんの意味もないんだぞ」

 

「まぁそうですね」

 

コーチの言うことも一理ある。変な動きを身につけ、ボクシングの軽やかなフットワークに陰りを見せるわけにはいかない。

 

しかし──

 

「でも問題ないですよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺が使うのは『流水岩砕拳』であり、何も問題はないのだ。

 

「いや、だから・・・・・・まぁいい。それでボクシングの方が疎かになったら承知しねえからな」

 

「ありがとうございます!」

 

コーチも渋々承認してくれた。よし、後は()()()()な人を徳川さんに紹介してもらおう。柔道とか空手とかそこら辺がいいな。

 

「────あ、徳川さんですか?この前お話してた件なんですけど・・・・・・・・・・・・え、もう用意している?」

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

徳川さんに電話すると『待ってたぞ!』とまるで俺からの電話を今か今かと待ち続けていたかのような口ぶりで徳川さんは叫んできた。

 

どうやら既に人選は済ませていたようで後は俺からの連絡待ちだったらしい。

 

「でも・・・・・・なんでここ?」

 

そして徳川さんに指定された場所は・・・カフェだった。休日ということもあり、周りには高校生や大学生と見受けられる人達がワイワイと話しており、一人だけポツンと席に座っている自分にどことなく疎外感を感じた。

 

『ねぇ、あの人流野選手じゃない?』

 

『ホントだ、流野岩技じゃん!サイン・・・もらおうかな』

 

これだけ人がいると流石に俺だと気づく人もいるらしい。自分が有名人であることにちょっとだけ鼻が高くなる。

 

そういえば徳川さんからは誰が来るのかは聞かされていない。会えば分かるとのことだった。

 

ということは見ただけで()()()()ということか。一体どんな人物が来るのだろうか。筋肉ムキムキでゴリラみたいな人でも来るのだろうか。

 

 

 

 

「───相席、よろしいですかな?」

 

 

 

 

 

「え、あ、はい」

 

突然話しかけてきたのは高齢の男性だった。男が着る浴衣を羽織っており、サングラスのようなメガネをかけている。

 

あまりにも自然な流れで相席をお願いされたので思わず了承してしまった。こっちは待ち人がいるため席を離れてもらいたいがオーケーしたのがこちらである手前、お願いしにくい・・・。

 

「誰かを、待っておられるのですか?」

 

老人が口を開いた。もしかして俺の様子を見て、心中を察してくれたのだろうか。

 

「え、まぁそうですね。一応待っています・・・誰が来るかは分からないんですけど」

 

「ほぅ、誰が来るのか分からないのに待っている・・・と」

 

「えぇ、まぁ」

 

改めて聞くとおかしな話だと自分でも思う。徳川さんのことだから嘘ではないが、そろそろ顔を見せて欲しいところだ。

 

「若い子はいいのう。そうやって()()()を求める・・・」

 

「は、はは」

 

確かに見方によってはそういう風に見える・・・のか?

 

「わしも昔は、よく出会いを求めて道をさまよったわ」

 

老人は楽しそうな顔で話す。まるで昔を懐かしむようなその顔に、()()()()()()()()()()()()()

 

懐かしんではいる。でも目の前の老人は、多分今、『ワクワク』している。

 

「まだまだきっと出会いはありますよ?」

 

とりあえず前向きな言葉を返す。少なくとも目の前の老人は思い悩んでないし、そこを俺が考えてもしょうがないことだし。

 

「そうじゃの─────例えば、お兄さんとか、な?」

 

「・・・・・・え?あ〜はいはい!確かにそうですね!」

 

確かに老人の言葉通り、これもまた出会いだ。もしかすると老人はこうやって一つ一つの出会いを楽しんでいるのだろう。なら、先程の違和感にも説明がつく。

 

「ところで、お兄さんや。アンタなんかスポーツやってるんかい?」

 

「え?あぁ、実は格闘技を・・・少しだけ」

 

少しだけというか日本チャンピオンだけど、まぁそれを言う必要はないだろう。

 

「ほほぅ格闘技か!」

 

身を乗り出して興味津々に食いついてくる老人。格闘技知ってるなら俺の事も知ってると思ったけど、まぁ自分の知名度なんてそんなもんだよね。

 

「ちなみに何をしとるんじゃ?」

 

「ボクシングですよ。これです」

 

老人の目の前で腕だけでファイティングポーズを取る。

 

「・・・・・・おぉ!それかぁ!」

 

老人も理解を示してくれたようだ。

 

と、ここまではどこにでもありそうな普通の会話だった。

 

「おじいさんも何かしてらっしゃるんですか?」

 

「・・・・・・」

 

ピタッと、突然老人の動きが止まる。先程までの陽気な雰囲気は消え失せ、どこか引き寄せられるオーラを感じる。

 

()()さん、手を」

 

「はい?」

 

言われるままに手を差し出す。・・・・・・あれ、俺この人に名前言ったっけ?

 

「ふむ、良き手だ。肉も骨も、しなやかで強固な天然モノ・・・か」

 

「あ、あの?」

 

「紹介が遅れましたな

 

 

 

 

 

 

───わしは()()()()()さ」

 

「!?!!?!?!?!!?!」

 

その時俺の身体に起こった変化をなんと形容すればよかったのか。

 

突然重力が何倍にもなった。

 

突然全身の力が抜けた。

 

突然全身の筋力の最大値がガクンと下がった。

 

突然俺の身体に岩がのしかかった。

 

それともその全部か。

 

ともかく突然起こったありえない『状態異常』に俺は為す術もなく机に顔をつけることになった。

 

「う、動けない・・・!?」

 

「ほっほっほっ、不思議じゃの?手を握ってるだけ、なのに『力が機能しない』」

 

老人の言う通りだ。チカラの流れを掴めるようになった俺でも()()()()()()()()

 

脱力とか緊張とかそういうのは自分の身体で、自分の意思で行うはずなのにそのテリトリーが向こうにある。

 

「なんで、こんな・・・!?」

 

襲われたことはあるが、こんな白昼堂々、しかも店内で襲われるなんて思ってもなかった。

 

「なに、ただの自己紹介さ」

 

身体に力が戻る。伏した顔を上げると老人は既に俺の手を離していた。

 

「改めて、渋川剛気じゃ。よろしく♡」

 

果たして今の一通りの事を挨拶と捉えてもいいのだろうか。俺は目の前で年に合わずウインクをする老人、渋川さんを測りかねていた。

 

「いや、すごっ」

 

ただ一つ分かったのは。この老人、見た目からは想像もつかない程強いッッッッッッ!

 

───────────────────

 

 

 

 

「いや〜徳川さんの紹介で来たんでしたらそう言ってくださいよ!渋川さんも人が悪い!」

 

「カッカッカッ、ちょっと若僧をからかってみたくての」

 

結局というか、まぁあれだけ魔法みたいなことをする人が普通なわけなく、徳川さんに呼ばれてきた人物であることが分かった。

 

勇次郎さんの時もそうだったが、グラップラーの人は茶目っ気過ぎる気がする。

 

「しかし岩技さん、アンタも変わっとるの。それだけ強いにもかかわらず他の格闘技をするのかい?」

 

「いえ、自分は他の格闘技を体験したいってだけで・・・」

 

でも、さっきの技?も会得できるならしたくはある。手を握るだけで相手の動きを封じれるとかこれ以上使い勝手の良い技もない。

 

「そうかそうか。勤勉なのはいいことですな」

 

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

そして渋川さんと共にカフェを出る。流石にカフェで教わるわけにもいかず、動ける場所へ案内してくれるとの事だ。

 

聞いた話によれば渋川さんは自分の道場を持っているらしい。確かにそこなら心置きなく、動ける。

 

「よし、着いたぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

そして辿り着いたのは、路地裏だった。ビルとビルの隙間にできた空き地のような場所。人通りは、全くない。

 

「ここなら人目につかんじゃろ」

 

「え?」

 

「さ、始めましょうか」

 

「え?」

 

「頑張るんじゃぞ!岩技!」

 

「え?」

 

着いたのは道場じゃなくて人目のつかない空き地、既にやる気な渋川さん、そして・・・・・・・・・何故かビデオカメラを構えてる徳川さん。

 

結局こういうことかよぉおおお!!!

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

闘うためにメガネを外そうとする渋川さん。そんな渋川さんの手を急いで止める。

 

「待ってください渋川さん!俺何も戦いたいなんて言ってませんよ!」

 

「ん?柔術を体験したいと言ったのは岩技さんじゃろ」

 

「そうですけど!ほら、構えとか!型とか!いろいろあるでしょ!」

 

「見苦しいぞ岩技!」

 

「お前は黙ってろ!」

 

徳川さんの横槍に思わず荒い言葉で返してしまったが、結局こういうこと、こういう事態にした張本人なのだから今の俺に罪悪感はない。

 

「構え、型、まぁそんなものもあるが、それを教えたところで岩技さんの足しになるとは思えんな〜」

 

「ま、まあそうかもしれないけど!」

 

「それにお(めえ)さん、地下やらリングやらで普通にやっとるんじゃなかったか?」

 

「いや、そうですけど。心の準備とかですねぇ・・・」

 

渋川さんの言う通り、俺はリングでも地下闘技場でも普通に戦っている。ただそれは正式な試合だからできるのだ。ゴングがあって、『よーいドン』があって、試合が終われば治療してもらえて、なんやかんやルールもあって、そういった諸々の条件があるから俺はのびのびとできるのだ。

 

「ほほ、それに門下生でもない子に渋川流の真髄をおしえるとでも?」

 

「・・・・・・・・・・・・たしかに!」

 

ぐうの音もない正論に思わず納得してしまった。

 

「さぁ仕切り直しといこうかのぉ。なにこんな老いぼれ、岩技さんなら一撃だろうて」

 

そう言って、こちらに歩みよってくる渋川さん。だが、知っている。渋川さんがただの老人でないことなどカフェの件で理解(わか)っているし、なにより今こちらへ歩いている渋川さんには()()()()

 

打ち込む隙がない。つまり、仮に俺が攻撃した際のその後の光景が想像できないのだ。吹っ飛ぶのか、はたまた避けられるのか、それとも返されるのか、そういうイメージが、情景が、一歩先も映らない暗闇のように見えてこないのだ。

 

「おや?来ないのかい?」

 

「え、えーと・・・」

 

来ないじゃなくて打ち込めないだけだから!

 

しかし、何もしないというのも良くない。そこでまずは様子見ということでボクシングのファイティングポーズをとる。

 

「ほぉ、ボクシングか。構わんよー」

 

にこやかに笑う渋川さん。笑っているのに迫る凶器を向けられているかのような圧力。それが俺の目の前にいる人間が年老いた男ではなく、獰猛な獣であることを知らせてくれる。

 

渋川さんは大きくない。見たところ160cmあるかないかくらい、なら間合いは俺の方が遠いッッッ!

 

することは決まった。ジャブによる最速の牽制打。カフェの時は手を掴まれて不覚をとった。だけどこの速度のジャブなら掴まれることはないはずだッッ!

 

そこまで考えてのジャブ。俺の間合いギリギリのそして渋川さんには無理な間合い。そこに最速の一撃を放つ。いつものパターンだ。王道ではあるが、それ故に付け入る隙を与えない・・・はずだった。

 

俺のジャブが届く・・・というより放たれる前に飛んできたのは・・・下駄?草履(ぞうり)

 

「・・・え?」

 

あまりにも唐突な物が顔に飛んできたため、思わずキャッチしてしまう。

 

「ひっかかった♡」

 

「あ"」

 

履き物を手に取る俺。しかしそれを掴み取った手は別の人間の手が握られていた。

 

ズル─────

 

ズルいと思考する前に起こったこと。それはまたカフェの時と同様に形容しがたい出来事だった。

 

突然、()()()()()()のだ。

 

地面が上に、(そら)が下に、まさに天変地異が起こったかのような錯覚をした。それが自分が回っているのだと理解したのは、一瞬後。

 

そして急速に俺の目の前に迫ってきたのは、地面(そら)だった。

 

「ッッッッッッ!!!!」

 

地面にたたきつけられる俺。自分よりも圧倒的に体格的に劣る老人に投げられるという不可思議(まほう)。地面にたたきつけられた衝撃よりもその有り得ない体験への疑問符の方が強かった。

 

「不思議じゃの」

 

渋川さんの声が頭上から聞こえる。

 

「自分よりも小さいはずの老体がなぜ柔道家顔負けの投げ技ができているのか?」

 

「かァッッッ!!!!!」

 

身体を跳ね起こし、渋川さんへ殴りかかる。もう試合は始まっている。だが審判はいない、つまりダウンもない。なら、俺はいつ攻撃してもいいということだ。

 

そして何より――――――

 

この人は()()()()()()()()ッッッッ!!!!

 

「〜♡」

 

顔面を狙ったパンチ、渋川さんの笑顔、そして・・・・再び浮く俺の体。俺のパンチは渋川さんの頬を掠める。そして()()()()()()()()()()()()()()

 

脚に感じる、なにかの障害物。それが渋川さんが身をかがめて俺の脚をすくいあげているのだと気づいたのは、すぐ後だった。

 

そして今ので理解する、渋川さんの技の『正体』に。

 

空中に浮かび上がった体を反転させ、着地する。

 

「凄い・・・」

 

改めて実感する渋川さんの凄さ。そしてその技の仕組みの出来。

 

さっき俺が回転した時、つかまれた腕をほどくために身を捩った、身体が回転したのはその瞬間だった。そして今、俺の足をすくいあげられたのも、パンチを打つために()()()()()()()()()()だった。

 

つまり・・・・・・・・・

 

「渋川さんが投げたんじゃない。俺が、俺自身を勝手に投げたんだ」

 

「ほぅ・・・!」

 

俺の言葉に渋川さんは目を見開く。どうやら当たっているらしい。俺の攻撃で発生した膂力をそのままあらぬ方向に向けさせる、それがこの技の正体か。

 

その攻撃が強ければ強いほど自分に返ってくるチカラは大きくなる。すごいよくできていると言わざるを得ない。

 

「もう気づくとは・・・さすが天才と言われるだけあるの」

 

・・・ちょっと待て。攻撃したら返されるってどう戦えばいいんだ?聞いた感じあの技に穴が見えないんだが。

 

・・・いや、あるな。()()()()()()気づかなかった。そういえば俺もやられたじゃないか・・・。

 

「・・・ふぅ〜」

 

身体を楽に、それでいていつでも動けるように備えておく。渋川さんの技、確かに驚異的だ。あの手に掴まれたならまた空中大回転すること間違いない。

 

なら、俺がすることは一つ。

 

向こうが反応できない速さでぶち抜くッッ!!

 

「・・・・・・・・・」

 

すり足で少しずつ渋川さんに近づいていく。渋川さんの表情に焦りは見えない。むしろまるで先生のような寛大ささえ感じる。

 

少しずつ、少しずつ距離を詰め、渋川さんが間合いに入る。

 

──────今ッッ!!!

 

渋川さんが俺の射程距離に入り、俺は渾身の一撃を、右ストレートをお見舞いする

 

 

─────その前に渋川さんが先に動いた。

 

重心を片足から片足へ。打撃をする上で、威力向上のために行われるこの動作にはある隙が存在する。

 

それはまさに重心を片足から片足へ移動している『間』である。人は動く時、必ずどちらかの足に重心が乗る。逆を言えば、移動する際には必ずどちらかの足に重心を乗せていなければならない。

 

渋川さんが突いたのはその『間』である。重心が移動しているその瞬間を抑えられると人は無防備になる。

 

──うまいッッ!!!!!!

 

だからこそ、思わず賞賛してしまう。その瞬間を捉えられる渋川さんに。なによりそんな『隙』を()()()()()()()()()()()()()()

 

予想以上に素早い渋川さん、虚無をつかれたことによる動揺、それら相まって渋川さんは既にかなり近い間合いにまで接近している。

 

「はァっ!」

 

渋川さんを正拳突きで迎え撃つ。距離は短いが、拳は充分に加速できる。──そして、

 

渋川さんはそれを捉えることができないッッ!!!

 

ダッッッと肉を打つ音がする───

 

俺の肉体から。

 

「ガハッッッッ!?」

 

あの戦い以降、チカラの流れが見えるようになった。だから今何が起こっているのかは分かった。だからこそ()()()()()()()()

 

胸に添えられた渋川さんの手、そこから発射されたのは『俺のパンチ』と同等の威力の打撃。俺の拳は渋川さんに届いているのにダメージを受けたのはこっちだけ。

 

もはや魔法かチートスキルと言われた方がまだ説明のいく現象が目の前で起きていた。

 

武とはそこまで不可思議なものなのかッッ!?

 

「まだまだ奥が深いぞ・・・()()はよ」

 

跪く俺を見下ろす渋川さん。してやったりという顔がなんとも憎らしい。

 

「人間技じゃ、ないですね・・・!」

 

「はっはっはっ、そのセリフ。半年前のお主にそっくりそのまま返してやりたいわい」

 

半年前、俺と範馬勇次郎さんが戦った時か。ということは・・・。

 

「あの時、見てたんですか」

 

「おぅ、よぉ見とったわ。・・・そして、ずっ〜〜〜〜〜〜〜とこの機会を待っとたわい」

 

何かを噛み締めるような顔をする渋川さん。どうやらこの人も中々のバトルジャンキーだったみたいだ。

 

「まったく、どうしてグラップラーはこうも血の気の多い人ばっかりなんですかね・・・」

 

「よぉ言うわ、お主()()()()()

 

・・・・・・どうやら笑みがこぼれていたようだ。しょうがないじゃないか。俺だって楽しいんだ。訳の分からない技、しかしとても綺麗な技術・・・そんなものを目の前にしたら面白くなってくるじゃないか。

 

「これは失礼しました。じゃあ続けましょう」

 

立って体勢を立て直す。俺が膝をついている間にいくらでも攻撃はできたであろうに手を出さないのは自信の表れか警戒しているからか。

 

なんにせよ、どうやら俺の予想は完全には当たってなかったらしい。俺の攻撃を返すのは当たっているがそれだけがあの技の全てではない。

 

もっと情報が欲しいな。

 

攻撃すれば返される、かといって攻めなければ後手に回る。それは多分、向こうの思うつぼだ。なら、攻めるしかない・・・!

 

「ふッッ!!!」

 

息を強く吹き出し、足に力を込める。リングや闘技場と違い、ここは路地裏である。その違いは───

 

壁が高いことッッッッ!!!

 

地面を蹴り、そのまま壁を蹴り、渋川さんのはるか頭上へ飛び上がる。

 

「ええよ、来い」

 

普通ならこの人間離れした動きに動揺するところだが渋川さんにそれは見られない。むしろ、全力でやりなさいという温かみさえ感じる。

 

「シィッッ!!」

 

渋川さんの頭部めがけて蹴りを放つ。しかしこの攻撃は紙一重で避けられてしまう。

 

「はッッ!」

 

着地と同時にそのまま足払いをしかける。間合いも充分近い、この距離なら両足とも刈り取れる。

 

しかし、その攻撃も渋川さんは後ろに飛ぶことで軽く避ける。・・・そしてそこまでは俺の読み通りッッ!!

 

「セイヤッッッッッッ!」

 

足払いした後の屈んだ状態から全身のバネを使い、再び正拳突きを仕掛ける。後ろに飛び、不安定な姿勢の状態ならさっきみたいな技はできない・・・はず!

 

俺がパンチを出す瞬間、渋川さんが平手をこちらに向けた。

 

うそっ、できる、軌道、だめ、まずッッ!

 

渋川さんの動きに危険性を感じた俺は道着の襟を掴んだ。

 

「ば〜か♡」

 

そして、それはブラフだった。

 

再びぐるんと回る視界。イタズラが成功した子どものような顔の渋川さん。投げられたという実感、そして騙されたとも。

 

襟を掴む俺の手に渋川さんは肩を当てた。たったそれだけで俺の()()()()は簡単に崩れ、不安定な空中へと身を投げ出した。

 

「〜〜〜〜〜はぁッッッッ!!」

 

だが、今回何度も味わったこの感触。もう俺は・・・慣れてきたッッ!

 

大回転する自分の身体をさらに捻り、不安定な体勢のまま渋川さんの顔面に蹴りを放つ。

 

足のつま先を何かが掠める感触。不安定な状態から蹴りを放ったので、背中から地面に落ちたがどうにか受け身をとる。

 

「ひえ〜〜〜〜」

 

笑いながら俺の足が掠った頬を撫でる渋川さん。口ではそう言いながら心底楽しそうだ。まぁ楽しいのは自分も同じだが。

 

そして、また一つ気づいたことがある

 

「人体の反射・・・ですか?」

 

「・・・・・・ほぅ」

 

人間が立っている時のバランスは、実はとても精密なものと聞いたことがある。俺の場合、90kgないこの体を靴のサイズ27.5の小さな面積で支えている。それは、実はすごいことなのだ。

 

つまり───

 

「人間の動作、その精密さを乱すことで簡単にその体勢を崩せる」

 

ほんの少し、そのバランスを乱すだけでもこの身体はその所有権を簡単に放棄してしまう。身体が無意識に行うその動作を横から軽く押してあげる。無意識ゆえに分かってるのに対応できない。無意識ゆえに理解し難い。

 

人間の、それこそ機械のようなプログラムを少しだけバグらせることでその身体を一時的に不自由なものにしている・・・多分、渋川さんの技術(わざ)はそういうものだと思う。

 

「・・・ええの〜〜〜〜」

 

穏やかな声とは裏腹に渋川さんのオーラが変わる。例えるなら花畑のような雰囲気から一変、そこが実は猛獣のテリトリーだったと知ってしまった程の落差だ。

 

そんな雰囲気を前にして、俺は、楽しんでいた。

 

戦闘への高揚感、不思議な技への好奇心・・・なにより─

 

()()()()()()()()()()()というワクワク感があった。

 

人体の機能を利用する、それは俺のチカラの流れを読み取る能力に間接的ではあるが通じるものがある。

 

ならきっといけるはずだ。例え、掴んだものが枝葉でもそこから辿っていけば、いずれ芯に近づけるのだから。

 

「よし、来い!」

 

そして俺の構えは、当然流水岩砕拳と同じ構え。ボクシングではない、俺だけの体術だ。

 

集中しろ、読み取るのはチカラだけじゃない。渋川さんの身体の機能だ。筋肉だ。神経だ。脊髄だ。皮膚だ。そして───

 

心だ。

 

渋川さんに詰め寄る。そこに殺意はなく、あくまで自身を一つの『流れ』として接近する。

 

そのまま渋川さんに左フックを仕掛ける。

 

その左フックは渋川さんに手首を掴まれることで止められる。

 

ここ!!!!!!!!

 

それは体の無意識からの声か。それとも俺の勘が、経験が言い放ったのか。

 

ともかく俺のあらゆる『俺』が今が絶好のタイミングだと教えてくれている。

 

そしてその『声』のままに渋川さんの手を経由し、力を送り込む。・・・すると、

 

「ッッ!!!」

 

渋川さんの身体が回転した。

 

「やっ───」

 

技が成功したことへの歓喜。しかしそれはすぐ打ち消される。なぜなら・・・

 

俺も回っていたからだ。

 

おそらく、俺が渋川さんに技を仕掛けた後、渋川さんも俺に技をかけたのだ。あの体勢から。

 

「うっそ─────ぶべっ!?」

 

単純な技の深度の違い。技術力の差。慣れ。考えてみれば当たり前だった。同じ技を使ったからといって同じ土俵に立ったわけではない。そんな普通のことを見落としてしまっていた。

 

結局、俺の賭けは今までと変わらず俺が空を見上げ、渋川さんがこちらを見下ろすという結果になった。違いがあるとすれば渋川さんの表情くらいか。

 

「・・・・・・さ、帰るかの」

 

「・・・え?」

 

難しそうな表情から一変、優しげな表情になった渋川さんは、草履を履き、羽織を着て、来た道を戻っていく。

 

「あ、あの──」

 

─もう終わりですか?─そういう前に渋川さんは

 

()()は道場に来た時にやりましょうか」

 

そう言って帰っていった。

 

「・・・・・・・・・・・・行っちまったの」

 

「・・・・・・・・・・・・ですね」

 

そしてその場に残されたのはビデオカメラを片手に佇む徳川さんと、きっとキョトンとした顔をしているであろう俺だった。

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあそこで止めたんじゃ?」

 

路地裏での戦い後、徳川は渋川を自分の邸宅へ招いた。その真意を聞くために。

 

「どうしてって徳川さん、あの人は『体験』をご所望だったんじゃろう?」

 

「そ、それはそうじゃが・・・」

 

徳川としては岩技が合気を取得し、渋川がそれを上回る技術を披露し、いよいよ盛り上がってきた!となっていたところでの渋川の終了宣言に不完全燃焼になっていた。

 

「徳川さん、岩技さんとわし()の違いは何だと思いますか?」

 

「む?」

 

唐突な渋川の質問に疑問符を抱く徳川。腕を組み、考えるがイマイチ答えが浮かばない。

 

「それは彼は『競技者』で、わしらは『武闘家』というところですな」

 

「ほう?」

 

渋川の解答に興味を示す徳川。徳川としては誰も彼もが歴戦の闘技者(グラップラー)でありそれ以上でもそれ以下でもなかったからだ。

 

「わしら武闘家は例え、稽古でも手足などの身体の一部の損失、負傷は厭わない。だが競技者は怪我、こと生命に関わることについては非常に敏感になる」

 

「つまり・・・なんじゃ、あれは『決闘』ではなく」

 

「『稽古』という方が正しいでしょうな、競技者基準ですが。岩技さんは合気を不完全ながらも身につけた。稽古で、それも初めての、というならそれ以上は求めますまい」

 

「う〜ん、そうか?そういうもの・・・かの?う〜ん?」

 

渋川の解答に徳川は納得がいったような、いってないような微妙な感覚に何度も頭を捻ることとなった。




さすが、の一言に尽きる。

最後の『殺意なき』攻撃には思わずわしも反応してしまった。

あれがあの男の本当の()()()だというなら、もし始めから本気でやっていたのなら結果はどうだったか・・・。

極めつけには『合気』まで手にするとは。

まるで『範馬』の申し子のようだ。

雰囲気からして()は継いでないようだが、秘めるものは同じやもしれん。

「まったく・・・・・・・・・面白いの〜〜〜〜」

誰とイチャつく?(物理的に)

  • 元祖ハーレム(ピクル)
  • かませ犬なわけないだろ!(オリバ)
  • 噛道!(`・ω・´)キリッ(ジャック)
  • その他(鎬兄弟とか相撲とか)
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