調ちゃんオカルト世界麻雀戦記(仮)   作:かやちゃ

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第05局:選択@伸るか反るかの一択

「あれー? かなちゃん先生、なにやってるの?」

「うわ! っとと、なんだ須賀さんとこの調ちゃんか。いや別になんでもないし」

「ふぅん。あー、そういえばみっぽ先生が呼んでたよー? またなにかやったの?」

「またってなんだ、またって。人聞き悪いな」

「だって去年のはろうぃんの時とかー、おひなさまのかざりつけの時とかー」

「ああもうほら、ここは立て込んでて危ないからあっち行って友達と遊んでくるし! でも怪我だけは気をつけるんだぞ」

「はーい。おまかせあれー」

「やれやれ……聞き分けがいいのは助かるけど、アグレッシブに飛び回るありゃ完全に父親の血だな」

 

 

 目を覚ました直後、見慣れない天井を見つけて少しだけ呆然とし。

 改めて周囲を見回してみて、そういえばここは自分の部屋じゃなかったんだなと思い出す。

 少しだけ、目を覚ましたらいつもの光景に戻っているんじゃないかと期待をしていた自分がいたにも関わらず、現実はただただ無常に無情であったということか。

 それにしても……なんだか懐かしい頃の夢を見たような気がする。

 まだ私がランドセルを背負うにも満たないくらいに幼かった頃の話。

 父親が仕事の都合で遠く広島の地へと転勤することになったため、一時期だけ母親と共に長野の祖父母の家に預けられていたことがあったんだけど。

 はっきりとは覚えていないものの、どうもその頃の夢だったような……。

 

 そういえばあの時も色々とあったと、お父さんがお酒を飲んだ後に洩らした過去話の中で言ってたっけ。

 母親側と父親側、どっちの祖父母が預かるか――というような話だったらしいけど、どうして父の実家に預けられたのかという詳しい経緯は聞いていない。

 ただ、私のカピちゃんもふもふ癖が身に染み付いてしまったのがどうやらその頃だったと推測されるあたり、もしかすると私がなにか我侭を言ったのかもしれない。

 

 さて、奇しくも今回も似たような問題がどどーんと立ちはだかっているわけだけど。

 いまのところ、私の目の前には三つの選択肢が存在している。

 

①このままトシさんと一緒に岩手へと向かい、お世話になる。仲間と連絡をとって、元の世界に戻る方法を一緒に探してくれるらしい。

②予定通り須賀家へと向かう。トシさんに付いて来てもらって説明してもらうことになるけど、信じてもらえるかどうかは未知数。ダメな場合は①に。

③母親の実家のほうにお世話になる。後の展開は須賀家の場合と同じ。

 

 ……こうやって一覧にすると実質一択に見えるのは気のせいだろうか。

 

 別の世界からやってきたあなたの子供です、元の世界に戻れるまで面倒かけるけどよろしくね!

 

 っていう荒唐無稽な現実をきちんと理解してもらわないとダメなんだから、ハードルは高い。

 棒高跳びか!?って思わずコテコテの漫才風ツッコミを披露してしまいそうなほど高い。

 ちなみに私は走り高跳びだと一メートル二十センチくらいまでしか飛べない。越えさせたいならばもっと低いハードルを用意してもらいたいものだ。

 

「おはよう、調。難しい顔をして、どうかしたの?」

「あっ、おはようトシさん。ちょっと、これからどうするか考えてただけ」

「お父さんのところか、お母さんのところかってことかい?」

「それもそうなんだけど……私のこと、信じてもらえるかどうかがやっぱり、ね」

 

 パタリと生徒手帳を閉じて、背もたれに深く寄りかかる。

 DNA鑑定にでもかければ親子であることは証明できそうなものだけど、そんな費用をどこから捻出してくるつもりだ、という話である。

 ……そもそもあれって鑑定料はいくらくらいかかるものなんだろうか?

 こういう時にさくっと調べられないのは痛いな。せめて携帯くらいは普通に使えるようにしておきたいところだけど。

 ああもう。何をするにしても、まずは先立つもの。即ち、お金、お金、お金……。

 この世の中はなんて世知辛いんだろう。齢十五にして、既に世の真理に到達した感のある今日この頃だ。

 

「案ずるより生むが易し。遠慮も心配もしなくとも、どっちも無理そうなら私が面倒を見てあげるよ」

「……うん。ありがと」

 

 と口ではお礼を言っているわりに、心の中は弱気だった。

 というのも、そもそもこの世界にいる限り、私にとっての味方はたった一人しかいないという現実がそこにあって。

 状況をきちんと把握していて、なおかつ協力を約束してくれている人。

 迷惑をかけていることは理解しているし、これ以上お世話になるのも心苦しくはある。けど、結局私はこの世界にいる限りはトシさんの優しさに縋り付くしかないのもまた事実だった。

 

 あの時インターホンを押せなかったのは、迷いがあったからなのか。

 一晩経って、寝て起きた程度じゃ状況が何も変わらないことをも理解して、ある意味自分の置かれている立場に諦めがついた後だから分かることではあるけれど。

 私は父も母も父方母方関係なく祖父母のことも大好きだから、その誰か一人にだって否定されたくはなくて、拒絶されることに対して恐怖心を抱いていた。それはたぶん、間違いのないことだろう。

 それでも――どれかの選択肢を必ず選ばなければいけないのだとしたら、私はきっと。

 

「……決めたよ、トシさん」

「そうかい」

「うん。初志貫徹、やっぱり私はどんな時でも私らしくしてないとね」

 

 旅の恥は掻き捨ての精神で、常識も道理も物理法則もなんもかんも窓から投げ捨ててしまえばいい。

 図々しくも快適に生き残るための道を私は選ぼうと思う。

 幼い頃から何一つ変わってはいないのだろう、私の選択基準はいつでも大好きなものの順と相場が決まっているのだから。

 

 

 須賀家の祖父母は、実に対照的だった。

 編み物や人形作りなんかのインドア系の趣味を好む祖母と、釣りや日曜大工などアウトドア系の趣味を好む祖父。

 純和風の食べ物が大好きな祖父と、どちらかというと洋食のほうが得意な祖母。

 生まれが東京なので読売巨人軍が大好きな祖母と、長野生まれで縁も所縁もないはずなのに何故だか阪神タイガースが大好きな祖父。

 普通そんな感じだとカップルとして成立しそうにないと思うんだけど、それなのに二人はとても仲がいいから不思議だった。

 ちなみにお見合い結婚だったらしい。

 他人事ながら、もし恋愛結婚だったとしたら結婚する前に音楽性の違いとかで別れていてもおかしくなかったと思う。

 

 閑話休題(と、いうわけで)

 同じ研修で泊まっている他の教職員さんたちより早めに宿を発った私たちは、再び電車を乗り継いで清澄高校の最寄駅まで戻ってきた。

 目指すは前回挫折した須賀家への突撃である。

 日曜日とはいえ、今の時間はお昼ちょっと過ぎ。確実に家に残っていそうなのは、お祖母ちゃん――今この呼び方をしたら間違いなく拳骨を喰らうことになるだろうけど――くらいのものだろう。

 祖父はいっぱいある趣味の中でも特に釣りが大好きで、幼稚園の頃にはよく近所の釣り掘に連れて行ってもらったものだ。今日もいい天気だし、遊びに出かけていても不思議じゃない。

 お父さんは高校時代、サッカー部に所属していたと聞いた。まぁ、今のお仕事から考えても当たり前っちゃ当たり前だけど。

 私は帰宅部だったので詳しくはないんだけど、運動部が日曜日のお昼に部活動をやっていない、ということはないはず。

 そうであれば、来る時間を盛大に間違ったのではないだろうか。

 

 須賀家の前に着いたのは、ちょうどそんなことを考えていた時のことだった。

 いけない。余計な事を考えてばかりで肝心な心の準備を一切していなかった……。

 

「調、準備はいいかい?」

「う、うん……あ、ちょっと待って」

 

 すーはー、すーはー。

 他人の玄関の前で深呼吸を繰り返す女。傍から見たら怪しさ大爆発にも程があるとは思うけど、今はそれくらいの犠牲で心を落ち着けられるなら安いものだ。

 

 ――いざ!

 私がこくりと頷くと、トシさんは何の躊躇もせず戸惑うこともなく目の前のインターホンのボタンを押した。

 しばらくして。

 

『――はい、須賀です』

 

 スピーカーの向こう側から聞こえてきた、その声。

 あまりにも懐かしく感じられるそれが間違いなく祖母の声だと認識した瞬間、不覚にも泣きそうになった。

 

 

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