調ちゃんオカルト世界麻雀戦記(仮)   作:かやちゃ

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第08局:邂逅@懐かしき人との再会

 人間というのは慣れる生き物であると、昔の偉い人は言ったとか言わなかったとか。

 なるほど。これまでの人生の中で、今ほどにその言葉を実感したことは無かったかもしれない。

 この不自然なバランスにも平然と対処できるようになるものなんだなぁ、と自分自身の逞しさに半分は感心を、もう半分を辟易としつつも。正面に座ってチョコレートケーキを頬張っているお子様に問いかける。

 

「――で、城菜ちゃんさん。カナちゃん先生(ほごしゃのひと)は何処に行ったのか分からないの?」

「さっぱりわかんないし」

「あ、そう」

 

 これは問いかけても無駄だな、と瞬時に悟る私はきっと賢い。

 まぁそれは当然、誰にだって幼い頃というのがあるのは理解しているよ? でもさ、これはないんじゃないかなーってため息を吐くくらいは許されても良いと思うんだ。

 

 

 トシさんが岩手に帰る前に『これだけは守るように』と私に言い残して行ったことが、主に二つある。

 

 一つは、私が持ってきた例の麻雀牌。あれを肌身離さず持ち歩いておくこと。万が一アレを無くすようなことにでもなれば永遠に元の世界に戻れなくなるかもしれないから気をつけなさい、と物凄く神妙な面持ちで釘を刺して行ったところをみるに、私にとって非常に重要なキーアイテムだという認識をしておいて損はないだろうと思う。

 でもさ、私ってそんなにズボラな感じに見えるんだろうか? 見えないよね?

 若干物申したいことはあったんだけど、とりあえず頷いておいたのは正解だった。下手なことを言ってげんこつを落とされるのはゴメンだし。

 

 肌身離さずとなれば、思い浮かぶのはアクセサリーとして身に着けておくこと。

 といっても麻雀牌そのものに穴を開けたり傷をつけたりするわけにもいかないので、さよちゃんが作ってくれた小さ目の巾着袋の中にそれを入れて首からぶら下げておくことにした。これなら滅多な事がない限り無くすようなことはないはずだ。

 もし落としてしまうような事があったとしても、ここならばきっと胸の谷間に引っかかって無くならないで済みそうだしね!

 

「お前、そのスタイルでよくもまぁ……あー、うん。素通りせずに止まればいいなー」

「棒読み過ぎる!? っていうかそこはツッコミ入れちゃダメなところだよ、京くん……」

「おおそうか、悪い悪い」

 

 まったく悪びれているように見えないんですけどもそれは――って、今はお父さんとの掛け合い漫才を思い出している場合じゃないんだっけか。

 

 コホン、と咳払いを挟みつつ。

 で、もう一つ。個人的にはこちらのほうが問題が大きいと思わなくもないんだけど……。

 未来――というか別の世界というか、そっちで出会ったことのある人物ともしこちらの世界で出会ったとしても、特別おかしなリアクションを取らないようにすべし。

 例外として認められているのは須賀家の人たちだけであって、他の人に関しては面識があろうと無かろうと知らぬ存ぜぬで押し通せというのだ。

 私ってそこまで器用な生き方をして来たわけじゃないから、ついぽろっとやっちゃいそうで怖いんだけどね。

 結論から申し上げるとするならば。その時の私の予感は、きっちりと的中してしまったことになる。

 

 

 さよちゃんと一緒に生活用品のお買い物を済ませた後、散歩がてら本を買うため駅前を一人で歩いていた時にふととある女の子の姿を見かけた。

 その子は周囲の人の流れなんてものともせずに、ただひたすら喫茶店らしきお店のショーウィンドウとにらめっこを続けており、その執念たるや動かざること山の如しといわんばかりの迫力がある。平日の夕暮れ時には溶け込み辛い、なんとも珍妙な光景がそこにはあった。

 

 迷子なのかなと思わなくも無いけど、普通ならば声をかけたりはしない。最近の情勢でもしそんなことをしようものなら、即座に保護者のお母様方のメール宛に『不審者情報』として送信されてしまうからだ。

 不審な女が幼女に声をかけて回る事案が発生――なんてことになりでもしたら目も当てられぬ。

 まぁその子も迷子にしては動じないし、誰かお連れの保護者が来るのを待っているんだろうなと一人頷きながらその後ろを通り過ぎようとした時、

 

「お腹すいた……」グゥゥゥゥゥゥ

 

 という、蛙の鳴き声のような切ない効果音と共に幼女がぽそりと呟いたのだった。

 

 

 涙目でこちらを伺うその子の情熱に負け、手を引いてそのお店の扉を潜ったのがつい先ほどのこと。

 もし保護者の人が探しに来ても分かりやすいようにと窓際の席をぶんどって、おやつ代わりにケーキを注文して名前を聞き出したらあらビックリ。なんとその幼女の名前は池田城菜というらしいじゃないですか。

 

 城菜さんといえば、幼稚園の年少の頃に担任をしてくれていたカナちゃん先生こと池田華菜先生の歳の離れた妹さんで、たしか三つ子の末っ子だって言ってたかな?

 ……なんていうか、独特な間合いを持っている人で、四人の姉妹の中だとたぶん一番おっとりとして大人しいタイプの人だったような記憶がある。

 

 彼女と私が最初に出会ったのは、長野に引っ越してきてまだ間もなかった頃。今回とは真逆のシチュエーションで、街中でお母さんと逸れ一人迷子になっていた幼稚園児の私を見つけて助けてくれたのが、当時中学生くらいだった城菜さんで。お母さんが半泣きになりながら無事見つけてくれるまでの間、ずっと一緒に遊んでくれていた。

 その人が実はカナちゃん先生の妹さんだと知ったのはだいぶ後になってからのことだったけど。

 

 一人取り残されて心細い中で見せてくれたあの柔らかな笑顔が、どれだけ嬉しかったことか。小さい頃のことは大抵うろ覚えな私をして、その時の気持ちは今でもはっきりと覚えていたりする。

 ……まさかその恩人と、よもやこんな形で再会することになるとは夢にも思っていなかったけどね!

 

「一人で来たわけじゃないんだよね?」

「ひなとなずなと。あといけだせんぱい」

「いけだせんぱい……って、それカナちゃん先生――じゃないや、君のお姉さんのことじゃないの?」

「そうともいうし」

「あ、そう……」

 

 なんだろう、このひたすらに疲れる感じ。何故姉のことを先輩呼ばわりなんだろうか。

 カナちゃん先生自身がそう呼ばせているのだとしたら……あの人はいったい何をやっているんだろう? 趣味? だとしたらちょっと見方が変わっちゃうなぁ……。

 

 そんなことを考えながらウィンドウの外に視線を走らせていた時、挙動が猫チックな一人の高校生と視線が交錯した。その人は私と、その差し向かいでケーキを食べている幼女とを見比べた後、風のような速さで視界から姿を消した。

 ふぅ、ようやく保護者の登場か。

 

 

「――城菜っ!」

 

 その人はお店に入ってくるなり目の前の幼女の名前を叫びながら、こちらへ向けて突進してくる。

 ああ、うん。あの無駄にパワフルなところ、間違いなくカナちゃん先生だ……なんか高校生のコスプレしてるみたいだけど。

 

「おねーちゃんきた!」

「あれだけ迷子にならないように気をつけろって言っておいたのに! ていうかなに呑気にケーキなんか食べてるんだよ、お前……」

「あー、お腹が空いてたみたいだったので。すみません」

「……誰?」

「通りすがりのものです。あの、とりあえず状況を説明するんで、落ち着いてお水をどうぞ」

「おお、悪いね」

 

 受け取ったコップを遠慮なく飲み干すカナちゃん先生……もとい、池田さん。それとも一応年上だから私も城菜さんに習って先輩と呼ぶほうがいいだろうか?

 ……まぁどっちでもいいか。みっぽ先生ならともかく、カナちゃん先生だしな。

 

 心の中でちょっとだけ失礼なことを考えつつも、かくかくしかじかとこれまでの経過をこと細かく説明してみたところ。

 それまで怪しい人物でも見ているかのように怪訝そうな表情でこちらの様子を伺っていた池田さんも、さすがに状況を理解して私がここに不本意な形で足止めされている理由も正しく把握してくれたのだろう。申し訳なさそうに頭を下げながら言った。

 

「なるほど……ウチの城菜が手間かけさせたみたいで申し訳ないし。世話してくれてありがとうな」

「いえ。私も昔似たようなことがあった時に助けてもらった事があるんで。そのお返し――とでも思ってもらえれば」

「お返しっつっても、こいつに返すのはなんかおかしい気もするけど……まぁいいか。ケーキ代はこっちが持つから、もう一つくらい頼んだらいいし」

「それはさすがに――って」

 

 そういえば残りの二人はどうしたんだろうか?

 城菜さんの話だと三人とも一緒にいたというような話だったはずだけど。一緒に連れてきているようには見えない。

 

「ああ、それなら部活の友達に面倒見てもらってるから平気だし。携帯で連絡しとけば少し遅れても大丈夫だろ」

「はぁ」

 

 そういうことならお言葉に甘えて。

 

 

 城菜さんが一心不乱にチョコレートケーキを崩壊させるべくフォークを片手に襲い掛かっているその真横で、私たちは世間話を交えながら親交を温めていた。

 どうやら池田さん、麻雀部に入っているらしい。誰も彼もが麻雀色に染まっている現状に、少しだけ頭を抱えたくなる自分がいた。

 まさかカナちゃん先生の口からその単語を聞かされることになるとは思っても見なかった。これでみっぽ先生まで麻雀やってたりなんかしたらもはや笑うしかないレベルだね。

 そんな内心の辟易した感情を一切表に出すこともせず、ニコニコと話を続ける。

 

「へぇ――池田さん麻雀部の大将なんですか。それにしてもその風越女子って高校、毎回県大会の決勝に残れるなんてよっぽど麻雀強いんですねぇ」

「当然どこよりも強いし! ていうか長野県の高校に通ってて風越の名前を知らないってのは正直どうかと思うけど」

「あー、私はつい最近越してきたばっかりで。あと麻雀にも疎いし」

「そうなのか。転校ってことはこのへんの学校に?」

「はい。清澄高校ってとこに入ることになってるんです。清澄、知ってます?」

「清澄……? んや、聞いたことないし……そこって麻雀部はあるのか?」

「んーと、たしか……人数が足りないから困ってるっぽいことを部長さんらしき人が言ってたような気がしたような」

 

 あの日、たしかに竹井アナがそれらしいことを言っていたような気がする。まぁ、私にはあんまり関係の無いことだけども。

 

「ふぅん。それなら私が名前を知らなくても不思議は無いな」

「池田さんはなんもかんもまず麻雀ありきなんですね……」

「ふん、そんなの当然だし」

 

 そうやってめいっぱい胸を張られても反応に困るんだけど。

 

 うーん、あのカナちゃん先生がどうしてこうなった……?

 いや、まぁ、あの当時から思い込んだら一直線的――猫まっしぐら的なところはあったかもしれないけどさ。それにしてもこれは酷い。

 もしやこの世界の人は全員こんな感じで麻雀毒にでも侵されてしまっているのだろうか?

 しかもそれが空気感染でもしようものなら大惨事である。気分はもはや「こんなところにいられるか! 私は部屋に戻らせてもらうぞ!」と叫び出すモブのそれとほぼ重なっていた。

 

 ちょうど城菜さんもケーキを食べ終わったみたいだし、そろそろ席を立たないと取り返しの付かない事態になりかねないということで。

 会計を池田さんにお任せし、そのまま別れることにした。

 

 

「まぁ、清澄だっけ? 人数が揃って県大会に出られるようになるといいな。ま、優勝するのはウチだけど」

「あはは。まぁ、部長さんに会うことがあったらそう伝えておきますよ。あとケーキご馳走様でした」

「いいって。んじゃな」

「おねーちゃんまたね! バイバイ!」

「城菜ちゃん、バイバイ」

 

 

 帰りしなに本屋に寄って、気になっていた本を手に取った。お母さんの趣味だと思うんだけど、我が家に全巻揃えて置いてあった向こうでもよく読んでいた小説で、この頃から出ていたのかと思うと実に感慨深いものがある。暇つぶしにはちょうどいいだろうと思って購入を決めた。

 

 レジにそれを持っていく途中、ふと目に付いたのが一冊の雑誌。タイトル部分には『WEEKLY麻雀TODAY』と書かれており、一目見た瞬間にそれと分かる麻雀の特集雑誌だった。

 ……こんなところにまで魔の手が忍び寄っているなんて。

 

 気にしたら負けだと思いつつ、視線を切ろうとした瞬間に飛び込んできた文字列に興味を引かれ、ついついその雑誌を手に取ってしまった。

 毒されてきたかと思うものの、好奇心は止められない。

 そこには、何処かで聞いたことのある名前が確かに刻まれており。

 

「……白糸台高校の宮永照、大会史上初の団体・個人三連覇へ向けての、特別インタビュー……?」

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