地上最強のホモ(に追われる俺)   作:100000

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つ、次、次こそは刃牙くん書くから!決して刃牙シリーズは主人公よりも他が魅力的だよなぁとか毛ほどにも感じてないし思ってもないから!

・・・というわけで愚地親子です。最初は独歩さんだけにするつもりでしたが、途中で原作でついぞ披露されることなかった克巳さんの隻腕空手を書いてみたくなったので急遽書き直しました。いや〜リアルも相まってキツキツのキツですわ。キツツツツツツツッッッッ!!!!!!!


この世界強い人が多過ぎる。

『お〜!』

 

早朝に響く驚嘆の声。いつもは静かなジムの朝が今日だけは男たちの感心に満ちた声で埋め尽くされていた。

 

それは俺、流野岩技が最近手に入れた()()をお披露目することで起こっていた。

 

俺の手を握る先輩が水車のように一回転する・・・見せ物としては十分過ぎる程の光景だった。

 

「おい岩技、まさか前回の『見学』でこれを身につけてきたのか?」

 

コーチが目を見開いて、俺に問いかける。心中を予測するなら、信じて送り出した生徒が凄い技術を身につけて帰ってきた、といったところか。

 

「え、あ、はい」

 

本当は見学どころか普通に手合わせしていたのだが、それを言ったら怒られる未来が見えるので、とりあえず嘘をついておく。

 

「て、天才だなぁ〜」

 

コーチが心底感心してくれている。なんか過大評価された気がするが、まぁ損は無いのでそのままでも・・・いいのかな?

 

『これを、こうか?』

 

『いててててて!先輩それ手首()めてるだけっす!』

 

俺のショーを見てか、周りのみんなが真似を始める。見よう見まねで出来ることではないんだけどね。・・・いや、俺も同じか。

 

「おら!練習始めるぞ!てめえらボクシングしにきたんだろうが!」

 

コーチのごもっともな指摘により、ちょっとしたお祭りは終わりとなり皆いつも通りボクシングに打ち込むのだった。

 

 

 

 

 

「岩技さんは休日、何をされてるんですか?」

 

「・・・・・・え!?」

 

それは練習の休憩時間の事だった。澪花さんがいきなり俺にそんな質問をしてきた。

 

瞬時にザワつく俺+その他。それもそのはず他愛もない話はあれど澪花さんが、それも自分から私生活に関することを聞くなど今までなかったからだ。

 

「え、えーとですね・・・」

 

瞬間、俺は頭の中を過去最高にフルスロットルで回転させる。出来れば褒められるようなことを言いたい。休日?最近はランニングしたら後はグータラ生活してますが何か?そんなこと言えるはずがない。

 

時間にして一秒もない、そんな刹那の間に俺が導き出した答えはッッッッ!!!!!!!

 

「ス、スパーリングしてるよ一日中」

 

(((嘘つくんじゃねぇええええ!!!)))

 

周りの人達の心の声が聞こえた気がする。しょうがないじゃんそれしか思いつかなかったもん。

 

「流石チャンピオンです。頂きに立っても向上心の衰えが見えません」

 

俺の見え見えの嘘に澪花さんは空気を読んで話を合わせてくれ・・・・・・てるのかな?心なしか目がキラキラしてるように見えるけど気のせいだよね?

 

「れ、澪花さんは?」

 

なんだか彼女を騙してるようないたたまれない気分になるので話題を変える。澪花さんは休日何をしてるのか個人的に気になっていることはこの際置いておく。

 

「昔、通ってた道場に足を運んでいます。休日はそこで稽古をつけて貰っています」

 

「・・・・・・うぇ!?」

 

その言葉に俺・・・よりもコーチの方がショックを受けているようだった。チャンピオンである俺や澪花さんが道場掛け持ち(俺は体験だけだが)してる。それはつまり──

 

『近代格闘技と武道は相性が悪い』

 

そんなことを言っていたコーチの理論の崩壊を意味し、コーチの自信と共に音もなく崩れ去った。

 

「・・・・・・あ、そうでした。すいませんコーチ、実は今まで」

 

「あ、いや、いいよ。うん、澪花ちゃん強いし、うん・・・うん」

 

コーチがいつもより小さく見える。まぁ澪花さん普通に規格外だからなー。普通のボクサーならその理論通りのはずだから気にしなくていいと思うけどな〜。

 

「そ、そういえば澪花さんはどうしてそんなことを?」

 

「はい。本当は前回お誘いする予定でしたが()()があったようですので今日になってしまいました・・・岩技さん」

 

 

 

「私と道場見学行きませんか?空手道『神心会』へ」

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

「デッッッッッッ!?」

 

思わず口から素直な感想が漏れ出す。それもそのはず。俺の目の前にある建物は、俺が抱く()()イメージからはとても離れていたからだ。

 

俺が訪れる所は道場だったはず。しかし俺の目の前にあるのは道場というビル、しかも虎を倒す人の絵が壁画のように描かれている道場の古風なイメージからかなりかけ離れた所だった。

 

「れ、澪花さん・・・ここって?」

 

「はい、全国に門下生100万人の神心会、その総本山です」

 

「え、いや、えぇ・・・?」

 

てっきり老若男女和気あいあいとした地域クラブ的な所を想像していたが、バリバリの()()だった。

 

「結構・・・本格的だね」

 

「・・・?私たちはプロですから。それなりの経験が積める所で練習しないと強くなれませんから」

 

さも当然とする澪花さん。とても意識が高い。いや、俺の意識が低すぎるのか?

 

澪花さんの後をついて行く。自動ドアを開けた先には可愛い受付嬢さんが・・・ではなくゴリゴリマッチョの明らかに『できる』人が受付らしきカウンターに立っていた。

 

「あ、澪花さん。いらっしゃい」

 

「今日はお世話になります」

 

受付の人に向けて礼をする澪花さんに合わせて一礼する。受付の人も俺に気づいたようで訝しげな、しかし表面上はウェルカムな視線を向けてくる。

 

「・・・澪花さん、この人は?」

 

「体験です」

 

「・・・はい?・・・・・・あぁ!」

 

澪花さんの言葉に一瞬キョトンとした顔になる受付の人だが、すぐに理解したようで俺と澪花さんを交互に見ている。

 

「・・・・・・彼氏さん?」

 

「違います」

 

・・・・・・一瞬、彼氏と思われたことへの喜び、それを即否定されたことへの悲しみ・・・いや事実だけど。ここまで感情が起伏したのはいつぶりだろうか。

 

「失礼ですが、ボクシング日本チャンピオンの流野岩技さんですか?」

 

「え、は、はい。今日はお世話になろうと思ったんですが、迷惑でしたか?」

 

「いえいえ!体験でしたら自分の方で話通しておきますので、右のエレベーターから上がってください」

 

ニコニコとした顔でちゃんと通してくれた。なんだ、結構ウェルカムな雰囲気じゃん。ちょっと警戒してしまったよ。

 

受付の案内通りエレベーターの方へ進んでいく。道場にエレベーターとか全然イメージ無いけど最近の道場はこういうのが増えてるのか。

 

『はい、はい、あの岩技です』

 

受付の人が誰かに電話しているのが見える。おそらく他の人に案内をお願いしているのだろう。忙しいだろうになんだか申し訳ない気分になった。

 

『初代・・・岩技が来ました』

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターが開いた時、目の前には大男が立っていた。2メートルに届きそうな背丈にサイドを刈り上げた頭も相まって空手家というより不良みたいに見える。

 

心なしかこちらを睨みつけているように見えるのは気のせいなのだろうか。

 

末堂(すえどう)さん、今日はよろしくお願いします」

 

しかし澪花さんは慣れた様子で軽く一礼する。澪花さんの様子からしてこの人はいつもこんな感じなのだろうか。

 

「おぅ。で、澪花こいつが体験志望のやつか」

 

「はい」

 

ねぇねぇ澪花さん。受付の人と180度雰囲気違うよねこの人。なんか歓迎されてる雰囲気ゼロなんだけど。

 

受付の人とは違って、隠すことなく睨みつけてくる末堂さん。澪花さんはいつものクールな表情を崩してはいないが、もしかしてこの人これがデフォなのか。

 

「おい、岩技。これがあんた用の道着だ。澪花、更衣室で着替えたらこいつと一緒に道場に来い」

 

「わかりました」

 

「あ、よろしくお願いしま〜す」

 

「・・・フン」

 

えぇ・・・。なんか愛想悪いなぁ、いやその風貌で愛想良いとかえって不自然かな。

 

「では岩技さんはこちらの部屋を。私はあちらで着替えてきますので準備が出来ましたらここで待っててください」

 

「あ、了解です」

 

澪花さんと末堂さんはすぐにその場を後にし、俺だけが残された。あの圧もここではいつも通り・・・ということか。ここって本当に道場?実はコロシアムでしたとかそんなオチないよね?

 

「とりあえず、澪花さんを待たせないようにさっさと着替えようか」

 

なんだろう、いまさらだけど帰りたくなってきた。ちゃんと無事に俺帰れるよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着方これでよかったのか?」

 

とりあえず渡された道着を何となく着てみたが、これで合ってるのだろうか。冷静に考えると体験ならそこまでやってくれるものじゃないのか?いやでも末堂さんに睨まれながら着けられるくらいなら自分でした方がいいな。

 

「おや、帯の付け方がなっちゃいねえな」

 

「え?」

 

クイッと帯が引っ張られる。そして不格好な結び目は簡単に解け、俺の腰から簡単に帯紐が抜き取られた。

 

「わわっ!」

 

足元にずり落ちそうになる道着を慌てて掴む。何事かと声がした方を振り向く。

 

「〜〜〜ッッ!!」

 

そこにはさっきの末堂さんにも勝るとも劣らない大男がいた。だが、その風貌はスキンヘッドに眼帯を着けたマフィアかヤクザと見間違うほどに『闘い』に満ちていた。

 

「そんな結び方じゃ蹴りひとつでパンツが見えちまう」

 

その男は慣れた手つきで俺の腰に帯をつけ直してくれる。

 

手ぇデッカッッッッ!!!

 

驚くべきはその男の拳の大きさ。俺の倍はあるだろうか。指一本を見ても、普通の形状をしておらず()()()()()()()()()()()()かのようにボロボロだった。

 

「よし!!」

 

パンッとお尻を叩かれる。それだけなのに感じる手のひらの厚み、質量。

 

「えーと、ありがとうございます」

 

「おうよ」

 

とりあえず着付けをしてくれたのでお礼を言う。結び目や帯の締まりはずり落ちることは決してないだろうと思うくらいには硬く結ばれていた。あれ普通に優しい?風貌はそうだが案外見かけだけなのだろう。

 

「愚地先生、今日はよろしくお願いします」

 

人は見かけに寄らないのだと感動していると澪花さんの声が聞こえる。いつの間にか横にいた澪花さんは、どうやら目の前の男と面識があるようだ。・・・って先生?

 

「あ、先生だったんですね!今日はよろしくお願いします!」

 

てことは俺、先生に着付けしてもらったってこと!?やっば、変な印象持たれてないといいんだけど・・・!

 

「おう、今日は二人ともよろしくな。今日はいっぱい()()()()()()()()

 

遊ぶって・・・流石にそんな気の抜けた場所ではないことは俺でも分かる。けど、それもこの人なりの気遣いなのだろう。俺の周りの老人が今のところ血の気が多い人しかいないだけに、心が洗われるような感覚だった。

 

「あ、岩技さん。紹介が遅れました。この方は愚地独歩先生、この神心会で館長をされてる方です」

 

「元、な」

 

「よろしくお願いします!」

 

勢いよく頭を下げて礼をする。武道は礼節を尊ぶという、ならとりあえず頭くらい下げてなんぼでしょ。

 

(わけ)ぇのに随分と礼儀正しいじゃねえか」

 

「ありがとうございます!」

 

「い、岩技さん・・・」

 

「ハッハッハッ!!」

 

これだよこれ!こういう温和な雰囲気が欲しかったんだよ!確かに俺は格闘技経験者だけど空手に関しては初心者同然なんだからこれぐらいの緩さでいいんだよ!いきなり投げ飛ばされるとか技かけられるとかそういうのじゃないんだよ!

 

「よし、気に入った!俺が直々に稽古をつけてやる!」

 

「わーい!」

 

こんなに優しい先生が稽古つけてくれるんだ、怪我なんて絶対しないじゃん!

 

(岩技さん、先生と稽古なんて・・・怪我は大丈夫なんでしょうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独歩さんの案内で道場へ向かう。掛け声のようなものが歩を進めるごとにどんどん大きくなっていく。

 

「今日はもう始めてるんですか?」

 

「おう、ちょっと今日は()()()()

 

「?」

 

澪花さんが不思議そうに首をかしげる。綺麗、可愛い。しかし澪花さん曰く、どうやら今日はいつもよりも開始時間が早いらしい。

 

「ちょっといいか〜」

 

『ッッ!!!ヤメィッッッッ!!!!!!!集合ッッッッ!!!!!!!』

 

独歩さんが道場の扉を開けた瞬間、ガタイのいい男たちが一斉にこちらに向かってくる。その迫力に思わず一歩引いてしまった。

 

「こちら、今日体験で来てくださった流野岩技さんだ」

 

「・・・あ、よろしくお願いします!」

 

独歩さんの紹介に遅れて頭を下げる。練習の途中だったのか集まってくれた人達は全員汗だくだ。心なしか目つきがキツい気がするがそれはきっと練習に集中していたからだろう。

 

「お前らも知っての通り、今やボクシング界を引っ張る超大物だ」

 

いやいや、そんなことないですよ・・・。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

『オッス!』

 

・・・・・・・・・ん?

 

「おい、岩技」

 

「えーと、末堂さんでしたよね?」

 

「早く開始線に並べ」

 

・・・・・・・・・・・・ん〜〜〜〜〜〜〜〜?????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ごめんなさい」

 

「いやいや澪花さんが謝ることはないよ」

 

申し訳なさそうに謝る澪花さんだが、流石に彼女に非があるとは思えない。てか、普通はこうならないだろう。

 

試合場を囲うように座る神心会の方々、そしてその試合場の中央に仁王立ちする独歩さん。

 

今から独歩さんと立ち合うことになるのだが、もはや体験云々の話はどこかへ消えてしまったようだ。もしかしてこれが神心会流?

 

「その、怪我させないように言っておきましたので」

 

澪花さんの精一杯のフォローが身に染みるが、あのデカい拳をくらって怪我しないとかそれはそれで無理がある気がする。いや、無理だな。

 

まぁ渋川さんの時も口の中切ったり、擦り傷作ったりしてるし、そういう怪我はボクシングでも日常茶飯事だし余り気にすることではないだろう。そう、思うようにしよう(ポジティブ)。

 

「よし、じゃあいってくるね」

 

「・・・頑張ってください」

 

まぁこんなことにはなったが、女の子の前で良いところ見せるチャンスではあるし、内心ワクワクもしている。

 

それが独歩さんが繰り出す『武』への興味か、それとも澪花さんからキラキラとした視線を受けられる期待か、ともかくそんな興奮を胸に開始線に並ぶ。

 

 

 

 

 

「おいおい親父(オヤジ)、そりゃないでしょ」

 

 

 

 

独歩さんを親父と呼ぶその声にその場にいる人が全員声のする方へ振り向く。そこには・・・・・・。

 

「息子さん・・・?」

 

「なんだァ克巳(かつみ)ィ?」

 

自分と同じくらい若い青年がそこにいた。ただその男は・・・。

 

「せ、隻腕(せきわん)・・・?」

 

袖が通されたのは片腕だけ、もう片方の袖は肩から下へ腕が通っていなかった。

 

「これは少し事情があってね・・・・・・それよりも親父」

 

「んァ?」

 

笑いながら克巳さんは独歩さんの方へ歩いていく。顔は笑っているが、なんだか怒気、覇気?のようなものを纏っているように見える。

 

「せっかく体験で来たのに館長である俺を通さないのはナシでしょ」

 

「俺なりに気を使ったんだぜ?お前が忙しくならないようにな〜」

 

「おいおい俺が忙しそうに見えたか?・・・ともかく親父はもう()()は引退してんだから、大人しく下がっててくれ」

 

「ほぅ?いっぱしに口聞くじゃねえか?」

 

「そりゃあ()()()()だからな?」

 

バチバチと視線がぶつかっている。ていうか俺は何を見せられているのだろうか。

 

「・・・・・・ケッ」

 

不満げに独歩さんは振り返り、道場を後にしようとする。なんだ今のやり取り。君ら親子だよね?なんか中々バチバチになってるんだけどこれが普通なの?

 

独歩さんが克巳さんとすれ違う時・・・・・・独歩さんが動いた。

 

足先を軸に回転、克巳さんに後ろ回し蹴りを浴びせる。

 

「・・・これで満足かい親父?」

 

「フン、恥かくんじゃねえぞ」

 

それを克巳さんは左腕一本で止めた、その場から一歩も退かず。あの丸太のように太い足から放たれる蹴りを腕一本で止める・・・・・・傍から見ればそうだったが実際は違った。

 

力の流れが見えるからこそ分かる。腕で受けた・・・だけじゃない。受ける瞬間に足が、腰が、全身が独歩さんの一撃を受けるために備えていた。だから結果として腕一本で止めることが出来ていたのだ。

 

「・・・うまい」

 

だからこそ口から出たのは手放しの賞賛。たった一回の攻防で克巳さんの実力の高さを分からせられた。

 

「悪いな、見苦しいところを見せちまった。親父はアンタとやるのをスゲェ楽しみにしてたんだぜ?」

 

「あ、あははは」

 

なんとなくそれは察していた。だって我先に並んでたもんね開始線に。

 

「・・・まぁ、俺もその一人なんだけどな」

 

「あ、ですよね」

 

克巳さんも独歩さんと同じだったらしい。だとしたらさっきの言い合いは単純にどっちが先にやるかの小競り合いだったのだろうか。それはそれで子どもっぽくて好感が持てるな。

 

「よし、じゃあ始めようか。・・・あぁ、俺が隻腕であることは気にしなくていいからな?」

 

そう言うと克巳さんは構えた。左腕を引き、右肩を前に出し、いつでも正拳が放てる構えをする。

 

驚くべきはその圧か。克巳さんに右腕はない、それは間違いなくハンディキャップだ。ボクシングで例えるなら手数は少なくなるし、なにより身体のバランスがズレる。

 

俺が克巳さんに感じたのは隻腕であることへの遠慮・・・ではなかった。

 

それは渋川さんの時とはまた違った『圧』だった。

 

右腕がないのに、まるで何かに制されてるような圧迫感。腕、それよりもかなり鋭利な何かを喉元に突きつけられているような危機感。

 

「たしかにその通りですね」

 

その構えに、俺が始めにとったファイティングポーズ(ボクシングの構え)は腕を自然と下げ、足もステップ用ではなくすり足用に整えられ、無意識に臨戦態勢(流水岩砕拳)へと変わっていった。

 

「・・・・・・嬉しいねぇ」

 

『三分、始めェ!!!!』

 

克巳さんが嬉しそうな顔をすると同時に末堂さんが太鼓を叩く。胸に響くような音と共に、思考が切り替わる感覚を得る。

 

何かを考えるのではなく身体が自然と前へ駆けだす。先手をとるという戦略的思考よりも隻腕の空手という聞いたことのない武術への興味が(まさ)っていた。

 

「ハッ!」

 

迷いもなく放つ渾身の右ストレート。狙いは顔、そこにさっきまで感じていた遠慮も躊躇いも無かった。

 

俺の攻撃を克巳さんは少し身体をズラすことで躱す。そしてお返しに放たれる克巳さんの左拳突き。だけど、かわされる事は最初から想定していた。克巳さんの攻撃に合わせ左手でその打撃を流す。

 

「シィッ!」

 

間髪入れず克巳さんから鋭い吐息と共に上段への蹴りが飛んでくる。

 

この間合い(キョリ)でこれだけの鋭さッッ。

 

身体を大きく仰け反らせることでその蹴りを回避する。その追撃とばかりに克巳さんの左連続突きが俺を襲う。

 

「フゥッッッ」

 

その拳を落ち着いて左右に流す。両手で撃っていると思える程に速い突きだ。なにより動きそのものがとてもしなやかだ。空手のドッシリとした構えに感じる柔らかさ。片腕というハンデでもこうしてマトモに打ち合えてるのはその二極を使いこなしてるからなのか。

 

「速いな、ボクサー」

 

「それはこっちのセリフですよ。」

 

克巳さんから賞賛の声が届く。今までの攻撃を捌いたことへの褒め言葉なのだろうが、あいにくこっちはそれ以上に賞賛の思いでいっぱいだ。

 

克巳さんの動きは隻腕というハンデが、隻腕という武器であると俺の中での認識を改変するには充分すぎるものだった。

 

「フフ、日本一のボクサーに認められたなら俺も頑張った甲斐があったな」

 

・・・・・・笑っている。今の言葉に多分偽りはない。この人は本当に喜んでいる。その謙虚さは素晴らしいと思うが、この不気味な感覚はなんだ?

 

まだ何かある、俺の予想をぶち抜くような渋川さんが見せた魔法のような何か(武術)がこの人にもあるのだろうか。

 

「これは、出し惜しむのは無しだな」

 

そう言うと克巳さんは()()()()()()

 

立っているだけ、では無いのだろう。身体中がとてもリラックスされている。そこには緊張も高揚も残っていない。

 

────だからこそ、どのタイミングでも最善の打撃が可能ッッッッ。

 

「・・・ッッ!」

 

そんな見事な『技』を見せられて警戒しないわけがない。素早く構え、どんな動きも見落とさないように目を見張る。

 

「なぁ岩技さん、ショックウェーブって知ってるか?」

 

『!!!!!!!!!』

 

克巳さんの言葉は俺ではない周りにいる全員に緊張をもたらした。それが何を意味するのかは分からない・・・でも、何かが来ることは分かった。

 

「音速になった時に出る衝撃波ですよね?」

 

「お、知ってるねぇ。じゃあ・・・・・・それを見たことはあるか?」

 

「・・・ないですよ」

 

衝撃波を見たことがあるか・・・・・・?そんなことは人生で今まで無かった。動画を漁ればあるだろうが生憎そういうことに興味はなかった。

 

でも、そんなことを無意味に質問する状況ではないだろう。なら、何が来るのか予想はつく。

 

「なら、見せてやるよ」

 

「・・・ッ!来いッッッッ!!!」

 

音速の、打撃ッッッッ!!!!!!!

 

克巳さんが歩を進める、間合いに近づいてくる。

 

来る

 

来る

 

来る

 

来る

 

来る

 

入る

 

入る

 

入る

 

入ったッッッッ!!!!

 

「───────は」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

パンッッッッとドラマで聞いた拳銃のような乾いた音が道場に響く。

 

『は──』

 

何かを言おうとした岩技さんが、飛んだ。エビのように身体を折り曲げ、そのまま道場の壁まで吹っ飛んでいった。

 

「岩技さん!」

 

思わず声が出てしまう。あの攻撃をマトモに受けてしまった、そんなの無事でいられるはずがない。

 

壁に叩きつけられた岩技さんはピクリとも動かない。

 

「まさか・・・!」

 

慌てて岩技さんの方へ駆け寄る。場合によっては医務室に運ばなくてはならない。

 

「・・・え?」

 

岩技さんの様子を確認するために、顔を覗くと・・・・・・笑っていた。

 

その笑顔は子どものように無邪気で、しかし獰猛ともワクワクしているとも取れるその表情に私は思わず呆気に取られてしまった。

 

「・・・凄いね、澪花さん」

 

「はい?」

 

「空手って、凄いね」

 

「そう、ですね」

 

私とボクシングする時は決して見せない・・・嬉しそうな顔に悔しさを感じる。同時に、自分への不甲斐なさも。

 

「もうわかっていると思いますが、克巳さんのアレは・・・」

 

「音速の突き、でしょ?」

 

「・・・はい」

 

岩技さんも理解(わか)っていた。あの攻撃が人外の域にあることを。

 

克巳さんが放ったのは文字通り音速の突き。乾いた音は音の速度を超え、空気の壁を破ったなによりの証。

 

岩技さんに拳が突き刺さるよりも先に空気を貫く絶技。

 

・・・・・・だけど。

 

「岩技さん、もう試合はおしまいです」

 

「・・・え?」

 

空気を破る。それは生半可なものではない、技の練度も()()()()()()()()()

 

速度に対して空気抵抗が強くなるのは誰もが知る話だ。それは空気の壁すらも貫いた拳も例外ではない。

 

なら、克巳さんの拳は・・・。

 

「・・・・・・・・・うそ」

 

克巳さんの拳は血こそ出ていたが、破壊にまでは至っていなかった。いまだに握りは健在で、その攻撃力が損なわれているようには見えなかった。

 

『克巳さん!?なんで拳が!?』

 

『ん?あぁマッハに達する丁度で当たるようにしたからな。ほら、そんなに怪我してないだろ?』

 

克巳さんの言葉に私を含めて全員が言葉を失う。音速に達した拳は己が起こした空気抵抗により甚大な被害を被る。だが、音速に達した瞬間に対象へ到達、減速したならばそのダメージは最小限に抑えられる。

 

言葉にすればそんなところか。でも頭が理解することを放棄していた。ここまで分かりやすい神業があるのか。きっと今、私たちの脳裏にある言葉は同じモノだ。

 

天晴(あっぱ)れなり、最終兵器(リーサルウェポン)ッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「は、はははは・・・」

 

克巳さんの技に言葉を失い、静まり返った道場に男の薄い笑い声が一つ。それが岩技さんの声であることは分かった。だけど、どこか、何かが違うような気がした。

 

「音速」

 

いつの間にか起立していた岩技さんはそのまま試合場へ戻っていく。その足取りは先程あの一撃を受けたと思えないほどに軽やかだ。

 

「つまりマッハ・・・・・・ね」

 

知っている。今の岩技さんを私は知っている。あの歩みはボクサーとしての流野岩技ではない。

 

「おもしれぇッッッッ!」

 

格闘士(グラップラー)、流野岩技だ。

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹部に(にぶ)く残る痛み。ダメージからいまだ全快できていない証拠だ。だけど問題ない。これくらいで挫けてたら()()戦いの時にとっくに死んでいたはずだ。

 

克巳さんのあの一撃、あれはもしかすると空手の中で最先端、最強、最速の御業なのかもしれない。それほどに今のあの技は完成されていた。

 

しかし、完成はされてもこの世に完全なものは無い。どんな物にも何かしらの欠点や欠陥はある。

 

「克巳さん」

 

それに気づいたこともある。

 

「あなたのその音速の拳、破ってみせます」

 

もしそれが『穴』なら、音速の突き・・・攻略できるはずだ。

 

「・・・へぇ」

 

俺の言葉に始めて克巳さんは()()()。さっきまでの穏やかなものではない。明らかに闘志を思わせるその表情が、克巳さん自身に火がついたことを教えてくれた。

 

「なら、もう一回。くらってみるかい?」

 

克巳さんが構える。あの脱力、しなやかさを備えたあの姿勢になる。

 

そしてそれに対する俺の構えは・・・決まっている。

 

両手に握り拳を作る。その拳を体の前に出し、足は軽やかにステップを踏む。・・・つまり

 

「・・・ボクシングに変えたら俺のマッハ突きを超えられるのか?」

 

確かに克巳さんの考えも分かる。速い、重い、強いとおおよそ隙がないように見えるマッハ突きを流水岩砕拳が通じなかったからと言ってボクシングなら攻略できるのか。

 

「ボクシングにも最速の打撃がありますから」

 

「ジャブか」

 

ご名答。ボクシングにもどの格闘技にも勝る攻撃がある。それがジャブだ。あらゆるボクサーが()()()()()()()()とする程にジャブという打撃は速い。

 

ステップを低く、それでいてバネを充分に利用し、いつでも()()()()()()()()身構える。

 

「どうやって・・・・・・・・・いや、これ以上は不要か」

 

克巳さんが前に出る。決める気だ、次の一撃も空気の壁を突き破り俺にトドメを刺すつもりなのだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

少しずつ、少しずつ克巳さんが間合いを詰めていく。

 

さぁ・・・・・・・・・・・・・・・来いよッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

パンッッッッとまた心地の良い音がする。それは今俺の手から起こった音だ。

 

俺が克巳さんのマッハ突きを掴み取った音だ。克巳さんの正拳突きは腕が伸び切るよりもずっと前、腰に拳を据えたところで止まっていた。

 

『な・・・!?』

 

「〜〜〜〜〜ッッ!!!」

 

驚いた様子の克巳さんとその周り。まさか二撃目で早くも受け止められるとは思ってなかったのだろう。

 

『あの野郎、加速し切る前に止めやがったな』

 

動揺する周囲の中で独歩さんの鋭い意見が入る。俺がやったことは独歩さんが言った通りのことだ。

 

克巳さんが放つ『マッハ突き』、その正体は各関節を駆使した連続加速攻撃だ。足の指、足首、膝、股関節、腰、肩、肘、手首と身体の至る所にある関節をそれぞれ捻ることで加速、それぞれで加速されたモノを拳に乗せて放つ・・・といったところだろう。

 

克巳さんの技は一見すると速く、とても捉えられるものではない・・・・・・が、実際は少し違う。

 

そのスピードは関節を通過するごとに加速していく、つまり初速は決してマッハではない。ならば、初速からマッハに到達するまでのその僅かな間なら付け入る隙があるということだ。

 

なにより克巳さんのマッハ突きは()()()()()()()。足の指から加速を練り上げるため、その初動は意外と分かりやすかった。

 

ならば俺のすることは一つ。克巳さんが完全に正拳突きを放つ前にその動きを止めることだ。

 

初動を捉え、ボクシング最速のジャブ、ステップで迎え撃てば止められる。そこに俺は十分な勝算を感じていた。

 

・・・が。

 

「加速は肩まで来ていた、あともう数回の加速があったら俺の負けでした」

 

見た目だけなら技の出鼻を俺が抑えたように見えるが、あくまで俺が許容できるギリギリのスピードの所で止めたに過ぎない。あとほんの少し向こうが速かったら克巳さんの攻撃を止めることは叶わなかっただろう。

 

しかし疑問に思うこともある。それは克巳さんの加速回数だ。

 

人の関節は144個と聞いたことがある。しかし打撃に使う関節は多く見積っても10個程か・・・。だが克巳さんの加速回数は明らかにその数を優に超えていた。

 

俺が分からなかったのはその()()だ。人の関節は無限ではない。でも、克巳さんはそれを可能としている。・・・・・・・・・どういうことだ?

 

「初めてだ・・・・・・これをまともに止められたのは」

 

克巳さんが冷や汗混じりに口を開く。こころなしか声も震えている気がする。しかし怯えているようには見えなかった。

 

それは、武者震い。俺が克巳さんに闘志を燃やしたように克巳さんもまた俺に闘志を燃やしてくれた。

 

「まだ、続けますよね?」

 

「当然ッッ!!」

 

俺の言葉に克巳さんは左上段蹴りで応えてくれた。相変わらずこんな至近距離にも関わらずハイキックを放てるしなやかさには舌を巻く。

 

だけど、克巳さんの拳は俺が握っている。克巳さんは今蹴り足を上げており、床には足一本でバランスをとっている状態だ。

 

そんな不安定な状態なら()()()()()()

 

克巳さんの足を払い、さらに掴んだ拳へ力を送り込み()()()()()()()()()

 

すると克巳さんの身体は宙に浮き、さらに己の蹴る力で激しく大回転する。

 

渋川さんが扱った奥義『合気』、相手の本能や反射につけこむ尋常じゃない技術(魔法)・・・その紛い物だ。

 

目の前で回転する克巳さん、だが俺の合気が不完全だからかその軸を完璧に崩すことは出来なかった。

 

すぐさま反応した克巳さんは横に回転する身体そのままに後ろ回し蹴りを放つ。

 

それを予期していた俺は地を這うようにしゃがみこみ・・・溜める。

 

「ハァッ!!!」

 

しゃがみこみ、蓄えたチカラを体のバネを活かし、拳に乗せ、全力で克巳さんに叩きつける。

 

時間にしてさっきと変わらぬ一瞬の出来事。だけど、結果は克巳さんが吹っ飛ぶという逆の結果になった。

 

「ふぅ・・・・・・いっつ」

 

落ち着くために息を吐くとアドレナリンで抑え込まれていた胸の痛みが蘇ってきた。

 

骨はやってないと思うが、内出血は普通にしている。いや、それで済んで良かったと思うべきか。

 

『それまでぇぇぇ!!!』

 

末堂さんが太鼓を叩く。俺と克巳さんの試合はお互い一撃ずつ痛み分けという結果で終わった。

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

驚いたのはその適応力か。俺の技を見切ったことか。とにかく愚地克巳の十八番『マッハ突き』は希代のボクサー、流野岩技に止められてしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

出し惜しんだ。己の保身のために、その後のために技の威力を押さえ込んだ。

 

・・・・・・・・・・・・なんと情けない話だ。それで勝つならまだしも見切られ、返されるという結果。

 

「〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・」

 

考え込むアイツを倒すにはどうすれば良かったのか・・・・・・いや考えるまでなかった。

 

全力だ。拳とか足とかこれからとか未来とか身体の状態とかそんなこと、勝った後に考えればいい。

 

「次は、勝つぜ」

 

今度こそ、機会があれば出し惜しまない。そう自分に誓い、()()()()()()()に注目する。

 

愚地独歩対流野岩技・・・徳川さんが後から聞けば見れなかった事に涙しそうな対戦カードだ。

 

・・・・・・・・・達人と恐れられる渋川先生の合気をアイツは手にしていた。元から持っていたとはさすがに考えづらい。なら考えられることは・・・。

 

「渋川先生も手が早いことで・・・・・・・・・」

 

教えてもらったのか、はたまた盗んだのか、ともかく聞いてくれ流野岩技。

 

俺の親父の空手は日本一だぜ?やれるもんならやってみな。




本当は独歩さんとの戦いも続けて書くつもりだったんですけど流石に一万字超えて二万、三万も書いたら読む方も書く方もキツイので一旦切りました。
ところでアンケート一番の刃牙くんはいつ登場するんですかね?(自問自答)

誰とイチャつく?(物理的に)

  • 元祖ハーレム(ピクル)
  • かませ犬なわけないだろ!(オリバ)
  • 噛道!(`・ω・´)キリッ(ジャック)
  • その他(鎬兄弟とか相撲とか)
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