調ちゃんオカルト世界麻雀戦記(仮)   作:かやちゃ

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第06局:原点@ここから始まる物語

「ごめんなさいね、京太郎は今ちょっとお使いで出かけてるのよ。お茶でも飲んで待っててちょうだいね」

「あ、ありがと――うございます」

 

 いつもの通りフランクに話しかけようとして、慌てて取り繕う私。

 やたらと上機嫌なおばあ……ではなくて、須賀のお母さん(面倒だからお祖母ちゃんでいいか)に客間へと連れて来られ、お茶を振舞われた。

 意外とそそっかしい上に勘繰りすぎるこの人のことだ、何か盛大に勘違いしているのかもしれない。

 状況的にちょっと考えれば分かると思うんだけど……。

 例えば。あくまで例えばだよ? 仮に私がお父さんの彼女だったとして、祖母同伴で彼氏の家に遊びに来るなんて豪胆な真似をするわけがないだろうに。

 そんな当たり前のことに気づかない程浮かれてしまっているのだろうか?

 それとも……まさかとは思うけどお祖母ちゃん、元の世界に戻って万が一私に彼氏が出来た時、デートに付いてくるなんて言わないよね?

 そんなことしようものなら初回のデートが始まる前に余裕でフラれるわ。

 ニコニコと笑っているその表情を見るにつけ、将来への不安はどんどん蓄積されていくのだった。

 

 方や一緒に須賀家を訪問中のトシさんはといえば、緑茶を片手に寛ぎまくっている。

 こういうのも場慣れしていると言っていいのだろうか? あるいは神経がバオバブの木の幹くらいぶっ太いとか。

 頼もしいといえばその通りだけどさ、その余裕は一体どこから湧いて出てくるのやら。

 これが年の功か、と思わず口走って額をぺしっとやられたのもご愛嬌ではあるけれど。

 

『ただいまー』

 

 という、遠巻きに聞こえてきた記憶に強く残るその声に、私の意識は完全に持っていかれてしまった。

 

 

 お祖母ちゃんに連れられて客間へとやってきたお父さん(※15歳)。

 第一印象をもしここで語って聞かせるとするならば、きっと一晩かけても語りつくせないものがあると思うんだよね。

 だからこそ、あえてここは単刀直入に言おうと思う。

 

 ――若っ! お父さん若っ! ヤングメンすぎて私の常識がヤバイ!

 

 同年代になっているんだから考えてみれば当然ではあるものの、実際に見てみたときの衝撃たるや半端ないものがあった。昔見せてもらった高校時代の写真と比べても遜色のない、実に若々しくて格好良いイケメン青年(※当社比)である。

 身内びいき? そりゃ当然ありますが、何か?

 でもそれを差し引いて見てもかっこいいと思うんだ。背も高いしね。

 

 くそー、やるなお母さん。独特のネガティブオーラで人を威圧するという残念な特技を持つあの人が、まさかこんな活きの良い(見た目ちょっと軽いっぽいけど)好青年を捕まえるなんて。お母さんの友達曰く『須賀家の七不思議』の一つに数えられる理由がよく分かるというものだ。

 

 でも、あれだね。部活動に出ているはずの時間だけど、当たり前のように私服で戻ってきたということは、本日は部活お休みだったんだろうか?

 私の知っている清澄高校サッカー部は、けっこう練習が厳しくて平日の朝練は当然として、土曜日曜祝日も一切関係なく朝から晩まで練習尽くし。完全休養日なんてものは何処にも存在しない、というような泣き言を入部した幼馴染から聞かされたと思ったけど……。

 世界線が違うとこういった細かい部分も違いが出てくるものなのかな。

 

「あのー、さすがにそんなにマジマジと見られるとちょっと……」

「あ、ごめんなさいっ」

 

 いけないいけない、ついマジ観察モードに入ってしまっていた。

 一方的に知っているだけで、実質相手とは初対面なのだから印象が悪くなるような行為は控えなければ。

 ちらりと隣に座っているトシさんに助けを求める視線を送る。仕方がないと言わんばかりに湯のみを置いて、場を仕切りなおすためにと小さく一つ咳払いをしつつ。

 

「君が須賀京太郎くんかい?」

「はぁ、まぁ……そうですけど、あんたたちは何処の何方で?」

「私は熊倉トシ。岩手で教員なんかをやっているものだけどね。ああ、そしてこっちの子が――あなたの娘さんの、須賀調ちゃん」

「――はっ?」

 

 よりにもよって、直球をど真ん中へと放り込むような一言をさらりと放った。

 

 

 思惑を外れて良かったのか悪かったのか、お祖母ちゃんもお父さんも、あろうことかお祖父ちゃんまでも。須賀家ご一同様が全員揃われている日曜日のお昼過ぎ。

 ちょこんとソファに腰を掛けた格好のまま、微動だに出来ない状況がそこにあって。

 

「……」

「……」

「……」

 

 私は目の前に置かれている湯飲みに口をつけることさえ許されず、ただ置き物の熊のように膝を揃えて背筋を伸ばした状態のまま固まっていた。

 穴が開く程見られる、というのをまさか自分が体験することになろうとは。つい先日まで――具体的には昨日の夕方くらいまでは考えたこともなかったはずなのに。この三人からこんなにも一身に視線を向けられるなんてこと、お母さんのお腹の中から産まれ落ちた時以来なんじゃなかろうか。

 ただ、覚えてなんているわけもないけどあの時の熱の篭ったそれとは違って、今向けられているのは胡散臭い詐欺師でも見るかのような半開きの目であった。

 

 けど待ってほしい、もし私が詐欺グループの一員だったとしても、こんなアホみたいなウソは付かない自信がある。できればウソであってほしいと願っているのは他ならぬ私自身なのだから。

 

「……よく似た世界の未来から来た、ねぇ。それマジで言ってんの?」

「えへっ。残念ながら大マジなんだなぁ、これが」

「見るからにウソくせぇ!?」

 

 場の雰囲気を和ませようと、できるだけ可愛らしく陽気に肯定してみたら逆に疑惑を深めてしまったらしい。何故だ?

 

「だいたいな、そんな訳の分からない話を信じるような奴がこの世界のどこに――」

「あら京太郎。私は信じるわよ、今の話」

「……えっ?」

 

 トシさんからのある程度分かり易くなるようにと噛み砕かれた説明を受け、皆が皆、眉を顰めて怪訝そうな表情を見せる中、こともなさげにそう言ったのはたった一人この状況下で笑顔を崩そうともしなかったお祖母ちゃんその人だった。

 

「ちょ、母さん――!?」

「一目見たときから懐かしさを感じてはいたんだけど、そういうことだったのねぇ。だってこの子ってばほら、口元なんて京太郎にそっくりじゃない? ねえ?」

「いやぜんぜん分かんねーし!」

「そう? 自分のことだから分からないのかしらね……お父さんは分かるでしょ?」

「む、いや、まぁ……似ているといえば、似ているが……」

 

 じっと二人に交互に見つめられて、思わず顔を見合わせてしまう私とお父さん。

 髪の色はともかくとして、外見で父親に似ていると誰かに言われたことのない私としては、その科白には少し思うところがありはするけども。

 思わぬところから援護射撃が飛んできたなぁ、と冷静に考える自分がいることに少し驚いた。

 

「いやねぇ、二人ともそんなに深刻に考えなくても良いじゃない。今はただ、家族が一人増えたと思えばそれで」

「いやいやいやいや、それって充分深刻だろ!? 親父もなんとか言ってやってくれ!」

「……母さんがこう言い出したら俺には止められん。諦めろ」

「まさかのそっち側かよ!?」

 

 相変わらずお祖母ちゃんには弱いね、お祖父ちゃん。

 他人事といっていいのかは分からないけど、孤立無援状態になったお父さんが少し可哀想になるくらいとんとん拍子に話が進んでいく。

 

 トシさんの口添えのおかげか、特に障害が発生することもなく(一部抵抗勢力を除く)元の世界に戻る手掛かりが見つかるまでは一緒に暮らしていこうということになった。

 その間の部屋は、二階に空き部屋が一つあるからそこを使っていいらしい。その部屋というのが向こうでも幼稚園時代にお母さんと一緒に使っていた部屋のことだとピンときて、少し嬉しくなってしまう自分がちょっと可愛いと思う。

 もう勝手にしてくれ、と天を仰いだままのお父さんを尻目に、お祖母ちゃんの勢いは止まらない。

 

「それで。調ちゃん、学校はどうするつもりなの?」

「えーと、できれば早く元の世界に戻りたいから、トシさんから連絡があった時に自由に動けるようにしておきたいんだけど……」

「でも向こうでは清澄に通っていたんでしょう? 熊倉さんも、学校はきちんと通っておいた方がいいとお思いではありません?」

「たしかにそうだねぇ。調の話を聞く限りだと、原因の一つに清澄高校が関係しているのかもしれないし……通えるようなら通ったほうがいいかもしれないね」

「え゛!?」

 

 いやいやそんなまさか……。二人してこんな類似世界にまで来て暢気に学校へ行けと申されるか!?

 

「手続きはお任せしても?」

「面倒を押し付けるようなものだし、それくらいは構わないよ。幸い色々と伝もあることだしね」

「えー……」

 

 押し付けられた面倒の張本人としては、受け入れ側の方針に従わざるを得ないんだけどさ。

 私も大概そうかもしれないけど、お祖母ちゃんのこの非現実への順応っぷりはいったいどうしたことだろうね?

 自分で言っててもおかしな話だと思うけど、むしろ疑いの目を向けてくるお父さんのほうがまだ心情的には納得が出来るというものだ。

 

「というわけで、手続きが済み次第学校へは行くこと。それが受け入れる条件ってことで、調ちゃんもいいわね?」

「そんなぁ……」

「――返事は?」

「うー……はぁい」

「ん。よろしい」

 

 いい子いい子と頭を撫でられる。

 世界がたとえ違っても、歳が祖母と孫というよりは母親と娘くらいに縮まってしまっていても、お祖母ちゃんの手のひらは優しく私を包み込んでくれるのだった。

 

 

 ――こうして私は、よく見知った、それでいて違う世界の住人としてしばらく過ごすことになる。

 その幕開けはあっけないものでも、終幕へと続く道のりは決して平坦というわけでもなく。

 私の手のひらの中できらりと輝きを放ったその麻雀牌が指し示すように、目の前には雷鳴轟く暗雲が立ち込めているように思えるのだった。

 

 

 

▽とある親子の会話の一幕

 

「まいっか。せっかくだしサッカー部のマネージャーでもやってお父さんの若かりし頃の雄姿を目に焼き付けておこうかな。帰ってからお母さんにドヤ顔で自慢できそうだし――」

「いや、どうでもいいけど俺サッカー部には入ってないが」

 

 ――うん? 今なんて?

 サッカー部には入ってない、と言いませんでしたか?

 

「え? なんで?」

「なんでって言われてもなぁ……中学ん時はハンドボール部だったし、今のとこサッカーには縁も所縁もないぞ、俺」

「――はっ!?」

 

 ちょっと待って。それだと後々私的にはちょっとどころかかなり困ることになるんじゃないの?

 ヤバイ、こんがらがってきた。

 たしかお母さんとお父さんはサッカー関係のお仕事で出遭ったって聞いたし、そうなるとお母さんと出会う理由がそもそも無くなって結果的に私は……って、ここが違う世界ならそれでも別にいいのかな? あれ?

 

「じゃあずっと帰宅部なの? せっかくの青春ドブに捨てちゃうの? バカなの?」

「うっせーよ。でもまぁ、青春云々はともかく今のところは麻雀部に入ってみようかと考えてはいるけどな」

「なんですと!?」

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